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白い花、黒い太陽。
-
1:
◆nlPKxJ.N7k
憎しみー――
あたしは復讐の為だけに 生きていく…
2009-01-26 01:42:00 -
2:
◆nlPKxJ.N7k
どうしてあたしは生きているんだろう。 何の為? 誰の為に?
やっぱりあの日、あたしも一緒に死ぬべきだったのかもしれない。…そうすれば―
あなたを苦しめないですんだのに。2009-01-26 01:48:00 -
3:
◆nlPKxJ.N7k
【白い花、黒い太陽。】2009-01-26 01:49:00 -
4:
◆nlPKxJ.N7k
痛い…痛いよ……
やめて・・・・
「あんたなんかっ……あんたなんか死ねばいい!生まれてこなかったら…良かったのに!!!」
痛いよ・・・・ やめて…お母さん・・・・2009-01-26 01:54:00 -
5:
◆nlPKxJ.N7k
ごめんなさい…ごめんなさい……許してお母さん… 「お前のせいで・・・お前のせいでぇぇっっ!!」
苦しいっ……
ごめんなさい…ごめんなさい……
殺さないで・・・・・2009-01-26 02:08:00 -
7:
◆nlPKxJ.N7k
ワンワンワン!! ―― … 真っ黒な天井が、視界に映り込む。部屋の中は真っ暗。
夢……?
「あー…リオン…ごめんごめん…ご飯の時間だね。」ベッドに上がり、あたしの頬をペロペロと舐める愛犬のリオンは、尻尾を振り 物欲しそうにあたしを見つめているー。2009-01-26 02:33:00 -
8:
◆nlPKxJ.N7k
手探りに枕元の携帯を手に取り、ディスプレイを見ると時間は夜11時。…夕方から気付いたら寝てしまっていたみたいだった。
「ごめんねリオン…すぐご飯あげるからね。」
受信されたメールボックスを開きながら、あたしは重たい腰をあげる。リオンはあたしの膝のうえに乗り、嬉しそうにしていた。2009-01-26 02:42:00 -
9:
◆nlPKxJ.N7k
―すぐにリオンにご飯をあげて、あたしも冷蔵庫から買い溜めしてあるミネラルウォーターを一本取ると…再びベッドに腰掛けて携帯を手に取った。
「あー……もしもし?」 相手が電話に出たことを確認して、あたしはミネラルウォーターから口を離す。「いや…ごめん寝てた。 うん、今から?んー…分かった。ん、また着いたら電話する。」
電話を切り、あたしは再び重たい腰をあげて用意を始める。顔を洗って、念入りにメイクをして髪を巻く。一時間ほどで用意が終わった。2009-01-26 03:00:00 -
10:
◆nlPKxJ.N7k
満腹になってうとうとし始めたリオンの頭を撫でて、電気を消して家を出る。あらかじめ呼んでおいたタクシーに乗り込み、行き先を告げる…。
「今日は冷え込みますねぇ。雪でも降るかもねぇ。」タクシーの運転手に言われて窓の方をちらっと見る。…―本当に今日は寒い。暖房で結露して、窓は白く曇っていた。2009-01-26 04:10:00 -
11:
◆nlPKxJ.N7k
「お釣りいいです、…ズッありがとう。」運転手さんにお礼を告げて、タクシーを降りる。
見慣れた街並み… こんな寒い日でも、この街はいつもと変わらず眠る事を知らない。夜を生きる人々で溢れ返っている。
「あーもしもし?…ズッ、んー、もう着いたよ…。うん了解。」
冷たい風が白い息をかき消す中、歩き慣れた道を進む。電光看板がキラキラと光るフロアに入ると見慣れた顔ぶれがこちらに視線を向けた―。2009-01-26 04:19:00 -
12:
◆nlPKxJ.N7k
「花梨っ!こっちこっち!久しぶりじゃーん!!」 フロアの奥から名前を呼ぶ声が聞こえて、あたしも人込みをすり抜けそっちへ迎う。
「リカ…久しぶり!あー、外ヤバイくらい寒かったよ。体解凍されるー…。」 あたしは椅子に座ると、すぐさまカバンからタバコを取り出した。
カチンッ―― …口に加えた瞬間に、あたしの目の前に揺れる炎。聞き慣れたジッポの音に、誰だか分かりながらもあたしも顔をあげる―。2009-01-26 04:32:00 -
13:
◆nlPKxJ.N7k
「あっそ、相変わらず冷めてるね、君は。」 伊織は呆れたように笑うと自分もポケットからタバコを取り出し、吸い始めた。「別に・・本当のことじゃん……ズッッ…」
「何?風邪ひいてんの?」
風邪…?そういえばなんか頭が痛いような。鼻水が止まらないような…。 「お前、寝るときいっつも薄着だからだろ。ちゃんとあったかい格好して寝ろよ。」
伊織は、笑顔であたしの頭をポンポンとすると、そのまま仲間に呼ばれてフロアに踊りに行ってしまった。2009-01-26 04:57:00 -
14:
「やっさしぃ。やっぱり…伊織くん目立つよねー!!一緒に住んでたなんて花梨羨まし過ぎるよ♪」 アルコールのせいで耳まで真っ赤になったリカが、あたしの隣に来て言う。
……。
「昔の話だよ・・・。」
あたしは少し考えてから、そう答えた。そう、そんなのずっと昔の話…。 ―伊織とあたしの過去は、周りが思っているほどいいもんじゃない。―" " "09/01/26 05:052009-01-26 05:05:00 -
15:
◆nlPKxJ.N7k
「花梨!久しぶりなんだからうちらもはっちゃけよーよっ!あっちにみんないるしさ♪」
ハイテンションなリカが、フロアを指差す。脳の奥にまで響いてきそうな重低音にー…みんなギラギラと光る光の中で身をまかせ踊っている。
あたしもリカに連れられ、フロアの真ん中に行く。
―――…この瞬間は全て忘れられる。 あたしには時間がない。2009-01-26 05:15:00 -
16:
◆nlPKxJ.N7k
「花梨……お前さえ生まれてこなければ・・・」
お母さん… お母さんはカリンのことがキライ……?
