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満月

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  • 1:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    彼女達は、ごく平凡に生きていた。あの満月の日までは。

    2006-01-18 09:44:00
  • 2:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    一人目 キョウコ
    「あーあ。真っ暗だ。」
    あたしは、一人ごとを言いながらため息をついた。
    会社を出ると、日はとっくに暮れていて、腕時計に目をやると九時を指していた。

    2006-01-18 09:49:00
  • 3:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    今日は、定時の五時に帰って風呂掃除をしようと思っていた。だが、お局に残業を押しつけられてしまい、こんな時間になってしまった。あたしは、もう一度深いため息をついて、駅までの道を歩き始めた。

    2006-01-18 09:55:00
  • 4:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    上京して、短大を卒業し、小さな広告会社に就職して今年で、四年。この土地に、来て六年になる。
    希望で胸ふくらませていた、都会での生活だった。

    2006-01-18 10:02:00
  • 5:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    六年前の自分は、希望と夢に溢れていた。
    しかし、今現在のあたしは、彼氏も夢も無く、雑用係りのただの平凡なOLだ。
    昔のあたしが、想像していない未来が、今の現実だった。

    2006-01-18 10:09:00
  • 6:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    コツコツコツ
    疲れたヒールの音が、今は、静まりかえっているオフィス街に響く。
    毎日、毎日、繰り返すだけの日々。つまらない仕事、わずらわしい人間関係、そして、なんの夢も持たない自分自身。

    2006-01-18 10:14:00
  • 7:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    秋が深まり、夜風が身に染みる季節になったせいだろうか?最近、こんな事ばかり考えてしまう。

    ジブンハナゼイキテルンダロウカ

    2006-01-18 10:17:00
  • 8:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    こんな、どこにでもいて、何も特技もなくて、誰かに必要とも特にされていない自分は、生きていて価値があるんだろうか?
    あたしは、ふと足を止めた。

    2006-01-18 10:20:00
  • 9:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    やけに、辺りがあかるいと思い、空を見上げた。
    「わぁ、キレイ。」
    あたしの真上に、黄身色の満月が、眩しく光輝いていた。思わず、目が奪われたくらい月は、キレイだった。

    2006-01-18 10:25:00
  • 10:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    月の光はやわらかく、あたしをなぐさめるかの様に、照らしてくれている。
    毎日、悲惨なニュースをテレビで見ている。テレビの中の現実に比べれば、あたしの悩みなど、贅沢なんだろう。

    2006-01-18 10:30:00
  • 11:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    しかし、あたしの今の現実は、本当につまらなくて、生きてる感じが、日毎に薄くなっている。
    このまま、日々をすごしていけば、あたしは、透明になって消えてしまうんじゃないかと、本気で考えてしまう。

    2006-01-18 10:36:00
  • 12:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    このままでは、駄目だと分かっているのに動く事が出来ない自分に苛立つ。
    いっそのこと、誰かにさらわれたりしないかと、妄想ばかりしてしまう。
    「帰ろう。」

    2006-01-18 10:39:00
  • 13:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    コツコツコツ
    あたしは、下を向き、とりとめのない思考を止めて、駅までの道を歩き始めた。考えても仕方ない。あたしは、この六年であきらめるのだけはうまくなった。

    ダレカアタシヲサラッテヨ

    2006-01-18 10:42:00
  • 14:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    ガン!!!

    「?!」

    ドサ!!!

    いきなり後頭部に、激痛が走った。あたしは、痛みに耐えきれず膝をついた。

    2006-01-18 10:46:00
  • 15:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    後ろを振り向こうとした。すると、黒い手袋をした手に後ろから、口を押さえられた。
    その瞬間あたしは、意識がとんでいく感覚に捕われた。
    とぎれとぎれの意識の中、誰かに担がれてるのが分かる。

    2006-01-18 10:49:00
  • 16:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    ぼんやりとした意識の中で、あたしは、最後に満月を見た。

    月は、ただやさしく光っていた。

    2006-01-18 10:52:00
  • 17:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    二人目 ミヤビ
    「ごめん、先帰るわ。」
    えー、帰んの?チサトの声を無視って、あたしはさっさとカラオケボックスから退散した。ざわつく繁華街に出ると、あたしは人込みに紛れ、あてもなく歩く。

    2006-01-18 11:47:00
  • 18:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    あたしは、歩きながら携帯を開いた。
    着信 母親 メール 0件
    ため息をつきながら、携帯の電源を切った。
    これ以上、期待をしてしまわない様に。あいつからの連絡を待ってしまう自分が、バカみたい。

    2006-01-18 11:54:00
  • 19:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    いつもなら、あたしはこんな時間に、制服で繁華街に来ない。
    チサトに、無理矢理連れてこられて、他校の男子にナンパされて、カラオケに行くハメに。それで、ぜんぜん楽しくないし、一人で逃げてきちゃった。

    2006-01-18 12:07:00
  • 20:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    チサトなりに、あたしに気をつかったんだろう。
    繁華街の喧騒を避け、あたしは路地に入った。ビルとビルの間の空間は、とても静かで、ノイズの様な音の渦は遠くなる。
    壁によっかかり、また、ため息をついてしまった。

    2006-01-18 12:14:00
  • 21:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    あたしは、今日彼氏と別れた。かなりの修羅場で。
    十七年生きてきて、あんな瞬間初めてだった。
    そして、あんな顔をしたあいつを見たのが初めてだった。
    チサトも、その現場にいた。だから、必要以上に元気づけようとしてくれたんだろう。

    2006-01-18 12:19:00
  • 22:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    無償に、ピアノが弾きたかった。鍵盤に集中してれば、何も考えずに済むから。コツコツと壁を、指で叩いてみる。普段なら、今の時間はピアノのレッスンの時間だ。母は、今日帰ったら激怒するんだろうな。

    2006-01-18 12:24:00
  • 23:

    ユキ ◆owsZ6N97vY

    母の怒った顔を思い出す、帰ろう。
    あたしは、振り返り元来た道を戻ろうとした。
    時間も、戻ればいいのに。あいつの、あんなところ見たくなかった。もう、やだ。思い出すと、涙が出そうになった。

    2006-01-18 12:30:00
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