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月明かりの船

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  • 1:

    雪弥

    もうすぐ夏が終わる…

    出会いは雨だった…。
    あの小さなバス停…覚えてる?

    あの日から、俺の大切な場所になったんだ…。

    2005-06-09 11:39:00
  • 41:

    いつまでもこんなとこに居る訳にもいかず、家に戻ると、いつもの三人が集まっていた。
    「どこ行ってたん?」
    渉が言った。
    「分かった!海だ☆」
    華の言葉に笑顔で
    【こくん】と頷いた。
    渉と華はどうやら仲直りしたらしい…。
    楽しい。友達が居ればいい…。だけどその気持ちとは裏腹に、
    認めたくなかったが、郁の事が頭から離れない自分が居た。

    2005-06-09 12:16:00
  • 42:

    しゅうはいつもより早いペースで酒を飲む。
    華は複雑な顔だ。
    しゅうは、華の異変に気付かなかった。
    いつもと違うしゅうの様子で流は
    【何かあったのか】と悟ったようだったが。
    渉と華の手前、黙って飲んだ。

    2005-06-09 12:16:00
  • 43:

    しゅうは久々に潰れ、寝てしまった。
    【…郁…】寝てる時ですら頭の中に郁が居る。楽になる事はないのか…。
    眠るしゅうの唇に何かがそっと触れた…。
    ・・・が。
    しゅうは何も知らず眠る。華は真っすぐにしゅうを見つめた。
    …朝になり、空き缶の転がる部屋で目を覚ます…
    珍しく、誰も居なかった。“昨日のは…夢?”華の行動は【夢】としてしゅうの中に残った。

    2005-06-09 12:17:00
  • 44:

    しゅうは、あのバス停に向かう。いつもの約束の場所・・・。
    ふと考える…このノートの空白が無くなった時…、俺と郁はどうなるのだろう?
    きっともう会う事は無いのだろう・・・。
    そんな気がした。
    バス停には郁が居た。
    何だかいつもと様子が違う。

    2005-06-09 12:18:00
  • 45:

    ‥‥郁は泣いていた。どうしたの?といくら聞いても、郁は首を横に振るだけだった…。
    泣きじゃくる郁の姿が、痛々しくて、しゅうは郁を抱き締めた。
    「柊君…しゅ…う君」
    郁は両手をしゅうの背中に回し、泣きながら何度も…何度もしゅうの名前を呼んだ。
    このまま郁の心を奪い去れたら、どんなにいいだろう‥‥けど出来る訳がない。そうだろ?
    分かってる。分かってるよ。どんなに望んでも郁は幻を見続けるんだろ…。

    2005-06-09 12:19:00
  • 46:

    郁は何も話さない‥‥そしてしゅうもまた、何も聞かなかった。
    重い口を開いた郁から出た言葉は・・・。
    「帰りたくない」だった。
    ・・・・。
    しゅうは少し考えた後
    『うちに来る?』
    と言うと、郁は静かに頷いた・・・。

    2005-06-09 12:20:00
  • 47:

    郁はまだ泣いていて、しゅうの横を下を向きトテトテ歩く。
    海沿いの道は昼間という事もあり、車の通りが少しあったから、郁を内側に歩かせた。
    並んで歩くと、少し手が当たった。そんな事でもドキドキしていた。不覚だ…。
    歩く早さが違うので、郁がしゅうの服のはじをそっと掴んだ。

    2005-06-09 12:21:00
  • 48:

    しゅうは、その小さな小さな郁の仕草に気付いた。
    “郁は今…俺を頼りに歩いてる…”
    そんな気がした。
    立ち止まって、振り返り郁を見る。郁は【ぱっ】とスソを離した。
    “やっぱ…子供だ”
    しゅうは【クスッ】と笑った。
    ー秋の代わりでも…構わないー
    しゅうは郁の手を強く握る。2人は歩き出した。
    お互い下を向きながら…。

    2005-06-09 12:22:00
  • 49:

    郁もしゅうも何も話さない・・・。
    手を繋ぎ無言で歩く。
    何度も歩いた海沿いの道なのに、とても長く感じた・・・
    あの日、初めて会った雨の日のバス停を思った。
    あの時の無言とは、全てが違う。
    海がキレイ…風に舞う葉っぱがキレイ…空が‥‥キレイ。
    そして初めて思った。
    ーこのまま…時が止まれば…いいとー

    2005-06-09 12:23:00
  • 50:

    部屋に上がると郁は、【チョコン】と座った。
    緊張してるのか、キョロキョロしている。
    冷蔵庫から缶ジュースを出し、郁に渡した。
    「ありがとう☆」
    その日初めて郁が笑った。『やっぱり郁は笑った顔が似合う』
    そう言って笑うしゅうを見て…ふいに郁が抱きついた。
    ノートがしゅうの手から静かに落ちた…。
    その日…初めて女のコに触れた‥‥。愛しさで、涙が出るなんて…知らなかった。

    2005-06-09 12:24:00
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