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∞sARy∞
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150:
いつもの様に
ホストとしての職務を松任する一人の男、雅也。
彼はお客様の送り出しを終え、ミナミを闊歩していた。
──その時。2006-03-03 11:32:00 -
151:
前方からホストと歩いて来る女に雅也は目をやった。
『あの子…どっかで見た事あるっ…け。』
べつに不思議な事でもなんともない。しかし、雅也はなぜかその女が気になった。2006-03-03 11:33:00 -
155:
まるで人形に触れているかのように冷たい二の腕。
凍ったように、生気のない大きな目。
雅也は背中に走る嫌悪感に、少し手に汗を感じた。2006-03-03 11:36:00 -
156:
『あ、ありがとう☆ごめんね〜酔っちゃって〜』
その女はヨロヨロとよろけながら立ち上がる。
パンパンッッと細い足を包むデニムを叩き、雅也を見上げる。2006-03-03 11:37:00 -
157:
まるで人形が人間になったかのように、
女は微笑ましい笑顔で雅也に笑いかけた。
『あ、ホスト〜!?飲み足りないし君の店行くわ〜☆どこ?行こ行こ(。゚∀゚。)』
一人でキャラキャラと女は喋る。2006-03-03 11:38:00 -
158:
『…お兄さん?聞いてるー!?名前は!?』
----突如覗き込まれて、雅也ははっとする。
『あ、カズ…キ。カズキやで。名前は?』
なぜか本名を言いそうになり、雅也は我に帰り焦ると源氏名を告げた。2006-03-03 11:39:00 -
160:
『ドンペリは渋いから嫌い。そーやなぁ…。クリュグ持ってきて☆ピンクね☆
コールはうるさいから嫌い。グラス持って来て。
あ(。゚∀゚。)カズキは?頼んで頼んでッッ。』2006-03-03 11:42:00 -
161:
『あの客新規すか!?えらい上玉っすねカズキさんッッ!!しかもベッピンやしー!!!!オレなら枕歓迎!!!』
──バックルームで新入りのマサトが鏡に写る自分の頭をいじりながらはしゃいでいる。
『アハハ。何言ってんの。お前早くしなょー』2006-03-03 11:43:00 -
162:
『カズキは何歳なんー?』
----ヘラヘラと、
まるでさっきの異常なまでも凍てついた表情など微塵も見せずに、サリは笑いかける。
『23やで。サリは?』
『サリは21☆老けてるやろ?26とか普通にゆわれるねんヶド!!!ダッヒャッヒャ!!!』2006-03-03 11:44:00 -
163:
【サリ】は本当によく笑っていた。
------数時間して、
『あ、ソロソロ帰ろかな』
とサリはいきなり告げ、財布から分厚い現金を出すとテーブルに置いた。
『多いって、笑。こんだけ貰うわな。ありがとう。』2006-03-03 11:46:00 -
164:
エレベーターに乗る。
うるさい店内から解放され、静か過ぎるエレベーターの中では慣れずにまだ耳が少しキーンと鳴っている。
雅也は?のボタンを軽く押し、振り返ると…2006-03-03 11:47:00 -
165:
ポスッ・・・・・
『え…サリ?…大丈夫?』
----いきなりフワッともたれかかってきたサリに、躊躇いながら雅也は背中に手をあてた。2006-03-03 11:48:00 -
166:
『…………ん。』
腕の中で小さくコクリとサリは頷き、軽すぎる重心を雅也にかけている。
雅也は何もかける言葉が浮かばない。
刻一刻と、エレベーターは下へと向かう。
──?・?・?・?・・・・2006-03-03 11:50:00 -
167:
──?・・チーン!!!
