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小説:砂の城
-
1:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
フィクションです。よかったら読んでみてください。
2005-05-03 21:23:00 -
101:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
スーツに茶髪の彼の姿はひどく朝にそぐわない。あからさまに遠慮ない目でジロジロと見ていく人もいる。本人は至って気にしていないようだが…。
「また後でメールするわ〜俺店戻るな?」
主馬はにこにこ笑いながらあたしが見えなくなるまで手を振っていてくれた。2005-05-08 10:16:00 -
102:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
駅に着いて切符を買う。人の流れとは逆に動いて電車に乗った。一駅だから座るつもりはない。ゆったりとした独特の揺れに身を任せながら、窓の外を眺めていた。
非日常的な世界に足を踏み入れた事が、何故か信じられなかった。現実味がない。だけど口の中に残るお酒の味は現実だ。2005-05-08 10:21:00 -
103:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
《まぁまぁ楽しかったけど多分もう一回行く事はないだろうな…》
そう思いながら電車を降りる。改札を抜けてタクシーに乗り込んだ。
2005-05-08 10:24:00 -
104:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
―――ドンッ!!
あたしがカウンターに叩きつけるようにグラスを置いた音に、周りのお客が驚いたようにこっちを見た。
今、あたしは行きつけのショットバーにいる。
「鞠香ちゃん今日荒れてるねー。どうしたん?」
仲の良いバーテンダーが苦笑いしながら聞いてくる。2005-05-08 10:38:00 -
105:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「別に…なんでもないよ。帰るわ。ご馳走様。」
会計して店を出る。夏と言えど、夜風は火照った体に心地よい。
《どうしよ…行くとこないや…。寮に帰るのは嫌だしなぁ。》
と、ぼんやり考えていると携帯が鳴った。2005-05-08 10:48:00 -
106:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
誰からかも確認せずに電話に出る。
「…もしもし?」
苛々しているせいかつい声を荒立ててしまう。
「おぉ〜おはよぉ、ってかなんか怒ってるんか?」
電話の主は主馬だった。「ごめん、ちょっと仕事で嫌な事あってさ、バーで飲んでたから…」2005-05-08 12:05:00 -
107:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「そっか…もう帰るんか?」
「ううん。…久しぶりに主馬の顔見に行こうかな!」
「マジで?迎えに行くわ」…これが主馬の店に通うようになったきっかけだ。2005-05-08 12:10:00 -
108:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
そして今に到る。
あたしがどれだけ好きになっても手に入らない人。
彼にわかってもらうには店に通うしかない…例えお客としてしか接してくれなかったとしても。例えあたしの想いに応えてくれなかったとしても。2005-05-08 12:16:00 -
109:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
主馬。好きだよ。すごく、好き。…大好き。
ねぇ、一度でいいから…
あたしを抱き締めて2005-05-08 12:17:00 -
110:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
略部分。
あたしを抱き締めて2005-05-08 12:18:00 -
111:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
諦めずにずっと通っていた。店からの帰り、送ってもらう途中で主馬に告白するのが日課になっていた。
「…だから、俺なんかやめときって言ってるやん?」主馬が困ったように呆れたように笑いながら言う。
「だって好きになったもんはしょうがないじゃない」あたしは負けじと答える。 主馬がため息をつきながらしゃがみ込む。2005-05-08 12:22:00 -
112:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
途端に不安になる。嫌われたんじゃないかって。うっとおしいんじゃないかって。
「ごめん、主馬。…嫌いになる?」
あたしは俯いて呟く。涙が出そうになる。それを堪える為に、唇を噛み締めた。2005-05-08 12:24:00 -
113:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「嫌いとか…そんなんじゃないけど。俺、自分に自信ないねん。どこがいいん?さっぱりわからん。」
主馬が静かに言った。
「全部!優しいとこも、本気で心配してくれるとこも、仕事に対して真面目なとこも、全部全部好きだよ?」
あたしは主馬にわかって欲しくて、必死になって喋った。2005-05-08 12:28:00 -
114:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「…ありがと。」
主馬が嬉しそうに微笑んで立ち上がった。
「かず…ま。」
あたしは囁くように名前を呼んで、彼の胸に顔を埋める。汗と煙草と香水の交じった匂い。あたしが今一番大好きな、匂い。でも彼は抱き締めてはくれない。腰に手を回す事すらしてくれない。両手はズボンのポケットに突っ込まれたままだ。2005-05-08 12:33:00 -
115:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「ごめん、俺店に戻らなきゃ」
主馬はそれだけ言うとあたしからそっと離れた。
「またメールする。」
あたしに背を向けて主馬は店へと走って行く。あたしは彼の姿が見えなくなるまで、その背中を見つめていた。2005-05-08 12:36:00 -
116:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
主馬の姿が見えなくなるとあたしはその場に座り込んだ。ビルの壁にもたれる。
煙草を取り出して火を付けようとする手に一粒の水滴が落ちた。
《雨…》
ポツリ、ポツリと降りだしたそれはやがて本格的に降り始める。2005-05-08 12:41:00 -
117:
名無しさん
?
