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ハナ
-
1:
名無しさん
ハナが、口の右端だけを上げて笑う。
何か企んでいる証拠。2006-11-27 03:04:00 -
700:
名無しさん
2003年12月23日
2007-02-01 03:26:00 -
701:
名無しさん
AM6:00
RAINにも、赤と緑に光るツリーを置いてみたりして、クリスマスムードは更に濃くなる。
ボーナス、冬休み、年末、忘年会。すべてが揃ったこの時期は、毎年のことやけど、目が回るほど忙しくて参る。なんて、言ってられるうちが華やねんけど。2007-02-01 03:27:00 -
702:
名無しさん
昨日と同じ、疲れた体で家に帰り、テレビを点けた。天気予報のお姉さんが、明日はもしかしたらホワイトクリスマスになるかもしれないと、笑顔で言っていた。
《クリスマス、ねぇ…−》2007-02-01 03:27:00 -
703:
名無しさん
恋人達の聖なる夜も、俺には関係ない。むしろそれは稼ぎ時でしかなくて、わかってはいることなんやけど、ふとした瞬間に少し、悲しくなったりする。
《けど…》
キッチンに立って、もう見慣れた、料理を作るハナの横顔をチラ見する。
顔がにやけるのが、わかった。
恋人でもなんでもないけど、クリスマス。隣に好きな女がいるのはやっぱりうれしい。2007-02-01 03:29:00 -
704:
名無しさん
…−
夜が明ける。
『ご飯出来たで〜?』
その声と同時に、キッチンに向かった。2007-02-01 03:30:00 -
705:
名無しさん
今日は、久々にあのオムライス。卵はきれいに半熟で、出来たてのそれはむちゃくちゃ上手そうだった。
そういえば、玲花と会ったあの日も、このオムライスを食べたっけ。『作ってないよ』とハナは言ったくせに、冷蔵庫にはしっかりと二つオムライスが並んでいて、嘘をつかせてしまったんやって、少し後悔した。眠ってたハナを起こして、一緒に食べた。お腹は空いてなかったはずなのに、やっぱりハナのオムライスは何よりもおいしくて、あっという間に食べ切れた。2007-02-01 03:30:00 -
706:
名無しさん
『美味しい?』
めずらしくハナが俺にそう聞いた。口いっぱいに頬張りながら、笑ってうなずいた。2007-02-01 03:31:00 -
707:
名無しさん
AM9:00
『准〜?ごめん、忘れてた!バスタオルとって!』
「ん〜…」
寝かけていた開かない目を、右手でこすりながら、その声でベットから起き上がった。いつもの棚から一枚タオルを手に取る。そのままバスルームに向かった。何も考えないまま、ドアを開けた。2007-02-01 03:50:00 -
708:
名無しさん
ガチャッ…
「…あ、ごめん!!」
勢い良く、ドアを閉めた。
ドクンと、大きく心臓が鳴った。2007-02-01 03:53:00 -
709:
名無しさん
《…え?何あれ…−》
眠気は、一気に冷める。
2007-02-01 03:54:00 -
710:
名無しさん
『…バスタオル。』
ハナの声はひどく怒っていた。タオルを持ったままだった右手をドアの向こうに差し出すと、ひったくるようにそれを取られた。
だけど、今はそんなことはどうでもいい。
寝呆けていた瞳に、はっきりと移った、〔それ〕。2007-02-01 03:54:00 -
711:
名無しさん
…−ハナの細い背中にある、無数の火傷跡。
あれは…−根性焼き。タバコの先を、押しつけた跡。
2007-02-01 03:55:00 -
712:
名無しさん
ガチャッ…−
また、バスルームのドアが開く音がして、俺はそっちに視線を向けた。
『死んでしまえ!』
ハナはそう言って俺を睨んだ後、濡れた髪のまま、真っすぐ布団にもぐりこんだ。2007-02-01 03:57:00 -
713:
名無しさん
「なぁ!いつやられた?誰にやられてん?!なぁ、ハナって!!」
相変わらずハナは黙ったままで、表情すら伺えない。だけど、背中が小さく震えていた。
《ハナ…−。ハナ。》2007-02-01 03:58:00 -
714:
名無しさん
今まで始めから一気に読みました???
涙がすでに止まりません?
続きが気になって仕方ないです??2007-02-01 04:18:00 -
715:
名無しさん
表現力すごいしいい小説やけどどこで泣ける?泣ける部分あったっけ?
