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好きと言いたかった

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  • 1:

    まり

    今朝はインターホンの鳴る音で目を覚ました。インターホンを見ると50半ばのスーツを来た男が立っていた。
    『朝っぱらからセールス?』私は居留守をすることにした。

    2010-12-10 14:46:00
  • 2:

    まり

    もう一度、ベットに入ろうとした時だった。
    『あれ?あの人…』なんとなく見覚えがあるような気がした。
    すると、インターホンが再び鳴った。
    『はい?』私は恐る恐るインターホンに出てみた。

    2010-12-10 14:49:00
  • 3:

    まり

    インターホンの画面に映る絵に描いた様な紳士が丁寧に話し出して、私は言葉を無くした。
    『朝早くに失礼致しました。わたくし、藤堂タカヤ氏の名を受けまして本日お邪魔させて頂いております』

    2010-12-10 14:52:00
  • 4:

    まり

    藤堂タカヤ―――彼に初めて会ったのは、ちょうど一年前の寒い日だった。
    『こんにちは』そう言って扉を開けた私の目の前に彼は呆然と立っていた。

    2010-12-10 14:55:00
  • 5:

    まり

    父親が作った借金の肩代わりに私は、とある風俗店に勤めていた。このご時世にまだあるんだね、こんな話。そう他人事なら言いたくなるが、自分の身にふりかかったソレを、この頃の私は不幸と思えなくなっていた。

    2010-12-10 14:58:00
  • 6:

    まり

    地元を出て大阪で一人。友達なんていなくて、むしろ友達なんて欲しくなくて。少しでいいから一日でも早く、ここから出る事だけを夢見て朝から晩まで休みなく働いていた。
    月に一度、どうしても働けない時期だけは物悲しく思えてならなかった。

    2010-12-10 15:03:00
  • 7:

    まり

    この日は、一週間ぶりの勤務で、一年もの間ここで働いている私にはリピーターもそれなりにいて、予約は完済していた。
    その一番最後の予約が新規のフリーだった。

    2010-12-10 15:07:00
  • 8:

    まり

    『フリーありがとう』私が店長に言うと
    『たまには回さないとな!何か団体の一人やわ』と店長は答えた。
    私の素性をよく知る店長は私には異常な程優しかった。昔はお父さんも優しかったなって、働き出した頃はよく思ったものだ。

    2010-12-10 15:09:00
  • 9:

    まり

    『あの…入らないの?』ドアの前で立ち尽くす彼に私は声をかけた。
    『え?あぁ…お邪魔します』そう言って彼は部屋に入ってきた。スーツがよく似合う長身に幼さの残る顔は見るからに育ちが良さそうだった。

    2010-12-10 15:13:00
  • 10:

    まり

    『始めましてマリです』
    『始めまして藤堂言います』これぞお辞儀。そんな風に頭を下げた彼に私は思わず吹いてしまった。
    『こういう、お店は初めてですか?』

    2010-12-10 15:15:00
  • 11:

    まり

    『あぁ…いや。昔、そりゃ若い頃は行ったこともあったけど、あんまり好きにはなれなくて…あっ!ごめん。そういう意味じゃなくてね。最近は来ないよ』彼は一人で動揺しながら話した。
    『そうですか』私は愛想笑いをしてシャワーを出しに風呂場に入った。

    2010-12-10 15:17:00
  • 12:

    まり

    すると藤堂と名乗る、その男は『僕、今日はいいよ。付き合いで来ただけだから…良かったら一緒にお茶でも付き合ってもらえるかな?』
    私は少し戸惑った。正直、容姿は悪い方ではない。
    『君みたいな綺麗な人が相手だと緊張するよ。おじさんは』彼は私の心を見通したかの様にそう続けた。

    2010-12-10 15:20:00
  • 13:

    まり

    彼は慣れない手つきで部屋にあったポットからお湯を注いでコーヒーを入れてくれた。
    『ありがとう』仲良くなってから、プレイをしなくなる客ならいた。初対面でいきなり、こういうのは初めてだった。

    2010-12-10 15:23:00
  • 14:

    まり

    藤堂さんは市内でパチンコ屋さんを幾つかしていた。今日はその組合の忘年会だったらしく、その中の重鎮が、うちの店の女の子に入れ込んでいて藤堂さんを含む他数名は半ば強制的に連れて来られたらしい。

    2010-12-10 17:12:00
  • 15:

    まり

    『マリちゃんはお仕事はここだけ?』よくある質問にいつもなら(あんたに関係ないでしょ)と『はい』とすんなり答えていた。
    でも、この日は何故か
    『いえ…』話を濁した。

    2010-12-10 17:24:00
  • 16:

    まり

    藤堂さんは色んな話をしてくれた。歳が41だと言う事。今、住んでいること。会社がある場所。趣味が車いじりで昔の奥さんとは、よく喧嘩したことまで。
    (昔の…?)
    時間前の電話が鳴って
    『マリちゃんはいつ店に出てるの?』と聞かれた。

    2010-12-10 17:29:00
  • 17:

    まり

    『決まってなくて』と私は答えた。
    藤堂はさして気にするでもなく『そっかぁありがとう』と鞄を持った。
    帰り際、いつもなら絶対に渡す名刺を渡さずに藤堂さんを見送った。
    『…』閉まった扉をしばらく見つめて部屋を出た。

    2010-12-10 17:32:00
  • 18:

    まり

    次の日は定期検診があったから夕方からラストまでの出勤にしていた。私は訳あって当日予約のみの受付にしていた。夕方、店に出勤して予約ボードを見て私は驚いた。
    【マリ指名18時〜ラスト:トウドウ様】
    『店長!なにこれ?』

    2010-12-10 17:37:00
  • 19:

    まり

    『マリリンさすが!昨日のフリーでしょ!?昨日、帰りがけにマリリンの次の出勤を予約したいって電話あってさ〜当日予約なんですって断ったら開店と同時に電話あったんやで』
    私は嘘がばれた気分になった。
    『そうなんだ』少し憂鬱になった。

    2010-12-10 17:40:00
  • 20:

    まり

    部屋に入り、藤堂さんを待った。電話がなると、しばらくして藤堂さんが来た。
    『こんにちは。ご指名ありがとうございます』初めて、この台詞を恥ずかしいと感じた。
    『こんにちは。マリちゃん』藤堂さんは今日も爽やかだった。

    2010-12-10 17:42:00
  • 21:

    まり

    私なんかとは住む世界が違います!そんな風に思えた。汚いもの何て見た事がないような、清んだ瞳で笑いかける彼を私は直視出来ないでいた。
    『お腹空いてない?』そう言って藤堂さんは私にコンビニの肉まんをくれた。
    『ありがとう。でも…』

    2010-12-10 17:45:00
  • 22:

    まり

    戸惑う私に藤堂さんは
    『そっか!接客業だもんね!ダメだよね!僕、気が利かないね…接客業してるのに』そう言って頭をかいた。
    『いえ、食べます。ありがとう』私と藤堂さんは二人で肉まんを食べた。部屋中が肉まんの匂いでいっぱいだった。

    2010-12-10 17:48:00
  • 23:

    まり

    『今日、出ててくれて良かったよ。なんか昨日はせわしなく時間が過ぎて、ゆっくり会いたいなって思ってね』藤堂さんははにかみながら、そう話した。
    (たまたまじゃないんですよ)私は、心の中で思いながら『ほんと、私こそ出て良かった』と答えた。

    2010-12-10 17:51:00
  • 24:

    まり

    藤堂さんはわざわざホームページなんて見ないらしく、私がほぼ毎日出ている事を知らなかった。この日はコンパクトDVDプレイヤーを持って来てくれていた二人で映画を見た。
    藤堂さんはコーヒーを飲み、この日も指一本私に触れてこなかった。

    2010-12-10 17:54:00
  • 25:

    まり

    次の日も藤堂さんは予約をしてくれていた。12時〜22時。私の定番の出勤時間。原則、夜中だけは避けていた。
    今日も藤堂さんは優しい笑顔で私に会いに来た。
    『藤堂さん、お仕事は?』私が聞くと
    『ちょっと電話が入ると思うんだ、ごめんね』と藤堂さんは答えた。

    2010-12-10 17:57:00
  • 26:

    まり

    若干、初日はともかく二日続けてオープンラストを予約する藤堂さんを警戒しつつも、給料以外に何か喜びを感じる自分がいた。
    この日、藤堂さんの携帯は引っ切りなしに鳴っていた。鞄からパソコンと手帳を取り出してはスケジュールを打ち合わせしているようだった。

    2010-12-10 18:06:00
  • 27:

    まり

    気にしない様にしていても、小さな部屋に二人。嫌でも彼の話し声は耳に入る。『じゃあ、木曜日に』『それでは木曜日で如何ですか?』『でしたら木曜日の12時に』『それ木曜の朝一にしといてもらえるかな?』藤堂さんは、仕切に木曜日にばかり予定を入れていた。

    2010-12-10 18:09:00
  • 28:

    まり

    (木曜日は会えないな…)私はおかしなことを思った。会う約束なんてしてない。決まりもない。何日か連続で来た客がいなかった訳じゃない。ただ、藤堂さんは時間が異常に長いだけのこと。どこかで何か期待仕出しそうな自分を私は馬鹿にした。

    2010-12-10 18:12:00
  • 29:

    まり

    この日、藤堂さんは夕方にフロントから出前を取ってくれた。正直、客と寝る部屋で食欲など湧かず、私はほとんど食べなかった。
    『食欲なくて』私がそう言うと、どこまで察したのか、
    『ごめん。僕、デリカシーなかったね』と藤堂さんは答えた。

    2010-12-10 18:16:00
  • 30:

    まり

    藤堂さんはあまり私の事を聞いてはこなかった。ただひたすら自分の話をするばかりだった。学生の頃の話を聞いた時は、やっぱり坊ちゃんだなと少し悲しくなった。中学から私立に行き、大学を出て、一般職に着いた後、計り知れない借金をしてパチンコ屋を開業。一代ですることは、そうあることではないと聞いたことがあった。

    2010-12-10 18:21:00
  • 31:

    まり

    『パチンコ屋さんて、親からの人がほとんどなんでしょ?』私が、そう言うと
    『やりたがりだっただけだよ。時代が良かったんだ』と、藤堂さんは答えた。
    私の倍以上の借金を背負った彼は私の手の届くことない雲の上の人。
    何だか、自分が惨めに思えた。

    2010-12-10 18:27:00
  • 32:

    まり

    そして気が付けば、藤堂さんに当たっていた。
    『私は家が貧乏で、父親が馬鹿みたいにお人よしだから、お金にならない仕事して、人にばっかり給料あげて…最後にはサラ金に騙されて借金…父親は身体壊すし、母親は男と蒸発。弟は小さいから里親に出して…』涙が出た。

    2010-12-10 18:32:00
  • 33:

    まり

    『私は…私は朝から晩まで親父の相手して…藤堂さんには解らないでしょ?貴方の背負ってる借金と私の借金は意味が違う…毎日毎日何しに来るの?昨日も、今日も…リピーターさん来れなくなるじゃない?!迷惑です』
    一気に言い放った、その言葉を藤堂さんは黙って聞いていた。

    2010-12-10 19:29:00
  • 34:

    まり

    どこからどう見ても藤堂さんは、とばっちりをくっただけだった。そんな藤堂さんは静かに口を開いた。
    『正直、君の苦しみは解らない。ただ、君が他の人に抱かれてると思うと…嫌でね。マリちゃんに一目惚れしたんだ』

    2010-12-10 19:34:00
  • 35:

    まり

    『からかってるなら止めて下さい』
    『ごめんね。会ったばっかりなのに。でも本当だから』藤堂さんはニコリと笑った。私はそんな彼に
    『もう来ないで下さい。NG出しますから』と言った。
    その日は、それで時間が来てしまった。

    2010-12-10 19:39:00
  • 36:

    まり

    次の日、出勤すると藤堂さんの予約があった。でも、藤堂さんは来なかった。
    そして初めてボウズになりそうだった。
    『店長!フリーないの?』私が店長に尋ねると
    『あれ?聞いてない?藤堂様、本人はこれんらしいねんけど料金だけは頂いててな…バレたらやらしいから今日はお前何もせんで給料あるんやで』と店長は笑って答えた。

    2010-12-10 19:43:00
  • 37:

    まり

    『世の中色んな人間おんな〜』店長はタバコを吹かしながら私に言った。
    『そうなんだ…』
    明日は木曜日。藤堂さんは朝から晩までアポイントで埋まっている。
    明日も来ないはずだ。

    2010-12-10 19:46:00
  • 38:

    まり

    『もし、今度こういうあったら、私をお客さんにつけてくれない?何か気持ち悪いよ藤堂さん』
    私がそう言うと
    『そうか?見るからに紳士だし、いい男やん。いくつなん?』
    『41歳だって』

    2010-12-10 19:48:00
  • 39:

    まり

    連れなく私が答えると
    『は〜34、35くらいに見えるな〜』と店長は感心していた。
    『そう?てか、お客さん付けないなら帰っていいの?』私が尋ねると、
    『飯行くか?』と店長は誘ってくれた。

    2010-12-10 19:51:00
  • 40:

    まり

    私がここに来た時、私は怯えて震えていた。そんな私に、店長は
    『無理やったら、こっそり飲み屋にでも行けばいい』そう言ってくれた。
    そんな事をすれば店長だって、ただじゃいられない。作戦だったのか、本心なのか、何にせよ私は救われた気がした。

    2010-12-10 19:59:00
  • 41:

    まり

    『あの子はこんな所おる玉ちゃう。気の毒や…ホストにはまるアホ女と違うからな。ええ客つけたろ』当日いたスタッフに話していたのを聞いて私はまた救われた。
    店長の言葉に二言はなく、私は本当にえこ贔屓してもらえた。

    2010-12-10 20:02:00
  • 42:

    まり

    働き出して数日して私と店長は約束した。
    一年で2000万円。五年で足を洗う。気の遠くなる目標だった。
    でも、私には30歳で普通の女に戻れる。それだけで頑張れた。私が借金の返済を滞らせて、弟の所に借金取りが行ったら…そう考えただけで休む気になれなかった。

    2010-12-10 20:06:00
  • 43:

    まり

    次の日、予約ボードには山田という名の男がオープンラストで予約をしていた。(バレバレなんですけど…)そう思って扉を開けると別人がそこにいた。
    何となくガッカリしている自分がいた。

    2010-12-11 12:48:00
  • 44:

    まり

    山田と名乗る、その男は50半ばくらいの落ち着いた感じで、特別会話をするわけでも、ましてや触れてくることさえしなかった。
    『もしかして藤堂さんの?』私が恐る恐る尋ねると、その男はニコリとだけ笑い、それ以上は何も答えなかった。

    2010-12-11 12:50:00
  • 45:

    名無しさん

    見てます?
    頑張って?

    2010-12-11 18:41:00
  • 46:

    まり

    ありがとうございます?下手くそですけど、お付き合い下さい

    2010-12-11 20:32:00
  • 47:

    まり

    私の中で藤堂という男の存在が良くも悪くも大きくなっていった。それから藤堂さんは毎日の様に私を予約した。会いに来たり、来なかったり。山田さんは、あれ以来一度も来ることはなかった。

    2010-12-11 20:34:00
  • 48:

    まり

    店長は藤堂さんの言い付け通り、私を内緒で他の客につけることはなく、私は丸々一週間を誰にも触れられることなく過ごした。そんな私に心境の変化があったのは、藤堂さんと会って二週間が経とうとした頃だった。

    2010-12-11 20:38:00
  • 49:

    まり

    この日も藤堂さんは私に会いに来た。あの告白以来、口説くでもなく、店外を強要するでもなく他愛ない話をするだけだった。
    『今度ね、新しい店を出すんだ。銀行との取り引き次第なんだけど、失敗したら笑ってね』この日も藤堂さんは相変わらず爽やかで、私の八つ当たりに関しても一切触れてはこなかった。

    2010-12-11 20:42:00
  • 50:

    まり

    まったりとただ時間だけが過ぎていく。時間前の内線が入った。でも、この日はいつもと違った。
    『マリさん。お時間です。でね、このあと続いてますから』
    私は、一瞬心臓が止まりそうになった。(なんで?)

    2010-12-11 20:45:00
  • 51:

    まり

    その言葉は口をついて出ていた。
    『え?藤堂さん12時までやんな?12時から1時間やったらいけると思って…マリちゃん受終12時やろ?』
    この日、店長は休みでアルバイトのスタッフが店を回していた。

    2010-12-11 20:51:00
  • 52:

    まり

    『わかりました』よほど連れない返事をしたのだろう心配気に藤堂さんが
    『何かあった?』と聞いてきた。
    『ううん。何でもないです』どうしても、次に予約があることを藤堂さんには知られたくないと思った。

    2010-12-11 20:56:00
  • 53:

    まり

    『今日はありがとう。また明日来るよ。ゆっくり休んでね』藤堂さんはそう言って部屋を出た。
    その後ろ姿を私は複雑な思いで見送った。
    『ごめんなさい…』思わず呟いた言葉に自分でも驚いた。

    2010-12-11 20:59:00
  • 54:

    まり

    部屋で客を待つ間、心臓が潰れそうなくらいドキドキした。ここに初めて来て、初めて仕事をした時よりももっと。あの時のことは、あまり覚えていない。嫌とも思わず、ただ時間が過ぎることだけを考え、知らない男に触られて感じる自分が汚らわしくて、ただ空しかった。

    2010-12-11 21:06:00
  • 55:

    まり

    不思議な事に一人こなすとふっ切れたように、仕事が出来た。一人こなすごとに頭の中の電卓が一日の給与を弾き出す。
    (こんにちは。諭吉さん)

    2010-12-11 21:09:00
  • 56:

    まり

    (いつも、ありがとう諭吉さん)(この人は15000円)(はい。これで5万)(また来てね。私の収入源さん)なんて、可愛いげのないことをあえて思いながら、その時間を過ごした。
    『1時間…こんにちは。諭吉さんでしょうが』
    そう自分に言い聞かせた。

    2010-12-12 00:12:00
  • 57:

    まり

    扉を開けて、藤堂さん以外の客を一週間以上ぶりに迎え入れた。40半ばの中肉中背の男。顔は至って普通。色が白くて髭も濃くない。普段なら第一関門では良い客になるであろう男。
    何故か顔が引き攣るのが分かった。

    2010-12-12 00:16:00
  • 58:

    まり

    お決まりの会話を経て、シャワーに向かった。男は一人でシャワーを済ませた。極端に乾燥肌の私は、普段なら更に良い客と感じる。この日は違った。それは、後から浴びたシャワーの時間の長さで思った。シャワーを終えて時計を見て、(しまった…長かった。機嫌損ねてないかな)とさえ思う程だった。

    2010-12-12 00:20:00
  • 59:

    まり

    それでも男は何も言わずベットに私を招き入れた。男が私を抱き寄せた瞬間、身体が硬直した。
    『緊張してる?』
    そうじゃなかった。何も答えない私の上に覆いかぶさり身体を愛撫仕出した男の背中に私は爪を立てた。

    2010-12-12 00:23:00
  • 60:

    まり

    嫌悪感が全身を駆け巡った。(気持ち悪い!止めて!止めて!)
    私は目を強くつむった。感じるなんて皆無だった。早く止めて欲しくてイッタふりをした。攻守を変えてからも口に溜まるツバを気持ち悪くて飲み込めず、ただ口から垂らしながら男に奉仕し続けた。

    2010-12-12 00:27:00
  • 61:

    まり

    男はそんな私を見て興奮したのか、腰を動かす。
    (早くイッテ!早く)私は必死に手と頭を上下させた。男のものが硬直仕切った瞬間、口を外して男の腹に出した。口に残る唾液すら喉を通したくなくて、私は口の端からソレを垂れ流した。

    2010-12-12 00:30:00
  • 62:

    まり

    『マリちゃんエロいね』
    以前、口に含んだ精子をそうしたら客に偉く受けたことがあった。あからさまにツバを出せない私のとっさの気転だった。
    ただ、すごく消えたい気持ちになった。

    2010-12-12 00:33:00
  • 63:

    まり

    事を終えると男は一人でシャワーを浴びた。その間、壁にかかっている姿見に移る自分の姿を見ながら、私は泣いた。
    悲しい?空しい?惨め?
    どれでもない。ただ、ひたすら涙が溢れた。
    『今更…?』私は髪を乱して素っ裸で呆然と立ち尽くす泣きっ面の自分を笑った。

    2010-12-12 01:04:00
  • 64:

    まり

    男がシャワーをしている間に内線がなった。バスローブを羽織って男を見送った後で、私は身体をゴシゴシと洗った。何度も何度も力を込めて身体を洗った。うがいも、いつも以上にイソジンを入れてコップ何倍もした。そのまま頭から爪先までを念入りに洗った。

    2010-12-12 01:08:00
  • 65:

    まり

    『ありがとう諭吉さんでしょうが…』私は笑いながら泣いた。
    この日、寮に戻って私はまたシャワーを浴びた。身体がふやけるんじゃないかと思うくらい長時間。帰ったら食べようと藤堂さんから貰っていた、お弁当は食べれなかった。自分の口から食事を取ることが気持ち悪くて仕方なかった。

    2010-12-12 01:12:00
  • 66:

    まり

    (明日、やだな)きっと藤堂さんは明日も来る。私は風俗嬢なのだから、何も今日したことを藤堂さんに後ろめたくなんて思わなくていい。だって、私は彼のなんでもない。だって、彼は私の上客で常客。
    最大の諭吉供給者なのだから。ただ、それだけなんだから。

    2010-12-12 01:16:00
  • 67:

    まり

    次の日も、やはり藤堂さんの名前は予約ボードにあった。この頃から回りの女の子がちらほら噂仕出したことを私が気づかないわけがなかったが、差ほど気にも止めずにいた。
    (予約があっても、来ない日もあるし…)

    2010-12-12 01:20:00
  • 68:

    まり

    予約ボードの前に立っていた私に店長が話しかけた。
    『マリ!すまん!伝達ミスやった!ほんまにすまん』勢いよく頭をさげる店長に
    『なんで謝るわけ?おかしな店長。お陰で久々にネット指名着いたし、昨日もいっぱい儲けたし』言いながら泣きそうになった。

    2010-12-12 01:29:00
  • 69:

    まり

    何となく店長の顔は見れなくて、私はスッと部屋に入った。
    そして、私の希望の塊のような期待は外れた。
    『こんにちは。マリちゃん』この日は悔しいけど、カッコイイと素直に思った。

    2010-12-12 01:31:00
  • 70:

    まり

    それなのに私は
    『こんにちは。諭吉さん』そう言って藤堂さんを出迎えた。
    『ははは』笑った藤堂さんの顔が少し淋しそうに見えたのは私の自惚れだったのか、でも、あの時確かにそう見えた。

    2010-12-13 01:46:00
  • 71:

    まり

    この日も、お菓子をつまみながら他愛のない話をして、時々入る藤堂さんの仕事の電話を聞かないふりをして、やけに時計が気になってしかたなかった。
    (どうかどうか…ゆっくり時間が過ぎますように)

    2010-12-13 01:51:00
  • 72:

    まり

    『どうしたの?マリちゃん?!』藤堂さんの慌てた声で自分の涙に気がついた。
    『おーおーどうした?…何かあった?』そう言って藤堂さんは、この日初めて私に増えた。頭をポンポンと軽く二回叩いた後に、そっと親指で涙を拭った。

    2010-12-13 01:54:00
  • 73:

    まり

    訂正:初めて私に増えた→初めて私に触れた

    2010-12-13 10:28:00
  • 74:

    まり

    藤堂さんが触れた場所から、温かさが伝わる気がして私は涙が止まらなくなった。この仕事をして初めて、心底自分が汚い人間に思えた。人から何て言われても、どう思われても良かったはずなのに。私に触れた藤堂さんまでもが、汚れるきがして、私は藤堂さんの手を払った。

    2010-12-13 10:34:00
  • 75:

    まり

    『ごめん』
    そう言ったのは手を払われた藤堂さんの方だった。
    (違う!そうじゃない)訳が解らなかった。触れられて安心して、自分が汚れ物だと実感して、触れててほしくなくて、離した手が愛おし過ぎて
    『私は風俗嬢なんです。客をいかせる事が仕事なの。からかわないで!』

    2010-12-13 10:40:00
  • 76:

    まり

    『抜く気がないなら帰ってよ』睨みつけた藤堂さんの顔はまた、悲しそうだった。
    『そうだよね。仕事の邪魔だね』
    全てが終わった気がした。

    2010-12-13 10:43:00
  • 77:

    まり

    私はベットに腰をかける藤堂さんの前に立ち、服を脱ぎはじめた。下着姿になって彼のシャツに手をかけた。その時、彼は私を抱き寄せた。(これで普通の嬢と客!)
    そう思った私の耳に意外な言葉が入って来た。
    『僕とお付き合いしてもらえませんか?』

    2010-12-13 10:46:00
  • 78:

    まり

    私は藤堂さんを押しどけ顔を見た。
    『何言ってんの?』
    『本気だよ。じゃなきゃ、そう毎日会いに来ないよ。これでも一応、出来るビジネスマンなんだけど』そう言って藤堂さんはハニカミながらベットに置いてあったバスタオルを私にかけた。

    2010-12-13 10:49:00
  • 79:

    まり

    『私、風俗嬢だし…』戸惑いながら答えた私の返答は、明らかにNOではなく確認事項でしかなかった。
    『いいよ』藤堂さんは迷わず答えた。
    『これからも…後四年近く、ここで働くんだよ?』
    すると藤堂さんは私を抱き寄せて、こう続けた。

    2010-12-13 10:53:00
  • 80:

    まり

    『もう、頑張らなくてもいいんだよ?僕が君の借金を立て替えるから』
    正直、嬉しかった。
    もう、普通の生活が出来るんだって思った。もう、毎月売上に終われて、悪夢で目を覚ますこともなくなるんだって…。
    『結構です』

    2010-12-13 10:56:00
  • 81:

    まり

    それなのに私は、藤堂さんに甘える事が出来なかった。
    『マリちゃん…』藤堂さんは難しい顔で私を見つめた。この借金は藤堂さんには一つも関係ない。藤堂さんが今に至るまでの苦労に何一つ関わってない私が、そんなお金を貰えない。そんな堅苦しい事をこの期に及んで思ってしまった。

    2010-12-13 11:01:00
  • 82:

    まり

    もしも、この時、素直に甘えていたら限りある時間をもっと沢山一緒にいれたのかな?

    2010-12-13 11:04:00
  • 83:

    まり

    藤堂さんに借金の立て替えを断った理由を説明すると、彼は困った顔をして
    『それなら君の借金が返し終わるまでの間、僕は毎日ここに来ればいいんだけど、そうすると君の借金の倍の額を払うことになるんだけど』と言ってから、ニコリと微笑んだ。

    2010-12-13 11:08:00
  • 84:

    まり

    確かにそうだった。店に来るということは、店にも私とほぼ同額のお金を払うわけど、私の借金を返すだけの方がここに着続けるより安く済む。どちらにせよ、私は藤堂さんに迷惑しかかけない…。
    『店には来ないで…お金ばっかり使わせちゃう』

    2010-12-13 11:11:00
  • 85:

    まり

    『いやいや、マリちゃんが他の人に触られてると思うと、そんなの堪えれないよ?だから、今までオープンラストだったのに』
    『でも、藤堂さんが来るまで私は…汚いよ』そう答えた私に、藤堂さんは力強く
    『僕とマリちゃんは、あの日から始まった。過去のことまでヤキモキ焼いてらんないよ。僕もいい大人だしね』そう言って笑った。

    2010-12-13 11:15:00
  • 86:

    まり

    それでも、すぐに返事が出来ず、この日から奇妙な生活が始まった。
    出張も受付ていた店に、藤堂さんは私を出張出来ないか?と問い合わせた。

    2010-12-13 11:19:00
  • 87:

    ?

