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ハナ

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  • 1:

    名無しさん

    ハナが、口の右端だけを上げて笑う。



    何か企んでいる証拠。

    2006-11-27 03:04:00
  • 250:

    名無しさん

    かいてほしいです?

    2007-01-11 16:23:00
  • 251:

    紅音◆LTrx1cGfeo


    SIDE ハナ

    2007-01-16 06:35:00
  • 252:

    名無しさん

    なぁ、准ちゃん。

    あたしを怒る?

    2007-01-16 06:37:00
  • 253:

    名無しさん

    准ちゃん。准ちゃん。

    准ちゃんは、あたしのことを黒猫みたいって言ったけど
    准ちゃんだって、猫みたいだったよ。
    雪みたいに真っ白な白猫。

    2007-01-16 06:37:00
  • 254:

    名無しさん

    准ちゃん。        
    もしもあたしが黒猫で
    もしも准ちゃんが白猫だったら
    あたし達は
    幸せになれたと思う?

    2007-01-16 06:38:00
  • 255:

    名無しさん

    それとも
    誰よりも先に、准ちゃんに出会えてたら、あたしは変われてたんかな。


    2007-01-16 06:39:00
  • 256:

    名無しさん

    そっと、枕と、准の頭の間にあった右腕を抜く。それから、そのまま音を立てないように冷たい床に足を降ろした。
    あっという間に暖まっていた体温が下がる。
    寒い寒い冬の朝。
    大嫌いな季節。

    2007-01-16 06:40:00
  • 257:

    名無しさん

    寝癖だけ直して、スッピンをサングラスで隠して准の家を出た。
    冬なのにサングラスって…まぁいっか。

    コートの隙間から入ってくる風がうっとおしくて、あたしは急いでタクシーを捕まえた。目的地を口速に伝えた後は、窓から見える流れる景色に集中した。

    2007-01-16 06:41:00
  • 258:

    名無しさん


    −…なんか、やっぱ。
    小さいよな、人間って。

    2007-01-16 06:42:00
  • 259:

    名無しさん

    今まで意識したことなんてなかったはずなのに、やたら足音が響く廊下を擦り抜けて、もうちょっとで契約が切れるだろう自分の部屋の鍵を開けた。

    業者が来るのは3時半。あと一時間ちょっと。

    2007-01-16 06:42:00
  • 260:

    名無しさん

    たかが一週間帰ってきてなかっただけの自分の部屋に、やけに馴染めないまま、部屋の整理にかかる。
    とはいっても、全部。

    ‘いらないもの’−…

    2007-01-16 06:43:00
  • 261:

    名無しさん


    そう、付き合っていた。
    咲君とは。

    2007-01-16 06:46:00
  • 262:

    名無しさん

    昨日は准に、気付けば嘘をついていた。別に、隠そうと思ったわけじゃなかった。自分でも不思議だった。

    2007-01-16 06:46:00
  • 263:

    名無しさん

    CRUWで働きはじめたと同時に、居場所がなかったあの家は出た。もともとあたしは、『住む所なら用意するから!』そういった咲君のあの言葉に、付いていったようなもんだったから。

    《北新地》や《CRUW》が、どんな所なのかも知らなかったあの時のあたしは、このマンションを見た瞬間、とんでもない世界に飛び込んでしまったかもしれないと、速攻で後悔したっけ。

    2007-01-16 06:48:00
  • 264:

    名無しさん

    半年前。
    咲君と出会った、夏が始まりだしたあの日まで、
    あたしは、夜の世界っていうものを何一つとして知らなかった。

    2007-01-16 06:50:00
  • 265:

    名無しさん

    例えば、ピラミッド型の天辺に立つ金持ち達を。
    例えば、口から出る言葉全てに嘘が交じる会話を。
    例えば、どうみても本物の嬢と客の疑似恋愛を。
    例えば、嫉みでしかない噂と批判で埋め尽くされたサイトを。
    例えば、ありえない程もらえる価値のない大金を。

    2007-01-16 06:51:00
  • 266:

    名無しさん

    例えば、『色管理』と呼ばれる黒服達の仕事を。

    そう、多分。あたしが騙してきたお客さん達と同じように、あたしは騙されていたんだろう。咲君に。
    よく考えればわかっていたことなのに。

    2007-01-16 06:51:00
  • 267:

    名無しさん

    −ヘルプ周りばかりの時

    『頑張れ!応援してる!』
    最初は只の担当ボーイとしての励まし。がんばろうって思えた。

    2007-01-16 06:54:00
  • 268:

    名無しさん

    ナンバーが見えてきた時

    『頑張ってるなぁ!その調子やで!さすが俺が見込んだだけはある!』
    《特別》を匂わせる、の彼の励まし。もっと頑張ろうと思えた。

    2007-01-16 06:54:00
  • 269:

    名無しさん

    −ナンバーに入りだした時

    『好きやで。お前だけは特別。だから、お前も俺を支えて?頑張って。』
    ‘彼氏’としての励まし。もっともっと、頑張ろうと思えた。

    2007-01-16 06:55:00
  • 270:

    名無しさん


    もうとっくに、最愛の人になっていた。

    2007-01-16 06:56:00
  • 271:

    名無しさん

    そしてあたしは、三ヶ月で、NO1にまで上り詰めた。同時に、同棲生活も始まる。

    だけどNO1になることよりも、NO1を維持することのほうが、数倍きつかった。

    2007-01-16 06:57:00
  • 272:

    名無しさん

    だけど、咲君とお揃いの携帯だった。
    だけど、家に帰りさえすれば彼が待っていてくれた。

    何よりも、彼が好きだった。だから、頑張れた。

    2007-01-16 06:58:00
  • 273:

    名無しさん


    『むっちゃ好きやってん。むーっちゃ。』−…

    日が落ちれば嘘ばかりつくこの口も、昨晩准ちゃんに発したあの言葉だけは、嘘なんかじゃなかった。

    2007-01-16 07:00:00
  • 274:

    名無しさん

    来てみたものの、結局持って帰るものなんて一つもないこの部屋で、あたしは物思いにふけって時間を潰す。

    思い出したくない過去を、思い出してしまう時間はまだ十分にあった。

    2007-01-16 07:00:00
  • 275:

    名無しさん





    2007-01-16 07:01:00
  • 276:

    名無しさん

    なぁ准ちゃん。      
    黒い嘘ばかりで塗り固められた夜の世界は、想像以上に汚かったよ。

    だけど
    あたしはもっと汚い。

    2007-01-16 07:02:00
  • 277:

    名無しさん

    准ちゃん。        
    だから、やっぱり夜の世界はあたしに向いてるねん。 
    だって、黒は黒でしか塗り潰せない。

    そうやろ?

    2007-01-16 07:03:00
  • 278:

    名無しさん





    2007-01-16 07:03:00
  • 279:

    名無しさん

    咲君と、准は正反対だ。

    男らしくて、きつめの顔立ちの咲君。幼さが残る、女の子みたいにかわいい准。

    頭が良くって、何だって簡単にやってのける咲君。努力家で、ただひたすら頑張る准。

    2007-01-16 07:04:00
  • 280:

    名無しさん

    かっこいい大人の男、
    咲君。
    可愛い年下の男の子、
    准ちゃん。

    2007-01-16 07:05:00
  • 281:

    名無しさん

    だけど一つだけ、笑った顔が、二人は似ている。
    きれいな顔を、くしゃって歪まして、やんちゃに笑ったその顔が、二人は似ている。


    −…なんて、二人を比べて、あたしは何がしたいんだろう。

    2007-01-16 07:08:00
  • 282:

    名無しさん


    だけど、咲君と過ごしたこの部屋を片付けて、あたしが帰るのは今
    −…准ちゃんの部屋しかない。

    2007-01-16 07:09:00
  • 283:

    名無しさん



    たった一週間前のあの日。 

    ‘枕’と呼ばれる行為をあたしはした。

    2007-01-16 07:10:00
  • 284:

    名無しさん

    相手は、あたしの一番の太客で、彼はあたしをNO1にしてくれた。彼がいなければあたしはNO1にはなれなかった、そんな人だった。本当の名前なのかどうか、真実は知らない。だけどあたしは、宮崎さんと呼んでいた。

    きっかけなんて、些細なことだ。今では思い出せないような小さな理由で、あたしは咲君とケンカをしていた。その日は仲直りしないまま、宮崎さんと同伴するため家を出た。

    2007-01-16 07:11:00
  • 285:

    名無しさん

    待ち合わせ場所は、いつも通りの店の近くにあるBARで、相変わらず出勤前からお酒を飲まされた。
    ただ、宮崎さんがいつもと少し違うことには気付いていて、それが確信に変わる直前に、それ系の言葉を投げ掛けられた。
    笑ってかわせる雰囲気ではなく、断れば切れるんだろうなってことも、なんとなくわかった。

    2007-01-16 07:12:00
  • 286:

    名無しさん

    それでも、あたしは咲君が好きで。そんなこと出来る訳ない。

    断ろうと、カウンター席から立ち上がろうとした、その瞬間−…

    さっきケンカした時の、咲君の冷たい顔が頭に浮かんだ。何故か。

    2007-01-16 07:13:00
  • 287:

    名無しさん


    そして気付けば、頷いていたのだ、あたしは。

    2007-01-16 07:14:00
  • 288:

    名無しさん

    そう、咲君が好きだった。あたしの売り上げが落ちることは、店の売り上げが、彼の成績が落ちることになる。

    いや、そんなことより−…捨てられるのが、恐かったのかもしれない。
    あの、雪のように冷たい表情で。

    2007-01-16 07:14:00
  • 289:

    名無しさん

    長いだけのSEXは、気持ち良くも何ともなくて、ただ、SEXの間中、咲君のあのくしゃってなる笑顔と、あの冷たい表情を、順番に思い出していた。


    あたしが体を売ったのは、金の為なんかじゃない。
    咲君の為だ。

    2007-01-16 07:15:00
  • 290:

    名無しさん

    そんなことを頭の中で繰り返しながら、念入りに体を洗った。

    お風呂から出ると、満足そうに笑う、気持ちの悪い宮崎が、札束を渡そうとしてきたけど、受け取らなかった。ただただ、『死んでしまえ』って、祈りながら、笑って断った。

    だけど祈りは通じず、そしてそれは不覚にも宮崎を喜ばせることになった。じゃぁ今からでも店に行こうと誘われたけど、あたしはそれすらも断り、店に連絡も入れないまま家に帰った。

    2007-01-16 07:16:00
  • 291:

    名無しさん

    『咲君…、咲君。』頭の中は、最愛の彼だけでいっぱいだった。そうしなければ今にでも、あたしはあの暗い闇に引きずり込まれてしまう。あんな思いは、もう二度としたくない。


    早く、早く。
    今すぐ家に帰ろう、あたしと咲君の二人の家に…

    2007-01-16 07:17:00
  • 292:

    名無しさん

    そしてもう一度シャワーを浴びて、咲君と同じシャンプーの匂いで体を包もう。
    咲君とお揃いのあのマグカップに、咲君が大好きな甘いミルクティーを入れて、咲君が大好きなあのDVDを見て、咲君が帰ってくる頃には咲君の大好きなオムライスを作って待っていよう。大好きな咲君に、抱き締めてもらって、それから…−。

    2007-01-16 07:17:00
  • 293:

    名無しさん

    何かに追い掛けられているかのように、あたしは全速力でマンションに帰り、急いで家のドアを開けた。そしてそのまま力強く扉を閉め、何故かチェーンまでかける。

    息は荒く、バクバク鳴る心臓を一先ず落ち着かせてから、ヒールを脱いだ。

    2007-01-16 07:18:00
  • 294:

    名無しさん

    そして気付く、まだある靴と、人の気配。

    −…咲君だ!

    2007-01-16 07:18:00
  • 295:

    名無しさん

    なんで?遅刻したんかな?

    でも、そんなことはどうでもよかった。
    今すぐにでも、抱き締めてほしい。あの笑顔を、あたしに…−

    2007-01-16 07:19:00
  • 296:

    名無しさん

    マンションは3LDKで、手前からあたしの部屋、咲君の部屋、二人の寝室に別れていた。
    気配は一番奥の寝室にあり、あたしは迷わずその部屋へと足を向けた。
    近づいてから、初めてわかる、話し声。

    ふと、我に戻る。

    2007-01-16 07:20:00
  • 297:

    名無しさん

    何故か嫌な予感がして、あたしは耳をすませた。
    そして、確かに聞こえた。

    2007-01-16 07:20:00
  • 298:

    名無しさん


    《ナンバー落ちた瞬間、用ナシやって。》…−


    2007-01-16 07:20:00
  • 299:

    名無しさん





    2007-01-16 07:21:00
  • 300:

    名無しさん

    なぁ准ちゃん。

    『人なんて信じひん。』

    准ちゃんにそういったのはいつやったっけ。

    2007-01-16 07:22:00
  • 301:

    名無しさん

    なぁ准ちゃん。

    今は、一つだけ。

    信じてるものがあるよ。

    2007-01-16 07:22:00
  • 302:

    名無しさん





    2007-01-16 07:24:00
  • 303:

    名無しさん

    《終わり》が来るのはあっけない。

    あの言葉を発した直後に、彼はあたしの気配に気付いた。彼がドアを開けた瞬間に、セッタの煙が鼻に着いた。

    《この部屋でタバコ吸わんといてってあれだけいっつも言ってんのに…》

    2007-01-16 07:28:00
  • 304:

    名無しさん

    いつも冷静沈着な彼の、あんなに慌てた様子を見たのは初めてで、そしてそれはひどく滑稽にあたしの目に映った。

    彼は言い訳だろう言葉を並べていたけど、それは一切あたしの耳には届かず、ただ一言『やめる』とあたしに言わせただけだった。
    そしてそのままあたしは飛び出した。

    2007-01-16 07:29:00
  • 305:

    名無しさん

    あたしと彼の、嘘になった真っ黒な部屋から。

    持っていたのは
    家を出た時に持っていた、カバンと携帯と財布。真っ白なドレスだけだった。

    2007-01-16 07:29:00
  • 306:

    名無しさん

    一週間ぶりに、あの携帯を開いてみた。とは言ってもとっくの昔に電源は切れていて、一週間前と変わらない場所にある充電器を差し込んだ。

    電源が切れるまでの不在は全て咲君で埋まっていた。

    携帯の待ち受けに映るデジタル時計が3時20分を差していた。もう少しで業者がこの部屋を空っぽにしてくれるはずだ。

    2007-01-16 07:30:00
  • 307:

    名無しさん

    最後に。
    −メール問い合わせ−

    想像しながらそれをした。 
    −受信メール132件−

    2007-01-16 07:31:00
  • 308:

    名無しさん

    想像どおりの結果に、ため息をつく。

    2007-01-16 07:31:00
  • 309:

    名無しさん

    咲君 話くらい聞けや
    咲君 なんで電源切ってるん?
    咲君 心?頼むから電話出て
    宮崎さん 店辞めたんか?
    咲君 何してるん?今どこおるねん?

    2007-01-16 07:33:00
  • 310:

    名無しさん

    3日前。
    RAINに体験に行ったあの日。あたしはオーナーに電話を入れていた。
    CRUWを辞めること。どれだけ説得されても意志は堅いこと。しつこく止められたけど、あたしは最後まで曲げず、オーナーはしぶしぶと言った感じで了承してくれた。そして今日がマンションを引き払う手続きの日になったんやった。

    2007-01-16 07:34:00
  • 311:

    名無しさん

    そして咲君からのメールはその日を境になくなっていた。別にもう、なんとも思わなかった。だって、夜の世界は、嘘だらけやって、教えてくれたのは確かに咲君やったから。

    メールは途中で読むのを辞めた。と同時に業者がやって来て、あたしは全て処分してくださいと言った。

    2007-01-16 07:34:00
  • 312:

    名無しさん

    その‘全て’の中に、お揃いだった携帯をしっかりと置いて。携帯は、キャバ嬢の全てに近い。だけどもう、《ココ》はいない。だから、必要ない。

    宮崎を始めとする客も、咲君を始めとする店の番号も
    嘘だらけの客へのメールも嘘だった愛のこもった咲君からのメールも−…

    2007-01-16 07:35:00
  • 313:

    名無しさん

    一週間前までのあたしの、全部が今日なくなる。

    手続きの書類にさっさとサインをして、そのままさっさと部屋を出た。

    2007-01-16 07:36:00
  • 314:

    名無しさん

    虚しかった。
    だけどそれだけ。
    悲しくなかったし、切なくなかったし、怒りもなかった。

    それが何でなのかは、わからなかったけれど。

    2007-01-16 07:37:00
  • 315:

    名無しさん





    2007-01-16 07:38:00
  • 316:

    名無しさん

    准ちゃん

    今ならわかるねん
    その理由が

    2007-01-16 07:39:00
  • 317:

    めさ読んでる☆がんばれ

    2007-01-16 07:39:00
  • 318:

    名無しさん

    なぁ准ちゃん

    あたしも多分
    “一目惚れ”やったんちゃうかな。−…

    2007-01-16 07:39:00
  • 319:

    名無しさん





    2007-01-16 07:40:00
  • 320:

    名無しさん

    大量の更新ありがとぅござぃます??

    2007-01-16 07:45:00
  • 321:

    名無しさん

    応援してます?

    2007-01-16 07:45:00
  • 322:

    めっちゃ綺麗な書き方ですね。続き楽しみにしてます。
    頑張って下さい?

