小説掲示板◆黄昏の赤◆のスレッド詳細|夜遊びweb関西版

夜遊びweb掲示板 関西夜遊びweb掲示板 関西
エリア選択

夜遊び掲示板を検索する

スレッドタイトルを対象とした検索ができます。※スペースのあり、なしで検索結果は異なります。

掲示板リストメニュー

◆黄昏の赤◆

スレッド内検索:
  • 1:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    この街の月は赤く濁っていて気味が悪い。
    赤い光が街を益々汚れたように見せる。
    あたし達みたいな人間には美しい檸檬のような月明かりを望む事すら贅沢な事なのかもしれない。

    2007-05-28 23:54:00
  • 2:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    雨が降っている。
    鉄鋼とコンクリートの街並みは灰色の雨と同じ色だ。ここは毎日が雨降りで晴れる方が少ない。
    酸性の雨はコンクリートを少しずつ溶かし、鉄鋼を錆びさせオンボロのビル群は軒並み老朽化している。
    ああ…今歩いている螺旋階段もいつ崩れるかわからない軋みをあげる。何回錆止めを塗ってもきりがない。

    2007-05-29 00:12:00
  • 3:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「ドクター!飯だ」
    ビールの空き缶に埋もれるようにしている男に声をかける。床にはマイヤーズの空き瓶も数本。男はピクリともしない。
    「今日はサンデイ・ピクニックのサンドイッチだよ、珈琲豆もいいのが入ってた」
    「…生ハムか?」

    2007-05-29 00:20:00
  • 4:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    男がようやく口を聞いた。
    「……生ハムにレタスにスライスオニオン」
    台所…といえたようなものじゃないキッチンからヤカンがピーピー音を鳴らす。一応使えるコンロが2つある。後一つはどういうわけかコックをひねってもガスが漏れるだけで火が付かない。
    「はやく来てね」
    口を聞いただけで動く気配のない男をおいて部屋を出る。もう11時。遅い朝食だ。

    2007-05-29 00:30:00
  • 5:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    珈琲の香りが漂う。ひきたてはやっぱり良い。思いっきり濃いブラックを大きなマグカップに2つ。
    「ブルマンか?」
    のそのそと起き出してきた姿は冬眠から覚めた熊のようだ。
    「ブルマンなんて買えねーよ」
    あたしもドクターもブラックが好きだ。

    2007-05-29 00:34:00
  • 6:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「…また雨か」
    サンドイッチを口いっぱいほうばったまましんみりと男は呟く。
    「いつもだろ。…ってか物口に入れてる時にしゃべんな」
    ドクターは生ハムにオニオンにレタス。あたしはチキンにトマトにオニオン。サンデイ・ピクニックのサンドイッチは野菜も肉もパンも上手くて街で一番だ。こんな街でまっとうに商売している事に頭の下がる思いがする。珈琲豆も扱っていて、それも上手い。
    「なんていうやつだコレ?」

    2007-05-29 00:42:00
  • 7:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「オリジナル・モカ・ブレンドだったかな…?」
    僅かにココナッツの甘い香りがする。上手いな…とブツブツ呟いている熊を無視して最後の一口を堪能。
    「アン、今日薬とりにいってくれ」
    「ドクターが行けばいい」
    「駄目だ。行け」

    2007-05-29 00:47:00
  • 8:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    美味い朝食の余韻が台無しだ。
    渋々頷いた。


    2007-05-29 00:50:00
  • 9:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    この街はゴミ溜めのような所だ。ここで産まれ育ったあたしには他と比べようがないけれど、ここがひどい場所な事はわかる。
    ほぼ一年中雨が降り不快指数は常に人をイライラさせた。大人も子供も犯罪を繰り返し、悲鳴と涙と狂気じみた享楽に満ちている。
    毎日、語れる過去もないような人間がながれてきて、ろくでもない暮らしに定着する。

    ―極めつけはこの赤い月だ。

    2007-05-29 00:58:00
  • 10:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    もうすっかり外は暗い。大嫌いな赤い月も健在だ。あたしはドクターの言いつけで街の南方面へ向かう。
    赤い赤い大きな月。獰猛な獣の目のようで。腐って溶けて今に空からドロリと垂れてきそうだ。
    この街で珍しくスッキリと晴れた日の夜にだけ赤い月はレモンのように艶やかに白く光る。そんな日は穏やかな気持ちで眠れて悪い夢もみない。
    赤い月がこの街を狂わしているんだ。―そう思えてならない。なんせ一年の四分の三は赤い月に支配されているんだから。灰色の雨と一緒に。
    ……たまったもんじゃない。

    2007-05-29 01:12:00
  • 11:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    不定期になるとは思いますがコツコツ書いていくつもりです?

    2007-05-29 01:14:00
  • 12:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    大通りに差し掛かるとふいにネオンが騒がしくなる。派手なだけの薄汚い看板が並ぶ。チカチカ点灯する赤、青、黄色。赤い雨傘を差した女達がやる気なさげにたむろしてあちこちに視線を巡らせる。いわゆる“娼婦通り”だ。
    この街では赤い傘は娼婦の目印だ。
    まだ生理すら始まっていないような少女から40すぎたオバサンまで様々。女だけじゃない、男もいる。
    立ち並ぶ建物もここいら一帯は全て娼館。見た目が小マシな奴は娼館に所属しているが、そうでないのと重度の薬物中毒、年齢の若すぎるのがあぶれて道で直接客をひいている。

    2007-05-29 04:36:00
  • 13:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    あたしの住んでいるのは街の北側。この街はどこもマシな所なんてないけれど南側は最も酷い。
    犯罪の温床。
    誰かしら何かの罪を犯している。そしてそれについて疑問を抱くこともさして無いのだろう。
    ここはそんな街。
    「だから雨は止まないの。泣いてるのずっと。馬鹿だね…可哀想だねって」

    2007-05-29 04:47:00
  • 14:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    そう言って泣いていたあの人はもういない。


    「おまえ、なにやってんのお〜」
    聞き覚えのある声に振り返る。満面の笑顔の少年が走り寄ってきた。

    2007-05-29 04:51:00
  • 15:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「スミトモか……うざい。」
    彼はこの辺の子供達を仕切っている。キッズギャングとでも言えばいいのか。この通りは女を買いにくる観光客が多い。その荷物を見事なチームプレイで分捕ったりその他も細かい悪事を働いて生計を立てている。
    “スミトモ”はもちろん本名ではなくて彼が周りにそう呼ばせているだけだ。日系らしい。
    背が低くて女の子みたいにキュートだ。黒い髪と目からどことなくエキゾチックな印象をうける。

    2007-05-29 05:04:00
  • 16:

    ?ラン?

    文章うまいし、おもしろい?
    頑張ってな?

    2007-05-29 05:11:00
  • 17:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「姫!物騒ゆえお供します」
    先程の「うざい」になんのダメージも受ける事なくスミトモは着いてくる。
    あたしは諦めて先を急いだ。こんな所には長く居たくない。
    大通りを少し路地に入るとさっきの賑わいは毛ほどもない。外観を全く気にしていないボロボロの建物は人が住んでる事にびっくりする程だ。路地はどんどん細く入り組んでいくし汚さも増していく。街と言うより巣といった方が相応しい。

    2007-05-29 05:19:00
  • 18:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「アン、違うよ!こっち」
    スミトモを連れてきて良かったかもしれない。あたしも昔はこの辺りは誰よりも詳しかった。しばらく足を運ばなかったせいか迷路のようで。…いや今でも鮮明に覚えている。
    こんな所でも時間が経てばそれなりに変わっている。
    スミトモは今のこの辺りの地理を完璧に把握しているようだ。
    見慣れた廃墟と見まがうビルに着く。…後少ししたら家に帰れる。スミトモを帰して階段を一気に駆け上がった。

    2007-05-29 05:36:00
  • 19:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    目が回る。
    この街の階段は螺旋状になっている。常に雨が降っている為滑り落ちにくいようになっているらしい。人の気配のないビルは廊下に電気すらついていない。唯一明かりの漏れている部屋のドアを開けた。
    「アンが来るなんて珍しいな」
    「ドクターのとこまで来てくれればいいのに」
    男はあたしの顔を見て笑った。

    2007-05-29 13:16:00
  • 20:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「アン、大きくなったな―……それに」
    …いや、いいやと笑って見せて男はあたしに鞄を渡す。
    それをドクターのメモを見ながら確認する。
    「…確かに。払いはドクターが」
    「しかしあいつももの好きだね―、故郷に戻って開業でもすればいいのに。腕はいいんだからさ。」

    2007-05-29 13:27:00
  • 21:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「一緒に暮らしてるのに?」

    男は意地悪な笑顔であたしを見つめる。
    「もう行くよ」
    もう一度鞄の中身をざっと確認してドアに手をかける。

    2007-05-29 13:39:00
  • 22:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「お使いご苦労様」
    振り返らずに答えた。
    「あなたも。ステファン」

    外に出るとスミトモが待っていた。帰ったんじゃなかったのか。

    2007-05-29 13:43:00
  • 23:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「ここいらは物騒だからさ」
    鞄を持とうとしたスミトモを制した。
    「大事なものだから。」
    スミトモの笑顔が曇った。あたしはスミトモがなんて言って欲しいのかわかっている。でも、何も言わない。雨音が酷くなる。無言で帰りを急ぐ。

    2007-05-29 13:50:00
  • 24:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>16 ランさん
    コメントありがとうございます?少しずつになりますが書いていきたいと思います。

    2007-05-29 13:54:00
  • 25:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>24 スミトモは裏道を巧いこと進んでいく。どうやら近道らしい。丁度娼婦通りの裏くらいだろう。
    「スミトモ!」「おい」「おはよ―」
    口々に親しげな声をかけられ笑顔で返すスミトモ。彼はこの辺りでは顔だ。裏通りには表でさすがに商売できない程年若い少年少女、化粧を塗りたくったお婆さんと言っていいような年齢の女が手製の雨よけの中に座っていた。
    子供達はスミトモを憧れの眼差しで目で追っている。

    2007-05-29 16:20:00
  • 26:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    娼婦達は皆、娼館に入りたがる。儲けは店と折半になるが安全だからだ。道端や裏で客をとるのは危険極まりない。金を払って貰えないくらいならまだいい。
    暴力に薬、おかしな趣味の奴らも多い。仕事してくる、と着いていったが最後二度と姿を見ない事もある。

    2007-05-29 16:32:00
  • 27:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    弱い奴らは雨に打たれて消えて行くだけ。皆を纏め、徒党を組み、群れることが弱者の知恵。
    間接的にスミトモに守られている子供達にとって彼はヒーローなのだ。
    法や道徳はここまで届かない。
    「せめて雨が止めばなあ」
    スミトモがポツリと言った。雨が止んだって何も変わりはしない、赤い月がそうあざ笑う。

    2007-05-29 16:47:00
  • 28:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    まだ小さな子供が雨よけの下で物乞いをしている。ギャンブルで稼いできた機嫌の良い奴が戯れに幾らか空き缶に放り込む。
    そんな金すらその子より大きい子供が盗んだりする。
    酷い街、赤い月、灰色の雨…大嫌い。
    「さっ、またな!アン」
    丁度街の北と南の境目。スミトモは今度こそちゃんと帰っていった。

    2007-05-29 16:58:00
  • 29:

    緋恋◆lZf.ArgVp2



    人だ……………
    なんて綺麗な人!!!

    2007-05-29 17:14:00
  • 30:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    また雷が轟音をたてて光った。薄青く照らされたその人はこの世のものとは思えない程美しい。
    美人なんていくらでも見てきた、娼婦通りには肌が白い奴、黒い奴、黄色い奴…頭の中身はともかく見てくれがいいのは男も女もいくらでもいる。

    “天が裂けて落ちてきた”
    そう言われても納得できる。

    2007-05-29 17:24:00
  • 31:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    男は動かない。死んでいるのかと思った。頬に触れると雨で冷えているものの暖かい。
    ……熱がある
    体を揺すってみる。男はゆっくり薄目を開けた。ヘイゼルの目。
    「…………れ」
    血の気のない唇をゆっくり動かして何か言った。聞こえない。

    2007-05-29 20:55:00
  • 32:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「…え?何?」
    男と目が合う。
    …ああ、こういう目をみた事がある。男がまた唇を動かす。今度ははっきりと聞こえた。

    「殺してくれ」

    2007-05-29 20:59:00
  • 33:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    そう言うなり男は目を閉じる。

    あたしは大雨のなか男を引きずって帰った。
    その間雷鳴はずっと鳴り響き、男は一度も目を覚まさなかった。

    2007-05-29 21:04:00
  • 34:

    名無しさん

    .

