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月明かりの船

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  • 1:

    雪弥

    もうすぐ夏が終わる…

    出会いは雨だった…。
    あの小さなバス停…覚えてる?

    あの日から、俺の大切な場所になったんだ…。

    2005-06-09 11:39:00
  • 35:

    そんな事考えた事もないし、そんな風に聞かれたのも初めてだったけど
    『俺は…信じるかな』
    と言った。流の影響かな?郁は涙声で言った。
    「私、一年前に…大切だった人を亡くしたのね。」
    しゅうはだまって聞いた。郁が淋しそうに笑う。
    「救ってあげれなかった…。私まだ…彼に縛られてるのかもしれない…」
    線香花火がポトっと静かに落ちた。

    2005-06-09 12:10:00
  • 36:

    「柊くんと同じ名前だったよ…。彼は“秋”だから漢字は違うけどね。雰囲気もそっくりで…びっくりしちゃった。」

    しゅうは【ズキン】と胸が痛かった。
    郁が自分に向ける笑顔も、自分を呼ぶ声も、自分を擦り抜けていたのか?
    郁が見ていたのは…自分に重ねた、秋の幻・・・?
    それなら残酷すぎる…。
    郁は何かを言ってたけど、耳には入らなかった。

    2005-06-09 12:11:00
  • 37:

    この時初めて、しゅうは郁を女のコとして見ている自分に気付く。
    でもまだ引き返せる。
    まだ恋じゃない。
    しゅうは、そう思うしかなかった。
    そして、郁の鎖は郁にしか外せないと思った。
    郁はしゅうにこの話をした真意を伝えたが
    その時のしゅうには、耳に入らない。しゅうは大切な事を聞き逃した。
    そして2人はすれ違う。

    2005-06-09 12:12:00
  • 38:

    郁が最終のバスに乗った後、しゅうは一人海に居た。どうしても帰る気にはなれなかった。
    ボーっとしていると、ぼんやりした光が目に入った。ふと見ると、
    ロウソクを乗せ、特別な紙で作られた小船を海に流す人がちらほら居た。

    ーそう言えばお盆も終わりだー

    2005-06-09 12:13:00
  • 39:

    小舟を海に流すのは、この村に昔から伝わる行事…
    【黄泉送り】
    お盆には死んだ人の魂が帰ると言う…。
    お盆が終わる頃、魂を小舟で海に帰すらしい。
    秋と言う人もまた、
    郁の元へと帰っているのだろうか…。
    参った。死んだ奴に勝てる訳がない・・。
    自分の気持ちも、あの小舟のように…溶けて無くなればいいのに…。

    2005-06-09 12:14:00
  • 40:

    初めての感情は、自分が自分じゃない程に女々しく…そして・・。
    滑稽だった。
    決して叶わない…。
    郁への気持ちは恋なのか?
    これが恋なら…
    こんな気持ちになるのなら、知らない方が…気付かない方が良かった。
    誰もがそう思うのだろうか…。

    2005-06-09 12:15:00
  • 41:

    いつまでもこんなとこに居る訳にもいかず、家に戻ると、いつもの三人が集まっていた。
    「どこ行ってたん?」
    渉が言った。
    「分かった!海だ☆」
    華の言葉に笑顔で
    【こくん】と頷いた。
    渉と華はどうやら仲直りしたらしい…。
    楽しい。友達が居ればいい…。だけどその気持ちとは裏腹に、
    認めたくなかったが、郁の事が頭から離れない自分が居た。

    2005-06-09 12:16:00
  • 42:

    しゅうはいつもより早いペースで酒を飲む。
    華は複雑な顔だ。
    しゅうは、華の異変に気付かなかった。
    いつもと違うしゅうの様子で流は
    【何かあったのか】と悟ったようだったが。
    渉と華の手前、黙って飲んだ。

    2005-06-09 12:16:00
  • 43:

    しゅうは久々に潰れ、寝てしまった。
    【…郁…】寝てる時ですら頭の中に郁が居る。楽になる事はないのか…。
    眠るしゅうの唇に何かがそっと触れた…。
    ・・・が。
    しゅうは何も知らず眠る。華は真っすぐにしゅうを見つめた。
    …朝になり、空き缶の転がる部屋で目を覚ます…
    珍しく、誰も居なかった。“昨日のは…夢?”華の行動は【夢】としてしゅうの中に残った。

    2005-06-09 12:17:00
  • 44:

    しゅうは、あのバス停に向かう。いつもの約束の場所・・・。
    ふと考える…このノートの空白が無くなった時…、俺と郁はどうなるのだろう?
    きっともう会う事は無いのだろう・・・。
    そんな気がした。
    バス停には郁が居た。
    何だかいつもと様子が違う。

    2005-06-09 12:18:00
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