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月明かりの船

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  • 1:

    雪弥

    もうすぐ夏が終わる…

    出会いは雨だった…。
    あの小さなバス停…覚えてる?

    あの日から、俺の大切な場所になったんだ…。

    2005-06-09 11:39:00
  • 2:

    しゅうは家族が住む実家の近くで、1人暮らす18才。しゅうが住む土地は凄く田舎で、見渡す限り山ばかりだ。
    少し歩くと海がある。先が見えない程に、長く長く続く浜辺は、夏の終わりを迎え人は居なかった。
    今日は風が強い…。水面が揺れてキラキラ光っていた…。

    2005-06-09 11:40:00
  • 3:

    浜辺を上がった道路には、小さな屋根付きの古いバス停が1つあるだけ。

    波打ち際にある岩場に腰掛けて、1人空を見上げる。
    雲が流れるのを見る瞳は
    辛いこと…悲しい事すべてを忘れさせる・・・。
    しゅうはこの瞬間が1番スキだ。

    2005-06-09 11:41:00
  • 4:

    【ポタッ…ポタッ】
    “…通り雨?”
    ついてないなぁ…。しゅうは近くのバス停に走った。
    “あ…誰か居る。
    ー先客だ…めずらしいー
    見れば同い年位だろうか?女のコだった。

    2005-06-09 11:42:00
  • 5:

    しゅうも、そのコも頭からびしょびしょだ…。
    そのコはベンチに座って
    足をブラブラさせていた。
    しゅうは少し離れて座った・・・。
    無言の空間。
    雨の音が耳にうるさい。
    ・・・・
    女のコは「くしゅんっ」
    とくしゃみをした。

    2005-06-09 11:43:00
  • 6:

    しゅうは思い出したように、荷物をあさりタオルを差し出した。
    ふと見上げたそのコの目は、泣いていたのだろうか?潤んでキラキラしていた。
    「あ…。ありがとう」
    女のコは【にこっ】と笑うと頭を下げた。

    2005-06-09 11:44:00
  • 7:

    しゅうは【にこっ】と笑うと、少し離れ座った。
    “この辺のコなのかな?”
    『どこから来たの?』
    と聞きたかったが聞けなかった。
    ーしゅうは声が出ない病気だったから・・ー

    2005-06-09 11:45:00
  • 8:

    ふと友達の言葉がぼんやり浮かんだ。
    声が出なくなる前からの友達の流が言った。
    「しゅう彼女作らないのか?」・・・。
    『しゃべれないから』
    と手話をした。
    「しゅうらしいな…」
    と流は笑った。

    少し前までは声があったのに…そう。先天性ではなく事故が原因だった。

    2005-06-09 11:46:00
  • 9:

    しゅうはいつも、首を隠した。鉄パイプが刺さった跡があるから。
    見せるのが嫌だった。
    リハビリや治す意志、努力すれば声が戻るかもしれない…と医者は言った。
    でもしゅうは治そうとは思わない…耳は聞こえるから。手話が出来る今では不便でもないし・・。

    2005-06-09 11:47:00
  • 10:

    そんな事を思い出して、ぼーっとしていると
    しゅうの目の前にアメが1つ…。“?”不思議に思って見上げると
    【んっ】と女のコが手を出していた。受けとると
    「お礼っ☆」
    と女のコが笑った。
    “何でアメなんだ?”
    子供のような可愛らしい行動に、思わず笑ってしまった。
    しゅうは【ペコリ】と頭を下げた。

    2005-06-09 11:48:00
  • 11:

    「あのっ…良かったら、だけど名前教えて…?」
    しゅうは少し戸惑った。
    初めてしゃべれない事に、劣等感を感じた。
    彼女は、下を向き戸惑ってるしゅうに気付き、
    気遣ってか足をブラブラさせた・・。
    「雨…すごいね」
    彼女は空を見上げた。

    しゅうは何だか“悪い事しちゃったな”と思い荷物から、おもむろにノートとペンを取り出した。

    2005-06-09 11:48:00
  • 12:

    しゅうは、もたれていた後ろの壁を手で
    【コンコン】と叩き
    彼女にノートを見せた。
    『柊ーしゅうーです』
    彼女はびっくりしていた。「…うそ。こんな事って…あるの…?」
    彼女はぼそっと呟いた。
    『どうかした?』
    彼女は【はっ!】とし
    笑顔でつくろった。
    「あっ!ううん、何でもないよ」

