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小説:砂の城
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1:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
フィクションです。よかったら読んでみてください。
2005-05-03 21:23:00 -
119:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
あたしの頬に、堪えていた涙が伝い落ちる。
《雨…か。ちょうどいいや。》
…全部流れてしまえばいい。あたしのこの涙も、主馬への想いも。雨が全てを流しきってくれればいい。
はっきりとしない主馬の態度も、それに対するあたしの中の苛立ちも、全て流れてしまえばいいのだ。そうすればこんなに苦しい想いもしなくて済むのに。2005-05-08 17:34:00 -
120:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
いつまでも降り続ける雨の中で、あたしは人目も気にせず泣いた。声を押し殺して泣き続けた。
《なんで、こんなに切ないんだろう。》
あたしの知っている恋は相手の事を考えるだけで、胸が熱くなるようなワクワクするものだった。2005-05-08 17:36:00 -
121:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
それが今では苦しい。心臓を鷲掴みにされたような苦しさ、息が、できなくなる。主馬の事を考えただけで泣きたくなる。
まだ幼かった私。それが本物の恋というものだという事に、すぐには気付かなかった。2005-05-08 17:39:00 -
122:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
決してあたしを拒まない彼。だけど完璧に受け入れもしない彼。
《あたしの事、どう思ってるの?》そんな簡単な質問もできない。恐い…。
拒絶しないで。愛してよ。嫌わないで。受け入れて。あたしを認めてよ。必要として。例えそれがお客でも構わないから。2005-05-08 17:43:00 -
123:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
そんな状態が半月以上続いた。精神的に限界だった。幼すぎるあたしの心は、時間をかける、という行為に耐えきれなくなってきていた。
「ねぇ、好きか嫌いかはっきりしてよ。」「信じてよ、裏切ったりしないから。離れないから。」「主馬が好きなの。お店以外で会えなくても我慢するから。」2005-05-08 17:46:00 -
124:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
もう飽きる程繰り返した言葉。そしてそれに返される言葉も聞き慣れたものになっている。
「あかんって。俺は鞠香ちゃんが思ってる程良い人間じゃないから。」「俺はおかしい人間やから。壊れてるから自分がしんどいだけやで?」「彼女になっても店に呼ぶで?俺そうやって尽くしてもらわな不安やから。」2005-05-08 17:50:00 -
125:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
そこまで言われているのに、何故かあたしは離れなかった。彼を追い続けた。
そんなあたしに根負けしたのか、彼はぽつぽつと過去の話をしてくれた。
ホストになった理由。初めての接客で色枕しかできなかった時代。彼女ができても長続きしなかった事。家族構成、自分が家族や親類の中でどういう立場なのか全て話してくれた。2005-05-08 17:54:00 -
126:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
初めて風嬢と付き合った時の事。別れた理由、別れる時に言われた台詞。
「どうせホストやから。」それが何度も続いて人間不信になった事。
話を聞き終わった時、店はもうラストソングが流れていた。2005-05-08 17:57:00 -
127:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
あたしは以前、自分の過去の話をした事があった。その時に彼はあたしの事を理解してしまった。そして彼の過去を聞いた今、あたしも彼を理解した。
どちらかが病めば、慰めるもう一人も間違いなく病む。そして今度は慰められていた方が慰める。悪循環の関係。
だけど全てを理解してしまう、そして理解してくれるから離れられない。2005-05-08 18:07:00 -
128:
サクラ ◆sfmh9zaJHs
だけどもうあたしには後戻りできなかった。例えこの先、彼があたしを金だけの女としか見てくれなくても、構わない。彼がホストである限り、あたしは彼から離れない。
彼以外いらない。他の誰も。親なんてとっくの昔に縁を切っている。友達とはとても言えないような、携帯のメモリを埋めるだけの人間なんていらない。
主馬だけでいい――2005-05-08 19:47:00