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月明かりの船

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  • 1:

    雪弥

    もうすぐ夏が終わる…

    出会いは雨だった…。
    あの小さなバス停…覚えてる?

    あの日から、俺の大切な場所になったんだ…。

    2005-06-09 11:39:00
  • 45:

    ‥‥郁は泣いていた。どうしたの?といくら聞いても、郁は首を横に振るだけだった…。
    泣きじゃくる郁の姿が、痛々しくて、しゅうは郁を抱き締めた。
    「柊君…しゅ…う君」
    郁は両手をしゅうの背中に回し、泣きながら何度も…何度もしゅうの名前を呼んだ。
    このまま郁の心を奪い去れたら、どんなにいいだろう‥‥けど出来る訳がない。そうだろ?
    分かってる。分かってるよ。どんなに望んでも郁は幻を見続けるんだろ…。

    2005-06-09 12:19:00
  • 46:

    郁は何も話さない‥‥そしてしゅうもまた、何も聞かなかった。
    重い口を開いた郁から出た言葉は・・・。
    「帰りたくない」だった。
    ・・・・。
    しゅうは少し考えた後
    『うちに来る?』
    と言うと、郁は静かに頷いた・・・。

    2005-06-09 12:20:00
  • 47:

    郁はまだ泣いていて、しゅうの横を下を向きトテトテ歩く。
    海沿いの道は昼間という事もあり、車の通りが少しあったから、郁を内側に歩かせた。
    並んで歩くと、少し手が当たった。そんな事でもドキドキしていた。不覚だ…。
    歩く早さが違うので、郁がしゅうの服のはじをそっと掴んだ。

    2005-06-09 12:21:00
  • 48:

    しゅうは、その小さな小さな郁の仕草に気付いた。
    “郁は今…俺を頼りに歩いてる…”
    そんな気がした。
    立ち止まって、振り返り郁を見る。郁は【ぱっ】とスソを離した。
    “やっぱ…子供だ”
    しゅうは【クスッ】と笑った。
    ー秋の代わりでも…構わないー
    しゅうは郁の手を強く握る。2人は歩き出した。
    お互い下を向きながら…。

    2005-06-09 12:22:00
  • 49:

    郁もしゅうも何も話さない・・・。
    手を繋ぎ無言で歩く。
    何度も歩いた海沿いの道なのに、とても長く感じた・・・
    あの日、初めて会った雨の日のバス停を思った。
    あの時の無言とは、全てが違う。
    海がキレイ…風に舞う葉っぱがキレイ…空が‥‥キレイ。
    そして初めて思った。
    ーこのまま…時が止まれば…いいとー

    2005-06-09 12:23:00
  • 50:

    部屋に上がると郁は、【チョコン】と座った。
    緊張してるのか、キョロキョロしている。
    冷蔵庫から缶ジュースを出し、郁に渡した。
    「ありがとう☆」
    その日初めて郁が笑った。『やっぱり郁は笑った顔が似合う』
    そう言って笑うしゅうを見て…ふいに郁が抱きついた。
    ノートがしゅうの手から静かに落ちた…。
    その日…初めて女のコに触れた‥‥。愛しさで、涙が出るなんて…知らなかった。

    2005-06-09 12:24:00
  • 51:

    俺の隣に今…郁は居ない。
    【サヨナラ】とだけ書かれた紙を、俺はまだ捨てる事が出来ないんだ…。
    ねぇ…郁‥‥。
    郁は今、何を思ってる?
    花のように笑ってるかな?…それとも‥‥今も一人で泣いてる…?
    ねぇ郁…。あの時みた幸せは、
    郁がくれた…夢…?
    神様…お願いだから…俺から郁を奪わないで‥‥。
    ーしゅうはその日…初めて泣いたー

    2005-06-09 12:25:00
  • 52:

       《真実》
    郁は喉の渇きで目を覚ました。まだ真夜中…。
    となりには、しゅうが眠る。郁はしゅうの頬にキスをした。服を着るとしゅうを起こさないように、飲み物を買いに外に出た。
    ふと海が見たくなり、海岸に行くと、誰かが郁に声をかけた‥‥。
    『あなたが…、郁ちゃん?』
    キレイな女のコ…。どうして私を知ってるのだろう?郁が不思議そうに見ると、【クスッ】と笑った。
    『何でっ?て顔ね…あなたがしゅうの部屋から出てくるのが見えたの』
    「あなたは?」
    『アタシは華。しゅうの幼なじみなんだ』
    「初めまして。郁です」郁は【ぺこり】と頭を下げた。

    2005-06-09 12:25:00
  • 53:

    『流から聞いたんよ、あなたがしゅうの心に入りつつあるってね』
    郁は黙っていた。
    『あなた前の彼が忘れられないんだって?しゅうを彼の代わりにして満足?』
    郁は口を開こうとして【はっ】とした。
    華は泣きながら言った
    『アタシはっ…しゅうをずっと見てきた…』
    郁は息が詰まりそうだった。この人は…今、自分の目の前に居る女性は…プライドを捨ててまで、柊を想ってる…。
    『お願いっ…しゅうを‥‥取らないでっっ』華は両手で顔を押さえ、その場で泣き崩れた。
    郁は【ぐっ】と唇を噛み…目を閉じると静かに頷いた。

    2005-06-09 12:27:00
  • 54:

    郁は部屋に戻ると、小さな小さな紙に
    【さよなら】とだけを書き、幸せそうに眠るしゅうを見つめ…部屋を出た。
    バス停で始発のバスを待つ‥‥。ぐるりと改めてバス停の中を見渡した。
    思い出が溢れて回る…
    あの雨の音を…しゅうの横顔を…戸惑った姿を…。
    自分に向けた優しい…笑顔を・・・。
    【ポタッポタッ】郁の握りしめた手に涙が落ちた
    「ひっく…ひっ…ひっく…しゅ…うくん…」
    ーこんなハズじゃなかった…ー

    2005-06-09 12:27:00
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