    2005-06-09 11:49:00
  • 13:

    この時何故か、しゅうは何も聞かない方が良さそうだと思った。
    「私の名前は郁ーいくー」

    「あなた・・・、まさか声が…?」
    しゅうは【にこっ】と笑いながらペンを走らせる
    『“あなた”じゃなくて、しゅうだよ!うん…声は出ないんだ…』
    郁は黙って下を向いた。
    覗きこんだその顔は、今にも泣きそうだった。
    しゅうは慌ててペンを走らせた

    2005-06-09 11:50:00
  • 14:

    『泣かないで…?』
    その言葉を見た瞬間、郁は両手で顔をおおい、泣いてしまった。
    “あれ…?泣かせてしまった…?え…俺?”
    何て言えばいいのか、言葉が浮かばない。
    オロオロするばかりだ。
    今思えば郁は誰かに話を聞いてほしかったのだろう。だけど郁の涙の本当の意味など、この時のしゅうには知るよしもない。

    2005-06-09 11:51:00
  • 15:

    雨がやみ1時間に1便しか来ないバスが来た。
    郁はバスに乗り込む瞬間
    振り返り
    「また会える?」
    と不安そうに聞いた。
    しゅうはペンを走らせ
    『うん。いつでも』
    と見せてノートを閉じた 不思議なコだった。
    よく笑う。よく笑うのに…何かがひっかかる。

    2005-06-09 11:52:00
  • 16:

    郁は柊の名前をキレイと言った。そんな事を言うコは初めてだ。変わってる。
    帰ってから、しゅうは郁の事を考えていた。
    初対面の奴の前で泣く程、郁は何に追い詰められたんだろう。
    その時【ピンポーン】と家のチャイムがなった。
    ドアの前には流が立っていた。

    2005-06-09 11:53:00
  • 17:

    流が来るのはいつもの事
    「土産だ」と酒を持ってきた。
    おいおい?俺ら未成年やん…等と思う訳もなく、いつものように酒を飲む。
    ふと見ると流の服に葉っぱが付いてた。
    『またあそこかよ』
    「え?あ、バレた?」
    林檎の木なんか見て何が楽しいのかね。と言うと、流は落ち着くんだと言った。

    2005-06-09 11:54:00
  • 18:

    しゅうは今日の事を流に話した。郁の事だ…。
    「ん、で?しゅうはどうしたい訳?」
    流は相変わらずストレートだ…参った。気になるけど…これはきっと…きっと恋とは違う。
    だけど…気になる気持ちは嘘じゃない・・・。
    『ほっとけない…かな』
    しゅうはそう言うしかなかった。流は、そうか。
    とだけ言った。恋愛に変わればいいなと流は思った。

    2005-06-09 11:55:00
  • 19:

    流はずっと、しゅうを傍で見てきた・・・。
    声を失った時のしゅうは、見てる方が辛い程荒れて
    不安定だった。
    他校から女のコが見にくる位、皆の憧れだったのに
    声を失ってからは、異性を避けた。
    だからしゅうの『ほっとけない』と言う言葉に驚いた。純粋過ぎる所は心配だが、この変化は嬉しかった。

    2005-06-09 11:56:00
  • 20:

    【ピンポーン】チャイムがなった。ドアを開けると、幼なじみの渉ーわたるーと
    華ーはなーだった。
    「お土産ぇ」と華は袋を渡した。また酒だ…?
    「あ〜流、久しぶりぃ」
    華の言葉に渉はゲラゲラ笑っている。流は呆れながら言った。
    「毎日この部屋で会ってるだろ・・・」

    2005-06-09 11:56:00
  • 21:

    華は酒好きなのに弱くて
    すぐ潰れて寝てしまった。「華には困るよ、ジャジャ馬で」
    ため息をつきながら、
    渉が言う。すると流はからかうように言った。
    「そこが可愛いと思ってるくせに〜」
    「ばかっ、ちげー…くないけど、俺は幼なじみでいい。」
    渉は昔から華が好きだった。もちろん華は知らない
    そして当の華は・・。
    ーしゅうが好きだったー

    2005-06-09 11:57:00
  • 22:

    華の気持ちなど、しゅうはもちろん知らない。

    華が気持ちを伝えないのは、しゅうが異性を避けるのを知ってたから。
    【ただの幼なじみ】でいいから傍に居たかった。
    それは渉も華に対して言える事だった。
    後にこの3角関係は、
    郁との出会いで変化を遂げるが、それはまだ少し先の話…。

