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心ノ奥深ク。

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  • 1:

    名無しさん

    『痛い。見てくれんかな』右手の人差し指をこちらへと差し出し、眉間に皺を寄せて私の瞳を真直ぐ見つめてくる。        『また何ですか』    『指に何か刺さった』  彼の言う通りに人差し指へ視線を向けてみるものの、血が出ている訳でも、何かが刺さっている様に見える訳でも無い。      『虫眼鏡、あります?』 『あるはあるけど…眼鏡の上からまた眼鏡か?』  『虫眼鏡です』     子供のような事を口にする上司の指先へと視線を送ったまま、上司が机の引き出しから取り出した虫眼鏡を受け取る。       『若いのに難儀やなぁ』 『黙ってて下さい』               ああ言えばこう言う。  文句を言えば百倍返し。 我儘は日常茶飯事。               それでも私は彼を慕う。

    2010-01-27 02:46:00
  • 2:

    名無しさん

    『あ、言うの忘れとったけど僕明日休むから』   『はい?』       虫眼鏡を目の前で上下させていた手を止め、視線を彼へと戻す。       『どうしても外せん用事が出来たんや。君なら一人でも大丈夫やろ。少なくとも僕はそう思ってる』   全く無責任な事を言う。 この会社は、会社と言うのにも小さ過ぎる程の規模。従業員は社長兼上司である本庄巧(ホンジョウ タクミ)と、その秘書である私、緒方奈緒(オガタ ナオ)の二人だけ。              『またゴルフでも?』   『君には関係無い』               少しの嫌味を口にしたつもりだったのにそんな風に真顔で一掃されると腹が立ってくる。関係が無い訳が無いだろう。       社長が居ない間は誰が切り盛りすると思っているのだろうか。

    2010-01-27 02:59:00
  • 3:

    名無しさん

    わかりにくい

    2010-01-27 10:39:00
  • 4:

    名無しさん


    『やる事なら何時ものとこに山程ある。手前のんから片付けてってくれなぁ』 『…………』                  机上に新聞紙を開き、右手が使えない状態にも関わらず器用に新聞を読み続ける。わざわざ腰を曲げてまで彼の指先を眺めている事も馬鹿らしく思えてきた頃。            『あ、』        『何や?』                   透明とも言える小さな針の様なものが刺さっている。これが痛みの犯人であるのだろうが、何やら見覚えがある気もする。                 『何触りました?』   『サボテン』                  どうやら窓辺に置かれたサボテンの針が刺さってしまったらしい。      今迄だって何度か同じ様な出来事を起こしたはずなのにどうしてまたこうなってしまうのだろうか。

    2010-01-27 12:56:00
  • 5:

    名無しさん


    『触らないで下さいねと前回もご注意したはずですけれど?』        『見るな言われれば見たくなるし、触るな言われれば触りたくなる。人間の性やろ』                      腹を立てる事も忘れて針を抜く事に集中する。   こちらの目が悪い事だって良く知っているだろうに。            『にしても君勿体ないな』『何がです』      『眼鏡。コンタクトにせんの?僕何回か君泣かした事あるから眼鏡外してるとこも見た事あるけどべっぴんさんやろ』                   親父になど言われたくは無い。それにそんな古傷を何の躊躇いも無く口にする上司を恨みたくなる。

    2010-01-27 13:07:00
  • 6:

    名無しさん


    『地味な人間で結構です』『あ、痛い』                  針を抜き終わり、即座に上司から離れる。     老眼鏡をかけたまま指先を見つめ、眉間に皺を寄せている。                     『とにかくあれは触らないで下さい。私が居なくなれば誰がそれを抜く事になるんでしょう』      『何言うてんや。君がここを離れる訳が無いやろ』             最近になってからそろそろ自分の人生の事も考えなあかんのちゃうかと嫌味混じりに言うような人間が、これまた当たり前かの様に私が此処に残る事をきっぱりと言い放つ。                  『矛盾してます』    『矛盾?何がや』    『別に』                    どうせ何を言ったとしてもこの男は平然と言い返してくるのだろうから。   大人の余裕だとか言う人間もいるが、ただこの上司が我儘で自分の意志を真直ぐ通すような人間だからなのだと思う。

    2010-01-27 13:21:00
  • 7:

    名無しさん


    『了解しました。明日は私が責任を持ちましょう』 『それでこそ僕の部下や』            娘だ何だと複雑な答えでは無く、上司・部下という単発な答えに安心する。   家族や親族のいない、天涯孤独という存在である自分には家族の温もりや安心感を理解する事が出来ない。味わった事が無いのだから当たり前なのだろうが。             『君は何さしてもあかんたれやけど、仕事に関しては天才的や。僕が指示を出すまでも無く…な』                新聞紙を折り畳み、机の隣に備え付けられたゴミ箱の中へと放り込む。    袖を捲り、緩められたネクタイを更に緩くするとペンを持つ右腕を天井に掲げて首を鳴らす。                  『僕の自慢や』                 自分の机に並べられた書類の一枚へ視線を送りながら、背後でそんな事を呟く上司の言葉を聞き流す。              (馬鹿らしい)                  そんな小さな一言に踊りだしてしまいそうな気持ちを押し殺す。       そんな物はこの世界には必要の無い物だと思う。  少なくとも自分には。  彼はどうだろう…。               書類の内容を脳内にたたき込み、ぐしゃりと手の中で丸めてゴミ箱へと放り捨てる。          机の端に開かれたままで待機しているノートパソコンへと手を伸ばす。    今日の晩御飯はコンビニの菓子パンで良いだろう。 そんな事を考えながら。

    2010-01-28 02:53:00
  • 8:

    名無しさん


    『今日は何にする』   『何…とは?』     『晩飯や。僕が放っておけば君はすぐ余所へ逃げるから。たまには自炊とかした方がええと思うで』               印刷し終わった書類の束を纏め、ホッチキスで留めながら嫌味な上司を振り返る。           読まれていたか。    やはり一言も二言も多い男にうんざりとしながら書類を段ボールの中になおす。            『努力してみます』   『何度目やろ』                 確かに料理は苦手だ。  ついでに言えば家事だって苦手で仕方が無い。   だがそこは何時部屋の中を見られても大丈夫な様にはしてあるつもりだ。   料理は何度手をかけても上手くはならない。    玉葱を切った時の目の痛みは忘れられない。    包丁で何度手を切ったか。天ぷらを揚げようと危うく火事を起こしそうになった事もある。       正しく言えば、そう。   苦手では無く嫌いなのだ。

    2010-01-28 03:04:00
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