    2007-01-16 09:13:00
  • 323:

    紅音◆LTrx1cGfeo

    エントランスの二つ目の自動ドアが、あたしの体重を察知して、ゆっくりと外の風邪をあたしに当てた。
    と同時に目の前の大通りに一台のタクシーが止まった。赤信号が青に変わり、またたくさんの車たちはせわしなく走りはじめた。

    2007-01-17 08:16:00
  • 324:

    名無しさん

    彼が、あたしに気付く。
    真っすぐ見つめる。
    目が合う。

    2007-01-17 08:16:00
  • 325:

    名無しさん



    タクシーから降りてきたその人は…−まぎれもなく、咲君だった。

    2007-01-17 08:17:00
  • 326:

    名無しさん

    多分、一秒か一分か。あたし達はお互いを見つめ合い、そしてあたしは、たった一度の瞬きですら出来なくなる。

    −プァー

    遠くで、大きな音でクラクションが鳴って、我に返る。

    2007-01-17 08:18:00
  • 327:

    名無しさん

    そのまま、あたしは彼の力強いその目から視線を逸らした。
    彼のすぐ側を通り抜け、タクシーを捕まえようと右手を上げた。

    2007-01-17 08:18:00
  • 328:

    名無しさん



    『…−心!』

    2007-01-17 08:19:00
  • 329:

    名無しさん

    彼があたしの左手をつかんでそう言ったのと、タクシーがあたしの前に止まったのは、ほとんど同時だった。

    2007-01-17 08:19:00
  • 330:

    名無しさん



    −…嫌いだった。自分の名前。『心−こころ』。
    いい名前だね、綺麗な名前だねって、何も知らない他人はそういう。
    けどあたしは昔から、この名前を呼ばれるたびにびくびくしたっけ。大嫌いだった。名前、自分。ママ。

    2007-01-17 08:21:00
  • 331:

    名無しさん

    だけど、彼に名前を呼ばれるのはなぜか好きだった。きっと、この上なくやさしい声であたしを呼ぶから。まるで、割れやすいガラスのおもちゃに、触れるみたいにそっと、やさしく呼ぶから。



    あたしは、この上なく彼に惹かれたんだと思う。

    2007-01-17 08:24:00
  • 332:

    名無しさん


    …つかまれた左手が熱い。 
    今、あたしはこの手を振りほどいて、
    准ちゃんの元に帰る。
    帰るんだ。

    2007-01-17 08:25:00
  • 333:

    名無しさん

    繋がれていたあの日までの手を、振りほどいたのは咲君だよ。あたしを騙して、いらなくなったら捨てると言った。
    別に、信じてたわけじゃない。だけど、ただの一度も疑わなかった。

    2007-01-17 08:26:00
  • 334:

    名無しさん

    あたしのこと、好きなんかじゃなかったくせに。

    なのに。

    ねぇ、なんであんたが泣きそうなの?

    2007-01-17 08:27:00
  • 335:

    名無しさん

    なんで、前と変わらないやさしい声であたしを呼ぶの?

    ダメだとわかってて、振りほどけないのは、なんで? 

    2007-01-17 08:27:00
  • 336:

    名無しさん





    2007-01-17 08:28:00
  • 337:

    名無しさん





    2007-01-17 08:29:00
  • 338:

    名無しさん


    Return
    SIDE  准

    2007-01-17 08:30:00
  • 339:

    名無しさん

    ハナ。          
    お前がいれば、俺はそれだけで幸せで

    だけど
    お前を幸せにする方法を、俺は知らない。

    2007-01-17 08:31:00
  • 340:

    名無しさん

    なぁハナ。        
    幸せにしてやりたいと
    どんなに思っても

    俺じゃ咲君には勝たれへんのか。

    2007-01-17 08:32:00
  • 341:

    名無しさん


    PM6:00

    セットしていた携帯の目覚ましが鳴って、そのけたたましい音で目が覚めた。

    2007-01-17 08:33:00
  • 342:

    名無しさん

    今日からまた仕事か。



    《−−……だるっ。》

    2007-01-17 08:33:00
  • 343:

    名無しさん

    『あ、起きた?』
    ガチャリとドアを開ける音を立てて、キッチンから顔を出し、ハナが言った。


    『ご飯出来てんで?』

    2007-01-17 08:34:00
  • 344:

    名無しさん

    朝はやっぱり、味噌汁に限る。もう、夕方やけど。

    コンビニやインスタントばかりだった食生活が、どんどん正されていくのがわかる。だってなんか、最近調子がいい。

    2007-01-17 08:35:00
  • 345:

    名無しさん

    時間が気になって、不在やらメールを確認しようと携帯を手にとった。

    『ご飯食べてる時に携帯とかさわらんとって!行儀悪いで』

    2007-01-17 08:36:00
  • 346:

    名無しさん

    「お前はおかんか!笑」
    『死んでしまえ!おかんちゃうわ!笑』

    その会話に、今日初めてハナの顔をちゃんと見た。うん、今日も綺麗、綺麗。

    2007-01-17 08:36:00
  • 347:

    名無しさん

    視線を手元に戻し、母親の言うことを聞かない子供みたいに、ハナの言葉を聞かずに携帯を開いた。…と同時に、そのまま固まる。



    《えっ…−何これ。》

    2007-01-17 08:38:00
  • 348:

    名無しさん


    −不在着信28件。全部、非通知。

    『どうかした?』
    俺の驚いた顔を見てか、ハナが心配そうに俺に話し掛ける。

    2007-01-17 08:38:00
  • 349:

    名無しさん

    「いや、思った以上に時間無かったからびっくりしただけやで」
    そうごまかした。

    また嫌な予感がして、俺は急いで飯をたいらげて、早めに用意して家を出た。

    2007-01-17 08:39:00
  • 350:

    名無しさん

    『ちょっ…准〜?』
    「悪ぃ、先出るわ。
     はい、鍵。」

    キーケースからマンションの鍵だけを外してハナに渡した。

    2007-01-17 08:40:00
  • 351:

    名無しさん

    『ああ、うん。行ってらっしゃい!』

    ハナのその声を背中に聞いて、家を出た。車を飛ばして店に向かう。

    2007-01-17 08:40:00
  • 352:

    名無しさん

    気になる?

    2007-01-17 14:28:00
  • 353:

    紅音◆LTrx1cGfeo

    ありがとうございます??これから更新します?

    2007-01-18 04:29:00
  • 354:

    名無しさん

    …−2年前から変わってない、とペイントされた白い扉。緊張混じりに、それをそっと開けた。同時に、とりつけられたベルがカランと鳴る。休み前と、何ら変わりのない見慣れた風景が目に映る。

    《…−って、何を心配してるんやろ、俺。》

    2007-01-18 04:30:00
  • 355:

    名無しさん

    −PM7:00         
    開店まで、十分に余裕がある。俺はタバコに火をつけて、一番奥のテーブルに座った。営業中とは全く違う、静かな店内で、おれは自然と、昨日のハナの話を思い出していた。


    『むっちゃ好きやってん。むーっちゃ。』

    2007-01-18 04:31:00
  • 356:

    名無しさん

    あの言葉だけは、はっきりと言い切った、ハナ。
    笑い方は、あの笑顔と同じハズなのに、すごく悲しそうだった。

    思い出せば出すほど、何かが心にひっかかった。
    それは胸を苦しく締め付けたし、行き場のない苛立ちすら感じさせた。

    2007-01-18 04:32:00
  • 357:

    名無しさん

    俺にはいつだって、ハナに対する消えない不安があった。…多分、出会った時からずっと。
    そしてその不安は、余計に俺を切なくさせる。


    2007-01-18 04:33:00
  • 358:

    名無しさん





    2007-01-18 04:33:00
  • 359:

    名無しさん

    なぁハナ。        
    物語は、ハッピーエンドのほうがすっきりするのに、人は悲恋ばかりを聞きたがる。


    多分、いつかの自分と重ねてしまうから。

    2007-01-18 04:34:00
  • 360:

    名無しさん

    なぁ、ハナ。       
    あの時、お前が重ねてた物語は何?
    今、お前が重ねてる物語は何?

    ハッピーエンドか、それとも悲恋か…−

    2007-01-18 04:35:00
  • 361:

    名無しさん





    2007-01-18 04:35:00
  • 362:

    名無しさん

    ハナはきっと、いついなくなるかわからない。
    むしろ、絶対にいつかいなくなる。
    それはそんな不安。

    だから多分、ハナが明日いなくなったとしても、俺はそんなに驚かないと思う。

    2007-01-18 04:36:00
  • 363:

    名無しさん

    だってハナは黒猫やから。理由なんて無い。ただの気まぐれで俺の側にいるだけやから。
    だけど…−


    《どうすれば、お前を引き止めることが出来る?》

    2007-01-18 04:37:00
  • 364:

    名無しさん

    −…


    『あれ?准おったん!今日早いねんなぁ〜?』
    突然の声が聞こえ、入り口の方から現われたのは啓太。気付けば開店1時間前。いつの間にそんなに時間が経ったのか、だけど目の前の灰皿には、吸い殻が何本もたまっていた。

    2007-01-18 04:39:00
  • 365:

    名無しさん

    「お、おう。ちょっとな」
    そう短く答えて立ち上がった。別に、何をするわけでも無かったんやけど。

    『はよ〜っす!』
    カランカラン…また入り口のベルが鳴り、今度はのりちゃんが入ってきた。

    2007-01-18 04:40:00
  • 366:

    名無しさん

    『あ。店長!はよ〜っす!いたんすか?今日いつもの出勤前の電話なかったから、何かあったんかなとか思ってました!』

    …電話?

    「うわッ!!しまった!忘れてたわ〜…。」

    2007-01-18 04:41:00
  • 367:

    名無しさん

    急いで携帯を取出し、嬢達に電話をかける。     
    「あ。もしもしリナ?」  
    『おいおい。頼むで准ちゃん!』笑いながら、啓太がちゃかす。        

    《…准ちゃん言うな。》

    2007-01-18 04:42:00
  • 368:

    名無しさん

    「おう、おう。わかった、ありがとう。今日連絡遅なってごめんな?ん。ほなまた後で。」

    いつも通り、みんなに同じような電話を掛け終え、今日の出勤嬢の人数を確認する。1、2、3…発信履歴を見ながら、指を折って数える。後は…−

    2007-01-18 04:43:00
  • 369:

    名無しさん

    あれ?そういえば俺、ハナの携帯番号を知らない。…なんて、あの日から毎日一緒にいるのに、聞いてるほうが不自然か。まぁいっか。今日出勤したら聞いておこう。

    カランカラン。
    またベルが鳴る。キャバ嬢達のご出勤。
    今日も始まる、黒くて綺麗な、長い夜…−

    2007-01-18 04:43:00
  • 370:

    名無しさん

                 


                 

    2007-01-18 04:45:00
  • 371:

    名無しさん





    《まじか−…》

    2007-01-18 04:46:00
  • 372:

    名無しさん

    寒さで、指がかじかみ、感覚はもうない。だけど、手をポケットなんかに突っ込む余裕はない。
    だって、人は途切れず通り過ぎる。いつもなら来てくれる常連客も、暇だと泣き付いたら入ってくれる顔馴染みの客も、飲み遊んでそうな新規も、いつもと同じ様に、それなりに通り過ぎる。決して人がいないわけじゃない。なのに。

    2007-01-18 04:46:00
  • 373:

    名無しさん


    AM0:00

    Club RAIN
    −…来店客数0。

    2007-01-18 04:47:00
  • 374:

    名無しさん

    『今日は飲まんとくわぁ〜』−申し訳なさそうにそういった常連客。
    『もう話しかけんとってくれ。』−何故か切れ気味の顔馴染み客。
    『えッ?RAIN?なら辞めとくわぁ』−店前で引き返す新規客。       
                 
    《おかしい。絶対、何かおかしいって−…。》

    2007-01-18 04:48:00
  • 375:

    名無しさん

    ジージー
    丁度、嬢達の営業の様子を聞こうと手を伸ばしたインカムが鳴った。それから流れる啓太の言葉を聞き終える前に、俺の足は動いた。 
    エレベーターが上の階から降りてくる、その数秒さえ待ちきれずに階段を駆け上った。
    勢い良くRAINの扉を開ける。

    2007-01-18 04:49:00
  • 376:

    名無しさん

    「どういうことやねん!」             

    …あの、嫌な予感は当たった。           

    《玲花…》

    2007-01-18 04:50:00
  • 377:

    名無しさん

    [お前、ボーイの啓太と付き合ってるらしいやんけ]受信、リナ。       
    [もう行かんとくわ。俺等が行ってた時も、ぼったくりやったんか。]
    受信、美々。       
    [どうせ俺が帰った後には俺の文句を他のキャバ嬢達に言ってるんやろ?]
    受信、奈々。

    2007-01-18 04:53:00
  • 378:

    名無しさん

    完全な、潰し。


    そして、客引きに必死で気付かなかった、俺の携帯にも−…

    2007-01-18 04:54:00
  • 379:

    名無しさん

    [今まで可愛がってやっとったのに、恩を仇でかえしやがって、覚悟しとけ。]
    [19やそこらで舐めてんちゃうぞ糞ガキが。]
    [ずっと脅して殴ってたらしいな。お前最低やな。]
    [絶対潰したるからな!]

    2007-01-18 04:54:00
  • 380:

    名無しさん

    いざ携帯を手にとって見ると、それはひっきりなしに続き、なかなか携帯は鳴り止まなかった。

    看板の電気を消し、扉に鍵をかけた。うるさく響いていた店内のユーロビートも消した。
    静かになったRAIN。
    それぞれの携帯が出す、バイブの音だけがやけに響いて、そうでなくとも薄暗い店内を、空気ごと暗くする。

    2007-01-18 04:56:00
  • 381:

    名無しさん

    困惑した表情を隠せないボーイ。客達の、ひどい言葉や脅しに近いメールに、怯えた顔を見せる子もいる。みんな、自然と俯き、誰も何も話さない。

    ほんで俺は今、どんな顔をしてるんやろう。

    ただ一人、ハナだけが心配そうにずっと俺を見ていた。

    2007-01-18 04:57:00
  • 382:

    名無しさん

    こんなローカルで、噂が回るのは風のように早い。潰しを受けて、実際に潰された店の話だって少なからず聞いてきた。       
    けど、なんでこんな…ここまで、ひどいもんなんか。

    『玲花やろ。』
    誰が言ったのかはわからない、だけど誰かが言った。

    2007-01-18 04:58:00
  • 383:

    名無しさん

    《ぼったくり、客への悪口、質が悪い》そんなことは誰でも言える。

    だけどリナと啓太のことについては、店の奴らにしかわかるはずない。それも、昔からいた奴。

    犯人は、玲花に間違いない。

    2007-01-18 04:59:00
  • 384:

    名無しさん

    だけど、どうやって?   
    ブーッブーッ
    メールとは違うリズムで、俺の携帯が鳴った。携帯を開き、発信者の名前を見る。
    着信》》佐々木さん
    RAINの常連客。

    2007-01-18 04:59:00
  • 385:

    名無しさん

    「はいもしもし、准です」自分で、自分の声がひどく沈んでいることに気付いた。

    『准か?その声の様子じゃ、早速潰しの洗礼受けてるみたいやな!』

    反対に、少し楽しんでいるかのような明るい佐々木さんの声に、むやみに腹が立った。声を出した瞬間に怒鳴ってしまいそうで、それを押さえるために何も答えなかった。

    2007-01-18 05:00:00
  • 386:

    名無しさん

    『玲花、今SIXで働いてるわ。』

    佐々木さんのその言葉で、すぐに全てがつながった。

    SIXとは、店から100メートル程離れた所にあるキャバクラで、オープンした時期や、店のキャパ、セット料金など、全てが同じ、言ってみればライバル店だった。そのせいか、開店当初からなにかと張り合うことになり、オーナー同士も仲が悪かった。

    2007-01-18 05:01:00
  • 387:

    名無しさん

    絞りだすようにお礼だけ言って、電話を切った。
    「玲花、今はSIXで働いてるらしいわ…。」

    わざわざ言わなくたってわかる、その最悪な現状と、予想できるこれから先の店の状態に、皆はますます暗い顔に変わった。…もちろん、俺も。

    2007-01-18 05:03:00
  • 388:

    名無しさん

                                                    



    《俺のせいや…》

    2007-01-18 05:03:00
  • 389:

    名無しさん

    玲花のわがままにさえ目をつぶっていたら
    あの日、あんなやり方で玲花を切らなければ
    もっと先手を打っとけば
                 
    今更しても遅い後悔が俺を襲う。けど、俺は店長なんやから。しっかりせな、しっかり…−

    2007-01-18 05:04:00
  • 390:

    名無しさん



    手が震える。怒りか、不安か、後悔か。そんなことすらわからない。
                 
    《みっともねぇ。》

    2007-01-18 05:05:00
  • 391:

    名無しさん





    2007-01-18 05:11:00
  • 392:

    ゆいこ

    玲花…ヽ(*`Д´)ノ

    2007-01-18 08:18:00
  • 393:

    名無しさん

    しおりン(σ・∀・)σ

    2007-01-18 10:10:00
  • 394:

    名無しさん

    ??

    2007-01-19 05:00:00
  • 395:

    続き待ってます?

    2007-01-21 22:55:00
  • 396:

    紅音◆LTrx1cGfeo

    遅くなりました。これから更新します??応援等、ありがとうございます??頑張ります??



    2007-01-22 03:24:00
  • 397:

    名無しさん





    2007-01-22 03:24:00
  • 398:

    名無しさん

    数えきれない程ある色とりどりのネオンは、余りにも眩しすぎて直視出来ない。

    その癖、一つ一つで見ればただの小さな電球にしか過ぎなくて

    切れたら交換するだけ。

    2007-01-22 03:25:00
  • 399:

    名無しさん

    夜の象徴のネオンは、
    おれ等と一緒。

    輝かない電球なんていらない。使えなくなったら捨てるだけ。
    それが嫌なら…−

    2007-01-22 03:26:00
  • 400:

    名無しさん

    力尽きても光り続けるか
    それともそのまま消えていくのか…−
                 
    なぁハナ。        
    お前なら、どうする?