タイムリミットを告げるエレベーターの音が響いた時。
ふぁッ・・・と軽い体が腕から離れてゆく。
『ふふ。今日はありがとう☆バイバイ…』2006-03-03 11:50:00 -
168:
むず痒いような、少し息が詰まるような。
ほんの数時間で、雅也はサリに恋をしていた。
愛おしく、生暖かい感情が言葉に出来ない。
ゆっくりと離れて行ってしまうサリの背中。
----気がつくと雅也は足を動かしていた。2006-03-03 11:52:00 -
169:
グイッと細い腕を掴む。
『へッッ!?あ、カズキ?どーしたん☆びっくりするやんー!!』
素っ頓狂な笑顔を作り、サリは雅也にそう言った。
『……腹…』
『腹!?痛いん!?飲ませ過ぎたかなあたし!?大丈夫!?』2006-03-03 11:54:00 -
170:
『腹減ったやろ(`∀´*)飯行こ飯!!!』
"なんてダサい誘い文句だ"
と、本人も思っているのか雅也の頬は真っ赤になっていた。
『*゚Д゚)・・・・・。』
サリはポカンとした顔で、少し口を開け立ちぼうけている。2006-03-03 11:55:00 -
171:
真っ赤だった雅也の頬は次第に青ざめて行く。
《うわ…俺ダッサ…最悪・・》
心の中では恥ずかしい余り、のたうちまわる雅也。
『*゚Д゚)・・・・・・・』
サリはしばらく立ちぼうけ、2006-03-03 11:56:00 -
172:
『・・・・・・ぶッッ』
ついに口が動いた。
『ぶッッ!!!(`ε`*)……ダッヒャッヒャッヒャッヒャーー!!』
そして笑い出す。
『?3?やっけ?カズキって。ァヒャヒャ!顔が!!顔が赤い!!アハハ!』2006-03-03 11:57:00 -
173:
『…うま!!!』
『やろー(。゚∀゚)ここ、あたしの1番のお気に入りやねん☆』
----スカスカの店内で、サリは指揮者のように自慢げに箸を振り回す。
『アハハ。サリ、お箸から米が飛んでくるよ(。´v`。)うん。でもほんと旨い。』
『友達にも内緒やねんで☆ここのご主人堅物やし、流行ったら嫌やしカズキも内緒なッッ』2006-03-03 11:58:00 -
174:
『ハハっ。でも客連れてはこれそにないね。』
----古ぼけたパイプ椅子はガタガタと不安定。
壁はガランと萎びたコンクリート。
見渡して俯き加減に雅也は笑った。
『ダッヒャッヒャ!!確かに☆じゃあ、二人の秘密基地ね。』2006-03-03 11:59:00 -
175:
…《秘密基地》
なんだかその言葉が嬉しくて、雅也は照れる気持ちを隠そうと煮っころがしをほうばった。
でもなぜか、時折見せるサリの淋しげな笑顔に雅也は目には見えない不安を抱いていた。2006-03-03 12:00:00 -
176:
それから何度も雅也とサリは会っていた。
電話番号は交換していたが、
サリは気まぐれで。
《秘密基地》でご飯を食べては他愛もないお話をする。
雅也は、心がホワリと温かくなる日々に、すごく幸せを感じていた。2006-03-03 12:02:00 -
177:
──そんなある日。
『…って事が有ってー本当びっくり…、…サリ?』
その日のサリは何かがおかしくて、雅也は口を紡いだ。
『あ!?ごめんごめん。なんか寝不足で。ァハ(。゚∀゚。)で、なんですって?』2006-03-03 12:03:00 -
178:
『…顔色悪ない?』
『そー?大丈夫やで(。´v`。)カズキは気にしすぎやいッッ。ホレホレ早く食べなされっ!!』
そう言って笑うと、サリは雅也の皿に唐揚げや煮物をドカドカ乗せる。2006-03-03 12:04:00 -
179:
『さて、腹ごしらえもしたし、どっか行く?』
雅也は小銭をチャリチャリと手のひらで踊らせながら言う。
『眠いから帰る(。゚∀゚。)』
