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≪風俗≫あたしにも価値はあると言って。。。≪ホストクラブ≫
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1:
自分のサイトで公開している小説です。
70%ぐらいはあたしの体験談です。
あまり上手とは言えませんが、
実際に風俗やホストの世界にいる方々に
読んでもらいたくてここに書くことにしました。2005-05-27 12:22:00 -
51:
五時二十五分になっていた。
六十分コースで、四時四十五分が案内時刻。
最後の十分間はシャワーと着替えに使うから、プレイの残り時間はあと約十分間だ。
勃起していたペニスをそっと両手で包み込んで、そっと亀頭を舐める。
肉の塊は、それに応えるようにしてあたしの手の中でぴくん、と震えた。
そのまま奥まで咥えしばらくフェラチオし、それからペニスをしごきながら玉袋や蟻の門渡り、肛門と隅々まで舐めた。2005-05-27 13:13:00 -
52:
途中で手と口の中が渇いてきたのでローションを垂らすと、途端に滑りがよくなった。
ローションは口の中に入っても無害だと言うけれど、ローションまみれのフェラチオはしたくないというのが本音だ。
このヌルヌルした感触はいつまでたっても好きになれそうもない。
あちこちをたっぷりと舐めたり触ったりしてから、あたしはさらに股間にローションを垂らして橋本の上に馬乗りになり素股を始める。
ヘルスでは本番行為ができないから、その代わりの疑似SEXだ。
決して膣には挿入せず、大陰唇や太もも、尻の肉などで上手にペニスを包み、上から手を添えて固定しながら腰を動かす。2005-05-27 13:14:00 -
53:
これまで足の開き方や手の添え方など少しずつ変えて色々な方法を試してきたけれど、騎乗位の体勢で背中を反らせて片手を後ろ側につき、尻の割れ目に挟むようにして上下に動かすのが客にとっては一番気持ちいいらしい。
「ああ、入ってるみたいだ。ユウナも気持ちいい?」
本当は尻の肉がこすれているだけでちっとも気持ちよくなどないが、適当にうなずいておいた。
素股は見た目以上にハードな運動なので、体力のないあたしの息が乱れてきているのを見て、彼は何か勘違いしているのかもしれない。
指の次は自分のペニスであたしのことを悦ばせてやった、とでも思うんだろうか。2005-05-27 13:15:00 -
54:
「ユウナ、いきそうだ。あっ、いくよ、いくよっ」
力任せに頭を押さえつける両手と、口の中でびくびくと震える異物と、喉の奥まで撒き散らされる生臭さと苦みに耐えながら、あたしは真宮を思い出す。
どんなことをされていても、真宮のことを考えているうちはいつも少しだけ苦痛も悲しみも和らぐような気がした。2005-05-27 13:17:00 -
55:
その日は橋本の他に本指名二本、写真指名三本、フリー一本についた。
ただでさえ閉店間際に入ったラストの客が延長したので、店の女の子の中であたしが一番最後に帰ることになった。
有線の消えた店内でギャラを受け取りながら、接客中は切っていた携帯電話の電源を入れてメールをチェックする。
手元の出勤表に目を落としたまま、店長が言う。
「ユウナちゃんは……っと、明日はお休みだな。また明後日よろしくね」
「あれ? あたし、明日休みなんですか? 出勤だと勘違いしてた」
店長が「出勤したいならしてもいいぞ」と笑ったので、あたしは慌てて首を振った。2005-05-27 13:18:00 -
56:
「ユウナちゃんはサービスいいから、お客さんの評判もよくって助かるよ。常連のお客さんにも安心して薦められるからな。本当に、体が空いたらいつでも出勤していいぞ、頼りにしてるんだからさ」