2009-01-26 05:22:00 -
17:
◆nlPKxJ.N7k
「ごめんね……花梨…」
いや・・・苦しいよ!! 殺さないでっ……!! やめて…やめて…やめて…
「あんたを愛せなくて…ごめんね……」
お母さん・・どうして??熱い・・!!熱いよ・・・2009-01-26 05:27:00 -
18:
◆nlPKxJ.N7k
お母さ…ん……
2009-01-26 05:28:00 -
19:
◆nlPKxJ.N7k
2009-01-26 05:29:00 -
20:
◆nlPKxJ.N7k
「花梨―――――!!!」
暖かい手―…。これは誰の手だろう・・? 「花梨っ―!!おいしっかりしろ…!!大丈夫か!!」
…2009-01-26 05:32:00 -
21:
◆nlPKxJ.N7k
体が熱い・・ 頭がボーっとする―……2009-01-26 05:33:00 -
22:
◆nlPKxJ.N7k
「…目、覚めたか?」
聞き慣れた声。低くて、懐かしい。昔聞いた誰かの声に良く似てる―。 「……伊…織?あたし…」視界に映ったのは、自分の部屋。あたしの足元ですやすやと眠るリオン…。
ベッドの脇には心配そうに覗き込む伊織の姿。2009-01-26 05:56:00 -
23:
◆nlPKxJ.N7k
「お前なぁー…熱あんなら夜遊びなんかすんなよな!フロアの真ん中で急にぶっ倒れるし・・仕方ないから抜けてタクシーで連れて帰ってきたよ……。」
うそ…熱…?あーそういえばかなり頭が熱い・・。 「迷惑かけたね、ごめん」ベッドから起き上がる体力もなく、あたしは視線だけを伊織に向けた。
「いや…そんなんはいいけど。お前、あんま無理すんなよ。体だってまだ―…」「…」2009-01-26 06:01:00 -
24:
◆nlPKxJ.N7k
伊織は言葉を詰まらす。 「これ、着替えさせてくれたんだ……。」 着ていった服は綺麗に畳まれ、あたしはベッドの上に置いて出ていったパジャマを着ていた。
「あ、ああ・・汗だくだったし、あのままじゃマズいだろ?別に今更お前の裸見ても何にも思わねーし。」伊織はそっけなく目を逸らした。でも、口調はとても優しい―…。
「はは、嫌なもん見せてごめんね。」 あたしは出来るだけ笑って伊織に言った。2009-01-26 06:08:00 -
25:
◆nlPKxJ.N7k
「…別に、そんな事ねーよ。裸見られて襲われなくて良かったな。」
伊織も、あの意地悪な笑顔でそう言った。
あたしが伝えたい事を、彼はちゃんと分かってる… 裸なんてどーだっていい。ただ、【あれ】を見たことで伊織にもまた思い出させてしまった気がして・・
思い出したくない。消し去りたい過去…あの日の事。伊織は全てを知る、ただ唯一の人間だから―。2009-01-26 06:22:00 -
26:
名無しさん
書いて?