2005-05-08 15:37:00 -
118:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
120さん、書き込みありがとで?す?
2005-05-08 17:00:00 -
119:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
あたしの頬に、堪えていた涙が伝い落ちる。
《雨…か。ちょうどいいや。》
…全部流れてしまえばいい。あたしのこの涙も、主馬への想いも。雨が全てを流しきってくれればいい。
はっきりとしない主馬の態度も、それに対するあたしの中の苛立ちも、全て流れてしまえばいいのだ。そうすればこんなに苦しい想いもしなくて済むのに。2005-05-08 17:34:00 -
120:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
いつまでも降り続ける雨の中で、あたしは人目も気にせず泣いた。声を押し殺して泣き続けた。
《なんで、こんなに切ないんだろう。》
あたしの知っている恋は相手の事を考えるだけで、胸が熱くなるようなワクワクするものだった。2005-05-08 17:36:00 -
121:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
それが今では苦しい。心臓を鷲掴みにされたような苦しさ、息が、できなくなる。主馬の事を考えただけで泣きたくなる。
まだ幼かった私。それが本物の恋というものだという事に、すぐには気付かなかった。2005-05-08 17:39:00 -
122:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
決してあたしを拒まない彼。だけど完璧に受け入れもしない彼。
《あたしの事、どう思ってるの?》そんな簡単な質問もできない。恐い…。
拒絶しないで。愛してよ。嫌わないで。受け入れて。あたしを認めてよ。必要として。例えそれがお客でも構わないから。2005-05-08 17:43:00 -
123:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
そんな状態が半月以上続いた。精神的に限界だった。幼すぎるあたしの心は、時間をかける、という行為に耐えきれなくなってきていた。
「ねぇ、好きか嫌いかはっきりしてよ。」「信じてよ、裏切ったりしないから。離れないから。」「主馬が好きなの。お店以外で会えなくても我慢するから。」2005-05-08 17:46:00 -
124:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
もう飽きる程繰り返した言葉。そしてそれに返される言葉も聞き慣れたものになっている。
「あかんって。俺は鞠香ちゃんが思ってる程良い人間じゃないから。」「俺はおかしい人間やから。壊れてるから自分がしんどいだけやで?」「彼女になっても店に呼ぶで?俺そうやって尽くしてもらわな不安やから。」2005-05-08 17:50:00 -
125:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
そこまで言われているのに、何故かあたしは離れなかった。彼を追い続けた。
そんなあたしに根負けしたのか、彼はぽつぽつと過去の話をしてくれた。
ホストになった理由。初めての接客で色枕しかできなかった時代。彼女ができても長続きしなかった事。家族構成、自分が家族や親類の中でどういう立場なのか全て話してくれた。2005-05-08 17:54:00 -
126:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
初めて風嬢と付き合った時の事。別れた理由、別れる時に言われた台詞。
「どうせホストやから。」それが何度も続いて人間不信になった事。
話を聞き終わった時、店はもうラストソングが流れていた。2005-05-08 17:57:00 -
127:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
あたしは以前、自分の過去の話をした事があった。その時に彼はあたしの事を理解してしまった。そして彼の過去を聞いた今、あたしも彼を理解した。
どちらかが病めば、慰めるもう一人も間違いなく病む。そして今度は慰められていた方が慰める。悪循環の関係。
だけど全てを理解してしまう、そして理解してくれるから離れられない。2005-05-08 18:07:00 -
128:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
だけどもうあたしには後戻りできなかった。例えこの先、彼があたしを金だけの女としか見てくれなくても、構わない。彼がホストである限り、あたしは彼から離れない。
彼以外いらない。他の誰も。親なんてとっくの昔に縁を切っている。友達とはとても言えないような、携帯のメモリを埋めるだけの人間なんていらない。
主馬だけでいい――2005-05-08 19:47:00 -
129:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
いつからだろう。主馬があたしを見る目が変わった。以前は恐い物でも見るかのような目だったのに、最近ひどく優しい目をする。
まるで…まるで愛しいモノを見るかのように、あたしを見る。錯覚しそうになる。勘違いしそうになる。2005-05-08 19:50:00 -
130:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
だけど、遅いよ。あたしはもう疲れてしまった。はっきりしてくれないあなたに。
知り合ってたかだか3ヵ月ちょっとなのに、結論を急ぎすぎかもしれないけど、あたしは疲れてしまった。だから今日でおしまい。もうあなたには会わない。連絡もしない。2005-05-08 19:54:00 -
131:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
おかしいね、離れないって思ってたのに。だって主馬、あたしこのままじゃ壊れちゃうよ。。あなたに迷惑かけてしまう。すごく嫌な人間になってしまう。
ごめんなさい…。許してね。
だから、そんな風に見つめないで、微笑まないでよ。2005-05-08 19:57:00 -
132:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
離れられなくなるじゃない
2005-05-08 19:58:00 -
133:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「うっ!!――げほっ!」 最後と決めて、あたしはけじめをつけるつもりでシャンパンを卸した。
《調子に乗って飲み過ぎた…最悪》
一体どれくらいの時間トイレに閉じこもっているのだろう…。もう何度も出ようとするけど、気分が悪いし、足に力が入らない。2005-05-08 20:02:00 -
134:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
ガチャガチャ。
トイレのドアを開ける音がお酒でぼんやりとした頭に響いた。
「鞠香〜?大丈夫か?」
あたしはみっともない姿を見られるのが嫌で立ち上がろうとした。
《――!!》2005-05-08 20:05:00 -
135:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「危ないっ!!」
倒れる!そう思った瞬間、まさに間一髪という所で主馬に支えられた。
「大丈夫か?今日めちゃ飲んでたもんな。」
主馬が笑いながらよしよしとあたしの頭を撫でた。あたしは体重をほとんど主馬に預けるようにしてトイレから出る。2005-05-08 20:09:00 -
136:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
もうお客さんは全員帰っていて、席も綺麗に片付けられていた。
「お〜鞠ちゃんが復活したぁ!」「大丈夫かぁ?」「まさかトイレで寝てた系?笑」
本当はもう帰りたいだろうに、従業員達は口々に声をかけてくれる。2005-05-08 20:12:00 -
137:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「ごめんね?」
あたしは心配そうに声をかけてくれた従業員達に謝った。
「ぜーんぜん!」「そうそう気にすんなって、俺の客に比べたら可愛いもんやで〜?寝るだけやもん、俺の客なんて暴れるわグラス投げるわやもん!」「あ〜、誰かさんやろ?笑」2005-05-08 20:15:00 -
138:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「あー、店長?今日俺鍵閉めますわ。コイツ送ってから帰りますんで。」
主馬があたしの横に座りながら叫んだ。
「ほい、了解。ほな鞠香ちゃんまたね〜?」
店長が主馬に鍵を渡しながら笑顔であたしの顔を覗き込んだ。2005-05-08 20:51:00 -
139:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
他の従業員達も、口々に「主馬さん、お疲れっす〜」「鞠ちゃんバイバイ!」と言いながら出て行った。BGMも流れていない静かな店内に二人っきりになる。
音楽が流れていないだけで、照明が一番明るくなっているだけで、人がいないだけで場所はこうも変わるのだろうか。2005-05-08 20:54:00 -
140:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
ブーンとまるで唸るように鳴る冷蔵庫の音まで聞こえてくる。重苦しいほどの沈黙。静寂があたしたちを包む。
《何か言わなくちゃ。》
そう思ってもあたしは何も言葉が見つからない、いや、むしろ話したい事はたくさんある。だけどありすぎて何から話したらいいのかわからない。2005-05-08 20:59:00 -
141:
?ゅりぇ?
