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彼女までの距離

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  • 1:

    主◆LakuAXwmbU

    芽衣と出会ったのは、残暑でまだ暑い九月の第一日曜日だった。
    出会いの感想を聞かれたなら、最悪だったとしか言いようがない。
    ホストを始めて八ヶ月が経ち、売り上げが安定して来た俺は寮生活から独り暮らしに変えたばかりだった。

    2007-09-22 01:39:00
  • 2:

    主◆LakuAXwmbU

    その日、俺は長い一週間の仕事を終え、うだるような熱い陽射しを浴びながら、テラスでまどろんでいた。
    そろそろ眠りに就けそうだという頃に、隣の部屋のテラスから轟音が響き、一気に現実に引き戻された。
    いくら普段は穏やかな俺でも、眠りを妨げられると不機嫌になる。
    どうやら隣人は洗濯機を回し、テラスの窓を開け掃除機をかけているようだ。            

    2007-09-22 01:50:00
  • 3:

    主◆LakuAXwmbU

    鳴り止まない轟音に苛立ち、裸足でテラスの柵から身を乗りだし、隣に向かって怒鳴り散らした。
    「うるさい!こっちは寝ようとしているんやから、せめて窓を閉めろ!」
    洗濯機の音は止まなかったが、掃除機の音は止んだ。
    それに満足して、テラスから部屋に戻ろうとした時、隣人の声が聞こえた。

    2007-09-22 01:59:00
  • 4:

    主◆LakuAXwmbU

    「今、昼間ですよ?普通なら皆さん起きている時間ですが、何であたしがいちいち、あなたの生活習慣に合わせなくちゃいけないんですか?」
    言葉は丁寧だったが、隣人も苛ついていると低い声のトーンで分かった。
    再び体勢を隣のテラスに向けて、何かを言おうとした。
    けれど出来なかった。

    2007-09-22 02:06:00
  • 5:

    主◆LakuAXwmbU

    彼女が刺すような目で俺を見つめるせいで、言葉を失ってしまったから。
    迷いもなく俺の目を見る彼女の、化粧を施していない目から視線をそらせなかった。
    「あ……ああ、ごめんなさい」
    先に顔を背けたのは彼女だった。

    2007-09-22 02:15:00
  • 6:

    主◆LakuAXwmbU

    あの時は、自惚れて、俺の容姿に目を奪われたのだと思っていた。
    今なら分かる。芽衣は俺を見ていた訳じゃない。

    「こっちにだって事情があるんやから、ちょっと気を付けて欲しいんねん」

    2007-09-22 02:21:00
  • 7:

    主◆LakuAXwmbU

    気を取り直し、そう言う俺の言葉を聞いているのかどうか疑問に思えるほど、彼女は無表情なまま何も言わず部屋に消えていった。
    随分と無愛想な女だと思った。
    様々な女を見てきて、様々な女を接客してきたけれど、芽衣の他者を寄せ付けないような堅苦しい雰囲気は、苦手に感じた。 

    2007-09-22 02:31:00
  • 8:

    主◆LakuAXwmbU

    彼女はやっぱり俺の話を聞いてやしなかった。
    嫌がらせかと言いたいほど毎朝、洗濯機を回し、掃除機をかけてばたばたと部屋中を走り回りバタンと派手な音を立てドア閉める。
    その後は静寂に包まれるから、俺は我慢する事にした。 

    2007-09-22 02:43:00
  • 9:

    主◆LakuAXwmbU

    俺の引っ越してきたフロアーの部屋はテラスが広かった。
    それが決め手となり、この部屋を契約した。
    ただ、ぼーと過ごしたい時にはテラスに出て空を仰いだり、音楽をかけて口ずさんだりした。

    2007-09-22 02:51:00
  • 10:

    主◆LakuAXwmbU

    退屈な時間さえ、テラスで外気に当たれば苦痛じゃなくなった。
    必然的にテラスで過ごす事が多くなった。
    出勤までの時間を持て余し、テラスで缶コーヒーを飲んでいる時に、隣の窓を開ける乾いた音が響いた。

