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◆黄昏の赤◆

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  • 1:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    この街の月は赤く濁っていて気味が悪い。
    赤い光が街を益々汚れたように見せる。
    あたし達みたいな人間には美しい檸檬のような月明かりを望む事すら贅沢な事なのかもしれない。

    2007-05-28 23:54:00
  • 351:

    主◆lZf.ArgVp2

    ある程度温度が下がった頃を見計らってまた肉の塊を落とす。正常な勢いの泡がわきでた。
    あたしは一人じゃないし、
    もう一人になることはない。

    2008-06-17 02:21:00
  • 352:

    主◆lZf.ArgVp2

    料理の支度がすっかりととのってしまってもドクターはまだやってこない。
    テーブルの上にはアメ渾身の七面鳥の丸焼きとコンソメスープ、スティックサラダやパンにつける色とりどりのディップが並ぶ。
    あたしが作った唐揚げも形見が狭そうに並ぶ。
    テーブルがでかいからアメの部屋にしたのに、乗り切らない料理達がまだスタンバイしている状態だ。

    2008-06-17 02:30:00
  • 353:

    主◆lZf.ArgVp2

    「作り過ぎだよ」
    「お祝いごとの時は余る位がいいんだよ」
    「カトリックでもない癖に」
    「余ったのはスミトモに食わしときゃいいよ」

    2008-06-17 02:34:00
  • 354:

    主◆lZf.ArgVp2

    渋々納得して、やる事もないので余りそうな分を容器に詰める。唐揚げだけだった予定のおすそわけがディナーパックのようなちょっとしたものになった。
    アメは浪費家でとにかくやりたいと思った事にはお金を使う。日常品なんかは一円でも安い店を探したりする一面もあるけれど、それは探すのが楽しいようで。
    「食っていうのは人間の根本。余る程食い物があるっていうのは心の贅沢だよ。そして精神の奢り。食い物大事にしない奴はろくな奴はいないね、間違いなくない」
    そういって揚げたての唐揚げをつまみ食いする。

    2008-06-17 02:46:00
  • 355:

    主◆lZf.ArgVp2

    「お前の事だよ」
    アメは少し悲しそうに笑って、また一つ唐揚げをつまむ。
    「うん、ウマイ。アンジュはいい奥さんになるよ」

    2008-06-17 02:49:00
  • 356:

    主◆lZf.ArgVp2

    更新分>>362 から
    少しですが更新しました。次からパソコンで書くかもしれないですがトリップは変えません。

    2008-06-17 02:52:00
  • 357:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>370続き
    さっきまで穏やかにしとしと降っていた雨がふいに強くなった。それと同時に下の階が騒がしくなる。何事かとらせん階段まで出てみると、ドクターの仕事場に緊迫して出入る男達が数人。3台程車も止まっていた。
    「……急患みたい」
    こんな日だと言うのに車のライトに照らされる地面に雨で流れて広がる黒いシミ。
    血だ。

    2008-06-20 06:09:00
  • 358:

    主◆lZf.ArgVp2

    部屋から出て来ようとするアメと入れ違いに部屋に戻った。
    ……気持ちが悪い。
    「ありゃひどいね〜」
    呑気な声でアメがそういう。
    「ドクター遅いかもね、コーヒーでもいれよ」

    2008-06-20 06:14:00
  • 359:

    主◆lZf.ArgVp2

    平静を取り繕ってポットのスイッチをいれた。アメが買ってきたポットは電源をいれると僅か数分でシュンシュン口から湯気をだす。
    その音に負けないくらい部屋に響いてくる粗い靴音。
    聞き覚えのある靴音は階段を一気にかけ上がって来る。あっという間にドアの前まで近付いて来て勢いよくドアが開く。
    「……ノックくらいできないのかよ」
    あたしの悪態に返事はない。その代りに激しく肩を上下させるレイチェルがずぶ濡れで立っていた。

    2008-06-20 06:23:00
  • 360:

    主◆lZf.ArgVp2

    服から水滴が滴るほどに濡れていて髪が顔や首に張り付いている。随分と走ったらしく呼吸は中々整わない。
    「はい。これで拭いて、アンジュなんか適当に服だしてあげて」
    一瞬あっけにとられていたものの、アメはすぐにタオルを持って来て今はレイチェルの頭を拭いている。レイチェルはされるがままで一言もしゃべらない。
    アメの寝室の服の山から適当にシャツを選ぶとレイチェルを呼んで着替えさせた。
    サイズが大きくてワンピースみたいになったけど下がないから丁度よかった。