2009-01-27 02:16:00 -
27:
◆nlPKxJ.N7k
ありがとうございます☆頑張ります
2009-01-28 04:55:00 -
28:
◆nlPKxJ.N7k
忘れる事が出来ない。
あたしは、消し去りたい。自分の過去を、自分自身を―――
…2009-01-28 04:57:00 -
29:
◆nlPKxJ.N7k
あたしには、生まれた時から父親がいない。いや、正確には―― いなくなったのかも知れない。
…あの事件の日に。
2009-01-28 05:01:00 -
30:
◆nlPKxJ.N7k
「お母さん、お母さん!!今日運動会でねっ―カリンかけっこで一番だったんだよ!!一番!」 「…」
「ねぇ♪お母さっ――」
ガシャンッ―――
「お母さん・・?」2009-01-28 05:05:00 -
31:
◆nlPKxJ.N7k
「……静かにしなさい。」
「え…?でもね、カリンねっ…あっほら!これ一番の金メダルなんだよ!!」
バシッ―――
「――――静かにしろって言ってるでしょっ!!!」2009-01-28 05:07:00 -
32:
◆nlPKxJ.N7k
幼稚園の運動会。頑張ってリレーで一番になった。 お母さん仕事で運動会には来てもらえなかったから、少しでも喜んでもらえるように頑張ったんだ…。
一番だよ…?
金メダルもらえたんだよ…
お母さん喜んでくれないの?2009-01-28 05:10:00 -
33:
◆nlPKxJ.N7k
弾かれた手の衝撃で、メダルはテーブルの下に飛んでいった。
「………。」
「なによ…その目は・・ あぁ、やだ。あの人にそっくり・・。お前もあたしを裏切るんだろ・・・?」
「……え、お母さん―…」
ガンッ――!!!
「・・・…いたっ」2009-01-28 05:15:00 -
34:
◆nlPKxJ.N7k
「痛いよっ…お母さん…やめて!?痛いッ!!!」 ガンッ――ガンッ――― テーブルに思い切り打ち付けられる頭。母の手は止まらない。
「お前なんか……っ、お前がいるせいで・・っ!」
「痛いッ…痛いッ―痛い―」
おでこからは血が出て、床にポタリポタリと落ちていた。何がなんだか分からなかった。
あたしが一体、何をしたのだろう……2009-01-28 05:20:00 -
35:
◆nlPKxJ.N7k
あたしはひたすら我慢していた。泣いたらまた怒られる。叫んだら、また叩かれるだけだ・・。
母の目は、もうあたしを見ていない――…。
2009-01-28 05:22:00 -
36:
◆nlPKxJ.N7k
「あんたがいるからっ……あんたのせいで…・・あたしは………」
お母さん…
――じゃあ、どうして あたしを生んだの――?2009-01-28 06:53:00 -
37:
◆nlPKxJ.N7k
あたし、
生まれてきたくなかったよ…―――
2009-01-28 06:55:00 -
38:
◆nlPKxJ.N7k
これを、―【虐待】だと気付いたのは―まだずっと後の事だった。母からの暴力は、あたしが小学生になっても続いた。
仕事から帰れば、酒に酔い潰れ…あたしを罵倒して手をあげる。この頃はもう、ご飯なんか作ってもらった事なんてない。朝起きたらテーブルの上に置かれている千円札を握りしめ、学校帰りにコンビニに向かう。2009-01-28 07:00:00 -
39:
◆nlPKxJ.N7k
母の仕事が休みの日は家に帰るのが嫌で…友達と寄り道をしたりした。学校で会える少ない友達が、あたしの唯一の希望だった―。
家に近づくとランドセルと足が一気に重く感じる…
「カリンちゃん♪今度、カリンちゃん家に遊びに行ってもいーい?」
一緒に下校していた麻由ちゃんが、あたしに尋ねる。麻由ちゃんの家には三度ほど遊びに行った事がある。大きな家に大きくて毛並みの綺麗な犬がいて…、優しいお母さんがいた。2009-01-28 07:07:00 -
40:
◆nlPKxJ.N7k
「うん……また今度遊びに来てね!!」
「ホント?やったぁ♪じゃあ約束ねっ♪」
