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◆黄昏の赤◆
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1:
緋恋◆lZf.ArgVp2
この街の月は赤く濁っていて気味が悪い。
赤い光が街を益々汚れたように見せる。
あたし達みたいな人間には美しい檸檬のような月明かりを望む事すら贅沢な事なのかもしれない。2007-05-28 23:54:00 -
201:
緋恋◆lZf.ArgVp2
ねぇアメこのまま二人でまっさらな、どこかへ。誰もしらないとこへ、自分の事すら知らないような。
ほんとうにまっさらなとこに。
逃げ出してしまいたいね2008-02-27 04:38:00 -
202:
緋恋◆lZf.ArgVp2
たとえるなら楽園?
天国?
そんなところ地上のどこにもないから
人はその場所をそう呼ぶんだろうね2008-02-27 04:41:00 -
203:
緋恋◆lZf.ArgVp2
あたしがいることでアメが溺れないのなら
あたしは生きていたいって
七年前のあの日から初めて思った。
2008-02-27 04:44:00 -
204:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「おかえり」
出かけた時には爆睡していたアメはすっかり活動していて何やら料理を作っていた。相変わらずマメ。「遅かったねえ」
「スミトモと会ったから少し話してた」
「…浮気発覚!?」
「言ってろ」2008-02-27 04:50:00 -
205:
緋恋◆lZf.ArgVp2
あたたかく柔らかい時間。
抱きしめられいるような頬ずりされているようなこそばゆい時間。
いつしか無くしていた時間。
アメ、あたしこそ…あなたがいるから息ができたのかもしれない。2008-02-27 04:57:00 -
206:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「最近あまり帰ってこないんだな」
サンドイッチを持って帰ると昼過ぎなのに珍しくドクターがいてポツリと言った。そんな事を言われるなんて意外だったので「……うん」とだけ答える。どんな顔をすればいいのかわからなくて、かなりつっけんどんな感じになったと思う。
「サンデイピクニックか………」
昼ご飯まだだったから丁度いいと独り言みたく言ってドクターが黙々と食べ出してあたしはとりあえずコーヒーを沸かそうとケトルを火にかける。2008-03-03 01:18:00 -
207:
緋恋◆lZf.ArgVp2
あたしが買ってきたコーヒーは袋に半分程まだ十分に残っていてココナッツの甘い香りがした。
「アン、笑ってるな……お前」
言われて初めて今自分が無意識で笑顔になっていた事に気づく。…確かに笑っていた。
ピーピーとケトルがなって湯が沸いたのを知らせる。ふうっとため息をついてドクターは眼鏡を外し目をこすった。すごく疲れているようにみえた。
「……アン、やかん、沸いてる」2008-03-03 01:25:00 -
208:
緋恋◆lZf.ArgVp2
慌てて火を止めてコーヒーをいれ始めた。ドクターと目を合わせずらくて、たらたらと時間たっぷりに作業をした。だからといって丁寧なわけでもなくコーヒーの粉が無駄にこぼれた。
なんだかいけないことを指摘されたようなばつの悪い気分がしていてコーヒーがドリップされる時間が長く感じる。
大きなドクターのマグカップにたっぷりと濃いコーヒーをそそいでテーブルに置いた。
「…………いい」
「えっ??」2008-03-03 01:33:00 -
209:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「それでいい、アンジュ」
分厚い眼鏡を外したドクターの優しい目を見てあたしは思い出した。
「お前は悪くない、笑っていればいい」
あたしに絵本を買ってくれた優しい人。
ドクターは母親の恋人だった。2008-03-03 01:38:00 -
210:
緋恋◆lZf.ArgVp2
どうして今まで気づかなかったのだろう。7年も一緒にいたのに。
ドクターは自分から恋人をうばったあたしを何もいわずに引き取っていたのだ。
一体それはどんな気持ちだったのだろう。2008-03-03 01:43:00 -
211:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「………どうして?」
あたしが気づいた事を察したドクターは悲しそうに目を伏せた。
「お前は悪くない」
「悪くないわけない!」
「お前はまだ小さかった。」2008-03-03 01:47:00 -
212:
緋恋◆lZf.ArgVp2