サリは雅也を見つめ返す事もなくそう言った。2006-03-03 12:05:00 -
180:
『そ。じゃタクシー拾おーか』
チャラつく小銭を乱雑にポケットに仕舞い込み雅也はサリを追い越し歩き出した。
朝の南はタクシーも諦め気味に走る。
手を上げるとすぐに止まり、サリは乗り込む。
『ありがと。』少しはにかんでそう呟くとドアがしまった。2006-03-03 12:07:00 -
182:
『カズキ電話。』
八重歯がチャームポインツな隼人がタバコをくわえながら差し出しす携帯を受け取り、少し気だるさの漂う表情を浮かべ雅也は画面に目をやる。
『?(゚Θ゚。)!!』
雅也は携帯の画面を凝視した。2006-03-03 12:09:00 -
183:
【【着信-**サリ**-】】
こちらからかけたって気まぐれで出ない確率9割のサリからの着信。
今朝の飯屋での表情も頭を過ぎり、雅也は嫌な予感がした。
──直感は時に残酷な程に的確だ。…あの時のように・・・・2006-03-03 12:10:00 -
185:
雅也の母は、
雅也なしでは生きていけないような人だった。
ただでさえ父の居なかった雅也はそんな母を世界中の誰よりも愛していた。
17歳まで。
雅也の母は雅也が17の時に、自殺。2006-03-03 12:13:00 -
186:
少し浮世離れした女性だった、と周りは葬式の時に囁き合っていた。
自殺した理由はいまだにわからない。
しかし、ただ一つだけ雅也が抱え続けて居る事がある。
──ピッ!!『もし、サリ?どうしたんやー・・・・?サリ!?…泣いてんの?』2006-03-03 12:14:00 -
187:
─ブッ!!!…ツーッツーッ・・・・
『カズキ?ってオイ、カズキー?どこ行くねんミーティングはじまる…』
----隼人の声が遠退く。
雅也は突然かかってきた揚句、啜り泣くサリの声が、まるで気を使うように切れた携帯を握り締め店の重く白いドアを抜け出て走り出した。2006-03-03 12:15:00 -
188:
ダラダラと走るタクシーを捕まえると乗り込む。
ドライバーは意気揚々と俊敏にアクセルを踏む。
目的地はサリの家。
以前に一度きり、酔ったサリを送った場所まで、記憶を辿り伝えるとタクシーは走りゆく。
リダイヤルからコールするサリの電話は圏外。嫌な予感が頭を駆け巡る。2006-03-03 12:15:00 -
189:
『…急いで貰えます?』
苛立ちがタクシーを覆い尽くして行く。
『ちょっとねー混んでるみたいやね〜』
苛立ちをまさぐるかのようなドライバーの声。
『お客さん〜ホストかなんかか?男前やもんなぁ。女とくっちゃべって銭稼げりゃ…』2006-03-03 12:16:00 -
190:
『…止めて。』
雅也は胸から長い色とりどりの色が散らばったプッチ柄の財布を取り出した。
『へ?もう着くでー。のっときい…』
『ええから。コレ。釣り銭いらんし。開けて。』
雅也は隠し切れない苛立ちを静かに彷彿させていた。早くサリの元へ…。早く早く…。2006-03-03 12:17:00 -
191:
タクシーから降りた雅也は
まるでドラマの様に走り出し、週末だと言うのに
繁華街から抜けて静まり返った街を走り抜ける。電話を耳に宛て、なんども通話ボタンを押し続ける
──オカケニナッタ電話ハ電波ノ届カナ …2006-03-03 12:18:00 -
193:
エレベーターすらもどかしい。早く早くと鼓動が急かす。
──マサヤ…アイシテルヨ…
苦しい。もうやめてくれよ。聞きたくないんだ。お願い…2006-03-03 12:20:00 -
196:
何分も、雅也はドアを叩いた。手は赤く擦れ、
吹出してしまいそうな恐怖を噛みしめながら、
フラッシュバックで震える声を荒げながら。
……何分も何回も。2006-03-03 12:23:00