    2007-09-22 02:56:00
  • 11:

    主◆LakuAXwmbU

    好奇心が沸き、柵から身を乗りだし隣を見ると彼女がいた。
    左手には缶ビール、右手には煙草を持ち、彼女がテラスに置いたのであろう椅子に腰かけている。
    その表情は初めて会った時と変わらず無表情で、ホストとしての俺の精神が刺激され、彼女を笑わせてみたくなった。

    2007-09-22 03:06:00
  • 12:

    主◆LakuAXwmbU

    「こんばんは」
    誰もいないと思い込んでいたようで、彼女は一瞬、体をこわばらせてから俺の方へと視線を移した。
    「小姑みたいに口うるさい隣人さん、こんばんは」
    彼女の中で俺はマイナスイメージになっているようだ。

    2007-09-22 03:14:00
  • 13:

    主◆LakuAXwmbU

    作り笑いであろう口角を上げただけの笑顔や、低い声のトーンが嫌味たらしかった。
    舌打ちしたくなる衝動を抑え、精一杯の営業スマイルを顔に貼り付けて、店で接客するように彼女に話しかけた。
    「いつも朝早いけれど、仕事はOLなん?」
    彼女は反応しなかった。

    2007-09-22 03:23:00
  • 14:

    主◆LakuAXwmbU

    俺の顔も見ようとはしない。
    「サービス料金を取らずに営業スマイルやで!な?な?見て」
    何でここまで必死なんだろうと冷静に思いつつも、意地なのかプライドなのか、俺は何度も話しかけた。
    「馬鹿みたい、みたいじゃなくて馬鹿か」

    2007-09-22 03:29:00
  • 15:

    主◆LakuAXwmbU

    その一言を俺に投げ掛けて、結局、彼女は笑顔は見せず、俺の笑顔も見ないで部屋へ消えた。
    食えない女だ。
    悔しい気持ちで一杯だった。
    仮にも俺はホストだ。あいつを笑わせる、それがその日からの目標になった。         

    2007-09-22 03:36:00
  • 16:

    主◆LakuAXwmbU

    彼女が毎朝、洗濯機を回すのは分かっていたから、その時間を見計らってテラスで待っていた。
    平日の朝の彼女はハーフパンツスーツスタイルで身を固め、ボーイッシュな雰囲気を漂わせていた。
    店で良く目にするようなヒラヒラしたワンピースや露出したスタイルとは違ったファッションで目新しく見えた。
    彼女自身も洋服の着こなしが上手く似合っている。           

    2007-09-22 04:09:00
  • 17:

    主◆LakuAXwmbU

    「おはよう」
    声をかけると、溜め息と共に肩を落とし、彼女は俺の方を見た。
    「単なる暇つぶしで話しかけるの?それとも何かの営業?」
    彼女は、いぶかしげな目で俺の全身を見て更に言葉を続けた。

    2007-09-22 04:16:00
  • 18:

    主◆LakuAXwmbU

    「ああ、ホストの営業か。興味ない」
    彼女を店の客にしようとは少しも考えていなかったから、腹立たしく感じる言葉だった。
    けれど、言い訳をしたとしても、彼女からしたら俺のいかにもホストですという外見は信用に値しないだろう。
    「じゃ、暇つぶしって事でいいから話に付き合って」

    2007-09-22 05:49:00
  • 19:

    主◆LakuAXwmbU

    ならば言い訳をせずに、目的も話さず、ただの話したがりやな人物を演じよう。
    もっとも、笑わせたいとは言える相手ではないし、しらふで朝日の下で言うには恥ずかしいから言えなかった。
    言ったとしても、彼女は、また嫌味な笑みをこぼして、小憎たらしい一言を吐き出しただろう。
    「残念ながら出勤時間です」

    2007-09-22 05:59:00
  • 20:

    主◆LakuAXwmbU

    彼女はくるりと背を向けて、右手をひらひらさせながら部屋に戻った。
    聞き慣れた部屋を右往左往する足音も、ドアを激しく閉める音も、今日は苛立たしく思えない。

    笑った方が可愛いよ、多分。

     