あの男がドクターだった。
お母さんと話すとき恥ずかしそうによく目を伏せてた。
「シャイなひとね」とお母さんは笑っていた。
二人は幸せそうにみえた。
「ごめんなさい」2008-03-03 01:59:00 -
213:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「ドクター、ごめんなさい」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
自分に罪を課したようなつもりで。ただ無気力に生きて。母さんだけじゃなくてドクターからも幸せを奪ったのにも気づかず、赤い月と街にいろんな事をなすりつけて苦しんでいる気になってた。
足の下の方から襲ってくる虚脱感。落ちる、落ちる。
2008-03-03 02:06:00 -
214:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「お前は見つけた時には半狂乱で体力もかなり衰弱していた。事件の前後の事を覚えてなくても仕方がない。……まだ九歳だったんだ」
「あたしを憎んでるだろ」
「…………いや」
「嘘だ!!!」
2008-03-03 02:11:00 -
215:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「………なんで見殺しにしてくれなかったの」
お母さんを刺した日。土砂降りの中をずぶ濡れになりながら走った。きっと血まみれだった。お母さんを刺したけどお母さんにも刺された。
雨に濡れてたくさん血がでた。最初は痛くなかったけどだんだん痛みが増してきて走れなくなった。
そんなに遠くには行けやしなかったろうけど、どこかの建物の陰にうずくまっていた。血が出すぎたのか体も動けなくなって、のたうちまわる事も出来なくなってきてとびとびになる意識の中、このまま死のうと思った。
目を閉じる頃には安らぎすら感じていた。2008-03-03 02:19:00 -
217:
名無しさん
あー!もうくそおもろい!上手!!せつねぇ!!主さん更新ありがとう(^^)?
2008-03-03 09:26:00 -
218:
名無しさん
つまんね
2008-03-03 12:44:00 -
220:
名無しさん
初めて読んだけどめちゃおもろい?やばい?
2008-03-03 19:39:00 -
222:
緋恋◆lZf.ArgVp2
>>222
「お前は…殺してない」
「……何…言ってるの?」
「…お前はベスを殺してないんだよ…………」
「そんな気休め…いらない!!!!」2008-03-05 04:37:00 -
223:
緋恋◆lZf.ArgVp2
部屋は全くの無音に思えた。外から漏れてくる音だけが乾いたような感触で響いたけれどこの部屋と外は別の次元の空間のようだ。
足先が冷えて指の先まで小刻みに震えている。言葉を発する度に体内を満たしているなにかが吸い取られていくような感覚に陥る。
「お前の母親を……ベスを殺したのは俺だ。」
血の気を失って白い唇のドクターが涙を溜めた目であたしを見つめた。2008-03-05 04:48:00 -
224:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「…………そんなわけない」
「…………何回も刺した……………………………………………血がいっぱいでて…………………………動かなく……なるまで………刺し……」
「………子供の力だ、俺が見つけた時には、まだ生きていたんだ」
「……あたしが殺した……」
「お前にはすまない事をした。人として医師として、許されない事をした。」2008-03-05 04:57:00 -
225:
緋恋◆lZf.ArgVp2
後ろによろけると壁に背が当たって、そのままもたれ掛かろうとしたのにぐにゃりと床に尻餅をついた。
「…意味がわかんない、ドクター」
ドクターは祈るような格好でテーブルに突っ伏して動かない。泣いている。
「…助けようと思えば助かったんだ。………だが…助けなかった。」2008-03-05 05:03:00 -
226:
緋恋◆lZf.ArgVp2
頭の中は酷く鈍く動いて、ドクターの言葉が右から左へと流れていくだけだった。強く殴られた直後のように耳鳴りのようなものが脳内に反響する。
「……お前には本当に済まない事を……………お前が心に傷をおっているのを知っていたのに…お前が気づかないのをいいことにそのままに…………お前はベスに似ているから…つらくて…最近は顔もあまり合わせられなかった」2008-03-05 05:13:00 -
227:
緋恋◆lZf.ArgVp2
なんだか混乱している。
お母さんはあたしが殺したんじゃない?
ドクターが殺した?
ドクターは傷ついたお母さんを見殺しに?