2007-02-01 12:19:00 -
718:
紅音◆LTrx1cGfeo
早く鳴りだした鼓動がやっと収まった頃、俺はそっとハナがいるベットに座り、震えている彼女の濡れた髪を撫でた。きっと、泣いている。
「ごめん。ごめんハナ。 …−風邪引くで?」
ゆっくり布団をとって、ハナの顔をのぞく。スッピンのハナは、いつもとは正反対に幼くて、子供みたいだ。2007-02-01 22:34:00 -
719:
名無しさん
涙と、乾かしていない髪のせいで、布団が少し湿っている。
泣き顔を
見たのは初めてで
ズキンと、胸が痛んだ。
守ってやりたいと、強く思った…−。2007-02-01 22:35:00 -
720:
名無しさん
…−
水滴が滴る。ハナの濡れた前髪をそっとかきあげた。2007-02-01 22:36:00 -
721:
名無しさん
背中の火傷は全部で12個。よく見ると、最近出来たものではなさそうだった。消えかけで、だけど決して消えないその傷の、一つ一つにキスをした。腹と胸元にも、切られたような傷があり、それは想像以上に大きなハナの黒い闇を俺に教える。指でそっとなぞり、キスを繰り返す。
ハナの体はすごく暖かくて、愛しさばかりがこみあげる。ハナは何度も隠そうとしたけど、傷だらけの体は、汚くなんかない。柔らかくてきめ細やかな肌と相反したそれは、むしろハナの体を綺麗に飾っている気さえした。
ハナは、ギュッと強く目を瞑り、何度か小さな声を上げた。2007-02-01 22:37:00 -
722:
名無しさん
こんなにも、想いが溢れて止まらないSEXは初めてだった。
2007-02-01 22:37:00 -
723:
名無しさん
なぁハナ
冷たくて、寒いだけだ。
だけど、心惹かれる。
綺麗で、真っ白な雪。2007-02-01 22:38:00 -
724:
名無しさん
何色にも染まるそれは、 本当はきっと、
何色にも染められへんのかもしれん。
だって、降り積もった雪は
どれだけ汚く染まっても
それを隠すようにまた新しい雪が降る。2007-02-01 22:40:00 -
725:
名無しさん
ハナ。
汚れてなんかないで
何度見てもお前は
綺麗やったから。2007-02-01 22:40:00 -
726:
名無しさん
久々に、ハナの胸元に顔を埋めて目を閉じる。人の体温はこんなにも、あったかいもんなんか。
『准ちゃん…?』
ハナの声は、やっぱり幼くてやさしい。
『何で源氏名ハナにしたん?って質問、あたしちゃんと答えてなかったやんな』
その言葉で、ハナの顔を見上げる。目が合って、彼女はクスッと笑った。2007-02-01 22:43:00 -
727:
名無しさん
『…−あたしの本名、覚えてる?』
「心やろ?立花こころ。」
『うん、そう。』
そしてハナは、ゆっくりと話し始めた。2007-02-01 22:43:00 -
728:
名無しさん
『幸せやってんで?パパが、あたしの10歳の誕生日に家を出るまでは…−なんで出ていったかなんて今だに知らへんけど。それからやねん、ママが変わったの。虐待…って言うんかな?今いち、ピンとこーへんけど。』
『毎日パパの悪口言ってた。最低な奴や、お前とあたしは捨てられてんって。』
その言葉にふと、玲花の顔が浮かび、すぐに消えた。2007-02-01 22:44:00 -
729:
名無しさん
『中学に上がる頃かな、ママに新しい男が出来てん。そいつがまた嫌な奴で、ほとんど家には帰らへんくなった。夜遅くまで出歩いてたら、自然と悪い友達も増えた。17の時、少年院に入れられて、そこ出てからも、男の家とか友達の家渡り歩いて、たったの一回も実家には帰らんかった。気付いたら18になってて…
何でやろうな、ふと、ママの顔が見たくなってん。』
関を切ったように続けるハナを横に、俺はひたすら、黙って聞くことしか出来なかった。
『何年ぶりかに帰った家は、売り家に変わってて、ママはいなくなってた。あぁ、本間に捨てられたんやって思ったわ。自分で家出といて何やけど。それから何ヵ月後かの…−雨の日にな、街で偶然、本間に偶然、親戚に会ってん。ほんで、むちゃくちゃ怒られた。』2007-02-01 22:45:00 -
730:
名無しさん
ハナはそこで一度口を閉じた。無理せんでいいで、と言うと、してないよ、と笑った。ハナはやっぱり嘘つきだ。
『ママな…自殺しててん。遺書も何も残さずに、首吊って。』
