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≪風俗≫あたしにも価値はあると言って。。。≪ホストクラブ≫

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  • 1:

    自分のサイトで公開している小説です。
    70%ぐらいはあたしの体験談です。
    あまり上手とは言えませんが、
    実際に風俗やホストの世界にいる方々に
    読んでもらいたくてここに書くことにしました。

    2005-05-27 12:22:00
  • 11:

     とりあえずどこの店かは知らないけれど断ろう、と思い改めて彼の顔を見てふと思った。
     似ている。
     じっと見たら吸い込まれてしまいそうな、大きな二重の目をびっしりと長い睫毛が囲っている。
     まるで人の心の奥までも見透かしてしまいそうなきれいな目。
     こんな目をした男をあたしはもう一人知っていた。
     だから、思わずうなずいたのだ。
    「いいよ、行く。何ていうお店なの?

    2005-05-27 12:31:00
  • 12:

     あたしの返事に、彼の顔がぱっと明るくなるのがわかった。
    「Temptation。すぐ近くなんだ、ほら、あそこに青い看板の出てるビルだから。あ、名前聞いてもいい? 俺は翔って言うんだけど」
     翔、と名乗る彼に名前を聞かれ、あたしは一瞬迷って「ユウナ」と答える。
     ユウナ、という名前は本名ではない。
     風俗嬢として働き始めたときに店長が付けた源氏名だ。
     この街では、あたしはユウナ。
     OLだった、風俗の世界なんか何も知らなかった本名のあたしは、今ここにはいない。
     信号は青に変わっていたけれど、あたしは横断歩道を渡らずに彼とひときわネオンの輝く方へと歩き出した。

    2005-05-27 12:32:00
  • 13:

     そんな他力本願で浅はかな考えを知ってか知らずか、彼はあっさりとあたしの「婚約者」になった。
     同僚の紹介で知り合った、建設会社に勤める五歳年上の婚約者。
     浅黒い肌や太りすぎの体型等、外見はまったくあたしの好みのタイプとは正反対だったけれども、結婚相手としては理想的な、というか無難な男だった。
     社交的で堅実で、仕事に対して真面目で、酒は一滴も飲まずギャンブルもせず女癖も悪くない。
     彼の両親も兄弟も親戚もそろって大袈裟すぎる程によそ者であるあたしを歓迎してくれた。
     彼自身も、「節約家で礼儀正しくて優しい家庭的な女」を適当に演じていたこのあたしのことをひどく気に入っていたはずだ。

    2005-05-27 12:35:00
  • 14:

     出会いは、仕事がらみの酒の席。
    「真宮朋樹」と名乗った彼と軽い気持ちで電話番号を交換したのが始まりだった。
     きれいな顔の人だな、というのが第一印象。
     キメの細かそうな白い肌、くっきりした二重の大きな目。
     目を伏せると長い睫毛が頬に影を落とす。
     穏やかにも、ときに冷酷にも見える黒目がちな澄んだ瞳。
     うっすら明るく染めた長めの髪は、営業マンだという彼の職業には不釣合いに思えたけれども、中性的な彼の顔によく似合っていた。
     あたしは彼に「近藤清美」と名乗った。
     あのときは、まだあたしの名前は本名のそれしかなかったから。

    2005-05-27 12:37:00
  • 15:

    「心も体も、清らかで美しい女の子に育つようにって、母さんと一生懸命考えて付けたんだ」
     いつだったか父親がそんなことを言っていた。
     あたしは両親の期待には応えられなかったけれど。
     真宮はとても優しく、初対面の相手に緊張するあたしに明るく、それでいて穏やかに話題を振ってくれた。
     あたしのグラスが空になるとさりげなく店員を呼んで「次は何を飲む?」と聞いてくれた。
     迷っていると、真宮はその長い前髪がくっつきそうなほどこちらに顔を近づけてあたしの手元のメニューを覗き込んだ。
     そして「さっぱりしたカクテルが好みなら、この辺りが美味しいよ」と唇の端を持ち上げて少し目を細め、にっこりと笑う

    2005-05-27 12:37:00
  • 16:

     彼のスーツからは、ふんわりと甘い香水の匂いがした。
     真宮の仕草、言葉、表情、すべてがあたしより、そしてあたしの周囲にいた男性たちよりずっと大人だった。
    「もうすぐ三十路だからね」と笑う八歳年上の彼は、ひたすら優しく、まるで幼児を見守る親のようにしてあたしに接してくれた。
     だから。
     それは、直感だった。
     これまで否定や侮蔑を恐れるあまり、無意識に、そして絶対に他人とは常に一定の距離を保つよう努めてきて、自分の心の奥をさらけ出す勇気も理解してもらう術も知らなかったあたしの、彼に対する直感だった。

    2005-05-27 12:38:00
  • 17:

     彼にならあたしの弱い部分も醜い部分も歪んだ部分も見せられる。
     この人なら、決してあたしを否定しない、あたしを理解して、肯定して、受け入れてくれる。
     婚約者にも見せたことのない、一生誰にも見せるつもりのなかったあたしの影の部分まで全てを、真宮にだけは見せられる気がしたのだ。
     次の日も、あたしから真宮を誘い、会いに行った。その次の日も。
    「清美」とあたしの名前を呼ぶ、その声の温度がたまらなく心地よかった。
     あたしは真宮が好き。
     そう気づくのにそれ以上の時間がかかるはずもなく。
     同時に、あんなつまらない男と結婚なんかできない、と確信し、そうしてあたしと婚約者との関係は寿退社の予定の二ヶ月前にあっさりと終了したのだった。

    2005-05-27 12:39:00
  • 18:

     雑然と立ち並ぶビルの一つに入ると、翔は上へのエレベーターのボタンを押した。
    「うちは八階なんだ。このビル、エレベーターが遅くてちょっと困るんだよねー。遅刻しそうなときに限っていつも待たされる」
     二人で笑っていると、エレベーターが開いた。
     彼は片手でそのドアを押さえ、あたしを先に乗せてくれた。
     八階の一番奥、入り口の黒く重そうなドアには「Temptation」の文字。
     翔はドアを開けるなり「お客様です!」と店中に聞こえるような大声をあげた。
    思わずひるんだあたしにはお構いなしに、店の中にいた従業員らしき男たちが一斉に「いらっしゃいませー!」と唱和する。

    2005-05-27 12:40:00
  • 19:

     穏やかで無邪気な笑い方。唇の端を持ち上げて、その大きな目を細める。
     一瞬、翔の顔を見つめてしまった。
     似ている。
     真宮に似ている。
     ――二人で、楽しく飲もう。
     たった今翔に言われた台詞と真宮の顔が頭の中をぐるぐると回る。
     大好きな真宮。
     もう、会えないかもしれないけれど。

    2005-05-27 12:44:00
  • 20:

     あたしが小さくうなずくと、翔は「よかった。ほら、こっちにおいで」とさりげなくあたしの手を引いて席へと連れて行ってくれた。
     その手は大きくて温かくさらりと乾いていて、普段あたしが触れている不特定多数の男――客たちの手とは全然違っていた。

    2005-05-27 12:44:00
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