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小説:砂の城
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1:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
フィクションです。よかったら読んでみてください。
2005-05-03 21:23:00 -
101:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
スーツに茶髪の彼の姿はひどく朝にそぐわない。あからさまに遠慮ない目でジロジロと見ていく人もいる。本人は至って気にしていないようだが…。
「また後でメールするわ〜俺店戻るな?」
主馬はにこにこ笑いながらあたしが見えなくなるまで手を振っていてくれた。2005-05-08 10:16:00 -
102:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
駅に着いて切符を買う。人の流れとは逆に動いて電車に乗った。一駅だから座るつもりはない。ゆったりとした独特の揺れに身を任せながら、窓の外を眺めていた。
非日常的な世界に足を踏み入れた事が、何故か信じられなかった。現実味がない。だけど口の中に残るお酒の味は現実だ。2005-05-08 10:21:00 -
103:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
《まぁまぁ楽しかったけど多分もう一回行く事はないだろうな…》
そう思いながら電車を降りる。改札を抜けてタクシーに乗り込んだ。
2005-05-08 10:24:00 -
104:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
―――ドンッ!!
あたしがカウンターに叩きつけるようにグラスを置いた音に、周りのお客が驚いたようにこっちを見た。
今、あたしは行きつけのショットバーにいる。
「鞠香ちゃん今日荒れてるねー。どうしたん?」
仲の良いバーテンダーが苦笑いしながら聞いてくる。2005-05-08 10:38:00 -
105:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「別に…なんでもないよ。帰るわ。ご馳走様。」
会計して店を出る。夏と言えど、夜風は火照った体に心地よい。
《どうしよ…行くとこないや…。寮に帰るのは嫌だしなぁ。》
と、ぼんやり考えていると携帯が鳴った。2005-05-08 10:48:00 -
106:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
誰からかも確認せずに電話に出る。
「…もしもし?」
苛々しているせいかつい声を荒立ててしまう。
「おぉ〜おはよぉ、ってかなんか怒ってるんか?」
電話の主は主馬だった。「ごめん、ちょっと仕事で嫌な事あってさ、バーで飲んでたから…」2005-05-08 12:05:00 -
107:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「そっか…もう帰るんか?」
「ううん。…久しぶりに主馬の顔見に行こうかな!」
「マジで?迎えに行くわ」…これが主馬の店に通うようになったきっかけだ。2005-05-08 12:10:00 -
108:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
そして今に到る。
あたしがどれだけ好きになっても手に入らない人。
彼にわかってもらうには店に通うしかない…例えお客としてしか接してくれなかったとしても。例えあたしの想いに応えてくれなかったとしても。2005-05-08 12:16:00 -
109:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
主馬。好きだよ。すごく、好き。…大好き。
ねぇ、一度でいいから…
あたしを抱き締めて2005-05-08 12:17:00 -
110:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
略部分。
あたしを抱き締めて2005-05-08 12:18:00 -
111:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
諦めずにずっと通っていた。店からの帰り、送ってもらう途中で主馬に告白するのが日課になっていた。
「…だから、俺なんかやめときって言ってるやん?」主馬が困ったように呆れたように笑いながら言う。
「だって好きになったもんはしょうがないじゃない」あたしは負けじと答える。 主馬がため息をつきながらしゃがみ込む。2005-05-08 12:22:00 -
112:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
途端に不安になる。嫌われたんじゃないかって。うっとおしいんじゃないかって。
「ごめん、主馬。…嫌いになる?」
あたしは俯いて呟く。涙が出そうになる。それを堪える為に、唇を噛み締めた。2005-05-08 12:24:00 -
113:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「嫌いとか…そんなんじゃないけど。俺、自分に自信ないねん。どこがいいん?さっぱりわからん。」
主馬が静かに言った。
「全部!優しいとこも、本気で心配してくれるとこも、仕事に対して真面目なとこも、全部全部好きだよ?」
あたしは主馬にわかって欲しくて、必死になって喋った。2005-05-08 12:28:00 -
114:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「…ありがと。」
主馬が嬉しそうに微笑んで立ち上がった。
「かず…ま。」
あたしは囁くように名前を呼んで、彼の胸に顔を埋める。汗と煙草と香水の交じった匂い。あたしが今一番大好きな、匂い。でも彼は抱き締めてはくれない。腰に手を回す事すらしてくれない。両手はズボンのポケットに突っ込まれたままだ。2005-05-08 12:33:00 -
115:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「ごめん、俺店に戻らなきゃ」
主馬はそれだけ言うとあたしからそっと離れた。
「またメールする。」
あたしに背を向けて主馬は店へと走って行く。あたしは彼の姿が見えなくなるまで、その背中を見つめていた。2005-05-08 12:36:00 -
116:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
主馬の姿が見えなくなるとあたしはその場に座り込んだ。ビルの壁にもたれる。
煙草を取り出して火を付けようとする手に一粒の水滴が落ちた。
《雨…》
ポツリ、ポツリと降りだしたそれはやがて本格的に降り始める。2005-05-08 12:41:00 -
117:
名無しさん
?