ハナは、ようやく、泣きそうになっていた。2007-02-01 22:46:00 -
731:
名無しさん
『あの人はきっと、愛情表現が下手なだけで…やっぱり、パパのこと、死ぬほど好きだったんやと思う。だから死んだんちゃうかな。よくわからへんけど。』
何も言えず、抱き締めることしか出来なかった。
ハナはまた、俺の髪の毛をやさしく撫でた。2007-02-01 22:47:00 -
732:
名無しさん
『うちのママとパパはな、同級生やってんて!んで、‘立花’やろ?やから、ママはパパのこと‘ハナ’って呼んでてん!』
涙を堪えた声で、無理してはしゃいで、ハナがそう言った。2007-02-01 22:48:00 -
733:
名無しさん
‘大好きやった人の、大切な人の名前’…−
あの日、確かにハナはそう言った。
きっと、ハナの父親が大好きだった母親と同じで。
何をされても、離れていても、ハナは。
その母を、今でもずっと、…−想ってるんだろう。2007-02-01 23:16:00 -
734:
名無しさん
2007-02-01 23:29:00 -
735:
名無しさん
PM7:00
『いってらっしゃい!』
クリスマスイベントの用意があるため、少し早めに家を出る。ハナのその言葉をいつも通り背中に聞きながら、ドアノブに手を掛けた。2007-02-01 23:30:00 -
736:
名無しさん
『准ちゃん!』
そう呼ばれて振り返ると、ハナは口の右端だけを上げて…−笑った。
「准ちゃん言うな!笑」2007-02-01 23:31:00 -
737:
名無しさん
それが、
ハナを見た最後だった。
2007-02-01 23:32:00 -
738:
名無しさん
2003年12月24日
日付が変わって、仕事が終わったら、言おうと思っていた。
…−《アイシテル》2007-02-01 23:34:00 -
739:
名無しさん
2007-02-01 23:44:00 -
740:
名無しさん
准ちゃんへ
あたしを、助けてくれてありがとう。 あたしと、一緒にいてくれてありがとう。
准ちゃん。 大好きだったよ。
あたしは、准ちゃんのことを忘れないけど、あたしのことは忘れていいよ。 何も言わずに、さよならしてごめんね。
ハナ2007-02-01 23:47:00 -
741:
名無しさん
2007-02-01 23:47:00 -
742:
名無しさん
2007-02-02 00:43:00 -
743:
名無しさん
Final
SIDE ハナ
2007-02-02 00:44:00 -
744:
名無しさん
『准ちゃん言うな!』
あたしが彼をそう呼ぶと、決まって准はこう言った。それがおもしろくて、あたしはわざと‘准ちゃん’と呼んだりした。
あの日、彼と最後に交わしたのもその言葉だった。
そしてまた、整った顔をくしゃっと歪まして、彼は笑ったんだった。2007-02-02 00:45:00 -
745:
名無しさん
涙が止まらなくて、上手に字が書けない。何度も何度も、あたしはそれを書き直した。
伝えたいことや、言っておきたい言葉はたくさん思い浮かぶのに、うまく表現出来なくて、結局便箋一枚だけで終わってしまった。
最後の最後まで、素直になれないこんなあたしを、准ちゃんはどう思うだろう。2007-02-02 00:45:00 -
746:
名無しさん
まとめていた荷物を手に取る。といっても、ここに来たあの日と同じ様に、カバンは一つだけで、中身もほとんど空っぽだった。
准と一緒に買いに行った大量の服も、准に選んでもらったドレスも、お揃いの食器も…−。咲君と過ごしたあの部屋に、置いていったのと同じ様に
全部置いていく。
だけど、‘いらないから’じゃない。
そうでもしないと、一つ一つに思い出が多すぎて、いつまでも准から離れられない気がしたのだ。2007-02-02 00:47:00 -
747:
名無しさん
2003年12月24日
AM0:00
机の上に置いた、黒色の携帯があの着うたを鳴らす。
きっと准からだろう。いつもの出勤時間はとっくに過ぎている。2007-02-02 00:48:00 -
748:
名無しさん
〜♪
永遠を 貴方は信じてた?奪わないで いなくならないで あたしは 君の隣にいたいよ 叶わなくても 届かなくても あたしは あたしには 貴方しかいないの
毎晩 何を祈るの? 真っ白な雪が君を隠して 見失ってしまう 好き それすらもう 伝えられないの?