    2007-01-22 03:27:00
  • 401:

    名無しさん

    店中に広がる、重たい空気はますます重たくなるばかりで。その暗い雰囲気に、誰も口を開けなかった。
    このままじゃ、確実に潰れるclub RAIN。

    しばらく続いたその沈黙を、破ったのはハナだった。

    2007-01-22 03:28:00
  • 402:

    名無しさん

    『なぁ店長!今日はもう店閉めて、みんなで飲みにいこか!』



    「はぁっ…?!」

    2007-01-22 03:29:00
  • 403:

    名無しさん

    唇の、右端だけを上げて笑った。
    今、確かに見た。ハナのあの、癖のある笑顔。


    《何企んでる?》

    2007-01-22 03:29:00
  • 404:

    名無しさん

    想像すら出来なかったその言葉に、みんなが顔をハナに向けた。


    『啓太くんとりなさんの馴れ初めも聞きたいし!ねっ!』

    2007-01-22 03:30:00
  • 405:

    名無しさん

    なぁハナ         

    助けてもらったのは
    俺の方。

    2007-01-22 03:31:00
  • 406:

    名無しさん

    ハナ?          
    だから…−

    俺が重ねた物語は
    悲恋なんかじゃないで

    2007-01-22 03:32:00
  • 407:

    名無しさん





    2007-01-22 03:32:00
  • 408:

    名無しさん

    『やからなぁ〜、啓太は!信用出来ひんねん!でも好きやねんも〜…!!』   
    もしかしたらこいつは、明日意識が戻った瞬間、恥ずかしさで死ぬかもしれない。
    そんなことを考えながら、酔っ払いリナの発言に俺は笑い、ハナもにやにや。みんなも笑う。啓太だけがあきれ顔やった。      
     
    《この光景、死ぬほど玲花に見せたりたいわぁ…−》

    2007-01-22 03:34:00
  • 409:

    名無しさん

    笑い転げてはしゃぐ俺等は、たった2時間前の俺等とは、別人みたいやった。
    ハナのあの言葉に、重たい空気はあっという間に軽くなり、俺の中でも何かがはじけた。

    「よし、行こか!笑」   
    みんな口々に何か言いながら、それでも嬢達はドレスを脱ぎ、ボーイは車を回しに外へ出る。

    2007-01-22 03:36:00
  • 410:

    名無しさん

    レギュラー嬢五人、ボーイ二人、そして俺とハナ。
    みんな揃って、向かうは店から大分離れた小さな居酒屋。仕事とは違う酒は、いつもより一段とうまかった。

    それぞれ誰に煽られる訳でもなく、だけど大量に酒を飲んだ。酔っていても客席に着きさえすればしっかりするリナですらも、今はもうこの状態。眠そうにうつむせになり、机に顔を付けていた。

    2007-01-22 03:36:00
  • 411:

    名無しさん

    『準君…あたし、がんばるわぁ。RAIN、潰したくない。玲花なんかに

       …負けたくない。』 

    呟くようにそう言ったのが、確かに聞こえた。啓太も少し驚いたようにリナを見下ろし、だけどすぐにやさしい顔でほほ笑むと、彼女の頭をポンポンと撫でた。

    2007-01-22 03:37:00
  • 412:

    名無しさん

    『よっしゃぁ!負けるかこらぁ〜!』
    ろれつの回ってない舌で、のりちゃんがグラスを上げた。           
    美々と奈々はコクコク首を縦に何度も振る。なんかのおもちゃみたいで可愛かった。

    他の嬢達も、今まで見たことなかったいい笑顔。

    2007-01-22 03:39:00
  • 413:

    名無しさん

    『協力したるわ!しゃぁなしやで!笑』
    自信満々の顔を見せて、ハナはそう言った。


    《何様やねん笑》

    2007-01-22 03:39:00
  • 414:

    名無しさん

    「よっしゃ!はい上がんでRAIN!かんぱ〜い!」 
    グラス同士が勢い良く音を立てて、中に入った酒が揺れる。こぼれた水滴は照明にキラキラ反射して、白く眩しく綺麗だった。

    別に、力を合わせてとか、友情だとか、そんなん言うつもりもないけど。
    俺はここにいれて良かったと思った。それだけ。

    2007-01-22 03:40:00
  • 415:

    名無しさん

    《噂やで?なんでそんな噂信じるん?信じられへんわ…−》リナ。

    《そう思うんやったら、伝票でも何でも見せるよ?》美々。

    《あたしはただ、大切なお客さんやって、そう思いながら接客してるつもりでした》奈々。

    2007-01-22 03:41:00
  • 416:

    名無しさん

    一度失った信用を取り戻すのは簡単なことじゃない。だけど取り戻すしか道はない。

    《いろんな噂が出回ってますが、信じてください。それしか言えません。》

    俺はそれだけ伝えた。

    2007-01-22 03:42:00
  • 417:

    名無しさん





    2007-01-22 03:43:00
  • 418:

    名無しさん

    なぁハナ         
    お前とあの笑顔を、忘れられるわけない。      
    待ってるから。       
    俺はここでずっと
    待ってるから。

    2007-01-22 03:44:00
  • 419:

    名無しさん


    いつでも
    帰ってきてええよ

    2007-01-22 03:46:00
  • 420:

    名無しさん





    2007-01-22 03:46:00
  • 421:

    名無しさん





    2007-01-22 03:47:00
  • 422:

    名無しさん


    Return
    SIDE ハナ

    2007-01-22 03:52:00
  • 423:

    名無しさん





    2007-01-22 03:53:00
  • 424:

    名無しさん

    なぁ准ちゃん

    あの場所に帰りたい。

    今更、虫がよすぎるかもしれへんけど

    2007-01-22 03:53:00
  • 425:

    名無しさん

    ごめん、准ちゃん。

    それでも、あたしはあんたに会いたい。

    2007-01-22 03:54:00
  • 426:

    名無しさん

    詳しい事情を、少しだけリナさんに聞いた。あたしがRAINに来たその日にいなくなった、元 NO.1…−‘玲花ちゃん’

    会ったこともないその子に対して、あたしは別に何の感情も湧かない。だけど、RAINを、准ちゃんの店を、潰したくない。それだけははっきりと思った。

    『飲みに行こか!』あの日、あの言葉は気付けば口から自然と出ていた。言った直後には、さすがに少しの後悔もあったけど、今更引き下がれるわけもなく、そのまま強引な理由を付け足した。

    2007-01-22 03:56:00
  • 427:

    名無しさん

    だって准が、なんだか今にも泣きそうな顔をしていたから。あの日、あの瞬間。あたしを動かしたのはきっと、自分の中に生まれて初めて出来た、たった一つの感情だったと思う。



    《守ってあげたい。》

    2007-01-22 03:57:00
  • 428:

    名無しさん

    あたしは彼を好きなんだろうか。ううん、多分違う。 
    笑っててほしい。
    幸せでいてほしい。
    それだけだ。       
    例えばそこに、あたしはいなくても…−。

    2007-01-22 03:58:00
  • 429:

    名無しさん

    あの飲み会から一週間。准やリナさんを始めとするみんなの努力の甲斐あって、RAINは少しずつ、だけど着実にお客さんを取り戻していた。それでも、前ほどの売り上げには到底及ばないらしく、准は毎日のように、あれやこれやと忙しく走り回っていた。


    最近では、あたしがご飯を作っても食べたり食べなかったりで、心配になる。
    そしてあたしは、口いっぱいに頬張りながら、おいしそうに食べる准のあの顔が、大好きだった。だからそれを見れないのも、ちょっと淋しかったりした。

    2007-01-22 04:00:00
  • 430:

    名無しさん

    〜〜♪

    なんて、そんなことを考えていると携帯が鳴った。画面を開き、慣れない手つきでボタンを押して、新着メールを開いた。

    〔遅くなりそうやから、先に寝てていいで。〕

    2007-01-22 04:01:00
  • 431:

    名無しさん

    なぜ出たのか分からないため息を一つ着いてから、お風呂に入ろうとバスルームに向かった。少し熱めに設定してから、蛇口から出る水の温度を指先で確かめる。

    〔ごはんは?〕

    タオルでその濡れた指先を拭いた後、そう一言だけ返信した。その後、光沢のあるシンプルな黒色のそれを、ポンとベットの上に軽く投げ置いた。

    2007-01-22 04:02:00
  • 432:

    名無しさん



    …−『えっ?!お前携帯持ってないん?!』

    准は、ひどく驚いてあたしにそう聞き返した。黙ってうなずくあたしに、彼は何かを言い掛けたけど、すぐに辞めた。

    2007-01-22 04:03:00
  • 433:

    名無しさん


    彼のこういう所が、一番嫌いだった。
    だけど、一番助けられている所でもあった。

    2007-01-22 04:04:00
  • 434:

    名無しさん

    そして、次の日、『こっちやって!お前は絶対この色!』そう言って、あたしにこの携帯を買ってくれたのだ。

    機械音痴なあたしは、今まで着信音を変えたことがなく、いつも初期設定のままだった。だけど准は、それじゃ携帯の意味がないとかわけのわからんことを言い出して、勝手に変えた。  

    《電話とメール以外に何の意味が携帯にあんねん。》

    2007-01-22 04:05:00
  • 435:

    名無しさん

    〜〜♪
    また、携帯が鳴った。

    准が設定した着信音は、題名は知らないけれど冬のバラードで、とりあえず、幸せな歌ではなさそうだった。そういえば、准本人の携帯の着信音も、切なそうな失恋歌だったっけ。

    2007-01-22 04:07:00
  • 436:

    名無しさん

    返信の内容は見なくても分かる。
    〔今日は飯いいわぁ〜〕


    《今日は、じゃなくて今日も、やろがボケ!》

    2007-01-22 04:07:00
  • 437:

    名無しさん

    なんて、彼女でも何でもない、勝手に住み着いてるだけのあたしに、そんなこと言える権利なんてない。だけど、作った料理をこうしてバレないように捨てるのは、やっぱり悲しい。

    〔了解〜♪〕

    送信したと同時に、お風呂が調度良いタイミングで沸き、着替えを片手に、バスルームへ向かった。

    2007-01-22 04:09:00
  • 438:

    名無しさん

    《…汚い体。》

    お風呂は、あんまり好きじゃない。見たくないものを、どうしても見てしまうから。

    細いだけで、胸もお尻も小さい、貧相なこの体系は、あの人には似ても似つかない。だけど、お腹と胸下にある大きな切傷も、背中にいくつもある小さな火傷跡も、全部。あの人にもらった。

    2007-01-22 04:09:00
  • 439:

    名無しさん

    だから、どうしても…−。思い出さずにはいられないのだ、あの闇を。


    【…ママ?】

    2007-01-22 04:10:00
  • 440:

    名無しさん

    あたしは知っている。   
    どれだけ追い掛けても、受け入れられない愛を。
    どれだけ傷つけられても、追い掛けずにはいられない愛を。
    どれだけ受け入れて貰えても、傷つけられる愛を。  
    それは、永遠に終わらない堂堂巡り。黒い黒い闇。

    2007-01-22 04:12:00
  • 441:

    名無しさん





    2007-01-22 04:12:00
  • 442:

    名無しさん

    ねぇ准ちゃん。      
    この体に、たくさんのキスをありがとう。
    腕に、背中に、胸に、お腹に。頬に、唇に。

    暖かいキスをありがとう。

    2007-01-22 04:13:00
  • 443:

    名無しさん

    ねぇ准ちゃん

    もしもあたしが雪だったなら、溶けて消えてしまえたのにね。

    准ちゃんの、暖かいキスで、いなくなれたのにね。

    2007-01-22 04:14:00
  • 444:

    名無しさん

    准ちゃん。        
    あたしは今、口癖みたいに貴方の名前を呼んでるよ。 
    准ちゃん准ちゃん。    
    もうあたしには
    雪は降らない。

    2007-01-22 04:15:00
  • 445:

    名無しさん





    2007-01-22 04:22:00
  • 446:

    名無しさん

    ぉもろぃ!頑張って下さい!!

    2007-01-22 10:51:00
  • 447:

    名無しさん

    ??
    めちャおもろぃ

    2007-01-22 13:17:00
  • 448:

    名無しさん

    おもろぃ??続き待ってます

    2007-01-22 15:40:00
  • 449:

    更新お疲れさまです。この話、1番好きです?また続き楽しみにしてます。

    2007-01-22 18:57:00
  • 450:

    紅音◆LTrx1cGfeo

    ありがとうございます?本間に励まされます?更新します??



    2007-01-22 22:20:00
  • 451:

    名無しさん


    PM3:30
    −…ガチャリ

    ドアが開く音に、夢の世界から意識が解放される。しかし目は閉じたまま、全身で准の行動を感じ取る。

    2007-01-22 22:20:00
  • 452:

    名無しさん

    昔から、狸寝入りは得意だった。だってそれは、幼かったあたしにとって、唯一無二の、自分の身を守る方法だったから。別に、あの人を恨んでなんかいない。ただ、可哀相な人だったと思うだけだ。       


    准は、真っすぐあたしの元に来るとベットの前に座り、あたしの髪の毛にやさしく触れた。まるで、いつもあたしが准にするそれを、真似するみたいに。    
    しばらくたってから彼は、シャワーを浴び、テレビの前のソファーで横になると、すぐに寝息を立て始めた。しばらくそのまま時間が経つのを待ってから、あたしはようやく目蓋を開き、ベットから起き上る。

    2007-01-22 22:22:00
  • 453:

    名無しさん

    准はあたしとは正反対に、一度眠りに着くとちょっとやそっとの物音では起きない。特にここ最近は、常連は元より、新規のお客さんとのアフターやら、オーナーとの話し合いなどで睡眠時間が大幅に減り、疲れも溜まっている様子だった。


    それと関係があるのかないのか、ここ最近准と一緒に寝ることはなくなった。彼はあの飲み会の日以来、ベットではなくソファーで寝るようになり、それはあたしを何故か不安にさせた。

    2007-01-22 22:22:00
  • 454:

    名無しさん



    もう、あまり時間がない。

    出来れば、残されたこの時間を、あたしは彼の隣で眠って過ごしたいのに。

    2007-01-22 22:23:00
  • 455:

    名無しさん

    きっと、愛情よりも母性本能に近かった。あたしの准へ寄せる愛しさは。

    だから、彼に抱き締められながら、彼の少し癖のある髪の毛を撫でている時だけは、あたしは何の闇にも不安にも襲われず、安心して眠りに着くことが出来た。

    2007-01-22 22:24:00
  • 456:

    名無しさん

    そっとクローゼットを開け、奥に閉まった鞄の中から、サイレントにしていた携帯を取り出した。慣れた手つきでメールを確認し、次から次へと返信する。

    〔あと2ヵ月やな?〕

    咲君からのそのメールで、忙しく動いていた親指が止まる。しばらく眺めた後、返信せずに削除した。

    2007-01-22 22:26:00
  • 457:

    名無しさん

    真っ白なはずのボディには、たくさんのラインストーンが貼り付けられ、少しでも動かせば眩しいほどにキラキラと光る。

    これはキャバ嬢【ココ】の携帯。あのマンションに置いていった、正確に言えば置いて行こうとした、咲君とおそろいの携帯だった。

    2007-01-22 22:26:00
  • 458:

    名無しさん



    …−あの日。       
    つかまれた左手を、
    あたしは結局振りほどけなかった。

    2007-01-22 22:29:00
  • 459:

    名無しさん

    その場に立ちすくむことしか出来ないあたしの代わりに咲君が運転手に誤り、そしてタクシーは行ってしまった。          
    ブーン…−

    信号がまた青に変わり、たくさんのエンジン音で、やっと我に返った。     
    「何?急いでるんやけど」

    2007-01-22 22:30:00
  • 460:

    名無しさん

    ようやくあたしの口から出たのはそんな言葉で、ひどくそっけなかったのが自分でもわかった。      
    『心…聞いてくれ。ちゃうねん、本間に。あれは…』
    「聞きたくない。」
    『なんで!』
    「どうでもいいしな。知ってるやろ?あたしCRUWならもう辞めた。もうこれ…」

    2007-01-22 22:32:00
  • 461:

    名無しさん

    あたしにはやっぱり、あの女の血が流れていて、どんなに違うと、違いたいと思っていても、結局は…− 一緒なんだろう。     
    寂しくて、可哀相な女。  
    だってこうして、突然抱き締められただけで、あたしは何も話せなくなってしまう。寂しくて、可哀相で。弱い女だ、あたしも。

    ただただ、最愛だった人の腕の中で、涙だけは流すまいと、必死に堪えるだけが精一杯だった。

    2007-01-22 22:34:00
  • 462:

    名無しさん

    たった数秒。あたしの顔には丁度咲君の胸元があって、セッタの香りが香水にまじって鼻に付いた。

    『あの…』

    自分達に向けられただろうその言葉に、二人同時にパッと離れた。

    2007-01-22 22:34:00
  • 463:

    名無しさん

    『すいません…』
    気まずそうにそこに立っていたのは、引っ越し業者の作業服を着た若い男。

    『これ…。忘れてたみたいだったんで…』
    そう言って、差し出された手にあったのは、携帯だった。今目の前にいる、咲君とおそろいの、あの携帯。

    2007-01-22 22:36:00
  • 464:

    名無しさん

    「あ、いらないんです。それも…『貸してください、ありがとう』」

    言い終わる前に、また咲君があたしの言葉を遮る。
    男から携帯を受け取ると、咲君はあたしの腕をつかんで、そのまま歩きだした。
    向かった先はマンションからすぐ近くの喫茶店。

    2007-01-22 22:36:00
  • 465:

    名無しさん

    今更引き返したってもう遅い。咲君の手を、振りほどけなかったあの瞬間に、あたしの負けは決まっていたのだ。


    『ホット二つ。』
    店員の会話すらも聞かず、店の一番奥のテーブルにあたし達は座った。咲君が口早に頼んだ、それが来るまで、二人とも何も話さなかった。

    2007-01-22 22:37:00
  • 466:

    名無しさん

    『お待たせしました〜』  
    店員の、強弱のない声と同時に、テーブルの上にホットコーヒーが二つ並ぶ。それを手に取り、店内とは真反対に冷えきった手を暖めた。

    『心?辞めたことはもうとやかく言わん。俺はそういうつもりでお前と付き合ってたわけじゃないから。』 
    彼は、はっきりとそう言った。だけど…−

    2007-01-22 22:38:00
  • 467:

    名無しさん

    「信じられへ…」
    −…バンッ
    『何でなん?!』     
    テーブルに手の平を強く叩きつけ、また、あたしが言い終わる前に声を荒げて彼が言い返してくる。                
    《咲君て、こんなにせっかちやったっけ…−。》

    2007-01-22 22:39:00
  • 468:

    名無しさん

    何事かと、視線があたし達に集まったのがわかったけど、彼は気にする様子もなくあたしを睨む。

    根拠があるわけじゃない。ただのケンカなら、あたしはきっと笑って許してただろう。

    だけど恋愛なんて、タイミングが全てだから。

    2007-01-22 22:40:00
  • 469:

    名無しさん

    あの日あたしは咲君のために宮崎と寝た。
    その日に咲君はあの言葉を発した。


    もしもあれが、本当にあたしの事じゃなかったとしても、それでも、それだけで…−幸せのピークだったあたし達は、もう既にダメになってしまったんだと思う。

    2007-01-22 22:42:00
  • 470:

    名無しさん

    今、こうしてあたしを睨む咲君の瞳は、ママの瞳と似ていた。
    恐くないって言ったら嘘になる。黒い闇は、すぐそこまで来ている。
    足が震える。今すぐにでも目を逸らして、この場から消え去りたい。

    2007-01-22 22:43:00
  • 471:

    名無しさん

    だけど…−

    初めて会ったときの准ちゃんの瞳を思い出す。彼は力強く、真っすぐあたしを見つめた。そしてあっという間に、あたしは惹かれたのだ、その瞳に、救い上げられたのだ。

    あたしには、帰る場所がある。あの頃とは違う。いつまでも、寝た振りして震えているだけの、子供じゃないんだ。

    2007-01-22 22:43:00
  • 472:

    名無しさん

    しっかりと睨み返す。准ちゃんを真似た、力強い目で。逸らされるまで、逸らさない…−

    睨み合ったまま、何も話さないあたし達は、どんな風に映ってたんだろう。

    2007-01-22 22:44:00
  • 473:

    名無しさん

    『お前の誕生日まで待つ。迎えに行くわ。』     
    目を逸らさないまま、咲君はそう言って、伝票を持って立ち上がった。変わりに、捨てようと思っていたあたしのあの携帯をテーブルに置いた。        
    「は?なんで?どこに?」 
                 
    『club RAINに。』

    2007-01-22 22:46:00
  • 474:

    名無しさん

    …−彼はその言葉を残して、出ていった。

    そしてあたしは

    残された携帯を見つめ、固まったまま、中々その場から動けなかった。

    2007-01-22 22:47:00
  • 475:

    名無しさん





    2007-01-22 22:47:00
  • 476:

    名無しさん

    准ちゃんが寝返りを打ってこっちを向いた。思わず携帯を背中に隠した。…−大丈夫。起きてない。

    新地 CRUW。あれだけ大きな店の店長なら、あたしを捜し出すことくらい、簡単だったんだろう。

    2007-01-22 22:48:00
  • 477:

    名無しさん

    咲君はきっと、本当にあたしを迎えにくる。
    2ヵ月後の今日、あたしの誕生日に…−


    自分の気持ちの変化に、追い付けない。

    2007-01-22 22:49:00
  • 478:

    名無しさん

    あんなに好きだった咲君。最愛の人だと思っていた咲君。
    彼の隣にいることも、彼のためにがんばることも、少し前のあたしにとっては、当たり前のことだった。  
    あたしはまだ彼が好き…? 