約束・・ お母さんが仕事の日なら怒られないかな?大丈夫だよね……
あたしは笑顔で麻由ちゃんに返事をした。麻由ちゃんには知られたくなかった。あたしも、みんなと同じように…普通の環境でいたい。2009-01-28 07:13:00 -
41:
◆nlPKxJ.N7k
「―花梨…?」 「お母さん……!!」 家の前まで行くと、ちょうど仕事から帰ってきたお母さんがいた…。
「カリンちゃんのお母さん!こんにちわ!」 「こんにちは…。確か…麻由ちゃんだったわね?」
あたしの隣で元気良く挨拶する麻由ちゃん。あたしは…下を見て俯いたまま。2009-01-28 07:18:00 -
42:
◆nlPKxJ.N7k
「はい♪カリンちゃんとは同じクラスなんです!」 麻由ちゃんはニコニコと、お母さんの質問に答える。「今日は…学校終わるの遅かったの?いつも帰りはこんなに遅いの…?」 「今日は、帰りに商店街に寄ってたんです!カリンちゃんとよく行く駄菓子屋さんがあるから♪」
その後も母は麻由ちゃんに色々と問いただしていて、あたしは、母が時々こっちを睨むように見ているのを感じて足元を見つめたまま震えが止まらなかった…。2009-01-29 07:44:00 -
43:
◆nlPKxJ.N7k
バシンッ―――
「・・・ごめんなさい」
「……学校が終わったら真っ直ぐ帰るように言ったでしょ?あんた…いつも寄り道してたんだって?」2009-01-29 07:46:00 -
44:
◆nlPKxJ.N7k
「……カリン、麻由ちゃんとお菓子屋さんに行っただけだよ…?」 弾かれた頬が、ヒリヒリして手で押さえた。 「・・・」
「……家に遊びに?誰がそんな事いいって言った?」
「お母…さん……カリンは、友達とも遊んだらいけないの……―?」2009-01-29 07:55:00 -
45:
◆nlPKxJ.N7k
お母さんは、麻由ちゃんに言った――《ごめんね、麻由ちゃん。この子は麻由ちゃんの事好きじゃないみたいだから、もう明日から遊ばないでもらえる・・?》
麻由ちゃんは、一瞬ビックリしたような顔をした後―目に涙を溜めて…走っていってしまった。
どうして……―?2009-01-29 08:06:00 -
46:
◆nlPKxJ.N7k
「…お母さん……お母さんはカリンの事がキライなの………??」 涙が零れた。握った拳を奮わせながら…。泣いたらダメって分かってた…―。だけど、悲しかった。麻由ちゃんに嫌われた事も、お母さんがこんなにもあたしに冷たい事も―、理由が分からない…
全部悲しかった。
2009-01-29 08:10:00 -
47:
◆nlPKxJ.N7k
ガンッッ――
「…あんたもこの家に帰って来たくないんだろ…?だったら帰って来なくていいよ・・あんたなんかいらない…。消えてくれたらどれだけいいか……。」 ガンッッ――
「………!!」
「消えてよ・・・・」
2009-01-29 08:15:00 -
48:
◆nlPKxJ.N7k
――…
気付いたら、あたしは無我夢中で部屋を飛びだして走ってた。何を言われたか理解出来ないまま、裸足のまま走り続けた。涙なんかとっくに乾いていた―――。
子供ながらに、小さな絶望を感じた瞬間だった…―。
行く宛てもなく着いた先は学校の近くの公園。何時間いただろう・・ 真冬に上着も羽織らず出てきた上に、裸足のまま。手は氷のように冷たく、足先は真っ赤になっていた。2009-01-29 08:20:00 -
49:
◆nlPKxJ.N7k
日も暮れて辺りは真っ暗。何時間待っても、母が現れる事はなかった――…。 分かっていたようで、微かな希望が打ち砕かれる。
寒い……寒い…… 公園の土管の中で、あたしはあまりの寒さに丸まってガタガタと震えていた。
もう限界だ・・・・ あたし…このまま死んじゃうのかな……?2009-01-29 08:24:00 -
50:
◆nlPKxJ.N7k
「…花梨!!…花梨っ!!おいしっかりしろ!!!」温かい手――… 大きな腕があたしを包み込む。
―お母さん・・???
