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となりの君。

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  • 1:

    『さみー…』
    ベランダに出た瞬間冷たい風が服の隙間へと入り込んだ。風が強くて煙草に火がつかない。       『ん…』        やっと煙草に火がついて、ぼーっと夜空を見上げる。冬らしく空は真っ白に曇っていた。
                今日から新生活が始まると心では楽しみにしていたのに天気はそれらしくなくて何だか悲しかった。

    2008-11-27 22:36:00
  • 2:

    白い煙と白い息がゆっくりと消えていく。     『はぁ…』
    明日からまた始まる仕事の事を考えると気が重くなっていった。                   何気なく下を見下ろすと黒い車から1人の女の人が出てきた。        車の運転席には自分と同じ位の男の人が乗っていた。            『ありがとうございます』幼そうに見える彼女は少し困った顔をして笑った。 3階なだけに声も顔もまるわかりだった。     彼女が手を振ってマンションの中へと入るのが見えた。                       煙を吐き出しながら車を眺めていると車の運転手と目が合って僕は一歩下がった。

    2008-11-27 22:47:00
  • 3:

    車は何事も無かったかの様にゆっくりと走りだした。僕も煙草を消して家の中へと入った。       それと同時に玄関の前でカツカツという靴の音が聞こえた。         その音が僕の部屋の前を通り過ぎた所で止まった。             僕は急いで紙袋を手に取って玄関から外へ出た。  『………あ』      玄関から出て横を見ると下にいた彼女がドアを開けてしゃがみこんでいた。              『こんばんは…』    僕が口を開くとドアの先から何かを取り出して立ちあがった。        『こんばんは』     やっぱりどこか幼い顔をしていて、何だか落ち着いた声をしていた。                 『隣に引っ越してきました!綾瀬です!これ…簡単な物なんですけど…』   僕が紙袋を彼女の前へと差し出すと彼女も右手を伸ばした。                     左手には白いチワワが抱かれていた。       『わざわざすいません』 彼女は笑顔を見せた後チワワを足元に下ろした。  『香山です』      犬が彼女の足を支えに立ち上がるのを困った顔で見ながら僕に頭を下げた。

    2008-11-27 23:02:00
  • 4:

    『こんな時間にすいません仕事終わるのが遅いんで挨拶出来ないと思って急いで出てきました…』    下を向くと彼女が口を開いた。                      『全然!あ…ちょっと待っててもらえますか?』  彼女は床に犬を降ろして勢いよく家の中に入って行った。          残された犬はしっぽをふりふりとさせて耳を後ろに倒しながら僕の足元へと歩いてきた。                    『可愛いなぁ』     しゃがみこんで頭を撫でてやると足をかたかたといわせながら忙しく動き回っていた。

    2008-11-27 23:12:00
  • 5:

    『寒いんかー』     犬を抱き上げたのと同じタイミングでドアが開いた。『あのっ!これ…』   彼女は白い息を吐きながら段ボールを抱えて家から出てきた。        『実家からの贈り物なんですけど私1人じゃ食べきれないんで良かったら…』 少し不安そうな顔をして段ボールの中身を見せてくれた。                      段ボールの中には野菜が何種類かと冷凍されたお肉が入っていた。      『これ…良いんすか?』 犬を降ろして段ボールを受け取る。                    『全然いいですよ!』  彼女に軽く頭を下げてお礼をすると彼女は満足そうな顔をした。

    2008-11-28 03:03:00
  • 6:

    『あ!寒いんで中入ってください!こんな時間にすいませんでした…』    上着も薄い物を着ている彼女に気付いて慌てて頭を下げる。         『そんな事ないですよ?でも時間も時間なんで失礼しますね』        彼女は犬を抱き締めて家の中に入っていった。               僕は段ボールを抱えたまま少しの間ぼーっとしていた

    2008-11-28 03:12:00
  • 7:

    通り風の冷たさに気付いて家の中へと入った。   段ボールはまだほんのりと暖かくて家の中に入った後も少しの間腕に抱いたままだった。                    大人になってから初めてこんな気持ちになった。今までは仕事しか生きる理由が無かった自分の前に大切な人が出来た瞬間だった。             『一目惚れ…かな?』  何だか不思議な感覚で段ボールを床に置いてベッドの中に入った。      でも1つ気になる事がある            『一緒にいてた人…』  普通なら全く気にもならないんだけどすごい気になっている自分がいた。               “さくら”       壁ごしに彼女の声が聞こえた。多分さっきの犬の名前なんだろう。      隣同士だと壁ごしに声も聞こえてしまうようで、僕はテレビの音を下げてテレビを見た。

    2008-11-28 03:24:00
  • 8:

    そのままベッドで寝てしまっていたみたいで、起きるとテレビのタイマーも切れて真っ暗な画面になっていた。          彼女に貰ったお肉も冷蔵庫に入れ忘れていて慌ててベッドから立ち上がった。             隣では何か声が聞こえた。            『夏海まだ?』     『待って下さい』    『敬語はいいって』   はっきりと聞こえた。  男の人の声が。     きっと昨日の人なんだろう            ばたばたと慌しく動き回る音と、たまに聞こえる男の人の声。        『んじゃさくら行くね』             ガチャっという音と、昨日のカタカタという靴の音。男の人の笑い声を聞いて僕は朝から最低な気分になっていた。        『あー…だる』     最低な気分のままベランダへと出て煙草に火をつける。           『人の話声聞いてる俺もどーなんかな…』     聞こえるからとはいえあまり良い気分じゃ無かった。

    2008-11-28 03:33:00
  • 9:

    煙草を吸っていて、ふと風でひらひらと動く彼女の洗濯物に気がついた。   風は彼女の家の方向に向いていて、慌てて煙草を消した。          『やば!煙いっちゃった』そのまま中途半端に吸った煙草を家の中の灰皿に落としてカーテンを前回にする。                       やっぱり冬なだけあって部屋の中も冷えきっている。僕の気持ちとは裏腹に外の天気は晴れていた。               昼から仕事で、まだ時間があったので昨日彼女にもらった野菜でうどんを作る事にした。

    2008-11-28 03:40:00
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