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1:
涼
旧掲示板作品です。
2005-06-02 17:03:00 -
151:
涼
新学期が始まり剛は宿泊研修に行った。親睦会のようなものらしい。この頃になると剛もすっかり垢抜けていたので心配だった。
その年、涼も専門学校に行き始めた。秋あたりに受験して決まっていた。自分もなんだかんだと忙しかったので連絡も前よりは減った。しかし何もする事がなくなると剛の事ばかり考えていた。
剛は京都の大学は滑り止めだった。本命には落ちたのだ。京都の大学には行く気がしない、自分より低脳しかいないとしょっちゅうこぼしていた。宿泊研修も行かないと単位がないから、としぶしぶ行ったのだった。今頃何をしているのだろう。ちゃんと友達が出来たかな??この宿泊研修が後から最悪の事態を招くなんてこれっぽっちも考えていなかった。2005-06-04 08:06:00 -
152:
涼
今日は剛が帰ってくる日だ。わくわくしながら連絡を待つ。剛専用のメール着信音が鳴る。
『もう俺と別れて。俺の事は忘れて。楽しかった。じゃあな』
目の前真っ暗だ。久しぶりの別れ話は涼の心に傷を作るには大きすぎた。『なんで??理由は??納得出来やな別れへん!!』
ふるえる指でメールを打つ。涙で霞んで画面が見えない。
『もう涼の事好きじゃないねん!!』
自分の周りから音が消える。今度は頭が真っ白になる。別れ話は何度もしていたが好きじゃないなどと言われたのは初めてだった。どうすればいいのかわからない。体が固まったまま動かない。瞬きをすることさえ忘れ開けっ放しの目からは大粒の涙がぼろぼろと転がっていった。2005-06-04 08:08:00 -
153:
涼
略
自分の周りから音が消える。今度は頭が真っ白になる。別れ話は何度もしていたが好きじゃないなどと言われたのは初めてだった。どうすればいいのかわからない。体が固まったまま動かない。瞬きをすることさえ忘れ開けっ放しの目からは大粒の涙がぼろぼろと転がっていった。
2005-06-04 08:09:00 -
154:
涼
好きじゃない……?
どう返事を返していいのかわからない。というより何も考えられない。
『理由はなんなん??好きじゃないっていつから思ってたん??』
ちょっと我に返り返事を打つ。“送信完了”と出てからほんの一瞬で返事はやって来た。
『最初から』
このひと言で完璧に涼は狂気をおびた。奇声を発し泣き叫ぶ。叫びすぎて喉が切れ血を吐いた。手当たり次第物を投げ、壁を殴り窓も割った。家は強盗に入られたかのような大惨事だ。涙はすごい勢いで出続ける。えづき、血を吐きながらも叫び続けた。自分を保つことが出来ない。2005-06-04 08:10:00 -
155:
涼
略
このひと言で完璧に涼は狂気をおびた。奇声を発し泣き叫ぶ。叫びすぎて喉が切れ血を吐いた。手当たり次第物を投げ、壁を殴り窓も割った。家は強盗に入られたかのような大惨事だ。涙はすごい勢いで出続ける。えづき、血を吐きながらも叫び続けた。自分を保つことが出来ない。
2005-06-04 08:12:00 -
156:
涼
最初から!?剛は自分のことを愛してはいなかったのか??あの言葉は??剛の笑顔や愛してるとささやく声などが頭をかけめぐる。愛してはいないなんてそんなわけがない。そう信じたかった。
ふっと気づくと電話が鳴っている。剛だ。自分で破壊した家具のがれきの中に座り込み電話に出る。
『あ゛い……』
切れているので話すと痛い。うっ…とえづきながら剛が言葉を発するのを待った。2005-06-04 08:13:00 -
157:
涼
『また泣いてんのか、ほんまめんどくさいなぁ…。もう好きじゃないっつってんねんからわかったーゆうて別れろや』
口振りはまるで別人だが声は剛だ。ショックが大きすぎて何もいえない。ただただ泣くばかりの涼に剛が言った。
『別れたくないんか??』
『別れたくない!!!!』
『わかった。じゃぁ俺に貢げや。』2005-06-04 08:14:00 -
158:
涼
………????????