虚ろな目を薄ら明けると、そこには…伊織がいた。 「花梨…?こんなとこで何してんだよ!!お前…なんて格好…靴は!?」 伊織は、鼻とほっぺを真っ赤にして息を切らしている。白い息が、あたしの冷えきった手にかかった。2009-01-29 08:30:00 -
51:
◆nlPKxJ.N7k
「伊織こそ・・・なんでここにいるの?」 伊織はすぐに自分の着ていたコートを脱ぎ、あたしに着せた。
「母さんが、花梨が泣きながら家を飛びだしてったのを見たってゆうからずっと探してたんだよ!!…ってか、お前その顔どうした・・?」
伊織があたしの顔を怪訝な表情で見つめる……。 「・・なんでもない」 あたしは、俯いた。 「なんでもないわけないだろっ!!お前………
「!!!」
無理矢理めくりあげられた袖とスカートからは、無数の青紫色のアザ。2009-01-29 08:37:00 -
52:
◆nlPKxJ.N7k
伊織はしばらく黙ったままそのアザを呆然と見ていた。――伊織に見られてしまった。
「…か、階段から落ちたんだよ!!これ!!痛そうでしょ?でも、見た目ほど痛くないんだ!カリン…馬鹿だから・・・・」
ギュッッ―――
「―…俺が守ってやる。」
2009-01-29 08:42:00 -
53:
◆nlPKxJ.N7k
「…気付いてやれなくてごめんな………」 伊織はあたしを抱き締めながら涙をこぼしていた。 「伊織・・・違う…よ…」
「…何も言わなくていい。もう、大丈夫………。 もう…、大丈夫だから…」「・・・」
あたしは、公園中に響き渡るくらいに大声で泣いた。これでもかってくらい大声で。…――何かの糸が切れたようだった。伊織の優しさ、あったかさが、あたしの凍った心を溶かしてくれる―。2009-01-29 08:55:00 -
54:
◆nlPKxJ.N7k
「お母さん昔はね・・・優しかったんだよ。お弁当も作ってくれたし、お買い物にも連れてってくれた。お父さんがね……いなくなってから変わっちゃったんだ。お母さん…カリンの事キライになったのかな…。」
伊織と手を繋ぎながら家まで帰る途中、あたしは初めて誰かに母の話をした。
「…キライになったわけじゃないと思うよ。お母さんも淋しかったのかもな。 でもな、花梨…それでも花梨に手をあげるのは正しくないよ。間違ってる。これからは、ちゃんと俺が花梨を守ってやるから。」
伊織は、握っているあたしの手を強く握り直した。 嬉しかった・・。伊織がいるからもう、大丈夫・・2009-01-29 09:05:00 -
55:
◆nlPKxJ.N7k
そう、伊織とあたしは幼なじみだった――。
あたしの2つ上の伊織は、家が向かいだったおかげかあたしがもっと小さい時から良く可愛がってくれた。あたしにとったら、伊織はお兄ちゃんみたいな存在…
探しに来てくれるのは、いつも伊織だった。助けにきてくれるのもいつも…―
あの事件の日だって―…。2009-01-29 09:46:00 -
56:
◆nlPKxJ.N7k
母は、父がいなくなってから変わってしまった。もともと父は、仕事が忙しい人だったようであまり家に帰って来なかったけど…週の半分くらいは帰って来ていたと思う。
あたしの事も可愛がってくれていた。だけど、ある日を境に父は急に全く家に帰って来なくなった――。
そう、母に初めて手を挙げられたのもその日だった…
そこからは毎日、母は荒れていた。仕事も行かず酒に溺れて、精神的にも病んでいたのが子供のあたしにでも感じ取れた。2009-01-29 12:54:00 -
57:
◆nlPKxJ.N7k
だからこそ・・・
あたしは、母の支えになりたかった。いい子でいなきゃ、我慢しなきゃ、母を困らせたらダメなんだ――…ってずっと思ってた。
あたしも母も、どこかで道を間違えてしまった。歪んだ愛情が時に【憎しみ】に【狂気】にまで変わる事を――、
あたしはまだ知らない…。2009-01-29 12:59:00 -
58:
◆nlPKxJ.N7k
2009-01-29 13:00:00 -
59:
◆nlPKxJ.N7k
「――熱、だいぶ下がったみたいだな。」2009-01-29 13:01:00 -
60:
◆nlPKxJ.N7k
おでこに冷たい手が触れる――。気持ちいい・・ 「……ごめんね、迷惑かけて。」
だいぶ体が楽になったあたしは、伊織がいる方向に寝返りを打ち彼を見る。
「何言ってんだよ。気にしてないよ…。花梨お前、まだ病院行ってるんだろ?」伊織は、ずれた布団をあたしの体に被せながら聞く。
「うん、検査だけね。十年も前の事だし…もう何ともないんだけどさっ。」
2009-01-29 13:08:00 -
61:
◆nlPKxJ.N7k
「…医者の言い付けなんだから、ちゃんと行けよ。あの人花梨の事、自分の息子より可愛がってんだから。」伊織はあたしを見て、いたずらっぽく笑った。
そう、あたしの係りつけの病院の院長は《伊織のお父さん》だ…。院長には、本当にお世話になっている。十年間ずっと、定期的にあたしの体の検査をしてくれている―。2009-01-29 13:17:00 -
62:
◆nlPKxJ.N7k
体の検査というのは、あの事件での後遺症―……。 十年前に起こった、火事の後遺症の検査だった。 あたしの背中には、背中一面に大きな《火傷の跡》がある―。皮膚移植でもしない限り、一生消える事はないらしい。
この傷を鏡で見るたびに、あたしは鮮明に思い出してしまう… いや、例え傷が無くなったとしても 忘れる事は出来ないのかもしれない。
一生、あたしは闇に捕われたまま生きていくしかないんだ。忘れれるわけない…あの狂気に満ち溢れた実の母親の目を――。2009-01-29 13:37:00 -
63:
名無しさん
書いて。
2009-02-04 08:36:00 -
64:
名無しさん
読んでるよ?
