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情熱の七○年代から娘を案ずる現在までフラットに「性の自立」を綴る(レビュー)(Book Bang)

 著者自身に近い一九六一年生まれの作家「私」が語る四話。登場するのは女性たちだが、男性論理で彼女たちの思い出を綴るのではないところが本書の大きな特徴だ。異性として彼女らをどのように見てきたか、「性の自立」が双方の関係にどう影響したかを、中学時代の体験から自分の娘の将来を案じている現在まで、時間の幅を長くとって回想する。

「私」と女性との関係は封建的なにおいがしない。一般的とは言えない少年期の体験が関係していそうだ。母は学生結婚してすぐに「私」を生んだが、やがて離婚し、働きながら子育てをする。まだ学童保育がない頃で、少年の見守りをしたのはヒッピーたちが自力で造った喫茶店「ロシナンテ」の連中だった。子ども扱いせずに仲間のひとりのように迎えてくれたそこは、彼の「家庭」であり「学校」であり、アルバイトを始めると「仕事場」にもなったのだ。

 喫茶店のモデルは京都にあったほんやら洞で、七〇年代、若者たちはそこを拠点に古い価値観を捨てて「性の解放」や「フリーセックス」を実践しようとした。少年の「私」もその場に立ち会い、十三も歳上の、恋人のいる女性と付きあったりする。人と人が丸ごと関わった当時の情熱がユーモラスに描かれ、時代のドキュメントとしても貴重だ。

 四話には批評に近い「『カトリーヌ・ドヌーヴ全仕事』」も入っている。「私」はひとりの映画人の筋の通った生き方に魅了され、同名の本を企画するが、その中で#MeTooの動きにも触れるなど、「性」の戦後史が重ねられていく。小説という器が大きく開花するようで魅力的だ。

「偶然からしか、始まらない。そして、絶えず首尾一貫性に欠けている」

「私」は性的関係をこのように描写する。人間への愛おしさがなければ言えないセリフだが、本書に流れるのはまさにその感情であり、性への倫理要求が人の心を萎縮させる現代への問いかけのようにも読めた。

[レビュアー]大竹昭子(作家)
おおたけあきこ1950年東京生まれ。作家。小説、エッセイ、批評など、ジャンルを横断して執筆。小説に『図鑑少年』『随時見学可』『鼠京トーキョー』、写真関係に『彼らが写真を手にした切実さを』『ニューヨーク1980』『出来事と写真』(共著)など。朝日新聞書評委員。朗読イベント「カタリココ」を開催中。[→]大竹昭子のカタリココ

新潮社 週刊新潮 2023年3月23日 掲載

提供元:Yahooニュース
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