「明日は休みますー。あたし、ちゃんと定期的に休み取らないとがんばれないタイプなんですよ」
女の子の中には、借金の返済に追われていたりして一日でも多くシフトに入って休まず働きたいという子もいる。
月末が近くなると店で寝泊りし、朝から閉店までずっと働きずめの子もいる。
そんな子が少なくない中で、あたしのように「稼ぐこと」への執着が薄い人間は珍しい方だ、と自分でも思っている。2005-05-27 13:19:00 -
57:
この「ピンキードール」に入店して三ヶ月、あたしは今のところ一週間のうち最低でも五日は働いているが、1LDKのアパートの家賃や一か月分の生活費は一週間も働けば簡単に手に入った。
田舎町から出てきたばかりの頃に抱えていた借金もすぐになくなった。
雑誌に載っていた新作のバッグを買ってみたり、ふらりと立ち寄ったショップで店員に勧められるがままに洋服を買ってみたり、お洒落な美容室に行ってみたりしても、次の日にはお金は財布へ充填されて決して足りなくなることはなかった。2005-05-27 13:20:00 -
58:
そして残念なことに、貯金が増えることに対して、あたしは何の喜びも見出せないのだ。
お金なんか最低限あればいい。
家賃や光熱費が払えて、食べる物に困らなければそれでじゅうぶんだ。
――それじゃあ、あたしはどうして風俗嬢でいるのだろう?2005-05-27 13:21:00 -
59:
「お疲れ様でしたー」
携帯電話を片手に、店を出て階段を降りる。
新着メールが二件あった。
『ユウナ、今日もよかったよ! それにしても、いつも時間が経つのがあっという間だと思わない? 今度は外で会おう! そうすればお互いに時間を気にしないで楽しめるからね。 いい返事、期待してるよ』
橋本からのメールは、一読してためらわずに削除した。
前もってメールも電話も苦手なの、と伝えてあるから、返事をしなくても多分何とかなるだろう。
店外デートの誘いにはうんざりしている。
どうせ彼も、外でなら金を払わずにタダでやれる、とか思っているに違いない。2005-05-27 13:22:00 -
60:
湧き上がってくるどす黒い感情に気付き、同時に自分が恥ずかしく、悲しくなった。
彼は、あたしに会いたいと思ってくれている。
これまで何度も、この街に何百人といるであろう風俗嬢の中からあたしを選んで金を払ってくれた。
そして、もっと長い時間を一緒に過ごしたいと言ってくれる。
このあたしの体を求めてくれる。
その彼を嫌がる資格なんて、あたしにあるのだろうか。
ずっと、誰かに愛されたいと願ってきたくせに。
褒められ、認められ、必要とされたかったくせに。
どうして彼では、「お客」ではだめなんだろう。2005-05-27 13:23:00 -
61:
二件目のメールを見た。
翔からだった。
『そろそろ仕事終わったかなー? 俺はキャッチ中、今日もがんばるぜぃ! 昨日と同じところに立ってるから、よかったら顔見せてねー』
やっぱり翔からのメールは絵文字だらけだ。
最後にハートマークが付いているのは、彼の癖なのかもしれない。
そうだ、昨日買わなかった乳液を今日こそ買わなくちゃ。
あの交差点はどうせ通り道だから、翔に会って昨日のお礼を直接言おう。
ぎらぎらとネオンの光る大通りを歩いた。2005-05-27 13:24:00 -
62:
翔に会ったら、まず何て声をかけようか。
さっきまでの憂鬱な思いはどこかへ消えていた。
交差点が近づいてきたけれど、それらしき人影は見つからない。
黒いスーツの男は数人立っていたけれど、どれも彼ではなかった。
似たような背格好の男がいたのでじっと見てみたのに、偶然こちらを振り向いたその顔はまったくの別人だった。
