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月明かりの船

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  • 1:

    雪弥

    もうすぐ夏が終わる…

    出会いは雨だった…。
    あの小さなバス停…覚えてる?

    あの日から、俺の大切な場所になったんだ…。

    2005-06-09 11:39:00
  • 5:

    しゅうも、そのコも頭からびしょびしょだ…。
    そのコはベンチに座って
    足をブラブラさせていた。
    しゅうは少し離れて座った・・・。
    無言の空間。
    雨の音が耳にうるさい。
    ・・・・
    女のコは「くしゅんっ」
    とくしゃみをした。

    2005-06-09 11:43:00
  • 6:

    しゅうは思い出したように、荷物をあさりタオルを差し出した。
    ふと見上げたそのコの目は、泣いていたのだろうか?潤んでキラキラしていた。
    「あ…。ありがとう」
    女のコは【にこっ】と笑うと頭を下げた。

    2005-06-09 11:44:00
  • 7:

    しゅうは【にこっ】と笑うと、少し離れ座った。
    “この辺のコなのかな?”
    『どこから来たの?』
    と聞きたかったが聞けなかった。
    ーしゅうは声が出ない病気だったから・・ー

    2005-06-09 11:45:00
  • 8:

    ふと友達の言葉がぼんやり浮かんだ。
    声が出なくなる前からの友達の流が言った。
    「しゅう彼女作らないのか?」・・・。
    『しゃべれないから』
    と手話をした。
    「しゅうらしいな…」
    と流は笑った。

    少し前までは声があったのに…そう。先天性ではなく事故が原因だった。

    2005-06-09 11:46:00
  • 9:

    しゅうはいつも、首を隠した。鉄パイプが刺さった跡があるから。
    見せるのが嫌だった。
    リハビリや治す意志、努力すれば声が戻るかもしれない…と医者は言った。
    でもしゅうは治そうとは思わない…耳は聞こえるから。手話が出来る今では不便でもないし・・。

    2005-06-09 11:47:00
  • 10:

    そんな事を思い出して、ぼーっとしていると
    しゅうの目の前にアメが1つ…。“?”不思議に思って見上げると
    【んっ】と女のコが手を出していた。受けとると
    「お礼っ☆」
    と女のコが笑った。
    “何でアメなんだ?”
    子供のような可愛らしい行動に、思わず笑ってしまった。
    しゅうは【ペコリ】と頭を下げた。

    2005-06-09 11:48:00
  • 11:

    「あのっ…良かったら、だけど名前教えて…?」
    しゅうは少し戸惑った。
    初めてしゃべれない事に、劣等感を感じた。
    彼女は、下を向き戸惑ってるしゅうに気付き、
    気遣ってか足をブラブラさせた・・。
    「雨…すごいね」
    彼女は空を見上げた。

    しゅうは何だか“悪い事しちゃったな”と思い荷物から、おもむろにノートとペンを取り出した。

    2005-06-09 11:48:00
  • 12:

    しゅうは、もたれていた後ろの壁を手で
    【コンコン】と叩き
    彼女にノートを見せた。
    『柊ーしゅうーです』
    彼女はびっくりしていた。「…うそ。こんな事って…あるの…?」
    彼女はぼそっと呟いた。
    『どうかした?』
    彼女は【はっ!】とし
    笑顔でつくろった。
    「あっ!ううん、何でもないよ」

    2005-06-09 11:49:00
  • 13:

    この時何故か、しゅうは何も聞かない方が良さそうだと思った。
    「私の名前は郁ーいくー」

    「あなた・・・、まさか声が…?」
    しゅうは【にこっ】と笑いながらペンを走らせる
    『“あなた”じゃなくて、しゅうだよ!うん…声は出ないんだ…』
    郁は黙って下を向いた。
    覗きこんだその顔は、今にも泣きそうだった。
    しゅうは慌ててペンを走らせた

    2005-06-09 11:50:00
  • 14:

    『泣かないで…?』
    その言葉を見た瞬間、郁は両手で顔をおおい、泣いてしまった。
    “あれ…?泣かせてしまった…?え…俺?”
    何て言えばいいのか、言葉が浮かばない。
    オロオロするばかりだ。
    今思えば郁は誰かに話を聞いてほしかったのだろう。だけど郁の涙の本当の意味など、この時のしゅうには知るよしもない。

    2005-06-09 11:51:00
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