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≪風俗≫あたしにも価値はあると言って。。。≪ホストクラブ≫

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  • 1:

    自分のサイトで公開している小説です。
    70%ぐらいはあたしの体験談です。
    あまり上手とは言えませんが、
    実際に風俗やホストの世界にいる方々に
    読んでもらいたくてここに書くことにしました。

    2005-05-27 12:22:00
  • 121:

    『ユウナちゃんおはよー! もう仕事中かなー?』
     翔からいつものようにメールが届いた。
    『風邪引いたみたいで仕事休んじゃった。今夜はお店行ってあげられないよ、ごめんね』
     メールの返事を打つのもだるい。
    『風邪引いちゃったの? 大丈夫? 心配だよ、ゆっくり休んで早く治してねー』
    『ありがとう、これから寝るね』
     子供の頃から体は丈夫だった。
     東京に来てから一度も病院にかかったことはない。
     風邪ぐらい寝ていれば治る、そう思っていたけれど、一晩経っても熱は上がる一方だった。

    2005-05-27 14:20:00
  • 122:

     店長に「もうしばらく休ませてください、治ったら電話します」と電話をした。
     客からどうでもいいようなメールが四件も入っていて鬱陶しかったので、携帯の電源を切ってソファの上に放り投げた。
     昨日よりさらに喉が痛くなっていて、喋るのも水を飲むのも苦痛だった。
     とても食事をとる気分にはなれず、冷蔵庫にあったコーヒー牛乳だけを口にして二日目と三日目が過ぎた。
     体温は四十度、ときには四十一度を超えていた。
     四十二度を超えたら、脳みそのたんぱく質がゆで卵みたいに硬くなって死んじゃうんだって、と誰かが言っていたのを思い出す。
     喉が痛い。

    2005-05-27 14:21:00
  • 123:

     自分の唾液を飲み込むのさえ困難で、湧き上がる唾液を何度もティッシュに吐いた。
     解熱剤は相変わらず効かず、ひどい寒気がする。
     腕にも足にも力が入らない。
     窓から夕日が差し込んでいたけれど、それも次第に夜の闇の中に吸い込まれてしまった。
     毛布の中で体を丸め、無性に不安で悲しくなった。
     もし、万が一ここであたしが死んでしまっても、誰も気付いてくれないんじゃないだろうか。
     新聞の片隅で見かける、孤独な死を遂げる一人暮らしの可哀想な老人たちは、こんな絶望的な気分でこの世を去っていくのかと思うと涙が流れた。

    2005-05-27 14:22:00
  • 124:

     寂しい。
     一人にしないで。
     あたしにも、生きている意味はあると言って。
     寂しい、寂しい、寂しい。
     深夜三時に、あたしは携帯電話の電源を入れた。
     真っ暗な部屋の中でディスプレイが光り、軽やかな起動音が鳴り響く。

    2005-05-27 14:23:00
  • 125:

     約六時間おきに翔からメールが届いていた。
    『ユウナちゃん、具合はどうかなー?』
    『ユウナちゃん、風邪治った?』
    『ユウナちゃん、大丈夫ー?』
    『ユウナちゃん、まだ寝込んでるのかなー?』
    『ユウナちゃん、心配だよ、連絡ちょうだい』
    『ユウナちゃん、マジ大丈夫なの?』
     感覚の鈍っている指で、ぎこちなく返事を打った。
    『四十度くらいの熱が下がらないの。喉が痛い』

    2005-05-27 14:23:00
  • 126:

     今の時間は、Temptationの営業時間だ。
     こんな時間にこんな鬱陶しいメールをしても、仕事中の翔には迷惑なだけだろう。
     返事は来ないかもしれない、そう思っていたのに。
     突然、けたたましく着信音が鳴った。
     メールではなくて、翔から直接電話がかかってきた。
    「ユウナちゃん、大丈夫なのっ? 病院は行った? ダメだよ行かないと! ユウナちゃん住所どこだっけ、住所教えて!」

    2005-05-27 14:24:00
  • 127:

     熱でぼんやりする頭に、翔の声が響く。
    「いい? 俺今からユウナちゃんとこ行くから、俺と一緒に病院行こう!」
     そうして三十分後、本当に彼は仕事を抜け出してタクシーであたしのアパートへ来て、そのまま夜間診療をしている総合病院まで連れて行ってくれたのだった。

    2005-05-27 14:25:00
  • 128:

    「彼は旦那じゃないんですよ、手続きの書類はあたしが自分で書きます」
    「いや、熱で苦しいんでしょ? 俺が代わりに書いてあげるよ」
     翔の申し出に、看護婦が「優しい方でよかったですね」とにこりと笑って彼に書類とペンを渡し、出て行った。
    「こんなに具合が悪くなる前に俺に言ってくれればよかったのに。ほんと、ユウナちゃんは何でも自分一人で片付けようとするんだもんな」
    「……翔に、迷惑、かけられないから」
    「何言ってるのさ、いつもユウナちゃんは俺のこといっぱい助けてくれてるだろ? お互い様だよ。ユウナちゃんは一人ぼっちじゃないんだからさ、もっと俺を頼ってくれてもいいんだよ」
     ぽんぽん、と翔はあたしの汗ばんだ頭を撫でてくれた。

    2005-05-27 14:27:00
  • 129:

    「さてと、さっさとこの紙書いちゃって看護婦さんに渡すから、後はゆっくり寝るといいよ」
     翔があたしの顔のすぐ横に書類を置いた。
     そしてペンのキャップを外すと、彼は氏名欄に迷うことなく「近藤清美」と書いた。
    「翔、あたしの本名、知ってたっけ……?」
    「知ってたよー、だいぶ前に教えてくれたの覚えてないの? そっか、あのとき酔っ払ってたもんね」
     朦朧とする頭で記憶をたどるけれど、何も思い出せない。
     あたしは翔の前ではずっと「ユウナ」でいたつもりだった。

    2005-05-27 14:28:00
  • 130:

    「清らかで美しいって書いて、清美。いい名前だなと思ったからちゃんと覚えてる」
    「……あたしなんかに似合わない名前だよね」
    「そんなことない。清美、って、似合ってるよ」
     それだけ言って、翔は住所欄や連絡先をさらさらと書き上げた。
     最後に本人の署名欄があったので、そこだけは自分で書いた。
    「それじゃ、俺この紙看護婦さんに渡してから帰るから。また明日お見舞いに来るから、必要そうな物とかも買ってきてあげる。あ、食べ物、何が好き? プリンでいい?」
     あたしがうなずくと、翔はあのきれいな笑顔で小さく手を振って、病室を出て行った。
     手首から流し込まれている解熱剤も効いて、あたしはそれからゆっくりと眠ることが出来たのだった。

    2005-05-27 14:29:00
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