    続き楽しみデス?
    絶対完結して下さいね??

    2010-12-13 23:00:00
  • 88:

    まり

    ありがとうございます?頑張ります?

    2010-12-14 12:26:00
  • 89:

    まり

    出張は主に夜中しか受け付けていなかったが、店長は快く出張を受け入れてくれた。それから私は毎日、藤堂さんのマンションに通った。藤堂さんは、私を出迎えると仕事に出かける事が多く、私は家で留守番をするようになった。

    2010-12-14 12:32:00
  • 90:

    まり

    どちらにせよ、私が藤堂さんに迷惑をかけていることに変わりはなかった。
    『もしもし?店長?私、アルバイトしたいんだけど』とんでもない話だった。それでも、藤堂さんの部屋でただじっとしているより、その間、別のアルバイトをして私が藤堂さんの支払いをカバー出来ればと思った。

    2010-12-14 12:35:00
  • 91:

    まり

    『さすがにそれはアカンって、お前も分かってるやろ?マリ…そんなん店長として認めるわけイカンねん。知ってしまったら止めなアカン!知ってもうたらな』私は、がっかりして電話を切った。
    『そりゃそうだよね…店長だって容認出来ないもんね…ん?』

    2010-12-14 12:38:00
  • 92:

    まり

    店長が念押しした『知ってもうたらな』を私はいい様に解釈した。
    『内緒だったらいいって事?!』その日の夕方、部屋に戻った藤堂さんにアルバイトの話をした。すると、藤堂さんは自身が経営するパチンコ店内のカフェコーナーでアルバイトをしないかと誘ってくれた。

    2010-12-14 12:45:00
  • 93:

    まり

    『急に、カフェスタッフが一人辞める事になってね。マリちゃんが来てくれたら凄い助かるよ』
    藤堂さんのことだ、きっとわざとそう言ってくれたんだろう。それでも、私は少しでも役に立つならと藤堂さんの所でアルバイトをすることにした。

    2010-12-14 12:48:00
  • 94:

    まり

    『お給料はいりません。私に払う分は藤堂さんが店に支払う分の足しにして下さい』頑として譲らない私にとうとう藤堂さんも折れてくれた。藤堂さんの立場も考えて、私は普通に面接に行くことにした。
    『マリちゃんなら受かるって!』

    2010-12-14 13:02:00
  • 95:

    まり

    翌日、藤堂さんの部屋に送り届けられた私はその足で面接に向かった。
    『ごめんね。店まで送れなくて』藤堂さんには店の近くまで送ってもらった。久々に歩く町並みにウキウキしながら店へと向かう。そこから二、三分歩くとパチンコ店はあった。

    2010-12-14 13:18:00
  • 96:

    まり

    面接を終えると、三日以内に返事をすると言われ、そのまま藤堂さんの待つ車に戻った。すると、藤堂さんは誰かと電話をしていて私に笑顔で手を振ってきた。不思議に思いながら、電話を切るのを確認してから車に乗り込むと藤堂さんはいきなり私の手を握ってきた。
    『何ですか?!』

    2010-12-14 13:33:00
  • 97:

    まり

    『今ね、店長から電話があって、「めちゃくちゃベッピンさん面接来たんすよ〜採用しますよ!?」だって。マリちゃんのことだよ!おめでとう。しっかり働いてね』藤堂さんは私の手を握ったまま嬉しそうに言った。そんな藤堂さんを見て、私も嬉しくて仕方なかった。

    2010-12-14 13:52:00
  • 98:

    まり

    翌日になると面接の結果が携帯に入り、私は次の日からアルバイトに行くことになった。この日、部屋に掃除機をかけながら藤堂さんの帰りを待っていた私に、藤堂さんはお祝いにとケーキを買って来てくれた。
    『デパ地下物で悪いけど』そう言って夕食をご馳走になった。

    2010-12-14 13:55:00
  • 99:

    まり

    こうして、昼前に店に出勤、直ぐに藤堂さんの部屋に出勤で行き、その足でパチンコ店に向かい、8時頃までアルバイトをし、藤堂さんの部屋に帰って藤堂さんの帰りを待ち、12時になると店からの迎えで帰ると言った奇妙な毎日が始まった。もちろん店側には内緒の為、生理休暇の時だけは直接パチンコ店に向かった。

    2010-12-14 13:59:00
  • 100:

    まり

    パチンコ店でのアルバイトは週5日した。それ以外は藤堂さんが居ようが居まいが、部屋でお留守番をする。勝手に部屋のモノはいじれず、藤堂さんを見送る時に『洗濯しておくね?』『冷蔵庫のもの使うね』と予め報告しておいた。
    はたから見たら、同棲初心者の二人にでも見えたかもしれない。

    2010-12-14 14:02:00
  • 101:

    まり

    しばらくして、藤堂さんが私に財布を手渡してきた。
    『これで好きなもの買って、適当に過ごしててよ』
    私が頂けないと断ると、
    『だったら、それでご飯作ってくれないかな?』と言うので、私は了承した。
    パチンコ店でのアルバイト帰りにスーパーへ寄って食材を買って、料理した。

    2010-12-14 14:04:00
  • 102:

    まり

    始めは、風俗嬢だとバレないか、冷や冷やしながら働いていたが次第に職場にもなれてきた頃、良からぬ噂を耳にした。
    『ねぇねぇマリちゃん?』話しかけて来たのは、同じカフェスタッフのケイちゃんだった。
    『ん?なに?』

    2010-12-14 14:07:00
  • 103:

    まり

    『社長ね、最近クラブの女の子にはまってるんだって〜パチンコ店の人ってよく飲み歩いてるらしいんだけど、うちの社長って誠実そうだから意外やない?』
    ケイちゃんはもちろん、パチンコ店の皆は私がここにいる経緯を知らない。
    『へ〜男の人だもんね』
    私はそう答える他、思い付かなかった。

    2010-12-14 14:10:00
  • 104:

    まり

    藤堂さんは、本社機能のある違う店舗に出勤して、こっちに来る事は稀だった。例え顔を出したとしても、皆に軽く声をかけ、すぐに店長室に入って店長と話し終われば直ぐに出ていく。もちろん、私にも例外はなく『山梨さん、いつもご苦労さん』『お疲れ様です。社長』この会話を交わす位だった。

    2010-12-14 14:16:00
  • 105:

    まり

    部屋にいても、相変わらず藤堂さんは私に手を出そうとはしなかった。そして私は本人に聞けないことをケイちゃんに尋ねた。
    『社長って独身なの?』
    『まさか!?あれだけの人が独身なわけないやん!』

    2010-12-14 14:28:00
  • 106:

    まり

    私は身体の力が抜けるのを感じた。そう言えば、藤堂さんの部屋には生活感が全くなかった。男の人の部屋だから…そう何処かで言い聞かせていた自分がいた。
    『そりゃいるよね』私の苦笑いは気付かれずに済み
    『もしかして、マリちゃん狙ってたん?私らなんか相手されんって無理無理!あはは〜』と、流された。

    2010-12-14 14:34:00
  • 107:

    まり

    帰りにスーパーへは寄らず部屋へ向かった。帰りたくはないが、店にバレない為に仕方がなかった。しばらくすると藤堂さんが戻って来た。
    『ただいま、マリちゃん』いつもと変わらない明るい声に私は返事が出来なかった。

    2010-12-14 14:41:00
  • 108:

    まり

    『どうした?』藤堂さんは私の頭をよく撫でてくれる様になっていた。
    『藤堂さん…彼女いるの?』手を払いのけて私は俯いたまま尋ねた。
    『え?彼女は…』藤堂さんは少し答えにくそうだった。
    『そっかぁ。じゃあ、奥さんは?』私はすかさず聞いた。

    2010-12-14 14:45:00
  • 109:

    まり

    『昔はいたけど今はいないよ』これは直ぐに返事があった。
    『お世話になりっぱなしの私が聞くような事じゃないって分かってます。でも…』私がそう言うと突然さんは静かに話し出した。

    2010-12-14 17:47:00
  • 110:

    まり

    『もう離婚して三年になかかな…今は仕送りだけで会ったりはないよ。会社の人間にはわざわざ説明することじゃないから、知らない人間もいると思うけど何か聞いた?』
    全てを見透かされていて惨めに思った。

    2010-12-14 17:50:00
  • 111:

    まり

    ただの、風俗嬢がいっちょ前にヤキモチ?ちょっと部屋に出入りして御飯作ったりしたからって、ちゃっかり彼女気取りになってるの?馬鹿じゃない?
    働いてみて分かったことがある。藤堂さんは私なんかといる様な人じゃない。

    2010-12-14 17:52:00
  • 112:

    まり

    でも、止まらなかった。
    『飲み屋の人と付き合ってるんですか?だから私には手を出さないんですか?』

    2010-12-14 17:55:00
  • 113:

    まり

    藤堂さんはため息を着いた。呆れられた、もう終わりだと思った。
    『マリちゃん?僕はマリちゃんとこれから先一緒に居たいと思ってるんだよ?彼女がいるの?って僕の彼女は君だよ。まだ良い返事は貰えてないから保留状態だけどね』藤堂さんはそう言ってニコリと笑った。

