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狐の嫁入り
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1:
名無しさん
私の経験談。嘘みたいな本当の話。 (旧掲示板のコピペです)
2005-08-01 00:28:00 -
44:
名無しさん
3月23日、無事祖父は83歳になった。良かった、今年も一つ年を取った。来年は?来年も年取る事は出来るんかな…。来年にはここには居ないのかな…。めでたいけど複雑な気持ち。誕生日だから、って理由でおじやに少しだけ酒を入れて味付けした。過去、酒飲みだった祖父は一度肝臓で手術をしていたので禁酒令が出ていたが、ほんの香り付け程度に酒を入れてあげた。「お母さんには内緒やで」
と私が言うと祖父は微笑みながら「美味しいわ、久しぶりの酒や…」
いつもより味わって食べている様に見えた2005-08-01 13:30:00 -
45:
名無しさん
予定の余命2ヶ月を乗り越え、少し安心したのか、私はもしかして治るかもしれん…と先行を明るく考えていた。この頃胸の痛みもあんまり言わないし、マシになってるかも!このまま頑張って私が治そう、そう思いながら今日も仏壇に手を合わせる。
『神様、本当に居るのなら我儘言うのは辞めますから、おじいちゃんを助けてあげて下さい。100まで生かして下さい。花嫁姿も見て貰いたいです…』
毎日真剣にお願いしていた2005-08-01 13:31:00 -
46:
名無しさん
4月に入った。
春になった。病院までの道のりに桜並木があったので、近所に住む足の悪いおばあちゃんに頭を下げて車椅子を借りた。次の病院の日に桜見せてあげよう…と思ってたから。
病院の日、気持ちいいほど晴れていた。春風がさわさわ吹く、いい日だった。
「今日はなー、チャリの後ろよりか座る方が楽かなと思って車椅子借りてきてん」まだ肌寒いかもと膝にブランケットをかけ、帽子を被せて病院に向かった2005-08-01 13:32:00 -
47:
名無しさん
チャリなら10分の道のりが車椅子だと30分かかった。慣れない車椅子を押しながら散歩もかねて、急ぐ必要は無いな、と話しながらゆっくり桜並木で車椅子を押した。
サーっと風が吹くと、これが本当の花吹雪。桜が綺麗に舞う。こんな光景、普段気付かずに通り過ぎているんだなぁ…と癒された。
「おじいちゃん、桜綺麗よなぁー。こんなじっくり見るん何年振りやろー」
押しながら話した。「昔はな、もっと桜があってな、春の花見が楽しみやってんで。酒浴びてな…」酒飲みならではの楽しみだったんだろう、しわしわになりながら祖父は笑顔だった2005-08-01 13:33:00 -
48:
名無しさん
病院に着き、祖父が点滴を受けている間に先生と二人で話した。
「先生、最近ね、胸が痛いって言わないねん。もしかして治る?治ってるから痛く無いんやないん?」嬉しかったから私はちょっと興奮気味に言うと、先生は
「…違うんよ。モルヒネで麻痺し切ってるから痛く無いねんよ、だいぶ進んでるわ。今月中かも…しれへんね」
…そうなん?進み切ってるから、痛く無いだけなん?現実を知って、ショックだった。「本当は痛いかもしらへんけど、おじいちゃん我慢してはるかもしらへんよ。孫が世話してくれるから有難いってさっき言うてたし、よくしてあげてるみたいやね、頼むよ」2005-08-01 13:36:00 -
49:
名無しさん
点滴が終わるまで、待ち合いで一人座りながら、沈んでいた。今月中が危ないかもしれん…早く、出来る限りの事をもっとたくさんしてあげなくては。何がしてあげれる?そればかり考えていた…。
「薫ちゃ〜ん、おじいちゃん点滴終わるよ〜」看護婦さんが呼びに来た。ボーっとしていたのか、我に返った。
「あっ、はっ、はいっ」
点滴室に向かい、祖父の手を取り、階段を下りる。顔見知りのおばあちゃんが、「ええねぇ、優しいお孫さんで。うちの孫なんか肩も貸してくれへんのよ…」
淋しそうな顔をして言った。
「自慢の優しい孫ですねん。今日は桜見るのに車椅子押してくれましてん」
孫馬鹿になっていた2005-08-01 13:37:00 -
50:
名無しさん
略
「自慢の優しい孫ですねん。今日は桜見るのに車椅子押してくれましてん」
孫馬鹿になっていた2005-08-01 13:38:00 -
51:
名無しさん
照れながら、「おばあちゃん、恥ずかしいだけでほんまはおばあちゃんと仲良くしたいって思ってはるってー」と私は元気付けのつもりで答えた。
「そうやといいわねー。ありがとうね、今日孫の顔見に行って見るわ」とおばあちゃんはニコニコしていた。
自分のたわいも無い言葉で誰かが笑ってくれるってくすぐったい様な、むずむずする感じがした。帰りも桜並木をゆっくり押しながら帰った。
これが一緒に見た、最後に見た桜だった。本当に綺麗だった2005-08-01 13:39:00 -
52:
名無しさん
4月、半ばにかかると言われていた様に容態の悪化が手に取る様に見えた。呼吸が尚辛そうになった。不要だった紙オムツを使う様になった…。食事は流動食になった。桜を見てから僅か10日後には、見るも無惨に体は痩せていた…。
「か……る」
私の名前を呼ぶにもかすれてしまい、聞取りにくい。布団の距離を近くして、手をベッドから下げたら届く様にした。寝ているのか、起きているのか解らない程、呼吸が途切れたり激しかったり…。かすれながら祖父は
「おじいちゃん…もうあかん…のやろな…かおる…ちゃんと仏壇掃除してや…おじいちゃん死んでも…頼むで…」2005-08-01 13:40:00 -
53:
名無しさん
そんなん言わんといて…もっと一緒におって…。
「しんどかったら喋らんでいいねんで…痛い?薫が変わってあげたい…ゴメンなぁ…」何故か泣いてしまい、祖父は震える手でゆっくり私の頭を撫でた。ごつごつした大きかった手は、骨と皮だけの手に変わっていた。ゆっくり、ゆっくり撫でてくれた。
「かおるには…面倒かけ…たなぁ。もうおじいちゃんが死んだら…楽になるから…もう少し、…頼むな…」
益々涙が込みあげた。頭を撫でて貰いながら、泣いた。祖父は微笑んでた。2005-08-01 13:41:00