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いつか蝶のように

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  • 1:

    椎名

    あたし、あげは。風俗嬢してる。ネオン輝くこの街ではそれなりに有名になったけど、今あたしの本名を知ってるのはアイツだけ。アイツの本名を知ってるのもあたしだけ。
    あたしとアイツは似てる。だから惹かれた。

    2006-02-28 23:13:00
  • 30:

    椎名

    でも、あたしは知ってる。刹那の外に出さない感情を。底の見えない哀しみを。

    刹那が隣に座る。
    いつもの刹那の香り。深い海のような、爽やかで優しい、淋しい香り。

    2006-03-03 23:12:00
  • 31:

    椎名

    グラスにブランデーを注ぐ。慣れた手つきで水割りを作る刹那。
    伏し目がちな眼に長いまつげが揺れる。細くて長い、しなやかな指。あたしは刹那の手が好きだ。

    2006-03-03 23:21:00
  • 32:

    椎名

    「…あげは、そんなに俺の手が好き?」

    刹那はこっちを見ずにあたしに聞いた。少し微笑っている。

    『綺麗だよね、刹那の手―』
    「そう?ありがと。あげはに言われると、なんか照れるな☆」

    2006-03-03 23:27:00
  • 33:

    椎名

    刹那はあたしの隣では微笑うようになった。でも、いつも個室VIPにいるから微笑ってる刹那を見る人は少ない。

    「刹那さん、お願いします」
    従業員が刹那を呼びに来た。刹那を指名している他のお客様が刹那を呼んでいる―刹那が言わなくてもあたしには分かる。

    2006-03-03 23:34:00
  • 34:

    椎名

    「…あげは、ちょっと待ってて」
    『うん』
    刹那は席を立った。

    刹那を呼びに来た従業員がそのまま席につく。もう見慣れたその顔は相変わらず驚いている。
    『おはよう、妃羅さん』

    2006-03-03 23:44:00
  • 35:

    椎名

    妃羅は1年前からdiaで働いている。刹那とは違って人懐っこくて、その幼く可愛らしい顔立ちは人を魅きつける。性格が対照的な刹那とは合わないように見えるが、刹那を兄のように慕っている。

    2006-03-03 23:59:00
  • 36:

    椎名

    「おはようございます♪ってゆうかね、やっぱり、あげはさんって刹那さんには【特別】なんですね☆羨ましいなぁぁ…」
    『そんなことないんじゃない?妃羅さんの方が刹那とはずっと仲良さそうじゃん?』
    「えー、だって刹那さん、あげはさんの隣でしか微笑わないんですよー。あげはさんがお店に来てくれるようになるまで、微笑ったとこなんか見たことなかったし―」

    2006-03-04 00:06:00
  • 37:

    椎名

    いつだったか、刹那は妃羅のことを楽しそうに話してくれた。刹那が従業員の話をすることは珍しかった。まるで弟みたいにくっついてくる妃羅を、刹那は可愛いと言った。
    いつも人と一定の距離を置く刹那。その刹那に唯一接近することを許された従業員―
    妃羅も刹那にとって特別な存在なんだろう。

    2006-03-04 00:34:00
  • 38:

    椎名

    時計を見ると2時間が経っていた。あれから刹那は戻ってきていない。
    (…もぅこんな時間かー…)

    『ごめん、刹那呼んでくれる?あたし、帰る』

    2006-03-04 10:52:00
  • 39:

    椎名

    「ごめん、あげは…」お酒の匂いを連れて刹那が戻って来た。少し酔ってるみたい。
    刹那はお酒が強い訳じゃない。でも、仕事中にすごく酔ったり潰れたりすることは絶対にない。彼のプライドなのだろう。周りが創った“スマートな王子”を演じている、誰よりも不器用な刹那。

    2006-03-05 04:25:00
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