2009-02-04 19:55:00 -
65:
◆nlPKxJ.N7k
ありがとうございます?頑張ります。
2009-02-06 17:06:00 -
66:
◆nlPKxJ.N7k
あれは、そう
あたしの気持ちとは反対に空がとても晴れた日だった――…2009-02-06 17:08:00 -
67:
◆nlPKxJ.N7k
学校では口を聞く友達さえいなくなった。
…あの日の翌日、教室へ入るとすぐに麻由ちゃんの姿が目に入った。「あ…麻由ちゃん、あのねッ……!!!」
謝らなきゃ・・そう思っていたあたしはすぐに麻由ちゃんに駆け寄り口を開いた。だけど―、麻由ちゃんは睨み付けるようにあたしを見たあと…避けるように違う女の子のグループとどこかへ行ってしまった―。
2009-02-06 17:35:00 -
68:
◆nlPKxJ.N7k
「……麻由だって、別に好きで花梨ちゃんと遊んでたわけじゃないし。」
すれ違う時に耳元で言われた麻由ちゃんの声は、とても冷たかった―。
…2009-02-12 13:41:00 -
69:
◆nlPKxJ.N7k
これからは学校でも、一人ぼっち。家に帰っても……考えただけで、涙が溢れそうになるのをグッと堪えてあたしは一人下校した。
家の前に着いて、思わず足がすくむ・・。家の前に停まっている一台の車。 “誰か来てるんだ……” 学校から早く帰って来ると、こうやってたまに母の知り合いか来客が遊びに来ている事があった。
2009-02-12 13:49:00 -
70:
◆nlPKxJ.N7k
帰りたくない・・・
…そう思った理由は、停まっていた車が黒の乗用車だったから―。この車は、最近一番良く見かける車…。母よりもだいぶ年齢のいってそうな男の人が乗っている車…。あたしはこの男の人が苦手だった。
ほとんど会話した事はないけど、何度か家から出てきた時にすれ違った事がある。その時の目付きが・・ 子供ながらになんとも言えない嫌な気持ちになった。子供に対しての……健全な視線じゃない、そんな気がしていた。2009-02-12 14:01:00 -
71:
◆nlPKxJ.N7k
家に入りたくない気持ちを必死に消して、ランドセルの持ち手をキュッと…両手で握り意を決した。 “遅くなったらまたお母さんに怒られる・・・”
「・・ただいま。」
返事は…もちろんない。 だけど、なんだか今日は静かで人の気配がなかった。いつもならたいていリビングでお酒を飲んでいるはず……2009-02-12 14:06:00 -
72:
◆nlPKxJ.N7k
ガタン――… 二階から、聞こえた物音。あたしは自分の部屋がある二階へと上がる。隣には、お母さんの部屋。でも、変だ・・。物音はあたしの部屋からしてる。
ガチャー…
!!!!!2009-02-12 14:14:00 -
73:
◆nlPKxJ.N7k
飛び込んできた光景に言葉が出なかった……。あたしのベッドの上で、まっ裸で寝転ぶ母の上に跨っているあの男・・・・
母は気付かずに、なんだか苦しそうな声をあげている…
「・・・・・」 驚きの余りあたしが呆然としていると男と目が合った。男は、あの嫌悪感わく目付きであたしを見てニヤリ…と笑った。
2009-02-12 14:20:00 -
74:
◆nlPKxJ.N7k
「………・・・花梨っ!?」あたしに気付いた母が、慌てて大声で言った。
「アンタ……何やってるの!!そんなとこで突っ立って・・・…早く出て行きなさいっっ!!!!!」
我に返りあたしは慌てて、部屋を飛びだした―。心臓が変な音を立てていた…。怖い・・嫌だ・・ 気持ち悪い・・・・・・2009-02-12 14:27:00 -
75:
◆nlPKxJ.N7k
あたしの部屋で…… 絶対……わざとだ。家の前ですれ違った時のいやらしい視線。さっきのあの男の不気味な笑顔・・・
恐怖で涙が溢れた。涙が止まらないままあたしは家を飛び出していた――。
2009-02-12 14:31:00 -
76:
◆nlPKxJ.N7k
どうして…ねぇどうして…
友達には嫌われ、実の母親からは暴力をふるわれ脅えて過ごすだけの毎日… 見知らぬ男からのいやらしい視線。それに鉢合わせて母からは“出ていけ”…
アザだらけの手足に痩せきった体。切れた唇… あたしが悪いの?あたしがいけないの?