    わからない。

    2007-01-22 22:50:00
  • 479:

    名無しさん

    だけどきっとあたしは、彼に着いていくしかないのだ。

    結局、決められた運命の歯車には逆らえない。それがどんなに狂っていたとしても、着いていくしか…−。

    それをわかっているからこそ、2ヵ月後の、その日が来るのが恐い。

    2007-01-22 22:51:00
  • 480:

    名無しさん



    …−あたしは一体、どんな顔して准に別れを告げるんだろうか。

    行くところがなかったあたしを、何も言わず、そっと抱き締めてくれた彼に。全てを、受け入れてくれた准ちゃんに。

    2007-01-22 22:51:00
  • 481:

    名無しさん

    なぁ准ちゃん。

    黒猫にだって、大切なものくらいあると思うねん。

    黒猫だって、やさしくしてくれた人のことくらい、覚えてると思うねん。

    2007-01-22 22:52:00
  • 482:

    名無しさん

    なぁ准ちゃん。

    黒猫だって
    恩返しくらいするよ−…? 

    2007-01-22 22:53:00
  • 483:

    名無しさん





    暗くなっていた小さな液晶に光が灯り、さっき打ったメールの返事が届く。

    2007-01-22 22:54:00
  • 484:

    名無しさん

    〔わかった。近くになったら電話するから、場所教えてな?〕

    〔うん。でも、電話はこっちにして?090-xxxx…−。例のあれ、ちゃんとしてや〜?〕

    〔わかってるわ!ココに会えるんも久々やな!楽しみにしとくわ!〕…−

    2007-01-22 22:57:00
  • 485:

    名無しさん

    メールを読み終えると、またしっかりと鞄の中に携帯をしまい、クローゼットの奥の方にその鞄を隠すように置いた。さてと。


    《あたしも、もうちょっと寝ようかな…−》

    2007-01-22 22:57:00
  • 486:

    名無しさん

    おもろい?

    2007-01-23 00:44:00
  • 487:

    紅音◆LTrx1cGfeo

    何で?ママ。
    痛いよ。熱いよ。

    何で?ココ、何かした?

    2007-01-23 06:20:00
  • 488:

    名無しさん

    ママ?
    あたしはそんなに
    “悪い子”なの?

    〔そんな目で見るな!本間にあんたは、花にそっくりやな!〕

    2007-01-23 06:20:00
  • 489:

    名無しさん

    〈花〉?
    花…−パパ?


    あたしは、パパに似てるから悪い子なの?

    2007-01-23 06:21:00
  • 490:

    名無しさん



    『ハナ?ハナ!』
    パパ?
    『ハナ!!!』

    2007-01-23 06:22:00
  • 491:

    名無しさん

    力強い、その声でなんとか、目が覚める。
    准の声でやっと、黒い闇から解放される。

    寝汗がすごい。久々に見た、昔の夢。

    2007-01-23 06:22:00
  • 492:

    名無しさん

    『ハナ?むっちゃうなされてたみたいやけど、大丈夫か?恐い夢でも見た?』

    心配そうにあたしを見つめる彼のその顔に、荒くなっていた呼吸も自然と落ち着く。最後に一度だけ深呼吸してから、彼に笑って頷いてみせた。

    『そか…。よかった。』

    2007-01-23 06:23:00
  • 493:

    名無しさん

    准は安心した顔を見せてから、あたしの頭をポンポンと撫でると、また急いだ様子で準備に戻った。    
    「ごめ…ご飯まだ用意できてないわ…」
    『大丈夫やで!食べてる時間もないしな!』

    その言葉に、時計に目をやる。

    2007-01-23 06:24:00
  • 494:

    名無しさん

    PM7:30…−

    《もうそんな時間か。》  
    『それにしてもめずらしいな。よく考えたら初めてかもな、俺がハナより先に起きるの。』
    「そういえばそうやなぁ」

    2007-01-23 06:25:00
  • 495:

    名無しさん

    『も〜ハナちゃん、イビキうるさい♪』
    「うるさいねんバカ准!死んでしまえッ!笑」
    『だから、それ言いすぎやろ!笑』

    悪夢すらも吹き飛ばす、准の笑顔。

    2007-01-23 06:26:00
  • 496:

    名無しさん

    「けど…それにしても准ちゃん。最近ちゃんと寝てるか?ご飯も、三食ちゃんと食べなあかんよ?」

    『…わかってるって!オカンか!笑 あと、准ちゃん言うなって!』

    その言葉にあたしも思わずにやける。

    2007-01-23 06:26:00
  • 497:

    名無しさん

    《ほんま、かわいい奴♪》


    そういえばあたしだって急いで準備をしなきゃ、仕事に間に合わない。少し焦って、シャワーを浴びるためバスルームへ向かった。

    2007-01-23 06:27:00
  • 498:

    名無しさん

    PM11:00

    黒一色の真新しい携帯が振動して、手にもったポーチごと揺らし、着信を知らせる。
    「ちょっとだけ失礼します。すみません。」
    にっこり笑い、客にそう告げてから、少し足早にトイレへ向かう。

    2007-01-23 06:28:00
  • 499:

    名無しさん

    案の定、着信は今日の夕方に連絡をいれていた、関ちゃんからだった。

    「もしもし?関ちゃん?」

    彼は、CRUWで働いていた時の客。どっかの建設会社の社長らしく、出会った時から店に来る度、違う会社下の子を、何人か連れて来てくれる人。そこまで太い人ではない。だけど、枝をたくさん持ってる、そんな人だ。

    2007-01-23 06:29:00
  • 500:

    名無しさん

    『おうココ!これから向かうわ!』
    「了解〜。でも関ちゃん。ココって言うの禁止やで?わかってる?」
    『おう、せやった、せやった♪ごめんやで』
    「もう!頼むで本間!」  
    それから、RAINの場所を詳しく教えて、手短に電話を切った。

    2007-01-23 06:32:00
  • 501:

    名無しさん

    今日もRAINは、相変わらずの不調。
    今の時点で、客は2組。
    1番テーブルに3名様。新規。

    3番テーブルに2名様。リナとハナ指名客。

    2007-01-23 06:32:00
  • 502:

    名無しさん

    昨日くらいから来ている、体験の子2人を含めて、今日の嬢数は全部で8人。内、席に着いてるのが5人。 

    《多分、いや、確実に足りない。》

    1番テーブルの新規客はさっき入ったばかりで、盛り上がっている様子…となると。

    2007-01-23 06:33:00
  • 503:

    名無しさん

    携帯を閉じ、唇にグロスを塗った。下品に見えない程度に、薄く。

    「お待たせしました♪」またまた、にっこり笑って、席に戻った。様子を見てから、何度かカクテルのおかわりを繰り返した。何のことはない会話を続ける。あと、15分ってとこか…−。

    2007-01-23 06:34:00
  • 504:

    名無しさん

    『失礼します!そろそろお時間の方なんですが、ご延長の方どうされますか?』 
    聞きに来たのは、啓太君。現在の値段と、延長後の値段を書いた紙を客に差し出す。紙を手に取りながら、どうしようかと考えている客に、わざと接近して耳元でささやく。       
    「明日もお仕事ですよね?無理だけはせんとってください。武田さんはいつもやさしいから、私の為に無理してないか、いつも心配になるんです。」
    彼は少し驚いた顔であたしの顔を見つめた後、うれしそうに笑うと、『わかったよ』とだけ言った。    
    そのままチェック。

    2007-01-23 06:35:00
  • 505:

    名無しさん

    「ご馳走様でした。ありがとうございました。」   
    コートはエレベーターが上がって来るまで着せないで持っておく。扉が開いてから、ゆっくりとコートを着せる。たった数秒のこと。だけどその数秒は、彼らにとって“特別”だったりする。           
    『さっき、耳元で何て言ったん?』
    エレベーターが1階まで降りたのを確認してから、リナさんがあたしにそう聞いた。
    「えっ…?別にそんな特別なことじゃないですよ?」『でも、引っ張ろうと思えば引っ張れたやん。そうやろ?』

    2007-01-23 06:38:00
  • 506:

    名無しさん

    …−お客さんが来るから。なんて、言えない。まだ。 
    笑って、
    「でも、無理やったみたいです。すみません。」−…そう言った。
    『あぁそう。』      
    リナさんが、必死にがんばっていることぐらいわかっている。だから別に、あたしは…−

    2007-01-23 06:40:00
  • 507:

    名無しさん


    冷たくそう言い残し、彼女は颯爽と店へと戻った。


    今は、嫌われても、いいんだ。

    2007-01-23 06:41:00
  • 508:

    名無しさん


    リナさんの背中を追って、店に戻ろうと扉に手を掛けたのと同時に、携帯がまた鳴った。
    店には入らず、廊下の片隅に移動して通話ボタンを押した。

    2007-01-23 06:42:00
  • 509:

    名無しさん

    『もう着くわ!』
    「わかった。そのまま、黒服が二人立ってるハズやから、キャッチされて。」
    『おぅ。しかし、面倒やなぁ。』
    「えぇから!笑 ちなみに、何人?」

    2007-01-23 06:43:00
  • 510:

    名無しさん



    …−ビンゴ!

    《5名様、ご来店です。》

    2007-01-23 06:43:00
  • 511:

    名無しさん

    ねぇ准ちゃん。      
    失ってからじゃないと気付けないことは
    この世界に腐るほどあって 
    だけど、後悔しないのは
    それだけの価値があるから

    2007-01-23 06:53:00
  • 512:

    名無しさん

    准ちゃん。        
    准ちゃんの腕の温もりや
    くしゃってなる、咲君と似たその笑顔や
    やさしくて暖かいキスを              
    あたしは、一生忘れない。

    2007-01-23 06:54:00
  • 513:

    名無しさん

    ねぇ、准ちゃん。     
    だけど
    あたしは別に、健気に頑張る女の子なんかじゃない

    だから、あたしのことは

    2007-01-23 06:55:00
  • 514:

    名無しさん



    忘れていいよ。

    2007-01-23 06:56:00
  • 515:

    名無しさん





    2007-01-23 07:01:00
  • 516:

    名無しさん

    切にゃぃ??
    頑張ってくださぃ?

    2007-01-23 08:03:00
  • 517:

    名無しさん





    2007-01-23 08:08:00
  • 518:

    名無しさん


    2nd Return
    SIDE 准

    2007-01-23 08:09:00
  • 519:

    名無しさん





    2007-01-23 08:09:00
  • 520:

    名無しさん

    なぁハナ

    お礼くらい、
    言わして。

    2007-01-23 08:10:00
  • 521:

    名無しさん


    《寒い。寒すぎる。》   
    かじかむ手に、息を吹きかけてみるものの、その効果はないに等しい。

    あっという間に冬は深くなり、今日で散々だった11月も終わる。

    2007-01-23 08:11:00
  • 522:

    名無しさん

    とはいっても後半は、前半とは打って変わって順調で、今日もこうして客引きには出ているものの、店は満員で、そんなに焦る必要もない。
    潰しの噂は回りきったのか、むしろ良い噂に変わって、また回る。
    落ちるとこまで落ちた噂は、上がることしか出来なかったみたいだ。      
    〔club RAIN。
      …−結構、優良店。〕

    2007-01-23 08:12:00
  • 523:

    名無しさん

    あの飲み会以来、やる気満々になった嬢達の接客は、見る見るうちに上達したし、面白半分で来たのか、新規の客が突然増え、そのままリピーター客にも変わった。
    客層も大幅に広がり、最近では結構遠くから、わざわざ足を運んでくれる客さえいる。

    2007-01-23 08:13:00
  • 524:

    名無しさん

    なんて、言ってみただけで、これが偶然でないことぐらい、さすがに俺だって気付いてる。
    だてに二年近く、ボーイをしてるわけじゃない。


    …−《ハナのお陰だ》。

    2007-01-23 08:14:00
  • 525:

    名無しさん

    だって、新規の団体の大蔵省と思われる客は、必ずハナを気に入り指名したし、何より彼らはみんな、以前では考えられないほど、ボトルやらシャンパンやらを卸す太客ばかりだった。  
    多分、新地CRUW‘ココ’の客だった人達なんだろう。 

    出会ったあの日に感じた直感は当たった。
    ハナは、club RAINを見事に変えた。

    2007-01-23 08:16:00
  • 526:

    名無しさん

    いつかハナは、携帯を持っていないと言ったけど、きっとあれも嘘なんだろう。じゃないと、彼らと連絡がとれるはずがない。    
    だけど、ハナが持っていないと言う以上余計な詮索はしないし、彼らが自分の客だったことを隠すなら、それにも騙されていてやる。 
    なんて、これも言ってみるだけで、実際は聞けなかっただけやねんけど。    
    はぁ。相変わらず…−
    《かっこ悪ぃ。》

    2007-01-23 08:26:00
  • 527:

    名無しさん

    それでもやはり、こぼした大量の常連客はSIXに移動し、売り上げは両店増え、相変わらず同じくらいだった。

    けど別に、そんなことは気にもならなかった。

    2007-01-23 08:27:00
  • 528:

    名無しさん

    あえて言うなら…−
    一時期なくなっていた非通知が、ここ最近また増えだしたこと。

    思い当たる人物は、例の一件で結構いるものの、まぁ誰よりも‘玲花’が近い。

    2007-01-23 08:28:00
  • 529:

    名無しさん

    けどさすがに、あの時は頭に血が上って、今ではやりすぎたかなと思う。


    《先月の給料も渡さなあかんし、そろそろ、手ぇ打っとくかな。》…−

    2007-01-23 08:28:00
  • 530:

    更新お疲れさまです。
    めちゃめちゃ切ない?楽しみにしてるんで頑張って下さいね?

    2007-01-23 10:12:00
  • 531:

    名無しさん

    おもろい!頑張って!

    2007-01-23 13:31:00
  • 532:

    紅音◆LTrx1cGfeo

    絢さん、いつもありがとうございます??547さんも、ありがとうございます?もう本当、感謝です?? 更新します??



    2007-01-25 00:30:00
  • 533:

    名無しさん

    AM5:30

    『お疲れ〜っす』
    「はいお疲れ〜っ。」
    いつも通りの一週間が終わり、みんな次から次へと店から出ていく。今日も売り上げはまぁまぁで、明日は一日、ゆっくりと休みを満喫出来そうだ。

    2007-01-25 00:31:00
  • 534:

    名無しさん

    「送りもうちょっとだけ待ってな〜」
    美々奈々とハナにそう告げて、集計が終わった売り上げ表をファイルに挿んだ。『『はぁーい。』』
    息のあった三人の返事に軽くもう一度だけ誤り、ファイルを持ってリストへ移動する。

    《え〜っと…あ、あった》

    2007-01-25 00:32:00
  • 535:

    名無しさん

    −顧客ノート玲花−
    何冊も積み上げられたたくさんのノートの中から、玲花のだったピンクのノートを引き抜いた。      
    確か、ここに…−ほら、やっぱり。

    一番最初のページに書いてあった玲花本人の番号を、携帯に登録する。メルアドは…変わってるかもやけど、一応入れとくか。

    2007-01-25 00:34:00
  • 536:

    名無しさん

    え〜っと…
    re、i、ka、、hi、me...  