最初は、何度聞いても安っぽい歌詞だとしか思えなかった。2007-02-02 00:49:00 -
749:
名無しさん
だけど『いい歌やな』って、准があの時言ったから、あたしはこの歌を嫌いにはなれなかった。
だって、
准の隣にいる時だけは
‘永遠’を、
信じてみたくなったから。2007-02-02 00:50:00 -
750:
名無しさん
鳴り続ける携帯を背中に、あたしは玄関に向かった。
ヒールを履いて、最後にもう一度だけ、部屋の中を見渡した。
黒色のカーテン、白いベット、大きなソファーに、ふわふわのカーペット。可愛いタンス、古いテレビ、たまに音が飛ぶコンポ、星型の掛け時計。
全部を、目蓋の裏に焼き付けた。
いつも准があたしの為に玄関の上に置いていた鍵を、同じ所に置いて…−2007-02-02 00:52:00 -
751:
名無しさん
家を出た。
2007-02-02 00:52:00 -
752:
名無しさん
マンションを出ると、見覚えのある車が止まっていた。迷う事無くドアを開けて助手席に座る。
『誕生日、おめでとう』
と、咲君が言った。2007-02-02 00:53:00 -
753:
名無しさん
車が走りだす。
あたしは何も言わないまま、さっき出てきた准のマンションを、ずっと見つめていた。
…−
2007-02-02 00:54:00 -
754:
名無しさん
ねぇ准ちゃん
あの年のクリスマスに、結局雪は降らなかったね。
一緒にいた最後の日、 准ちゃんは
あたしを世界で、
一番幸せにしてくれた。2007-02-02 00:55:00 -
755:
削除削除されますた
あぼ~ん -
757:
削除削除されますた
あぼ~ん -
758:
削除削除されますた
あぼ~ん -
759:
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あぼ~ん -
760:
削除削除されますた
あぼ~ん -
761:
削除削除されますた
あぼ~ん -
762:
削除削除されますた
あぼ~ん -
763:
削除削除されますた
あぼ~ん -
764:
削除削除されますた
あぼ~ん -
765:
名無しさん
本当に紅音さん?
2007-02-02 23:21:00 -
766:
名無しさん
偽やん
2007-02-02 23:47:00 -
769:
咲君は、年明けにはCRUWを辞めた。元からそのつもりだったと言っていた。
同時にあたしも夜の世界から抜け出し、前よりもずっと小さなマンションで、そのまま二人同棲を始めた。
慣れない仕事のせいで、毎日必要以上にくたくたになって帰ってくる彼の姿を、あたしはうれしいというよりむしろ、何故か申し訳なく思った。
それでも、「幸せだよ」と、嘘をついて笑った。2007-02-05 12:38:00 -
770:
必然的に、以前とは逆転した規則正しい日常に戻る。
朝起きて、夜寝る生活。
そこにはネオンも、汗をかくグラスも折り畳まれたおしぼりも、夜から朝に変わるあの瞬間も…−なくて。始めはやっぱり少し淋しかったけど、今では多分、もうすぐ思い出せなくなるんじゃないかとすら思う。2007-02-05 12:44:00 -
771:
去年の夏。
咲君は家を出ていった。
狂っていた金銭感覚が元に戻り始めたのと、あたしの時給が50円上がったのと、毎朝作っていた咲君へのお弁当のおかずが、ワンパターンになり始めた頃だった。2007-02-05 12:45:00 -
772:
別れたことに、これといって理由はなかったと思う。
ただ単純に、あたしは彼を好きだったけど、以前程愛してはいなかったし、咲君はあたしを愛していると言ってくれたけど、そこにはいつも不安があった。
そして何よりも、あたしは何度咲君に抱かれても、あの人の暖かいキスばかりを思い浮べていて、勘の鋭い咲君は、きっとそれにも気付いていたんだと思う。
…−何も、言わなかったけれど。2007-02-05 12:46:00 -
773:
少したってから、知り合いに、咲君は夜に戻ったと聞いた。それがいいよと、あたしは言った。
だって彼の細い腕は、どう見ても工事現場には向いていなかったから。
白く眩しいシャンデリアの下で‘がんばってこい’と、キャバ嬢の背中を軽く押す、そのやさしい仕草のほうが、その腕にはずっと似合っていたから。2007-02-05 12:46:00 -
