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ユリの花
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1:
『好きだよ』
『愛してる』
『離れたくない』
愛を表す言葉は様々だけど、私にとってそれはただのチープな言葉でしかなくて本当に愛する人でなくても簡単に言える言葉だと思ってた。2007-11-19 20:39:00 -
3:
実際私が心でなんて思ってるかも分からないくせに、その言葉を囁くだけで幸せだのラブラブだの勝手に思い込んでくれる。
気のあるふり、ヤキモチやくふり、依存するふり、どれもこれも偽りだらけだ。
そんな簡単なコトをするだけでいいのだから恋愛なんてどんなRPGよりも攻略しやすい。
これが今まで人に言うわけでもなく心に秘めていた私の持論だ。2007-11-19 20:44:00 -
5:
その人には私の全知識を使っても無駄だった。
彼が見てるのは最後まで空と綺麗に咲いたユリの花だけだった…。
――――…
私が彼に逢ったのは海が見えるさびれた公園の喫煙所。公園に喫煙所があるなんて珍しいかもしれないが私の生まれた地区ではどの公園にもそれはあった。2007-11-19 20:48:00 -
6:
昔はこの公園もたくさんの人で溢れていたが、2・3年前近くに新しい公園が出来てから、ここに足を運ぶ人は大幅に減っていき、今ではここで人に会うコトは滅多にない。
今はもうここに好んで来るのは私だけだろう。
そんな寂れた公園で彼は一輪のユリの花を片手に煙草を吸っていた。2007-11-19 20:50:00 -
7:
『彼女を待っているのだろうか』
どんな場所であれ、少なからず花を持っているのだからそう考えるのが妥当だろう。
そう思って一瞬きびすを返そうとしたが、そこまで見知らぬ男の為にしてあげる義理など私にはない。
何せここは私のお気に入りなのだ。2007-11-19 20:51:00 -
8:
喫煙所に近付いていくと彼は私に気付いたようで陣取っていた灰受けの前を少し動くとまた海を見つめながら煙草を吸い始めた。
私は煙草に火をつけると何気無く彼を見る。
彼はユリの花に煙を吹き付け、最後煙草をユリの花に押し付け消した。それがあたかも当然のように。2007-11-19 20:53:00 -
9:
『‥‥!!』
私は驚いて彼を見たまま体が凍る。彼はその視線に気付き私の方を見ると一言、『ユリが嫌いなんだ。』と言った。
…何なんだ、こいつは。
じわじわと追い詰められるような恐怖が私を包む。彼の声は今まで聞いたどんな声より優しくて柔らかいのに彼の発するオーラはとても静かで冷たい。2007-11-19 20:56:00 -
10:
彼の声と彼自身が私の中で一致と分裂とを繰り返す。つまり脳では彼と彼の声は同じと認識しているのに本能がそれを別だと拒否しているのだ。
いろんな感情が私の中を廻っていく。
恐怖が占めているのは確かだがその他の感情は私自身にもわからない。
言えるのはさっきまでの空間が今はすごく息苦しい…。2007-11-19 21:05:00 -
11:
名無しさん
『そう…』
無理に絞り出した私の声は意外にも綺麗に言葉を紡ぎ、冬の風を伝う。寒いはずなのに今は寒さを感じない。
『君は賢いね』
彼はそう言うと少し余韻を残すようにゆっくり微笑んで公園を去っていった。2007-11-19 21:16:00