    《…姫?玲花姫?何ていうか、うわぁ〜(´Д`)笑》

    2007-01-25 00:34:00
  • 537:

    名無しさん

    『何してるん!?』
    玲花のアホみたいで、かつ無意味に長いメルアドを打ち込むのに手間取っている間に、ハナが痺れを切らしてリストに顔を出した。  
    「ん〜。もぉちょい待って…よしオッケ!行こか!」             
    質問には答えずそれだけ言った。携帯を閉じてハナがいるほうに目をやると、ハナは不思議そうに俺を見つめた後、
    『はよ支度しろ!』とだけ言ってリストから離れた。

    2007-01-25 00:36:00
  • 538:

    名無しさん

    AM8:00          
    「おやすみ〜…」
    疲れた体でお腹いっぱいになれば、睡魔が襲ってくるのも早い。

    少し落ち着いたここ最近では、ちゃんと毎日三食食べるのが当たり前になっていた。というか、食べないとハナが口うるさく怒る。

    2007-01-25 00:37:00
  • 539:

    名無しさん

    だけどそれはほんまに有り難いことで、数日前に発見した、ハナが持ち込んだ何冊かの料理本は、キッチンに綺麗に並んでいる。
    そしてそれはどれも『健康のための一ヵ月献立』だとか、『栄養バランスメニュー』なんてタイトルで、俺の体を気遣う料理を作ってくれているのが嫌味なくわかった。


    今更やけど、ハナはほんまに家庭的な女やった。その見た目や言葉遣いからは、到底想像できないくらいに…−。

    2007-01-25 00:38:00
  • 540:

    名無しさん

    「ふぁ〜あ。」
    あくびと一緒に、涙腺が潤む。
    そういえば、ソファーで寝る生活にも最近やっと慣れてきた。始めのうちは起きた時に体中が痛くて苦労したけど、人間何においても、慣れさえすれば平気なもんらしい。

    今この瞬間も、毛布一枚にくるまって、体を丸めて眠りに落ちる、まさに直前。

    2007-01-25 00:39:00
  • 541:

    名無しさん

    あったかい空間に、俺とハナ。その事実は、止めを刺すかのように俺の眠気をそそる。

    数分か、数十分後。    

    『…准ちゃん?』

    2007-01-25 00:39:00
  • 542:

    名無しさん

    暖かい部屋で、やさしい声で、ハナが俺の名前を呼んだ。
    その声に、半分寝呆けながらも、寝返りを打って返事をした。

    『…起きてる?』
    「ん…」

    2007-01-25 00:40:00
  • 543:

    名無しさん

    『准ちゃん…こっち。
         −…おいで?』 


    ハナの擦れた小さな声で、ゆっくりとその言葉が、俺の耳に届き、その意味が理解できた瞬間に、軽く眠気は吹き飛んだ。

    2007-01-25 00:41:00
  • 544:

    名無しさん

    ソファの上からじゃ、ハナの顔は見えない。今ハナが、どんな顔してその言葉を発したのか、すごく気になった。

    正味、前みたいにハナと同じベットで寝なくなったのは、彼女といればいる程、距離が近くなれば近くなるほど…−彼女に惹かれ、彼女の全てに吸い込まれてしまうから。もう、理性を保つ自信がない。

    …って、すでに今の可愛い一言で、そんなもんはなくなってしまってんけど。

    2007-01-25 00:42:00
  • 545:

    名無しさん

    寝た振りをしようと思った。けどその考えとは反対に、口が勝手に動いた。

    「…あかん。」

    精一杯の、我慢。

    2007-01-25 00:42:00
  • 546:

    名無しさん

    閉まり切ったカーテンは、少しの隙間すらなく、外はもう陽が登っただろうこの時間帯でも、部屋の中は真っ暗だ。
    静かで、長い、長い沈黙。 
    先に口を開いたのは…−

    2007-01-25 00:43:00
  • 547:

    名無しさん


    「襲ってまうから。」


    …−俺。

    2007-01-25 00:44:00
  • 548:

    名無しさん

    何て言うか、拒否ってるわけじゃないことを、伝えときたかった。だけど、冷静に考える時間も余裕もなく、選べばいい言葉をバカ正直に発してしまったのだ。 
    しばらく何の返事もなく、やけに早く響く自分の鼓動で、手に汗を握っていることに気付かされる。    

    《寝たんかな…−》
    そう思った、瞬間。

    2007-01-25 00:45:00
  • 549:

    名無しさん


    『………−いいよ?』   


    確かに、そうハナが、言った。

    2007-01-25 00:47:00
  • 550:

    名無しさん

    ぃっつも更新ありがとござぃます?
    毎日楽しみにしてるんで??
    ゅっくりでぃーんで書ぃてくださぃ?・゚

    2007-01-25 03:21:00
  • 551:

    名無しさん

    気になるあげ

    2007-01-25 03:43:00
  • 552:

    紅音◆LTrx1cGfeo

    俺はもぞもぞと体を動かし、ベットのすぐ側にしゃがみこんだ。丁度、こっちを向いてるハナと顔が近い。



    「…マジで言うてる?」

    2007-01-25 15:23:00
  • 553:

    名無しさん

    そう聞いた俺に、
    ハナは…−口の右端だけを上げて、笑った。     
    「あんま、舐めてたらあかんで?笑」

    俺はそれだけ言うと、一気にベットに上がり、横を向いていたハナの両手を、まとめて片手で抑えつけ、体ごと正面に向けると、そのまま彼女の上に膝を立てて乗っかった。

    2007-01-25 15:24:00
  • 554:

    名無しさん

    真っすぐ、ハナを見下ろす。ハナも、真っすぐ俺を見上げる。おれの瞳に映るその顔に、あの笑顔はもうない。
    その代わり、出会ったあの日と同じ、力強い目があった。           
    《−…負ける?》

    その言葉が頭に浮かんだと同時に、俺はハナにキスをした。

    2007-01-25 15:25:00
  • 555:

    名無しさん

    ハナの唇はやわらかくて、そして冷たい。

    何もかもが真っ白になる。何も考えられないし、何も考えたくない。

    唇のその奥に、夢中になって舌を絡ませた。

    2007-01-25 15:26:00
  • 556:

    名無しさん

    唇と相反した、暖かいそれに俺はますます欲情し、もっと激しく強引に、少し遠慮がちに動くハナの舌を求めた。『んッ…−』何も聞こえない静かな部屋に、ハナのその声だけが異様に響いた。

    …−

    2007-01-25 15:27:00
  • 557:

    名無しさん

    ふと、重なり合った唇を離して、ハナを見つめる。

    『手…痛いって。』
    やさしく笑って、ハナが言った。気付けば、俺は自分で思っていたよりもきつく彼女の手を握り、抑えつけていたみたいて同時に手をパッと離した。
    ハナはまたふっと笑うと、離されたその両手をそのまま俺の首に回した。

    2007-01-25 15:28:00
  • 558:

    名無しさん

    また、顔が近づく。

    さっきの、激しいだけのキスは、やさしい、ゆっくりとしたキスに変わり、暖かい何かが、俺とハナを包み込む。唾液が、ピチャピチャと音をたてる。

    立てていた膝をねかし、全身でハナの上に覆いかぶさる。すぐ近くに感じる、ハナの体温で再確認する。

    2007-01-25 15:28:00
  • 559:

    名無しさん

    俺はずっと、触れたくて触れたくて仕方なかったんだ、ハナに。

    切れ長でつり目の、猫みたいな目。鼻筋が通った、形のいい小さな鼻に、少し広いおでこ。肩まで伸びた、細くてやわらかい髪に、ピンク色のアヒル口。華奢な肩から伸びる細い腕。割と小っこい胸に、すらりと真っすぐ伸びた長い足に。

    ハナのその全てに。

    2007-01-25 15:29:00
  • 560:

    名無しさん


    触れたかったんだ、
    ずっと。

    2007-01-25 15:30:00
  • 561:

    名無しさん

    どちらからともなく、顔を離し、長いキスが終わった。
    ハナを見つめると、虚ろな目に、少し乱れた呼吸。紅潮した頬。
    全てが色っぽく、少しだけ戻ってきていた俺の理性をまた吹き飛ばす。

    今度は短いキスを何度も繰り返しながら、右手をハナの胸へと伸ばし、そっと触れた。俺の手のひらにすっぽりと納まる、丁度いいサイズ。布団から出ていたその手は冷たく、ハナは少しだけビクッと体を震わせた。そんな小さなことが、やけに愛しく感じる。

    2007-01-25 15:30:00
  • 562:

    名無しさん

    自分の膝を、ハナの足の付け根まで上げ、軽く刺激する。
    キスを止め、舌を首元に移動させた。ツーッと、舌先で首筋をなぞる。ハナのサラサラの髪の毛を、もう片方の手でかき上げ、そのまま指で耳を触る。たまに零れるハナの甘い声に、我慢し切れず下に手を伸ばした。パンツの上からハナのそこに触れると、ハナはまた体を震わした。もう一度、キスをするためハナに顔を近付けた。指先には、湿った感触。

    「…濡れてるん?笑」

    2007-01-25 15:31:00
  • 563:

    名無しさん

    そう聞いて、数センチしか離れていないハナの顔を覗く。その瞬間、ハナは閉じていた目を開き、無表情でじっと、俺を見つめた。



    2007-01-25 15:32:00
  • 564:

    名無しさん

    …−そこで、辞めた。



    ハナの潤んだ瞳にはっきりと映る俺はみじめだ。

    2007-01-25 15:32:00
  • 565:

    名無しさん





    2007-01-25 15:34:00
  • 566:

    名無しさん

    なぁ…ハナ。

    なんで泣きそうなん?

    2007-01-25 15:35:00
  • 567:

    名無しさん


    ハナ。

    俺の後ろに、誰を見てる? 

    2007-01-25 15:36:00
  • 568:

    名無しさん

    なぁ、ハナ。

    口の右端だけ上げたあの笑顔も、綺麗な顔から吐き出すきつい口癖も、心配性な性格も、あっという間に作ってしまう旨い手料理も、

    2007-01-25 15:37:00
  • 569:

    名無しさん

    見えないところで支えてくれる強さも、
    隠し通した弱さも、
    残酷な程の一途さも。

    …−全部。

    2007-01-25 15:38:00
  • 570:

    名無しさん

    ほんまは、
    それすらも全部、

    俺だけのもんに、
    したかってん。

    2007-01-25 15:39:00
  • 571:

    名無しさん





    2007-01-25 15:39:00
  • 572:

    名無しさん

    PM2:00ー         
    〜♪           
    永遠を、あなたは信じてた?奪わないで、いなくならないで。あたしは君の隣にいたいよ。叶わなくても届かなくても私は…ープツッ  
    メロディーコールが途切れ、彼女はやっと電話に出た。   
    『はい?』

    2007-01-25 15:41:00
  • 573:

    名無しさん

    電話越しに聞こえるその声は、やけに懐かしく感じた。−…玲花。       
    「もしもし?准やけど。わかる?」
    『…うん。』       

    「これから、会えるか?」

    2007-01-25 15:42:00
  • 574:

    名無しさん

    PM2:30

    ハナは、俺に背中を向けた状態で、ベットで眠っている。起こさないように、そっと家を出た。

    何となく歩いて、玲花と待ち合わせしている喫茶店へ向かう。

    2007-01-25 15:43:00
  • 575:

    名無しさん

    寒冬らしい、今年は。そりゃ、雪もよく降るはずだ。 
    かじかむ手をいつものようにポケットに突っ込んで、俺は昨日のことを思い出していた。

    《さっき、ハナ起きひんくて、よかった…−。》   
    なんてどっちにしろ、すぐに顔は会わすのだから、今安心したところでしょうがないんやけど。

    2007-01-25 15:44:00
  • 576:

    名無しさん

    昨日は結局、一睡も出来ないまま、ソファーの上で時間が経つのをひたすら待っていた。         

    『…−准?』
    これからって時に、手を止めた俺を、ハナは何とも言えない表情で見つめて、そっと俺の名前を呼んだ。
    確かに‘准ちゃん’ではなく‘准’と呼んだ。

    2007-01-25 15:45:00
  • 577:

    名無しさん

    だからきっと、なんとなくわかってたんやろうと思う。ハナも。        
                 
                 
    ハナの瞳には、俺じゃない誰かが映ってた。     
    ‘俺じゃない、誰か’が。

    2007-01-25 15:47:00
  • 578:

    名無しさん

    結局、「付き合ってないしやっぱり我慢する」なんて当たり障りのない理由をつけて、昨日のあの場は取り繕った。「好き」とも言ってない癖に。

    別に、そのまま最後までやろうと思えば出来た。

    やけど…気付かない振りして俺は腰を振るんか?そんなの…そんなん、みっともなさ過ぎるやろ。

    2007-01-25 15:48:00
  • 579:

    名無しさん

    喫茶店につき、コーヒーを注文した。玲花はまだ来ていないようだ。どーせあいつのことやから、遅刻するに決まってる。



    −…ハナは俺を‘咲君’の代わりにしているんだと思う。ハナは俺なんか見てない。俺の後ろにいる‘咲君’を見ている。

    2007-01-25 15:49:00
  • 580:

    名無しさん

    全く気付いていないわけでもなかった。予感が確信に変わっただけで、そんなにダメージはない。

    元々、恋愛に本気になることなんてなかった俺が、いきなりこんな不毛な恋愛をするなんて、想像すら出来なかった。

    《俺は、どうしたらいいんやろ。てか、どうしたいんやろか。》

    2007-01-25 15:50:00
  • 581:

    名無しさん

    PM3:30

    約束の時間から30分が過ぎた頃、やっと玲花が表のガラス越しに見えた。
    俺に気付いて、俺の前の席に座る。『ミルクティー、ホットで。』店員にそう言った後、すぐにタバコに火を点けた。
    遅刻したことを謝る素振りはない。しかしこれも、わかっていたことで、別になんとも思わなかった。

    2007-01-25 15:51:00
  • 582:

    名無しさん

    「電話出てくれてよかったわ。久しぶり、玲花。」  

    まるで台詞みたいにすらすらと言葉が並び、そのまま口から出した。

    今も、頭ん中は、ハナのことでいっぱい。だけど、何か用事を作って、あの家から出たかった。

    2007-01-25 15:51:00
  • 583:

    名無しさん

    『…何の用なん?』
    ふてこく、玲花が一言だけ返事をした。       
    けどその用事に、こいつを選んだのは間違いだったかもしれない。やっぱり…  

    《相変わらず腹立つわ。》

    2007-01-25 15:52:00
  • 584:

    名無しさん

    さっさと終わらして、スロットにでも行ってこようかな…−          
    「これ、先月分の給料。遅れてごめんな?あと、少ないけど、俺が沈めてもた携帯の修理代も入ってるから。あの時も、ごめんな?」 
    少し間を開けてみたものの、玲花は何も言わない。  

    《…はぁ。あっそ。》

    2007-01-25 15:54:00
  • 585:

    名無しさん

    「んな、それだけやから。…じゃぁな?」

    そう言って、席を立とうとした、瞬間。

    『何で怒らへんのッ?』

    2007-01-25 15:54:00
  • 586:

    名無しさん

    そう、小さな声で玲花が言った。          
                 
    座り直して、玲花をまっすぐ見つめた。明るかった長い金髪は、落ち着いた茶髪に変わっていて、今日はクルクルの巻き毛じゃなくて、ただのストレートロングだった。         
    日曜。SIXも、今日は休みだ。          
    久々に見た玲花は、暗くした髪色のお陰か、大人っぽくなっていたけど、少しやつれた感じもした。

    2007-01-25 15:57:00
  • 587:

    名無しさん

    「何が?遅刻?」     
    少し笑ってそう答えた。  
    『違くて…、いや、それもやけど…。』       

    俯き、黙りこくった玲花が、何を言いたいのかくらいわかる。

    2007-01-25 15:58:00
  • 588:

    名無しさん

    「えぇよ、別に、もう。あれは俺もやりすぎたし。気にすんな。」       
    『でも…』        
    そういえば、ふてこいイメージしかもう残ってなかったけど、玲花だってRAIN開店当初は、今みたいにか弱そうな女の子やったっけ。                       

    『あたしっ…』

    2007-01-25 16:00:00
  • 589:

    名無しさん

    顔を上げ、玲花は一瞬俺を見たけど、すぐに目を逸らした。

    「いいって、それ以上言わんでも。んな俺行くな?」

    もう一度、立ち上がろうとしたその時やった。

    2007-01-25 16:01:00
  • 590:

    名無しさん




    『好きやってん!
        准のこと…!!』

    2007-01-25 16:02:00
  • 591:

    名無しさん

    驚いて、玲花の顔を見下ろすと、耳まで真っ赤になっていた。

    『ずっと、好きやった。』 

    また、目が合ってから、玲花はそう付け足すと、少し悲しそうに笑った。

    2007-01-25 16:03:00
  • 592:

    名無しさん





    2007-01-25 16:03:00
  • 593:

    名無しさん

    きになる!!

    2007-01-25 17:14:00
  • 594:

    名無しさん

    ???????????????????