    2007-09-22 06:08:00
  • 21:

    主◆LakuAXwmbU

    (略)
    空白

    2007-09-22 06:19:00
  • 22:

    主◆LakuAXwmbU

    泥酔した日は、真っ先にベッドの中に潜り込んでいたから、彼女と会えなかったけれど、それ以外の日は毎日のように彼女に話しかけた。
    彼女はいつも反応がないか、嫌味を言うくらいだった。
    それでも良くなって来た。
    接客じゃない会話、愚痴やくだらない話をしている一時が俺の息抜きになっていたから。

    2007-09-22 06:37:00
  • 23:

    主◆LakuAXwmbU

    店では女の仕草や表情、そして言葉の裏を読んで、女が何を求めているのか考えながら会話をしている。
    張りつめた緊張の糸はすぐに切れてしまいそうで、いつも体中の神経を使っていた。
    だから駆け引きのない会話をしているだけで削れていった、神経が戻るような感じがした。

    2007-09-22 06:46:00
  • 24:

    主◆LakuAXwmbU

    「台風が近いねんて。傘を持って出勤した方がいいで」
    風が強く、彼女のんびり髪がばさばさ揺れていた。
    「一号くんは頭を押さえて出勤した方がいいよ」
    いつものニヤリとした笑みを浮かべ彼女は俺の頭の方を見た。

    2007-09-22 07:00:00
  • 25:

    主◆LakuAXwmbU

    「何で?いやいや、その前に一号ってなんやねん」
    「901号室の人だから一号くん」
    そう言えば、俺と彼女はまだ名前を教え合っていない。
    「圭太」
    「え?」

    2007-09-22 07:08:00
  • 26:

    主◆LakuAXwmbU

    名前を口にした時のしばらくの間の理由が分からなかった。
    彼女は自分の名を名乗りたくないのだろうか、単純にそう思った。
    「圭太、俺の本名やで」
    「芽衣、あたしは芽衣」
    そう言って彼女はうつむいた。

    2007-09-22 07:14:00
  • 27:

    主◆LakuAXwmbU

    名前を教え合うのはいけなかったか?
    唇を固く結んだ芽衣を見たら、ふりだしに戻ったような気がした。
    「ね、何で頭を押さえて出勤せなあかんの?」
    構わず話しかける事に賭けてみた。
    「だって……」

    2007-09-22 07:28:00
  • 28:

    主◆LakuAXwmbU

    うつむいたまま芽衣はぼそぼそと話しだした。
    「いつも髪を立てているから、禿やすいんじゃないかなって」
    俺はまだ二十三歳、禿とは無縁のはず。
    「風に髪の毛を持っていかれるんじゃないかなって心配して言ったの」

    2007-09-22 07:33:00
  • 29:

    主◆LakuAXwmbU

    いつになく芽衣は饒舌になり、どんどん喋りだした。
    「ホストって神経をつかいそうだよね、十円禿が出来てそうだよね。あ、それでみんな髪を立てているの?」
    「いえいえ、十円どころじゃないですよ。既に五百円禿が……」
    芽衣のノリに合わせて、俺は会話に乗った。

    2007-09-22 07:41:00
  • 30:

    主◆LakuAXwmbU

    「そっか、気の毒に。ハゲしく同情するけれどハゲましの言葉が浮かばない。でも禿の圭太くんも格好いいと思うよ」
    「禿、禿、禿って、そんなに連呼されたら本当に禿げてきそうな気がするやんか!禿たら、そのこけしのような髪の毛をもらうからな」
    芽衣はまだうつむいたまま、肩を震わせていた。

    2007-09-22 07:54:00
  • 31:

    主◆LakuAXwmbU

    泣き出すのかと思った。
    芽衣は顔を上げて、大笑いをした。
    嬉しかった。
    芽衣を笑わらわせた事が、そして笑顔を見れた事が。
    大きく開いた唇からは綺麗に並んだ芽衣の歯がのぞいていた。