ハテナが頭に大量発生したが剛と別れないですむなら貢いでも構わなかった。そばにいられるならそれでいい。剛がいなければ生きていけない。
『わかった。貢ぐから別れんといて……』
最後の方でまた泣き出してしまった。
『泣くなうっとい。貢ぐんやったら別れんとくわ。じゃあな』
プツ…プー……プー
別れずにすんだ……安心して力が抜けた。2005-06-04 08:15:00 -
159:
涼
略
プツ…プー……プー
別れずにすんだ……安心して力が抜けた。
2005-06-04 08:17:00 -
160:
涼
またすぐに電話がかかってきた。
『俺、バイトとかしたくないし、生活費で週10万ずつな。後、プレステ2とソフト。』
通販の電話受付になった気分だ。でも、剛と別れるくらいなら貢いだほうがましだ。週10万…パチ屋の給料では到底無理だ。パチ屋をやめ、また夜に逆戻り。学校の課題なんかもあるので個室待機のマンヘルにしてみた。スタイルはいいと言われている。昔の客はみんな切れていたが、涼は新しい客を次々捕まえ、まぁそこそこ稼げた。2005-06-04 08:18:00 -
161:
涼
夜中まで仕事をし、店泊、店から学校に行く。週一のデートには10万入った封筒。当たり前のように受け取る剛。貢いでいるからか、別れ話はされなかった。
よくよく考えれば週に10万は多い。でも、その10万で安定が買えると思えば安かった。
『お前、どうやってこの金作ってるん?』さすがに剛も疑問なんだろう。一般人に風俗をしているなどとはいえなかった。
『おばぁちゃんちが金持ちで、家も広くて、そこの掃除とか、庭の手入れとか。』そうなんや。と剛は答えた。
いくら金持ちだからって、そんなことで週10万もくれる親族がいるかよ、と思いつつ、突っ込んでこられなかったので安心した。2005-06-04 08:20:00 -
162:
涼
週に現金10万、デートのときの費用、そしてまた、何かをねだられたら買う。いくら使っても、そうしていれば別れ話は出ない。安定を買うためだと、自分に言い聞かせた。
安定を買ってでも一緒にいたかった。でも、買ってまで得たかった安定はすぐに崩れた。
『そうやって、涼にお金をもらったり、おねだりしたりする自分が嫌や。最低やと思う。もう別れよう。』
お金まで出したのに、別れ話をされた。どうすればいいんだろう。
もう、自分の事を金としてしか見なくてもかまわなかった。それでもいいからそばにいてほしかった。2005-06-04 08:21:00 -
163:
涼
『いくら払ったっていい、ほしいものも何でも買うから別れるなんか言わんといて!頼むからそばにいて!』
『そんなんしてる自分が嫌やねん。自分の彼女に金ねだるとか最低やん。だから俺は、俺は好きじゃなくても俺のことを好きで金だけくれる女捜すから。』
『涼がお金あげるから、ほかの女捜すとかやめて!!!』
毎日毎日こんなやり取りが続いた。2005-06-04 08:23:00 -
164:
涼
というか、涼の事は好きじゃないけど、貢ぐなら別れないといわれたはずだ。別れ話をされる理由が分からない。条件は十分すぎるほどに満たしているのに。
『涼のこと、最初っから好きじゃなかったって言ってたやん。』
『そんな訳ないやろ。あんなん嘘や。好きやから、辛いねん。』
嬉しかった。やっぱり嘘だったんだ。ほっとしたのもつかの間、好きだといわれたって、今は別れ話の最中だ。条件を満たせていない…2005-06-04 08:24:00 -
165:
涼
結局結論はいつものように、別れないでまとまり、またデートの日が来た。10万入った封筒を握りしめ、京都へ向かう。大好きな剛。駅で待ち合わせて家へと向かう。スーパーへ買い物に行き、ご飯を作る。ご飯を食べて、H。幸せな時間が過ぎる。
Hが終わると、ぽつりと剛が言った。
『もう、会うの今日で最後な。』
頭の中で何かが切れる音がした。せきを切ったように涙があふれる。何も言葉が出ない。何度も別れ話をされ、そろそろ免疫ができてもいいはずなのに、毎回受けるショックは相当なものだった。2005-06-04 08:30:00 -
166:
涼
『涼の事好きやから、お金とかもらうん、辛いねん。もう辞めたいねん。でもお金は欲しいねん。そんな男嫌やろ?』
嫌ならとっくに切ってるだろうが。何でこいつはそれが分からないんだ?