    2007-01-25 21:48:00
  • 595:

    名無しさん

    なぁハナ。        
    人を好きになることは
    いいことばかりじゃない。 
    ‘好き’だなんて、
    うまくいかなきゃただの不安にしか過ぎなくて

    2007-01-27 01:34:00
  • 596:

    名無しさん

    伝えとけばよかったのかな 
    伝わらなくても、
    伝わるまで。       
    そしたら、
    こんなに、後悔せんくてすんだんかな。

    2007-01-27 01:35:00
  • 597:

    名無しさん

    なぁハナ         
    もう届かないん?     
    お前が隣にいないなら、
    春なんていらない。
    来なくていい。

    2007-01-27 01:36:00
  • 598:

    名無しさん

    冬だけに降る
    真っ白な雪で、
    全部…−

    隠してしまえばいいねん。

    2007-01-27 01:38:00
  • 599:

    名無しさん





    2007-01-27 01:39:00
  • 600:

    名無しさん





    2007-01-27 01:40:00
  • 601:

    名無しさん


    2nd Return
    SIDE ハナ

    2007-01-27 01:42:00
  • 602:

    名無しさん

    ねぇ准ちゃん。      
    好きだなんて、言葉にすれば簡単なことなのに、
    気持ちは付いていかんかったりするよね。

    不器用で、遠回りしたりするけど…−

    2007-01-27 01:43:00
  • 603:

    名無しさん

    ねぇ准ちゃん       

    でももう、
    決めたんだ。

    2007-01-27 01:44:00
  • 604:

    名無しさん

    准ちゃん、准ちゃん。   
    気付いてる?       
    あたし気付いたよ?    
    何よりも
    一番大切な人。

    2007-01-27 01:46:00
  • 605:

    名無しさん

                 
    PM8:00          
    3時前に家を出てから、准はまだ帰ってきてない。
    彼が、あたしを起こさないようにそっと起き上がったのも、小さな声で誰かに電話したのにも、そしてそのまま約束の場所に向かったのにも          
    あたしは気付いてた。もちろん、寝たふりを決め込んでたんやけど。

    2007-01-27 01:47:00
  • 606:

    名無しさん

    持て余した時間で、なんとなく、久々にオムライスを作ってみたりした。今度はちゃんと、鳥肉と玉葱がたっぷり入ったやつ。
    綺麗に半熟に出来ていた卵も、とっくに冷めて、あんまりおいしそうじゃない。 


    確かに、今日の朝のことを考えるとすごく気まずい。だけど、せっかくの休みなのに。

    2007-01-27 01:48:00
  • 607:

    名無しさん

    「准ちゃん…こっち。
         −…おいで?」 
    思わず口から出たあの言葉に、下心があったわけじゃなかった。ただ単純に、准のぬくもりの中で、ぐっすり眠りたかった。
    そのまま流れるようにああなったことにも、抵抗はまったくなかった。
    むしろ‘やっと触れてもらえた’そう思った。

    2007-01-27 02:02:00
  • 608:

    名無しさん

    だって愛を、感じたんだ。 

    重なり合った唇に、あたしをそっと触わる指先に、あっという間に熱く火照った自分の体に。

    愛を。

    2007-01-27 02:03:00
  • 609:

    名無しさん

    あんなに、やさしく触れられたのは初めてで、そしてあたしは、思い知らされるかのようだった。     
    准の気持ちを、
    准への気持ちを…− 

    きっとあたしは、准のことを好きになっていて。咲君よりも、咲君を好きだったあの頃よりも、准ちゃんのことを、好きになってて。

    2007-01-27 02:04:00
  • 610:

    名無しさん

    こうして自覚すると、気持ちが大きくなるから不思議。もっとずっと前から、好きだったような気さえする。

    だからあたしは、幸せだった。この上なく。
    准ちゃんに触れられることが、准ちゃんが、そこにいることが…−。

    2007-01-27 02:06:00
  • 611:

    名無しさん

    だけど、あの時。


    思い出したのと、見えたのは同時。
    准ちゃんの背中に、黒い闇を。気持ち悪く笑う、宮崎を。

    2007-01-27 02:07:00
  • 612:

    名無しさん

    あたしに覆いかぶさったぬるい温もり、あたしの肌をつかむ様に触わる手、あたしの体中を這いずる乾いた舌。ひどい、嫌悪感。   
    だからあたしは汚い。
    身も心も。

    受け入れたのは、あたし。拒まなかったのは、あたし。止められなかったのは、あたし。

    2007-01-27 02:08:00
  • 613:

    名無しさん

    そして准は途中で辞めた。 

    もしかしたら、バレたのかもしれない。
    汚い体に、気付いたのかもしれない。

    2007-01-27 02:09:00
  • 614:

    名無しさん


    …−

    やばい、
    泣きそうだ。

    2007-01-27 02:10:00
  • 615:

    名無しさん

    遠ざかっていたあたしの後ろに、また黒い闇が近付き、広がる。

    だけど…−
    汚い体に、准ちゃんが入ってこなくてよかった。

    2007-01-27 02:11:00
  • 616:

    名無しさん

    この闇に、彼を巻き込んじゃいけない。
    准を、染めちゃいけない。 

    …守るんだ。

    2007-01-27 02:12:00
  • 617:

    名無しさん





    2007-01-27 02:13:00
  • 618:

    名無しさん

    ねぇ准ちゃん

    好きだよ。

    2007-01-27 02:13:00
  • 619:

    名無しさん

    神様なんて信じてないけど 
    いたとしても、
    大嫌いだったけど

    もしもいるなら。

    2007-01-27 02:14:00
  • 620:

    名無しさん

    お願いです。
    准ちゃんを守って下さい。 
    ずっと、笑い続けていれるように。

    あたしの代わりに。

    2007-01-27 02:15:00
  • 621:

    名無しさん

    ??

    2007-01-27 08:58:00
  • 622:

    名無しさん

    読みやすいしおもしろいし頑張ってください!!

    2007-01-28 10:55:00
  • 623:

    更新お疲れさまです?めっちゃいいですね?胸がキューってなります。続きすごく楽しみにしてるんでまた時間ある時書いて下さいね。

    2007-01-28 15:03:00
  • 624:

    あまりにも好きな話やったんでファンスレ作らせてもらいました。迷惑だったらすいません?

    2007-01-28 15:07:00
  • 625:

    紅音◆LTrx1cGfeo

    すみません、本当にありがとうございます!迷惑だなんてとんでもないです??めっちゃうれしくて、今若干泣きそうです?笑
    今から更新します。もう本当に、ありがとうございます!がんばります!

    2007-01-30 17:27:00
  • 626:

    紅音◆LTrx1cGfeo





    2007-01-30 17:28:00
  • 627:

    名無しさん

    PM11:00         

    カチャリと鍵を開ける音がして、あたしはベットから飛び起きた。       
    「お帰り…」
    笑って、そう言ってみた。

    2007-01-30 17:29:00
  • 628:

    名無しさん

    −…
    帰ってきて、よかった。と言うかここは、准ちゃんの家なんだけど、それでも。 
    『ただいま!』
    ほら、くしゃっと笑った、その笑顔。
    今ではもう、咲君に似てる笑顔だなんて思わない。 准ちゃんの、笑顔。

    2007-01-30 17:30:00
  • 629:

    名無しさん

    「…ご飯は?」
    平然を装ってそう聞いた。一番聞きたかったことは、胸の奥で飲み込んだ。だって、           
    《どこ行ってたん?》   
    …そんなことは、聞かなくたって、仄かに香るベビードールが、勝手に想像を膨らませてくれる。     
    あたしは別に、彼女でもなんでもないし、好きだと言ってもらえたわけでもない。そんな事実を再確認した気分だった。

    2007-01-30 17:32:00
  • 630:

    名無しさん

    『あ〜…作った?』    
    そう少し困った顔で、逆に聞き返される。一瞬だけ悩んでから、作ってないよ、と言った。後でオムライスは捨てとこう。

    「眠くなってきたぁ…」  
    わざと聞こえるようにささやいて、ベットに潜り込んだ。

    2007-01-30 17:33:00
  • 631:

    名無しさん

    布団をかぶって、潤んだ涙腺に力を入れた。もう、これが何の涙なのかすら、わからない。

    《すぐ泣くな!》
    いつかママに言われた言葉が、今更耳に響く。
    それでも、我慢できずに一筋だけ頬に伝った涙を、急いで手の甲で拭った。

    2007-01-30 17:34:00
  • 632:

    名無しさん



    絞りだすように流れた一滴だけの涙には、色んな想いが重く重なって、なんだかあたしをひどく切なくさせた。だけど准ちゃんにだけは見せたくなくて、小さく濡れた右手を握り締めて、目を閉じた。

    2007-01-30 17:35:00
  • 633:

    名無しさん


    AM0:30          
    『おい、嘘つき!起きろ!ハナ!起きろって』

    気付けば本当に眠ってしまったようで、あたしは准に起こされ、目を開けた。

    2007-01-30 17:36:00
  • 634:

    名無しさん

    −…ピーッ
    同時に、レンジが鳴る音で、准はキッチンへ行った。上手く頭が回らないままベットから降りる。
    そしてすぐに、彼が両手に持ってきたのはあたしが作った、オムライス…−。  

    准は、もう一度《嘘つき》とあたしに言って、またくしゃっと笑った。

    2007-01-30 17:37:00
  • 635:

    名無しさん


    ねぇ准ちゃん。

    本当の本当に守りたいものなんて、きっとみんな一つだけなんだと思わへん?  

    2007-01-30 17:39:00
  • 636:

    名無しさん

    准ちゃん。        
    あたしが守りたかったのは、准ちゃんだけだったよ。 

    准ちゃんの、
    あの笑顔だけだったよ。

    2007-01-30 17:40:00
  • 637:

    名無しさん

    だから、あの日。     
    准ちゃんを、黒い闇に連れてってしまう前に    離れるって、決めたんだ。 
    だけど、もう少しだけ。  
    あたしの、21歳の誕生日まで。                      
    傍に、いさせてね。

    2007-01-30 17:43:00
  • 638:

    名無しさん

    ねぇ、准ちゃん。     
    最後の最後まで、
    わがままなあたしを    
                                         
    許して。

    2007-01-30 17:44:00
  • 639:

    名無しさん





    2007-01-30 17:45:00
  • 640:

    名無しさん

    『あっ、忘れとった忘れとった。』そういうと、准はまたキッチンの方へと向かった。

    《そういえば、冷蔵庫にいれたままやったっけ…》  
    目の前のテーブルには、二つ並んだオムライス。
    レンジのおかげでホカホカと湯気を立て始めたそれは、またおいしそうに変わっていた。

    2007-01-30 17:46:00
  • 641:

    名無しさん

    颯爽と、キッチンからあたしの前に戻ってきた准の右手には、今度はトマトケチャップがあった。     
    『食べよか!』      
    軽く寝呆けたまんまのあたしにそう言って、准はうれしそうにケチャップの蓋を外した。         
    『あっ、せや!絵書こ。』幼く笑った准はやっぱり子供みたいで、年下なんやなぁ、と思う。       
    准は覚えてるかな。あたしが彼に、初めて作った料理を…−。

    2007-01-30 17:48:00
  • 642:

    名無しさん

    彼がケチャップを器用に動かして、オムライスに楽しそうに絵を書く。あたしはボーッとしながらそれを見ていた。         
    『出来たっ!』      
    彼が得意げにそう言って、絵が正面に来るように、あたしの方へお皿を向けた。 

    『これ、ハナのな。』

    2007-01-30 17:49:00
  • 643:

    名無しさん


    「…これ、…犬?」
    『猫や!笑』」
    「むっちゃ下手くそ!笑」 
    二人で笑う。

    2007-01-30 17:51:00
  • 644:

    名無しさん

    だけど裏腹に、心は、別のところにあるみたいだった。大好きな准の笑顔は、今はあたしをつらくさせるだけで。

    だってわかっていても、この人と、離れ離れになるなんて嫌だ。でも、守りたくて、守らなきゃいけなくて。だったら、彼から離れるのが一番で…−

    自問自答ばかりが頭に浮かんで消えない。

    2007-01-30 17:52:00
  • 645:

    名無しさん

    だけど、笑う。

    だってそんなこと、顔には出したくない。

    これは単純に、あたしのプライドに近い、幼い頃からの癖。あたしはこうして生きてきてんから。

    2007-01-30 17:53:00
  • 646:

    名無しさん

    「なんで猫なん?」    
    平然を装って、会話を続ける。だてに、NO1だったわけでもない。       
    −…なのに。                   
                             
    『ハナは、猫みたいやからやで。』

    2007-01-30 17:55:00
  • 647:

    名無しさん

    …−准は、そんなあたしをいつも崩してしまう。               

    『気分屋で、わがままで、強がりで、誰にも媚ひん。まんまやん?笑』

    准は、笑いながらそう言ったけど、あたしの顔からは笑顔が消えていくのがわかる。

    2007-01-30 17:56:00
  • 648:

    名無しさん

    准はまたケチャップを手に取ると、大量にその‘猫’の輪郭を塗り潰した。

    『ちなみに絶対黒猫な!何色にも染まらへんから!』 
    「何それ…。」      
    あたしは今、上手に笑えてるんだろうか。

    2007-01-30 17:57:00
  • 649:

    名無しさん


    『だから、お前はずっと、そのままでいてな。』   


    最後に彼は、笑顔を辞めてそう言った。

    2007-01-30 17:59:00
  • 650:

    名無しさん

    准ちゃん。        
    あたしな、生まれ変わったら猫になりたい。     
    今度こそ、        
    誰にも染められない
    黒猫に。

    2007-01-30 18:00:00
  • 651:

    名無しさん

    ねぇ准ちゃん。      
    こんな性格だから、絶対に言えなかったんだけど。  
    だけど          
    一回くらいは頑張って言えばよかったかな。                                                     
    《アイシテル−…。》

    2007-01-30 18:03:00
  • 652:

    名無しさん





    2007-01-30 18:04:00
  • 653:

    名無しさん

    ?????????

    2007-01-30 20:54:00
  • 654:

    紅音◆LTrx1cGfeo

    准は、あっという間にオムライスを食べ終えると、毛布にくるまり、ソファの上で眠りに就いた。
    彼が深い寝息を立て始めた頃には片付けも終わり、准の隣に座り込んで寝顔を見つめた。         
    《黒猫、かぁ…−》

    准が笑いながら言った言葉が、胸に突き刺さる。

    2007-01-31 03:10:00
  • 655:

    名無しさん

    〔何色にも染まらへん。〕 
    その通りかもしれない。だってあたしは、とっくの昔に、真っ黒に染められてしまっているから。

    爆睡しているだろう准が寝返りを打って、あたしの方を向いた。かわいい寝顔を目の前に、あたしはまた泣きそうになる。      
    なんでこんなに、あたしは弱いんだろう。

    2007-01-31 03:10:00
  • 656:

    名無しさん

    いつもならネオンや照明に照らされて、他愛もない話で笑っているこの時間。
    今は、日が落ちると同時に暗くなったこの部屋の中で、あたしは…−      


    黒い闇に、落ちた。

    2007-01-31 03:11:00
  • 657:

    名無しさん

    その日あたしが眠りに就けたのは、太陽の光が部屋を明るくする頃だった。


    ママに殴られる夢を見たけど、准は、あの時みたいにあたしを起こしてくれなかった。

    2007-01-31 03:12:00
  • 658:

    名無しさん

    2003年12月17日
    AM12:00


    クローゼットの片隅に置いた携帯に、咲君からメールが届く。内容は、見なくたってわかる。

    2007-01-31 03:13:00
  • 659:

    名無しさん

    《あと、一週間…−》   


    カウントダウンが、    
    始まる。

    2007-01-31 03:14:00
  • 660:

    名無しさん





    2007-01-31 03:14:00
  • 661:

    名無しさん





    2007-01-31 03:14:00
  • 662:

    名無しさん


    Final
    SIDE 准

    2007-01-31 03:21:00
  • 663:

    名無しさん

    なぁ、ハナ        

    その黒い闇の向こうに、お前は何を見た?

    2007-01-31 03:23:00
  • 664:

    名無しさん

    赤、青、緑、黄色。色とりどりのネオンが、街中を飾り、いつにも増して眩しく夜を飾る。        
    もうすぐ、クリスマスだ。 

    年末とも重なって飲み屋街には人が集まり、クリスマスソングと、浮かれた笑い声があちこちで響く。

    2007-01-31 03:24:00
  • 665:

    名無しさん

    『お願いします!』

    グラス一杯に注がれたビールが、数滴床に染みを作ったけど、かまわず早足で客席へ置いた。

    店は大忙しで、カウンターには数人の待ち客が、啓太と会話を楽しんでいた。

    2007-01-31 03:24:00
  • 666:

    名無しさん

    『ハナさん入ります!』  
    のりちゃんの嬢回しの声と同時に、ヘルプで付いていた新人の子が待機席へ帰ってきて、そしてすぐにまた別の客席に戻る。     
    club RAINのNO1、ハナは今日も誰よりも忙しく席を回る。

    俺はそれぞれの席にチェックを入れ、そして目に止まるのは、やっぱりハナだ。

    2007-01-31 03:26:00
  • 667:

    名無しさん

    客によって接客中にコロコロと表情を変えるハナは、さながらどっかの女優みたいで、すごい。

    あれだけ潰れそうだったRAINも、今では嘘のように客で溢れ返り、噂のお陰で面接にくる嬢の数も増え、人手も充分。

    恐いくらい順調だった。

    2007-01-31 03:29:00
  • 668:

    名無しさん

    だけど…−        
    最近、よく思う。    ハナの様子が、おかしい。 
    いざ店の外に出ると、   
    何かに追われてるかのように辺りを気にして、外に出歩かなくなった。俺と目が合っても、すぐに逸らすようになった。
    何より、笑わなくなった。

    2007-01-31 03:31:00
  • 669:

    名無しさん

    《何があったん?》


    相変わらず、
    ちゃんと聞けないまま。

    2007-01-31 03:32:00
  • 670:

    紅音◆LTrx1cGfeo

    時間ばかりが過ぎる。もう、ハナに出会ってから二ヵ月が経とうとしていた。  
    『お疲れさまで〜す』   
    ラストまで、客席は埋まったまま、今日も無事1日を終えた。

    いつものように送りを出し、最後にハナを乗せて一緒に帰る。久々に雪が降り積もり、朝のその真っ白な世界は、ハナといればいつもより余計綺麗に見えて、不思議だった。

    2007-01-31 19:23:00
  • 671:

    名無しさん

    「もうすぐクリスマスやなぁ〜…」         
    車の中、俺はハナに話し掛けた。新人の子の送り先は反対方向だったため、ここから俺の家までとなると結構遠い。暖房が効いてきたお陰で、フロントガラスの端が少しだけ曇った。   
    『せやなぁ…。』     
    ハナから零れた言葉はそれだけで、居たたまれなくなってラジオをかけた。   
    今年一番流行った歌のサビが、タイミングよく流れる。

    2007-01-31 19:24:00
  • 672:

    名無しさん

    永遠を 貴方は信じてた?奪わないで いなくならないで あたしは 君の隣にいたいよ 叶わなくても 届かなくても あたしは あたしには 貴方しかいないの
    毎晩 何を祈るの? 真っ白な雪が君を隠して 見失ってしまう 好き それすらもう 伝えられないの? 
    …−

    いつか聞いた、玲花のメロディーコールはこの歌だった。

    2007-01-31 19:25:00
  • 673:

    名無しさん





    『ずっと、好きやった。』

    2007-01-31 19:26:00
  • 674:

    名無しさん

    悲しそうに笑った彼女を見て、気付けば俺は玲花の手を取り、半分引きずる様に、足早に歩いていた。   
    『ちょっ…准?!准!どこ行くん!…ってかお金!』 
    玲花の声にはっとして、喫茶店の出口で立ち止まった。驚いた顔した店員に、急いで財布から金を出し、会計を済ませた。      

