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“自分の意志で死なせてほしい”という思い 橋田壽賀子さん「医者が罪問われない法制度を」(夕刊フジ)


 【BOOK】橋田壽賀子さん『安楽死で死なせて下さい』文春新書800円+税


 夫に先立たれ子供はなく、脚本の仕事をやり尽くした天涯孤独の身。十分に生きたと90歳を過ぎた今、死に方とその時期の選択はできないものかと模索している。(文・高山和久 写真・宮崎瑞穂)


 --『文藝春秋』(2016年12月号)で「安楽死で逝きたい」と“宣言”、反響の大きさに驚かれたとか。「終活」を考えるようになったのは


 「自分が死ぬなんて考えたこともなかったのに、この年齢になると、腰は痛くなり手術も2度。歩くこともつらくなるという状態。他人様のお世話にならないでどうやって逝くかなぁと死ぬことばかり考えますよね。90歳を間近に控えたときに、車いすの生活になってしまうと、ひとりで家事はできないし、どうなってしまうんだろうな、という気持ちになったのが始まりです。誰かのために生きたい、何かしてあげたいとか、して欲しいとかがないんです。そうなると死ぬことしか考えなくなるんですよ」


 --元気で脚本もまだお書きになっているのに


 「もう仕事も嫌になっちゃいましたしねぇ。ただ、遊ぼうという気持ちは残っていますよね。戦争で青春を奪われたせいなのでしょうか。旅に憧れていて、世界一周は3回も行きました。もう一度世界を回ろうと、来年出航する大型客船『飛鳥II』のクルーズを申し込みました。いま、私のたった1つの楽しみ。旅行に向けて頑張っていても、病気になって体が動かなくなったら安楽死ができると思ったら思いっきり爽やかに遊べるし、もうひとつ仕事をしようという気持ちにもなれる。スエズ運河を見たいから、ちゃんと食べなきゃと思うし、週に3回ストレッチなどもしていますよ」


 --死について考えることが普通の文化になればいい、と


 「あの“安楽死宣言”は予想をしていなかった反対や懸念もありましたが、この年になって死に方を考えたとき、弁護士さんやお医者様、第三者の専門家といった審判グループが必要になってくるような気がします。看取りのグループが『もう死なせてあげた方がいいわ』と判断してあげる。もちろん本人が元気なうちに意思表示をして、遺言があってのことですけれどね。何月何日の何時に薬を飲みなさい、ということではなくて、本人にわからないように安らかに眠らせてもらえたら一番いいなと思うんです。本人が生きていたくない、自分が幸せではないと思うようになったら死なせてください、ということです。私は弱虫だから自分からは死ねませんから」


 --ドラマ“渡鬼”で医師の本間英作(植草克秀)が訪問診療医に転じたことも触れています


 「脚本は私のさまざまな夢や願望を託して書いています。病院の勤務医も大変ですが、今の大学病院のお医者様は聴診器をあてることや舌を出して…ということもしないで、パソコンばかりみて診察するんですよ。患者は人間じゃなくなりますよね。地域のお年寄りなども見守り訪問してくれるホームドクター。死と向き合い、死を見つめてくださる在宅医療の先生が増えてほしいですね。私も見つけている最中ですもの」


 --本には考えさせられる問題も含まれている


 「日本にはまだ安楽死の法制度がないので、お医者様が安楽死をさせても罪にならないようにしないと。本人は安楽死をと言っているけれど本音なのか再治療でどうにかなるものなのか。安楽死は患者の尊厳を守るもの、人助けなのだとする考えが普通になればね。私のお願い、願望です。そういう世の中になったら安心して生きていけます。死ぬことを心配しながら生きるのは嫌だから…」


 --安楽死法制化への旗振り役にという声も


 「私は自分の意志で死なせてほしいという思いがあるということだけです。法律にするには弊害が多すぎて。遺産や介護問題など、法制度を悪用するよこしまな人が出てくることがネックになると思いますし。でも他人に押しつけるものでもありません。これまで精いっぱい生きて、最期は安楽死で逝きたい、という個人的な欲望なのです」


 ■内容 


 89歳になったとき、女優の泉ピン子さんに「ママ(筆者)はもう90なんだから、じゅうぶん年を取ってるんだよ」と言われて「終活」を始めた。ひっそりといなくなり、葬式や偲ぶ会もやってほしくないが、いつどうやって死ぬかは自分で決めたいと思い考えたのが「安楽死」だった。前半では戦争体験の記憶をたどり「命」と「死」との関わりを、後半には安楽死、尊厳死の現状を紹介。あらゆる世代が「自分の死に方」について考えるきっかけになればいいと願っている。


 ■橋田壽賀子(はしだ・すがこ) 1925年、京城(現在のソウル)生まれ。92歳。日本女子大学卒業。早稲田大学第二文学部を中退、初の女性社員として松竹入社。脚本部を経て、59年からフリー脚本家。66年、TBSプロデューサーの岩崎嘉一氏と結婚。「となりの芝生」「おんな太閤記」「春日局」(ともにNHK)をはじめ数多くの脚本を手がける。83年の「おしん」(NHK)は国民的ブームを巻き起こし世界各国でも放送。90年スタートの「渡る世間は鬼ばかり」(TBS)も大ヒットして継続的に放送。NHK放送文化賞、菊池寛賞、紫綬褒章、勲三等瑞宝章などを受賞・受勲。2015年、文化功労者に選出。橋田文化財団理事長。近著に『渡る老後に鬼はなし』(朝日新書)、『私の人生に老後はない』(海竜社)がある。

提供元:Yahooニュース
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