だんだん辛さよりも苛立ちが大きくなる。どうすれば伝わる?そればかり考えるようになった。
『涼がお金もあげるから。そんな男でもいいねん。涼は剛じゃないとあかんねん!!』分かった、ごめんな、といって剛は涼を抱きしめた。2005-06-04 08:34:00 -
167:
涼
このところ仕事が暇だ。お客さんも、たまにしか来なくなった。お金が足りない。あと何日かしたら、また10万もって行かなきゃ行けないのに財布には2万しかなかった。
ぱらぱらとヘブンをめくる。後ろのほうまで来たとき、出会い系サイトの広告が目に留まる。
援交すればいいんだ。店で働くより手っ取り早い。そこのサイトにアクセスした。
案外あっさり会えて、簡単に二万手に入った。これを繰り返せば、剛に渡すお金ができる。嬉しかった。2005-06-04 08:35:00 -
168:
涼
梅田で待ち合わせて、ホテル行って、エッチして二万。楽だ。はまった。いつものように終わって、ぶらぶら梅田を歩く。今日は早い時間にしたのでまだ終電がある。ヘップとナビオの間をボーっと歩いていると前に黒い集団。ホストだ。
『俺今日女に振られてんやん』………びっくりして振り向いてしまった。今風の髪形をした目がきれいな子がそこには立っていた。2005-06-04 08:36:00 -
169:
涼
タケシというそのこと連絡先を交換し帰った。今日はゆっくり寝よう。明日は剛とデートだ。
今日は剛の家にお泊りだ。わくわくする。お風呂に入って、台所でタバコをすう。(剛はタバコを吸わないので部屋では吸えなかった。)
ブブブブブブブ…カウンターで携帯が震えている。
『誰から〜?』『タケシって出てる』『ぁ、いいわー。ほっといて』どうせ営業電話だ。
手をつないで眠り、朝が来た。
『お前さぁ、俺に隠してることあるやろ?』起きるといきなりもう起きていた剛が言った。とりあえず、寝起きはタバコをすわなきゃ目が覚めない。台所へ向かう。
『隠してることなんかなんもないで?』『絶対ある。自分の口から言ってみろ。』2005-06-04 08:37:00 -
170:
涼
略
手をつないで眠り、朝が来た。
『お前さぁ、俺に隠してることあるやろ?』起きるといきなりもう起きていた剛が言った。とりあえず、寝起きはタバコをすわなきゃ目が覚めない。台所へ向かう。
『隠してることなんかなんもないで?』『絶対ある。自分の口から言ってみろ。』
2005-06-04 08:39:00 -
171:
涼
言ってみろといわれたって本当に何も心当たりはない。心当たりがないのだから、何もいえない。しかし剛はそれをやましいと言った。
『携帯見てんからな。俺。』
そう言われて一瞬、援交のことが頭をよぎった。そのサイトはブックマークしてある。見られたら一発だ。ダイヤルロックもかけていないので、見ようと思えば簡単だ。まずい。2005-06-04 08:40:00 -
172:
涼
『何のことか分からんって。何もないって言ってるやん。』言い通そうと思った。
『携帯見たっつってるやろ。そう言われても、本間に何も心当たりないねんな?俺に見られて困るメール、入ってないって言い切れるねんな?』
もう終わった…と思った。サイトを通してメールのやり取りをする。もちろん、いちいち消したりはしていなかった。
でも、カマをかけられているのかも…もうしばらく言い通そうと思った。『見られて困るもんなんかなんもないわ!!!』
『俺、もう見たから。メールも全部。どういうことか説明しろや。』…カマじゃなかったのか…見られたなら仕方ない、と重い口を開いた。2005-06-04 08:41:00 -
173:
涼
『10万、足りそうになかったから援交してん…』もう、見られたなら言い訳はできない。これで、別れるかもしれない。そう思うと涙が出た。しかし次に剛が言った言葉は意外なものだった。
『は!?!?!?援交って何やねん!!!!!!』逆にこっちがびっくりした。携帯見たんじゃないのかよ!?自爆したと思った。2005-06-04 08:42:00 -
174:
涼
どうやら剛はタケシのことを疑ってカマをかけたらしい。昨日知り合ったばかりの男とは知らず、電話を取らなかったので前々からタケシと浮気していると勘違いしたのだ。