あたしは何処にいけばいい・・・・…?2009-02-12 15:07:00 -
77:
◆nlPKxJ.N7k
「・・・花梨っ!??…どうした!!?」 あたしは家から伊織が出てきた瞬間に、泣きながら伊織にしがみついていた。 あたしには…もう居場所なんてない。
「……伊…織、カリンはどうして………生まれてきたんだろう―………」
2009-02-12 15:11:00 -
78:
◆nlPKxJ.N7k
生きていてもいい事なんて一つもないよ…。一体あたしは何の為にここにいるんだろうね―……?
伊織は、わんわんと泣きじゃくるあたしを強く抱き締め黙り込んだまま、何も言わなかった。伊織の腕の中はとてもあったかくて、幼いあたしはもう伊織以外誰にも―…救いの手を求める事ができなかったのかもしれない。
2009-02-12 15:22:00 -
79:
◆nlPKxJ.N7k
―そう、
あたしが母の顔を最後に見た日…。それはとてもとても空の青い日だったんだ。
2009-02-12 15:25:00 -
80:
◆nlPKxJ.N7k
夜になり、母が伊織の家に迎えにきた…。家の前にはあの男の車はもう停まっていなかった―。 あたしは少しだけ安心したけど、家に帰って母にまた怒られると思ったら…渇いていた涙がまた溢れそうになった。震える手で、思わず隣にいた伊織の袖をキュッ‐…と掴む。
伊織は小さな声で呟やいた。
「……大丈夫だから。」
2009-02-12 15:51:00 -
81:
◆nlPKxJ.N7k
その言葉にあたしが伊織の方を見上げると、伊織の目は怒りと悲しみが混じったような…― でも、とても真剣な眼差しだった。
“大丈夫・・・あたしには伊織が味方なんだ・・・”
あたしは小さく頷き返すと、伊織の袖をゆっくりと離し母の後を追い自分の家へと入っていった。 伊織は、その光景をただじっと―……見つめていた。
2009-02-12 15:58:00 -
82:
◆nlPKxJ.N7k
―
その日は久しぶりに、あたしの4歳の誕生日に家族3人で遊園地に行った日の夢を見た。忙しい仕事の休みを取ってくれたお父さん、いワンピースを着て幸せそうに笑うお母さん。 二人の間に挟まれて笑顔でソフトクリームを食べてるあたし……。みんなニコニコしてて本当に幸せそう。
ううん、本当に幸せだった―…。
2009-02-12 16:10:00 -
83:
◆nlPKxJ.N7k
“花梨、お誕生日おめでとう!!”
“お父さん!お母さん! ありがとうっ!!!”
2009-02-12 16:15:00 -
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◆nlPKxJ.N7k
……お父さん、
…お母さん……………
2009-02-12 18:58:00 -
85:
◆nlPKxJ.N7k
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パチ………パチパチッ…2009-02-12 18:59:00 -
86:
◆nlPKxJ.N7k
・・・・――え? 何の音・・・・? 「…………うッ!!ケホッケホッ…」
――――咄嗟に目が覚めたあたしは驚いた。部屋全体もくもくとした黒い煙……パチパチという何かが燃える音・・・・・
火事だ……!!!!!!!2009-02-12 19:04:00 -
87:
◆nlPKxJ.N7k
血の気が引き・・・頭がパニックになっていく……―慌てて部屋のドアを開けると、一階はすでに火の海だった・・・・。
「……お母さんっ!!……お母さぁぁんっっ!!!」恐怖で足が動かなくて、あたしは必死に叫んだ…。
「………花梨っ…!!!!」
あたしが泣き叫んでいると、フラフラになりながら母が部屋に入ってきた。顔も服も煤だらけで、目は真っ赤になっていた……。 「……お母さんっ!!!!」恐怖と安心から……あたしは泣きじゃくりながら、必死に母に抱きついた。2009-02-12 19:11:00 -
88:
◆nlPKxJ.N7k
「………ッく…お母さん!!早くお家出なきゃ……っ焼けちゃうよ!!!」 あたしは泣きながら、強く母の袖を掴んだ……。 「………」
母は黙ったまま、あたしを抱き締めている。母に抱き締めてもらうのなんて、何年ぶりだろう―…。あたしはこんな状況なのに、すごく嬉しかった。
「…お母さん・・・・?どうして泣いてるの‥…?」
2009-02-12 19:17:00 -
89:
◆nlPKxJ.N7k
母の目から、涙が零れる。「……花梨…ごめんね……」弱々しく呟いた母。煙はどんどん部屋中を支配していって、お互いの姿がはっきりと見えなくなる……―。「・・・お母さん……熱いよ…っ…体が痛い・・・苦しい…………よ…っ」
母は、それでも黙ったまま強い力であたしを抱き締める―――…。どうして逃げないの……?ねぇ…苦しい苦しいよ…お母さ……ん…
2009-02-12 19:23:00 -
90:
◆nlPKxJ.N7k
「……花梨……あんたを愛せなくて…ごめんね……」
そう力なく言った母は、そのままあたしを抱き締める形で倒れ込んだ――。 「…お母さ・・・ん…?」 嫌だ・・・痛い・・痛いよ怖い・・怖い……!! 殺さないで・・・・・
2009-02-12 19:29:00 -
91:
◆nlPKxJ.N7k
あたしを抱え込んだまま動こうとしない母。――…いや、もう動けなかったのかも知れない。一階からあたしの部屋に来るまでに、きっと大量の煙を吸い込んだはずだから………・・
母に覆い被されたまま、あたしは涙を流しながらボーっと天井を見ていた―……。
ねぇ、神様……あたしこのまま死んじゃうのかな?