    2005-06-09 11:58:00
  • 23:

    皆が雑魚寝をしている中、しゅうは一人目を覚ました。散らかった部屋…。
    “う〜ん…頭が痛い”
    飲み過ぎた・・・。
    ふと時計を見るとまだ夜中の2時だった。
    しゅうは外に出ると、いつもの海へ向かった。寝れない日はいつも海へ行った。

    2005-06-09 11:59:00
  • 24:

    浜辺に寝ころがり空を見上げる。星で埋めつくされた夜の空…何秒かの感覚で星が流れた。
    誰かが砂を踏み近づいた
    「何してるん?」
    流が上からしゅうの顔を覗き込んだ。
    しゅうはびっくりして固まってしまった。…心臓に悪い…?流は笑った。
    「ごめんごめん、びっくりさせて」
    “ホント頼むよ…?”

    2005-06-09 12:00:00
  • 25:

    「寝れないのか?」
    『う〜ん、何でかな』
    しゅうは体育座りし
    膝を抱えた。
    「…郁ちゃんの事?」
    しゅうは【んーっ】
    と両手を伸ばして、背伸びをすると、そのまま後ろに倒れた。
    『…わかんねっ』
    そう言い目を閉じた。
    流と部屋に戻り眠りについた。

    2005-06-09 12:01:00
  • 26:

    夕暮れ時しゅうは
    あのバス停に行った。
    「しゅ、柊くん!?」
    郁はとっさに、何かを
    後ろに隠した…が
    バレバレだ…。
    【トサッ…】と何かが
    郁の足元に落ちた。
    「あーダメっ!見ない
    で!」

    2005-06-09 12:02:00
  • 27:

    慌てた郁の姿がすごく
    おかしくて、
    吹き出しそうな笑いを
    こらえ、拾いあげる。
    “本?”

    2005-06-09 12:03:00
  • 28:

    「びっくりさせようと思ったのに〜」
    郁は悔しそうに言った
    『・・・これ・・』
    「はは…バレちゃった。うん。手話の本なの」
    “…やばい…”
    「柊君、ノートに書くの大変かなって。」
    “反則だ…めちゃくちゃ嬉しい。”

    2005-06-09 12:04:00
  • 29:

    郁は親戚がこっちに居て、一人で大阪から出てきたらしい。年は18才、同い年だ。
    郁はよく笑う。小っちゃくて可愛らしかった。ドジで天然の郁…
    しゅうと郁はノートを使って、時間も忘れ話をした。郁が花火をしたいと言ったので。
    しゅうは郁と花火をする約束をし、家に帰った。

    2005-06-09 12:04:00
  • 30:

    部屋に帰ると家の前には、華が居た。
    「しゅう、お帰り!」
    『珍しいな。何かあった?』
    部屋のドアを開ける。華は部屋に入るなり、
    「渉と喧嘩したの!」
    と膨れっ面で言った。
    『へぇ、珍しい』
    冷蔵庫から缶ジュースを出し華に渡した。
    「ありがと・・。あいつ意味わかんない!華、友達に頼まれて仲介しただけなのに!!」

    2005-06-09 12:05:00
  • 31:

    『仲直りしなよ☆渉も華も、もちろん流も俺の大事な友達なんだからさ』
    華はしゅうの言葉にひるんだ。
    やっぱりしゅうは、華を女として見てないんだ…。
    只の友達・・。
    ねぇ?しゅう…華は女のコだよ…。
    「帰るねっ☆」
    そう言うのが精一杯だった。

    2005-06-09 12:06:00
  • 32:

    『来たばかりなのに』
    と言うしゅうに華は、
    「ゴメンね☆」と言い
    振り返らずに靴を履くと部屋を出た。
    ドアをしめるとその場に座りこんだ。
    “しゅうは、華の気持ちを知らない…だから仕方ない…。それに、友達という
    【カタチ】を選んだのは華自身だもん”
    ーだから今はまだ…泣けないー

    2005-06-09 12:07:00
  • 33:

    待ち合わせは夜8時。
    しゅうが海へ行くと、郁は先に来て待っていた。
    『ゴメン待った?』
    ノートに書いて見せると、郁は笑って言った。
    「今来たとこ☆始めよっ」
    花火に火を付ける。赤や緑に光る花火は相変わらずキレイだ。2人は花火の光で宙に文字を書いてはしゃいだ。

    2005-06-09 12:08:00
  • 34:

    線香花火に火を付ける
    「…ねぇ、柊君は…死後の世界って信じる?」
    唐突でびっくりした。よく笑う郁からは想像つかない発言だ…。
    流みたいな事を言う。
    流はよく夢を見るそうだ。キラキラしたクリスタルの森。大きな林檎の木。
    そして…
    大切な誰かとサヨナラした夢・・・。
    流はよくその話をしゅうにした。

    2005-06-09 12:09:00
  • 35:

    そんな事考えた事もないし、そんな風に聞かれたのも初めてだったけど
    『俺は…信じるかな』
    と言った。流の影響かな?郁は涙声で言った。
    「私、一年前に…大切だった人を亡くしたのね。」
    しゅうはだまって聞いた。郁が淋しそうに笑う。
    「救ってあげれなかった…。私まだ…彼に縛られてるのかもしれない…」
    線香花火がポトっと静かに落ちた。

    2005-06-09 12:10:00
  • 36:

    「柊くんと同じ名前だったよ…。彼は“秋”だから漢字は違うけどね。雰囲気もそっくりで…びっくりしちゃった。」

    しゅうは【ズキン】と胸が痛かった。
    郁が自分に向ける笑顔も、自分を呼ぶ声も、自分を擦り抜けていたのか?
    郁が見ていたのは…自分に重ねた、秋の幻・・・?
    それなら残酷すぎる…。
    郁は何かを言ってたけど、耳には入らなかった。

    2005-06-09 12:11:00
  • 37:

    この時初めて、しゅうは郁を女のコとして見ている自分に気付く。
    でもまだ引き返せる。
    まだ恋じゃない。
    しゅうは、そう思うしかなかった。
    そして、郁の鎖は郁にしか外せないと思った。
    郁はしゅうにこの話をした真意を伝えたが
    その時のしゅうには、耳に入らない。しゅうは大切な事を聞き逃した。
    そして2人はすれ違う。

    2005-06-09 12:12:00
  • 38:

    郁が最終のバスに乗った後、しゅうは一人海に居た。どうしても帰る気にはなれなかった。
    ボーっとしていると、ぼんやりした光が目に入った。ふと見ると、
    ロウソクを乗せ、特別な紙で作られた小船を海に流す人がちらほら居た。

    ーそう言えばお盆も終わりだー

    2005-06-09 12:13:00
  • 39:

    小舟を海に流すのは、この村に昔から伝わる行事…
    【黄泉送り】
    お盆には死んだ人の魂が帰ると言う…。
    お盆が終わる頃、魂を小舟で海に帰すらしい。
    秋と言う人もまた、
    郁の元へと帰っているのだろうか…。
    参った。死んだ奴に勝てる訳がない・・。
    自分の気持ちも、あの小舟のように…溶けて無くなればいいのに…。

    2005-06-09 12:14:00
  • 40:

    初めての感情は、自分が自分じゃない程に女々しく…そして・・。
    滑稽だった。
    決して叶わない…。
    郁への気持ちは恋なのか?
    これが恋なら…
    こんな気持ちになるのなら、知らない方が…気付かない方が良かった。
    誰もがそう思うのだろうか…。

    2005-06-09 12:15:00
  • 41:

    いつまでもこんなとこに居る訳にもいかず、家に戻ると、いつもの三人が集まっていた。
    「どこ行ってたん?」
    渉が言った。
    「分かった!海だ☆」
    華の言葉に笑顔で
    【こくん】と頷いた。
    渉と華はどうやら仲直りしたらしい…。
    楽しい。友達が居ればいい…。だけどその気持ちとは裏腹に、
    認めたくなかったが、郁の事が頭から離れない自分が居た。

    2005-06-09 12:16:00
  • 42:

    しゅうはいつもより早いペースで酒を飲む。
    華は複雑な顔だ。
    しゅうは、華の異変に気付かなかった。
    いつもと違うしゅうの様子で流は
    【何かあったのか】と悟ったようだったが。
    渉と華の手前、黙って飲んだ。

    2005-06-09 12:16:00
  • 43:

    しゅうは久々に潰れ、寝てしまった。
    【…郁…】寝てる時ですら頭の中に郁が居る。楽になる事はないのか…。
    眠るしゅうの唇に何かがそっと触れた…。
    ・・・が。
    しゅうは何も知らず眠る。華は真っすぐにしゅうを見つめた。
    …朝になり、空き缶の転がる部屋で目を覚ます…
    珍しく、誰も居なかった。“昨日のは…夢?”華の行動は【夢】としてしゅうの中に残った。