    2007-09-22 08:03:00
  • 32:

    主◆LakuAXwmbU

    こいつの笑った顔、可愛いな。
    「笑った顔の方が可愛い」
    ずっと笑っていて欲しいと思ったから芽衣に、そう告げた。
    けれど芽衣は急に笑うのを止めて、元の愛想のない表情に戻った。

    2007-09-22 08:12:00
  • 33:

    主◆LakuAXwmbU

    「遅刻しちゃうから行ってきます」
    芽衣は感情を表に出さない人間だった。
    それは俺の前だけなのか、誰の前でもそうなのか分からない。
    けれど、芽衣が俺との間に壁を作っていたのは気付いていた。

    2007-09-22 08:22:00
  • 34:

    主◆LakuAXwmbU

    毎日、洗濯機を回していた芽衣なのに、翌日はテラスに出て来なかった。
    台風が関西地方に直撃して外は大雨なのだから当たり前だ。
    けれど、テラスで芽衣に話しかけるのを楽しみにしていた俺は、芽衣と話せない事に不安を覚えた。
    昨日の会話で何か機嫌を損ねる事を口にしていたんじゃないか?

    2007-09-22 10:58:00
  • 35:

    主◆LakuAXwmbU

    それよりも芽衣は俺を避けているんじゃないか?
    どうして?

    今の俺を店の女達が見たら、格好悪いと笑うだろうな。
    自分でも上手く説明出来ない感情が芽衣に対して沸いていたのは確かだった。

    2007-09-22 11:04:00
  • 36:

    主◆LakuAXwmbU

    いつもは隣から聞こえて来る生活音で芽衣の気配を感じていたけれど、その日は静かだった。
    部屋にいないなら話しようがない。
    芽衣と話せないと分かると今日一日がつまらなく思えた。
    初めて芽衣と会った時は正直、引っ越してくれないかと考えた。

    2007-09-22 11:18:00
  • 37:

    主◆LakuAXwmbU

    でも、今は居て欲しい。

    芽衣が帰宅したのは次の日の朝だった。
    週末だから友人達と遊んでいたのだろう。
    遊び疲れているのか芽衣は、その日も洗濯機を回さなかった。

    2007-09-22 11:23:00
  • 38:

    名無しさん

    彼氏と遊んでたんじゃないの?

    2007-09-22 15:31:00
  • 39:

    主◆LakuAXwmbU

    >>38さん
    読んでくれてありがとうございます。
    後で、その事も書くので、見守ってくれたら嬉しいです。

    2007-09-22 19:43:00
  • 40:

    主◆LakuAXwmbU

    月曜日の朝は騒音で目覚めた。
    あんなに不愉快な音だったけれど、芽衣の存在を教えてくれていると思えば、嬉しい物であった。
    「おはよう」
    まだ寝起きで意識がはっきりしない状態のまま、テラスに出て芽衣に声をかけた。

    2007-09-22 19:53:00
  • 41:

    主◆LakuAXwmbU

    「今日は髪を立ててないんだ」
    芽衣の機嫌は悪そうではない。
    無表情なのが残念だけれど、また笑わせればいい。
    「昨日は休みだったし、出掛けてもないからな」
    「ホストなんだから、お客さんと出掛けたらいいのに」

    2007-09-22 20:26:00
  • 42:

    主◆LakuAXwmbU

    「休みの日くらいは仕事を忘れたい」
    俺は同伴やアフター以外では滅多に女達と会わなかった。
    休日になれば、何かを期待した女達からの電話やメールはあった。
    様々な女の名前で埋め尽くされた携帯電話を手にして連絡を返さなかった言い訳を考えるのは疲れるが、相手をするよりはマシだと思っている。

    2007-09-22 21:48:00
  • 43:

    主◆LakuAXwmbU

    「でも、女の子からしたら例え仕事と分かっていても誘われたら嬉しいよ」
    熱心に語る芽衣に同調して、肯定の反応をした。
    「きっと売り上げも伸びるよ」
    「じゃあさ、練習したいから俺と遊ぼう」
    この時はまだ芽衣に対し恋愛感情を抱いてなかった。