2009-02-12 19:36:00 -
92:
◆nlPKxJ.N7k
「……りんーっっっ!!!花梨ーーーっっ!!!!!!!」
―――…はっと我に返り、消えかかりそうだった意識が戻る。
…聞き慣れた声・・・・・あの声は・・・・ 「……い……おり?」 確かに、遠くで伊織の声が聞こえる…… 「……いおり…どこ…?」
「……花梨ーーーっ!!!ッゴホゴホッ…ッ…花梨ーーっっ!!下だ!!!…窓の下見ろーーー!!」
窓のした……確かにそう聞こえた伊織の声・・……2009-02-12 19:45:00 -
93:
◆nlPKxJ.N7k
「……ゴホッッゴホッッ……」 力が入らなくなった母の体をすり抜け、這うように窓に近づく……。煙と涙で視界はもうグチャグチャで、でも無我夢中で窓の場所を探した……。
「……花梨ーっ!!!!」 手探りで窓を開けて下を見ると、想像よりも遥かに黒い煙の中に煤だらけの伊織の姿が・・・リビングからは火が燃え上がっていた。「………いお…伊織ぃぃ……ゴホゴホッッ……」
あたしは、伊織の姿が目に入った瞬間に泣き叫んだ。
2009-02-12 19:52:00 -
94:
◆nlPKxJ.N7k
「……花梨、大丈夫だ!!落ち着いて良く聞けっ!!今すぐそこから飛び降りろ!!!」
伊織は下から叫ぶ……。遠くからは消防車のサイレンがけたたましく鳴り響いてるのが聞こえる・・・ 飛び降り…る………?ここ二階だよ………・・?? 「……怖い・・・・飛び降りるなん…て……そんなの無理だよ…ッ……ゴホッッ…」あたしは泣きながら、伊織に叫び返す。叫んでるつもりだけど…煙の吸いすぎて声はほとんど出てない。
苦しい……苦しい・・助けて・・…ッ…怖い…怖いよ・・・・2009-02-12 19:59:00 -
95:
◆nlPKxJ.N7k
「大丈夫だ!!!花梨っ!俺を信じろ!!!絶対っ俺が受け止めてやるからっ――!!」
伊織は、真剣な目で大きく両手を広げている…。あたしの大好きなあの両手を―――………
「…………伊織…お母さんが……お母さんが……!!ゴホゴホッッ………」 あたしは部屋を振り返り、倒れこんでいる母を見る…。お母さんを残してはいけない……2009-02-12 20:06:00 -
96:
◆nlPKxJ.N7k
「……―花梨、大丈夫だから!!大丈夫だからっっ!!俺を信じろっ!!!」
伊織の真剣な眼差しを見たまま、あたしは………・・「……………」
!!!!!!!!!! ガシッッッッッ――――……!
2009-02-12 20:11:00 -
97:
◆nlPKxJ.N7k
「伊織……!伊織ぃぃ…!」「……花梨、大丈夫か!?とりあえず離れるぞっ!!早く来いっ―――!!!」
2009-02-12 20:13:00 -
98:
◆nlPKxJ.N7k
あたしは、母を置き去りにしたまま――………伊織に体を支えられ、すぐさま丁度辿り着いた救急車へと乗せられ病院へと搬送れた。
窓を探す際に燃えた本棚が背中に倒れこんできた為に、あたしは背中に大火傷を負った…。
―――消防隊員が駆け付け救助に向かった時には、すでに母は、息を引き取っていたそうだ。
2009-02-12 20:21:00 -
99:
◆nlPKxJ.N7k
「花梨ちゃん……花梨ちゃんさえ良かったら…家で暮らさないか?」
そう優しく微笑んでくれたのは、病院の院長でもある伊織の“お父さん”だ。伊織とは幼なじみだから…おじさんにももっと小さい頃から良く可愛がってもらっていた。
だけど、さすがに住まわせてもらうなんて―…そんな迷惑はかけれない。2009-02-12 20:29:00 -
100:
名無しさん
あげ☆
2009-02-14 19:47:00 -
101:
名無しさん
な
2010-10-01 00:22:00