    2010-12-15 14:13:00
  • 114:

    まり

    『クラブの人は?』
    『あぁ…それは多分、君の事じゃないかな?』私はさっぱり理解出来なかった。藤堂さんの話によると、ここ数週間、私に会いに会社への出勤が極端に減っていたため若いアルバイトの子達が面白がって流した噂だと言う。

    2010-12-15 14:19:00
  • 115:

    まり

    不思議と悲しさは消え、寂しさが失くなっていた。私の中で藤堂さんの存在が確かに大きくなっていた。自分でも気が付いてしまった。私は藤堂さんが好きだ。でも、私なんかは藤堂さんに相応しくない。
    例え、今すぐ風俗から足を洗っても【元風俗嬢】に変わるだけ。

    2010-12-15 14:22:00
  • 116:

    まり

    藤堂さんは、そんな私の気持ちを知ってか
    『君が風俗で働いている事を恥じてるなら、僕なんて風俗に行かなきゃ女の子にも相手にされないダサい奴だよ?どっちが情けない?僕だと思わない?』と、笑いながら話し、
    『君が借金の為に辞めれないなら、僕は何年だって君の元に通い続けて、君が心病むことのないようにしたい』

    2010-12-15 14:33:00
  • 117:

    まり

    『どんな理由があったって、どんなに割り切ったって好きでもない人に触れられて平気でいる女の子なんていないよでしょ?だから、それをブランドに逃げたり、ホストに逃げたり自分の存在価値を探すんだと思う。私はこの仕事をしていて、間違いでないって』
    私は思い出していた。初めて入った客の顔を。

    2010-12-15 14:36:00
  • 118:

    まり

    『いつかマリちゃんが壊れてしまいそうで心配なんだ。迷惑なのも分かってる。変な奴だと思っただろ?でも…』
    私ははっきり思い出した。今まで出会った客たちを。記憶の彼方、消し去って忘れ様としていた男達の顔。その瞬間、嘔吐した。

    2010-12-15 14:44:00
  • 119:

    まり

    話していた藤堂さんは驚き、私の背中を摩った。
    『つわりじゃないよ!私は本番なんてしてないの』
    言えば余計に怪しいだけの弁解を、どうしても誤解されたくなくて私は叫んだ。藤堂さんは、私の背中を摩りながら私を抱き寄せた。

    2010-12-15 14:52:00
  • 120:

    まり

    胃液だけの嘔吐の跡を私は近くにあったティッシュで拭き取った。その間も藤堂さんは何も言わずに私の頭を撫でた。涙が止まらなかった。気付かない様に蓋をしていた思いが一気に溢れた。
    ―――何で、私が?―――何で、私なの?―――何で、こんなことしなきゃなんないの?―――何で?―――何で?!

    2010-12-15 18:03:00
  • 121:

    まり

    嗚咽混じりに私は泣いた。ティッシュを握りしめた手に涙の粒がボタボタと落ちた。その瞬間、私の身体がフワッと浮いた。
    『藤堂さん?!』
    驚く私をよそに藤堂さんは私を抱き上げ、ベットへと連れて行った。

    2010-12-15 18:06:00
  • 122:

    まり

    私をベットに腰をかけさせると私の前にひざまずき、手を握ってき話し出した。
    『僕は君を見た日。あの瞬間、なんて綺麗な人なんだろうって言葉を失うほどだったよ。身体に電流が走ったくらいにね』ニコリと私に微笑んだ。私の大好きな藤堂さんの笑顔だった。

    2010-12-15 18:09:00
  • 123:

    まり

    『マリちゃん、僕と付き合って下さい』
    私は、黙って頷いた。私が藤堂さんの彼女になるなんて厚かまし過ぎる話だったけれど、今、目の前で優しく微笑む藤堂さんの近くにずっと居たい!そんな気持ちが私の首を立てに動かした。
    『ありがとう』子供のような声を上げて、藤堂さんは私を抱きしめた。

    2010-12-15 18:14:00
  • 124:

    まり

    『大切にする!大好きだよ』そんな言葉を聞いたのは何時ぶりだったろう。私は藤堂さんを抱きしめ返した。
    藤堂さんは、私を横たわらせると優しくキスをした。首筋から手の平、まるで今までの消毒をしているかの様だった。

    2010-12-15 18:17:00
  • 125:

    まり

    いつも客に触れられている間はただ快楽だけを感じるように尽くした。相手がどうなんて気にしていたら気持ち悪くて仕方なかった。当たり前の事だけれど、藤堂さんが触れる一瞬一瞬、一カ所一カ所に神経を研ぎ澄ませた。
    愛おしくて仕方ない。優しさが伝わってくるようだった。

    2010-12-15 18:22:00
  • 126:

    まり

    涙が溢れた目に優しくキスをしてくれた。この日、私と藤堂さんは一つになった。
    この日、藤堂さんが私を抱いてくれたのは、例え嘔吐がつわりだったとしても、それすら受け入れようと言う思いの表れだったのかも知れない。

    2010-12-15 18:25:00
  • 127:

    まり

    もしかしたら、誤解されていたのかも知れない。今となっては確かめ様もない。それであったとしても、藤堂さんの思いの深さが何より嬉しくて私は抱きしめられながら、幸せ過ぎて涙が止まらなかった。
    『ねぇ、マリちゃん…僕に甘えてくれないかな?』

    2010-12-15 18:28:00
  • 128:

    まり

    どう考えたって、毎日のように私を出張させている藤堂さんは日々20万以上もの大金を支払い続けていた。私がパチンコ店でアルバイトをしたお金を足しにしたところで、何の足しにもならない。
    ただ、私の中でお金目当てだと思われたくないという意地が首を立てに触れなかった。

    2010-12-15 18:31:00
  • 129:

    まり

    この日、店に戻ると店長に呼ばれた。月末のこの日、毎月恒例の実績表が配られていた。売上と給与の総額、罰金内容から指名本数と事細かに掛かれた紙の中に謎の一覧があった。
    【特別手当て20万】
    『店長、なにこれ?私そんなの貰ってないよ』

    2010-12-15 18:37:00
  • 130:

    まり

    ちょっと間を開けて店長は『あぁ…特別手当ては俺からのサービスや!最近、太客掴んで偉いからな』
    引き攣った顔に私は納得いかず、噛み付いた。
    『手元に貰ってないのはなんで?』
    『ん?俺が借金の返済に当てといたんや。そういう特別手当てや』

    2010-12-15 18:41:00
  • 131:

    まり

    一年以上、毎日のように顔を合わせていた店長がつく嘘なんて直ぐに見抜けた。
    『藤堂さんでしょ!?』
    店長は目を丸くして
    『違うわ』と言った。
    『説明して!』
    私は店長から話を聞くと、直ぐに藤堂さんに電話した。

    2010-12-15 18:45:00
  • 132:

    まり

    私が藤堂さんのお店でアルバイトをした分の給与を藤堂さんは店長を通じて、借金の返済に当ててくれていた。内緒にしてくれと言われていた店長だったが、どうしてもスルー出来ず【特別手当て】と、記載したと暴露した。
    『お前が疑問に思わんかったら説明せんとくつもりやってんけど』

    2010-12-15 18:49:00
  • 133:

    まり

    私の隣で言い訳する店長を尻目に時間もお構いなく、私は藤堂さんに電話で怒鳴った。
    『勝手なことしないで下さい!私、こんなことされたら藤堂さんに合わす顔がありません!』そんな私の思いを無視して、
    『マリちゃんが電話くれるなんて初めてだから嬉しいな!』と、藤堂さんは脳天気に答えた。

    2010-12-15 18:53:00
  • 134:

    まり

    電話を切ると、店長が私の肩を叩いて
    『店の人間が言うことちゃうけどな、いい人やんか!甘えたらええ。後、三年以上もな、こんな仕事してたらお前が潰れてまうって。他の子らみたいに、買い物したりホストに貢いだりせんと、ひたすら借金返してな。休みなくさぁ』

    2010-12-15 18:59:00
  • 135:

    まり

    『藤堂さんみたいな事言うて逆にお前を騙す奴とかもおる中、あの人はホンマもんやで?俺、これでも人を見る目はあんねんぞ?』
    店長はいつだって、私を優しく励ましてくれた。
    『ありがとう』自然と言葉が出た。
    『照れるやろ?!止め!明日にでも藤堂さんに話せよ?金さえ何とかなったら、こっちサイドの話は俺がなんとでも付けれるからな』

    2010-12-15 19:07:00
  • 136:

    まり

    私は、土壇場で人に恵まれているのかも知れない。本気でそう思った。
    次の日、私は藤堂さんに話をした。
    『本当にいいの?迷惑かけるだけだよ?』藤堂さんは何の迷いもなく笑顔で頷いてくれた。

    2010-12-16 16:45:00
  • 137:

    まり

    『だったら、お願いがあるの。父に頭を下げさせてからじゃないと私はお金を受け取れないよ』
    藤堂さんは一瞬、戸惑い
    『何もそこまで…』
    『彼氏だとか紹介したりしないよ。思いでしょ?ただ、父が何も知らないなんておかしいと思う。納得いかない』

    2010-12-16 16:48:00
  • 138:

    まり

    私は藤堂さんを職場の上司という設定で紹介することにした。私を不敏に思った上司が私の毎月の給与から差し引くと言う事で、立て替えてくれたと。
    『僕じゃ、彼氏って言いにくいか…歳、離れてるもんね』淋しそうに藤堂さんが笑った。

    2010-12-16 16:51:00
  • 139:

    まり

    私は藤堂さんを職場の上司という設定で紹介することにした。私を不敏に思った上司が私の毎月の給与から差し引くと言う事で、立て替えてくれたと。
    『僕じゃ、彼氏って言いにくいか…歳、離れてるもんね』淋しそうに藤堂さんが笑った。

    2010-12-16 16:54:00
  • 140:

    まり

    『違う違う!親に会うとか…大層じゃない?』
    『全然!』藤堂さんは張り切って言い放った。
    『雰囲気みてね?』藤堂さんは少し物足りなさ気だったが、これでいいと思った。私ですら、父親に会うのは風俗をする以前にさかのぼるのだから。

    2010-12-16 16:58:00
  • 141:

    まり

    善は急げと、明日、父の入院する病院へ向かうこととなった。
    話を済ませ、私は藤堂さんの車でアルバイト先へ向かった。アルバイト先に着くと同じカフェスタッフのケイちゃんがニヤケ顔で近寄ってきた。
    『マリリン!見たよ〜』
    『え?!』

    2010-12-16 17:02:00
  • 142:

    まり

    『マリリンの彼氏、金持ちなんだね?!いい車乗ってんじゃん!私、ジャガー好きだから、見とれてたらマリリン出て来てビックリしたわ』ケイちゃんの声はよく響く。店長が私をちらっと見た気がした。
    『え?あぁ…』返答に詰まってしまった。

    2010-12-16 17:05:00
  • 143:

    まり

    アルバイトのケイちゃんは藤堂さんの乗る車まで知らないが、長年勤める店長は知ってるはずだ。
    『あれ、ジャガーじゃないよ?』私は直ぐにばれる嘘をついた。
    『えージャガーでしょ?あれ?じゃあ、人違いかな?んな訳ないってば、照れない!照れない!』

    2010-12-16 17:08:00
  • 144:

    名無しさん

    あげ

    2010-12-17 22:40:00
  • 145:

    まり

    ケイちゃんに冷やかされるだけ冷やかされて、店長には意味深な目で見られ、少し同様しながら仕事を始めた。でも、嫌とは思わなかった。学生時代に戻った様で何となく懐かしくて、少し嬉しかった。
    『ケイちゃんは彼氏いないの?』手が空いた時に私も聞いてみた。

    2010-12-19 03:25:00
  • 146:

    まり

    『おんで〜』満面の笑みでケイちゃんは答えた。
    店長が、また私たちをちらっと横目で見た。私は、また懐かしい気持ちになった。授業中に隣の席の子と盛り上がったのを、先生に叱られる様な、そんな感覚だった。
    『仕事しろよ〜』と、店長が言った。

    2010-12-19 03:28:00
  • 147:

    まり

    この日、藤堂さんの部屋に戻ると藤堂さんは先に帰っていて、スーツを何着も何着も着替えていた。
    『何かあるんですか?』と、尋ねると真剣な顔で
    『明日、マリちゃんのお父さんに会うのに変な格好出来ないからね』とネクタイを締めながら答えた。

    2010-12-19 03:30:00
  • 148:

    まり

    何だろう、この気持ち。『幸せ』、ふと呟きたくなった。優しい気持ちが心がいっぱいになる。そんな感覚は二度と無縁だと思っていた私に、藤堂さんは与えてくれた。
    私は彼の背中に寄り添って、心の中で何度も何度も『ありがとう』と言った。

    2010-12-19 03:56:00
  • 149:

    まり

    藤堂さんは、あえてそれに触れない様な感じで
    『どれも似合うから迷うな〜』と、冗談を言って私を笑わせた。
    明日は父親に会いに行く。不安と緊張で心臓がバクバクしている私に藤堂さんは
    『久しぶりのお見舞いでしょ?お父さん喜ぶね』と言ってくれた。

    2010-12-19 03:59:00
  • 150:

    まり

    私が風俗で働く事になった原因の人。それでも父親だから、憎めないでいた。
    あの日までは…。
    『ちょっとお父さん!何するの?!』
    翌日、店から藤堂さんの部屋に行き、その足で病院に向かった。

    2010-12-19 04:02:00
  • 151:

    まり

    一年半も会っていなかった父は偉く痩せこけて、見るに堪えなかった。父には予定通りの筋書で説明をした。すると、何度も何度も藤堂さんに頭を下げ、礼を言った。
    全てがうまくいく!そう思った瞬間だった。

    2010-12-19 04:04:00
  • 152:

    まり

    『ところでマリ…お前、アルバイトって何してるんだ?』と聞かれ私は
    『パチンコ店の喫茶スペースで…』と説明をしようとした。すると、父は顔色を変えて
    『じゃあ、上司ってことは、何か?藤堂さん、あんたはパチンコ店の?』と、藤堂さんを睨んだ。

    2010-12-19 04:07:00
  • 153:

    まり

    『ご挨拶が遅れました。社長をさせてもらっております』と、名刺を出した瞬間、父は藤堂さんの手を払い、お見舞いに持って来た花束を藤堂さんに投げ付けた。
    『お父さん?!』私は、藤堂さんを“アルバイト先の上司の藤堂さん”と先に説明をしてから、借金の立て替えの話をした。

    2010-12-19 04:11:00
  • 154:

    まり

    先にちゃんと挨拶が欲しかったのか?私は、父の行動が理解出来ないでいたが、藤堂さんは全てを察していたのか、黙ったままだった。
    『ごめんなさい!藤堂さん!お父さん!何すんの?謝ってよ!』そう私が叫ぶと、父はこう言い放った。

    2010-12-19 04:13:00
  • 155:

    まり

    『朝鮮人の世話なんざなってたまるか!帰ってくれ』
    父の部屋は四人部屋で、誰もが静まりかえっていた。怒鳴り声が聞こえたのか看護師さんが様子を見に来た。
    『すみません。静かにします』私は、看護師さんに頭を下げて散らばった花を拾った。

    2010-12-19 04:16:00
  • 156:

    まり

    帰りの車で私は藤堂さんの顔が見れなかった。藤堂さんは、いつもと変わらない様子だった。
    『マリちゃん!気にしないでよ?暗い顔になってるよ』
    あんな事があって、明るくなんて振る舞えないでいた。

    2010-12-22 16:06:00
  • 157:

    まり

    花を拾い終えた私は父に花を突き返して、父を睨みつけた。すると、藤堂さんは『差し出がましいのは承知の上です。ただ、彼女にこれ以上、辛いおもいをさせたくないと思いました。ご検討下さい』
    と、父に頭を下げて病室を出て行った。

    2010-12-22 16:09:00
  • 158:

    まり

    父は歯を食いしばったまま何も話さず、私は父に
    『最低…』そう言って藤堂さんを追った。
    『本当にごめんなさい』
    『え?仕方ないよ。朝鮮人てのは嘘ではないし、これでも結構慣れっこだよ』と、藤堂さんはハンドルを握って前を向いたまま優しく笑った。

    2010-12-22 16:12:00
  • 159:

    まり

    その日の夜、父は病室で首を吊った。足元には、私への遺書が残されていた。
    【まりへ。ろくでもない父親で済まなかった。】
    私は、それから一週間、仕事を休んだ。パチンコ店のアルバイトも休んだ。

    2010-12-25 14:35:00
  • 160:

    まり

    心配して藤堂さんは、何度も連絡をくれたが私は出る気になれなかった。
    親切と疎遠になっていたため葬式はせず、私の部屋にお坊さんを呼んでもらった。焼場や、そのほかの段取りは店長が手伝ってくれた。
    『ごめんね』

    2010-12-25 14:38:00
  • 161:

    まり

    『構わんよ。弟さんには知らせんでいいんか?』
    そう聞かれて私はコクりと頷いた。借金を作り、一家を離散させた挙げ句が自殺じゃ情けなさ過ぎて弟がかわいそうでならなかった。時々、里親の人から私宛てに手紙がきていたが、それによると弟は元気でいるとなっていたから、それだけで充分だった。

    2010-12-25 14:41:00
  • 162:

    まり

    『ところで…』言いにくそうに店長が話した。
    『なに?』聞きたいことは検討が付いていた。
    『お前、あげてもらうんやろ?』店長は心配そうに尋ねてきた。

    2010-12-25 14:44:00
  • 163:

    まり

    私は悩んでいた。藤堂さんに上げてもらうのに抵抗が残っていた私は、多分父に『甘えさせてもらえ』と、後押ししてほしかったんだと思う。父は反対するだけして、この世を去った。
    『うーん…』私は気のない返事を店長にした。

    2010-12-25 15:06:00
  • 164:

    まり

    店は生理休暇という事で休んだが、パチンコ店のアルバイトだけは行くことにした。この日は一人で店に向かった。店に着くと何となく私を避ける気配を感じた。父親が死んだから、回りは気を使っているんだ…なんて私の甘い考えは、次の瞬間、一瞬で吹き飛んだ。

    2010-12-25 18:18:00
  • 165:

    まり

    ケイちゃんが私を手招きした。
    『おはよう』そう言ってケイちゃんの方へ駆け寄る私を待たずにケイちゃんは事務所へ入って行った。遅れて事務所に入った私にケイちゃんがこう言った。
    『マリリン!風俗なんかで働いてないよね?!』