    2005-06-09 12:17:00
  • 44:

    しゅうは、あのバス停に向かう。いつもの約束の場所・・・。
    ふと考える…このノートの空白が無くなった時…、俺と郁はどうなるのだろう?
    きっともう会う事は無いのだろう・・・。
    そんな気がした。
    バス停には郁が居た。
    何だかいつもと様子が違う。

    2005-06-09 12:18:00
  • 45:

    ‥‥郁は泣いていた。どうしたの?といくら聞いても、郁は首を横に振るだけだった…。
    泣きじゃくる郁の姿が、痛々しくて、しゅうは郁を抱き締めた。
    「柊君…しゅ…う君」
    郁は両手をしゅうの背中に回し、泣きながら何度も…何度もしゅうの名前を呼んだ。
    このまま郁の心を奪い去れたら、どんなにいいだろう‥‥けど出来る訳がない。そうだろ?
    分かってる。分かってるよ。どんなに望んでも郁は幻を見続けるんだろ…。

    2005-06-09 12:19:00
  • 46:

    郁は何も話さない‥‥そしてしゅうもまた、何も聞かなかった。
    重い口を開いた郁から出た言葉は・・・。
    「帰りたくない」だった。
    ・・・・。
    しゅうは少し考えた後
    『うちに来る?』
    と言うと、郁は静かに頷いた・・・。

    2005-06-09 12:20:00
  • 47:

    郁はまだ泣いていて、しゅうの横を下を向きトテトテ歩く。
    海沿いの道は昼間という事もあり、車の通りが少しあったから、郁を内側に歩かせた。
    並んで歩くと、少し手が当たった。そんな事でもドキドキしていた。不覚だ…。
    歩く早さが違うので、郁がしゅうの服のはじをそっと掴んだ。

    2005-06-09 12:21:00
  • 48:

    しゅうは、その小さな小さな郁の仕草に気付いた。
    “郁は今…俺を頼りに歩いてる…”
    そんな気がした。
    立ち止まって、振り返り郁を見る。郁は【ぱっ】とスソを離した。
    “やっぱ…子供だ”
    しゅうは【クスッ】と笑った。
    ー秋の代わりでも…構わないー
    しゅうは郁の手を強く握る。2人は歩き出した。
    お互い下を向きながら…。

    2005-06-09 12:22:00
  • 49:

    郁もしゅうも何も話さない・・・。
    手を繋ぎ無言で歩く。
    何度も歩いた海沿いの道なのに、とても長く感じた・・・
    あの日、初めて会った雨の日のバス停を思った。
    あの時の無言とは、全てが違う。
    海がキレイ…風に舞う葉っぱがキレイ…空が‥‥キレイ。
    そして初めて思った。
    ーこのまま…時が止まれば…いいとー

    2005-06-09 12:23:00
  • 50:

    部屋に上がると郁は、【チョコン】と座った。
    緊張してるのか、キョロキョロしている。
    冷蔵庫から缶ジュースを出し、郁に渡した。
    「ありがとう☆」
    その日初めて郁が笑った。『やっぱり郁は笑った顔が似合う』
    そう言って笑うしゅうを見て…ふいに郁が抱きついた。
    ノートがしゅうの手から静かに落ちた…。
    その日…初めて女のコに触れた‥‥。愛しさで、涙が出るなんて…知らなかった。

    2005-06-09 12:24:00
  • 51:

    俺の隣に今…郁は居ない。
    【サヨナラ】とだけ書かれた紙を、俺はまだ捨てる事が出来ないんだ…。
    ねぇ…郁‥‥。
    郁は今、何を思ってる?
    花のように笑ってるかな?…それとも‥‥今も一人で泣いてる…?
    ねぇ郁…。あの時みた幸せは、
    郁がくれた…夢…?
    神様…お願いだから…俺から郁を奪わないで‥‥。
    ーしゅうはその日…初めて泣いたー

    2005-06-09 12:25:00
  • 52:

       《真実》
    郁は喉の渇きで目を覚ました。まだ真夜中…。
    となりには、しゅうが眠る。郁はしゅうの頬にキスをした。服を着るとしゅうを起こさないように、飲み物を買いに外に出た。
    ふと海が見たくなり、海岸に行くと、誰かが郁に声をかけた‥‥。
    『あなたが…、郁ちゃん?』
    キレイな女のコ…。どうして私を知ってるのだろう?郁が不思議そうに見ると、【クスッ】と笑った。
    『何でっ?て顔ね…あなたがしゅうの部屋から出てくるのが見えたの』
    「あなたは?」
    『アタシは華。しゅうの幼なじみなんだ』
    「初めまして。郁です」郁は【ぺこり】と頭を下げた。