2005-05-08 15:37:00 -
118:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
120さん、書き込みありがとで?す?
2005-05-08 17:00:00 -
119:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
あたしの頬に、堪えていた涙が伝い落ちる。
《雨…か。ちょうどいいや。》
…全部流れてしまえばいい。あたしのこの涙も、主馬への想いも。雨が全てを流しきってくれればいい。
はっきりとしない主馬の態度も、それに対するあたしの中の苛立ちも、全て流れてしまえばいいのだ。そうすればこんなに苦しい想いもしなくて済むのに。2005-05-08 17:34:00 -
120:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
いつまでも降り続ける雨の中で、あたしは人目も気にせず泣いた。声を押し殺して泣き続けた。
《なんで、こんなに切ないんだろう。》
あたしの知っている恋は相手の事を考えるだけで、胸が熱くなるようなワクワクするものだった。2005-05-08 17:36:00 -
121:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
それが今では苦しい。心臓を鷲掴みにされたような苦しさ、息が、できなくなる。主馬の事を考えただけで泣きたくなる。
まだ幼かった私。それが本物の恋というものだという事に、すぐには気付かなかった。2005-05-08 17:39:00 -
122:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
決してあたしを拒まない彼。だけど完璧に受け入れもしない彼。
《あたしの事、どう思ってるの?》そんな簡単な質問もできない。恐い…。
拒絶しないで。愛してよ。嫌わないで。受け入れて。あたしを認めてよ。必要として。例えそれがお客でも構わないから。2005-05-08 17:43:00 -
123:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
そんな状態が半月以上続いた。精神的に限界だった。幼すぎるあたしの心は、時間をかける、という行為に耐えきれなくなってきていた。
「ねぇ、好きか嫌いかはっきりしてよ。」「信じてよ、裏切ったりしないから。離れないから。」「主馬が好きなの。お店以外で会えなくても我慢するから。」2005-05-08 17:46:00 -
124:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
もう飽きる程繰り返した言葉。そしてそれに返される言葉も聞き慣れたものになっている。
「あかんって。俺は鞠香ちゃんが思ってる程良い人間じゃないから。」「俺はおかしい人間やから。壊れてるから自分がしんどいだけやで?」「彼女になっても店に呼ぶで?俺そうやって尽くしてもらわな不安やから。」2005-05-08 17:50:00 -
125:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
そこまで言われているのに、何故かあたしは離れなかった。彼を追い続けた。
そんなあたしに根負けしたのか、彼はぽつぽつと過去の話をしてくれた。
ホストになった理由。初めての接客で色枕しかできなかった時代。彼女ができても長続きしなかった事。家族構成、自分が家族や親類の中でどういう立場なのか全て話してくれた。2005-05-08 17:54:00 -
126:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
初めて風嬢と付き合った時の事。別れた理由、別れる時に言われた台詞。
「どうせホストやから。」それが何度も続いて人間不信になった事。
話を聞き終わった時、店はもうラストソングが流れていた。2005-05-08 17:57:00 -
127:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
あたしは以前、自分の過去の話をした事があった。その時に彼はあたしの事を理解してしまった。そして彼の過去を聞いた今、あたしも彼を理解した。
どちらかが病めば、慰めるもう一人も間違いなく病む。そして今度は慰められていた方が慰める。悪循環の関係。
だけど全てを理解してしまう、そして理解してくれるから離れられない。2005-05-08 18:07:00 -
128:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
だけどもうあたしには後戻りできなかった。例えこの先、彼があたしを金だけの女としか見てくれなくても、構わない。彼がホストである限り、あたしは彼から離れない。
彼以外いらない。他の誰も。親なんてとっくの昔に縁を切っている。友達とはとても言えないような、携帯のメモリを埋めるだけの人間なんていらない。
主馬だけでいい――2005-05-08 19:47:00 -
129:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
いつからだろう。主馬があたしを見る目が変わった。以前は恐い物でも見るかのような目だったのに、最近ひどく優しい目をする。
まるで…まるで愛しいモノを見るかのように、あたしを見る。錯覚しそうになる。勘違いしそうになる。2005-05-08 19:50:00 -
130:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
だけど、遅いよ。あたしはもう疲れてしまった。はっきりしてくれないあなたに。
知り合ってたかだか3ヵ月ちょっとなのに、結論を急ぎすぎかもしれないけど、あたしは疲れてしまった。だから今日でおしまい。もうあなたには会わない。連絡もしない。2005-05-08 19:54:00 -
131:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
おかしいね、離れないって思ってたのに。だって主馬、あたしこのままじゃ壊れちゃうよ。。あなたに迷惑かけてしまう。すごく嫌な人間になってしまう。
ごめんなさい…。許してね。
だから、そんな風に見つめないで、微笑まないでよ。2005-05-08 19:57:00 -
132:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
