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◆黄昏の赤◆
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1:
緋恋◆lZf.ArgVp2
この街の月は赤く濁っていて気味が悪い。
赤い光が街を益々汚れたように見せる。
あたし達みたいな人間には美しい檸檬のような月明かりを望む事すら贅沢な事なのかもしれない。2007-05-28 23:54:00 -
501:
◆lZf.ArgVp2
「ステファ……貴方を殺さない………で」
2008-07-24 02:03:00 -
502:
◆lZf.ArgVp2
「…アンジュ、ほら」
黙々と何かをしていたステファンが向こうからあたしの視界に入る様に下げた手には小さな金属の容器。中にはあの薬。容器の底からライターの火に炙られると液体になった。
慣れた手つきで注射器へとそれを移す。
捲られた袖の下から露になった白い腕。
すぐに視界は涙でぼやけた。2008-07-24 02:10:00 -
503:
◆lZf.ArgVp2
「もう………やめて!!……………………………お願い………」
無残なほどの注射針の跡。赤や紫でうめ尽くされるステファンの腕。
直視できる様なものではなかった。その異様な細さの腕も。
死に際の母と同じ姿、それ以上だった。
2008-07-24 02:17:00 -
505:
名無しさん
しおり
2008-07-26 12:15:00 -
506:
名無しさん
早く見たい
2008-07-26 22:28:00 -
507:
名無しさん
あげ
2008-07-27 13:34:00 -
509:
◆lZf.ArgVp2
>>521
骨に皮がへばりついたような腕に注射針が近付く。針を刺しすぎて硬くなった皮膚に舌打ちしながら、何度も刺したり抜いたりを繰り返す。
あたしは泣きながら叫んでいた。2008-07-28 01:05:00 -
510:
◆lZf.ArgVp2
「こっちのベスともこれでお別れだ」
ゆっくりと注射器の中の薬はステファンの体内に注入されてゆく。空になった注射器を床に投げ捨てるとソファに倒れ込み動かなくなった。
さっきまでの緊迫は解け、急に疲れが襲ってくる。
眠ってしまったように見えるステファンを眺める。
…………可哀相に。2008-07-28 01:17:00 -
511:
◆lZf.ArgVp2
ステファンはわかっている。さっき「こっちのベス」と言った。自分の見ているものが幻覚でしかないことをステファンは自覚している。
それでも離れられなかったんだ。
あんな姿になるまで
2008-07-28 01:22:00 -
512:
◆lZf.ArgVp2
ステファンが急に起き上がる。誰もいないドアの前まで走って行くと空中を抱き締めた。
「……ああ、久し振りだな………本当に………………ベス!!」
ステファンは本当に嬉しそうだった。まるで誰かがいるように語りかけ、誰かの髪をかき上げ、笑いかける。
その笑顔の先には誰もいない。2008-07-28 01:28:00 -
513:
◆lZf.ArgVp2
奇妙な一人芝居のよう。パントマイムに興じるピエロの様に滑稽。
こんなふうなステファンを初めて見た。そんなに目が溶けてしまいそうなくらいに優しく目を細めて笑うんだね。
歪んで醜くていびつになってしまった愛。
愛してたんだね、本当に母さんを。2008-07-28 01:37:00 -
514:
◆lZf.ArgVp2
「………可哀相なひと。」
ステファンが嬉しそうに笑えば笑う程に現実との落差は残酷でしかない。細めてなくなりそうな目には何も映らない。
指の先まで優しく動く抱き締めようとする腕は空しく空中をかいただけ。
2008-07-28 01:44:00 -
515:
◆lZf.ArgVp2
心も身体も疲れ切っていた。痛みで肩だけが上下している。もう涙もでない。
その光景を見ているだけで心が千切れてすり潰される様な思いがした。
もう開き切らない目を閉じた。
これ以上はもう見たくない。
見れたものじゃない。2008-07-28 01:54:00 -
516:
◆lZf.ArgVp2
「ベス、久し振りだろ?アンジュだよ。大きくなっただろう?一緒に会いにいくよ。俺が死んでもお前に会えないから、しょうがないよな?お前がアンジュを迎えにきたらその時お前を捕まえる。そしたら…………もう二度と離さない。」
まるで睦言のように優しく囁く声が聞こえる。そしてカチャリと冷たい金属音も。
銃口がこちらに向られていることなんて目を開くまでもなくわかった。
アメの泣きそうな顔をして笑う顔が浮かんだ。その顔が泣き顔になっていく。