翔はもう「Temptation」に戻ってしまったのかもしれない。2005-05-27 13:25:00 -
63:
がっかりしてそのまま横断歩道を渡り、深夜だというのに水商売風の女や酔っ払いの男たちで賑わっているコンビニで、乳液と脂取り紙、ついでに口臭予防のガムを手に取ってレジへ差し出した。
「九百四十円になりまーす。千円お預かりしまーす」
てきぱきと事務的に働く店員から釣銭を受け取っていると、横から一リットル紙パックのジュースが何本も入ったカゴが無造作に置かれた。
「あれっ、ユウナちゃんだぁ」
素っ頓狂な声。
カゴが置かれた方を振り返ると、黒いスーツに身を包み、癖のない真っ直ぐな金髪を眼の辺りまで垂らしている男の子がいた。
翔だった。2005-05-27 13:26:00 -
64:
「仕事終わったの? お疲れ様ー。俺のメール読んでくれた?」
店員はまたてきぱきと翔の置いたカゴの中身を取り出し、バーコードを読み取り始める。
「読んだよ、だから探したのに、外にいないんだもん」
わざと、少しだけ責めるような言い方をしてみた。
でも今日はもう会えないと思っていたのに、こんなところで偶然会えたことが何故か妙に嬉しくて、ついつい笑顔になってしまう。2005-05-27 13:27:00 -
65:
「ごめんね、買出しに来てたんだ。下っ端は大変なんだよー」
「下っ端なの? ホストになってどれくらい?」
「実はまだ十日目なんだ。ピチピチの新人だよ。だからこうしてパシリにさせられる……あっ、領収書下さい。名前はTemptationで」
苦笑いしながら代金を払う翔の横顔を、改めてまじまじと見つめた。
昨日は真宮に似ている目元ばかりが気になって気付かなかったけれど、翔の顔はとてもバランスよく整っていた。2005-05-27 13:28:00 -
66:
大きな目、濃くて長い睫毛、血管が透けて見えそうな白い肌。
すっと通った鼻筋に、ふっくら厚めの唇、とがった顎。
顔も体も線が細く、少し痩せすぎている気もするが、そこがまた陰のある雰囲気をかもし出していて魅力的だと思う。
女の子のような顔。いや、女の子よりよほどきれいかもしれない。
真宮もこんな中性的な顔立ちをしていたっけ。
あたしは、彼らのようなきれいな顔の男の人が好きだ。
今だってこうして翔の顔を見ているとそれだけで何だか幸せな気持ちになれる。2005-05-27 13:29:00 -
67:
「ありがとうございましたー」
感情のこもっていない店員の声。
翔がビニール袋に入れられたジュースを受け取って、二人で一緒にコンビニを出た。
「ユウナちゃんはもう家に帰っちゃうの?」
「うん、特に行くところもないから……」
「そうなんだ。じゃあ、ここでもう少しだけ話そうよ」
翔の言葉にあたしは嬉しくなった。
もっと彼の顔を見ていたかったし、あどけなさの残る彼の声を聞いていたかった。2005-05-27 13:29:00 -
68:
「うん、いいよ。だけど買出しに来てるのに、早くTemptationに帰らなきゃいけないんじゃないの?」
「うーん、店に怒られちゃうかな。でもせっかくユウナちゃんと会えたのに、もっと話したいなぁ」
これはきっとリップサービスだ。
ホストは、言葉で女を喜ばせるのが仕事なんだから、こんなセリフを真に受けちゃいけない。
そう心の中で自分に警告しつつも、彼は新人だと言っていたから、何年も働いているプロのホストとは違ってまだリップサービスなんてできないかもしれない、これは全部本音で喋ってくれているのでは、と都合のいいことも考える。
もしも本音なら、あたしもその好意に応えてあげたい。
彼が喜ぶ応え方は明白だ。2005-05-27 13:30:00 -
69:
「それなら、あたしもこれから一緒にTemptationに行くよ。そうすればもっと話していられるでしょ?」
「えっ、いいのっ?」
あたしの提案に翔は目を輝かせ、とても嬉しそうな顔を見せてくれた。
こちらの予想以上の眩しい笑顔、作りモノなんかじゃない、本当に心から喜んでいるとしか思えないその笑顔に、あたしの胸はみるみるうちに幸福感で満たされていく。
「本当にいいの? うわ、マジ嬉しいよー、マジありがとー!」2005-05-27 13:31:00 -
70:
彼の笑顔の理由はあたしと話ができるからではなくて、自分の成績が上がるからだということくらいは薄々わかっていた。
けれど、それでもよかった。
たとえ金の為だとしてもいい。
「ユウナちゃんありがとー! マジで俺嬉しいよー!」
翔は今この街で、こんなにも、あたしが存在することを喜んでくれているのだから。2005-05-27 13:33:00 -
71:
「いらっしゃいませー!」
今日もやはり「Temptation」の従業員たちの大声に出迎えられ、あたしはその大袈裟さに苦笑いしながら翔の後をついて店の中へと入った。
隣に座った翔から二回目以降の来店では自分のボトルを入れるシステムだと教えられ、ひとまず昨日飲んでいたものと同じ眞露という一番安い焼酎を頼む。
昨日とは別のホストが「いらっしゃいませ」と一言言いながら素早くボトルやグラス等を置いて去っていった。2005-05-27 13:34:00 -
72:
「このお店には、ホストは何人いるの?」
「バイトの人も合わせたら十五人ぐらいかな。俺みたいに、営業日は毎日出勤してるレギュラーは九人なんだ。ほら、あの左端の席にいる、グレーのスーツ着てる人が代表だよ」
酒を作る手を止め翔がマドラーでこっそりと指差した席では、ショッキングピンクのワンピースを着た小太りの女が隣に座るホストの肩にもたれかかりながら両手でマイクを握ってドリカムを歌っていた。
テーブルの上はそれぞれ形の違う何本ものクリスタルのボトルやつまみの皿がびっしりと並んでいる。2005-05-27 13:35:00 -
73:
「代表はね、この店ができてからずっとナンバー1を維持してるんだって。すごいよねー。俺も代表みたいなカッコいいホストになりたいんだ」
あまりじろじろと見ては失礼な気がしたので、向こうに気付かれないように横目で代表と呼ばれたホストを観察してみた。
彫りの深い顔立ち、がっしりした体格に日焼けした肌。
肩にかかるギリギリの長さの髪は茶色に染められ、ところどころにメッシュが入っている。
いかにも「昔、遊んでいました」風の外見だ。2005-05-27 13:36:00 -
74:
「カッコいいかなぁ? あたしは翔のほうがカッコいいっていうか、きれいだと思うけど?」
「えっ、マジで言ってくれてるの? そんなこと言われたことないから照れちゃうよー、でもすげー嬉しい!」
満面の笑みのまま翔からグラスを手渡され、乾杯をした。
それからしばらく昨日と同じようなたわいもない話をしながら、あたしは今日Temptationに来てよかった、と改めて思った。
翔は瞳をきらきらと輝かせて、無垢な少年のような顔で「ありがとう」や「嬉しい」の言葉をいくつもあたしにくれる。2005-05-27 13:36:00 -
75:
ホストクラブというところは、キザな男たちに囲まれ、その場限りの上辺だけの愛を囁かれ、お姫様のようにちやほやされる、どこかインチキ臭いところを想像していた。
けれど、このきれいなきれいな笑顔とまっすぐな感謝の言葉は、インチキ臭いどころか日頃あたしを取り巻く他の何よりも汚れなく純粋に思えたのだった。
「そうだ、ユウナちゃんは今日はお仕事どうだったの?」