よりにもよって援交がばれてしまった。どうしよう。『今週はおばあちゃんち手伝う用事少なくて……足りなかったから一回だけ……だって10万なかったら振られると思ったんやもん……』本音と言えば本音だが、一回は嘘だ。剛に渡した金のほとんどが知らないオッサンと寝て手に入った金だ。2005-06-04 08:44:00 -
175:
涼
『辛い思いさせてごめんな。もうせんといて?10万なくても、五万以上あれば大丈夫やから』優しいんだか優しくないんだか……すべて援交で得たとは思ってないようだ。辛い思いさせてごめんなと言うならなぜもう金はいらないからと言わないのか。自分の彼女が援交したと知っても反応の薄い剛に疑問がわいた。
2005-06-04 08:45:00 -
176:
涼
その日はそのまま泊まり、また朝が来た。昨日寝すぎたらしく妙に早く目が覚めた。外はまだ薄暗い。起こすといけないのでそぉっとベッドを抜け出す。
『んん……大丈夫??優ちゃん………』小さな小さな声だったが静かすぎる家の中でははっきり聞こえた。2005-06-06 08:03:00 -
177:
涼
優ちゃん………
確か宿泊研修の時に出来たと言っていた女友達の名だ。あとは斉藤、山田、大西と何人か男友達も出来たと言っていたが【優ちゃん】は一人名字ではなかったので記憶に残っていた。
なぜその子の名を寝ぼけながら呼ぶのか。何かあるのか。台所でタバコを吸いながら考える。同じ大学なうえに剛の家は大学から徒歩五分ほどだ。来たことがあっても不思議ではない。2005-06-06 08:05:00 -
178:
涼
落ち着こう。もう一度寝よう。ベッドに潜り込もうとする。パイプベッドがきしむ。
『ん……?どうしたん?優ちゃん……』
……二度目だ。ありえない。絶対何かある。女の勘ってやつだ。もう我慢ならない。
『残念!!優ちゃんじゃないんだな〜ぁ』
わざとおどけながら剛の頬を軽くつねる。ひどく驚いた様子で剛が目を開ける。2005-06-06 08:06:00 -
179:
涼
『うわっ!!涼か……優ちゃんがなんて??』
『なんて??じゃないわこのアホ!!二回も呼んだってどおゆう事よ。』
いつもなら泣き叫んで発狂してもおかしくない事態だが、なぜかひどく落ち着いていた。2005-06-06 08:06:00 -
180:
涼
聞けばこの間飲み会をした時に優ちゃんがひどく酔っぱらい、その夢を見ていたと言う。そんなわけあるか!と思ったが喧嘩してまた別れ話をされるのが嫌なのでそっかぁと明るく答えた。
しかし剛が【誤魔化しきれた】と思ったのかほっとした表情を浮かべたのを見逃さなかった。でもやはり別れ話をしたくないので見逃したふりをしてやった。2005-06-06 08:07:00 -
181:
涼
数日後電話で話しているとまだタケシの事を疑っていたようで浮気の話になった。あまりにも自分ばかり責められるので腹が立って『寝ぼけて名前間違えたお前の方がよっぽど怪しいんじゃバカ!!』と言ってしまった。
剛はあははと笑い明るいトーンでこう言った。
『あ〜だって前の日優ちゃん泊まりに来てたし。間違えたんはしゃーないって』
どのへんがしゃーないのか。とりあえず詫びるべきだろうが。と言うかだからなんで言わなきゃ分からないことをこいつは自己申告するのか。疑問で頭がいっぱいになった。2005-06-06 08:08:00 -
182:
涼
多分これを聞いた時が今までで一番涼がトチ狂った時だと思う。非常階段のザラザラした壁を殴る。手は擦れて血塗れ。泣き叫ぶ涼の耳元で電話の向こうから聞こえる脳天気な剛の笑い声。友達もいっしょにいるらしい。
2005-06-06 08:17:00 -
183:
涼
『優ちゃんの事ゆったら発狂しとんねんけど〜あ、お前それそっちじゃないって!!』
ゲームでもしているのか電話の向こうの涼なんてまるで存在しないかのように、友達と話をする剛。自分は一体この男の何なのか。というか剛はあたしを何だと思っているのか。剛の気持ちはもう優ちゃんにいってしまったのか??切なくて、やるせなくて、剛の心を取り戻す術も見つからなくて、泣き叫んでいるしかできなかった。2005-06-06 08:19:00 -