    2007-05-30 14:39:00
  • 35:

    名無しさん

    主さん
    読ませて貰ってます
    頑張って下さいね

    大ファンです

    2007-05-31 01:02:00
  • 36:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>37さん 大ファンとか?? すごく嬉しいです。面白いものが書けるかわかりませんが、頑張ります?

    2007-05-31 01:15:00
  • 37:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>35 その豪雨は夜が明けて次の日の夜が更けるまで続いた。
    空が破けたのか、怒っているのか街を叩きつけていた。
    赤い月もしばらくの間姿を隠しているようだ。

    2007-05-31 01:20:00
  • 38:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「…雨、止んだ」
    あたしは汚い床に毛布をひいて地べたに寝ころんでいる。ベッドには得体の知れない男が昨日から眠り続けているから。浅い眠りをいったりきたりしていたが、雨音が消えたのがなんだか不安で目が覚めた。
    ……なんだか明るい?
    ベッドの脇のカーテンを男を踏んづけないように開ける。
    まんまるの月が白く柔らかく発光する。この街で滅多に拝めない静かな夜。

    2007-05-31 01:28:00
  • 39:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    いつもゴミにしか見えないネズミ色の街。白く照らされた街は知らない街のようだ。
    「綺麗だね。」
    いつの間にか男は目覚めて一緒に外を眺めていた。
    「うん…」
    その一言だけ話すと男はまた目を閉じる。しばらくして寝息が聞こえだした。

    2007-05-31 01:35:00
  • 40:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    美しい夜。素性のわからない美しい男。穏やかな気分。
    いつもと全く違う夜なのになんの違和感も戸惑いもない。
    その位、静かな夜だった。

    毎日こんな日が続けばいい。明日なんて来なければいい。なんだか胸が痛むのは目を閉じて開ける頃にはこの平穏がまた遠く遠くなるのをしっているから。

    2007-05-31 01:42:00
  • 41:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    朝が来るまで、静かな時間が過ぎる瞬間を見届けるまで起きていたい。

    そう思いながら
    眠りに飲まれていった。
    アア マタ アサガ クル……………

    2007-05-31 01:45:00
  • 42:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「アン!いつまで寝てるんだ!!!」
    ドアを勢いよく開けたと同時に不快指数100パーセントの怒鳴り声。ご丁寧にスツールまで蹴り飛ばしてくれた。今日のドクターは機嫌が悪い。
    「飯、食え」
    不機嫌の理由はわかっているけど。
    やっと薄目を開けるとドクターが呆れた顔をして部屋から出ていく姿が見えた。

    2007-05-31 01:52:00
  • 43:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    蹴り飛ばされたスツールから落ちた灰皿が床に転がっている。舞い上がった灰が顔面に降り懸かっていた。
    外はまた雨がジトジトとコンクリートを腐らせていっている。またこの街のいつもの朝。
    男はやっぱり綺麗な寝顔で眠っている。
    少し気分が和んだ。ドクター作の不味い朝食をとる為に階段を下りる。

    2007-05-31 01:59:00
  • 44:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    これ見よがしに流しで顔を洗って着ていたシャツで拭く。ドクターはたまに朝食を作るがまともなものではない。冷蔵庫に有るものを出しただけ。
    それでも食べられる事自体有り難い事だ。
    「ステファンはどうだった?」
    「相変わらず服の趣味が最低。どこで買ったかわからないような柄シャツ着てた」
    ドクターは少し笑ってまた顔をしかめた。この街の人間は笑っていてもふとこういう目をよくする。

    2007-05-31 02:06:00
  • 45:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「行き倒れなんか拾ってきてどういうつもりだ?」
    「………さあ?」
    ドクターはじっとあたしの目を見ると悲しそうな目をして部屋に戻っていった。

    わかっているよ、ドクター

    2007-05-31 02:10:00
  • 46:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    行き倒れなんてこの街には掃いて捨てるほどいる。老人、大量の血をまき散らしてる奴、紙に「なんでもします」と書いて土下座してる奴、まだ小さな子供。
    でも誰も助けない。
    きりが無いからだ。もし可哀想と思って誰か助けたとして、次の日にはまた同じ場所に誰かがうずくまっている。
    関わり合いたくないからだ。飯を食わした奴に金を盗まれる、追いかけてきた奴に殴られる。
    情けなんてかけてはいけない。現にあたしは猫の子一匹拾ったことがない。

    2007-05-31 02:16:00
  • 47:

    緋恋◆lZf.ArgVp2



    ドクター、そんな顔しないであたしはあなたを裏切らない。

    2007-05-31 02:21:00
  • 48:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「起きて!」
    よく眠っている男を揺さぶって起こす。起きないので軽く頬をペチペチ叩いた。眉間にしわを寄せて軽く身動きしたものの起きる気配を見せない。
    熱はもう下がっている。寝息も正常だ。疲れているんだろう。
    少し伸び気味の瞳と同じ色をした細い髪。白い乾いた肌。長い睫。中性的というんだろうか、女でもない男でもない美しさは浮き世離れしている。しなやかな筋肉の乗った肩でああ男なんだな、とわかる。
    思わず連れてきてしまったけど、この街に不釣り合いに綺麗すぎる。きっとよそから来たのだろう。

    2007-06-01 01:39:00
  • 49:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    扉のしまる馬鹿デカい音がした。ドクターが仕事に出掛けたのだろう。ドアの振動で下の階で何かが落ちて割れる。
    「誰が掃除すると思ってんだよ」
    舌打ちして視線を戻すと男がこちらを不思議そうに見ている。
    置いておいた水差しから水をなみなみコップに注いで男に渡した。
    男は黙って受け取ると一気に飲み干した。また水を注ぐ。

    2007-06-01 01:53:00
  • 50:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「倒れてたからここに運んだ。ずっと寝てたよ。服は同居人に着替えさしてもらった。その服もその人のだよ。あなたの荷物はそこに…」
    「…死んだかと思った」
    男はそう言って笑った。

    2007-06-01 01:58:00
  • 51:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「……………」
    その笑顔はあたしを悲しくさせた。

    そういう類の笑顔だった。

    2007-06-01 02:53:00
  • 52:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「ありがとう」
    あたしは首を横にふる。お礼を言われる筋合いは無い。ただの興味本位とお節介な感傷だ。
    シトシトと雨の音が言葉が途切れて静かになる部屋に侵入してくる。
    「…行くところがあるなら早く出ていきな。見たでしょ?酷い街だから」
    「俺にはピッタリだ」

    2007-06-01 03:04:00
  • 53:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    暗い目をしたかと思うと、今度は笑って言う
    「名前を聞いてもいい?」
    「アンジュ…みんなアンて呼ぶ」

    「天使って意味だね」

    2007-06-01 03:15:00
  • 54:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「似ても似つかないけどね、そんないいもんじゃないし恥ずかしいだけだよ。」
    天使なんて。そんな名前をもらっている事自体が既に罪深い。どんなにもがいても、あたしは天国に行く事はできない。
    あの人もきっと地獄で待っている。
    この街の住人の内何割が天国にいけるというのだろう。                      
    地獄に落ちた時出会うのは、きっと顔見知りばかりだ。

    2007-06-01 03:24:00
  • 55:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「いい名前だよ、似合ってる」
    「お世辞ならいいよ。あなたの方がよっぽど天使みたいだし。」                
    「俺が綺麗なのは見た目だけだよ」

    これだけの美貌があれば自覚もあるだろう。男は苦々しげに口を歪めて悪そうな顔をして見せる。そんな風におどけてもやっぱり綺麗なままだった。

    2007-06-01 03:35:00
  • 56:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「神様はあんまり俺が出来損ないだから、見た目ぐらいはって丁寧にしてくれたんだ。」                  
    「ここには見た目も中身も適当にされたのが山ほどいるよ。」                     
    くくくっと男が笑う。あんまり楽しそうに笑うので少しつられた。                 
    「じゃあ俺って運良かったんだな。」

    2007-06-01 03:45:00
  • 57:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    そう言ったわりに嬉しくもなんともない、というような感じで吐き捨てるように笑顔を床に落とす。               
    「あなたの名前は?」

    男はじっとあたしを見つめた。不安がる子供のような顔をして。                
    「…色々好きなように呼ばれてたからな……。」

    2007-06-03 16:02:00
  • 58:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    男は少しの間、下を向いて黙り込んで何か考えているみたいだった。「…そうだ」と独り言を言って、またあたしの目をじっと見つめる。               
    「…アメって呼んでくれたら 嬉しい。」
    「アメ…………」                  
    アメは誰に話すわけでもないふうに、雨が好きなんだ…と笑った。なら雨ばかりのこけはコイツには居心地がいいのかもしれない。

    2007-06-05 00:17:00
  • 59:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「…ところで、このアパートには今空きはあるの?」              
    「ある…けど。当たり前だけど金 いるよ。」               
    アメはこの街に居着くつもりらしい。              
    「当たり前だけど、金はあるよ。」                    
    「金ある奴は普通行き倒れないよ。」

    2007-06-05 00:25:00
  • 60:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    そらそうだ とアメは表情で答えた。
    「何か少し食べた方がいいよ。」             
    キッチンで病み上がりが食べれるような物を探す。ここ数日買い出しに行っていないから食材がない。ドクターが帰って来るまでに調達しておかないと叱られるだろう。保存食を入れている棚を漁った結果、缶詰のポタージュ・スープを発見した。
    鍋に入れ替えて温めている途中、アメの事を考える。何故こんな街に来て行き倒れていたのだろう、とか“アメ”は本名ではないだろうけど妙にシックリくるな、とかそんな事だ。                  
    疑問に思った事も別に訪ねる気はない。ただなんとなく気になっただけだ。他人に興味を持つなんて珍しいなと自分で思った。

    2007-06-05 00:36:00
  • 61:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    スープだけの食事を終え、買い出しに行くと言うとアメも着いて来たがった。病人は寝てろと言ったがもう治ったと腕を振り回して無駄な動きをする。
    食事中もただの缶詰めのスープをうまい、うまいと平らげていたし、儚げなのは見た目だけで案外丈夫らしい。                 
    「わっ!!」              
    ドクターがスツールを蹴飛ばしたせいで散らかった床を片付けている途中、アメを見ると普通に着替えていた。                    
    「着替えるならそう言って!!!!」            

    2007-06-05 00:47:00
  • 62:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「純情なんだ?」            
    そう言って唇を片方だけ上げて意地悪く笑う。やはり綺麗なのは見た目だけのようだ。アメの露わになった背中に奇妙な模様を見つけた。              
    「そのタトゥーなに?」        
    「あれ?アンが俺を着替えさしてくれたんじゃなかったんだ?」           
    「着替えはドクターに頼んだよっ!!!」

    2007-06-05 00:54:00
  • 63:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    全く馬鹿じゃないだろうか。着替え終わったら言って、と後ろを向く。その背中に向かってアメが声を投げる。
    「これはねえ…ファスナー。着ぐるみなんだよ、俺は」                 
    できたよとアメが言い、振り返る。今度はアメが後ろを向いていた。できた、と言った癖に着替えてるのはズボンだけで上半身は何も来ていない。
    白い肌の上に浮かび上がる男の骨格。その上にそれとはあまりに異質な間の抜けたタトゥー。正に着ぐるみのように背骨の上に閉じたファスナーがリアルに彫られていて、ちょうど首の後ろ側の骨が突き出している所にジッパーの留め具がある。