    2008-06-20 06:32:00
  • 361:

    主◆lZf.ArgVp2

    「冷えただろうに、寒くない?」
    アメはホットミルクをレイチェルに手渡しながらあたしにもコーヒーを渡す。
    落ち着いたのかレイチェルはアメとあたしに軽く目線を合わした。「……スミトモがね、帰ってこないの。…色々いそうな所はちょっと見て来たんだけど…………いないの」
    握り潰せそうな華奢な肩は震えている。

    2008-06-20 06:38:00
  • 362:

    主◆lZf.ArgVp2

    「…心配しすぎじゃないの?」
    レイチェルは虚ろにどこかを見ていた。
    「スミトモは絶対に約束破んないの。来るって言ったら来るし、来ないって言えば来ない」
    「女の子んとこじゃないの?なかなか帰してもらえないとか。あいつ女に弱いから」
    アメが冗談ぽく言う。レイチェルには悪いけど確かにクリスマスだしそんな気もする。

    2008-06-20 06:44:00
  • 363:

    主◆lZf.ArgVp2

    「そんな事ないっ」といつもの怒声がするかと思ったがレイチェルは唇をぎゅっと結んだ後、カップの中のミルクの波紋を見つめた。
    「………そんな事なら…別にいいの」
    何も言えなくなった。黙ってしまったレイチェルから恐怖が痛いくらい伝わってきたから。漠然とした不安。レイチェルは今までこんな不安な夜を一人でいくつ耐えたのだろう。
    「怖いの……いつも。帰るって言ってもいつか帰って来ないんじゃないかって」

    2008-06-20 06:52:00
  • 364:

    主◆lZf.ArgVp2

    「………………………………怖いのよ」

    レイチェルは声一つ立てず嗚咽一つ洩らさず泣いた。すぐに左手を瞼にあてて涙を隠した。
    その姿は少女ではなく耐え続ける人間の姿で、背中を撫でてやるくらいしかできない。
    スンと鼻をひとすすりしてレイチェルは涙を拭った。

    2008-06-20 07:05:00
  • 365:

    主◆lZf.ArgVp2

    「…ごめんね。アメさんのシャツ マスカラがついちゃった。ごめん、お祝いするとこだったよね?」
    「いいよ、そんなの」
    「洗って返すよ。アン、悪いけど何かはくもの貸してくれる?帰るよ」
    レイチェルの化粧がボロボロになっているところなんて初めてで。そんな顔で明るく笑うのが苦しくて。

    2008-06-20 07:12:00
  • 366:

    主◆lZf.ArgVp2

    「帰らなくていいよ、一人になんてできないよ。」
    すごく困ったような顔をしてその後レイチェルは笑った。
    「大丈夫、スミトモが帰って来るかもしれないから、ありがとう」
    レイチェルが帰り支度をする間、そわそわと部屋の中をウロウロ歩き回った。何もできない。今すぐどこぞにいるであろうスミトモを引っ張って連れて来てやりたかった。

    2008-06-20 07:21:00
  • 367:

    主◆lZf.ArgVp2

    アメに送っていってもらう事にして、さっきの料理を包んだ。
    「美味しそう、スミトモ喜ぶわ。唐揚げ大好きなの」

    「…やっぱり」
    さっきその話をしていたと話したら「唐揚げ好きそうな顔って何!?」とやっとレイチェルらしく笑ってくれた。

    2008-06-20 07:25:00
  • 368:

    主◆lZf.ArgVp2

    二人がいなくなった後も以前階下は騒がしく、たまに怒鳴り声が聞こえたりした。
    いつのまにかクリスマスは終わってしまい料理も冷めてしまった。手の付けられていない料理が目一杯並ぶテーブルは一人でみても物悲しい。
    この分だとドクターは朝まで帰らないかもしれない。
    料理に埃が入らないよう布をかけたり戻せる分は鍋に戻した。冷蔵庫はパンパンに満員御礼となる。

    2008-06-20 07:32:00
  • 369:

    主◆lZf.ArgVp2

    レイチェルはもう家に帰ったろうか。
    強く降っていた雨はまた穏やかにシトシトと降る。それが逆に苛立ってため息をひとつ。
    アメを待つ時間が途方もなく長く感じる。
    時計の針は止まっているんじゃないかと思う程動かない。
    怖くなった。

    2008-06-20 07:36:00
  • 370:

    主◆lZf.ArgVp2

    「たーだいまー、もうビショビショー。もうちょっとでつくってとこで急に雨弱くなるし………アンジュ?」
    言葉をなくしてアメを見つめるあたしを不思議そうに見た後、意地悪な顔をして笑う。
    「はやくタオルとって。寂しかったでしょ、泣き虫」
    「泣いてない!」

    2008-06-20 07:46:00
  • 371:

    主◆lZf.ArgVp2

    タオルは美しく放物線を描き、アメの顔面に着陸した。

    アメの腕を枕にして不安な夜は過ぎていく。こんな時に限ってアメはさっさと眠ってしまった。はやくから奮闘したから当たり前か。
    レイチェルは今頃、どんな思いでいるだろう。
    次にスミトモと会ったらしばらく口は聞かなくていいな。

    2008-06-20 07:52:00
  • 372:

    主◆lZf.ArgVp2

    はやく眠ってしまいたくて無理矢理に目を閉じる。瞼の裏の暗闇は不安よりかは安心だった。
    ようやくうつらうつら仕掛けた時。
    「起きろ!!!アンジュ!!」
    目を開けるとドクターも部屋にいて霞みがかる頭は夢と現実をごちゃまぜにする。

    2008-06-20 07:56:00
  • 373:

    主◆lZf.ArgVp2



    ………えっ?

    2008-06-20 07:57:00
  • 374:

    主◆lZf.ArgVp2



    死んだって 誰が?

    2008-06-20 08:06:00
  • 375:

    更新>>372 から

    2008-06-20 08:08:00
  • 376:

    名無しさん


    気ーにーなーるー?

    2008-06-21 04:56:00
  • 377:

    名無しさん

    ほんまや??
    メッチャいいところで終わってる?

    2008-06-22 09:36:00
  • 378:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>391さん392さん

    エラーになってきれちゃいました(´A`)
    読んで頂いて嬉しいです

    2008-06-26 03:33:00
  • 379:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>389
    意味が理解できない言葉だけが頭の中を通過する。寒気がして汗が流れた背中の皮膚の感覚が異様にくっきり後を残した。
    アメに手を引っ張られ引きずられるように外へでた。
    足がもつれる。
    生温い水の中を走っているように耳はザーザーした雑音に支配される。

    2008-06-26 03:40:00
  • 380:

    主◆lZf.ArgVp2

    心臓の音が体中に反響して気持ちが悪い。
    実感なんてまるでなくて、あたしはまだ目覚めていないんだ、などと思う。霧のような雨がもやのように白い。夜が明けかけている。

    町外れの一角にまばらな人だかりが見える。その中に見慣れた姿を見つける。
    頭が急に弾かれたように覚める。その顔は夢なんかじゃ有り得ないほど、悪夢なんかよりずっと、悲痛。

    2008-06-26 03:50:00
  • 381:

    主◆lZf.ArgVp2

    「…来てくれたんだ」

    レイチェルの目線の先には、雨に打たれるただの“もの”になってしまったスミトモが無残に転がっていた。

    2008-06-26 03:53:00
  • 382:

    主◆lZf.ArgVp2

    血の気のない真っ白な顔に打ちまくられた銃の跡。

    「…………………アメ、ドクターを…ドクターのとこに」
    「………アンジュ」
    「ねえ…はやく…はやくしないと」

    2008-06-26 03:58:00
  • 383:

    主◆lZf.ArgVp2

    「…アンジュ、もう死んでる」

    ついこないだ会ったばかり。まだ二日も経ってない。
    涙もでない。突然過ぎて。ただびっくりしてるだけ。
    あれは本当にスミトモ?どこかのよく似た人なんじゃないの?

    2008-06-26 04:03:00
  • 384:

    主◆lZf.ArgVp2



    ねえ ねえ ねえ ねえ
    死んでない 死んでない 死んでない しんで………………

    2008-06-26 04:05:00
  • 385:

    主◆lZf.ArgVp2

    数人の仕事関係であろう男数人がスミトモを囲んでいる。その中の一人が開いたままのスミトモの目を閉じようとしたけれど、死後硬直が始まっているのかその目は閉じなかった。
    泣き叫んでいるだろうと思ったレイチェルはその姿をじっと見つめている。
    少し離れた所に大声で泣き叫ぶ女が男に支えられて立っていた。今にも泣き崩れそうだ。
    「ああ、あれ?スミトモの女よ」

    2008-06-26 04:13:00
  • 386:

    主◆lZf.ArgVp2

    そんな事にはまるで興味が無いというふうにレイチェルは言ってのけ、レイチェルはあたしとアメに抱擁すると「スミトモを見てきてやって」と耳元で囁いた。

    スミトモの頬に触れる。冷たい。
    痛々しいスミトモの最期より、今までのスミトモの憎らしい笑顔のほうが頭に浮かぶ。
    耳に声が聞こえる。

    2008-06-26 04:24:00
  • 387:

    主◆lZf.ArgVp2

    今だってそこの路地からふいに出てきそうなのに。

    『よぅ〜アンじゃん』

    2008-06-26 04:26:00
  • 388:

    主◆lZf.ArgVp2

    「……スミトモっ」


    大きすぎる悲しみは言葉を伴うことすらできない。重い痛みとして心を、体を、押し潰す。
    痛かったろうに。死にたくなかったろうに。生きたかったろうに。

    2008-06-26 04:32:00
  • 389:

    主◆lZf.ArgVp2

    「…ずっと怖かった、いつかこんな日が来るんじゃないかって。…ずっと…ずっと。ずっと怖かったのに」
    レイチェルはぼんやりと呟く。少し離れたスミトモを見つめたまま。レイチェルにもきっとあの憎らしい笑顔が駆け巡っているのだろう。

    スミトモの遺体は運ばれて行き、レイチェルは店の人間に付き添われて帰って行った。

    2008-06-26 04:41:00
  • 390:

    主◆lZf.ArgVp2

    アメに引きずられるようにしてあたしも家へ向かう。
    お互い発する言葉なんてない。
    日が上り明るくなった街。なんて無情なんだろう。

    2008-06-26 04:45:00
  • 391:

    主◆lZf.ArgVp2

    気付いた事があった。
    スミトモの頬に触れた時、スミトモが手に何か握っているのを見つけた。
    青い布の切れっ端。多分シャツか何かだと思う。
    あたしはそれにはっきりと見覚えがあった。

    2008-06-26 04:49:00
  • 392:

    主◆lZf.ArgVp2

    更新分>>394

    2008-06-26 04:51:00
  • 393:

    名無しさん

    お疲れ様?

    2008-06-26 06:50:00
  • 394:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>408さん
    ありがとうございます?

    2008-07-02 01:51:00
  • 395:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>407

    珍しくその日は晴れた。

    2008-07-02 01:53:00
  • 396:

    主◆lZf.ArgVp2

    街外れの火葬場はなんの色気もない灰色の建物。ただ焼いて灰にする。それがこの街の葬儀。
    黒は似合わないから着ない、と言っていたアメも黒のスーツに黒のネクタイをしていた。
    どうみても堅気でない人間がまばらに集まる中、あたし達は浮いている。

    今日はスミトモの葬儀だ。

    2008-07-02 02:00:00
  • 397:

    主◆lZf.ArgVp2

    柩の中に横たわるスミトモは黒のスーツを今までに見た事もないくらいきちんと着せられている。綺麗に死化粧されていて無残だった死の面影はない。
    「こうやってみると男前だったんだね、コイツ」
    寂しそうにアメが笑う。レイチェルは見当たらない。来れる状態じゃないのかもしれない。あたしはというとまだ半分夢の中のような気分、花に囲まれるスミトモはただ眠っているようにも見えるのだから。

    2008-07-02 02:10:00
  • 398:

    主◆lZf.ArgVp2

    いよいよスミトモと最期の別れだという時、走りよってきたレイチェルの姿に周りは唖然とする。
    彼女はクリスマスに着ていた真っ白のドレスを着ていた。
    「買い物してたら遅くなっちゃった。こんな時なのに列ができてんだもん」
    屈託なく笑いかけてくるレイチェルに気でも狂ったのかと思った。茶色い紙袋の中から取り出されたのはサンデイピクニックのサンドイッチ。

    2008-07-02 02:17:00
  • 399:

    主◆lZf.ArgVp2

    「スミトモの好きなもの色々買ってきたの」
    柩の隙間にサンドイッチを入れるのを手伝う。
    「わあー綺麗にしてもらったね……眠ってるみたい。おきなさーい!!!!!……………………なんてね」
    レイチェルの少しおかしな行動に周りは静まり返っていた。でも誰もいさめたりしない。いや、できないのだろう。

    2008-07-02 02:23:00
  • 400:

    主◆lZf.ArgVp2

    レイチェルの手がスミトモの頬にそっと触れる。

    「愛してるわ………スミトモ」

    2008-07-02 02:25:00
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