    2007-09-22 23:10:00
  • 44:

    主◆LakuAXwmbU

    でも、芽衣が俺との間に作っている壁を壊したかった。
    少しでいいから、芽衣との距離を縮めたかった。
    そんな気持ちから出た言葉だった。
    「営業ですかー?」
    そんな柄じゃないくせに芽衣は語尾を伸ばして茶化した。

    2007-09-23 00:44:00
  • 45:

    主◆LakuAXwmbU

    「違う、普通に遊んでみたいねん。デートしよ」
    芽衣は眉間に皺を寄せて顔を下に向けた。
    芽衣は前から急に黙り込んでしまう時が頻繁にあった。
    沈黙している間、たまには考える事を止めて、どんな表情でもいいから俺を見て欲しい。

    2007-09-23 00:58:00
  • 46:

    主◆LakuAXwmbU

    そう、考えていた。
    「休みの日が、お互いに暇なら遊ぼうか」
    やっと芽衣は答えてくれた。
    「今週の日曜日やな」
    「暇人なの?」

    2007-09-23 01:05:00
  • 47:

    主◆LakuAXwmbU

    素直に、うんとかはいとか言えば可愛いげがあるのに、仏頂面な上に愛想も悪いときたら男も寄ってこないだろう。
    本音を漏らせば、遊ぶなら可愛い女と遊びたい。
    でも、芽衣の笑った顔は可愛かった。
    元の顔も悪くはないが、表情のせいで可愛く思えない。

    2007-09-23 12:45:00
  • 48:

    主◆LakuAXwmbU

    「そうや、暇人やねん。だから日曜日よろしく」
    俺は芽衣の返事を聞かず部屋に戻った。
    逃げた者勝ちだ。
    日曜日を待ち遠しく思うあまり、顔がゆるんだ。
    自分でも変だと思うのだから他人がみたら気持悪く見えるな。                  

    2007-09-23 12:54:00
  • 49:

    主◆LakuAXwmbU

    (略)
    空白

    2007-09-23 13:06:00
  • 50:

    主◆LakuAXwmbU

    その週は、イベントやら締め日やらでめまぐるしく日々が過ぎて行き、俺の毎日と言えば泥酔して記憶が混濁したまま、帰宅したら真っ先に眠りに落ちていた。
    おかげでうっかりと強引に約束した芽衣との約束も忘れていた。
    夢うつつで、今週は芽衣と何を話しただろうと思い返した時は既に日曜日だった。

    2007-09-29 01:54:00
  • 51:

    主◆LakuAXwmbU

    「最悪だね」
    芽衣は、眠い目をこすってアイスコーヒーを飲む俺に向かって開口一番そう言った。
    正直、充分に睡眠をとっていない状態で、芽衣に起こされ俺も機嫌が悪かった。
    表情に出ていたのだろう、約束をしていながら、そんな顔をされたんじゃ誰だって悪態をつきたくなる。

    2007-09-29 01:59:00
  • 52:

    主◆LakuAXwmbU

    日中の日差しが注ぐカフェの窓際で、俺と芽衣は向かい合わせに腰掛けていた。
    今まで、隣同士のテラスで話すだけで、こうして芽衣と向かい合わせになる事はなかった。
    せめて、いつものように過ごしたいと思い直し、俺はひたすら、謝罪の言葉を述べて続けていた。
    「ごめん、ほんまごめんなさい」

    2007-09-29 02:03:00
  • 53:

    主◆LakuAXwmbU

    芽衣は、もう癖になっているであろう口角を上げただけの笑顔で仕方ないなと呟いた。
    やっと、いつもの芽衣に戻った。
    休日ということもあって、芽衣はいつものスーツ姿ではなく、ラフなビンテージ加工のジーンズに、ラグラン袖のシャツを合わせていた。
    いつもの芽衣と違う服装は芽衣を幼く見せている。不意に見せる眉をしかめた顔も、嫌味な笑顔も、今日は可愛く見えた。