    2010-12-25 18:21:00
  • 166:

    まり

    私は頭が真っ白になった。ケイちゃんの問いただす様な声だけが聞こえる。
    『バイトの子がネット見てたらマリリンが風俗サイトにいたって言い出して…確かめに行ったら予約いっぱいだったみたいなんだけど。違うよね?だって、いつも、ここでバイトしてるもんね?』

    2010-12-25 18:24:00
  • 167:

    まり

    ケイちゃんは私が休んでいた間、私をかばってくれていたんだと思った。店の人にばれた事より、それが嬉しくて涙が出た。
    『泣いてちゃ分からんやん!違うって言ってや?私が誤解といたるわ!』

    2010-12-25 18:36:00
  • 168:

    まり

    この日、私は逃げる様にしてアルバイトを辞めた。パチンコ店の店長に辞めたいと申し出ると、なんとなく止めてはくれたが、
    『いずらいよな…』と、私の退店を認めてくれた。店長が私の事を疑っていたかどうかは解らないけど、すんなり辞めれたから、それで良かった。

    2010-12-25 18:43:00
  • 169:

    まり

    一応、今出ているシフトまでと打診されたが、いずらいからと即日退店した。肯定も否定も口ではしなかったが、その行動は肯定と取られたと思う。
    ただ、藤堂さんにだけは迷惑をかけたくなかった。

    2010-12-25 18:46:00
  • 170:

    まり

    藤堂さんから、すぐに連絡があったのは言うまでもない。
    『マリちゃん?!そんなことになってるなんて知らなかったんだ。本当にごめん!』仕切に謝る藤堂さんに
    『でも、根も葉も無いただの噂じゃないから』と、私は答えた。

    2010-12-25 18:52:00
  • 171:

    まり

    やっぱり甘かったんだな…。そう思った。そんなシンデレラストーリーなんて、あるわけないんだ。
    『藤堂さん…私、もう藤堂さんといれないや』
    藤堂さんの話をろくに聞かず、私は電話の電源を切った。もう、会わない方がいい。藤堂さんの立場を考えたら、私といてメリットなんて何もないから。

    2010-12-25 18:56:00
  • 172:

    まり

    次の日、私は店長にあるお願いをした。
    『お前、本気か?藤堂さんどうすんねんな?』
    『店長、この仕事むいてないね』私は笑った。

    2010-12-27 01:49:00
  • 173:

    まり

    私は系列店のソープに行きたいと申し出たのだ。早く、この借金地獄から抜け出したかったのと、パチンコ店の人に店の子として会わずに済ませたかった。
    何より、せめて早く“元風俗嬢”になりたかった。別にどうなっても良かった。藤堂さんに迷惑をかけずに済みさえすれば。弟に危害が及びさえしなければ。

    2010-12-27 01:52:00
  • 174:

    まり

    どこか、悲劇のヒロインにでもなった気分だったのかもしれない。それでも、無心で身体が売れるなら、気持ち悪くて吐くよりマシだった。
    『バンスさえなきゃな…』店長が寂しそうに呟いた。

    2010-12-27 01:56:00
  • 175:

    まり

    『仕方ないよ。店が先に肩代わりしてくれた分は、いくら父親が死んで借金をチャリに出来ても返さなきゃダメな分だから。そんな顔しないで』
    藤堂さんへは、店を辞めたことにしてもらった。携帯も変えた。寮の場所まで解らない。もう、会わないと決めた。

    2010-12-27 01:59:00
  • 176:

    まり

    古い携帯は捨てなかった。私の宝物が詰まっていたから。携帯を変える直前までケイちゃんは電話やメールをくれた。
    【そんな仕事辞めて、一緒にお水行こうや?】【事情あってんやろ?話してほしい】メールを見て毎晩泣いた。私と関わるとケイちゃんまで不幸にしそうで返事は返さなかった。

    2010-12-27 02:03:00
  • 177:

    まり

    藤堂さんからも沢山、電話やメールが着た。電話もメールもサイレントにしていたから仕事終わりに着信やメールがあっただけで、明日も頑張ろうと思えた。
    【君のいない部屋はどうも、落ち着かないよ】【マリちゃんといて、迷惑なんてことは絶対にないよ。マリちゃんがいない方が今の僕には不自由なことばかりだ。何も手につかない】

    2010-12-27 02:06:00
  • 178:

    まり

    久しぶりに付けたテレビの中で堤真一が笑っていた。
    『誰かに似てると思ったら、堤真一かぁ…藤堂さんの方が更に若いけど』のろけては空しい気持ちにもなったが、そのせいで堤真一のファンになった。

    2010-12-27 02:10:00
  • 179:

    まり

    ソープは今までと違って、体力がものを言った。慣れない私はストレスと疲れでよく体調を崩した。
    半年経っても、なかなか慣れず、出勤日数自体あまり多くはなかったが、太い客が数人付いた御蔭で時間的には楽に稼げた。それでも病みそうになると古い携帯を取り出しては、懐かしいメールを読んだ。

    2010-12-27 02:19:00
  • 180:

    まり

    そして、この日も私は体調を崩して寮で寝ていた。インターホンが鳴っても、来るのは店長か、宅配ぐらいで、それも朝からなどない。私は画面を見た。
    『朝っぱらからセールス?』そう言ってベットに戻りかけて私は思い出した。

    2010-12-27 02:23:00
  • 181:

    まり

    そして、再びインターホンが鳴って私は返事をした。すると、画面の中の紳士はこう言った。
    『朝早く、失礼致しました。わたくし、藤堂タカヤ氏の名を受けまして本日お邪魔させて頂いております』

    2010-12-27 02:27:00
  • 182:

    まり

    私は思わず解除のボタンを押していた。見覚えある紳士は藤堂さんの代わりに一度だけ店に来たことがあった。
    カーデガンをはおり、玄関をあけると紳士は深々と頭を下げ、用件を話し出した。

    2010-12-27 02:30:00
  • 183:

    まり

    『実は…』
    静かに話し出した紳士の話を聞き終わる前に、私は全身の力が抜けていくのが分かった。ガクンと膝が床に落ちた。
    『嘘でしょ…?!』

    2010-12-27 02:33:00
  • 184:

    名無しさん

    見てます?頑張って?

    2010-12-28 18:37:00
  • 185:

    まり

    ありがとうございます!

    2010-12-29 10:55:00
  • 186:

    まり

    私はその紳士、本名、初澤さんに連れられて藤堂さんの元へ向かった。半年ぶりに会った藤堂さんは顔色こそ良かったが、身体は痩せこけていた。ガンだった。発見した時には時既に遅く、抗がん剤で痛みを抑えながら、その時を待つだけだった。

    2010-12-30 00:03:00
  • 187:

    まり

    『マリちゃん…会えて嬉しいよ』痩せた、その手をしっかり握り私は頬に当てた。
    『急に姿を消すんだもんな〜ひどい子だよ』藤堂さんは優しく微笑んだ。私は言葉が出なかった。

    2010-12-30 00:11:00
  • 188:

    まり

    こんな時すら藤堂さんは私に優しい。私は藤堂さんから逃げ出したのに。藤堂さんの為だと言い訳をして、自分に自信がなかっただけだった。汚れていく自分を自分で哀れんで…。
    『疲れた顔してる。頑張ってるんだね…無理しちゃダメだよ』

    2010-12-30 18:15:00
  • 189:

    まり

    私は自分に腹が立って、腹が立って泣いた。
    『藤堂さん!死んじゃ嫌!』
    その日から、私は毎日病院へ行った。毎日、毎日、藤堂さんと居た。大切な時間がすり抜けて行くようで一緒にいても心細かったけれど一人でいるなんて、堪えれなかった。

    2010-12-30 18:18:00
  • 190:

    まり

    店からの電話は一度も出なかった。休むとだけメールしただけの私に、きっともう戻る場所はないと思った。日に日に弱っていく藤堂さんは、いつも笑顔で私にこう言った。
    『僕、幸せものだな。こうして毎日マリちゃんが隣にいてくれるんだもんね』

    2010-12-30 18:23:00
  • 191:

    名無しさん

    頑張って下さい?

    2011-01-11 18:24:00
  • 192:

    まり

    ↑ありがとうございます?

    2011-01-14 10:47:00
  • 193:

    まり

    私が藤堂さんを見舞う様になってひと月程経った、ある日のことだった。
    『今日は気分がいいんだ。マリちゃん散歩に出かけないか?』

    2011-01-14 10:56:00
  • 194:

    まり

    病状がよくない藤堂さんに外出許可が出るはずもなく。散歩と言っても病院内を車椅子でウロウロするだけだった。
    『マリちゃんは喋ってくれなくなったね』車椅子を押す私に、藤堂さんが言った。

    2011-01-14 11:03:00
  • 195:

    まり

    藤堂さんと再会して以来、私は口数が多いとは言えなかった。なんて話したらいいのか思いが言葉にならず、ただ側にいて藤堂さんを感じているだけで胸がいっぱいになった。
    『ねぇマリちゃん』そんな私の気持ちを知ってか、知らずか藤堂さんは話し出した。

    2011-01-14 11:15:00
  • 196:

    まり

    『僕は庭付きの一戸建てを建てるんだ』
    『え?』驚く私をよそに藤堂さんは続けた。
    『庭にはブランコとか起きたいな。そこでチビと日曜日になったら遊ぶ。僕は自慢出来る様な夫でも、父親でもなかった。だけど、次はチビが自慢出来る様な父親になりたい』

    2011-01-14 11:37:00
  • 197:

    まり

    『食卓には温かいご飯があって、笑い声が絶えず、僕の子供だから好き嫌い多いだろな〜ははは。小さい頃、偏食でね?』
    『そうだったの』私はくすりと笑った。
    『そうそう!やっぱりマリちゃんは笑顔がいいね』

    2011-01-14 11:40:00
  • 198:

    まり

    藤堂さんは振り返り、そう言って笑った。私の大好きな優しい藤堂さんの笑顔。もしも、もしも出会い方が違えば、遠回りなんてせず一緒にいれたのかな?

