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ろくでなし

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  • 1:

    ◆V.1EmO5.Ng

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    2005-06-07 12:42:00
  • 27:

    ◆V.1EmO5.Ng

     「完璧だ」ーーー鏡の中の自分に微笑みかけ、身だしなみツールでパンパンに膨らんだセカンドバッグを小脇に抱えた玉城は、通りに戻った。極上カモが愛想笑いを下膨れ顔を貼りつけ、湯沢のもとから立ち去るところだった。
    「4、5分だけだからぁ〜」
    未練たらしく呼びかける湯沢の横をすり抜けた玉城は極上カモのあとを追ったーーー正面に回り込んだ。

    2005-06-08 00:47:00
  • 28:

    ◆V.1EmO5.Ng

    「さっきは、ごめんね」玉城は声を潜め、片目をつむってみせた。このウインクで落としたカモは数知れない。ウインクの後に八重歯をのぞかせながら、にっこりと微笑みかけるのが秘訣だ。驚いた表情で立ち止まった極上ガモはパンダのように汗でにじんだアイラインに縁取られた小さな眼を大きく見開き玉城を見つめた。
    「出っ歯の彼、俺の上司なんだ」さらに囁きのボリュームを落とした玉城のセリフに、瞼をパチパチさせた極上ガモがクスッと笑った。手応えありーーー玉城は10メートルほど離れた位置で憤怒の表情で立ち尽くす湯沢に冷笑を、小首を傾けてぶりっこする極上ガモに甘い微笑みを投げ分けた。

    2005-06-08 01:00:00
  • 29:

    ◆V.1EmO5.Ng

    「はっきり言ってウチは、エステの会社なんだ。湯沢さん、君に声をかけた人だけど、彼がアンケートだけって言ったのは嘘なんだ。本当のところ俺たち、ここにずっと立ってて、お客さんを捜しているのさ。だけどそれは金のためじゃない」
    「へえ、正直なのね。だけどお金のためじゃないって言うのは信用出来ないわ」
    「本当さ。いくらお客が増えても、俺たちは固定給だから関係ないんだ。でも社長がひどい男でね。1日ひとりは事務所に連れて行かないとクビになっちゃうんだよ。だから、どうせ連れて行くんなら好みの女の子がいいな、と思ってさ」

    2005-06-08 01:06:00
  • 30:

    ◆V.1EmO5.Ng

     照れくさそうに玉城はうつむき、伏し目がちに極上ガモを見つめた。伏し目ーーーはにかみ、気弱そうに、それでいて真摯ないろを堪えた瞳。母性本能に訴える眼つきを鏡相手に何百回も練習した。ハンサムフェイスの自分だからこそ効果的なのであり、相変わらず恨みがましい視線を送っている湯沢が同じ事をしても、気色が悪いだけだ。

    2005-06-08 01:15:00
  • 31:

    ◆V.1EmO5.Ng

    「またまたぁ〜、口がうまいんだから。私がニキビが目立つし太ってるから声をかけたんでしょ?」
    そのとおりだ。おまけに騙されやすくて暇人で、金と男にルーズそうだから声をかけたーーー口に出す代わりに玉城は顔を上げ、まっすぐに極上ガモの瞳を射抜いた。その毅然とした顔からは、はにかみも気弱さも消えていた。

    2005-06-08 01:19:00
  • 32:

    ◆V.1EmO5.Ng

    「俺は我慢強い方じゃない。仕事だからって、退屈な時間を過ごすのはまっぴらだ。分かるかい?この意味が?会社をクビになりたくないがために事務所に客を連れて行くなら、契約するしないは別にして、好みの女の子と時間を潰したいんだよ。そうでもなければ、上司がアプローチに失敗した君に声をかけるわけがないだろう?」
     心にも無いセリフ、反吐が出そうなセリフ。歯が浮きまくった、虫酸が走った、我慢したーーー忍の記録を破るために。

    2005-06-08 01:25:00
  • 33:

    ◆V.1EmO5.Ng

     中江忍ーーー総額823万の個人売り上げレコードを持つ、32歳のオールドミス。玉城の顧客、超のつく極上ガモ。
     ソフィーでの823万以外にも、プライベートの部分で忍には金を使わせた。左手にはめている220万のピアジェ・ポロの腕時計は、先月、玉城の28回目のバースデープレゼントに、今日履いてる4万9千円のロレンツォ・バンフィの靴は、忍の給料日に買ってもらったものだ。忍は自分にメロメロだった。器量が悪くてブ男にさえ見向きもされなかった彼女が、モデルのような自分にかわいいだなんだとおだてられて、骨抜きになるのも仕方のない事だ。

    2005-06-08 01:32:00
  • 34:

    ◆V.1EmO5.Ng

     忍が看護婦をやりながら貯めた定期預金ーーー美顔に、痩身、脱毛に、化粧品に、玉城の装飾品にすべて消えた。本来ならそろそろ切り捨てるところだが、玉城のカモのうちの一人から忍がヘルスで働き始めたと聞いた。切るのはやめたーーー甘い汁は、まだ吸える。あんな女に金を払ってチンポをしゃぶられる男には気の毒だが、同情はしない。金を吸い上げるために玉城は、その、あんな女を週に1回ペースで抱いているのだ。

    2005-06-08 01:38:00
  • 35:

    ◆V.1EmO5.Ng

    「本当に口がうまいんだからぁ」極上ガモが頬を赤らめ、玉城の腕を軽く叩いた。打ち解けたふたりの雰囲気を、怨念に満ちた眼で湯沢が見ていた。
    「もし、君への思いを信用してもらえないのなら、喫茶店でもかまわない。1日ひとりは、事務所に連れて行かなければならないノルマはクリア出来ないけど、そんな事はどうだっていいんだ。君をこのまま返したくない」
     内蔵が溶け出しそうな臭すぎるセリフーーー玉城は切なげな表情を作り、さりげなく極上ガモの手を握りしめた、男に相手をされた事が無い故に、少女漫画やメロドラマのヒロインに己を置き換える忍や極上ガモのタイプには、白馬に乗った王子様を演じるのが一番だ。

    2005-06-08 01:51:00
  • 36:

    ◆V.1EmO5.Ng

    「もう負けたわ。付き合ってあげる。どうせ付き合うんだから、あなたの立場が良くなるように事務所まで行くわ。でも何も買わないわよ。それでもいい?」
    「もちろんさ。本当にありがとう。可愛いコは性格が悪いって相場が決まっているけど君は特別だね。それとも、俺が遊ばれてるのかな…」
    「何言ってるのよ。あなたって見かけによらず結構真面目なのね。さあ、事務所はどっち?」
    極上ガモに腕を引っ張られた。「ありがとう」ーーーもう一度繰り返した玉城は、再び自慢の八重歯スマイルを見せた。今の自分はノストラダムスをも凌ぐ予言者だ。100万以上の契約を結ぶ極上ガモの姿が、はっきりと眼に浮かぶ。笑わずにはいられなかった。

    2005-06-08 01:59:00
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