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3Ldkの城・?
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1:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
?は、↓です。
http://bbs.yoasobiweb.com/test/mread.cgi/yomimono/1132987687/-52005-12-19 14:05:00 -
454:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
皆さん、本当にいつもありがとうございますo(_ _*)o
2006-01-18 08:54:00 -
455:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
コトン…。
部屋へと戻った千草は、棚の横に立ててある鏡に自分を映した。
頬を縦に切る…一筋の跡。
彼は、指先でそれを消していく。
もう…彼女を忘れなければならない。2006-01-18 14:43:00 -
456:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は濡れた指先を擦り、ポケットから煙草を取り出した。
煙を吸い込み…ゆっくりと吐き出す。
だが、うまく吸うことが出来ない。
吸って吐く中で、唇は震え…涙が溢れてくる。
彼は声を押し殺し、一晩中…涙に溺れていた。2006-01-18 14:47:00 -
457:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「俺もこの部屋出ていくから、3月の末までに…部屋見つけといて」
朝を迎え、2人がリビングに顔を出すと…陽平は玄関で靴を履いていた。
背を向けたまま、淡々と用意を済ませた彼は、先に部屋を出ていく。
残された2人は、数回会話を交わし…仕事場へと向かった。2006-01-18 14:56:00 -
458:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「桜井、これ。基盤先のリストや」
騒がしい社内で、上司から束ねた資料を受け取る陽平。
彼は、デスクにヒジをつき…それを眺める。2006-01-18 15:00:00 -
459:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
紙を持つ手は、脳内に浮かぶ記憶によって停止する。
…元嫁が言った…最後の言葉。
震える指先は、紙にシワを作り出す。
陽平は、険しい顔で…一点を見つめていた。2006-01-18 15:04:00 -
460:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
確かに、妊娠がキッカケで…俺たちは結婚した。
でも、愛してなかった訳じゃない。
…若すぎたから、余裕がなかっただけ。
俺は…俺なりに頑張っていた。2006-01-18 15:07:00 -
461:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
生活費を稼ぐ為に…仕事に打ち込んできた。
でも…彼女の言うとおりかもしれない。
心のどこかで、自由を失ったことを…恨んでいたかもしれない。2006-01-18 15:10:00 -
462:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
昔から…そうやった。
俺は、いつも同じ理由で人を失ってきた。
自分でも…自覚している理由。
…俺は、人と…深く付き合えない。2006-01-18 15:12:00 -
463:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
人に近づくときも、触れ合うときも、いつだって…俺は一線を引いている。
別に意識をして…引いているわけじゃない。
ただ、深く…込み入ることが出来ないだけ。
そうやって、何人もの人間を振り払ってきた。2006-01-18 15:15:00 -
464:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
元嫁にも…花にも、同じ理由で突き放してきた。
自分にいっぱいいっぱいで、自分が一番大切で、面倒なことから…逃げてばかり。
でも、愛してなかったわけじゃない。
こうするしか…出来なかった。
こんな風にしか、愛せなかった。2006-01-18 15:18:00 -
465:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
…その日から数日間、3人は別々に…部屋を見つけていく。
「ここと…ここに書いてほしいねん」
3月の末を目前にした…休日。
花は、父親の家に訪れていた。2006-01-18 15:23:00 -
466:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そこは、以前とは打って変わった空気が佇んでいる。
あの親子が出ていった…殺風景な家。
保証人を原因に部屋は見つからず、花は唇を噛んで…父親に連絡をした。
予想外に、事は淡々と進んでいく。
父親は嫌がることもなく、静かに受け入れてくれた。2006-01-18 15:31:00 -
467:
きさ
主さん頑張ってね?
