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14:
小さな小さな声で呟くように、独り言のように、
俺の顔を愛おしそうに見つめながら、ホノカはそう言った。
その呟きが途切れると、彼女は静かな寝息を立て始めた。
俺はホノカをソファーに寝かせると、毛布を掛けた。
眠っている彼女の表情はとても穏やかで、
母親に寝かしつけられた子供の様だった。2006-09-08 22:11:00 -
15:
俺は足音を殺しながらキッチンに行き、水を一杯飲み干した。
床に座り、食器棚に凭れ、煙草に火を付ける。
ここ数日のホノカは、とても情緒が安定している。
彼女の抱える爆弾は、恐らくあの日で全てに火が回ったのだろう。
残骸すらも残らないくらいに、激しく破裂し尽した。2006-09-08 22:24:00 -
16:
俺は立ち上がり、テーブルの灰皿に煙草をもみ消した。
いつもテーブルの中心を彩っていた、白やピンクの薬のタブレットは、
今は行儀良く、遠慮がちにホノカの名前を記した袋の中に納まっている。
リビングに戻り、ソファーに近づくと、ホノカに毛布を掛けなおした。
彼女の左腕をそっと暖かい場所へ戻してやる。
手首の白い包帯は、彼女の最後の戦いの傷を優しく包んでいた。2006-09-08 22:36:00 -
17:
あの日ホノカは自らの身体に刃を振り下ろした。
あふれ出る真っ赤な血は、彼女の爆弾の火花だった。
止め処ない激しい言葉と涙が、爆発を助長させる。
跡形もなく燃え尽きるなら、見えない火が燻り続けるよりはよっぽどいい。
2006-09-08 22:56:00 -
18:
「お前・・・何やってんだよ!!」
部屋に飛び込むと、ベッドの上でホノカは左手首から血を流していた。
右手にカッターナイフを握り締めて。
彼女は流れる血を見つめて、うっすらと笑っていた。
そして、ユラリと顔を上げ俺を見ると、一瞬にして表情を変え、
搾り出すような声で言葉を投げつけた。2006-09-08 23:54:00 -
19:
「来たんや・・・。・・なあ、見てよ。私のな、血が流れてるやろ?
これな、私の血やけど、風真のやねん。」
「何言ってんだよ!」
俺はホノカから、カッターナイフを取り上げ、タオルで傷口を押さえた。
ホノカは抵抗する事もなく、俺の動きに従っていた。
「違うなあ・・風真のお金やな。この血は風真のお金やねんな・・。」
「訳分かんねえ事言ってんじゃねえよ!すぐ救急車呼ぶから!」2006-09-09 00:06:00 -
20:
救急車という言葉に、ホノカは敏感に反応して、身体を震わせだした。
俺が携帯をポケットから出すと、ホノカはそれを叩き落とした。
「いやや!そんなん乗ったら、私死なれへんやん!」
俺はホノカを片手で抱え込んで、床に落ちた携帯を拾い上げた。
暴れるホノカを抑えながら、必死にボタンを押した。2006-09-09 17:37:00 -
21:
「全部流すねん!私の血全部いらんねん!
そしたら死ねるやろ?!そしたらもうお金稼がんでいいやろ?!」
俺の腕にしがみ付いて、ホノカは叫び続けた。
「私の身体は風真の売り上げの為にあるんやろ!?
なあ、今流れた血は、いったいなんぼぐらいになるんやろうなぁ!」2006-09-10 19:39:00