    2007-06-05 01:08:00
  • 64:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「中身が出てこないようにしてるんだ。」              
    アメの背中をバチンと叩いた。
    「いってえ!」          
    結構いい音がしたからそれなりに痛かっただろう。どう答えたらいいか図りかねただけの行動だったが、なんだかアメは嬉しそうだ。

    2007-06-05 01:13:00
  • 65:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「小雨だな…」            
    傘も差さずにアメは歩き出す。外はけぶるように細かい雨が霧のみたいに降っていた。白く曇った外気の中浮かぶアメの姿はさながら映画の1コマ。
    この間まで熱を出していた人間がそれでは駄目だろうと隣に行って傘をささせる。                 
    「相合い傘〜」             
    ドクターと二人暮らしなので傘は二本しか無い。よく顔を合わせる近所の住人が珍しい光景に振り返る事、振り返る事…。近くにあるマーケットにつく。生鮮食品でない食料と煙草と酒と日用品が置いてある小さな店だ。

    2007-06-05 03:34:00
  • 66:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    ドクターの酒、サラミとピクルス、パンに缶詰めの魚。あとはお菓子を色々。レジで会計しているとアメが何やら色々抱えて来てドサリとレジに置く。               
    「一緒で〜」
    「いいよ」            
    結局、アメが払った。テレビのコマーシャルに出てくるような“張り切って買い物したひと”になったあたし達は荷物のせいで傘もさせないまま帰った。
    こんなふうに誰かと出かけたりする事は久しぶりだ。

    2007-06-05 03:48:00
  • 67:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    本当に久しぶりで困惑する。暖かくてこそばゆくて…苦い。      
    思イ出シタクナイ…                  
    足を速める。早く家にこもって姿を隠さなければ。もうすぐまた赤い月が顔をだす。                 
    月に見つかってはいけない、
    そんな気がしたのだ。

    2007-06-05 03:56:00
  • 68:

    緋恋◆lZf.ArgVp2





    2007-06-26 03:11:00
  • 69:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    ドクターは温度のない眼差しでアメを見る。                
    「家賃が1日でも遅れたら出ていって貰う。引っ越す金がなかろうが行く先に困ろうが病気になろうが、すぐにだ。」               
    アメはニッコリ笑って、ええ もちろん当たり前の事です。とテーブルの上にヒラリと一枚の紙を置いた。            
    「一年分前払いします。金額はそちらの言い値で構いません。」

    2007-06-26 03:18:00
  • 70:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    長い溜め息を吐くとドクターは付け加えた。               
    「揉め事も無しだ。何かあったら追い出す。その場合先払いの分は返金しないけれども…それでも?」                 
    「構いません。お世話になります。」                  
    アメはこうして、このボロアパートの住人になった。

    2007-06-26 03:25:00
  • 71:

    名無しさん

    文才ありますね!
    楽しみにしてます( ´∀`)

    2007-06-26 03:38:00
  • 72:

    名無しさん

    また 書いてくれてるんや!
    頑張って下さいね

    2007-06-26 13:13:00
  • 73:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>74さん ヘタの横好きて奴です(; ̄▽ ̄)この先も読んで貰えたら嬉しいです
    >>75さん 創作はやってみたものの難しくて色々考えていて止まってしまっていました。ゆっくりですがよろしくです?

    2007-06-26 21:49:00
  • 74:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>73 続き
    本をめくる乾いた音。この音が好きだ。文字を読みながら頭の中に文章の羅列が流れていく感じ。その合間にパラ…という音がリズムを作っていく。              
    「読者なんてするんだ?」       
    いつの間にか部屋にアメの侵入を許していたようだ。            
    「ドクターが本ぐらい読めってうるさいから」

    2007-06-27 01:25:00
  • 75:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    そう答えたものの本を読むのは好きだ。行った事のない世界を、感じた事のない感情をそれはあたしに教えてくれる。           
    「『沈黙の春』俺も読んだよ」                     
    アメは毎日のように訪ねてくるようになっていた。一緒に珈琲を飲んだり食事をとったりした。アメは自然にあたしのそばにいてそれはなんだか居心地がいい。

    「アンジュ、ちょっと出掛けよう?」

    2007-06-27 01:59:00
  • 76:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    そこは街の中心部を少し離れた所にあるBARだった。この街にこんな店があったのかと思うほど静かな店。薄暗い穴蔵のような雰囲気のなかにピカピカに磨き込まれたカウンターがある。           
    「イケる口だろ?」          
    口の端を少しあげてアメが笑う。どうやら部屋の隅に置いていた晩酌用のボトルをチェックされていたようだ。          
    「あたしまだ16だよ?」          
    アメはあたしの顔を見つめるとさっきよりもっと唇の端をあげて首をかしげた。

    2007-06-27 02:09:00
  • 77:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「…20くらいかと思ってた」             
    「16に見えない?」            
    「言われたら見えるけど、アンジュ落ち着いてるから」          
    年齢は?お仕事は?お国はどちら?
    そんな一個の様式美である問答を一切していないから、お互いの事を実はなんにも知らないのだ。なんだかおかしくて笑えた。アメも少し笑った。

    2007-06-27 02:17:00
  • 78:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「アメは?」              
    せっかくだからもう少し問答を続けてみようと今更な事を続けて聞いてみる。             
    「26からは忘れた。」
    「見た目よりジジイ」                   
    忘れたとかないでしょとアメを小突くとアメは困った顔をした。

    2007-06-27 02:25:00
  • 79:

    緋恋◆lZf.ArgVp2


    本当にに困った顔をしてアメはポツリと言った。                     
    「…忘れたんだ。」                      
    あたしから目をそらしたアメの視線は彼の瞳の色と同じ、琥珀色のアルコールに向けられていた。上等なスコッチはグラスの中で彼の瞳と同調するように揺らぐ。
    黙って下を向いた。こういう時どうすればいいのかわからない。

    2007-06-27 02:33:00
  • 80:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「よお!景気はどない―――」          
    聞き覚えのある声に振り返る。この陽気な声質に馬鹿っぽい喋り。              
    「アンじゃんか―、何してんの?」                    
    スミトモだ。いつもならウザいの一言で撃退しようとするところだかなんだか助かった気がした。
    スミトモはアメに気付いた様でアメを上から下まで一瞬の素早さで観察した。

    2007-06-27 02:43:00
  • 81:

    名無しさん

    ?

    2007-06-29 14:10:00
  • 82:

    名無しさん

    .

    2007-06-29 18:36:00
  • 83:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>84>>85さん
    上げてもらってどうもです?
    今から少し更新します?不定期になりますがよろしく?

    2007-06-30 02:15:00
  • 84:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>83 続き
    「アン、噂のべっぴんさんが最近お前が連れてる男だったんだな―」                      
    スミトモは親しみ安い声で表情も態度も温和なものの、アメを警戒しているのは明らかだった。
    場が緊迫して冷たい温度が込み上げてそこに留まる。
    あたしは女の子らしい笑顔で皆を和ます事も気の利いた話題を切り出して流れを変えることも出来ずに、ただ無表情にその場を見ていた。

    2007-06-30 02:22:00
  • 85:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「オジサン、そのトランプ貸してくれる?」              
    一番に口を開いたのはアメだった。声をかけられたバーテンダーは、汚すなよ、いいものなんだから。と言ってアメに飾ってあったトランプを手渡す。
    ディスプレイされていただけあって極彩色のキングにクイーンは表情まで見事。裏面の模様まで美しい。それなりの価値はあるだろうアンティークだ。             
    「プラスチック製じゃないからやりづらいな…………」               
    そう渋りながらもトランプを操るアメの手つきはマジシャンの様だ。生き物のようにトランプはアメの指に吸い付くように広がり、まとめられ、時に宙を舞う。

    2007-06-30 02:31:00
  • 86:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「いい手つきだな、兄チャン」            
    アメに笑顔で話しかけるスミトモは先程までの“縄張りを守ろうとする男の顔”ではなく、すっかり少年の顔に戻っている。              
    「アメだよ」              
    簡単にアメを紹介すると少年はなんともいえない微妙な笑顔をみせた。俺はスミトモ…と彼が言ったのに対してアメはヨロシク〜とゆる〜〜い調子で答える。             
    「トランプの赤と黒は1日の昼と夜を示している。トランプの数字は一年を表しているんだよ」

    2007-06-30 02:39:00
  • 87:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「元々はインドあたりで占いに使われていたカードが起源と言われているけどね」                                
    鮮やかに踊るトランプの動きとそれ以上にしなやかなアメの技巧と……おとぎ話のように語られる豆知識にあたし達は夢中になっていた。          
    「絵がついていてまとまりある数字がついているカード…これをゲームに使えるって誰かが気付くのに時間はかからなかったと思う」         
    ゆったりと流れるアメの言葉とパラパラと歌うトランプは確かに占いに使われていたというのを納得させる神秘的な空間を作っていく。

    2007-06-30 02:48:00
  • 88:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「そして誰かが賭け事にそれを使う事を思い付く。ギャンブルの歴史の始まり」       
    いつの間にかその場にいる全員がアメの言葉に飲み込まれていた。                 
    「そして、金が絡むとズルする奴が必ずでてくる。イカサマの始まり」             
    バラバラバラッとトランプが宙で踊る。いつものように唇の端を釣り上げていたずらっ子の様にアメが笑う。

    2007-06-30 02:55:00
  • 89:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「アンジュ、この中から一枚ひいてみて。周りには見せないでね」           
    カウンターに扇状に広がるトランプから一枚選ぶ。誰にも見えないようにコッソリと裏返すとダイアのクイーンが微笑んでいた。             
    「俺は後ろ向いとくから戻して好きな様に混ぜていいよ」        
    とにかく自分でもカードがどこにいったかわからなくなるくらいにきった。       
    「アン、貸せ」          
    更にスミトモはトランプがぐちゃぐちゃになるかと思う程がむしゃらにトランプをきる。バーテンがジロリとスミトモを見る。スミトモはきまり悪そうにトランプをカウンターにそっと置いた。

    2007-07-04 01:01:00
  • 90:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    もういい?と振り返ったアメはカードを一枚選んで皆に見せる。          
    「これ?」             
    「違うよ。」             
    なんだ…とだれる空気の中、真剣な眼差しでもう一枚選んでまた裏返す。            
    「これ?」

    2007-07-04 01:07:00
  • 91:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    ダイアのクイーンが笑う。                                   
    「なんでっ!!!!」       
    スミトモを睨む。                      
    「俺グルじゃないって!!!」               
    簡単な手品なんだろうけど面白いくらいその場は盛り上がった。トランプは借りたものだしカードをよく見たけどどこにも印らしいものはなかった。

    2007-07-04 01:22:00
  • 92:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「なんで俺がこのカードひくってわかったんだ??」               
    スミトモはすっかりアメに打ち解けてタネをずっと知りたがったけど最後までアメは[勘」

    2007-07-04 01:24:00
  • 93:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    で通した。             
    「知ったら面白くないでしょ。なんだそんな簡単な事かっていうような事だから」                
    スミトモは何回もせがみ手元をかじりつくようにみていたが結局何も発見できずに諦めた。                     
    「見えるからこそわからないって事もあるからね。」                
    アメはなんだか知ったふうな事を言いスミトモは悔しがって酒を一気に煽った。スミトモの頭をポンポン撫でる。

    2007-07-04 01:32:00
  • 94:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「タネがわかってもアメみたいにうまく出来なきゃバレるよ。どーせ女の子に披露してモテようとかしてるんだろ」               
    バーテンが笑いあたしも笑い、結果的に皆笑った。
    とても楽しい夜。楽しすぎて胸が痛むようで目がチカチカするような錯覚を受ける。いつぶりだろう。こんな感覚は。               
    自分の声が弾んでいるのを聞くのはほんとうにいつぶりなのだろう。

    2007-07-04 01:39:00
  • 95:

    名無しさん

    かかないの?