    《何やってるねん俺…》

    2007-01-31 19:27:00
  • 675:

    名無しさん

    そんな俺を見て玲花は笑い、どこ行くん?ともう一回俺に聞いた。       
    だけど俺は、別に何か考えていたわけじゃなくて。  
    ただ、さっきのあの悲しそうな笑顔が、今の自分とかぶって、見ていたくなかっただけやった。      
    「どこ行きたい?」    
    そう聞き返すと、玲花は元気良く『飯!』と答えた。笑う玲花はうれしそうだ。

    2007-01-31 19:28:00
  • 676:

    名無しさん

    『見て欲しかってん、うちを。だから、准を困らせることばっかしてた。』   
    彼女がそっとそう話し始めたのは、飯を食い終わり、玲花の要望で夜景を見に行く車の中でだった。    
    『クビなって、なんでわかってくれへんねんって、ムカついた。やけになって、SIX入店して、悪い噂流して…。あたしがいなくなってどんだけ困るか、教えたんねんって思ってた。』 
    「最低やな!笑」     
    『うちもそう思う。笑』

    2007-01-31 19:29:00
  • 677:

    名無しさん


    『…−なぁ、准はさ、冷たくてやさしいよね。』   
    彼女がそう言ったのは、丁度夜景スポットに車を止めた時だった。       
    「何それ、どういう意味な…『きれー!!』」
    玲花は少し大きな声でそういうと、会話を止めた。

    2007-01-31 19:31:00
  • 678:

    名無しさん

    ぱっちりした大きな目を余計大きく見開いて、窓を開けて身を乗り出した。同時に、冷たい風が入ってくる。            
    「…寒っ!」       
    思わずそう言うと、玲花は慌てた様子でドアを閉めた。            
    「ははっ、ええよ、別に。開けとき。」       
    そう言って笑うと、玲花は恥ずかしそうにうつむく。気付かない振りして、ハンドルに顎を乗せ、綺麗なぁ、と呟いた。

    2007-01-31 19:33:00
  • 679:

    名無しさん

    夜景なんて約2年ぶりぐらいで、久々に見た大阪の街は、前よりも明るくなった気がする。        
    《なんか、こうして見るとやっぱり…−
     小せぇな、人って。》  

    『准?』玲花が俺をそっと呼んだから、おれは助手席へ顔を向けた。

    2007-01-31 19:34:00
  • 680:

    名無しさん

    『准は、やさしいよ。』 そしてまた、ポツリと言った。           

    『馬鹿なこと、聞いてもいい?もう、わがまま言わへん。困らせるようなこともせぇへん。やから、嘘でも、何でもいいから…−   
    《好き》って言って?   
    そしたらあたし、めっちゃ頑張れる。RAINに、戻る。』

    2007-01-31 19:35:00
  • 681:

    名無しさん

    目の前に広がる夜景が、玲花の顔をかすかに照らす。玲花は、やっぱり女の子らしくてかわいい。     

    簡単なことだ。たった一言、《好きだ》って言えばいい。玲花とハナが店に揃えば、向かうところ敵なしだ。

    だけど…−だけど。

    2007-01-31 19:36:00
  • 682:

    名無しさん





    《無理だ。》

    2007-01-31 19:36:00
  • 683:

    名無しさん

    以前の俺なら、迷わず言えただろう言葉も、今は言えない。だって、ハナの顔が頭から離れない。ハナが俺のことを好きじゃなくても、ハナに他の好きな人がいても、俺には、…−ハナしか見えへん。

    黙りこくった俺を、玲花は潤んだ瞳で見つめて、そして言った。

    『ほらな?冷たくて、やさしい…−。』

    2007-01-31 19:37:00
  • 684:

    名無しさん

    おわり?まだよみたいよぉ?

    2007-01-31 21:43:00
  • 685:

    名無しさん




    『言ってくれへんって、わかってたよ?ありがとう』 
    帰り道、玲花は小さな声でそう言った。

    2007-02-01 03:08:00
  • 686:

    名無しさん

    車内にそれ以上の会話はなく、若干の気まずさが二人を包む。雪が、また降り始めていた。        
    「んな、気を付けて。」  
    玲花の家の前に到着し、俺はそう別れを告げた。

    −…トンッ

    2007-02-01 03:09:00
  • 687:

    名無しさん

    ほんの、一瞬。甘い香水が、薫る。         
    《あ、これ…元カノと一緒。なんやったっけ…。えっと、ベビードール…?》  
    突然のことで、状況がつかめないまま…−そんなことだけが、頭に浮かんだ。

    玲花は、俺の胸元に顔を埋め、ギュッと俺に抱きつきながら、鼻をすすって、泣いていた。

    2007-02-01 03:10:00
  • 688:

    名無しさん

    「玲…花?」

    抱き締め返すことも、引き剥がすことも出来ず、俺は彼女の名前を呼んだ。

    2007-02-01 03:10:00
  • 689:

    名無しさん

    彼女は俺の胸元から体を離すと、          
    『准、変わったね!』   
    と、それだけ言って涙を拭い、満面の笑みでバイバイ、と手を振った。     

    マンションのエントランスのその奥に、消えていく玲花を、俺はいつまでも見ていた。

    2007-02-01 03:12:00
  • 690:

    名無しさん





    彼女は、春が来たらこの街を出るらしい。

    2007-02-01 03:12:00
  • 691:

    名無しさん





    2007-02-01 03:12:00
  • 692:

    名無しさん

    『なぁ…准が設定したあたしの着信音、これやったやんな?』

    ふと、ハナがそう聞いてきて、現実世界に引き戻された。

    《そういえば、そうやったっけ…−》

    2007-02-01 03:14:00
  • 693:

    名無しさん

    確か、ダウンロードランキングで一番上にあって、勝手に設定したはずだった。 
    この歌…

    「いい歌詞やんな?!」 『安っぽい歌詞。』    
    曲が終わり、MCのむやみに明るい解説を後ろに、二人の声が重なった。

    2007-02-01 03:15:00
  • 694:

    名無しさん

    少し驚いた顔して、ハナと俺は顔を見合わせた。   
    「えっ?いい歌やん!」 『はぁ?准センスないな!どこがやねん。』
    「何やねんお前!可愛げのない女やな!」
    『うっさいわボケ!死んでしまえ!笑』
    「おい、だからそれ言い過ぎやろ!笑」

    2007-02-01 03:16:00
  • 695:

    名無しさん

    それは久々に見た気がした、ハナの笑顔。

    なんでかうれしくなって、俺は何度もハナを横目に見つめた。

    赤信号で、車が止まる。 静かに、静かに雪が降る。

    2007-02-01 03:17:00
  • 696:

    名無しさん

    『セッタちょーだい?』  
    その言葉に、胸ポケットからタバコを取出し、ハナに渡した。ハナがタバコを加えたのを確認してから、ライターに火を点け、ハナの口元まで持っていった。
    彼女に初めてあった日に、そうしたみたいに。

    ありがと、と言ってから、彼女はそのままタバコに火を点けた。ハナの長い前髪がかすかに手に触れて、こそばかった。

    2007-02-01 03:17:00
  • 697:

    名無しさん

    フーッと、細い煙が上がる。そしてハナのその尖らした唇に、俺は気が付いたらキスをしていた。

    時間が止まる。
    細い道に、朝方他に車はなく、信号は青に変わり、また赤に変わった。

    2007-02-01 03:18:00
  • 698:

    名無しさん

    なぁハナ         
    永遠を、お前は信じてた? 
    安っぽい歌詞やって、お前はそう言ったけど     
    愛を囁く言葉なんて、もともと全部安っぽいねん。  
    だって‘愛’が何なのかなんて、誰も知らない。  それでもみんな、必死で考えてそれを求める。

    2007-02-01 03:20:00
  • 699:

    名無しさん

    ハナ。          
    だから俺は、
    またお前に会えたら    
    壊れるくらい強く抱き締めて、           
    『愛してるで』って、  言うと思うねん。

    2007-02-01 03:22:00
  • 700:

    名無しさん




    2003年12月23日

    2007-02-01 03:26:00
  • 701:

    名無しさん

    AM6:00

    RAINにも、赤と緑に光るツリーを置いてみたりして、クリスマスムードは更に濃くなる。

    ボーナス、冬休み、年末、忘年会。すべてが揃ったこの時期は、毎年のことやけど、目が回るほど忙しくて参る。なんて、言ってられるうちが華やねんけど。

    2007-02-01 03:27:00
  • 702:

    名無しさん

    昨日と同じ、疲れた体で家に帰り、テレビを点けた。天気予報のお姉さんが、明日はもしかしたらホワイトクリスマスになるかもしれないと、笑顔で言っていた。


    《クリスマス、ねぇ…−》

    2007-02-01 03:27:00
  • 703:

    名無しさん

    恋人達の聖なる夜も、俺には関係ない。むしろそれは稼ぎ時でしかなくて、わかってはいることなんやけど、ふとした瞬間に少し、悲しくなったりする。    
    《けど…》        
    キッチンに立って、もう見慣れた、料理を作るハナの横顔をチラ見する。    
    顔がにやけるのが、わかった。
    恋人でもなんでもないけど、クリスマス。隣に好きな女がいるのはやっぱりうれしい。

    2007-02-01 03:29:00
  • 704:

    名無しさん

    …−
    夜が明ける。       

    『ご飯出来たで〜?』
    その声と同時に、キッチンに向かった。

    2007-02-01 03:30:00
  • 705:

    名無しさん

    今日は、久々にあのオムライス。卵はきれいに半熟で、出来たてのそれはむちゃくちゃ上手そうだった。

    そういえば、玲花と会ったあの日も、このオムライスを食べたっけ。『作ってないよ』とハナは言ったくせに、冷蔵庫にはしっかりと二つオムライスが並んでいて、嘘をつかせてしまったんやって、少し後悔した。眠ってたハナを起こして、一緒に食べた。お腹は空いてなかったはずなのに、やっぱりハナのオムライスは何よりもおいしくて、あっという間に食べ切れた。

    2007-02-01 03:30:00
  • 706:

    名無しさん


    『美味しい?』

    めずらしくハナが俺にそう聞いた。口いっぱいに頬張りながら、笑ってうなずいた。

    2007-02-01 03:31:00
  • 707:

    名無しさん

    AM9:00

    『准〜?ごめん、忘れてた!バスタオルとって!』
    「ん〜…」
    寝かけていた開かない目を、右手でこすりながら、その声でベットから起き上がった。いつもの棚から一枚タオルを手に取る。そのままバスルームに向かった。何も考えないまま、ドアを開けた。

    2007-02-01 03:50:00
  • 708:

    名無しさん

    ガチャッ…
    「…あ、ごめん!!」   
    勢い良く、ドアを閉めた。 

    ドクンと、大きく心臓が鳴った。

    2007-02-01 03:53:00
  • 709:

    名無しさん


    《…え?何あれ…−》   

    眠気は、一気に冷める。

    2007-02-01 03:54:00
  • 710:

    名無しさん

    『…バスタオル。』
    ハナの声はひどく怒っていた。タオルを持ったままだった右手をドアの向こうに差し出すと、ひったくるようにそれを取られた。   
    だけど、今はそんなことはどうでもいい。

    寝呆けていた瞳に、はっきりと移った、〔それ〕。

    2007-02-01 03:54:00
  • 711:

    名無しさん


    …−ハナの細い背中にある、無数の火傷跡。

    あれは…−根性焼き。タバコの先を、押しつけた跡。

    2007-02-01 03:55:00
  • 712:

    名無しさん

    ガチャッ…−        
    また、バスルームのドアが開く音がして、俺はそっちに視線を向けた。     

    『死んでしまえ!』    
    ハナはそう言って俺を睨んだ後、濡れた髪のまま、真っすぐ布団にもぐりこんだ。

    2007-02-01 03:57:00
  • 713:

    名無しさん

    「なぁ!いつやられた?誰にやられてん?!なぁ、ハナって!!」

    相変わらずハナは黙ったままで、表情すら伺えない。だけど、背中が小さく震えていた。

    《ハナ…−。ハナ。》

    2007-02-01 03:58:00
  • 714:

    名無しさん

    今まで始めから一気に読みました???
    涙がすでに止まりません?
    続きが気になって仕方ないです??

    2007-02-01 04:18:00
  • 715:

    名無しさん

    表現力すごいしいい小説やけどどこで泣ける?泣ける部分あったっけ?

    2007-02-01 12:19:00
  • 716:

    sage

    >>732-733ファンスレでして
    読みにくなるやん

    2007-02-01 14:17:00
  • 717:

    ↑さげれてないやん笑

    2007-02-01 15:14:00
  • 718:

    紅音◆LTrx1cGfeo

    早く鳴りだした鼓動がやっと収まった頃、俺はそっとハナがいるベットに座り、震えている彼女の濡れた髪を撫でた。きっと、泣いている。

    「ごめん。ごめんハナ。 …−風邪引くで?」

    ゆっくり布団をとって、ハナの顔をのぞく。スッピンのハナは、いつもとは正反対に幼くて、子供みたいだ。

    2007-02-01 22:34:00
  • 719:

    名無しさん

    涙と、乾かしていない髪のせいで、布団が少し湿っている。          
    泣き顔を         
    見たのは初めてで
    ズキンと、胸が痛んだ。  
    守ってやりたいと、強く思った…−。

    2007-02-01 22:35:00
  • 720:

    名無しさん

    …−



    水滴が滴る。ハナの濡れた前髪をそっとかきあげた。

    2007-02-01 22:36:00
  • 721:

    名無しさん

    背中の火傷は全部で12個。よく見ると、最近出来たものではなさそうだった。消えかけで、だけど決して消えないその傷の、一つ一つにキスをした。腹と胸元にも、切られたような傷があり、それは想像以上に大きなハナの黒い闇を俺に教える。指でそっとなぞり、キスを繰り返す。

    ハナの体はすごく暖かくて、愛しさばかりがこみあげる。ハナは何度も隠そうとしたけど、傷だらけの体は、汚くなんかない。柔らかくてきめ細やかな肌と相反したそれは、むしろハナの体を綺麗に飾っている気さえした。

    ハナは、ギュッと強く目を瞑り、何度か小さな声を上げた。

    2007-02-01 22:37:00
  • 722:

    名無しさん



    こんなにも、想いが溢れて止まらないSEXは初めてだった。

    2007-02-01 22:37:00
  • 723:

    名無しさん

    なぁハナ         
    冷たくて、寒いだけだ。
    だけど、心惹かれる。

    綺麗で、真っ白な雪。

    2007-02-01 22:38:00
  • 724:

    名無しさん

    何色にも染まるそれは、 本当はきっと、
    何色にも染められへんのかもしれん。        
    だって、降り積もった雪は 
    どれだけ汚く染まっても  
    それを隠すようにまた新しい雪が降る。

    2007-02-01 22:40:00
  • 725:

    名無しさん

    ハナ。          
    汚れてなんかないで

    何度見てもお前は
    綺麗やったから。

    2007-02-01 22:40:00
  • 726:

    名無しさん

    久々に、ハナの胸元に顔を埋めて目を閉じる。人の体温はこんなにも、あったかいもんなんか。      
    『准ちゃん…?』     
    ハナの声は、やっぱり幼くてやさしい。       
    『何で源氏名ハナにしたん?って質問、あたしちゃんと答えてなかったやんな』 
    その言葉で、ハナの顔を見上げる。目が合って、彼女はクスッと笑った。

    2007-02-01 22:43:00
  • 727:

    名無しさん

    『…−あたしの本名、覚えてる?』
    「心やろ?立花こころ。」
    『うん、そう。』

    そしてハナは、ゆっくりと話し始めた。

    2007-02-01 22:43:00
  • 728:

    名無しさん

    『幸せやってんで?パパが、あたしの10歳の誕生日に家を出るまでは…−なんで出ていったかなんて今だに知らへんけど。それからやねん、ママが変わったの。虐待…って言うんかな?今いち、ピンとこーへんけど。』

    『毎日パパの悪口言ってた。最低な奴や、お前とあたしは捨てられてんって。』 

    その言葉にふと、玲花の顔が浮かび、すぐに消えた。

    2007-02-01 22:44:00
  • 729:

    名無しさん

    『中学に上がる頃かな、ママに新しい男が出来てん。そいつがまた嫌な奴で、ほとんど家には帰らへんくなった。夜遅くまで出歩いてたら、自然と悪い友達も増えた。17の時、少年院に入れられて、そこ出てからも、男の家とか友達の家渡り歩いて、たったの一回も実家には帰らんかった。気付いたら18になってて… 
    何でやろうな、ふと、ママの顔が見たくなってん。』 

    関を切ったように続けるハナを横に、俺はひたすら、黙って聞くことしか出来なかった。         
    『何年ぶりかに帰った家は、売り家に変わってて、ママはいなくなってた。あぁ、本間に捨てられたんやって思ったわ。自分で家出といて何やけど。それから何ヵ月後かの…−雨の日にな、街で偶然、本間に偶然、親戚に会ってん。ほんで、むちゃくちゃ怒られた。』

    2007-02-01 22:45:00
  • 730:

    名無しさん

    ハナはそこで一度口を閉じた。無理せんでいいで、と言うと、してないよ、と笑った。ハナはやっぱり嘘つきだ。

    『ママな…自殺しててん。遺書も何も残さずに、首吊って。』

    ハナは、ようやく、泣きそうになっていた。

    2007-02-01 22:46:00
  • 731:

    名無しさん

    『あの人はきっと、愛情表現が下手なだけで…やっぱり、パパのこと、死ぬほど好きだったんやと思う。だから死んだんちゃうかな。よくわからへんけど。』  

    何も言えず、抱き締めることしか出来なかった。
    ハナはまた、俺の髪の毛をやさしく撫でた。

    2007-02-01 22:47:00
  • 732:

    名無しさん

    『うちのママとパパはな、同級生やってんて!んで、‘立花’やろ?やから、ママはパパのこと‘ハナ’って呼んでてん!』

    涙を堪えた声で、無理してはしゃいで、ハナがそう言った。

    2007-02-01 22:48:00
  • 733:

    名無しさん

    ‘大好きやった人の、大切な人の名前’…−     
    あの日、確かにハナはそう言った。         
    きっと、ハナの父親が大好きだった母親と同じで。  
    何をされても、離れていても、ハナは。
    その母を、今でもずっと、…−想ってるんだろう。

    2007-02-01 23:16:00
  • 734:

    名無しさん





    2007-02-01 23:29:00
  • 735:

    名無しさん

    PM7:00

    『いってらっしゃい!』

    クリスマスイベントの用意があるため、少し早めに家を出る。ハナのその言葉をいつも通り背中に聞きながら、ドアノブに手を掛けた。

    2007-02-01 23:30:00
  • 736:

    名無しさん

    『准ちゃん!』

    そう呼ばれて振り返ると、ハナは口の右端だけを上げて…−笑った。

    「准ちゃん言うな!笑」

    2007-02-01 23:31:00
  • 737:

    名無しさん


    それが、
    ハナを見た最後だった。

    2007-02-01 23:32:00
  • 738:

    名無しさん

    2003年12月24日  
    日付が変わって、仕事が終わったら、言おうと思っていた。          
                 

    …−《アイシテル》

    2007-02-01 23:34:00
  • 739:

    名無しさん





    2007-02-01 23:44:00
  • 740:

    名無しさん

    准ちゃんへ        
    あたしを、助けてくれてありがとう。       あたしと、一緒にいてくれてありがとう。      
    准ちゃん。       大好きだったよ。     
    あたしは、准ちゃんのことを忘れないけど、あたしのことは忘れていいよ。  何も言わずに、さよならしてごめんね。       
    ハナ

    2007-02-01 23:47:00
  • 741:

    名無しさん





    2007-02-01 23:47:00
  • 742:

    名無しさん





    2007-02-02 00:43:00
  • 743:

    名無しさん



    Final
    SIDE ハナ

    2007-02-02 00:44:00
  • 744:

    名無しさん

    『准ちゃん言うな!』   
    あたしが彼をそう呼ぶと、決まって准はこう言った。それがおもしろくて、あたしはわざと‘准ちゃん’と呼んだりした。

    あの日、彼と最後に交わしたのもその言葉だった。
    そしてまた、整った顔をくしゃっと歪まして、彼は笑ったんだった。

    2007-02-02 00:45:00
  • 745:

    名無しさん

    涙が止まらなくて、上手に字が書けない。何度も何度も、あたしはそれを書き直した。
    伝えたいことや、言っておきたい言葉はたくさん思い浮かぶのに、うまく表現出来なくて、結局便箋一枚だけで終わってしまった。

    最後の最後まで、素直になれないこんなあたしを、准ちゃんはどう思うだろう。

    2007-02-02 00:45:00
  • 746:

    名無しさん

    まとめていた荷物を手に取る。といっても、ここに来たあの日と同じ様に、カバンは一つだけで、中身もほとんど空っぽだった。   
    准と一緒に買いに行った大量の服も、准に選んでもらったドレスも、お揃いの食器も…−。咲君と過ごしたあの部屋に、置いていったのと同じ様に       
    全部置いていく。     
    だけど、‘いらないから’じゃない。        
    そうでもしないと、一つ一つに思い出が多すぎて、いつまでも准から離れられない気がしたのだ。

    2007-02-02 00:47:00
  • 747:

    名無しさん

    2003年12月24日  
    AM0:00

    机の上に置いた、黒色の携帯があの着うたを鳴らす。 
    きっと准からだろう。いつもの出勤時間はとっくに過ぎている。

    2007-02-02 00:48:00
  • 748:

    名無しさん

    〜♪
    永遠を 貴方は信じてた?奪わないで いなくならないで あたしは 君の隣にいたいよ 叶わなくても 届かなくても あたしは あたしには 貴方しかいないの
    毎晩 何を祈るの? 真っ白な雪が君を隠して 見失ってしまう 好き それすらもう 伝えられないの? 

    最初は、何度聞いても安っぽい歌詞だとしか思えなかった。

    2007-02-02 00:49:00
  • 749:

    名無しさん

    だけど『いい歌やな』って、准があの時言ったから、あたしはこの歌を嫌いにはなれなかった。       
    だって、
    准の隣にいる時だけは
    ‘永遠’を、
    信じてみたくなったから。

    2007-02-02 00:50:00
  • 750:

    名無しさん

    鳴り続ける携帯を背中に、あたしは玄関に向かった。 
    ヒールを履いて、最後にもう一度だけ、部屋の中を見渡した。
    黒色のカーテン、白いベット、大きなソファーに、ふわふわのカーペット。可愛いタンス、古いテレビ、たまに音が飛ぶコンポ、星型の掛け時計。       
    全部を、目蓋の裏に焼き付けた。          
    いつも准があたしの為に玄関の上に置いていた鍵を、同じ所に置いて…−

    2007-02-02 00:52:00
  • 751:

    名無しさん


    家を出た。

    2007-02-02 00:52:00
  • 752:

    名無しさん

    マンションを出ると、見覚えのある車が止まっていた。迷う事無くドアを開けて助手席に座る。

    『誕生日、おめでとう』
    と、咲君が言った。

    2007-02-02 00:53:00
  • 753:

    名無しさん

    車が走りだす。
    あたしは何も言わないまま、さっき出てきた准のマンションを、ずっと見つめていた。

    …−

    2007-02-02 00:54:00
  • 754:

    名無しさん

    ねぇ准ちゃん       
    あの年のクリスマスに、結局雪は降らなかったね。  
    一緒にいた最後の日、  准ちゃんは        
    あたしを世界で、
    一番幸せにしてくれた。

    2007-02-02 00:55:00
  • 755:

    削除

    削除されますた

    あぼ~ん
  • 756:

    >>774は偽主

    2007-02-02 13:54:00
  • 757:

    削除

    削除されますた

    あぼ~ん
  • 758:

    削除

    削除されますた

    あぼ~ん
  • 759:

    削除

    削除されますた

    あぼ~ん
  • 760:

    削除

    削除されますた

    あぼ~ん
  • 761:

    削除

    削除されますた

    あぼ~ん
  • 762:

    削除

    削除されますた

    あぼ~ん
  • 763:

    削除

    削除されますた

    あぼ~ん
  • 764:

    削除

    削除されますた

    あぼ~ん
  • 765:

    名無しさん

    本当に紅音さん?

    2007-02-02 23:21:00
  • 766:

    名無しさん

    偽やん

    2007-02-02 23:47:00
  • 767:

    お待たせしました。パソコンと携帯から更新します。たくさんの応援とご感想、ありがとうございました!


    2007-02-05 12:33:00
  • 768:

    2006年12月。


    あれから3年が経ち、
    あたしはもうすぐ、24歳になる。

    2007-02-05 12:37:00
  • 769:

    咲君は、年明けにはCRUWを辞めた。元からそのつもりだったと言っていた。
    同時にあたしも夜の世界から抜け出し、前よりもずっと小さなマンションで、そのまま二人同棲を始めた。
    慣れない仕事のせいで、毎日必要以上にくたくたになって帰ってくる彼の姿を、あたしはうれしいというよりむしろ、何故か申し訳なく思った。
    それでも、「幸せだよ」と、嘘をついて笑った。

    2007-02-05 12:38:00
  • 770:

    必然的に、以前とは逆転した規則正しい日常に戻る。 
    朝起きて、夜寝る生活。

    そこにはネオンも、汗をかくグラスも折り畳まれたおしぼりも、夜から朝に変わるあの瞬間も…−なくて。始めはやっぱり少し淋しかったけど、今では多分、もうすぐ思い出せなくなるんじゃないかとすら思う。

    2007-02-05 12:44:00
  • 771:

    去年の夏。
    咲君は家を出ていった。

    狂っていた金銭感覚が元に戻り始めたのと、あたしの時給が50円上がったのと、毎朝作っていた咲君へのお弁当のおかずが、ワンパターンになり始めた頃だった。

    2007-02-05 12:45:00
  • 772:

    別れたことに、これといって理由はなかったと思う。 
    ただ単純に、あたしは彼を好きだったけど、以前程愛してはいなかったし、咲君はあたしを愛していると言ってくれたけど、そこにはいつも不安があった。

    そして何よりも、あたしは何度咲君に抱かれても、あの人の暖かいキスばかりを思い浮べていて、勘の鋭い咲君は、きっとそれにも気付いていたんだと思う。  
    …−何も、言わなかったけれど。

    2007-02-05 12:46:00
  • 773:

    少したってから、知り合いに、咲君は夜に戻ったと聞いた。それがいいよと、あたしは言った。


    だって彼の細い腕は、どう見ても工事現場には向いていなかったから。
    白く眩しいシャンデリアの下で‘がんばってこい’と、キャバ嬢の背中を軽く押す、そのやさしい仕草のほうが、その腕にはずっと似合っていたから。

    2007-02-05 12:46:00
  • 774:

    咲君が家を出ていく日、
    『恋愛なんて、本間にタイミングが全てなんやなぁ』と、そう淋しそうに笑って彼は言った。       
    「そうやね」と、呟くように返事をした。      
    あたしは、咲君から一度逃げ、准ちゃんに出会って、恋をして、だけど咲君の元に帰った。        
    そして今度は、彼が二人の家を出て…−あたしは結局一人になった。

    2007-02-05 12:48:00
  • 775:

    想いが、届かなかったわけじゃない。叶わなかったわけじゃない。       
    受けとめなかったんだ。叶えなかったんだ。     

    そこにやさしいキスはあったのに。                     
    きっと、タイミングを間違えてしまったんだ。

    2007-02-05 12:50:00
  • 776:




    この三年は長かったけど、ひどくからっぽだった気がして、薄っぺらい。

    2007-02-05 12:51:00
  • 777:

    PM8:00

    「お疲れさまでした!」  
    朝も夜も、仕事終わりのこの言葉だけは変わらない。オーナーに頭を下げ、笑顔でそう行ってからカフェを出た。          
    路地を抜けて大通りに出れば、三年前と変わらない、イルミネーションで飾られた街がある。

    2007-02-05 12:52:00
  • 778:

    久々に、眩しいほどのネオンを見てみたいと思った。あたしのあの頃の象徴は、やっぱりあの光の中にある気がして。        
    駅前の、時計台がある公園に足を向ける。この街で、一番大きなツリーは、あそこに飾られてあるはずだ。 
    吐く息が白い。
    変わらない気持ちなんてないと思っていたのに、あたしは知ってしまった。
    それは、毎年寒くなれば白くなる息と同じで、当たり前のように変わらないんだなぁ、なんて。

    2007-02-05 12:54:00
  • 779:

    「うわぁ〜…」      
    クリスマスシーズンのせいか、やたらと多いカップル達の横で、あたしは思わず呟いた。

    赤、青、緑、黄色。色とりどりの電球が、交互に光り合って、すごく綺麗だった。灰皿が置いてある、一番端のベンチに座って、セッタに火を付けた。

    2007-02-05 12:55:00
  • 780:

    准ちゃんの家を出てから、タバコの量は一気に増えた。自分から離れたくせに、今だに彼を想ってセッタを吸うあたしは、カップルだらけのこの公園で、今どんな風に写っているんだろう。

    公園のあちこちで、手を繋いだカップルが、ツリーを前に微笑み合う。みんな、幸せそうだった。

    2007-02-05 12:56:00
  • 781:

    『やっぱ毎年見てたからさ、このツリー見ないと、クリスマス!って感じせぇへんねんな。玲花は!!』  
    …その名前に、思わず女の顔を見た。
    くるくるの巻髪に、ぱっちりとした大きな目の彼女はお人形さんみたいに可愛かった。ふと、ベビードールが薫る。         

    《…なわけないやんな笑》

    2007-02-05 12:58:00
  • 782:

    あたしは頭を振って、変な想像をを揉み消した。

    《感傷的になりすぎやわ。…−もう帰ろう。》

    タバコを最後に一口吸いこみ、灰皿に投げ込むと、煙を吐き出しベンチから立ち上がった。

    2007-02-05 12:59:00
  • 783:

    〜♪
    永遠を 貴方は信じてた? 
    バイト先から出た時に、マナーモードを解除したばかりの携帯が、あの歌を鳴らした。丁度公園で流れるBGMも、曲と曲との繋ぎの部分で、その音はやけに響いた…ように感じた。

    ‘玲花’と自分を呼んだ彼女が、振り返ってあたしを見て…−目が合う。

    2007-02-05 12:59:00
  • 784:

    〜♪
    毎晩 何を祈るの? 真っ白な雪が君を隠して…−  
    その視線を何故か逸らせないまま、茫然と立ち尽くしている間に、電話は切れた。BGMも、また新しい曲に変わり、また賑やかに音楽が流れ始める。

    あれから三年。もちろん、携帯は1、2回変えた。だけど、この着うただけは、一度も変えなかった。

    2007-02-05 13:00:00
  • 785:





    2007-02-05 13:01:00
  • 786:

    『あの…、違ってたらごめんなさい。もしかして、ハナさん?…ですか?』



    彼女はそっとあたしに近付き、そう言った。一瞬だけ悩んだ後、すぐに首を縦に振った。

    2007-02-05 13:02:00
  • 787:

    あたしは、‘玲花ちゃん’と話したこともなければ、顔を見たことすらない。だけど確信に近かった。それは彼女も同じで、そういうのはやっぱり、わかってしまうもんなんだと思った。 

    『あたし、玲花って言うねんけど…わかる?あ、ちょっとだけ待っててな』

    あたしがもう一度うなずくと、彼女はホッとしたように微笑むと、連れの男の元へ走って行った。そして何かを告げると、男に手を振り、また走ってこっちへ戻って来る。

    2007-02-05 13:03:00
  • 788:

    「あれ、彼氏?」あたしがそう聞くと、『せやで?』と、彼女は幸せそうに笑って、あたしの隣に座った。 

    『ハナちゃ…、あ、ハナって呼んでもいい?』    
    いいよと言うと、『うちも玲花でいいから!』と、また可愛い笑顔を見せた。

    2007-02-05 13:04:00
  • 789:

    『うちのコト、色々聞いてるやんなぁ?』      
    答えに困ったあたしは、苦笑いになっていたと思う。 
    『いぃねん、それはしゃぁないし笑。…突然、ごめんなぁ?でもうち、ずっと会ってみたいと思っててん!…‘ハナ’に。』

    ニコニコしながら話しだした彼女は、聞いていたよりずっといい子で、想像していたよりもずっと可愛かった。

    2007-02-05 13:05:00
  • 790:

    今彼女は、六本木のクラブで、チーママとして働いているらしく、わがままばかりの嬢達に、困ってばかりいると言った。あたしが水商売を辞めたことを告げると、うちの店で働かへん?なんて、冗談を言って笑っていた。外は寒くて、なんの気休めにもならないけど、あたしは煙草に手を伸ばした。

    『…セブンスター?      あたしもやねん。』 

    淋しそうに笑った彼女が、何を言いたかったのかくらいわかる。あたしの気持ちだってきっと、バレてる。

    2007-02-05 13:06:00
  • 791:

    『人間が一番、素直になれへん動物やねんて。』

    彼女はタバコケースからあたしと同じセブンスターを取り出すと、火を点けて深く吸い込んだ。

    吐き出した煙が、白く、揺れる。

    2007-02-05 13:07:00
  • 792:

    『水商売なんて、一々素直になってたら、やって行かれへんしな。

    なぁ、ハナが失ったもんって何やった?この世界で』

    夜に生きる女は、みんなそんなことを一度は考えるもんなんかな。だけど何を失っていたとしても、気付く頃にはすでに遅い。だって、一人はもう嫌やから。

    2007-02-05 13:08:00
  • 793:

    『あたしはな、多分それ。素直さ。プライドばっか押し上げて、自分の気持ちすら中々認めへんかった。』 
    『好きやって、やっと認めれる頃には、とっくの昔に引き返せへんところにおってん。客にならいくらでも言えた‘好き’が、どうしても、言えへんかった。』 

    「…玲花は、准のどこを好きになったん?」
    すぐに口からでたその言葉は、素朴な疑問。

    2007-02-05 13:09:00
  • 794:

    『…そう言われたら、上手く答えられへんけど。でも優しくて冷たい人やなって、いつも思ってた。人を簡単に切り離したり、完全に割り切ってたり。仕事やから、仕方ないことやねんけどさ。…その癖いつも、自分が一番しんどそうで。そういうとこかな、多分。』 
    なんとなく、わかる気がした。           

    『でもな、店辞めてから、一度だけ会ったことあって。その時、准変わったなって、思ったよ?』     
    「え?」

    2007-02-05 13:11:00
  • 795:

    『色々聞いててさ、客に。あたしの入れ変わりに入った‘ハナ’って子が、今RAINのNO1やって。』

    「佐々木さんやろ?」そう言うと、そうそう、と玲花は笑った。あの人は、バカみたいに噂好きやったから。

    『会って顔見た瞬間、わかった気ぃして。好きな人おんねんなって。根拠とかないけど、多分その子なんやろうなって。』

    2007-02-05 13:12:00
  • 796:

    何も言えなくなって、俯いた。目を閉じれば、准の顔ばかりが浮かぶ。

    『黒猫みたいな子って言ってたよ。ハナってどんな子なん?って聞いたとき。むっちゃ、うれしそうに。』 

    雪が、降り始めていた。

    2007-02-05 13:12:00
  • 797:

    『なぁハナ。

     …今でも、准を好き?』 

    自分の目から零れた涙が、手のひらにぽたぽたと落ちて、雪なのか涙なのか、いまいちよくわからなかった。

    2007-02-05 13:13:00
  • 798:

    彼を、思い出さない日なんてなかった。
    ‘ハナ’優しくあたしを呼ぶあの声や、くしゃってなる笑顔も、少し硬い髪の毛や、暖かい腕の中や、天国みたいだったあの部屋を。 
    思い出さない日なんてなかったんだ。

    だってあれは、黒い闇の中で、あたしを照らした一筋の光。

    2007-02-05 13:14:00
  • 799:

    偽物のネオンと、嘘ばかりの夜の世界で

    あたしが失ったものはきっと…−《准ちゃん》。

    彼でしか、なかった。

    2007-02-05 13:15:00
  • 800:



    だけど彼と出会えたのも、あの世界にいたからだ。  

    2007-02-05 13:16:00
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