2006-01-18 15:33:00 -
468:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「…また、家に…遊びにおいで」
最後の箇所にハンコを押しながら、父親は…弱々しく囁いた。
その言葉を耳に、花は父親をジッと見つめた。
こぢんまりとした…体。
あんなに大きく威圧感を漂わせていた父親は、いつのまにか…こんなに小さくなっていた。2006-01-18 15:40:00 -
469:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
きさサン、いつも応援ありがとo(_ _*)o
2006-01-18 15:41:00 -
470:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「ちゃんと…ご飯食べてるん?」
花は、ポツリと小さく声をかけた。
「最近は…コンビニ弁当やな」
父親は下を向いたまま…答える。
家に訪れてから、初めて交わす…まともな言葉。2006-01-18 15:47:00 -
471:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「ありがと。じゃあ、また…来るわ」
玄関のドアノブを手に、花はクルリと後ろを振り返る。
父親はコクリと頷き、優しく微笑んだ。
少し開けたドアの隙間から…明るい光が射し込んでくる。
花は腕の動きを止めて、顔をしかめた。2006-01-18 15:51:00 -
472:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そして、鞄の中から書類を取り出す。
不思議そうに見る父親の視線を背に、彼女はそれをゆっくりと破いた。
「お前っ…」
突然の行動に、父親は身を乗り出し…草履を履いた。2006-01-18 15:54:00 -
473:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「お父さん、あたしの料理…食べたことなかったよな?」
花はニコッと振り返る。
父親は眉間を寄せたまま、口を少し開いた。
「…コンビニ弁当よりは、おいしいと思うで」
そう言って、彼女は優しく笑みを見せた。2006-01-18 15:58:00 -
474:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
外から入り込んでくる、暖かい季節の風。
…もうすぐ春。
まだ…それは冷たくて、肌は慣れていない。
花は、父親と住むことを…決意した。2006-01-18 16:02:00 -
475:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「誕生日、おめでとう」
3人で過ごす最後の夜、花は千草と2人で…陽平を祝う。
そこは、花のときみたいに…出来る限り部屋を華やかに飾っていた。
玄関口で立ち尽くす彼は、驚いた表情で足を近づけてくる。2006-01-18 16:14:00 -
476:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
鮮やかな色を広げた料理、数本のローソクに灯る…暖かな赤。そして、それに照らされた柔らかな微笑み。
視界に映る…淡い空気に、陽平の胸は罪悪感を点滅させていく。
「ほら、火ぃ吹いてっ」
花は、呆然と立つ彼に声をかけた。2006-01-18 16:22:00 -
477:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
陽平はゆっくりと腰を下ろし、息を吹いていく。
火が消えると共に、真っ暗になる部屋。
千草はスクッと立ち上がり…電気をつけようとした。
そのとき、陽平の声が微かに聞こえてくる。2006-01-18 16:26:00 -
478:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「…ごめんな」
乱れた呼吸に揉まれながら、囁かれる言葉。
静かな空間に、鼻水をすする音だけが流れていく。
…今まで自分のことばかり考えてきた。
そんな俺に、2人は最後まで優しく…過ごそうとしてくれる。2006-01-18 16:30:00 -
479:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
泣き崩れる彼に心を打たれながらも、2人は賑やかに振る舞っていく。
3人で過ごす最後の夜は、今までで1番…心を通わせることの出来た時間になった。2006-01-18 16:35:00 -
480:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「じゃあ、これ」
「今までありがと」
翌朝…最後の荷造りをする陽平に、花と千草は鍵を手渡していく。
赤と水色のリボンをくくりつけた…同じ鍵。
陽平は、それを受け取ると…ポケットにしまい込んだ。2006-01-18 16:41:00 -
481:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
千草は、彼のポケットを眺め…深呼吸をする。
そして、足元に置いていたバックに手を伸ばした。
「じゃあ、俺…行くわ」
そう言って、部屋を後にする。2006-01-18 16:44:00 -
482:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
彼を見送った後、残された2人は顔を見合わせた。
「…じゃあ、あたしも」
気まずさが広がる前に、花は彼から目を逸らし…荷物を背負う。
「また、遊ぼな」
花は、その言葉を置いて靴を履いた。2006-01-18 16:47:00 -
483:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
…この部屋の匂いも、最後。
花は、ゆっくりとそのドアを閉めた。
…初めてこの場所にきた日が、つい最近のことのように思えてくる。
一段一段…階段を踏みしめる度に、今までの数ヶ月が蘇っていた。2006-01-18 16:53:00 -
484:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「100均…行こっかな」
花は、階段を下り終わると…ポツリとつぶやいた。
そして、コンクリートの建物に背を向け…歩き出す。
一方、ひとり残された陽平は…再度荷造りを進めていく。2006-01-18 16:58:00 -
485:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
電気を消した…数々の部屋には、たくさんの思い出が詰まっている。
元嫁や子供と過ごした日々。そして、花や千草との…賑やかな空気。
それは、全て…ダンボールの中には入らず、今も余韻を広げている。
違う形にすることが出来たのかもしれない。
彼の中で、様々な悔いが込み上げていた。2006-01-18 17:03:00 -
486:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「ありがとうございました。またお越しくださいませぇ」
店員の声を途切る…自動ドア。
花は、百円均一の店を後にし…父親が住む家へと足を進めていく。
そして上を向いた。2006-01-18 17:06:00 -
487:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
ふんわりとした雲を浮かべる、青の空。
彼女は白いナイロン袋をギュッと握りしめ、瞳を閉じた。
…長い冬が終わっていく。
2006-01-18 17:09:00 -
488:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
この数ヶ月、陽平と住んだことによって…素直な気持ちをもてた。
何年もの間、塞ぎ続けてきた想い。
結果は、実らなかった。
でも、後悔はしていない…。2006-01-18 17:12:00 -
489:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「やっと、前に進める…かな」
太陽の光に照らされた…彼女の表情は、どこかスッキリとしていた。
「さぁ、さっさとこれ片づけて…手料理食わせらな」
父親とは、少しずつ…話せるようになってきた。きっと、いつか…本当の親子に戻れる日が…絶対にくる。
花は、凛とした表情で家へと向かった。2006-01-18 17:17:00 -
490:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「よしっ、後は事務局行くだけやな」
荷物を全て運び終えた陽平は、ポケットに手を入れた。
2人から受け取った鍵を、手のひらで包み…眺める。
そして、リボンを外していく。2006-01-18 17:20:00 -
491:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「はぁ、やっと取れた」
きつく結びつけられた赤いリボンを外し、一息つく。
そして、千草の鍵に目を向けた。
「…あ、こっちはメッチャ緩い」
独り言を呟きながら、緩んだ結び目を解いていく。2006-01-18 17:24:00 -
492:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そして、目を見開いた。
水色の布には、鉛筆で記された…薄い文字。
それを眺め、彼の表情は重く化していく。
そして、リボンを強く握りしめ…部屋を飛び出した。2006-01-18 17:27:00 -
493:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「そろそろ気づくかな」
新しい部屋にたどり着いた千草は、時計を眺める。
彼は、昨夜…鍵を彩るリボンに願いを込めていた。
「…ほんまに、面倒くさい奴ら」
そう言って、ダンボールに入っている荷物を片づけていく。2006-01-18 17:32:00 -
494:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そのとき、突然…インターホンの音が部屋中に広がっていく。
千草は不思議そうに立ち上がり、玄関のドアを開けた。
そして、ポカンと口を開く。2006-01-18 17:34:00 -
495:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
彼の元に訪れたのは、事務員の彼女だった。
驚いた表情の千草は、少し下を見て…優しく微笑んだ。
「部屋片づけんの…手伝ってくれる?」
その笑顔は、昔の彼を映し出すかのようなものだった。
微かな希望の光が、彼に差し込んでいく。千草は、彼女に心を開き始めていた。2006-01-18 17:41:00 -
497:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
「買いすぎたかも…」
帰りしなスーパーに寄った花は、ナイロン袋を覗きながら歩いていた。
自然と3人分買う癖がついている。
花は、そんな自分をクスクスと笑いながら…顔を上げた。2006-01-18 17:44:00 -
498:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
そして、目が点になる。
2006-01-18 17:45:00 -
499:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
“松浦”と記した表札は、陽平の背中で隠されていた。
立ち止まる彼女は、呆然と彼を眺めている。
「…ごめん」
ポケットの中のリボンを強く握り、陽平は気まずそうに目を伏せた。2006-01-18 17:50:00 -
500:
芽衣 ◆rd1jJ3btsE
彼女の瞳は次第に潤んでいく。
「夕飯…食べてってよ。多めに買ってもたから…」
涙に濡れた笑顔で、彼へと走っていく。
花は、後悔を抱えた彼の胸へと飛び込んだ。
春を描くアスファルトには、ポトリと落としたナイロン袋と…重なる影。2006-01-18 17:56:00