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『夢』

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  • 1:

    菜月 ◆KRWoIhunV2



    1995年1月26日―


    2005-09-21 12:33:00
  • 2:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    深夜3時15分、私は彼からの電話を待っていた。
    彼とは隣に住む幼馴染の【桜木 亮】
    物心がついた時から現在まで私達はもう15年の付き合いだった。

    2005-09-21 12:36:00
  • 3:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    親同士も仲が良く、小さいときからお泊りをしたりと常に一緒だった。
    何かあれば1番に気づいてくれるし、気づいてあげられた。
    お互いを守り救い、そして喧嘩もした。兄弟の様に育った私達だったが、
    男女として意識しだしたのは、今から5年ほど前だった。

    2005-09-21 12:40:00
  • 4:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    自然にその変化を受け止め、自然とそういう関係になった。
    やっぱりずっと一緒だった。これからもずっと一緒にいるだろうと思っていた。
    そして1995年1月26日―
    私は今日で18歳の誕生日を迎えた。

    2005-09-21 12:43:00
  • 5:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    毎年日付が変わると亮から電話があった。亮の「おめでとう。」
    を聞くためにこの時間まで起きて待っていたのだ。
    私の意識があったのはちょうど深夜3時30分をまわった時迄だった。
    いつの間にか深い眠りへと落ちていってしまった私は、
    長い長い【夢】の中へと入っていった。

    2005-09-21 12:46:00
  • 6:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    「・・・月!菜月っ!!」
    母親が慌しく部屋に入って来た。私はまだ眠い目を擦り時計を見た。
    「ぅぅ〜ん・・・まだ6時やん・・・」
    そう言って伸びをした私は亮の事を思い出し飛び起きた。

    2005-09-21 12:51:00
  • 7:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    急いで充電器にささったPHSを取った。
    だが画面にはいつもの待ち受けが虚しく緑色に光っているだけだった。
    今年は亮からの「おめでとう」が聞けなかった。肩を落とし落ち込む私に
    母は追い討ちを掛ける様に言った。

    2005-09-21 12:55:00
  • 8:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    「亮くんな、昨日亡くなったって・・・。」
    「もぉええってっ!」
    私はまた冗談を言って脅かそうとしているんだろうと思い軽くあしらった。
    すると母の鼻のすする音が聞こえ顔を見ると目には涙をためていた。

    2005-09-21 13:00:00
  • 9:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    母のその姿は冗談ではないのだと物語った。
    それでも信じられるはずがなかった。
    きっとまだ【夢】を見ているんだと思った。

    2005-09-21 13:03:00
  • 10:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    私は母に連れられ車に乗った。行く先は亮がいると言う病院だった。
    病院なんかに行ったって亮がいる訳がない。そう強く信じた。
    今日は私の誕生日―
    みんなが大掛かりで脅かそうと芝居をしているに決まっている。

    2005-09-21 13:07:00
  • 11:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    母は黙って運転をしていた。
    私は助手席から窓ごしに移り行く風景を無言で見ていた。
    車が止まりエンジン音が消えた。母は大きなため息を漏らし車から降りた。
    私も続いてドアを開けた。

    2005-09-21 13:12:00
  • 12:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    車から降りると大きな国立病院がそびえ立っていた。
    朝早いにも関わらず救急車が行き来をしていた。
    「亮何処におるん?」
    何処かで身を潜めて待っていると思いキョロキョロと辺りを見渡した。

    2005-09-21 13:14:00
  • 13:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    見つけたら怒ってやろうと思い、母を急かした。
    「何処おるんって?早く。」
    「・・・行こか。」
    母が重たそうに体を動かした。私は横に並び付いて行った。

    2005-09-21 13:16:00
  • 14:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    ウィーン・・・―
    表玄関の自動ドアが開く。
    パタパタと足早に歩く看護師さんがあちらこちらに見えた。
    エレベーターへ乗り地下1階へ降りた。そこは薄暗く廊下が長く伸びていた。

    2005-09-21 13:20:00
  • 15:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    私達の足音だけが響き鼓動を早くした。
    廊下の置くまで行くと亮の父親が頭を抱え込み椅子に腰を下ろしていた。
    私達に気づくとおじさんは立ち上がった。
    「なっちゃん・・・。」

    2005-09-21 13:22:00
  • 16:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    おじさんは一目で分かる程やつれていて目を真っ赤に腫らしていた。
    「・・・ゴクリ。」
    私はその姿を見て唾を飲み込んだ。そっと前に立つ扉の方に目をやった。
    中からは女の人のすすり泣く声が漏れてきていた。

    2005-09-21 13:25:00
  • 17:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    足を引きずる様にして踏み出し中へ静かに入った。
    「おばちゃん・・・」
    「・・・なっ・・ちゃんっ・・?」
    おばさんの目はうつろで今にも消えてしまいそうだった。

