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月明かりの船

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  • 1:

    雪弥

    もうすぐ夏が終わる…

    出会いは雨だった…。
    あの小さなバス停…覚えてる?

    あの日から、俺の大切な場所になったんだ…。

    2005-06-09 11:39:00
  • 51:

    俺の隣に今…郁は居ない。
    【サヨナラ】とだけ書かれた紙を、俺はまだ捨てる事が出来ないんだ…。
    ねぇ…郁‥‥。
    郁は今、何を思ってる?
    花のように笑ってるかな?…それとも‥‥今も一人で泣いてる…?
    ねぇ郁…。あの時みた幸せは、
    郁がくれた…夢…?
    神様…お願いだから…俺から郁を奪わないで‥‥。
    ーしゅうはその日…初めて泣いたー

    2005-06-09 12:25:00
  • 52:

       《真実》
    郁は喉の渇きで目を覚ました。まだ真夜中…。
    となりには、しゅうが眠る。郁はしゅうの頬にキスをした。服を着るとしゅうを起こさないように、飲み物を買いに外に出た。
    ふと海が見たくなり、海岸に行くと、誰かが郁に声をかけた‥‥。
    『あなたが…、郁ちゃん?』
    キレイな女のコ…。どうして私を知ってるのだろう?郁が不思議そうに見ると、【クスッ】と笑った。
    『何でっ?て顔ね…あなたがしゅうの部屋から出てくるのが見えたの』
    「あなたは?」
    『アタシは華。しゅうの幼なじみなんだ』
    「初めまして。郁です」郁は【ぺこり】と頭を下げた。

    2005-06-09 12:25:00
  • 53:

    『流から聞いたんよ、あなたがしゅうの心に入りつつあるってね』
    郁は黙っていた。
    『あなた前の彼が忘れられないんだって?しゅうを彼の代わりにして満足?』
    郁は口を開こうとして【はっ】とした。
    華は泣きながら言った
    『アタシはっ…しゅうをずっと見てきた…』
    郁は息が詰まりそうだった。この人は…今、自分の目の前に居る女性は…プライドを捨ててまで、柊を想ってる…。
    『お願いっ…しゅうを‥‥取らないでっっ』華は両手で顔を押さえ、その場で泣き崩れた。
    郁は【ぐっ】と唇を噛み…目を閉じると静かに頷いた。

    2005-06-09 12:27:00
  • 54:

    郁は部屋に戻ると、小さな小さな紙に
    【さよなら】とだけを書き、幸せそうに眠るしゅうを見つめ…部屋を出た。
    バス停で始発のバスを待つ‥‥。ぐるりと改めてバス停の中を見渡した。
    思い出が溢れて回る…
    あの雨の音を…しゅうの横顔を…戸惑った姿を…。
    自分に向けた優しい…笑顔を・・・。
    【ポタッポタッ】郁の握りしめた手に涙が落ちた
    「ひっく…ひっ…ひっく…しゅ…うくん…」
    ーこんなハズじゃなかった…ー

    2005-06-09 12:27:00
  • 55:

    その時から、しゅうはまるで脱け殻のよう…。
    次の日、華はしゅうの部屋を訪れた。
    【今ならば・・・・】…分かってる。華はやっちゃいけない事したって…。しゅう…ゴメン。でも、
    ーしゅうは渡さないー
    華は虚ろにうなだれ、座るしゅうにキスをした。
    しゅうは反応しない。彼の目はただただ…孤空を描くだけ‥‥。彼の瞳は郁の幻をうつすだけ…。華は愕然とした。
    「そんなに…あのコがすき?」しゅうに反応は無い。冷たい瞳からは涙が出るだけだった。華は現実を目のあたりにし、黙って部屋を出るしかなかった。
    しゅうは出ていく華を見なかった。うなだれたまま…。

    2005-06-09 12:28:00
  • 56:

    愚かだった‥‥。
    柊から郁を遠ざければ、手に入ると思った。
    郁の幻を追う彼は、華にとって、手の届かない遠い存在となった。
    しゅうの気持ちが初めて理解できた気がした。
    今のしゅうと同じように、幻を追う郁の姿…
    しゅうにとって、目に映る全てが酷だっただろう…
    その現実を乗り越えたしゅうに、郁を失う事で開けた穴はきっと…
    絶望するには十分で、その苦しみは、自分の想像を遥かに絶するのだろう。全てが間違っていた…今ごろ気付いても‥‥…もう遅い。
    ー私は愚かだー

    2005-06-09 12:29:00
  • 57:

      《華の心》
    あの日…、偶然海に居た華は、見てしまった。
    郁としゅうが楽しそうに…花火をしているのを。
    しゅうの隣には自分以外の女のコが居る…。
    そんな事よりも、知ってしまった。
    郁が、しゅうの先に幻を見ている事を…。
    それでも、しゅうが郁を選んだ事が・・。許せなかった。…だから壊した。
    だけど罰って受けるんだな。分かってるの…郁ってコが悪いんじゃない…。
    だけど…しゅうが自分に笑いかける事は、きっともう無いだろう。そして渉もまた自分から離れて行くだろう。
    華が家に入ろうと渉と擦れ違った瞬間、

    2005-06-09 12:31:00
  • 58:

    渉が華の腕を掴んだ。

    「離して‥」
    『嫌だ‥‥!』
    「離してぇ!!」渉は華の腕をひっぱると、自分の胸に抱き寄せた。
    「…離し‥‥てぇ…」渉は首を強く横に振った。
    「どうしてよぉ…」華は最低だと言ってくれた方が楽だと思った。だけど、本当は分かってる。渉は華を手放したりはしない事を
    華は渉の自分への気持ちを知りながら、ずっと目を背けてきた。
    渉は泣きじゃくる華にキスをした。ふいに、しゅうの顔がよぎった…。華はそのまま静かに目を閉じた。

    2005-06-09 12:32:00
  • 59:

     《繋がった心》
    長い長いキス。
    渉が華の肩に両手をかけ、【ぐいっ】と離すと
    『やっぱ照れるわ…』と下を向き笑った…。「渉…あたし…」ふいに渉の手が華の口を塞ぎ、言葉をさえぎった。
    『今はまだ、心にしゅうが居てもいい…。でも』
    渉は真直ぐ華を見た。『絶対俺が一番になるから』
    「…わた…る」
    下を向き泣く華の頭を渉は優しく撫でた・・。“渉…たくさん傷付けてゴメンなさい…。少しだけ、あなたの優しさに…甘えてもいい?”
    『華…おいで…』渉は両手を広げると華を優しく包んだ…

    2005-06-09 12:33:00
  • 60:

    ふいに渉が華に聞いた
    『華…後悔した?』
    華は壁にもたれたまま、【ズズズ】とその場に座り込んだ、
    「…したよ…。」ぽつりと涙声でそう言うと、腕の中に顔を埋めた。
    『じゃあ、行こう!』
    「えっ?行くって何処に…」
    渉は華の腕を引っ張った
    「ちょっ…渉!?」
    『いーから!今俺らが出来る事、やろう!!』渉はそう言うと華の腕を掴んで走り出した。
    “アタシらが、今出来る事?”

    2005-06-09 12:34:00
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