184:
涼
『さっさと別れてよ!!』それくらいしか言葉がでない。返ってきた言葉で涼はさらに狂気を増す。
『いやいや、優ちゃんと別れるんやったらお前と別れるわ。別れたくないんやったら別れへんけど、お前と別れへんかったら優ちゃんとも付き合い続けるで』
なんというむちゃくちゃな……と言うか優ちゃんとも付き合ってんのかよ…今にして思えばその時別れれば良かったのだが当時の涼にはそれはできなかった。2005-06-06 08:20:00 -
185:
涼
二番目だろうが、金蔓だろうが二股してようが別れなくてすむなら何だって良かった。
『どっちの方が好き?』
なんて愚問を問いかける。
『涼に決まってるやんか。今までだって浮気したって最後には涼のとこに帰ってきたやろ??』2005-06-06 08:21:00 -
186:
涼
さっきまで散々に言ってたくせにうって変わって甘い声。冷静な時に考えれば全く理屈が通っていないが、発狂した涼が元に戻るには十分すぎるほど甘い言葉。
『じゃあ早く涼の所にかえってきてね』
今思い返しても当時の自分がなにを考えてたのかわからない。2005-06-06 08:22:00 -
187:
涼
その後もふつうに付き合いを続けた。頑張って【余裕のある彼女】を演じ続けた。本当は余裕なんてかけらもない。早く優ちゃんと別れて、口を開けばそればっかり出てきそうだ。
ふっと気づいたが、剛は優ちゃんが来ているとき自分の荷物をどうしているのだろう。剛が風呂を掃除している時に音をたてずにクローゼットを開ける。すぐに目に飛び込んできた教科書の山。ダサイ服。涼の荷物は奥に突っ込まれていた。ぱっと見では確実に見えない。
隠されている……優ちゃんは涼の存在を知らない。自分だけが剛に愛されていると思っているはずだ。そこはあたしの場所なのに…。剛を返して……あたしのなの。あんたのじゃないの……何も答えない荷物に向かって呟き続けた。2005-06-06 08:23:00 -
188:
涼
『涼〜今日入浴剤何にする??こないだのお湯がとろとろになるやつにする??』
はっと我に返る。あたしはこんな思いをしているというのになんと脳天気なやつだ……
『ん〜、それのお湯がピンクになるやつにしよ♪』
剛に悟られないようになるだけ明るく答える。風呂場でわかった〜という声が響く。たばこを吸いに台所へ向かう。ふっと目をやると冷蔵庫の上に小皿。置いた覚えはないし、今日の夕飯にも使っていない。2005-06-06 08:24:00 -
189:
涼
『これ、なんでここにあるん??』
『あ〜優ちゃん歯磨き塩でやるねん。たぶんそん時塩入れたやつやわ』
確かに公認の浮気だが……というか認めざるを得ない状況にされたのだが、そんなにぬけぬけと普通に答えられては立場なしだ。もうちょっと申し訳なさそうに言えよ…と思いながら、平静を装ってあ〜そう、と答えた声は少し震えていた。2005-06-06 08:25:00 -
190:
涼
何をしていても優ちゃんがちらつく。優ちゃんにもこんな風に優しくしたのかな……こんな風に言ったのかな……会ったこともない【優ちゃん】の陰に押しつぶされそうになる。
その夜顔は見えなかったが【優子】と名乗る女に『早く負けを認めなさいよ』と言われる夢を見た。剛の家が優ちゃんが一時でもいた空間だとわかったとたんに、剛の家はあたしの中で【幸せな時間を過ごす場所】から【優ちゃんの陰に押しつぶされそうになる場所】に変わった。気持ちを落ち着かそうと、また台所へ向かう。たばこに火をつけふーっと息をはくと心なしか落ち着いた気がした。冷蔵庫の上に小皿ある小皿がまた優ちゃんを思い出させる。
今時塩で歯磨くかフツー……なんて思いながら目に入らない食器棚に押し込んだ。2005-06-06 08:26:00 -
191:
涼
月曜日の朝、剛は学校へと行く。あたしは学校に向かう大学生の群に逆らって駅へと向かう。今朝のバイバイは特別辛かった。あたしと分かれたすぐその後に、優ちゃんと顔を合わすのかと思うと嫌で嫌で仕方なかった。だが、そんなわがままは言ってられない。あたしも学校だ。