774:
咲君が家を出ていく日、
『恋愛なんて、本間にタイミングが全てなんやなぁ』と、そう淋しそうに笑って彼は言った。
「そうやね」と、呟くように返事をした。
あたしは、咲君から一度逃げ、准ちゃんに出会って、恋をして、だけど咲君の元に帰った。
そして今度は、彼が二人の家を出て…−あたしは結局一人になった。2007-02-05 12:48:00 -
775:
想いが、届かなかったわけじゃない。叶わなかったわけじゃない。
受けとめなかったんだ。叶えなかったんだ。
そこにやさしいキスはあったのに。
きっと、タイミングを間違えてしまったんだ。2007-02-05 12:50:00 -
777:
PM8:00
「お疲れさまでした!」
朝も夜も、仕事終わりのこの言葉だけは変わらない。オーナーに頭を下げ、笑顔でそう行ってからカフェを出た。
路地を抜けて大通りに出れば、三年前と変わらない、イルミネーションで飾られた街がある。2007-02-05 12:52:00 -
778:
久々に、眩しいほどのネオンを見てみたいと思った。あたしのあの頃の象徴は、やっぱりあの光の中にある気がして。
駅前の、時計台がある公園に足を向ける。この街で、一番大きなツリーは、あそこに飾られてあるはずだ。
吐く息が白い。
変わらない気持ちなんてないと思っていたのに、あたしは知ってしまった。
それは、毎年寒くなれば白くなる息と同じで、当たり前のように変わらないんだなぁ、なんて。2007-02-05 12:54:00 -
779:
「うわぁ〜…」
クリスマスシーズンのせいか、やたらと多いカップル達の横で、あたしは思わず呟いた。
赤、青、緑、黄色。色とりどりの電球が、交互に光り合って、すごく綺麗だった。灰皿が置いてある、一番端のベンチに座って、セッタに火を付けた。2007-02-05 12:55:00 -
780:
准ちゃんの家を出てから、タバコの量は一気に増えた。自分から離れたくせに、今だに彼を想ってセッタを吸うあたしは、カップルだらけのこの公園で、今どんな風に写っているんだろう。
公園のあちこちで、手を繋いだカップルが、ツリーを前に微笑み合う。みんな、幸せそうだった。
2007-02-05 12:56:00 -
781:
『やっぱ毎年見てたからさ、このツリー見ないと、クリスマス!って感じせぇへんねんな。玲花は!!』
…その名前に、思わず女の顔を見た。
くるくるの巻髪に、ぱっちりとした大きな目の彼女はお人形さんみたいに可愛かった。ふと、ベビードールが薫る。
《…なわけないやんな笑》2007-02-05 12:58:00 -
782:
あたしは頭を振って、変な想像をを揉み消した。
《感傷的になりすぎやわ。…−もう帰ろう。》
タバコを最後に一口吸いこみ、灰皿に投げ込むと、煙を吐き出しベンチから立ち上がった。2007-02-05 12:59:00 -
783:
〜♪
永遠を 貴方は信じてた?
バイト先から出た時に、マナーモードを解除したばかりの携帯が、あの歌を鳴らした。丁度公園で流れるBGMも、曲と曲との繋ぎの部分で、その音はやけに響いた…ように感じた。
‘玲花’と自分を呼んだ彼女が、振り返ってあたしを見て…−目が合う。2007-02-05 12:59:00 -
784:
〜♪
毎晩 何を祈るの? 真っ白な雪が君を隠して…−
その視線を何故か逸らせないまま、茫然と立ち尽くしている間に、電話は切れた。BGMも、また新しい曲に変わり、また賑やかに音楽が流れ始める。
あれから三年。もちろん、携帯は1、2回変えた。だけど、この着うただけは、一度も変えなかった。2007-02-05 13:00:00 -
786:
『あの…、違ってたらごめんなさい。もしかして、ハナさん?…ですか?』
彼女はそっとあたしに近付き、そう言った。一瞬だけ悩んだ後、すぐに首を縦に振った。2007-02-05 13:02:00 -
787:
あたしは、‘玲花ちゃん’と話したこともなければ、顔を見たことすらない。だけど確信に近かった。それは彼女も同じで、そういうのはやっぱり、わかってしまうもんなんだと思った。
『あたし、玲花って言うねんけど…わかる?あ、ちょっとだけ待っててな』
あたしがもう一度うなずくと、彼女はホッとしたように微笑むと、連れの男の元へ走って行った。そして何かを告げると、男に手を振り、また走ってこっちへ戻って来る。2007-02-05 13:03:00 -