翔がつまみのポッキーを二本取って一本を自分の口に運び、もう一本をあたしの口に入れてくれた。2005-05-27 13:37:00 -
76:
「ん、いつも通り、普通だったよ」
「嫌なこととかされなかった?」
あたしの顔を覗き込むようにして心配してくれた。
「大丈夫。慣れてるもん」
嫌なことなんか毎日されている。
というか、毎日嫌なことしかされない。
けれども、あたしは自分から風俗という仕事を選んだのだ。2005-05-27 13:38:00 -
77:
婚約者と別れるとき、彼は初めのうちこそ「金なんかいらない、お前と別れたくない」と言っていたけれど、最終的にはあたしの差し出す通帳を受け取った。
彼は男としての見栄やプライドより、金を優先したのだった。
その後あたしは勤めていた会社を退職し、スナックで働き始めた。
実家に帰ったら? とか東京や大阪へ出たら? とアドバイスを受けたけれど、あたしは真宮の住んでいるその小さな町から離れたくなかった。
その頃には、真宮に同じ職場で働く若く美人で有能な恋人がいるということは、あたしの耳にも届いていた。2005-05-27 13:39:00 -
78:
それでも、彼はたまに電話をくれて、ときどきは会ってくれたりもしたから、恋人がいるならなおのことあたしが離れるわけにはいかないと思った。
離れてしまったら、きっと、真宮とあたしのこのささやかな関係は何もかも終わってしまう。
もう二度と会えなくなる。
彼が恋人や多くの友人遠に囲まれて充実した毎日を送り、そうして遠くのあたしのことをあっけなく忘れていってしまう、それはどうしても嫌だったから、意地でもあたしは田舎町へしがみつこうとした。2005-05-27 13:40:00 -
79:
ホステスとして見栄えがするように服や靴を買い揃えたら、会社を辞めたときの退職金はきれいになくなった。
酒に酔っても帰りが辛くないように、とスナックのママに店の近くのアパートを紹介してもらったので、敷金やら何やらの費用を会社員時代に作ったカードのキャッシングで用意して支払って引っ越した。
返せない額ではないと思った。
半年ほどかけてホステスの給料からゆっくり返済していくつもりだった。
けれど、話下手で人見知りで器量もよくないあたしにホステスなど勤まるはずもない。
結局、たったの二ヶ月であたしは逃げるように店を辞めてしまった。2005-05-27 13:41:00 -
80:
ママから紹介されたアパートに住み続けるわけにもいかなくて、また引っ越さなければならなくなった。
寿退社するはずが直前で破談になり、そのままOLを辞めて水商売を始め、二ヶ月で店を逃げ出した女。
毎日平和で退屈で、話題に飢えている田舎町の人々の間で噂が広まるのはあっという間だ。
もう、真宮が住む町に、あたしの居場所はなかった。
負け組のあたしに残されていたのは、連日のストレスによる過食と買い物のために最初よりもさらに膨らんだ借金だけ。
失うモノは何もないって、こういう状況をいうんだろうか、とぼんやり思いながらATMへ行き、引っ越し費用を作るため限度枠ギリギリまで最後のキャッシングをした。2005-05-27 13:42:00 -
81:
賃貸情報誌を買い、大きく広告を載せていた東京の不動産屋へ電話をかけて保証人も敷金もいらない物件を紹介してもらい、そのまま入居を申し込んだ。
ついでに引っ越し業者にも電話をかけた。
真宮にも電話をかけた。
「そうか、うん、清美はそうした方がいいと思う」
「寂しいから行くなよ、とか言ってよ、そんなにあっさりされたら悲しいじゃない」2005-05-27 13:43:00 -
82:
冗談めかして言うと、真宮は落ち着いた声でゆっくり、はっきりとそれに答えた。
「寂しいよ。でもね、俺は、清美に幸せになってもらいたい。清美は、俺の大事な大事な妹だから」