離れられなくなるじゃない
2005-05-08 19:58:00 -
133:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「うっ!!――げほっ!」 最後と決めて、あたしはけじめをつけるつもりでシャンパンを卸した。
《調子に乗って飲み過ぎた…最悪》
一体どれくらいの時間トイレに閉じこもっているのだろう…。もう何度も出ようとするけど、気分が悪いし、足に力が入らない。2005-05-08 20:02:00 -
134:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
ガチャガチャ。
トイレのドアを開ける音がお酒でぼんやりとした頭に響いた。
「鞠香〜?大丈夫か?」
あたしはみっともない姿を見られるのが嫌で立ち上がろうとした。
《――!!》2005-05-08 20:05:00 -
135:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「危ないっ!!」
倒れる!そう思った瞬間、まさに間一髪という所で主馬に支えられた。
「大丈夫か?今日めちゃ飲んでたもんな。」
主馬が笑いながらよしよしとあたしの頭を撫でた。あたしは体重をほとんど主馬に預けるようにしてトイレから出る。2005-05-08 20:09:00 -
136:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
もうお客さんは全員帰っていて、席も綺麗に片付けられていた。
「お〜鞠ちゃんが復活したぁ!」「大丈夫かぁ?」「まさかトイレで寝てた系?笑」
本当はもう帰りたいだろうに、従業員達は口々に声をかけてくれる。2005-05-08 20:12:00 -
137:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「ごめんね?」
あたしは心配そうに声をかけてくれた従業員達に謝った。
「ぜーんぜん!」「そうそう気にすんなって、俺の客に比べたら可愛いもんやで〜?寝るだけやもん、俺の客なんて暴れるわグラス投げるわやもん!」「あ〜、誰かさんやろ?笑」2005-05-08 20:15:00 -
138:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「あー、店長?今日俺鍵閉めますわ。コイツ送ってから帰りますんで。」
主馬があたしの横に座りながら叫んだ。
「ほい、了解。ほな鞠香ちゃんまたね〜?」
店長が主馬に鍵を渡しながら笑顔であたしの顔を覗き込んだ。2005-05-08 20:51:00 -
139:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
他の従業員達も、口々に「主馬さん、お疲れっす〜」「鞠ちゃんバイバイ!」と言いながら出て行った。BGMも流れていない静かな店内に二人っきりになる。
音楽が流れていないだけで、照明が一番明るくなっているだけで、人がいないだけで場所はこうも変わるのだろうか。2005-05-08 20:54:00 -
140:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
ブーンとまるで唸るように鳴る冷蔵庫の音まで聞こえてくる。重苦しいほどの沈黙。静寂があたしたちを包む。
《何か言わなくちゃ。》
そう思ってもあたしは何も言葉が見つからない、いや、むしろ話したい事はたくさんある。だけどありすぎて何から話したらいいのかわからない。2005-05-08 20:59:00 -
141:
?ゅりぇ?
また更新してぁりゅ???最近θ課になってます??しぉり?
2005-05-08 22:25:00 -
142:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
?ゅりぇ?さん、ありがとぉ??日課かぁ〜じゃあなかなか完結できないね…?
2005-05-09 00:11:00 -
143:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「鞠香。」
先に沈黙を破ったのは主馬だった。
「…なぁに」
名前を呼ばれて少しお酒が醒めた。
「なんかさ、言いたい事があるんじゃない?」2005-05-09 00:18:00 -
144:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
言い当てられて、胸が騒めく。
《どうしよう。言ってしまおうか。》
「ないの?俺の勘違いかな?」
「ううん!当たってる。言いたい事があるんだけど…多すぎて何から言ったらいいのかわからないの。」2005-05-09 00:20:00 -
145:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「頭に浮かんだ事からでいいよ。」
主馬はそう言ってもう一本お茶と灰皿を二つ持ってきてくれた。煙草を取り出すと、一本渡してくれた。KOOL MILDS、お揃いの煙草。ライターでお互いの煙草に火を点けあう。2005-05-09 00:24:00 -
146:
舞
?しおり?
主人公と名前同じだし、何年か前の私と被る部分があるのでかなり感情移入して読んでます?もしかしてサクラさんにどこかで見られてたのかな!?(笑2005-05-09 00:46:00 -
147:
?桜?
しおり?_
2005-05-09 00:57:00 -
148:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
舞さん、そうなんです?実は影から(・_・|コッソリ覗いてたんです?笑
?桜?さん、しおりありがとうです??2005-05-09 16:22:00 -
149:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「あのね…あたし本当はスナックで働いてるんじゃないの。風俗なんだ。」
「うん。」
「それでね、歳も18じゃないの、17なんだ…。」
「そっか…。」2005-05-09 17:29:00 -
150:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
断片的に話すあたしの言葉に、主馬は促すわけでもなく優しく相づちを打ってくれる。
「汚いって思われたくなくて嘘ついてたの。ごめんなさい…。」
「いいよ。」
主馬はにっこり笑ってあたしの頭を撫でてくれる。2005-05-09 17:31:00