また更新してぁりゅ???最近θ課になってます??しぉり?
2005-05-08 22:25:00 -
142:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
?ゅりぇ?さん、ありがとぉ??日課かぁ〜じゃあなかなか完結できないね…?
2005-05-09 00:11:00 -
143:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「鞠香。」
先に沈黙を破ったのは主馬だった。
「…なぁに」
名前を呼ばれて少しお酒が醒めた。
「なんかさ、言いたい事があるんじゃない?」2005-05-09 00:18:00 -
144:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
言い当てられて、胸が騒めく。
《どうしよう。言ってしまおうか。》
「ないの?俺の勘違いかな?」
「ううん!当たってる。言いたい事があるんだけど…多すぎて何から言ったらいいのかわからないの。」2005-05-09 00:20:00 -
145:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「頭に浮かんだ事からでいいよ。」
主馬はそう言ってもう一本お茶と灰皿を二つ持ってきてくれた。煙草を取り出すと、一本渡してくれた。KOOL MILDS、お揃いの煙草。ライターでお互いの煙草に火を点けあう。2005-05-09 00:24:00 -
146:
舞
?しおり?
主人公と名前同じだし、何年か前の私と被る部分があるのでかなり感情移入して読んでます?もしかしてサクラさんにどこかで見られてたのかな!?(笑2005-05-09 00:46:00 -
147:
?桜?
しおり?_
2005-05-09 00:57:00 -
148:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
舞さん、そうなんです?実は影から(・_・|コッソリ覗いてたんです?笑
?桜?さん、しおりありがとうです??2005-05-09 16:22:00 -
149:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「あのね…あたし本当はスナックで働いてるんじゃないの。風俗なんだ。」
「うん。」
「それでね、歳も18じゃないの、17なんだ…。」
「そっか…。」2005-05-09 17:29:00 -
150:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
断片的に話すあたしの言葉に、主馬は促すわけでもなく優しく相づちを打ってくれる。
「汚いって思われたくなくて嘘ついてたの。ごめんなさい…。」
「いいよ。」
主馬はにっこり笑ってあたしの頭を撫でてくれる。2005-05-09 17:31:00 -
151:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「鞠香っていうのも本名じゃないの。店名なの。本名は舞っていうんだ。」
「舞、か。わかった。」
主馬がゆっくりと噛み締めるように言う。
「それからね、本当は今日で主馬に会うの最後にしようと思ってたの。」2005-05-09 17:34:00 -
152:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「ふむ、なんで?」
「主馬に、迷惑かけたくない。あたし、主馬の事好きだから主馬がはっきりしてくれないのが辛い…。」
語尾が震えた。あたしはいつしか泣いていた。
「舞…。」2005-05-09 17:36:00 -
153:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
主馬が何か言おうとした。
「でもねっ、いいの!もういいんだ。」
《――恐い!!聞きたくない!》
「舞?聞いて…」
主馬に拒否されたくなくてあたしは喋り続けた。2005-05-09 17:39:00 -
154:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「いいのっ!!いらない子だもん。…大体、主馬みたいな大人があたしみたいな子供の相手するわけないってわかってたし?はっきり言って迷惑だったでしょ?ごめんね〜?」
あたしは主馬が口を挟む隙がないようにまくしたてた。泣きながら、無理矢理笑った。2005-05-09 17:43:00 -
155:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
痛い子になればイイ。そうしたら主馬は、あたしを嫌ってくれる。はっきりとした態度で断ってくれるだろう。でも…
本当は、嫌われたくない。むしろ好いてほしい。2005-05-09 17:45:00 -
156:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
主馬以外いらないの。だけど手に入らないのはわかってるの。
あなたにとって都合のいい存在でいいって思ってたの。だけどそれに耐えれるほどあたしは大人じゃない。
でも好きなの。どうしようもないくらい好きなの。2005-05-09 17:52:00 -
157:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「舞っ!!」
《えっ…?嘘。》
あたしは主馬の腕の中に居た。
《主馬に、抱き締められてる…?》
「俺が、悪かった。」2005-05-09 17:55:00 -
158:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
主馬が辛そうに言った。「本間は嬉しかってん。好きって言ってくれて…。でも俺、人が信用できんから舞の事も信用できんかった。どうせすぐ飽きて離れていくわって、俺の事騙そうとしてるんやって。…でも信用する。舞の事信じる」
2005-05-09 18:00:00 -
159:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「主馬…。」
ウレシイ…だけど、あたしは…。
脳裏を過る、仕事中の自分。媚びた顔で親父のナニをしゃぶる自分。全身を舐めまわす自分。気持ち良くもないのによがりながら嬌声をあげる自分。
汚いんだよっ!!!2005-05-09 18:43:00 -
160:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
《あ…。》
「舞?」
急に黙り込んだあたしの顔を、主馬が心配そうに覗き込む。
触れちゃ、いけない。あたしは汚いんだ。2005-05-09 18:45:00 -
161:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「ありがと…。信じてくれて嬉しい。今日はもう帰るね…。」
あたしは微笑んで、そっと主馬から身を離した。
「わかった。また夜連絡するな?下まで送るわ。」
主馬が安心したように灰皿と空き缶を捨てながら、答える。2005-05-09 18:48:00 -
162:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
エレベーターに乗り込む。
「舞、辛い思いさせてごめん。俺にとってお前はいらない子じゃないから。」
主馬がそう言って身を屈めた。そっとあたしの頬に手を添える。
柔らかく、暖かい物があたしの頬を掠めた。2005-05-09 18:51:00 -
163:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
主馬の唇が触れた、そう認識するまで一瞬間が空いた。驚いて主馬の顔をまじまじと見てしまう。
「何さ?」
ぶっきらぼうに答える主馬の頬が赤く染まっている。2005-05-09 20:24:00 -
164:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
何故か悲しかった。
その後も、主馬がそういう素振りを見せる度、何故だかわからないけれど悲しくなった。
嬉しいのに…悲しい。
近くに感じて、でも遠く感じた。2005-05-09 20:27:00 -
165:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
最後、と決めていたのに結局あたしは主馬に会いたくなってまたこの店にいる。ホスト用語や営業の仕方も知識が増えた。
あたしは、間違いなく色営と呼ばれる営業をされているんだろう。2005-05-09 20:44:00 -
166:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
諦めにも似た感情と僅かな期待。そして感じる安心感。
恋人という関係はいつかは終わりがきてしまうかもしれないけれど、お客とホストという関係なら彼が辞めない限り、終わる事はない。自分を指名してくるお客の気持ちが、今ならわかる。2005-05-09 20:47:00 -
167:
名無しさん
?
2005-05-09 20:51:00 -
168:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
優しい奥さんと、子供がいながら週に一回「パチンコに行ってくる」と言って風俗に来ている客。仕事中に抜け出してきて抜いて帰る客。地元に婚約中の彼女を置いて、単身赴任している客。
みんな相手が居ても居なくても、風俗に来ている。そしてその場だけの疑似恋愛を楽しんだり、店外デートに誘ったりする。2005-05-09 20:52:00 -
169:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
172さん、読んでくれてありがとー???