    2008-01-11 05:36:00
  • 96:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    久し振りにあがっていてびっくりです?お久しぶりです。
    創作は思ったより難しく詰まってしまい忙しいのもあってなんだかんだと放置していました??
    読んでくれていた方には申し訳ないです??
    ストーリーは今も考えてはいるので……?また読んでいただけるのなら亀ながら書いていきたいと思うので見つけた時読んで頂けたら幸いです

    2008-01-12 04:18:00
  • 97:

    名無しさん

    あげ

    2008-01-12 13:04:00
  • 98:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>98
    眠るの好き。色んな事もただの「無」になるから。夢をみるのは嫌い。忘れていたことが本当ははっきり覚えているだって自覚させられるから。
    古びた部屋。赤い水たまり。鉄の匂い。叫び声。ただ逃げる、ただ走る。
    何を考えてた?
    怖かった、すごく。悲しかった、とても。

    2008-02-12 21:54:00
  • 99:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    目が覚める。いつもの部屋。こんなふうに汗だくで目覚めるのにも馴れている。
    昨日の酒がまだ残っていて体がだるい。ぼんやりしているうちに夢の断片は記憶の底にまたしまい込まれていく。
    アメはどうしたろう?昨日みんなが引く程飲んでいたからまだ眠っているのだろうか?

    2008-02-12 22:02:00
  • 100:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    アメの部屋は何もない。あたしの部屋だって大して何もないけれどもっと何もない。ベッドだけが部屋のど真ん中にあってその周りに服だの靴だの散乱している。
    アメはベッドの真ん中にまるで胎児のように丸まっていて静かな寝息をたてていた。
    地べたに座ってそれをそっと眺める。
    退屈でも楽しくもない。ただ少し安心した。

    2008-02-12 22:08:00
  • 101:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    うっすらとアメが目を開ける。                
    「…アン?」            
    昨日の飲みすぎが聞いただけでわかるしゃがれ声。                   
    「どうした?退屈してるの?」                
    あたしは黙って首をふった。

    2008-02-12 22:12:00
  • 102:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    アメの目がじっとあたしを見据える。                  
    「寂しかった?」                    
    「………………」                  
    首をまた横にふると黙ってアメに背を向けてそのまま部屋をでた。
    外はいつものごとく雨。あたしは酷く自分に落胆した。

    2008-02-12 22:17:00
  • 103:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「アン!オレもう起きるから飯くいにいこー」
    アメのデッカい声が後ろから追いかけてきてあたしの思考を遮断する。                    
    「わかった」             
    なんだか涙がでそうになった。
    あたしには涙を流す資格なんてないのに。

    2008-02-12 22:21:00
  • 104:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    サンデイピクニックのサンドウィッチは相変わらず美味しい。一口食べてとても空腹だった事に気付く。
    サンデイピクニックはこの街の観光客が行き来する表の場所とあたし達の住む裏の場所の真ん中あたりある。ガイドブックにも紹介されたらしく車を改造した店舗からは客足が途絶えない。
    パンを頬張りつつアメと歩く。アメが傘をさしてくれている。あたしのはサラミにピクルス、チーズにトマト。アメのローストビーフのサンドウィッチと一口交換した。

    2008-02-18 05:27:00
  • 105:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    昔こんなふうに一緒に歩いたひとはもういない。
    隣をみるとアメが有り得ないくらい口にサンドウィッチを詰め込んでいて少し笑った。            
    「腹膨れたら元気になるだろ?」             
    アメが笑う。綺麗な笑顔で。アメの目は優しくて綺麗。あたしの大好きなあの人に目の色が少し似ている。             
    「………うん」

    2008-02-18 05:32:00
  • 106:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    あたしは誓いを破った。いや、破りつつある。

    もう誰も愛したりしないと決めていた。誰からも愛されるまいと望んでいた。

    あたしにはそんな資格がないから。そうすることが償いだと思ったから。ずっとそうやって何からも目を背けてきた。

    2008-02-18 05:37:00
  • 107:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    この街にも自分にもドクターにもあの人にも全部。
    興味を持たないように自分を見せないように。
    そうすることはあたしにとってそう難しい事ではなかった。
    あたしの嫌いな雨を好きだというこの男はあたしの封印していたものを突っついて引っ掻く。

    2008-02-18 05:43:00
  • 108:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「アン、濡れるよ」               
    少しアメから距離を離したあたしの肩を傘が届く範囲まで引き寄せた優しい腕。
    「………」            
    “アリガトウ”と言いかけて辞めた。誓いを破らない為にはこんな一言だって言ってはいけないんだ。
    けれどアメの目は何も言わないあたしから言えない言葉を見つけて微笑む。

    2008-02-18 05:49:00
  • 109:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「アメ!」      
    気の抜けた声でにへらにへらとスミトモが近寄ってきた。相変わらず野良猫のように突然出てくる。アメとスミトモはいつの間にかすっかり仲良しで…というかスミトモがアメをとても慕っていた。
    今日いつもと違ったのはスミトモが女の子を連れている。赤い傘のその女はフワフワの白っぽい金髪に緑がかったおおきな目。童話の中の女の子のように綺麗な子だった。
    目が合う。その子はあたしの事をこれ以上ない程、嫌悪感たっぷりに見やるとスミトモの腕に自分の腕を絡ませた。

    2008-02-18 06:03:00
  • 110:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    甘えてスミトモを見上げると少しキイキイした声で話す。          
    「このひとがアメさん?」       
    スミトモは軽くその子の頭を撫でる。           
    「こいつ、レイチェル。最近俺がみてる娼館の奴。」       
    レイチェルと紹介されたその子は軽く会釈をした。その仕草もとても可愛らしかった。

    2008-02-18 06:10:00
  • 111:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「アメさん有名ですよ―、格好いいし背中のタトゥーが変わってるって。スミトモが話したって言ってて羨ましいなって思ってたんです」            
    「可愛い子だね。彼女?」          
    アメがスミトモに訪ねる。レイチェルは嬉しそうにスミトモにより一層強く腕を絡める。スミトモは彼女っていうか…と口ごもっている。こういうふうにしているとスミトモもどこにでもいる15歳の少年に見えた。

    2008-02-18 06:21:00
  • 112:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「エッチはしてるんですけど―付き合ってくれなくて―」            
    「してるの!?」                
    おどけた後アメがスミトモにお前ね、そういうのはよくないよとかなんとか言ってスミトモはなんだかまごついていた。
    レイチェルはそれを見てクスクス笑っている。
    スミトモはなんだかんだであの子を可愛がっているんだろう。細い肩、痩せた体、スミトモより年下だろうから14歳くらいだろうか。雨粒が落ちる赤い傘が痛々しい。

    2008-02-18 06:28:00
  • 113:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    こういうふうにしていればあたし達もなんら普通の子供と変わりないだろう。
    けれど皆、各々の場所に戻ればスミトモはマフィアの下っ端、レイチェルは娼婦という現実がある。アメは得体が知れないしかく言うあたしは………………………………………

    悲しい?苦しい?感じたところで憤ったところであたしに何が変えられる?

    2008-02-18 06:34:00
  • 114:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    雨はあたし達の上に笑い声の上に覆い被さってくる。

    忘れるなよと言わんばかりに。雨足が強くなってきてスミトモ達とはそこで別れた。

    2008-02-18 06:36:00
  • 115:

    名無しさん

    またがんばってね

    2008-02-18 10:00:00
  • 116:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>119さん
    読んでもらって有難うございます?
    ちまちまですがこれからも読んで下さい

    2008-02-18 20:53:00
  • 117:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>118 アメと二人でアメの部屋に帰った。アメはコーヒーをいれてくれた。部屋に帰ってタンクトップ一枚になった彼の後ろ姿には首のところにジッパーの入れ墨が見える。
    コーヒーの香りと外から入ってくる音が部屋に広がる。

    2008-02-18 21:19:00
  • 118:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「……アンジュ」          
    額をあたしの肩にくっつけてアメがあたしの名前を呼ぶ。肩ごしにどうしようもない思いが伝わってきた。                              
    苦しい、クルシイ                            
    アメの頭を抱く。こうしてもらうと少し楽になるのをしっている。あの人がよくあたしにそうしてくれた。

    2008-02-18 21:34:00
  • 119:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    フッとアメが息だけで笑う。
    話さなくてもアメが何を言いたいのかわかる。                    
    ドウシテ俺ヲ助ケタノ?                         
    「アメに会った時、あなたの中にあたしを見つけたから」                  
    フッとまた息だけでアメが笑う。

    2008-02-18 21:41:00
  • 120:

    緋恋◆lZf.ArgVp2



    死ニタカッタノニ

    2008-02-18 21:42:00
  • 121:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「死に損なったんだな、俺たち」                 
    死ぬっていう事は簡単な事じゃない。どんなに死にたいって消えてしまいたいって念じたところで体は当たり前にお腹が空いて怪我をすれば痛くて疲れれば眠たくなって生きようとしていく。
    きっかけを失ってしまえば、また日は登ってなにがなんだかわからないまま、またきっかけが訪れない限りそれが続いていく。 生きていく体に死にかけの魂が引きずられていっているのだ。             
    「今も死にたい?」

    2008-02-18 21:59:00
  • 122:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    答えのかわりにアメがあたしにキスをした。                
    生きるためのキス。                             
    断る理由はない。苦しいんだ、あたしも。
    生きるために忘れるために救われるためにセックスをした。

    2008-02-18 22:03:00
  • 123:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    初めてだったけどそんなに痛くなかった。それなりに気持ちいい。アメは多分うまいひとなんだろう。                   
    どうしようもない感情がアメに抱きしめられると込み上げてくる。               
    寂しいよ。恋しい。アメにあたしがしたようにまたあたしの頭を抱いて。また手を繋いで歩いて。あたしに謝らせて。ねえ苦しい

    2008-02-18 22:07:00
  • 124:

    緋恋◆lZf.ArgVp2



    ……お母さん

    2008-02-18 22:09:00
  • 125:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    もう絶対に叶わない願望。              

    あたしが殺したのだから。

    2008-02-18 22:11:00
  • 126:

    名無しさん

    めさおもろい切ない引き込まれる(:_;)

    2008-02-19 00:22:00
  • 127:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>131 ありがとう。嬉しいです。ひょっとして131さんも小説かかれてますか?

    2008-02-19 05:00:00
  • 128:

    名無しさん

    >>130
    部屋に響いてきた螺旋階段を降りるドクターの特徴のある靴音で目を覚ます。いつの間にか朝。ベッドにアメはいない。そのかわり包丁の音が暖かく響いていた。ドアをあけると粗末なテーブルに朝ご飯が並んでいるのが見える。マメな男だ。
    「起こした?」
    「…起きた。ポテトサラダとか久しぶりにみた」

    2008-02-20 21:35:00
  • 129:

    名無しさん

    ポテトサラダにベーコンエッグ、野菜のスープ。トーストが焼けて、出来上がり。あたしの作る料理よりもずっとまともに美味しかった。
    アメはそつない感じの男なので料理が出来ることより自炊していた事が意外だった。                
    「アンジュとドクターって親子?……………じゃないか。」                   
    コーヒーを一口飲んでどう答えていいものか考えてみた。

    2008-02-20 21:48:00
  • 130:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「あたしを死に損なわせた人………かな」                  
    アメはもくもくと朝食を平らげ、あたしのお皿も空になっていった。
    お皿くらい洗うと言ってもいいからとアメが洗い、その背中に「帰るよ」と言った。
    帰ると言っても隣の部屋だが部屋には帰らずそのまま食料の買い出しに出かけた。

    2008-02-20 21:56:00
  • 131:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    ドクターは七年前死にかけていたあたしを拾った。あたしに何を要求するわけでもなくそれから今日まで一緒に暮らした。
    ドクターはドクターと呼ばれるとうり医者をしている。免許はあるが許可とかあたしの知らない色々をちゃんとしてはいないらしい。
    二階建ての小さくてボロいアパートとは四部屋しかなくて右にアメ、左にあたしとドクターが住む。一階の二部屋はドクターが仕事場として活用している。

    2008-02-20 22:04:00
  • 132:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    起きていちいち仕事場に行かなくとも、客が来ればわかるのにドクターが毎日仕事場に行くのはあたしと会うのも会わないのも嫌なのだと思う。
    それがあたしの知るドクターのだいたいの事。
    あたしに課せられているのは食料を家に置いておくことくらいだ。
    朝食は一緒にとるしたまには話すけれどあたしとドクターの間にはこれといった関係性はないように思う。

