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◆黄昏の赤◆
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1:
緋恋◆lZf.ArgVp2
この街の月は赤く濁っていて気味が悪い。
赤い光が街を益々汚れたように見せる。
あたし達みたいな人間には美しい檸檬のような月明かりを望む事すら贅沢な事なのかもしれない。2007-05-28 23:54:00 -
301:
主◆lZf.ArgVp2
アメは慣れた手つきであたしの髪を触る。元スタイリストとでも言い出しそうなくらいに器用に櫛をつかってタイトに髪型を整えてくれた。最後にプシュッと吹き掛けられたスプレーは自然素材のような花のいい香りがする。
「こんなかんじでどうですか?」とアメの美容師ごっこは鏡を会わせ鏡にして、あたしからも後ろが見えるようにした動作で締めくくりとなった。
アメが古道具屋で散々値切って買ってきたという古びた金色のゴテゴテとした飾りフレームの姿見にうつるあたしは、知らない女のように見えた。
アメがした薄化粧と初めて塗った口紅のせいかもしれない。
大人びたような逆に幼く見えるような、よくわからない不思議な感覚。2008-04-23 22:00:00 -
302:
主◆lZf.ArgVp2
「嘘、嘘。ちょっと化粧したくらいでここまで綺麗になるとは思いませんでしたよ。」
予想外のアメのフェイントにむくれたあたしにそう言って耳元で囁く。
「俺の天使だもんね。」
「ちょっ………痛い!」
あんまりきつく抱き締められたので、座った椅子ごとよろけそうになった。2008-04-23 22:18:00 -
303:
主◆lZf.ArgVp2
それでもアメは力は緩めたものの腕を離そうとはせず、仕方なく無駄な抵抗はやめた。
こういう時、アメが泣いているんじゃないかと思ったりする。もちろんアメは泣いたりしていないけど、なんとなく。
何かを思い出したりしているのかもしれない。
「………ドクターにも見せて来たら?喜ぶと思うよ。」
ゆっくり腕をほどくと「俺も用意しちゃうし」と服を脱ぎだす。2008-04-23 22:28:00 -
304:
主◆lZf.ArgVp2
「ほんとは誰にも見せたくないんだけど」
あたしが鏡からアメに視線を向けた時、そう呟いた。後ろをむいているアメの背中の刺青からその声が聞こえた気がしてまじまじとそれを見た。
「ほら、いっといで」
振り向いたアメはいつもの笑顔で、あたしはゆっくり頷いた。2008-04-23 22:36:00 -
305:
主◆lZf.ArgVp2
ドクターはあたしを見ると押し黙ってしまった。しばらくの沈黙の後、「綺麗にしてきたな」と笑った。
「ごめんね、あたし達だけご馳走食べてくるけど………」
あたしは照れてしまってバツが悪い子どものように目をそらして早口で話す。まさかドクターが「綺麗」なんて嬉しそうな顔して言うと思わなかったから。
「ちょっと待っとけ」と部屋に引っ込んでしまったドクターをそわそわしながら待つ。
アメが来てからというものあたしの生活はすっかり変わってしまった。アメはいつの間にかドクターとも打ち解け、ドクターとアメと三人で夕ご飯を食べたりすることも今では普通。晴れ姿と言えば大袈裟かもしれないけどこうやって着飾った姿を見せにきたり………2008-04-23 22:49:00 -
306:
主◆lZf.ArgVp2
………なんだか親子のようじゃないか。耳が熱くなるのを感じた。
今日はイブだからクリスマスはドクターとアメと三人で過ごそう。明日くらいは丸一日かけてそんなに好きでもない料理をしてもいい。
そんな事を考えているまにドクターが戻ってきた。2008-04-23 22:55:00 -
307:
主◆lZf.ArgVp2
「メリークリスマス、アン。」
手渡された小さな箱にはネックレスが二つ。見覚えのあるそれは少しもくすむことなくキラキラ光っていた。
「………ベスの形見だ。もう一つは俺がベスにプレゼントしたものだ…………」
一つはおかあさんがずっとつけていたもの。もう一つも二つあわせてつけていたのを覚えている。2008-04-23 23:02:00 -
308:
主◆lZf.ArgVp2
七年前と同じ輝きを放つネックレスはいかに丁寧に手入れされていたかを物語っていた。
「あたしが貰ってもいいの………?」
ドクターは黙って頷いた。
ありがとうはただ涙になってポツンと箱の中に落ちる。
2008-04-23 23:09:00 -
309:
主◆lZf.ArgVp2
「お前を残してもらってよかった」
何も言えなくて。泣きたくないのに涙はでた。泣きながら笑ったら変な顔になって、ドクターは「化粧が落ちるぞ」と笑った。
2008-04-23 23:16:00