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大阪心中24時50分

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  • 1:

    NN

    携帯電話ってものが存在してるのに 人と人の距離は全く埋まりそうにない それどころか日々遠のいているような感覚にさえなる どうしてだろう どうして携帯電話ひとつでここまでひどく憂鬱な気持ちになるのだろう 寂しい夜は 電話で声が聞きたいんじゃない 抱きしめたいんだと 強く思った

    2005-12-16 15:49:00
  • 61:

    NN

    「ホストみたいやね、田村くんて」「わかる?」は?配られたプリントが手から落ちる。「俺、ホストしとんねんーやっぱわかるー?」−ゲッ。ヤバイ。血の気が引く。ホストってことは風俗雑誌とか見てるのかもしれない。そこには毎週のように堂々と、あたしは顔出ししてる。「クラブヘブンって店やねんけど」コイツもしかしてあたしの正体を知ってる?心臓が音を立てる。「そうなんや」平然を装おうってことの難しさを知った。

    2005-12-20 01:05:00
  • 62:

    NN

    「よかったら来てや」そういってグッチの財布から、黒色をした名刺を出す。クラブ・へブン、田村カムイ。「本名でやってるん?」「そやで。」カムイ..そんな変な名前してたんだ。「何であたしに営業すんの?」言葉を裏返せばあたしの正体を知っているの?と言った。「何か同じ匂いがするから」そう言って田村は黒板に目を向ける。答えになってない。

    2005-12-20 01:06:00
  • 63:

    NN

    「田村っていうのよそうや。カムイでええよ。」「うん」短く返事をする。あたしは黒の名刺を裏向けにして、乱暴に財布の中に詰め込む。「名刺、大事にしてや。その名詞は天国行きの切符やで」田村は笑った。あたしには、どうしてもこの名詞が天国行きの切符には思えなかった。名刺。カムイの笑顔。全部胡散臭くってたまらなかった。

    2005-12-20 01:08:00
  • 64:

    NN

    その日、ゆうちゃんは2限に現れた。授業中の教室に隠れるようにコソっと入ってきて、あたしに小さく頭を下げる。あたしはうつむいて小さく笑う。今日は仕事が休み。一緒に帰れる。そう思った瞬間、携帯電話が振動する。あたしは画面を見る。メール受信一件。「また遅刻や」同じ教室にいるゆうちゃんからメール。不意に笑いが小さくもれる。メール受信。些細なことで幸せになれる。2限が終わると、ゆうちゃんが何気なくあたしの席に近付いてくる。「にっしのちゃーん!」その様子を見てか田村が割り込む。邪魔者..正直にそう思った。

    2005-12-20 01:09:00
  • 65:

    NN

    「お前ら付き合ってるの秘密にしときや。」「えっなんでなん?」田村のむちゃくちゃな提案にゆうちゃんが驚きの表情を浮かべる。「クラスの奴らに茶化されたりしたらめんどいやーん!な、秘密にしとけ!3人の秘密な!」どうしてあんたが入って3人なんねん..そう思った。だけど確かに学校中に知れわたったらめんどくさいこともある、っていうのには納得した。「さすがホストやんな」あたしが小さくつぶやく。「何で?」田村がニッコリ笑う。「人を丸め込むのがすごく上手い。」そういうと、それは職業病ちゃうくって俺の性格やって、と、また笑う。何だかこの笑顔が全部作り物に見える。あの頃はカイムがいい奴なんだか悪い奴なんだか全然わからなくて、たまにうっとおしく感じてた。

    2005-12-20 01:10:00
  • 66:

    NN

    ↑すみませんカムイがカイムになってます訂正です↑

    2005-12-20 01:11:00
  • 67:

    NN

    だけど今考えればカムイもきっとあたしに似た気持ちを持ってホストって仕事に染まったんだと思う。カムイがあたしにつぶやいた言葉が今も脳裏に張り付く。「感情持って生まれてきたことに後悔してばかりして生きてきた。」と。クラブ・ヘブン。英語で天国。「絶望の中で必死に息をして至福の世界を求めて辿り着いたのがあの店、ヘブン。天国って意味やろ。単純な理由やねんけど。もしかしてここなら、って思った」ってカムイはあたしにいった。あの日カムイは天国を見たん?あたしはカムイがくれた天国行き切符、今も財布の中に入ったままだよ。

    2005-12-20 01:12:00
  • 68:

    NN

    その日学校が終わった後、別々に正門を出て、門裏で待ち合わせ。気持ち悪いぐらい胸がはずんでる自分に気がついた。今年2回目の雪が窓をうつ。地面に溶け込んで消えていく。かけ足で歩いてくるゆうちゃんが目に映る。黒いトレーナーに細身のGパン。明るい髪の毛に黒い色がとてもよく映える。「ごめん待たせて」「ええよ」そう微笑んで、抱きしめてくれる。寒さなんか吹っ飛ぶ。微笑んだ瞬間、ゆうちゃんの顔が近付く。あ、キス。そう思った瞬間、ゆうちゃんがあたしにつぶやく。「髪に雪ついてる」そういってあたしの髪から雪を落とす。優しい手で。何だキスがくるんだと思った。勝手にドキドキしてからまわりした自分が恥ずかしかった。

    2005-12-20 01:13:00
  • 69:

    NN

    ぎこちない仕草で手を繋いできたゆうちゃんにあたしが微笑む。あたしはずるい。わかってる。自分の影を隠して、まるで自分の影を雪みたいに溶かしてる。明日からはまた風俗嬢に戻らなくちゃいけない。この手を離しこの手を離れこの人に嘘をつきこの人の感触を忘れあたしは風俗嬢なのだからー..「ほんまに夢みたいやわ、ジュリちゃんと一緒にいることが」その日、ファミレス2人で語り合った。美容師になる夢を語るユウちゃんの目は輝いていた。「ジュリちゃんの夢は?」って聞かれてあたしは口ごもる。「考え中」と笑った。

    2005-12-20 01:15:00
  • 70:

    NN

    時計は22時過ぎていた。23時になるとあたしはゆうちゃんと手をつなぎ、ファミレスを出た。1人暮らししてるから家寄ってく?と聞くといいと断られた。何か誘ったように見えたかな、と、自己嫌悪に浸りながら静かに雪が降る道を歩いた。好きな気持ちが溢れてきてる。こんな気持ちになったことなかった。ゆうちゃんのことが好きだ。本当に好きみたいだ。「えーいいとこやなぁ」ゆうちゃんがマンションを見上げる。「いや、外観だけやから!中身はけっこう狭いねん」真っ白な8階建てのオートロックつきのマンション。18歳の1人暮らしには分不相応。だけどこのマンションが風俗店が用意してくれた寮です、とはいえるはずがない。

    2005-12-20 01:15:00
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