    2008-02-20 22:14:00
  • 133:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    こんな街でもそうでなくても何もしていないのに食事にありつけるのは有り難い事で。
    ドクターに拾われて七年、あの日死ぬかもしれなかったのに、今のうのうと生きている。
    あの日からあたしはただ七年の時間をふわりふわりと漂っていただけだ。
    特に楽しくもなく特に悲しくもなく。

    2008-02-20 22:22:00
  • 134:

    緋恋◆lZf.ArgVp2



    それは痛みのない地獄、喜びのない天国にただ立っているような。

    2008-02-20 22:26:00
  • 135:

    緋恋◆lZf.ArgVp2


    それは特に悲しいわけでも楽しいわけでもなく

    ただ苦しかった。

    2008-02-20 22:29:00
  • 136:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    ドクターの酒とパンとハム、チーズ。冷蔵庫とコンロの横の棚に突っ込むとアメの部屋に行く。
    いないかもしれないと思ったけれどアメはベッドで本をよんでいた。
    その姿をドアの隙間からなんとなく眺めていた。
    なんでここにいるのだろうと思いながら。

    2008-02-20 22:42:00
  • 137:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「おかえり」                        
    アメは本から視線をずらすことなくそういった。                       
    「…………………」                      
    どうしてここにいるんだろう。どうしてここに来たんだろう。
    長い沈黙が続いた。

    2008-02-20 22:47:00
  • 138:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「おいで」                           
    立て付けの悪いドアは少し開けただけできしんだ。                                      
    誓いを破ってごめんなさい。                                         
    お母さん、ごめんなさい。                                                   
    恐る恐る一歩をふみだすと後はもう一瞬だ。

    2008-02-20 22:52:00
  • 139:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

                           
    アメにもごめんなさい。                              
    あなたが死にたがっていたから、あたしと同じような顔をしていたから。                       
    自分が死ねなかったものだから                       
    だから何も出来ない癖に、あなたを生かしました。             
    ごめんなさい。

    2008-02-20 22:57:00
  • 140:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

                      
    一人で苦しむのが嫌だから。                                         
    「…猛獣使いになった気分」           
    アメはあたしを抱きしめながら、
    そう言って笑った。

    2008-02-20 23:00:00
  • 141:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    それからあまり家には帰らなくなった。隣の部屋なのだからアメの部屋にいつく必要もなかったけれど、ドクターの為の食品の買い出しと部屋の掃除以外では家にいることは稀になった。
    アメにスミトモが懐いているのでスミトモやレイチェルと一緒にいる機会も増えた。
    アメは色々な場所にあたしを連れ出す。こないだ行ったBARもそうだし変わった料理をだす店なんかに。

    2008-02-21 02:32:00
  • 142:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    アメはとっくにあたしよりこの街に詳しくなっていて、一緒に歩くとたくさんの人がアメに声をかけた。
    スミトモなんかはアメを見つけると遠くからでも子犬のように走りよってきてものすごく嬉しそうな顔をする。
    スミトモとよく一緒にいるレイチェルはアメを見つけると2人っきりを邪魔されるので露骨に嫌な顔をしたりした。

    2008-02-21 02:39:00
  • 143:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    初めて行った時、アメがトランプを披露したBARではあたし達はすっかり常連になり、アメに会いたくてよく顔をだすスミトモ、それにくっついてくるレイチェルも同じく馴染みの顔になった。
    今日もいつもの如くアメと飲んでいると二人がやってきて四人で乾杯をした。
    スミトモがアメをこづいて店の外に出ていったので、間に席を一つ開けてレイチェルと二人になった。

    2008-02-21 02:46:00
  • 144:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    レイチェルは酒が嫌いで細長いグラスでいつもジンジャーエールを飲んでいる。
    四人でいるときもあたしはあまり話さないし、スミトモとアメがいないとグラスを置く音がカウンターに響く程に静かになった。
    レイチェルは押し黙って機嫌悪そうにグラスに飾ってあったレモンをストローでグラスにの奥に沈める。

    2008-02-21 02:53:00
  • 145:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「アメさんって不思議なひとね」
    レイチェルはあたしの返事を待つわけでもなく続ける。          
    「こんな警戒心の強い奴だらけの街でもうすっかりとけ込んでる。みんなアメさんの事すきだし」                       
    レイチェルとちゃんと話すのは初めてだった。あたしはアメと一緒にいる割にはアメの事を何もしらない。            
    「スミトモも似たような感じがするけど………」

    2008-02-21 03:03:00
  • 146:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    よくわからないので、とりあえず他の接点であるスミトモの話をした。                     
    「違うっっ!!!」                    
    あたしの目を睨みつけるレイチェルの目は緑がかった優しい色なのにその奥には正反対の感情が揺れていた。
    「スミトモはそんなんじゃないっ。へらへらしてるけど、…そんなんじゃなくて………みんなをまとめないといけないから本当はもっとちゃんとしてないといけないんだけど、スミトモはそんなのしたくないの。だからへらへらしてる……優しいのスミトモはっ!」
    言うだけ言うと、半分立ち上がりかけていた姿勢を座り直し、ジンジャーエールを一口飲んだ。

    2008-02-21 03:13:00
  • 147:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

            
    「アメさんとは違う……………アメさんはなんか……。                         
    つけこむかんじ。」                    
    沈黙。レイチェルが何を言わんとしているのかがあたしにはよく理解できなかった。スミトモはいい奴なんだろうと思う。レイチェルがスミトモをすごく好きなんだろうなということはすごく解った。

    2008-02-21 03:18:00
  • 148:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「この人と同じの下さいっっ!!」
    「これ、スコッチだよ?」
    「いいのっっ」                     
    レイチェルはたった一杯で酔って、白い肌を真っ赤にしながら二杯目にも口をつけた。
    酔っ払いのレイチェルはとにかくよく喋り、普段あまり話さないあたしは情報を処理する作業にてんてこまいななった。

    2008-02-21 03:24:00
  • 149:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    三杯目になった時にはすっかりできあがり、あたしはずっとレイチェルの「あたしとスミトモ(出会い編)」を聞かされるはめになった。
    なかなか帰ってこないアメとスミトモを恨みながら横目でレイチェルを見る。
    呂律の回らない口調で一生懸命話すレイチェルは可愛かった。                      
    「シュミトモにはあ〜…感謝してるんだ。………14歳はあ…ほんとわあ…だめだけど。口きいてくれてえ…今の店いれてくれて」
    レイチェルの握りしめるグラスから酒がこぼれる。バーテンダーが急いで吹いたがお構いなしなようで「も、いっぱいいれてください」とグラスを置く。

    2008-02-21 03:35:00
  • 150:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    また訪れる沈黙。今度の沈黙は重くまとわりついてくる。
    ふいに冷たい感覚が襲う。レイチェルがスコッチをぶっかけてきた。                             
    「いつも人の事汚いモン見るような目でみやがって!!!!!!!」                           
    酒が目にしみるな…とか思ってるうちにレイチェルがつかみかかってくる。イスは倒れて馬鹿でかい音がなるし、後ろのボックスで静かに飲んでいた客が楽しげに口笛をふいた。

    2008-02-21 03:50:00
  • 151:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「離せやあ!!!」           
    騒ぎに駆けつけてきたスミトモに取り押さえられて呆気なく御用となったレイチェルは無理やりスミトモに頭を下げさせられている。
    「コイツさあ、酒飲めないんじゃなくて酒乱だから飲ませなかったんだよ。」                
    ほんとにごめん、とスミトモは今日の分の払いを店にいた客の分すべて払っていった。レイチェルは噛み殺さんばかりの形相であたしを睨んでいたけれどスミトモに引きずられながら帰っていった。

    2008-02-21 03:58:00
  • 152:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「思ったより強烈なコだったねえ」                 
    ベッドに腰掛けてアメが楽しそうに笑う。               
    「……笑ってろ」                         
    汚イモン見ルヨウナ目ェシヤガッテ                    
    ………そんなつもりなかった。

    2008-02-21 04:04:00
  • 153:

    緋恋◆lZf.ArgVp2



    あたしなんて人殺しだよ

    2008-02-21 04:05:00
  • 154:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    読んでくれている方へ。
    読み返してみると誤字がとても多くてすいません。訂正はしてませんが間違ってる――と流しておいてください(゜〇゜;)?

    2008-02-21 04:32:00
  • 155:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>161
    「……何か言った?」                 
    アメの声で我にかえる。
    「………何も」   そっか…と呟くアメはあたしを腕のなかにいれて後ろから抱く
    「アンジュが可愛いから嫉妬したのかもね―」

    2008-02-21 08:42:00
  • 156:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    アメは勘がいい。わざとあたしの顔を見ないようにしてわざと全然違う話をふっているのがなんとなくわかった。                
    「レイチェルのがよっぽど綺麗だよ、あたしは全然女らしくないし」
    あたしは髪もやっと耳下くらいに伸びたところで。服だってデニムにタンクトップ。お世辞にしても言い過ぎで失笑してしまった。                     
    「綺麗っていうのはさ、綺麗に演出しているから綺麗なんであってさ。何もしてなくても綺麗なアンジュはすごく綺麗だよ」
    「……ボーイズバーの兄チャンみたい」

    2008-02-21 08:53:00
  • 157:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「ほんとだって!アンジュ黒似合うし。俺なんでも着こなすけど唯一似合わない色が黒。色素薄すぎて俺ダメ。い―なぁ」             
    呆れて何も言えない。                    
    「それに好きなタイプ黒髪美人」
    「アメとかレイチェルみたいに綺麗な色の方がいいよ」                    
    あたしは笑った。昔を思い出した。

    2008-02-21 08:59:00
  • 158:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    母親はヨーロッパ系で父親は会った事もないが多分中国系。子供心に日に透ける母の髪は美しく見えた。
    「あたしもそんな色がよかった」と言うと母は笑った。                
    「アンジュの髪の色はお父さんと同じ色。大好きな人とあなたが同じ黒髪で嬉しい。黒はあたしの一番好きな色。」                    
    あたしが一番好きだったのはお母さんの髪の色。             
    少しアメの髪や目と似た色。

    2008-02-21 09:06:00
  • 159:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「それにアンジュは会った頃より女らしくなったよ。言葉も綺麗になってきたし」                    
    まだ言ってるのかと思いつつアメの顔が見えるように向き直る。
    アメは勘がいいからすぐにキスしてくれた。もう話はしたくない。
    とっとと疲れて眠ってしまいたい。                          
    アメの肩を抱きながら、自分は馬鹿なんじゃないかと思う。こうでもしていないと溺れてしまいそうだ。

    2008-02-21 09:15:00
  • 160:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

                

    そして、それはアメも同じなんだと思う               

    2008-02-21 09:17:00
  • 161:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

                           
    「アンジュとアメさんって付き合ってるのぉ?」                     
    レイチェルはあの一件以来、よく一人で訪ねてくるようになった。あたしに対しての以前のような嫌悪は爆発しきったのだろうか。          
    「違うと思うよ」                
    「へんなのぉ」と面白くなさげに彼女は煙草に火をつけた。

    2008-02-21 22:48:00
  • 162:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

                           
    「アンジュとアメさんって付き合ってるのぉ?」                     
    レイチェルはあの一件以来、よく一人で訪ねてくるようになった。あたしに対しての以前のような嫌悪は爆発しきったのだろうか。          
    「違うと思うよ」                
    「へんなのぉ」と面白くなさげに彼女は煙草に火をつけた。

    2008-02-21 22:49:00
  • 163:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    バニラのような甘い芳香の煙が主のいないアメの部屋に広がる。                        
    「じゃあ、なんなの―?いつも一緒じゃん。」                  
    レイチェルのライターもシガーケースもこれでもかというくらいピンクのラインストーンがついていて視界に入る角度が変わる度に光った。                           
    「…遭難した者同士」                         
    「意味わかんない」

    2008-02-21 23:20:00
  • 164:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    それから一通り大好きなスミトモの事を気が済むまで喋るとレイチェルは赤い傘をさして帰っていった。
    アメがレイチェルの為のお土産にと赤やピンクの砂糖粒がたくさんついたドーナツを買って帰ってきたけど、入れ違いだったのでドーナツはしばらく放って置かれた。
    夜中に思い出してブラックコーヒーでごまかしながら食べるとその時にはもう固かった。