788:
「あれ、彼氏?」あたしがそう聞くと、『せやで?』と、彼女は幸せそうに笑って、あたしの隣に座った。
『ハナちゃ…、あ、ハナって呼んでもいい?』
いいよと言うと、『うちも玲花でいいから!』と、また可愛い笑顔を見せた。2007-02-05 13:04:00 -
789:
『うちのコト、色々聞いてるやんなぁ?』
答えに困ったあたしは、苦笑いになっていたと思う。
『いぃねん、それはしゃぁないし笑。…突然、ごめんなぁ?でもうち、ずっと会ってみたいと思っててん!…‘ハナ’に。』
ニコニコしながら話しだした彼女は、聞いていたよりずっといい子で、想像していたよりもずっと可愛かった。2007-02-05 13:05:00 -
790:
今彼女は、六本木のクラブで、チーママとして働いているらしく、わがままばかりの嬢達に、困ってばかりいると言った。あたしが水商売を辞めたことを告げると、うちの店で働かへん?なんて、冗談を言って笑っていた。外は寒くて、なんの気休めにもならないけど、あたしは煙草に手を伸ばした。
『…セブンスター? あたしもやねん。』
淋しそうに笑った彼女が、何を言いたかったのかくらいわかる。あたしの気持ちだってきっと、バレてる。2007-02-05 13:06:00 -
791:
『人間が一番、素直になれへん動物やねんて。』
彼女はタバコケースからあたしと同じセブンスターを取り出すと、火を点けて深く吸い込んだ。
吐き出した煙が、白く、揺れる。2007-02-05 13:07:00 -
792:
『水商売なんて、一々素直になってたら、やって行かれへんしな。
なぁ、ハナが失ったもんって何やった?この世界で』
夜に生きる女は、みんなそんなことを一度は考えるもんなんかな。だけど何を失っていたとしても、気付く頃にはすでに遅い。だって、一人はもう嫌やから。2007-02-05 13:08:00 -
793:
『あたしはな、多分それ。素直さ。プライドばっか押し上げて、自分の気持ちすら中々認めへんかった。』
『好きやって、やっと認めれる頃には、とっくの昔に引き返せへんところにおってん。客にならいくらでも言えた‘好き’が、どうしても、言えへんかった。』
「…玲花は、准のどこを好きになったん?」
すぐに口からでたその言葉は、素朴な疑問。2007-02-05 13:09:00 -
794:
『…そう言われたら、上手く答えられへんけど。でも優しくて冷たい人やなって、いつも思ってた。人を簡単に切り離したり、完全に割り切ってたり。仕事やから、仕方ないことやねんけどさ。…その癖いつも、自分が一番しんどそうで。そういうとこかな、多分。』
なんとなく、わかる気がした。
『でもな、店辞めてから、一度だけ会ったことあって。その時、准変わったなって、思ったよ?』
「え?」2007-02-05 13:11:00 -
795:
『色々聞いててさ、客に。あたしの入れ変わりに入った‘ハナ’って子が、今RAINのNO1やって。』
「佐々木さんやろ?」そう言うと、そうそう、と玲花は笑った。あの人は、バカみたいに噂好きやったから。
『会って顔見た瞬間、わかった気ぃして。好きな人おんねんなって。根拠とかないけど、多分その子なんやろうなって。』2007-02-05 13:12:00 -
796:
何も言えなくなって、俯いた。目を閉じれば、准の顔ばかりが浮かぶ。
『黒猫みたいな子って言ってたよ。ハナってどんな子なん?って聞いたとき。むっちゃ、うれしそうに。』
雪が、降り始めていた。2007-02-05 13:12:00 -
797:
『なぁハナ。
…今でも、准を好き?』
自分の目から零れた涙が、手のひらにぽたぽたと落ちて、雪なのか涙なのか、いまいちよくわからなかった。2007-02-05 13:13:00 -
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彼を、思い出さない日なんてなかった。
‘ハナ’優しくあたしを呼ぶあの声や、くしゃってなる笑顔も、少し硬い髪の毛や、暖かい腕の中や、天国みたいだったあの部屋を。
思い出さない日なんてなかったんだ。
だってあれは、黒い闇の中で、あたしを照らした一筋の光。2007-02-05 13:14:00