………………泣かないで、アメ。2008-07-28 02:04:00 -
517:
◆lZf.ArgVp2
自分が死ぬ事より、アメが泣く事の方が悲しいと思った。
アメは泣けないから泣かないかもしれない。
アメを一人になんかできない。寂しい目をした子供のようなひとなの。
死にたくない。死にたくない。
あたしは生きる。2008-07-28 02:09:00 -
518:
◆lZf.ArgVp2
また、空気が大きく振動した。
ステファンが何か言ったような気がしたけど聞こえなかった。
2008-07-28 02:12:00 -
519:
◆lZf.ArgVp2
「だめじゃないか、よけちゃ」
渾身の力で横に飛び退いた。脇腹に当たった。最初の時とは比べ物にならない位に血がでている。
銃口がこめかみに当てられる。
今頃になってきて恐怖を感じた。死ぬ事がこんなに怖いなんて、アメを置いていく事がこんなにつらいなんて。2008-07-28 02:19:00 -
520:
◆lZf.ArgVp2
「暴れるなっ…………」
ステファンが倒れる。
「………アンジュ!!!大丈夫か……!?」
2008-07-28 02:22:00 -
521:
◆lZf.ArgVp2
少し離れていただけなのにこんなにも懐かしい。都合良過ぎてあたしは死んだんじゃないかと思った。
「……メ、ァメ……」
アメに抱き抱えられている。いつもなら当然みたいに思うのに、夢みたい、あったかい。
「ラブコメは後にしろ」
ドクターがステファンに銃を突き付けていた。2008-07-28 02:32:00 -
523:
名無しさん
次の更新楽しみにしてます?
2008-07-28 02:37:00 -
524:
名無しさん
アメ来てくれると思ってた?ヨカッタ?続き待ってます?
2008-07-28 18:30:00 -
525:
名無しさん
気になる
2008-07-31 06:11:00 -
527:
◆lZf.ArgVp2
>>538
ステファンは腕を撃たれたようだった。床に転がったステファンの銃をドクターが遠くに蹴り跳ばす。
こんなに怖い顔をしているドクターを初めてみた。
アメがドクターの指示であたしに止血をしてくれた。じっとしているように言われても怖くてすがりつこうとするあたしの手をアメは強く握ってくれた。2008-07-31 07:49:00 -
528:
◆lZf.ArgVp2
「……ステファン、どうしてこんな事を……」
ステファンの額により一層強く押し付けられる銃口。ドクターの手は震えている。ステファンは撃たれて倒れた時からずっと笑っていた。おかしくて堪らないというように。
「……ああ、大丈夫だ。ベス。痛くないよ。ほらオーランドだ!!!懐かしいだろ?!アハハハ!」
ドクターは目を伏せて、銃を離した。2008-07-31 07:56:00 -
529:
◆lZf.ArgVp2
「……ドク…タ 薬………く……すりの……せい……なの」
「アン……喋らなくていい。」
何もないところに手を伸ばし甘える様に話しかけ続けるステファンをつらそうにドクターは見つめた。
「……なぜお前がhappinessを………?」
2008-07-31 08:02:00 -
530:
◆lZf.ArgVp2
「………さあ?ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ……やべーよ…ククク…撃たれったていうのに……もう痛みもねーよアハハハ!」
「ステファン、答えてくれ………なぜだ?」
「………ついこないだまでは痛覚まだあったのになあ………」
「……ステファン!!!!!!」2008-07-31 08:13:00 -
531:
◆lZf.ArgVp2
「………頼むよ…ステファン……」
ぼんやりとした目でステファンがドクターを見つめ返す。ヨロヨロと起き上がるとソファまで歩いて行きドサリと腰を下ろす。
「………なぜだって?」2008-07-31 08:17:00 -
532:
◆lZf.ArgVp2
「……それがわかればこんな事にはならなかっただろーよ」
テーブルにあるチョコレートの銀紙をはがそうとしたステファンは右手が動かない事に舌打ちしながら、随分と時間をかけて一つ口にいれた。
「……やっぱ旨いわここの。わざわざ買いにいかせてよかった。アンジュも食べればよかったのに。……ああベスお前も食うか?」
小さな子供の口にでもいれてやるような仕草をしたものの、ステファンの指から離れたチョコレートはただ下に落下しただけだった。2008-07-31 08:24:00 -
533:
◆lZf.ArgVp2
ドクターは静かに涙を流していた。
「可哀相に。可哀相な女だよ、本当にお前は。
三人の人間に殺されるっていうのはどんな気持ちだ?