2005-05-09 20:53:00 -
170:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
客に対して嫌悪に近い感情を抱いていた。何故相手がいるのにこんな所に来るのだろう、と。蔑んでいた。
だけど今ならわかる。結局あたしも主馬との、僅かなお金の上に成り立つ儚い関係に安らぎを感じているのだから。
客もあたしも、夢が見たいのだ。日常の中で感じる不平不満。それを非日常的な世界に行く事で忘れてしまいたいのだ。2005-05-09 21:43:00 -
171:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
あたしに客を蔑む権利などない。
贋物の色気。
贋物の愛情。
贋物の言葉。
贋物だからこその魅力。それに酔い痴れるのは、男も女も同じなのだから。2005-05-09 21:46:00 -
172:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「舞…誰とメールしてるん?」
あたしが携帯をいじっていると、他の席を廻ってきた主馬が座りながら手元を覗き込んだ。
「んー?この前仕事場の先輩に連れて行ってもらったホスクラの指名した子。」2005-05-09 21:50:00 -
173:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「何それ。聞いてない…」 主馬の顔が曇る。怒ったように、拗ねるように口を尖らす。まるで小さい子供のようだ。
「あぁ、言ったら怒ると思って。」
「後でも怒るわ!!浮気ですか〜」
主馬が恨めしそうにじーっとあたしの顔を見る。2005-05-09 21:53:00 -
174:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「そんなんじゃないよ。」 あたしはそう言って携帯を閉じて鞄の中に投げた。
「はいっ!もういじりません!」
そう言って万歳をするように両手をあげる。それを見て主馬は少し機嫌を直したようだった。2005-05-09 21:57:00 -
175:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「ふわ…眠ぃ。。」
あたしは機嫌を直してまた他の席に行った主馬を見送って、携帯を掴むと店の外に出た。2階分ぐらい下に降りる。たまに店の従業員が外に出てきて電話するからだ。2005-05-09 22:00:00 -
176:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
時刻はもう午前5時を過ぎている。同ビルでまだ開いているのは、主馬の店だけだ。
店の音は2階下に降りても微かに聞こえてくる。
あたしは携帯を開いてリダイヤルを押した。
発信>>>>優真くん2005-05-09 22:04:00 -
177:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
優真、というのはさっきメールをしていたホスト。店の先輩と仲良くなって連れて行ってもらったホストクラブの男の子。入店してまだ半年も経っていないという彼は、初々しさに溢れていた。
主馬とはまったく違う、正反対のタイプの男の子。マメなタイプで、店にほとんど行っていないのにメールや電話をしてくれる。2005-05-09 22:21:00 -
178:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
営業してくる訳でもなく普通に連絡をくれる。ホスト用語にある、育て、というやつかもしれないけれど、あたしはよく主馬の相談をしていた。
「はいはーい!もしもし」
優真が元気よく電話に出た。2005-05-09 22:24:00 -
179:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「優真、おはよー。今電話しても大丈夫?」
「大丈夫だよ!店ってか俺めちゃ暇だし」
優真が笑いを含んだ声で喋る。
「どしたん?なんかあったん?舞ちゃんまた例の口座くんのとこで飲んでるの?」2005-05-09 22:27:00 -
180:
名無しさん
舞の源氏名はなんて読むの?
続き頑張ってください??2005-05-10 01:58:00 -
181:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
185さん、応援ありがとうです?舞の源氏名は鞠香と書いてマリカと読みます?
2005-05-10 03:00:00 -
182:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「ん…。馬鹿だよねぇ、意志薄弱で」
あたしは苦笑いしながらぼやいた。
「そんな事ないけど、大丈夫?辛くない?」
優真が心配そうに聞いてくる。その声は静かで、心底あたしを心配してくれている調子だ。2005-05-10 03:08:00 -
183:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「まだ、今日は平気…」
そう答えてエレベーターホールの壁にもたれた。そのまましゃがむ。
…シュッ!ジジジ
煙草が小さく音を立てて燃えた。すうっ…思いっきり吸い込んだ。
「じゃあ【アレ】は出てないんだね?」2005-05-10 03:27:00 -
184:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
優真が念を押すように聞いてくる。
「だぁいじょうぶ!まだそんなに酔ってるわけじゃないし。平気だよー」
「そっか。ならいいんだけど。俺仕事戻るからまたメールするね?」
「うん、ありがとー!また後でね?バイバイ。」2005-05-10 03:39:00 -
185:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
電話を切って、ぼんやり煙草の火を眺める。灰色と白の中から見える、朱色の火。
《キレイ…》
微かに聞こえる誰かの歌声。でもそれ以外は静かで自分には関係ない物のような気がする。
あたしは、優真の言っていた【アレ】というやつが起きそうになるとこうやって逃げた。2005-05-10 03:48:00 -
186:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
それは時々起きた。苦しくって堪らない。
急に不安になる。原因はわからない。胃の辺りが引きつるような、まるでジェットコースターに乗っているような、胸がすぅっとなる感覚。
涙が溢れ出てくる。2005-05-10 03:53:00 -
187:
?ゅりぇ?