    2005-06-09 12:25:00
  • 53:

    『流から聞いたんよ、あなたがしゅうの心に入りつつあるってね』
    郁は黙っていた。
    『あなた前の彼が忘れられないんだって?しゅうを彼の代わりにして満足?』
    郁は口を開こうとして【はっ】とした。
    華は泣きながら言った
    『アタシはっ…しゅうをずっと見てきた…』
    郁は息が詰まりそうだった。この人は…今、自分の目の前に居る女性は…プライドを捨ててまで、柊を想ってる…。
    『お願いっ…しゅうを‥‥取らないでっっ』華は両手で顔を押さえ、その場で泣き崩れた。
    郁は【ぐっ】と唇を噛み…目を閉じると静かに頷いた。

    2005-06-09 12:27:00
  • 54:

    郁は部屋に戻ると、小さな小さな紙に
    【さよなら】とだけを書き、幸せそうに眠るしゅうを見つめ…部屋を出た。
    バス停で始発のバスを待つ‥‥。ぐるりと改めてバス停の中を見渡した。
    思い出が溢れて回る…
    あの雨の音を…しゅうの横顔を…戸惑った姿を…。
    自分に向けた優しい…笑顔を・・・。
    【ポタッポタッ】郁の握りしめた手に涙が落ちた
    「ひっく…ひっ…ひっく…しゅ…うくん…」
    ーこんなハズじゃなかった…ー

    2005-06-09 12:27:00
  • 55:

    その時から、しゅうはまるで脱け殻のよう…。
    次の日、華はしゅうの部屋を訪れた。
    【今ならば・・・・】…分かってる。華はやっちゃいけない事したって…。しゅう…ゴメン。でも、
    ーしゅうは渡さないー
    華は虚ろにうなだれ、座るしゅうにキスをした。
    しゅうは反応しない。彼の目はただただ…孤空を描くだけ‥‥。彼の瞳は郁の幻をうつすだけ…。華は愕然とした。
    「そんなに…あのコがすき?」しゅうに反応は無い。冷たい瞳からは涙が出るだけだった。華は現実を目のあたりにし、黙って部屋を出るしかなかった。
    しゅうは出ていく華を見なかった。うなだれたまま…。

    2005-06-09 12:28:00
  • 56:

    愚かだった‥‥。
    柊から郁を遠ざければ、手に入ると思った。
    郁の幻を追う彼は、華にとって、手の届かない遠い存在となった。
    しゅうの気持ちが初めて理解できた気がした。
    今のしゅうと同じように、幻を追う郁の姿…
    しゅうにとって、目に映る全てが酷だっただろう…
    その現実を乗り越えたしゅうに、郁を失う事で開けた穴はきっと…
    絶望するには十分で、その苦しみは、自分の想像を遥かに絶するのだろう。全てが間違っていた…今ごろ気付いても‥‥…もう遅い。
    ー私は愚かだー

    2005-06-09 12:29:00
  • 57:

      《華の心》
    あの日…、偶然海に居た華は、見てしまった。
    郁としゅうが楽しそうに…花火をしているのを。
    しゅうの隣には自分以外の女のコが居る…。
    そんな事よりも、知ってしまった。
    郁が、しゅうの先に幻を見ている事を…。
    それでも、しゅうが郁を選んだ事が・・。許せなかった。…だから壊した。
    だけど罰って受けるんだな。分かってるの…郁ってコが悪いんじゃない…。
    だけど…しゅうが自分に笑いかける事は、きっともう無いだろう。そして渉もまた自分から離れて行くだろう。
    華が家に入ろうと渉と擦れ違った瞬間、

    2005-06-09 12:31:00
  • 58:

    渉が華の腕を掴んだ。

    「離して‥」
    『嫌だ‥‥!』
    「離してぇ!!」渉は華の腕をひっぱると、自分の胸に抱き寄せた。
    「…離し‥‥てぇ…」渉は首を強く横に振った。
    「どうしてよぉ…」華は最低だと言ってくれた方が楽だと思った。だけど、本当は分かってる。渉は華を手放したりはしない事を
    華は渉の自分への気持ちを知りながら、ずっと目を背けてきた。
    渉は泣きじゃくる華にキスをした。ふいに、しゅうの顔がよぎった…。華はそのまま静かに目を閉じた。