    2008-02-21 23:46:00
  • 165:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    砂糖粒のドーナツはあたしに悪夢をつれてきた。                 
    悪夢?                        
    ……違うな                           
    これはただの過去だ

    2008-02-21 23:53:00
  • 166:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    お母さん。綺麗な母。優しいお母さん。
    おやつにいつも色とりどりの砂糖粒がついたドーナツを買ってくれる。
    本当はあたしが好きなんじゃなくてお母さんが好きだからなんだけどね。
    仕事は娼婦。
    お父さんはいない。見たことない。欲しいと思ったことも別にない。

    2008-02-21 23:57:00
  • 167:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    お母さんは泣き虫。たまにあたしに隠れてしょっちゅう泣いてる。
    けどあたしが抱きつくとすぐ笑う。
    「二人でお父さんが迎えに来るまでがんばろうね」っていつも言う。
    あたしは別にお父さんなんていなくていいけど、お母さんが待ってるからはやく迎えにきてあげて欲しいと思う。

    2008-02-22 00:01:00
  • 168:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    お母さんにはたくさん男の人が会いに来る。怖いひともいたし優しいひともいた。
    最近よく来るひとは字を教えてくれたりお土産にドーナツを買ってきてくれたりする。
    それもお母さんが好きだからなんだけどね。
    けどこないだは絵本をプレゼントしてくれた。
    イタズラばかりする子ウサギのお話なんだ。

    2008-02-22 00:06:00
  • 169:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    お母さんはよく泣くようになった。前は隠れて泣いてたのにあたしが目の前にいても泣く。
    お母さんを抱きしめても笑ってくれなくなった。
    前は仕事が終わると一緒に寝てくれたのに今はあんまり寝ないでずっと起きてる。
    いつもしんどそうにしているのに急に元気になって大笑いしだしたり走り回るようになった。

    2008-02-22 00:10:00
  • 170:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    ある朝の日。目が覚めるとお母さんはいなかった。窓の外からお母さんの声がするから外にでた。
    お母さんは大笑いしながら傘もささないで大雨の中をくるくる走り回ってた。
    裸足だった。
    時間が止まって見えた。怖くて声がかけれなかった。
    だんだん見てるだけの方が怖くなってきて「お母さん」て大きな声で呼んだけど聞こえなかったみたい。

    2008-02-22 00:15:00
  • 171:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    だんだん話しかけても話が通じなくなった。
    あたしの事見えてないみたいだから目の病気かと思ったけど目は見えてるみたい。
    仕事もいかなくなったからお金がないし食べ物もない。
    あたしは近所の店からよく物を盗んで食べた。お母さんの分もあったけどお母さんはほとんどたべない。

    2008-02-22 00:23:00
  • 172:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    お母さんがある日優しく話しかけてきた。嬉しかった。
    駆け寄るとお母さんはあたしを抱きしめてくれた。


    そのままあたしの首をしめた。

    2008-02-22 00:26:00
  • 173:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    怖くて                                                       
    怖くて
    怖くて
    怖くて

    2008-02-22 00:28:00
  • 174:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    目の端に果物ナイフが映った。

    とっさに握ったそれは                                                      
    とても冷たかった

    2008-02-22 00:31:00
  • 175:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

                         
     アンジュ                           
    「うなされてた」                   
    「…………!!!」           
    覗き込むアメの顔が一瞬、母親の顔に見えてぞっとする。

    2008-02-22 00:37:00
  • 176:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    次に気づいた時はアメに抱きしめられていた。
    「落ち着いたね?」
    黙って頷くとアメは安心したようで、何か持ってくるよとドアの向こうに消えた。
    心臓がまだ脈打っている。
    「アメ!」

    2008-02-22 00:42:00
  • 177:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    出す必要もない程の大声がでた。
    怖い。                        
    「アメ!」                    怖い。                       
    「アメ!」          
    ここにいて。

    2008-02-22 00:46:00
  • 178:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「そんなおっきい声ださなくて………」                  
    ドアを開けるなり抱きついたあたしをあやすように抱きしめながら              
    「トップブリーダーになった気分……」        
    とアメが呟く。
    なんだそりゃ…と突っ込む余裕すらあたしにはなかった。

    2008-02-22 00:50:00
  • 179:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    あたしがあんまりよりかかるのでアメが持っていたマグカップが落ちた。
    マグカップは割れずにごろりと音をたてて床に転がる。こぼれたあたためたミルクの匂いがした。
    涙がでた。そのままずるずるとしゃがみこんで泣いた。
    「お母さんを殺した……………………。」          
    アメは「そっか」とだけつぶやいてあたしを抱きかかえてベッドに戻した。

    2008-02-22 00:59:00
  • 180:

    名無しさん

    ずっと見てます?
    この話のキャラクターや描写、世界観好きです。予想つかないストーリーも気になります。
    更新楽しみにしているので頑張ってください?

    2008-02-25 00:12:00
  • 181:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>186さん
    感想とても嬉しいです。これを書き終えたらサイドストーリーも書きたいと思ってます?
    完結までおつきあいして下されば幸いです

    2008-02-25 01:33:00
  • 182:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>185
    「今日はもう寝な」                          
    夢の続きを見るのが怖くて。震えがとまらない。
    だってまだ手にナイフの感触が残っている。
    あの時握ったナイフが血でベトベトになるまで刺した。

    2008-02-25 01:42:00
  • 183:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    刃物が肉にめり込む感覚。悲鳴。酷い土砂降りで。部屋中に雨の音がしていた。
    お母さんはあの時、泣いてたのかな。笑っていたのかな。どんな表情であたしを見たのだろう。
    …覚えていない。
    血でぬめったナイフが手から滑り落ちて、ボコボコの木の床が鈍い音を立てて、全てが終わった。

    2008-02-25 01:48:00
  • 184:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    酔っ払った時のように記憶はコマギレで。なのに忘れたいところはいやに生々しく、温度、湿度、匂い……五感の全てがあたしに訴えかけてくる。                     
    忘れるなよ                      
    お前は人を                              
    母親を、殺した。                           

    2008-02-25 01:54:00
  • 185:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

                              
    「あの時にはもう気が狂ってた!!!」                    
    だからあたしが殺したあの人は、優しかったお母さんじゃない。                         
    「あにしの事をころそうとした!」                     
    だから、殺した。

    2008-02-25 01:59:00
  • 186:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    それは言い訳。
    どこかで仕方なかったって思ってるし思おうとしている。                 
    けれどそれも言い訳。                       
    「殺したくなかった」                     
    それだけが本当の思い。

    2008-02-25 02:08:00
  • 187:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    お母さんを殺してまで生きたいと願ったわけじゃない。

    お母さんを殺してまで生きた癖に自分から命を絶つなんて今はもうできない。
    今更死んでもなんの意味も成さないから。
    今、死ぬくらいならあの時一緒に死んであげればよかった。

    2008-02-25 02:21:00
  • 188:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

                                        
    「あなたはあたしにとって天使だから、だからアンジュってつけたの」                                                 
    「天使っていう意味よ」                                                    

    2008-02-25 02:25:00
  • 189:

    緋恋◆lZf.ArgVp2



    ごめんなさい。

    2008-02-25 02:26:00
  • 190:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    アメはずっとあたしを抱きしめてくれていた。その体温がどんな言葉よりあたしを慰める。
    そして責める。
    こんな時間なんて持ってはいけなかった。一生孤独に生きなければならない。癒されてはいけない筈だった。
    それを罰にしようと思った。

    2008-02-25 02:37:00
  • 191:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

               
    なのに……救いを見いだしました。       
    あさましくも。                    

    2008-02-25 02:45:00
  • 192:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「アン、最近女っぽくなったなあ」
    「……ガキにそんなの言われたくねえ」
    下品きわまりない笑い方がいっちょまえにオッサンのスミトモとはサンデイピクニックで出くわした。
    昨日ずっとあたしが眠るまで赤ちゃんをあやすように背中をさすってくれたアメはまだ眠っている。
    お詫びといっては何なのだけれど朝食を調達しに来た。アメの金だから詫びになるかというと微妙だ。

    2008-02-25 03:00:00
  • 193:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    なんだか気分が良かった。あんなに泣けば多少は気が済んだ気がする。             
    「つれないじゃん。俺ずっと前からアンの事気に入ってるのに」
    どこの三文芝居の適当な役者のセリフだよとスミトモを睨む。こっわ〜とスミトモはジェスチャーで答えた。一連の流れが見事にレトロ。
    「レイチェルに言う」
    「言えば」

    2008-02-25 03:08:00
  • 194:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「けど、そしたらまたアイツ、アンの事殴るな」
    笑っている割になんだか投げやりに言うスミトモは寂しそうに見えた。
    「喧嘩したの?」
    「別に」
    話してる間に注文していたバケットのサンドイッチは相変わらず美味しそうに出来上がり、スミトモは既に一個食べたらしいのに人のものを見て食欲をそそられたらしくもう一つ注文した。

    2008-02-25 03:15:00
  • 195:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    スミトモは無言だが一緒にいてほしそうに感じたのでなんとなくその場に留まる。                 
    「……やっぱり女らしくなった。」                    
    ガキの癖に随分と大人びた事を言うものだと思った。その後自分もたいして変わらない年齢だというのを思い出した。
    「なんか変じゃない?」
    「なにが?」

    2008-02-25 03:22:00
  • 196:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    お前がだと言おうとしてやめる。レイチェル作だと思われる大量のキスマークをスミトモの首もとに発見して呆れたのもあるし、言わない方がいいような気もしたから。
    「首…すごいよ」
    「おう。」
    なにが「おう」なのか生返事を返したスミトモは後ろ手を降りつつ去っていった。
    「サンドイッチは―?」

    2008-02-25 03:31:00
  • 197:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「やっぱいいわ〜アメにやって〜」           
    アメはそんなに食べないしスミトモのサンドイッチはドクターへのお土産にしよう。
    帰ってアメとサンドイッチを食べよう。
    生きるために。

    2008-02-25 03:41:00
  • 198:

    緋恋◆lZf.ArgVp2



    生きるために

    2008-02-27 04:16:00
  • 199:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    昨日全てを吐き出したあたしはアメにすがって「消えてしまいたい」と言った。
    死にたいとかそんなんじゃなくて。ただ消えてしまいたいそう思った。             
    「だめ。」                       
    涙でぐしゃぐしゃになったあたしの顔を強引に持ち上げられた。そらそうとしたけれど男の力だ、かなわない。アメは出会って間もない頃に見せたあの笑い方をした。唇を片方だけつりあげて意地悪く笑う。無理やり合わせられた瞳には何がうつっていたのか。涙で全てが歪んで見えたあたしには知れない。
    「だ――――め」

    2008-02-27 04:27:00
  • 200:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    あたしの顔を支えていた手を離して腕を首にまわす。きつく引き寄せると耳元でアメが囁いた。          
    絞り出すようなかすかな声で。             
    その声は震えていた。                           
    「アンジュがいなきゃ息も………できない」                

    2008-02-27 04:33:00
  • 201:

    緋恋◆lZf.ArgVp2



    ねぇアメこのまま二人でまっさらな、どこかへ。誰もしらないとこへ、自分の事すら知らないような。                      
    ほんとうにまっさらなとこに。                      
    逃げ出してしまいたいね

    2008-02-27 04:38:00
  • 202:

    緋恋◆lZf.ArgVp2


    たとえるなら楽園?                  
    天国?                        
    そんなところ地上のどこにもないから                 
    人はその場所をそう呼ぶんだろうね

    2008-02-27 04:41:00
  • 203:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    あたしがいることでアメが溺れないのなら
    あたしは生きていたいって
    七年前のあの日から初めて思った。

    2008-02-27 04:44:00
  • 204:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「おかえり」             
    出かけた時には爆睡していたアメはすっかり活動していて何やら料理を作っていた。相変わらずマメ。「遅かったねえ」
    「スミトモと会ったから少し話してた」            
    「…浮気発覚!?」
    「言ってろ」