たくさんの思いが溢れて涙声になりそうなのを必死に隠し、あたしは精一杯明るく聞いた。
「妹なら、また会えるよね?」
「会えるよ。だから、東京行ってもがんばるんだよ」
それが、最後の真宮との会話だった。2005-05-27 13:43:00 -
83:
「ユウナちゃんってさ、辛いこととかあってもあまり口にしないで自分の中で片付けちゃうタイプじゃない?」
ポッキーを食べる手を休め、翔はじっとあたしの目を見つめてくる。
「どうして?」
「俺、ホストになって、風俗で働いてる女の人もたくさん接客したけど、みんなすごくストレスを溜めてる人ばかりなんだ。その人によって度合いは違うけど、こっちから聞かなくても、みんな俺たちに仕事の愚痴とか不満とかぶつけてくるのが普通だよ。そりゃ、俺とユウナちゃんはまだ会うの二回目だから、気を使ってくれてるのかも知れないけどさー」2005-05-27 13:45:00 -
84:
「だって、それは」
言っても仕方のないことだから、と言おうとしたけれど、それでは何だかあまりにも翔のことを冷たく突き放すようだったのであたしは続きを飲み込んだ。
楽して稼げる――そんな仕事があるわけがない。
働いてお金を得るためには、ある程度の嫌なこと、憂鬱なことに耐えるのは当然だと思う。
そんなつまらないことでむやみに関係のない翔に愚痴を言ってせっかくの楽しく幸せなムードを壊したくない。
「ユウナちゃんはしっかりしてるんだね。偉いね」
あたしが黙っていると、ぽんぽん、と翔が頭を軽く撫でてくれた。2005-05-27 13:46:00 -
85:
彼は、もしあたしが愚痴を言っても嫌がらずに聞いてくれるのだろう。
辛い、苦しいと泣き言を言っても、それを受け止めてくれるのだろう。
ここにはあたしの居場所があるのだ、と気付いて思わず涙が出そうになる。
翔に気付かれないように手元のグラスへ視線を落とし、強くまばたきをした。
その日から、毎日のようにあたしはTemptationへ通った。
翔から誘われる日もあれば、あたしから行く日もあった。
話題はやっぱりゲームのことだったりドラマのことだったり、ごく普通のことばかりだったけれど、何度も会ううちに話の幅も広がってきた。2005-05-27 13:47:00 -
86:
いつも翔の顔はどこまでもきれいで、見ているだけであたしは幸せになってしまい、酒が回るにつれ何度も「カッコいいね」「きれいだね」と言っては彼に照れくさそうな顔をされた。
眞露を飲むのに飽きたら、たまにシャンパンを頼んだりもした。
そのたびに「すげー嬉しいよー、マジありがとー!」とその整った顔で眩しい笑顔を見せてくれる翔に、あたしは徐々に好意を持っていった。
真宮に対するような激しく切実な感情ではなかったけれど、ふんわりと淡く温かい思いがあたしの胸を占めるようになっていた。2005-05-27 13:48:00 -
87:
翔と出会って二ヶ月が経ったある日、「ピンキードール」へ出勤すると店長が苦笑いを浮かべて小声であたしに囁いてきた。
「待合室、見てみろよ」
言われた通りにマジックミラーをのぞくと、軽く見積もっても百キロはありそうな太った男が大きなバラの花束をかかえて座っていた。
ここ一ヶ月、週に一回、多いときは二回通ってきている客だ。
「あんなデカい花束なんか持ってきてどうしたんだろうな? ユウナちゃん、誕生日だっけ?」
あたしは首を横に振って、私物カゴを脇に抱えて個室に向かい、手早く部屋をセットした。2005-05-27 13:49:00 -
88:
カーテンの裏に立ち、店長に目で合図する。
「お待たせしましたー! ご案内です、ユウナちゃんでーす!」
のそり、と重たそうな体を持ち上げて、客が目の前に現れた。
