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時間を巻き戻すごとに切なくなる家族の秘密をめぐる長編小説(レビュー)(Book Bang)

 ラストシーンにたどりついたら、冒頭に戻って読みなおさずにはいられない。吉川トリコの『あわのまにまに』は、二〇二九年から一九七九年まで時間を十年ずつ遡り、ある家族の秘密を明らかにしていく長編小説だ。それぞれの時代の流行を活写し、女性の置かれた状況とジェンダー観の変遷も描いている。

 第一章「二〇二九年のごみ屋敷」は、小学三年生の益子木綿が語り手だ。木綿は母方の祖母の家を一家総出で片付けた夏の出来事を思い出す。亡くなるまでごみ屋敷にひとりで住んでいた祖母、拾い集めたがらくたに手を加えて売っている母、実家と全く交流がない父、二十三歳上の兄。祖母は二度結婚していて、母と叔母の父親は異なる。兄は十八歳のとき韓国から日本に来て、益子家の養子になった。詳しい事情はわからないながら、木綿は〈うちの家族はふつうとはちがう〉と感じ、家出した大好きな兄が〈いつでも帰ってこられる場所になりたい〉と願う。

 子供は知り得ない家族の来し方に何が隠されているのか。謎を解く手がかりは、木綿の母いのりの半生にある。いのりの新婚時代、会社員時代、学生時代……と、時間を巻き戻すごとに「そうだったのか!」という発見がある。伏線回収の快感はあるが、いのり自身は語り手にならないため、すべてが説明されるわけではない。大事な部分は読者の想像に委ねられているところがいい。

 例えば、いのりの妹の視点で語られる第三章「二〇〇九年のロシアンルーレット」。いのりがクリスマスの夜にダイヤモンドの指輪を餃子の餡に練り込んで食べようとするエピソードがある。最初に読んだときはいのりの奇行に驚いたが、後半に判明する事実をふまえて再読すると、いわく言い難い切なさがこみあげた。

 本書は血縁や因習から自由になりたいと望み、他人には理解されなくても自分だけの愛を選びとってきた勇敢な人々の物語なのである。

[レビュアー]石井千湖(書評家)

新潮社 週刊新潮 2023年3月30日花見月増大号 掲載

提供元:Yahooニュース
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