    2008-02-27 04:50:00
  • 205:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    あたたかく柔らかい時間。
    抱きしめられいるような頬ずりされているようなこそばゆい時間。
    いつしか無くしていた時間。

    アメ、あたしこそ…あなたがいるから息ができたのかもしれない。

    2008-02-27 04:57:00
  • 206:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「最近あまり帰ってこないんだな」                   
    サンドイッチを持って帰ると昼過ぎなのに珍しくドクターがいてポツリと言った。そんな事を言われるなんて意外だったので「……うん」とだけ答える。どんな顔をすればいいのかわからなくて、かなりつっけんどんな感じになったと思う。
    「サンデイピクニックか………」
    昼ご飯まだだったから丁度いいと独り言みたく言ってドクターが黙々と食べ出してあたしはとりあえずコーヒーを沸かそうとケトルを火にかける。

    2008-03-03 01:18:00
  • 207:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    あたしが買ってきたコーヒーは袋に半分程まだ十分に残っていてココナッツの甘い香りがした。               
    「アン、笑ってるな……お前」                      
    言われて初めて今自分が無意識で笑顔になっていた事に気づく。…確かに笑っていた。
    ピーピーとケトルがなって湯が沸いたのを知らせる。ふうっとため息をついてドクターは眼鏡を外し目をこすった。すごく疲れているようにみえた。
    「……アン、やかん、沸いてる」

    2008-03-03 01:25:00
  • 208:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    慌てて火を止めてコーヒーをいれ始めた。ドクターと目を合わせずらくて、たらたらと時間たっぷりに作業をした。だからといって丁寧なわけでもなくコーヒーの粉が無駄にこぼれた。
    なんだかいけないことを指摘されたようなばつの悪い気分がしていてコーヒーがドリップされる時間が長く感じる。
    大きなドクターのマグカップにたっぷりと濃いコーヒーをそそいでテーブルに置いた。
    「…………いい」
    「えっ??」

    2008-03-03 01:33:00
  • 209:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「それでいい、アンジュ」                        
    分厚い眼鏡を外したドクターの優しい目を見てあたしは思い出した。                    
    「お前は悪くない、笑っていればいい」                  
    あたしに絵本を買ってくれた優しい人。
    ドクターは母親の恋人だった。

    2008-03-03 01:38:00
  • 210:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    どうして今まで気づかなかったのだろう。7年も一緒にいたのに。                        
    ドクターは自分から恋人をうばったあたしを何もいわずに引き取っていたのだ。
    一体それはどんな気持ちだったのだろう。

    2008-03-03 01:43:00
  • 211:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「………どうして?」                                 
    あたしが気づいた事を察したドクターは悲しそうに目を伏せた。                      
    「お前は悪くない」
    「悪くないわけない!」
    「お前はまだ小さかった。」

    2008-03-03 01:47:00
  • 212:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    あの男がドクターだった。                        
    お母さんと話すとき恥ずかしそうによく目を伏せてた。
    「シャイなひとね」とお母さんは笑っていた。
    二人は幸せそうにみえた。                      
    「ごめんなさい」

    2008-03-03 01:59:00
  • 213:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「ドクター、ごめんなさい」                       
    ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
    自分に罪を課したようなつもりで。ただ無気力に生きて。母さんだけじゃなくてドクターからも幸せを奪ったのにも気づかず、赤い月と街にいろんな事をなすりつけて苦しんでいる気になってた。                    
    足の下の方から襲ってくる虚脱感。落ちる、落ちる。

    2008-03-03 02:06:00
  • 214:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「お前は見つけた時には半狂乱で体力もかなり衰弱していた。事件の前後の事を覚えてなくても仕方がない。……まだ九歳だったんだ」                             
    「あたしを憎んでるだろ」                             
    「…………いや」
    「嘘だ!!!」

    2008-03-03 02:11:00
  • 215:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「………なんで見殺しにしてくれなかったの」                         
    お母さんを刺した日。土砂降りの中をずぶ濡れになりながら走った。きっと血まみれだった。お母さんを刺したけどお母さんにも刺された。
    雨に濡れてたくさん血がでた。最初は痛くなかったけどだんだん痛みが増してきて走れなくなった。
    そんなに遠くには行けやしなかったろうけど、どこかの建物の陰にうずくまっていた。血が出すぎたのか体も動けなくなって、のたうちまわる事も出来なくなってきてとびとびになる意識の中、このまま死のうと思った。
    目を閉じる頃には安らぎすら感じていた。

    2008-03-03 02:19:00
  • 216:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    更新分 >>212-222

    2008-03-03 02:23:00
  • 217:

    名無しさん

    あー!もうくそおもろい!上手!!せつねぇ!!主さん更新ありがとう(^^)?

    2008-03-03 09:26:00
  • 218:

    名無しさん

    つまんね

    2008-03-03 12:44:00
  • 219:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>224さん
    ありがとうございます(>_>225さん
    すいません けど感想ありがとうございます

    2008-03-03 14:21:00
  • 220:

    名無しさん

    初めて読んだけどめちゃおもろい?やばい?

    2008-03-03 19:39:00
  • 221:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>227さん
    一時期中断していたのでまた初めて読んでくれた人がいて嬉しいです?
    感想うれしいです?

    2008-03-05 04:32:00
  • 222:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>222
    「お前は…殺してない」                         
    「……何…言ってるの?」                                  
    「…お前はベスを殺してないんだよ…………」                   
    「そんな気休め…いらない!!!!」

    2008-03-05 04:37:00
  • 223:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    部屋は全くの無音に思えた。外から漏れてくる音だけが乾いたような感触で響いたけれどこの部屋と外は別の次元の空間のようだ。
    足先が冷えて指の先まで小刻みに震えている。言葉を発する度に体内を満たしているなにかが吸い取られていくような感覚に陥る。                      
    「お前の母親を……ベスを殺したのは俺だ。」                                 
    血の気を失って白い唇のドクターが涙を溜めた目であたしを見つめた。

    2008-03-05 04:48:00
  • 224:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「…………そんなわけない」                  
    「…………何回も刺した……………………………………………血がいっぱいでて…………………………動かなく……なるまで………刺し……」              
    「………子供の力だ、俺が見つけた時には、まだ生きていたんだ」               
    「……あたしが殺した……」                   
    「お前にはすまない事をした。人として医師として、許されない事をした。」

    2008-03-05 04:57:00
  • 225:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    後ろによろけると壁に背が当たって、そのままもたれ掛かろうとしたのにぐにゃりと床に尻餅をついた。                       
    「…意味がわかんない、ドクター」                            
    ドクターは祈るような格好でテーブルに突っ伏して動かない。泣いている。                    
    「…助けようと思えば助かったんだ。………だが…助けなかった。」

    2008-03-05 05:03:00
  • 226:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    頭の中は酷く鈍く動いて、ドクターの言葉が右から左へと流れていくだけだった。強く殴られた直後のように耳鳴りのようなものが脳内に反響する。                  
    「……お前には本当に済まない事を……………お前が心に傷をおっているのを知っていたのに…お前が気づかないのをいいことにそのままに…………お前はベスに似ているから…つらくて…最近は顔もあまり合わせられなかった」                        

    2008-03-05 05:13:00
  • 227:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    なんだか混乱している。
    お母さんはあたしが殺したんじゃない?
    ドクターが殺した?
    ドクターは傷ついたお母さんを見殺しに?
    あたしのことは助けたのに?

    2008-03-05 05:17:00
  • 228:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    のそりと立ち上がって力の抜けている足をドクターの方へ向ける。体の緊張はもう収まっているのに、なんだか肌がビリビリ強張っている。
    うなだれているドクターの肩のあたりのシャツを掴む。膝をついてドクターの耳元に近づく。                    
    「母さんを愛してなかったの?」             
    「………愛していたよ。だから…助けなかった。助けられなかった。」

    2008-03-05 05:24:00
  • 229:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

                               
    「もう殺してくれって言ったんだよ、彼女が」                                         
    優しい、優しい、ちょっと情けない、ドクター。
    好きな女の言うことみんな聞いてしまうような人。あなたがそんなに苦しむ必要はないのに。

    2008-03-05 05:29:00
  • 230:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「あたしの事お母さんが頼んだの?」                   
    「…アンジュの事を頼むと言われた………それに………罪滅ぼしだと思った。」                           
    お母さん……優しい、優しい、弱い人。

    2008-03-05 05:32:00
  • 231:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    どうしてみんなしてこんなに苦しまなくてはならなかったのだろう。                       
    大きな背を丸めてドクターは泣いている。ずっと苦しんでいたんだ。
                                       
    「泣かないで、ドクター…」                       
    ドクターの頭を抱いた。お母さんがあたしにしたように。あたしがアメにしたように。あたしの涙でドクターのシャツの襟口が濡れて色が変わった。

    2008-03-05 05:42:00
  • 232:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    更新分>>229-238

    2008-03-05 05:44:00
  • 233:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>238
    「ふーん…じゃあアンジュとドクターは共犯だ」                               
    アメは話しを聞いてもさしてなんの感慨も抱くことなく世間話のような調子で言う。                     
    「………やめてよ」          
    ドクターはあたしを悪くないと言った。けれどあたしがした事がなければ母は死ななかった。どのみち重度の薬物中毒だったらしくあの時死んでいなくても今生きていたかはわからないけど。    

    2008-03-12 01:56:00
  • 234:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「ドクターのした事は間接的にお母さんを殺した。けどあたしが刺さなきゃ死ななかった………」         
    「アンジュは子供だったじゃん。殺されかけて抵抗してソイツが死んで何が悪いの?俺は倫理的にいうとドクターがわるいんじゃないかと思うけど…大人なんだし」             
    「………どっちが悪いとかじゃないよ」               
    アメはベッドに雑に腰掛けると暫く何か考え込んでるふりをした後、意地悪な笑顔をした。誰に向けるわけでもないその笑顔は冷たい。

    2008-03-12 02:09:00
  • 235:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「悪いとか悪くないとかそんなに重要?」
    「ちょっ…」                                      
    あたしの手を乱暴に引っ張るとベッドに投げつけるように押し倒した。                        
    「グダグダうるせえな、おまえら。罪を犯せば罰でも下るのか?現にくだってねえだろーが。忘れてヘラヘラ生きりゃあいい!!!」                              
    きつく握られた手首が痛い。アメの目はあたしの目の数十センチ先にあるだけなのに何も映していないように見える。

    2008-03-12 02:23:00
  • 236:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「おまえといると余計な事ばっか思い出すんだよ」                                     
    アメの指が頬をゆっくり伝う。ひとくくりに片手で掴まれた手首はビクともしない。                                  
    「俺はおまえさえいればいいんだ」                             
    そう言って唇の片端をあげて笑う。

    2008-03-12 02:29:00
  • 237:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「…………忘れられない」                                 
    頬に触れるアメの指があたしの涙に触って止まった。                             
    「忘れたふりはできても…………忘れられない」                               
    アメは「そうだね」と呟いてあたしの手をそっと離した。

    2008-03-12 02:33:00
  • 238:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    あたしはなんだかアメが怖かったのとアメの目がもとのアメに戻ったのに安心したのと単にびっくりしたのとで、べそべそと子供のような汚い泣き方をしてしまった。                      
    「痛かったな、ごめん………」                             
    アメはあたしに触れるのを少しの間ためらって「触ってもいい?」と聞いていた。黙って頷くとあたしに後ろをむけて膝枕してきた。
    鼻をすすりながらアメの頭をなでると、子供の頃人懐っこかった近所の猫が死んでしまっているのをみて泣きながらソイツの頭を撫でたのを思い出して、また涙がでた。