20才で専門学校に入った為、クラスメイトはほとんどが18。顔も見た事のない優ちゃんとかぶる。彼氏とどこへ行っただとかそんな話ばかり。幸せな休みの日を満喫したようだ。羨ましいと思う反面妬ましくて仕方なかった。2005-06-06 08:27:00 -
192:
涼
あたしは上に兄弟がいなかった上に、下が離れすぎているので同年代の子と比べても昔から精神面は大人びていると言われていた。二つも年下の子たちは話していると中身はもっと下のように感じた。【ガキ】だと思っていたクラスメイトにはあまり馴染めず、見下している相手に相談などする気にもなれなかった。
2005-06-06 08:28:00 -
193:
涼
おそらく剛と優ちゃんは平日にデートをしているだろう。次の日はこいつらみたいにきゃあきゃあと友達に話すのだろう。そう考えると何の罪もないクラスメイトに無性に腹が立った。始業のチャイムが鳴る。戻りたくないのでもう一本タバコに火をつける。一本吸い終わって仕方なしに教室に戻る。タバコの臭いを全身に纏ったままのあたしに『ばれるよぉ』と隣の席の恵理がおろおろしている。
2005-06-06 08:29:00 -
194:
涼
『涼ちゃんなんかあったの?イライラしてない?』
『してないよ』
本当はしてるが、口を開けば無意味な八つ当たりをしてしまいそうだったので、それだけ言って目線をそらした。
しかし好奇心旺盛というか野次馬根性というか次々みんながどうしたのどうしたのと集まってくる。ああ、誰か助けて。こいつらにほかのことに気を移してもらうには最善策だと思っていた。2005-06-06 08:30:00 -
195:
涼
そんなに不機嫌なのが顔に出てたか……と反省しながらあった事を話した。
【絶対別れた方がいいって!!】
【そんな男最低やん!!】
口を揃えてみんなが言う。そんな事はわかっている。嫌いになれたらどれだけ楽か。あたしだって嫌いになれるもんならなりてぇよ……やっぱ言うんじゃなかったと後悔した。
2005-06-06 08:31:00 -
196:
涼
言われなくても最低な男だということはよくわかっているし、別れられるものなら別れたかった。精神的に限界が近づいているのが自分でもよくわかる。でもそれとは裏腹に世界中に存在する何よりも剛の事を愛していた。
2005-06-06 08:32:00 -
197:
涼
この頃になると【優ちゃんとも付き合いながら涼とも付き合って、しかもお金までもらってる自分が最低やから】という理由で毎晩別れ話をされていた。薬は飲み続けるとだんだん効かなくなるというが、別れ話は毎日されても慣れることはなく、毎夜泣き叫び、ものに当たり続けた。別れたくないと必死にすがる自分が我ながら情けなかったが、そんな事言ってられない。『涼の事お金としか見てなくてもいいから』とまで言うようになっていた。毎晩電話のたびに泣き続けた娘を母親も心配していた。
2005-06-06 08:33:00 -
198:
涼
人間は泣くと痩せるらしい。痩せる成分が分泌されるのだとか、何かで読んだ。本当らしい。毎夜なき続けたおかげで体重は一ヶ月で11キロもおちていた。
2005-06-06 08:34:00 -
199:
涼
別れ話は毎晩していたが本当に別れたことはなかった。今日は久しぶりのデートだ。また10万を握りしめて京都へと向かう。
ご飯を食べてからビデオをみたのでえらく遅くなってしまった。二人とも明日の一限は落とせない。起きておくためにカラオケに行った。
カラオケからの帰り道、『いつなったら優ちゃんと別れるん??』と聞いたらはぐらかされた。
家につくと剛の態度は急変した。2005-06-08 20:53:00 -
200:
涼
『お前いつ別れんのいつ別れんのってうるさいねん!!付き合ってやってんねんからそれでいいやんけ!!』
……付き合ってやってるって……どうしてそこまで上からものを言うのか。どう考えても悪いのはこっちじゃない。また泣き出してしまった。どうやら最近涙腺がイカれてるらしい。
2005-06-08 20:53:00