咄嗟に顔には満面の愛想笑いが浮かび、口からは心でこれっぽっちも思ってもいないような女らしく可愛げのある言葉がするすると出てくる。
「マーくん、来てくれるの待ってたんだよー。今週会えないのかと思っちゃった」
公務員だと言っていた、三十九歳の独身男。
マサノブと言う名前らしいのだが、自分から「マーくんって呼んでね」と言ってきたので仕方なくそう呼んでいる。2005-05-27 13:49:00 -
89:
「寂しい思いさせてごめんなー、ちょっと仕事が忙しかったんだよ。でもユウナちゃんに会うために、今日は仕事途中で切り上げてきたんだ。ほら、これプレゼントだよ」
ベッドに腰掛けてその巨大な花束を渡された。
花の値段はわからないけれど、これだけの大きさの花束なら一万円近くはしたはずだ。
「ありがとう、でもこんなのもらっちゃっていいの?」
気を使う素振りをすると、男は脂肪だらけの見苦しい顔をにやりと歪め、歯垢のこびりついたままの歯を見せてきた。
「今日はね、二人の記念日にするつもりだから」2005-05-27 13:50:00 -
90:
「記念日?」
「そうだよ。ねぇユウナちゃん、俺達今日で出会って丸一ヶ月がたったじゃない? だから、そろそろ男と女として、ちゃんとお付き合いしようよ」
マサノブがその巨大なハムのような汗ばんだ腕をあたしの肩にまわし、強引に自分の方へと引き寄せた。
酸っぱい臭いが鼻をつく。
瞬間、強烈な嫌悪感が胸に湧き上がり、心臓は急にどくんどくんと嫌な動悸を始める。2005-05-27 13:51:00 -
91:
男と女として? お付き合い?
はぁ? 何言ってるの? と笑い飛ばすわけにはいかない。
この男はあたしの時間を買った客だ。
不愉快にはさせられない。
「なぁに、今日はどうしたの? マーくん酔っ払ってるのー? 酔ってるときは熱いシャワー浴びなきゃねー」
あたしは何とか話をそらさなければ、と焦りながら、目を合わさないようにしてマサノブのぐっしょりと湿ったYシャツのボタンを外そうとした。2005-05-27 13:52:00 -
92:
「ユウナちゃん、真面目な話だよ? ちゃんと聞いてよ」
彼はあたしの腕を押さえ、生臭い息を吐きながらまくし立て始めた。
「ねぇ、俺は初めて会ったときから、運命を感じてたんだ。こんないつも笑顔で心が優しくて素敵な女の子は他にいないってね。俺、風俗嬢としてじゃなくて、一人の女の子としてユウナちゃんを愛してるんだ」2005-05-27 13:53:00 -
93:
ベタベタした掌。
汚れがびっしりと詰まった黒い爪先。
ガサガサした唇。
生臭い息。
脂と汗でぎらぎらと光る顔。
いつも笑顔で優しいのは、お前が金を払った客だからだよ。
一人の女の子としてって何だ? 風俗嬢としてサービス中のあたししか見てないくせに、何わかったようなこと言ってるんだよ。
次から次へと罵詈雑言が浮かんできて、あたしはそれらを飲み込むのに必死だった。2005-05-27 13:54:00 -
94:
「俺達、相性ぴったりだと思うんだ。だから、ねぇ、今日こそは最後までしようよ。俺、ユウナちゃんと一つになりたい。ね、いいでしょ?」
あたしの手首をつかんだまま、彼は全体重をかけてあたしの上にのしかかってくる。
男にパンツを脱がされた。
彼は続いてごそごそと自分のズボンとパンツも脱いで、勃起したもの引っ張り出している。
胸が、お腹が圧迫されて苦しい。
変な角度で押さえられたままの右手首の関節が悲鳴をあげる。
太ももの付け根に硬いものが押し付けられる感触。
ああ、これはもう本番強要で部屋から叩き出しても許されるレベルだな、と冷静に思った。2005-05-27 13:55:00 -
95:
ヘルスではSEXはできない。