    2005-06-09 12:32:00
  • 59:

     《繋がった心》
    長い長いキス。
    渉が華の肩に両手をかけ、【ぐいっ】と離すと
    『やっぱ照れるわ…』と下を向き笑った…。「渉…あたし…」ふいに渉の手が華の口を塞ぎ、言葉をさえぎった。
    『今はまだ、心にしゅうが居てもいい…。でも』
    渉は真直ぐ華を見た。『絶対俺が一番になるから』
    「…わた…る」
    下を向き泣く華の頭を渉は優しく撫でた・・。“渉…たくさん傷付けてゴメンなさい…。少しだけ、あなたの優しさに…甘えてもいい?”
    『華…おいで…』渉は両手を広げると華を優しく包んだ…

    2005-06-09 12:33:00
  • 60:

    ふいに渉が華に聞いた
    『華…後悔した?』
    華は壁にもたれたまま、【ズズズ】とその場に座り込んだ、
    「…したよ…。」ぽつりと涙声でそう言うと、腕の中に顔を埋めた。
    『じゃあ、行こう!』
    「えっ?行くって何処に…」
    渉は華の腕を引っ張った
    「ちょっ…渉!?」
    『いーから!今俺らが出来る事、やろう!!』渉はそう言うと華の腕を掴んで走り出した。
    “アタシらが、今出来る事?”

    2005-06-09 12:34:00
  • 61:

     《流と林檎の木》
    朝早く、まだ日が昇らない程早く流は、あの場所に行く。大きな林檎の木…。
    毎日流は同じ夢を見る。だけど
    思い出せそうで、思い出せない…。何故この場所はこんなに落ち着くのだろう?
    流は不思議だったが
    誰かが自分を守ってくれている事だけは感じた。
    ー流はきっとこの先も、あの遠い記憶を思い出す事は無いだろう…ー
    流は歩きだした。ふいに何かを感じ振り返った…。『あ…!』

    2005-06-09 12:35:00
  • 62:

    渉は華の手を握り歩いた。時計を見ると、7:45‥‥。
    “間に合った・・・”『渉…ここ…』そこにあったのは
    ーあのバス停ー
    渉は華を真直ぐ見つめた。華は渉の手を強く握り【こくん】と頷いた。
    “今アタシが…出来る事”
    “有難う渉。渉が導いてくれなかったら…アタシ、もっと後悔する所だった”

    2005-06-09 12:36:00
  • 63:

    【ぐっ】と覚悟を決めバス停の中に入る。
    「華さん‥‥」郁はびっくりしていたが、華に向けて笑ってくれた。
    華は愕然とした‥‥。“アタシがあなた達を引き離したのに…”
    ふいに泣きそうになる。
    “しゅうは彼女のこういう優しさに、ひかれたんだろうな。勝てる訳がない”
    そして華はゆっくり口をひらいた…。
    『郁ちゃん。聞いてほしいの・・・』

    2005-06-09 12:37:00
  • 64:

    しゅうはぼんやり座っていた。感情がマヒしてる。自分が自分じゃないような…俯瞰で見る感覚。
    【バンッ!】とふいに部屋のドアが開いた。
    渉が息を切らして前に座り、しゅうの肩を揺らした。
    「郁ちゃんが…」しゅうの手がピクッとした。
    『もういいんだ…』
    「郁ちゃんが、お前に…バス停に来てほしいって!!」
    『…!!!』しゅうは立ち上がると走って部屋を飛びだした。

    2005-06-09 12:38:00
  • 65:

    走り出すしゅうを、華は後ろから見送る。
    「しゅう!!ゴメンなさい!!」後ろから叫ぶ華に、しゅうは振り向き笑った。
    『華、頑張ったな』渉が華の頭を撫でた。
    2人でしゅうを見送る
    「渉、帰ろう」華が渉の手を強く握った。渉も華の手をしっかり握る。
    『…おう!!』歩き出す時、華は一瞬振り返った。
    『華?どしたん?』
    「なんでもな〜い☆さぁ、飲むぞー!!!」
    『え゛…朝から??』【ヤレヤレ?困った姫さんだ】
    ーしゅう…有難う…。大好きだった…。バイバイー

    2005-06-09 12:39:00
  • 66:

    “郁‥郁っ!!”
    バス停の前に立つ。手を伸ばせば…郁が居る…。
    深呼吸をし、バス停に入る・・・。
    …そこに郁の姿はなかった…。郁が居ただろう場所にあるのは新品のノートだけ“・・・・”
    しゅうは、ペラペラとページをめくった。ページは白でうまっている…。
    その時【パサッ】という音と共に、しゅうの足元に何かが落ちた。
    “…手紙‥‥?”