俺に薬漬けにされて、娘に刺され、男に見殺しにされる。
悲しい人生だったな」2008-07-31 08:29:00 -
534:
◆lZf.ArgVp2
「………お前とベスの事は薄々知っていた。…………なぜだ?なぜベスに薬を……なぜ…」
答えはなかった。
ステファンは歌を口ずさみだした。それはクリスマスの時聞いた讃美歌の一説。
「………………………………なぜ?」2008-07-31 08:33:00 -
535:
◆lZf.ArgVp2
ドクターの問いはただ無意味に空気を震わせるだけだった。
ステファンはただ歌い続けた。調子のたまにずれる讃美歌は途切れ途切れになりながら同じところをいったりきたりする。
その頃にはあたしの意識も朦朧としていた。
アメの体温と握力の強さがあたしの意識をつなぎとめていた。2008-07-31 08:40:00 -
536:
◆lZf.ArgVp2
「…………俺はお前が好きだったよ」
2008-07-31 08:41:00 -
537:
◆lZf.ArgVp2
その瞬間はやけにゆっくりと見えた。
ドクターの腕がステファンの方に向けられる。引き金を引く音すらゆっくりと耳に響いた。そして鮮血。
「…………ぃや゛あああああ!!!!!」
2008-07-31 08:46:00 -
538:
◆lZf.ArgVp2
叫んだ時には既に終わっていた。
2008-07-31 08:47:00 -
539:
◆lZf.ArgVp2
「友達だと………そう思っていたんだ」
数発の弾丸を打ち込んだ後、ドクターは腕を下ろした。ゴトリと重い音がして銃が床に転がる。
あたしの耳にはステファンの口ずさんでいた歌詞がまだ残っていて、まだステファンが歌い続けているかのように錯覚したが当のステファンは口を閉ざしている。
永遠に。2008-07-31 20:21:00 -
540:
◆lZf.ArgVp2
「アメ、アンジュを連れて行け。血が出過ぎている。」
だめ、ドクターと一緒じゃないと……だめ。アメに伝えようと手を握った…筈だった。
もう指は少しも動かない。声をだそうとしても微かに唇が開いて息がもれるだけだった。
「はやくしろ!……手遅れになる」
足が床から離れる。動かないあたしの腕を首に回させた。2008-07-31 20:28:00 -
541:
◆lZf.ArgVp2
酷く目が乾いてよく見えない。ドクターはあたしを見て笑った。
アメはあたしを背負ううとドアに向って歩きだす。体温と振動で眠たくなっていく。まるで赤ん坊になったようにうつらうつらと意識は遠のいていった。
だめ………アメだめだ。待って 。 ドクターを連れて来て。
ドクター……………………………………………………………………………2008-07-31 20:34:00 -
542:
◆lZf.ArgVp2
意識が落ちるそのほんの少し前、あたしは聞いた。
一発の銃声。
命が消える音がした。2008-07-31 20:37:00 -
544:
みゆ
君と毎日キスしたかったからずっと見てます!
応援してます!更新待ってます2008-08-03 18:22:00 -
545:
◆lZf.ArgVp2
>>561 みゆさん
前のやつも読んでくれたはったんですか!嬉しいです。なんか前のは体験談ベースなんで今みるとなんか照れてしまいますけど?笑2008-08-04 00:08:00 -
546:
◆lZf.ArgVp2
>>559
どれだけ眠っていたのだろう。綺麗でもなく汚いわけでもない白い天井。
「………あ……ぁ」
情けないながらにも声はでる。首が思うように動かない。狭い視界には吊り下げられた左足と点滴がぶっ刺さった腕が見える。2008-08-04 00:25:00 -
547:
◆lZf.ArgVp2
体が重いような逆にすごく軽いものになってしまった感じ。指を動かそうとしたら握力が弱っていて、軽く握ったままになった。握った手を開く事すらダルい。
やっと首を横に向ける事に成功する。
壁にパイプ椅子を押し付けて眠っているアメがいた。少し痩せたかもしれない。随分疲れているようにも見える。
「…………アンジュ?」
2008-08-04 00:34:00 -
548:
◆lZf.ArgVp2
「………生きてるよ」
すぐに医師や看護士がやってきて何やら聞かれたり答えたり色々あった。
いつのまにか眠ってしまった。
次に目を覚ますとあたしの手を握りながら枕の横に突っ伏していりアメの顔が横にあった。2008-08-04 00:40:00 -
549:
◆lZf.ArgVp2
アメ………あたし達二人きりになってしまったね。
2008-08-04 00:44:00 -
550:
◆lZf.ArgVp2
「………ごめんっ寝てたっ…………………………。なんか欲しいものある?見たいものある?痛くない?苦しくない?」
焦って急に動こうとするから、椅子からずり落ちかかっている。
「………………………………ドクターは?」
「…今は寝てろ」
「そっか………………………………………………死んだんだね。」2008-08-04 00:49:00