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『あの夏を もう一度』
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1:
◆/fmXna4sZY
耳をすませば 今も聞こえてくる
あの日の 波の音
指の隙間から 零れ落ちる砂のように…
いつか、消えてしまうの?2006-05-22 04:35:00 -
6:
◆/fmXna4sZY
圭吾とは、友人を通じて学生の頃に知り合い、お互いに一目惚れをした。共通の音楽の趣味もあり、「なぁ…一緒にイベントに行かない?」彼のその一言で、あたし達は始まった―― 三年間の月日は、思い返せばあっという間で、彼の前で一度も涙を見せなかったあたしは《強い女》
そうレッテルを貼られ、こうして幕を閉ざれる‥
『…なぁーにが、幸せになれるよ。あたしの三年間を返せっつーの。はぁ…』
もうすぐまた【夏】がやってくる。一枚一枚服が薄くなる度に、ムキだしになりそうで嫌なこの季節――…2006-05-22 12:13:00 -
7:
◆/fmXna4sZY
今日で、あれから一ヵ月が経つ。意外と早くに立ち直れたあたしは、やっぱり 《強い女》…なのかな。
カンカンカン―― マンションの階段をゆっくりと登る。 ‥と、駐車場に目についた一台の車。『…また、かぁ……』状況を察して、ノブを回す前に、廊下を引き戻しかけた。
カチャ――「…いづみ?どうしたのよ?何処行くの?」『あ、ただいま…』
開いたドアからは、やっぱりタバコの匂い。うちは、禁煙なのに――…
「入りなさいよ。あんたの好きな【ra・mand】のケーキ持ってきてくださってるのよぉ。」2006-05-22 12:26:00 -
8:
◆/fmXna4sZY
『……いいよ』
「へんな子ね。なに遠慮してるの?あんたの家なのに。」
『…あたしの家じゃないよ。ママと、お金出してくれてるあの人の家でしょ。』「…ちょ、いづみ!」
カンカンカン――― ママとパパが離婚してから、約3年が経つ。仲が良くて有名だったうちの家族は、パパが背負った借金が原因で‥ ぐちゃぐちゃになった。
3年前、全てが信じれなくなっていた頃、圭吾に出会ってあたしは救われたんだ2006-05-22 12:40:00 -
9:
◆/fmXna4sZY
パパと離婚して、半年前、年下の彼氏が出来たママは、当時よりだいぶ若返った。パパと離婚した当時は、本当に、一気に老け込んでしまった気がしてたから‥
ママの新しい恋人は、家に来る度にいつも、あたしのお気に入りの駅前のケーキ屋さんでケーキを買ってきてくれる。
でも、そんなもん 欲しくない。2006-05-22 12:49:00 -
10:
◆/fmXna4sZY
から… お金が欲しい。 お金があったら、家を出れるのに。あたしが、あの場所にいなくてすむのに。
風俗でも、いこうかな…
「…あっ、泉ちゃぁ〜ん。こっちこっち!何してんの?こっちおいでよ〜!」 『あれ?伊織…』2006-05-22 12:57:00 -
11:
◆/fmXna4sZY
「あはっ、久々じゃん〜。こんなとこでなぁにしてんの!?」『いや…それは、こっちのセリフ。あんたこっち戻ってきてたの?』 「ん…一週間前にねっ。」
【伊織】は、学生の頃、同じサークルだった男友達。天真爛漫な性格で、男が苦手だったあたしでも、自然と仲良くなれた。だけど、大学を卒業する間際で、急に引っ越していった。居場所も分からない。連絡も取れないまま、約二年。
こんなトコでまた再会するなんて…
『あんた…一体何処にいたの?急にいなくなってみんなすっごく心配してたよ』2006-05-22 13:08:00 -
12:
◆/fmXna4sZY
本当に、あたしも圭吾も、心配してたのに…
「あはっ、ごめんなぁ。ちょっと家の事情で一人フラリ旅ぃ〜みたぃな。」
『は…?フラリ旅?』 「っつーのは、冗談でぇ。…笑 女のケツ追っ掛けてた。で、フラれてシッポまいて帰ってきたってわけ。俺ってカッコ悪りぃ〜。」
・・・なんだそりゃ。女?そんな話、全く知らなかったし…。
「そういや泉、お前、圭吾とはうまくいってんのっ?アイツ元気〜?」2006-05-22 13:24:00 -
13:
◆/fmXna4sZY
『…圭吾とは…別れたよ』「へっ? ……マジで?言ってんの?いつ?」
『一ヵ月前。他に好きな子が出来たんだってさ。』 「マジか…よ、アイツ…」『ははっ、もう立ち直ってるから大丈夫!今も、普通に友達だしね。番号変わってないから圭吾に連絡してあげてよ。伊織の事、だいぶ心配してたから』
「……おう。あ、泉の番号も教えてよ。俺、携帯変わってるから。」
『アンタ…もうブッチとかしないでよね?それなら、いいよ。教えても。』
「ははっ、大丈夫ぅ〜。もう、ずっとこっちにいるつもりだから。泉ちゃんっ、これからもよろしくね♪」2006-05-22 13:38:00 -
14:
◆/fmXna4sZY
『調子いいやつっ……』
圭吾、良かったね?伊織、戻って来てたよ。アンタが自分を責めてきた日々が、やっと報われるね――…
2006-05-22 13:44:00 -
15:
◆/fmXna4sZY
伊織と別れて、あたしは一人、海に来ていた。まだ、季節は5月… 夏が近づいてるといっても、海に人は少ない。
ザザン… だけど、この時期の海を見るのが一番落ち着く。もうすぐやってくる季節を目前に、それを待つように波は優しく、行ったり来たりする。
だけど今日は、潮の香りになんだか切なくなった…2006-05-22 13:54:00