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薔薇の花束

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  • 1:

    作者

    「過少評価をして得るものなんて、胡散臭いハゲじじいにヘラヘラ愛想振りまいて世間を渡る方法くらいでしょ。」
    受話器から聞こえる男の声は、相変わらず、冷たい。

    2005-11-30 13:22:00
  • 2:

    作者

    「自信をもちなさい。」
    さっきとは変わって、ゆったりとした、ポンと背中を押すような暖かさを感じる声だった。
    “かけなければ良かった”と思うのは、ほんの最初のうち。梨沙子は、蹴落としつつも決して突き放さない巧の言葉を聞く為に、週に一度はこうして電話をかけるのだった。

    2005-11-30 14:16:00
  • 3:

    作者

    「まあ、俺は梨沙子がスーパーモデルになろうと、売れっ子デザイナーになろうと、『私の恩師は瀬名巧です』なんて言って雑誌の一面を飾ってくれればそれでいいんだけどね。」
    「何言ってるの。」
    巧はくくくっと彼独特の癖のある笑い方をする。

    2005-11-30 14:25:00
  • 4:

    作者

    梨沙子はその笑い声を聞くと無性に懐かしい気持ちになる。昔から変わらない、意地悪で、しかし愛嬌のある彼独特の笑い方。
    駅に向かう道にある自販機で煙草を買おうと、梨沙子は立ち止まる。
    小銭を取出し、札入れに挟まったレシートを捨てようとレシートをつまむと、一枚名刺がくっついていた。

    2005-11-30 14:34:00
  • 5:

    作者

    『アウトソーシング企業 NETIA 代表取締役 瀬名巧』
    懐かしい気持ちはすっと消え、心に穴が空いてしまったかのような感覚がよぎる。梨沙子の思い出の中で、巧という存在だけがすっぽり抜け落ちてしまったかのような…
    昔のままでいたいと思う気持ちは我儘なのだろうか。

    2005-11-30 14:51:00
  • 6:

    作者

    時が経てば人は変わる。堕ちるものもいるだろう。しかし何故か梨沙子の周りには、名声を得た者が多い。巧はその中でも最も短期間で名声を得た男だった。
    「自信をもちなさい。」
    巧はもう一度言った。

    2005-11-30 14:59:00
  • 7:

    作者

    今度は少し低く、ハッキリと頭に残るような声。
    「これっぽっちの自信もない、なんて君は傲慢だよ。今まで梨沙子に憧れてきた女の子達が聞いたら、頭カンカンにして怒るか、はたまた失望するか。」
    梨沙子は黙ったまま携帯電話を握ったまま、ゆっくりと駅へ向かって歩く。

    2005-11-30 15:15:00
  • 8:

    作者

    「読者モデルなんて、一般人みたいなもんよ。そりゃあ、そこから飛びっきりのシンデレラロードをかけ登る人もいるけれど、私なんて今、雑誌の隅で精一杯にこにこ笑う事でも必死なのに。憧れてる女の子なんていないわ。」
    「また君はそういう言い方をする。“私なんて”って。でもしか教師の時代は終わってるんだよ。」

    2005-11-30 15:29:00
  • 9:

    作者

    受話器の向こうから、電話の鳴り響く音が聞こえはじめ、社員と思われる男女がおはようございます、と挨拶を交わしている声が聞こえる。
    「修平の結婚式、巧くんは行くの?」

    2005-11-30 19:34:00
  • 10:

    作者

    巧はああなんだ知ってたのと少し驚いて見せたが、ああとかそうかとか言いながら自分で納得していた。
    「仕事も押してる時期だからね。何とも言えないよ。」
    あえて梨沙子が行くのかは聞かない。瀬名巧という男は、優しい男だ。

    2005-11-30 19:42:00
  • 11:

    作者

    “どうしようもない奴だな”巧は思った。巧は修平のやり方が気に食わなかった。梨沙子が結婚式の話を知っているということは修平が招待状を送ったという事だ。
    あの日、あの晴れた夏の昼下がり、梨沙子は一度全てを失った。修平のせいで。

    2005-11-30 19:50:00
  • 12:

    作者

    いや、正確には修平のせいと言うと少し違っている。しかし修平には責任がある。巧はそう思っていた。
    梨沙子があの日の一件でどれだけ心に傷を負ったか。梨沙子を妹のように見守っていた巧にとって、彼女の痛みは自分自身のそれと何ら変わりないものなのだ。

    2005-12-01 02:42:00
  • 13:

    作者

    巧の恋人の志保とも仲の良かった梨沙子だから、休みの日に四人でテーマパークなんかに出かけたこともあった。
    修平や巧や志保から見ると二つ年下の梨沙子だが、その仕草や表情は十六歳にして色気を放つものがあった。大人に囲まれて仕事をしているせいか礼儀もあって、年下が苦手な志保にも「梨沙が初めての年下の親友ね」と可愛がられ、志保と巧が別れた後もよく二人で出かけていた。

    2005-12-02 21:08:00
  • 14:

    作者

    「忙しそうね。」
    女性社員が事務的に巧に内線を知らせる声を聞こえ、梨沙子は言った。最初の頃は大学の友人と副業の様な形で立ち上げたこの会社も、今では小さいながら自社ビルを構える程の規模にまでなった。
    「お陰様で。」
    余裕ぶった返答だが、それまでの努力は惜しみないものであったことは言うまでもない。

    2005-12-04 23:25:00
  • 15:

    作者

    電話を切った頃梨沙子は丁度駅に着いた。地元の小さな駅だけに、日曜の昼間だと言うのにも関わらず親子連れが一組と、若くて少し派手な女性がいるだけだ。
    携帯電話をショルダーバッグにしまい込む。目的地はここから数えて四駅の志保が一人暮らしをするマンション。そろそろ駅からマンションまでの道も覚えたし、今日は駅までの出迎えを断った。

    2005-12-04 23:40:00
  • 16:

    作者

    電車の中でコンパクトを覗き見る。少し伸びた、肩を過ぎるくらいの明るめの髪。第一印象がいつもキツく見られるのは幅の広い二重の、黒目がちな瞳のせいだろうか。
    薄く化粧をしても、どうしても濃くしているように見える顔立ちのせいで、普段から化粧はあまりしない。

    2005-12-04 23:51:00
  • 17:

    名無しさん

    ???

    2005-12-05 00:54:00
  • 18:

    名無しさん

    ….

    2007-09-07 04:19:00
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