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ろくでなし

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  • 1:

    ◆V.1EmO5.Ng

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    2005-06-07 12:42:00
  • 21:

    ◆V.1EmO5.Ng

     遠巻きに和田、島内、小暮の3人が極上カモをゲットしそうな湯沢の一挙手一投足に嫉妬と羨望の入り交じったまなざしを向けている。
    玉城は湯沢に背を向け、ふたりのやり取りに聞き耳を立てた。

    2005-06-07 22:28:00
  • 22:

    ◆V.1EmO5.Ng

    「当社の化粧品についての感想をアンケート方式で答えてもらうだけです。お時間は取らせません。ほんの4、5分で終わりますから」
    「ええ〜、どうしようかな。なんだか怖いしぃ。アンケートとか言ってなんか買わせるんでしょ?」
     玉城は失笑をかみ殺した。いくら女が千人にひとりの極上のカモでも10年前にタイムスリップしたような湯沢の古くさいアプローチで落とすのは無理だ。普通の女なら立ち止まりもしないだろう。これでは湯沢が月に2、3本の契約しか取れないのも無理は無い。

    2005-06-07 22:35:00
  • 23:

    ◆V.1EmO5.Ng

    「いいえ、何も売ったりしませんよ。ほ、本当にあなたをモニターモデルとして当社の化粧品についてのご意見を伺いたいだけです。なんとかお願いしますっ」
    出っ歯をむき出しにして揉み手でざんばら頭を下げる湯沢の姿が眼に浮かぶようだった。

    2005-06-07 22:37:00
  • 24:

    ◆V.1EmO5.Ng

     結果は見えた。営業マンが口角泡を飛ばさんばかりに拝み倒す展開になったら、一部の例外を除いては、まず、どんな女でも腰を引く。一部の例外とは、多少不安な要素があるにしても、それを上回るだけの魅力が営業マンにある場合だ。その心理状態は危険な状態と思いつつも、持てない男が若い女の誘いに乗ってぼったくりバーに誘い込まれるパターンに類似している。

    2005-06-07 22:41:00
  • 25:

    ◆V.1EmO5.Ng

     湯沢と違って自分には、いかなる不安も懸念も相殺しておつりが来るほどの美貌と話術がある。
    「あの、私、人と待ち合わせているから、これで…」
    「お願いしますぅ〜」
     申し訳なさそうな女の声と見苦しく懇願する湯沢の声が交錯した。待ち合わせーー−でたらめ。ざんばら頭の湯沢がうっとおしくなっただけだ。女の断り文句がでたらめだということは数分後に証明されるーーー自分が証明してみせる。

    2005-06-07 22:47:00
  • 26:

    ◆V.1EmO5.Ng

     玉城は一旦ふたりから離れ、富士銀行の建物の陰に移動した。ベルサーチのセカンドバッグから携帯手鏡と電動式鼻毛カッターを取り出した。スイッチを押したーーー唸りを上げるモータ音。膨らませた鼻孔に鼻毛カッターを挿入した。ジョリッという小気味いい感触が掌に伝わった。左右の鼻孔に同じ動作を繰り返し。鼻毛カッターをしまった。続いて脂取り紙で鼻のテカリを、デンタルクリアペーパーで歯の汚れを拭き取り、口臭スプレーをシュッとひと噴きした。口内にクールミントの味が広がった。
     手鏡をのぞいたーーー端正な顔立ちにうっとりした、女が自分に夢中になるのも仕方が無い。眉ブラシで眉毛を整え、ブラシで髪をとかした後に、手ぐしでナチュラルなウェーブを作った。仕上げに頭を軽く左右に振った。手鏡の中で、要項を受けたブラウンのロングヘアがシルクの光沢を放ちながら、サラッと宙に舞った。

    2005-06-07 22:58:00
  • 27:

    ◆V.1EmO5.Ng

     「完璧だ」ーーー鏡の中の自分に微笑みかけ、身だしなみツールでパンパンに膨らんだセカンドバッグを小脇に抱えた玉城は、通りに戻った。極上カモが愛想笑いを下膨れ顔を貼りつけ、湯沢のもとから立ち去るところだった。
    「4、5分だけだからぁ〜」
    未練たらしく呼びかける湯沢の横をすり抜けた玉城は極上カモのあとを追ったーーー正面に回り込んだ。

    2005-06-08 00:47:00
  • 28:

    ◆V.1EmO5.Ng

    「さっきは、ごめんね」玉城は声を潜め、片目をつむってみせた。このウインクで落としたカモは数知れない。ウインクの後に八重歯をのぞかせながら、にっこりと微笑みかけるのが秘訣だ。驚いた表情で立ち止まった極上ガモはパンダのように汗でにじんだアイラインに縁取られた小さな眼を大きく見開き玉城を見つめた。
    「出っ歯の彼、俺の上司なんだ」さらに囁きのボリュームを落とした玉城のセリフに、瞼をパチパチさせた極上ガモがクスッと笑った。手応えありーーー玉城は10メートルほど離れた位置で憤怒の表情で立ち尽くす湯沢に冷笑を、小首を傾けてぶりっこする極上ガモに甘い微笑みを投げ分けた。

    2005-06-08 01:00:00
  • 29:

    ◆V.1EmO5.Ng

    「はっきり言ってウチは、エステの会社なんだ。湯沢さん、君に声をかけた人だけど、彼がアンケートだけって言ったのは嘘なんだ。本当のところ俺たち、ここにずっと立ってて、お客さんを捜しているのさ。だけどそれは金のためじゃない」
    「へえ、正直なのね。だけどお金のためじゃないって言うのは信用出来ないわ」
    「本当さ。いくらお客が増えても、俺たちは固定給だから関係ないんだ。でも社長がひどい男でね。1日ひとりは事務所に連れて行かないとクビになっちゃうんだよ。だから、どうせ連れて行くんなら好みの女の子がいいな、と思ってさ」

    2005-06-08 01:06:00
  • 30:

    ◆V.1EmO5.Ng

     照れくさそうに玉城はうつむき、伏し目がちに極上ガモを見つめた。伏し目ーーーはにかみ、気弱そうに、それでいて真摯ないろを堪えた瞳。母性本能に訴える眼つきを鏡相手に何百回も練習した。ハンサムフェイスの自分だからこそ効果的なのであり、相変わらず恨みがましい視線を送っている湯沢が同じ事をしても、気色が悪いだけだ。

    2005-06-08 01:15:00
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