    2005-06-09 12:39:00
  • 67:

    しゅうは波打ち際の岩場に座り、手紙を開く。
    そこには初めて知る郁の気持ちが溢れていた。
    俺にひかれ、秋という人を忘れてしまう自分への戒め。…そして…
    あの日しゅうが、『泣かないで』と郁に言った言葉は、秋という人の最後の言葉だったそうだ。
    彼はその言葉を残し、郁を残して一人旅立った。
    最後に郁は俺への手紙を、こう締め括っている。
    【あなたへの想いは決して秋の代わりではなく…嘘は無かった。傷付けて…ゴメンなさい】と…。しゅうは静かに目を閉じ、封筒に手紙をしまおうとした。
    “…あ‥‥”
    まだ何か入ってる。
    【それ】を手に取ると、柊はクスッと穏やかに笑った‥‥。

    2005-06-09 12:40:00
  • 68:

    ーこうして郁の…長い長い黄泉送りは…静かに幕を閉じたー

    2005-06-09 12:41:00
  • 69:

    いつもの3人が集まる
    あれからも、その関係は変わらない。
    ただ、あれから何が変わったかと言えば‥‥。
    「あ、ねぇ…しゅう!動いたっ…!!」
    華が幸せそうに笑う。
    『俺に似ればいいなー』大きなお腹をさすり言う。
    「ばかっ!渉に似たらぶっちゃいく決定だよ!」
    “華…言いすぎだよ?”
    「絶対女の子がいい」
    そう…。あれからすぐに、華と渉は結婚した。

    2005-06-09 12:42:00
  • 70:

    華のお腹には今、小さな命が宿ってる。
    俺達は二十歳の夏を迎えようとしていた。

    流はというと、
    相変わらず林檎の木を見上げる日々だ…。
    挙げ句の果てには木登りまでしてるらしい…。
    理解に苦しむ?

    2005-06-09 12:43:00
  • 71:

    最近では、林檎の木の根元で拾った子猫に夢中。
    名前はウリエルだそうだ。
    いつも一緒のメロメロぶり…。親バカだね…?
    そう言えば、流に一本取られた事が今でも悔しい。

    2005-06-09 12:44:00
  • 72:

    俺はと言うと…。
    【プルルルル‥‥】
    『…うん。…分かった。あそこで‥‥』
    あの小さなバス停で、俺は‥‥愛しい人を待つ。
    バスが止まり走り去った
    「柊…会いたかった」
    真直ぐに俺を見つめて泣く女性を、力一杯抱き締めた。
    あのノートはもういらない。
    『郁…愛してる…』

    2005-06-09 12:45:00
  • 73:

    あの日、郁から受け取った封筒には、携帯が入っていた。
    声が出るようになれば、電話してこいってメッセージ…。
    後から聞いた話によれば、流のアイデアだそうだ。
    そうでもしなきゃ、俺が努力しないから…だってさ。
    やられた?

    2005-06-09 12:46:00
  • 74:

    郁は秋を忘れなかった自分を責めてたけど
    関係ないよ…。
    忘れなくていい。郁が忘れたら、秋という人が生きていた事が消えてしまう気がするから…。
    俺は全部ひっくるめ郁を愛する事に決めた…。
    人を愛するってそういう事だと思うから。
    今年は2人できっと…
    ー月明かりの下…あの小さな船を浮かべるだろうー

    2005-06-09 12:46:00
  • 75:



      《おわり》

    2005-06-09 12:47:00
  • 76:

    読んで下さって有難うございました?
    女同士のプライド。誰かを好きだと知りながら、愛する気持ち。好きな気持ちは時に狂気に変わる事。
    自分の気持ちをいっぺんに詰め込めた気がします?
    ありがとうございました?

    2005-06-09 12:48:00
  • 77:

    雪弥:04/8/29 00:03  (旧掲示板)

    2005-06-09 12:49:00
  • 78:

    名無しさん

    やっぱ何回読んでもいい泣

    2005-06-17 07:27:00
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