挿入を強要した時点で、ルール違反者としてサービスは中断、客はポラロイド写真を撮られ、場合によっては罰金を支払わされた後その店へは今後一切入店禁止になる。
このデブを振り払って、フロントにコールしちゃおうかな、と考える。
「好きなんだ。好きだから最後までしたいんだ。ユウナちゃんのこと、もっともっと可愛がって気持ちよくさせてあげたいんだ」
気持ちよくねぇよ。
デブの額に浮かんだ汗がぽたり、とあたしの頬に落ちてきて鳥肌が立った。2005-05-27 13:56:00 -
96:
「ねぇ、いいでしょ? 俺たち付き合おうよ。付き合ってる男と女がSEXするのは自然なことだよ?」
もううんざりだった。
「マーくん、それ以上言うなら、あたしフロントにコールしなきゃならないよ」
感情を込めずに言うと、男はあたしの手首をつかむ力を緩めた。
そのぶよぶよした巨大な体を押しのけて起き上がる。
「ユウナちゃん、嫌だった? ごめんね……」
表情のないあたしの顔を見て、彼なりに何かに気付いたらしく、急にしゅんとして言い訳を始めた。2005-05-27 13:56:00 -
97:
「俺、ユウナちゃんが本当に好きなんだよ。だからつい……ごめんね。そうだよね、いきなりじゃ怖いよね。でも、俺は真剣にユウナちゃんと付き合いたいと思ってるんだ。返事は今すぐじゃなくてもいいよ。次に俺が会いに来るまでに考えておいて」
大の男が一方的に愛だか性欲だかわからないような感情を押し付けてくる、その姿は滑稽で情けなく、あたしは心底呆れてしまいもはやフロントを呼ぶ気もおきなかった。
プレイ時間が余っていたので、それからあたしはいつも通りただ機械のように男の体を洗い、あちこちを触ったり舐めたりこすったりしてデブを射精させた。
好きだ、愛している、と繰り返していたわりには、プレイの間中ここを舐めて、あそこも触って、もっと激しく、今度はこっちを、もっと奥まで、口を休めないで、最後は飲んでよ、といちいち細かい注文をつける男だった。2005-05-27 13:57:00 -
98:
「さっきの話、真面目に考えておいてよ?」
シャワーでローションや色々な体液を洗い流していると、マサノブは懲りずに唾を飛ばしながら話しかけてきた。
「俺、ユウナちゃんにはこんな仕事早く辞めてほしいんだ。風俗なんかで働いていたことは忘れて、俺と幸せになってほしい」
――こんな仕事? 風俗なんか?
その「風俗なんか」に来て金を払い射精しているのはどこのどいつだ。
あたしが自分から選んだ仕事なのに、それをこの男は忘れろと言うのか。
この世界のことは何も経験せず、何も得なかったかのように?2005-05-27 13:58:00 -
99:
馬鹿にするにもほどがある。
あたしの人生の一部を、この男は丸ごと全部否定するつもりなんだ。
「あたし、忘れるつもり、ないから」
イライラするのを抑えてできるだけ冷静に言うと、デブは懲りずにまた反論してくる。
「辛い仕事だからすぐには忘れられないかもしれないけれど、でも俺が忘れさせてあげたいんだよ」
もう、何も話したくなくなった。
帰り際、その背中に向かって、二度と来なくていいよ、と小声で囁いた。
男が帰った後、あたしは店長に「本番強要されたので」と彼をNG指定にした。
指名客が一人減ったが、これでもう二度とあのあつかましいセリフの数々を聞かなくてすむ。2005-05-27 13:59:00 -
100:
ベッドの上に広げられたタオルの上に、ミサトがお菓子の箱を並べた。
「新製品出てたから買っちゃったんだよねー。一人で全部食べたら体重ヤバイからさ、一緒に食べようよ」
ミサトがワインレッドのマニキュアを塗った指でバリバリと箱を開け、チョコレートを一つ取り出して口へ放り込んだ。
あたしも一つつまんだ。2005-05-27 14:01:00