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運命も美徳も超越した愛、オペラ「ポッペアの戴冠」東京と横浜で上演(産経新聞)


 絶世の美女、ポッペアが古代ローマ皇帝のネローネ(ネロ)とのダブル不倫の末に皇后となるモンテベルディ作曲のオペラ「ポッペアの戴冠」が23日に東京オペラシティ(新宿区)、25日には神奈川県立音楽堂(横浜市)で上演される。内外の名歌手が次々に姿を現すステージには象徴的な演出が施され、作曲された時代の演奏法や楽器を使った生き生きとした響きが登場人物の内面を克明に描き出し、憎愛に満ちた人間模様が展開する。


 1567年に北イタリアのクレモナに生まれたモンテベルディは、文化の中心として栄えたベネチアで大家と声望を集め、草創期にあったオペラの大改革を行った。斬新な響きも使いながら音楽と歌詞をより密接に結びつけて、歌劇と訳されるオペラを文字通り「音楽による劇」にふさわしい豊かな表現力を持つものとした。「ポッペアの戴冠」は死の前年の1642年に初演され、ありとあらゆる手段を使って邪魔者を排除して古代ローマ帝国の皇后へと登り詰めるポッペアとその周囲の群像が、人間性むきだしの本性とともに語られる。


 公演のタクトを振るう鈴木優人は「物語の自然な展開が音楽そのものの中に入っています。登場人物の揺れ動く内面も、場面ごとに変わる情感も、さまざまなハーモニーを使って巧みに表されています」と語る。モンテベルディの自筆譜は残されておらず、伝えられている楽譜にも使用する楽器が具体的に指示されていないが、作曲家で鍵盤奏者でもある鈴木は自らチェンバロを弾きながら指揮をし、生き生きとした響きを紡ぎ出していく。


 「ポップスのキーボード奏者がハーモニーを即興で奏でていくように、モンテベルディが上演したときも、その場その場で求められる表現に即応して音楽が生み出され、とても楽しい雰囲気だったに違いありません」と語る鈴木は、父の雅明が主宰する世界的古楽演奏団体、バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)で経験を重ね、学究的な取り組みとともに、琴線に触れる新鮮な音楽づくりで高い評価を受けている。


 名手ぞろいBCJとネローネ役のレイチェル・ニコルズをはじめ内外の第一線で活躍する歌手が集まってのリハーサルは、一つ一つの音色をじっくりと確かめながら、現代人の心にも直感的に響き合う世界が描き出されていく。舞台構成を練り上げる演出家の田尾下哲は、名門のベルリン・コーミッシェ・オパーで研さんを積み、楽譜の中に記された物語を鮮やかな手腕で視覚化していく。


 田尾下は「指揮者が思い描いている響きを実際に耳して、たくさんの発見があり、そこから舞台上の動きや照明などの可能性が広がっていきます。音楽に自由度が高く、ミュージカルにも通じるようなモダンな世界は誰もを引き込んでしまう魅力があります」と思いを寄せる。


 舞台上には45センチ四方の白い立方体をいくつか置き、柱やベンチなどに見立てて特別な空間を生み出す。田尾下は登場人物それぞれに象徴的な色を配し、運命も美徳も超越した愛の姿を浮き彫りにする。「ポッペアは赤、ネローネは黒を配し、対比をなすような赤と黒が結びついてクライマックスとなります。ここには理性を超えた愛の力の強さがあり、不道徳の限りを尽くしながらも愛の美しさを感じさせ、人間の真実が示されるようです」

提供元:Yahooニュース
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