    2007-09-29 02:08:00
  • 54:

    主◆LakuAXwmbU

    (略)
    いつもの芽衣と違う服装は芽衣を幼く見せている。不意に見せる眉をしかめた顔も、嫌味な笑顔も、今日は可愛く見えた。

    2007-09-29 02:11:00
  • 55:

    主◆LakuAXwmbU

    急に触れた芽衣の体温は冷たかった。
    だからなのか、女に慣れているはずなのに、芽衣の触れている部分だけが熱くなった。
    「このリストバンド探していたんだ」
    芽衣は俺の着けているリストバンドを見つめて、計算しているのいないのか、しきりに欲しいと言った。

    2007-09-29 02:20:00
  • 56:

    主◆LakuAXwmbU

    こいつって、こんな表情もするんだと芽衣のアヒルのようにとがらせた唇を見ていた。
    無愛想な顔が本来の芽衣なのか、今の表情が元の芽衣なのか、この時はまだ分からなかった。
    「寝坊の事も、約束を忘れていた事も許すから、これちょうだい」
    俺は返事をする代わりにリストバンドを外し芽衣に渡した。

    2007-09-29 02:27:00
  • 57:

    主◆LakuAXwmbU

    芽衣は、いつかに見た作られた笑顔じゃない、口を大きく開けた表情でリストバンドを受け取った。
    見たかったはずの笑顔で嬉しいはずなのに、その時の俺は複雑な気持ちを抱いた。
    芽衣がリストバンドを着ける為に、左手のメンズサイズの腕時計を外した時に見えてしまったんだ。
    無数に付いた傷跡が。

    2007-09-29 02:33:00
  • 58:

    主◆LakuAXwmbU

    服装に合わせる為にメンズサイズの時計を着けていたのだと思っていた。
    そうじゃなかった。
    チラっと見えたケロイド状になるくらいの傷跡は、芽衣の暗い部分を映し出していて、目を逸らしてしまいたくなった。
    「似合う?」
    芽衣は嬉しそうにリストバンドを着けた左手を俺に見せた。

    2007-09-29 02:36:00
  • 59:

    主◆LakuAXwmbU

    略ばかりですいません。
    (略)
    芽衣は嬉しそうにリストバンドを着けた左手を俺に見せた。

    2007-09-29 02:39:00
  • 60:

    主◆LakuAXwmbU

    似合うよと答えながら頭では別の事を考えていた。
    でも聞けやしない。
    軽いノリで聞けるような内容じゃないからだ。

    2007-09-29 06:22:00
  • 61:

    主◆LakuAXwmbU

    「今日は楽しかった、ご馳走様でした」
    お決まりの映画鑑賞に、夕飯と済まして駅までの道程で芽衣は軽く俺に会釈した。
    今日一日、芽衣と過ごして色々な事が分かった。
    芽衣は必ず、ご馳走になればありがとうを言う。
    それは俺だけにじゃなく、会計をしてくれた店員に対しても言う。

    2007-09-29 06:27:00
  • 62:

    主◆LakuAXwmbU

    そして、それはコンビニでも同じだった。ただ会計をしてお釣り渡されただけでもありがとうと言っていた。
    半ば強引に俺から約束した今日の事も、何度も礼を述べていた。
    「忙しい中、時間を割いてくれてありがとう」
    気遣いというのか、芽衣は何かをしてもらったら「ありがとう」と必ず言う。

    2007-09-29 06:33:00
  • 63:

    主◆LakuAXwmbU

    ご飯を食べていても、こまめにテーブルの上を片し、おしぼりで拭く。
    そして、芽衣はあまり自分の事を話してくれない。
    芽衣の関東訛りの言葉のイントネーションで、関西出身じゃないのは分かったけれど、地元が何処かは聞いてもはぐらかして教えてはくれなかった。

    2007-09-29 06:40:00
  • 64:

    名無しさん

    ?

    2007-10-02 23:57:00
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