    2005-09-21 13:27:00
  • 18:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    部屋の隅にはお線香がたかれ、おばさんの目の前にはベットがあった。
    ベットの上には人形のように横たわる亮の姿が見えた。
    私はいまだ信じられず、そっと亮に近寄った。
    急に起き上がって、いつもの様に笑ってくれると信じて・・・。

    2005-09-21 13:30:00
  • 19:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    「亮?」
    「なぁ・・・亮って!」
    「早く起きやぁ・・」
    私は亮の髪の毛を撫でて呼びかけた。青白くなった顔に私の涙が落ちる。

    2005-09-21 13:32:00
  • 20:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    「ヒック・・亮っ・・ヒック・・うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
    私は泣き叫び涙も声も枯れてしまった。
    その後の少しの間の記憶が私にはなかった。
    放心状態になった私は病院で用意してもらったベットで横になりしばらくして
    家に帰ったそうだった。

    2005-09-21 13:37:00
  • 21:

    名無しさん

    頑張って?

    2005-09-21 13:59:00
  • 22:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    21さんありがとうございます☆
    頑張ります!

    2005-09-21 15:53:00
  • 23:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    その日亮は家に帰ったようだった。
    お通夜が行われ、家の前には黒い服を着た人が度々通った。
    中には見覚えのある友達もたくさんいたが、私は無感情のままそれを
    見ているだけだった。

    2005-09-21 15:56:00
  • 24:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    結局お通夜も翌日のお葬式にも私は行かなかった。
    ちょうど亮が焼かれ煙になり空へと向かっていっている時間だった。
    私は病院から家に戻って以来寝ていなかった為、
    ぐっすりと眠ってしまっていた。

    2005-09-21 16:00:00
  • 25:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    【夢】を見た―
    「菜月〜!菜月って?!」
    振り返ると亮がお腹を抱えて笑っていた。
    「亮?どこ行ってたん?!」

    2005-09-21 16:01:00
  • 26:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    「お前顔ドロドロやんけ!」
    「亮のせいやん・・・」
    「ごめん?ちょっと冗談が過ぎたなぁ〜。」
    亮はそう言って私の髪を触った。

    2005-09-21 16:02:00
  • 27:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    亮が死んだなんてやっぱり嘘だった。
    そう思うと安堵で余計に涙が出た。
    亮はそんな私を抱き寄せて言った。
    「ごめんな?誕生日おめでとう☆」

    2005-09-21 16:04:00
  • 28:

    菜月 ◆KRWoIhunV2


    気が付くとぼぉ〜と天井を眺めていた。
    私はさっきの事を【夢】だと気づかなかった。
    この時から私はまた亮とずっと一緒にいた。

    2005-09-21 16:08:00
  • 29:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    2週間くらい部屋にこもったままだった。
    それでも亮が毎日会いに来てくれた。私の中で【夢】と【現実】
    が入れ替わってしまったのだった。現実の世界で母と話す会話や食事、
    そう言ったものは全て【夢】だった。

    2005-09-21 16:09:00
  • 30:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    亮と一緒にいれる【夢】を現実だと思い込んだ。
    最初は母もあまり気にしていなかった。私のショックが大き過ぎて
    ただ現実逃避をしているだけだと思っていた。
    でもそのおかしな思い込みはいつまでも続いた。

    2005-09-21 16:13:00
  • 31:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    思い込みなんて言葉は少し違う。
    私にとってはそれが現実だったのだから・・・。
    ある日母が真剣な顔をしてやって来た。
    「菜月・・・いい加減目を覚まして、現実を受け止めなさい。」

    2005-09-21 16:15:00
  • 32:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    私は何を言われているのか分からなかった。
    それどころかおかしいのは母のほうだと思ったが、どうせ【夢】だし
    と適当に流した。でも母は諦めなかった。毎日のように「亮くんは亡くなったんよ?」
    と私に言って聞かせた。

    2005-09-21 16:18:00
  • 33:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    それでも全く聞き入れない私に母は病院へ連れて行こうとした。
    私はとても怖くなり部屋へ飛び込んだ。鍵を掛け布団に包まると
    亮が現れた―
    「菜月?どうしたん?」

    2005-09-21 16:20:00
  • 34:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    「亮・・最近へんな夢ばっかり見るねん。」
    私は亮に相談をした。亮は相変わらず優しく微笑んでこう言った。
    「どんな?」
    「亮が死んだ夢。」

    2005-09-21 16:23:00
  • 35:

    菜月 ◆KRWoIhunV2

    「そっか・・・。」
    「亮はずっと一緒やんな?」
    そう聞いたと同時に亮はいなくなった。

    2005-09-21 16:25:00
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