あたしのことは助けたのに?2008-03-05 05:17:00 -
228:
緋恋◆lZf.ArgVp2
のそりと立ち上がって力の抜けている足をドクターの方へ向ける。体の緊張はもう収まっているのに、なんだか肌がビリビリ強張っている。
うなだれているドクターの肩のあたりのシャツを掴む。膝をついてドクターの耳元に近づく。
「母さんを愛してなかったの?」
「………愛していたよ。だから…助けなかった。助けられなかった。」
2008-03-05 05:24:00 -
229:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「もう殺してくれって言ったんだよ、彼女が」
優しい、優しい、ちょっと情けない、ドクター。
好きな女の言うことみんな聞いてしまうような人。あなたがそんなに苦しむ必要はないのに。2008-03-05 05:29:00 -
230:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「あたしの事お母さんが頼んだの?」
「…アンジュの事を頼むと言われた………それに………罪滅ぼしだと思った。」
お母さん……優しい、優しい、弱い人。2008-03-05 05:32:00 -
231:
緋恋◆lZf.ArgVp2
どうしてみんなしてこんなに苦しまなくてはならなかったのだろう。
大きな背を丸めてドクターは泣いている。ずっと苦しんでいたんだ。
「泣かないで、ドクター…」
ドクターの頭を抱いた。お母さんがあたしにしたように。あたしがアメにしたように。あたしの涙でドクターのシャツの襟口が濡れて色が変わった。2008-03-05 05:42:00 -
233:
緋恋◆lZf.ArgVp2
>>238
「ふーん…じゃあアンジュとドクターは共犯だ」
アメは話しを聞いてもさしてなんの感慨も抱くことなく世間話のような調子で言う。
「………やめてよ」
ドクターはあたしを悪くないと言った。けれどあたしがした事がなければ母は死ななかった。どのみち重度の薬物中毒だったらしくあの時死んでいなくても今生きていたかはわからないけど。2008-03-12 01:56:00 -
234:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「ドクターのした事は間接的にお母さんを殺した。けどあたしが刺さなきゃ死ななかった………」
「アンジュは子供だったじゃん。殺されかけて抵抗してソイツが死んで何が悪いの?俺は倫理的にいうとドクターがわるいんじゃないかと思うけど…大人なんだし」
「………どっちが悪いとかじゃないよ」
アメはベッドに雑に腰掛けると暫く何か考え込んでるふりをした後、意地悪な笑顔をした。誰に向けるわけでもないその笑顔は冷たい。2008-03-12 02:09:00 -
235:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「悪いとか悪くないとかそんなに重要?」
「ちょっ…」
あたしの手を乱暴に引っ張るとベッドに投げつけるように押し倒した。
「グダグダうるせえな、おまえら。罪を犯せば罰でも下るのか?現にくだってねえだろーが。忘れてヘラヘラ生きりゃあいい!!!」
きつく握られた手首が痛い。アメの目はあたしの目の数十センチ先にあるだけなのに何も映していないように見える。2008-03-12 02:23:00 -
236:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「おまえといると余計な事ばっか思い出すんだよ」
アメの指が頬をゆっくり伝う。ひとくくりに片手で掴まれた手首はビクともしない。
「俺はおまえさえいればいいんだ」
そう言って唇の片端をあげて笑う。2008-03-12 02:29:00 -
237:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「…………忘れられない」
頬に触れるアメの指があたしの涙に触って止まった。
「忘れたふりはできても…………忘れられない」
アメは「そうだね」と呟いてあたしの手をそっと離した。2008-03-12 02:33:00 -
238:
緋恋◆lZf.ArgVp2
あたしはなんだかアメが怖かったのとアメの目がもとのアメに戻ったのに安心したのと単にびっくりしたのとで、べそべそと子供のような汚い泣き方をしてしまった。
「痛かったな、ごめん………」
アメはあたしに触れるのを少しの間ためらって「触ってもいい?」と聞いていた。黙って頷くとあたしに後ろをむけて膝枕してきた。
鼻をすすりながらアメの頭をなでると、子供の頃人懐っこかった近所の猫が死んでしまっているのをみて泣きながらソイツの頭を撫でたのを思い出して、また涙がでた。2008-03-12 02:42:00 -
239:
緋恋◆lZf.ArgVp2
夜が白んできていて雨も小雨だから明るくなってきていた。薄青い部屋の中はすべてをぼんやりと青っぽく見せていて、祈りたくでもなるような神聖な雰囲気がする。
「罪を犯しても罰は下らないって言ったけど………てか俺はくだってないけど。いつかくだるのかな?」
アメの後頭部はまるまるっとした綺麗な形なのが撫でているとよくわかる。髪はつるつると滑らかで手触りがいい。そんな後ろ頭が言った難しい質問はあたしなんかにうまく答えられるはずもないけど答えたくなった。薄青くぼんやり光る部屋はそういう難しい答えを生み出してくれるような気もしたし、そうしなければアメが日が昇ると共にいなくなりそうな不安にかられたから。
「わかんないけど、たくさん苦しむ。苦しむのはつらいからそれは罰かも。」2008-03-12 02:54:00 -
240:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「じゃあきっと俺は今罰の真っ最中」
「…後悔してるの?」
「わかんない。……………後悔はしてない、多分。けど苦しい」
2008-03-12 02:58:00 -
241:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「苦しいなんて思う事なかった今まで。最近いろいろ思い出してうぜえから死のうとしたけど死ねなかったし…」
「………………」
頭を撫でていた手を前に引き寄せて両手でアメはギュッと握った。
「アンジュはやっぱり天使だと思う。こんなバカな入れ墨入れたって人間になれなかった俺を人間にしたんだから。」
2008-03-12 03:04:00 -
242:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「今まで獣と大して変わんなかった…どんなに取り繕っても臭い匂いがすんだよ。別に誰にも負けなかったし、それで何が悪いと思ったけどやっぱり羨ましかったのかな?だからこんな変な入れ墨いれたのかな?
最近、人間になれた気がする。」
アメが自分の事をこんなに話すのは初めての事だ。いくつも年上のはずのアメはいつも年齢不詳の雰囲気を醸し出している癖に小さな男の子のように見えた。
「人間なんてなるもんじゃねー。……………………………………………………………苦しい。」
顔は見えないけどアメは唇の片端をあげて笑っているのだろう、きっと。2008-03-12 03:13:00 -
243:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「アンジュといると苦しい。アンジュといると俺は汚い。」
「…………アメ」
「アンジュを連れてどっか遠くへ…今まで全部忘れれるような綺麗なとこ。アンジュが罪から逃げれるような場所、俺、連れていきたい。けど俺にはいけっこないんだよ」
アメの横顔にキスする。そんな事ない。だって………アメ
「そんな場所どこにもないよ………アメ」2008-03-12 03:26:00 -
244:
緋恋◆lZf.ArgVp2
「………知ってる。」
2008-03-12 03:27:00 -
245:
緋恋◆lZf.ArgVp2
アメの横顔に涙が落ちる。
「アンジュは泣き虫だな」
悲しかった訳じゃない。そんな事はちゃんとわかっている、知っている。
「俺は苦しくったって涙の一滴だって出ない。」
そう苦々しく吐き捨てるアメ。彼の代わりに涙を流したような気がした。アメは雨が好きだと言う。雨は神様の涙ならあたしの涙も似たようなものかもしれないから、流れるままにそのまま少し泣き続けた。2008-03-12 03:38:00 -
247:
緋恋◆lZf.ArgVp2
>>252
何が罪で何なら善行なんだろう。善い行いばかりしていれば、苦しむ事はない?
泣かなくても済む?
もし、悪いことをすれば、ずっと苦しむのだろうか?
善い事しか正しくないのなら
アメもあたしも汚い?2008-03-13 01:25:00 -
248:
緋恋◆lZf.ArgVp2
このまま、ずっと?
2008-03-13 01:26:00 -
249:
緋恋◆lZf.ArgVp2
あたしはずっと深い水の底から、その天辺にある美しい光の幻を…。それは太陽かもしれないし月かもしれない。
そんなものを羨ましいような、手が届かない故に憎むような…ものすごく愛しているような…………
そんな気持ちでただ眺めていた。
指をくわえて見ているだけで、何もしていない癖に、水面から顔を出せさえすれば手に入れられるんじゃないかと、
期待さえしていた。2008-03-13 01:34:00 -
250:
緋恋◆lZf.ArgVp2
いつか…
誰かが…
何かが…
そんなふうに期待せずにはいられなかった。全てを諦めているようなそぶりで、自分も諦めていると思いこんで。2008-03-13 01:36:00