完結してほしくない??な?んて??でもサクラさんの小説はホンマに続きが気になります??ハラ??ドキ??無理なく頑張って?サィ??
2005-05-10 05:19:00 -
188:
舞
?しおり?
やっぱり見られてましたか(笑 続き楽しみにしてます(^_-)舞ちゃんには幸せになってほしいなぁ…2005-05-10 14:22:00 -
189:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
?ゅりぇ?さん、完結…でも今回のは思ってたより長くなりそうです?あたしも主人公や登場人物が予想外の事をしたり、言ったりするのでハラ?しながら書いてます?応援ありがとう?
舞さん、見てましたよぉ〜( ̄〜 ̄)ξ笑 冗談はさておき、あたしも舞には幸せになってもらいます?ってかならせる??しおり、ありがとうです???2005-05-10 15:53:00 -
190:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「なにしてんの?」
突然声を掛けられて、あたしは驚いて非常階段の方を見た。そこにはお酒で顔を赤くした主馬が立っている。
「はぁ〜酔った。」
主馬があたしの横に座りながら、頭を抱える。
「スーツ、汚れちゃうよ?」2005-05-10 15:56:00 -
191:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「いいよ、別に。おいで?」
主馬はあたしを横手で抱き締めた。
「…何?急に。なんかあったの?」
あたしの問いに、主馬が肩に顔を埋めながら首を横に振る。2005-05-10 15:58:00 -
192:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「寂しい…」
主馬が呟いた。その声があたしの心に引っ掛かる。「なんで?傍にいるじゃない…。ほら、傍にいるよ?」
あたしはどうしたらいいかわからなくて、主馬の背中に手を廻した。
「違う。舞は傍にいてくれるけど、俺に距離置いてる。俺の事信じてないやろ?こんな仕事してて信じろって言う方がおかしいけど」2005-05-10 16:03:00 -
193:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
主馬の言葉の一つ一つがあたしの心に刺さる。図星だった。
あたしは、主馬を信用していない。好きだけど、割り切ろうとしている。でないと辛いから…耐えれないから。
「あたしは…」
その先を続ける事ができない。自分の気持ちを表現できない。2005-05-10 16:06:00 -
194:
削除削除されますた
あぼ~ん -
195:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「ちが、う。主馬はあたしが好きなんじゃ、ないよ」 息が詰まりそうになる中で、あたしは吃りながら言った。
「え…?」
主馬が拍子抜けしたように顔をあげた。あたしは、主馬の目をまともに見る事ができない。2005-05-10 16:13:00 -
196:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「だって、主馬はあたしに触れてくれないじゃない」
すうっと息を吸い込む。 泣きそうになる。
「あたしが、汚いからなんでしょう…?」2005-05-10 16:16:00 -
197:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「舞!?」
主馬が驚いたようにあたしの名を呼んだ。
「風俗なんかやってて汚いもんね?触りたくないよね?だって性欲処理してお金もらってさ、汚いよね、気持ち悪いよね?」
―――毒。あたしの内に蓄まったどす黒い汚い毒が吐き出されていく。2005-05-10 16:19:00 -
198:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「あたし、主馬が横にいてくれさえいればいいと思ってた。抱き締めてくれなくてもいい、横にいてくれればそれだけでいいって」
止まらない、言葉が、感情が溢れ出てくる。
…やだ、あたし今すごく醜い顔してる。
「…なのに、止まらないの!主馬を独占したくなるの!他の人になんか見せたくない!声も聞かせたくない!触らせたくない!」2005-05-10 16:24:00 -
199:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
最後の方は、泣き声と叫び声が入り交じったような情けない声になっていた。
「舞っ!!」
主馬があたしの肩を掴んで揺さ振る。
「…ごめんね。こんな、醜い…浅ましい。」
体が震える。笑おうとしたけど、声にもならない。2005-05-10 16:28:00 -
200:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
「あたしは、いらない子でしょう…?」
主馬から身を離した。
…もう、どうでもいいや。何も考えたくない。
「舞…?」2005-05-10 16:31:00