    2011-01-14 11:51:00
  • 199:

    まり

    『でね、その偏食してるチビを僕が甘やかすと君は怒るんだ。「もう!好き嫌い言わずに食べさせないとダメでしょ」ってね?』
    『え?私?』
    『そうだよ。マリちゃんは僕のお嫁さんになる人だから。きっと今はこんなに優しいマリちゃんも、結婚してチビが出来たら怖くなるだろな〜』

    2011-01-14 11:55:00
  • 200:

    まり

    『なにそれ』
    少し肌寒い季節、病院の敷地内を車椅子を押してのんびりと散歩している。手放しで幸せと言えた風景では決してなかった。それでも、私にとっては久しぶりに感じた温もりが確かにそこにはあった。

    2011-01-14 12:01:00
  • 201:

    まり

    『藤堂さん、あんまりウロウロすると身体によくないから、そろそろ戻ろう?』
    そう言って車椅子を押す私の手を藤堂さんは握って、私の話しを聞いてはいないと言う具合に話しを続けた。

    2011-01-14 12:04:00
  • 202:

    まり

    『それでも、帰ると君とチビが玄関に出てきてくれて、「お帰り」って笑顔で出迎えてくれる。それだけで僕は、また明日も頑張ろうってなれる。贅沢なんて要らない。大好きな人と、可愛いチビに囲まれて』
    そう言って藤堂さんは私の手を前を向いたまま、ギュッと握った。

    2011-01-14 12:09:00
  • 203:

    まり

    『藤堂さん、それってプロポーズ?』
    照れ臭くて私はおちゃらけた聞き方をした。藤堂さんはクスッと笑い返した。
    『さっ戻ろ?冷えちゃう冷えちゃう』
    藤堂さんは車椅子を押す私の手に器用に手を合わせたまま車椅子にもたれながら私の話を『うん、うん』と聞いていた。

    2011-01-14 12:13:00
  • 204:

    まり

    『私の小さい頃の話なんて大して面白くないでしょ?あっ!でも、これなら面白いかも!私が幼稚園の時にね?ん?藤堂さん?』
    病室に付き、足を止めると藤堂さんは優しい笑顔を浮かべて目を閉じていた。

    2011-01-14 12:19:00
  • 205:

    まり

    私は藤堂さんの横にひざまずき、藤堂さんの手を膝に置き直し話を続けた。
    『幼稚園の時にね…先生の顔がっ顔が…怖くて…私、門にね…しがみついて、離れなくて…わんわん泣いて…なぃ…門にしがみついてるから…付いた、あだ、あだ名が…セミだったのぉ…笑えるでしょ?』

    2011-01-14 12:24:00
  • 206:

    まり

    私は自然と溢れる涙を、どうしても止めれず、しゃくりあげながらも藤堂さんが聞きたがった“私の話”を続けた。
    そんな聞き取りづらいだけの私の話を藤堂さんは優しい寝顔で聞いていてくれた。

    2011-01-14 12:27:00
  • 207:

    まり

    『私…まだ、プロポーズの返事…してないよ?』
    藤堂さんは私の返事を聞くこともせず、一方的にプロポーズをして逝ってしまった。
    それからは会社の役員の人達が次々に現れては、葬儀の事や、今後の経営について各々口にしては病室を後にした。

    2011-01-14 12:32:00
  • 208:

    まり

    きっと、そんな藤堂さんだったから私の素性を知った時に、まずは何より同情したのかも知れない。
    初澤さんに勧めてもらったが、葬儀には出ず、部屋でずっと手を合わせた。

    2011-01-14 12:41:00
  • 209:

    まり

    それから数日して私は本当に久しぶりに店へ向かった。
    『きっとクビになってるだろな〜』
    そう思った私に意外な言葉が耳に入った。

    2011-01-14 12:44:00
  • 210:

    まり

    『それ、どういう意味ですか?』
    『いや、だからマリは物好きやな〜言うてんねん。借金ないのに働くて。続けるんか?店的には構わんけど』
    私は慌てて店長に連絡をとった。

    2011-01-14 12:47:00
  • 211:

    まり

    店長の話しによると、誰と名乗らぬ男の人がある日突然、私の借金を返済しに来たという。名前は何度聞いても答えなかったらしい。ただ、その風貌は初澤さんに似ていて、私は初澤さんの所へ向かった。

    2011-01-14 12:50:00
  • 212:

    まり

    初澤さんの親戚だと嘘を言い、会社に連絡を入れると思いのほか簡単に初澤さんと会えた。
    『あたなが来られる事は、分かっていました。お金の事にございますね?』
    そう言って初澤さんは微笑むと私に、封筒を差し出した。

    2011-01-14 12:53:00
  • 213:

    まり

    その字が藤堂さんのものであることは、直ぐに分かった。綺麗で誠実な字。封筒の宛名は“まり”、私宛てだった。
    『読んでいいんですか?』
    『どうぞ』

    2011-01-14 12:55:00
  • 214:

    まり

    その手紙にはこう認めてあった。
    【まりちゃんへ。きっと、君の事だから、要らぬお節介だと怒っていることだろうけど、許して下さい。歳をとると独占欲が強くなるのか、理由がどうあれ君が他の男に触れられていると想像しただけで、夜も眠れなくなる。辛抱のない男だと笑うかな?君に出会って僕は幸せでした。つかの間であったけれど、今までの人生で一番、幸せな時を過ごし夢を見た。ありがとう】

    2011-01-14 15:06:00
  • 215:

    まり

    【どうか、幸せに。素敵な人と出会い、素敵な家庭を気づいて下さい。あなたが笑顔であり続けれます様に。祈ってます。藤堂】
    私はその場で泣き崩れた。『藤堂さん!藤堂さん!』なんど呼んでも帰らぬ人の名前を何度も何度も呼び続けた。

    2011-01-14 15:10:00
  • 216:

    まり

    これは後になって分かった事だったが、弟の里親の所にも少なからず援助があったそうだ。
    そして、藤堂さんのお陰で風俗から足を洗った私は今、昼間はカフェでバイトをしながら夜は介護ヘルパーとして勤務をしている。

    2011-01-14 15:12:00
  • 217:

    まり

    どちらもバイトではあるが、充実した日々を送っている。
    そして明日は念願だった日を迎える。弟を引き取ることになったのだ。藤堂さんは会社がある限り私に毎月30万づつ振り込む様に初澤さんに遺言していた。

    2011-01-14 15:15:00
  • 218:

    まり

    私はそれには手を付けずにいる。弟の進学費にと貯めている。それと毎年楽しみにしている日が、もうすぐしたら来る。
    私の誕生日には必ず、花束が届く。季節外れのヒマワリの花束。それを受け取る度に言えなかった『好き』が溢れ出て涙が出る。

    2011-01-14 15:23:00
  • 219:

    まり

    ―――藤堂さん。見ていますか?少しづつですが、自分の思う幸せを築いていってます。あなたのお陰です。もしも、この先、他の人を好きになることがあっても、あなたへの思いは変わりません。誓えます。藤堂さん、ありがとう。大好きです。まり―――完。

    2011-01-14 15:27:00
  • 220:

    名無しさん

    お疲れ様

    2011-01-14 20:52:00
  • 221:

    名無しさん

    藤堂さんはステキな方ですね??完結おめでとう?

    2011-01-14 23:23:00
  • 222:

    まり

    お付き合い下さって、ありがとうございました

    2011-01-16 15:14:00
  • 223:

    あいみ

    今いっきに全部読みました?藤堂さん本当にすごく素敵な方です?ほんとうにほんとうによかったです??マリさんと弟さんを藤堂さんが今も見守ってくれているでしょうね?

    2011-01-28 15:57:00
  • 224:

    名無しさん

    めっちゃ泣けました?素敵な方と出会えてよかったですね?これからも応援してます?頑張ってください

    2011-01-30 00:28:00
  • 225:

    まり

    メッセージがあって驚きました。ありがとうございます?改めて読んだら誤字多くて、すみません。読んで下さってありがとうございます?

    2011-02-16 13:14:00
  • 226:

    ゆい


    とても感動しました。書いてくださってありがとう(;_;)

    2011-02-16 18:51:00
  • 227:

    名無しさん

    これ実話ですか?すごく切なくてすごく悲しくてすごく素敵なお話しでした。ありがとう

    2011-02-18 02:05:00
  • 228:

    まり

    名前は私以外は違いますが、私が体験したことです。どうしても、この思い出を何かの形で残したくてかきました。読んで下さって有り難うございました。

    2011-02-18 13:14:00
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