    2008-03-12 02:42:00
  • 239:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    夜が白んできていて雨も小雨だから明るくなってきていた。薄青い部屋の中はすべてをぼんやりと青っぽく見せていて、祈りたくでもなるような神聖な雰囲気がする。                        
    「罪を犯しても罰は下らないって言ったけど………てか俺はくだってないけど。いつかくだるのかな?」                        
    アメの後頭部はまるまるっとした綺麗な形なのが撫でているとよくわかる。髪はつるつると滑らかで手触りがいい。そんな後ろ頭が言った難しい質問はあたしなんかにうまく答えられるはずもないけど答えたくなった。薄青くぼんやり光る部屋はそういう難しい答えを生み出してくれるような気もしたし、そうしなければアメが日が昇ると共にいなくなりそうな不安にかられたから。                            
    「わかんないけど、たくさん苦しむ。苦しむのはつらいからそれは罰かも。」

    2008-03-12 02:54:00
  • 240:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

                               
    「じゃあきっと俺は今罰の真っ最中」                                              
    「…後悔してるの?」            
    「わかんない。……………後悔はしてない、多分。けど苦しい」

    2008-03-12 02:58:00
  • 241:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「苦しいなんて思う事なかった今まで。最近いろいろ思い出してうぜえから死のうとしたけど死ねなかったし…」                    
    「………………」                       
    頭を撫でていた手を前に引き寄せて両手でアメはギュッと握った。                             
    「アンジュはやっぱり天使だと思う。こんなバカな入れ墨入れたって人間になれなかった俺を人間にしたんだから。」

    2008-03-12 03:04:00
  • 242:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「今まで獣と大して変わんなかった…どんなに取り繕っても臭い匂いがすんだよ。別に誰にも負けなかったし、それで何が悪いと思ったけどやっぱり羨ましかったのかな?だからこんな変な入れ墨いれたのかな?
    最近、人間になれた気がする。」                     
    アメが自分の事をこんなに話すのは初めての事だ。いくつも年上のはずのアメはいつも年齢不詳の雰囲気を醸し出している癖に小さな男の子のように見えた。                            
    「人間なんてなるもんじゃねー。……………………………………………………………苦しい。」                    
    顔は見えないけどアメは唇の片端をあげて笑っているのだろう、きっと。

    2008-03-12 03:13:00
  • 243:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「アンジュといると苦しい。アンジュといると俺は汚い。」                           
    「…………アメ」
    「アンジュを連れてどっか遠くへ…今まで全部忘れれるような綺麗なとこ。アンジュが罪から逃げれるような場所、俺、連れていきたい。けど俺にはいけっこないんだよ」                      
    アメの横顔にキスする。そんな事ない。だって………アメ                   
    「そんな場所どこにもないよ………アメ」

    2008-03-12 03:26:00
  • 244:

    緋恋◆lZf.ArgVp2



    「………知ってる。」

    2008-03-12 03:27:00
  • 245:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    アメの横顔に涙が落ちる。               
    「アンジュは泣き虫だな」                                 
    悲しかった訳じゃない。そんな事はちゃんとわかっている、知っている。                    
    「俺は苦しくったって涙の一滴だって出ない。」                               
    そう苦々しく吐き捨てるアメ。彼の代わりに涙を流したような気がした。アメは雨が好きだと言う。雨は神様の涙ならあたしの涙も似たようなものかもしれないから、流れるままにそのまま少し泣き続けた。

    2008-03-12 03:38:00
  • 246:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    更新分>>240-252

    2008-03-12 03:40:00
  • 247:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>252
    何が罪で何なら善行なんだろう。善い行いばかりしていれば、苦しむ事はない?
    泣かなくても済む?
    もし、悪いことをすれば、ずっと苦しむのだろうか?
    善い事しか正しくないのなら
    アメもあたしも汚い?

    2008-03-13 01:25:00
  • 248:

    緋恋◆lZf.ArgVp2



    このまま、ずっと?

    2008-03-13 01:26:00
  • 249:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    あたしはずっと深い水の底から、その天辺にある美しい光の幻を…。それは太陽かもしれないし月かもしれない。
    そんなものを羨ましいような、手が届かない故に憎むような…ものすごく愛しているような…………
    そんな気持ちでただ眺めていた。
    指をくわえて見ているだけで、何もしていない癖に、水面から顔を出せさえすれば手に入れられるんじゃないかと、
    期待さえしていた。

    2008-03-13 01:34:00
  • 250:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    いつか…
    誰かが…
    何かが…
    そんなふうに期待せずにはいられなかった。全てを諦めているようなそぶりで、自分も諦めていると思いこんで。

    2008-03-13 01:36:00
  • 251:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    だって仕方がない。こんな汚くてろくでもない場所で。
    あたしも同じだけどこんな他力本願な考えの奴ばかりひしめいてて。
    泣いたって嘆いたって悔やんだって、後戻りはできないのに。
    自分を痛めつける事で何かから逃げようとしている。
    どこに行ったって同じ。

    2008-03-13 01:40:00
  • 252:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    あたしは顔を出した。
    深い深い何かの底から。
    今まで、結局は怖くて、底にどんなに悪態をついても、自分の意志で新しい場所に行くのを怯えてただけだ。
    けどあたしは行けたよ。
    アメがいたから。

    2008-03-13 01:44:00
  • 253:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    水面の上にあると思い込んでいた光は、そこに行くとまたもっと遠くにある。
    空の上に。

    どこに行ったって同じ。
    自分からは逃げられない。

    2008-03-13 01:47:00
  • 254:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    何もわからなくても。苦しくても。
    もがいてもがいて汚くても、生きていってやる。
    いつか死んでなくなるなら、その日の為に。
    その日までは苦しみ続けても。

    2008-03-13 01:54:00
  • 255:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「アメ、約束しよう」                  
    今度はあたしが力任せに膝の上のアメの頭を思い切り抱いた。              
    「………約束とか守ったことないよ…」                  
    アメの顔をあたしの方へ、首がおかしくなりそうなくらい強引にぐるりと向かして強引に固定。                 
    「…約束なんかじゃなくていい。あたしは勝手に誓うから」

    2008-03-13 02:03:00
  • 256:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    もしかしたら、あたしとアメはいつか離れるかもしれないから。
    今が絶対なんてないから。
    確かな幸せなんかよりずっと確実な深さと痛みを持って、別れはやってくる。
    お母さんとあたしが二度と会えないように。
    ドクターとお母さんが二度と抱き合えないように。

    2008-03-13 02:07:00
  • 257:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    もしいつか離れてもお互い迷子にならないように。あたしのエゴでもなんでもいい、そうしたい。                                                  
    「もしこれから何があっても、何をわすれても、今の事だけは忘れない……
    あなたがどんな人でも今のあたしはあなたが好き。
    苦しみ続けて、できるならたまに笑おう。できるなら一緒に………」                                                       

    2008-03-13 02:15:00
  • 258:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「……熱烈な愛の告白だね…
    コレうんって言わなきゃ俺、地獄行き?」                           
    「地獄へでも…できるなら一緒に」                            
    「アンジュはまだ子供だね。」                    
    アメは少し困ったというような顔で笑った。その顔があまりにも不安げだったからアメの頭をゆっくり撫でた。

    2008-03-13 02:22:00
  • 259:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「…………できたらいいね。そう思う。」              
    アメは起き上がるとキスしてきた。目を閉じる。
    閉じなければならいんだと感じた。                                                 
    こうやってまた溺れる。溺れ続ける。

    2008-03-13 02:27:00
  • 260:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    言葉より未来より確かな感覚と温度。                   
    あたしは今日から起こり得る全てに目を背けない。                      
    だからアメ、困った顔なんてしなくてもあたしはもう全てを受け入れられる。                          
    本当のアンジュになるんだ。                                                      
    天使に。

    2008-03-13 02:34:00
  • 261:

    緋恋◆lZf.ArgVp2



    不確かな理想でしかなくても。せめてそう思いたい。

    2008-03-13 02:36:00
  • 262:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    12日更新分>>229-238
    13日更新分>>240-268

    2008-03-13 02:38:00
  • 263:

    名無しさん

    鳥肌たつ?なきそーなる
    ありがとうo(^-^)oまたまってます?くそおもろい?主だいすきじゃ(′・ω・`)

    2008-03-13 18:56:00
  • 264:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>270さん
    ありがとうございます?そんなふうに言ってもらえるなんてこっちが泣きそうです(>_

    2008-03-14 20:51:00
  • 265:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>268                       
    「パーティーしよう。パーティー、パーティー!!!」                    
    そう言い出したのはスミトモ。そういえば、この街にもクリスマスがやってくる。寒くなったり暑くなったりの気温の変化が乏しい街だけど、クリスマス前にはちゃっかり騒がしムードになっていく。
    汚れを塗り替える白い雪も厳粛なゴスペルもここには必要ない。
    雨に濡れてただ濡れネズミになってしまうツリーは、外に飾られることはないけれど屋内には小さなツリーがちょこんと置かれていたりする。

    2008-03-26 01:10:00
  • 266:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    娼婦達の赤い傘は金や緑、シルバーでサンタやトナカイのペイントを施すのが毎年のお決まり。
    最近ではデコ傘なるものが流行して、ビニール製の人形を傘につけている奴までいる。
    レイチェルも案の定ものすごい傘をさしていた。
    傘のてっぺんにサンタとトナカイの小さな人形が飾られ、大きくmerryChristmasとゴールドでペイント、そのうえ大きなストーンとラインストーンでデコラティブに仕上がっている。

    2008-03-26 01:19:00
  • 267:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「…重くないの、それ?」               
    「可愛いからいいの!!!!!あんたこそ何?クリスマスなのにダサい傘さして」                       
    ダサいとか格好いいとかの目線で傘を見たことがないあたしはレイチェルの問いを笑って流した。
    アメといつも一緒に入れるように買った大きな黒いこうもり傘はこれでも結構気に入っている。

    2008-03-26 01:25:00
  • 268:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「パーティー来るの?来ないの?来るよな!!!俺、全部出すからさ」                  
    スミトモとは最近よく話す間柄にはなったものの、彼から誘いを持ちかけられるなんて初めての事で。
    そもそもクリスマスを祝うという概念さえ忘れていた。
    「いこうよ、アンジュ」

    2008-03-26 01:30:00
  • 269:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    毎年クリスマスはそれ以外の日と全く同じように過ごした。誕生日も新年も毎日が同じだった。
    なんだかむずがゆいような、どうしたらいいのかわからない気持ちでアメを見上げると柔らかく笑ってくれた。                      
    「アンって笑うんだな……」                       
    スミトモはまじまじとあたしの顔を眺めた後、「そーかそんなに楽しみか」と嬉しそうに笑った。

    2008-03-26 01:45:00
  • 270:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「あたしだって楽しみだもん!!!!!!!」                   
    レイチェルがスミトモの腕に絡みつき、傾いた傘から水滴が一気に落ちる。
    「馬鹿つめたい!」、スミトモはレイチェルを軽く小突く。スミトモの目は愛情に満ちていた、レイチェルの気持ちはスミトモに前よりずっと届いているらしい。
    「ほほえましいねえ」と笑うアメ。
    「うん、アメもね」

    2008-03-26 01:52:00
  • 271:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    あったかい光景であることは間違いなかった。
    以前のあたしはこんな状況の中でも色濃い陰を見つけて、それを眺めた。                         
    「ほほえましいよ、アンジュも」              
    影はもういない。消えたわけじゃない、影だけはもう見つめない。ふいにレイチェルと目があった。
    びっくりした。

    2008-03-26 01:58:00
  • 272:

    緋恋◆lZf.ArgVp2



    レイチェルの目はあたしを映して暖かく微笑んだ。

    2008-03-26 01:59:00
  • 273:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    スミトモとレイチェルが手を振って帰ってゆく。あたしはそれをしばらく見送ってアメと家路につく。
    胸が痛かった。
    「あの子、優しい子なんだね」
    「………レイチェル?」
    あたしは目で答えた。どうして自分がレイチェルに殴られたのか形にはならないけどわかったような気がした。

    2008-03-26 02:06:00
  • 274:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「激しいけどね―多分そうなんじゃない?」
    「うん、そう思う。」                                   
    「………優しすぎだね。君たちは」                   
    絡まった糸を断ち切って欲しい。クリスマスにはサンタにそれを願う。また他力本願な事を願っているのに気付く。繋いだ手に力を込めた。

    2008-03-26 02:11:00
  • 275:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    更新分>>272-282
    とろくてごめんなさい

    2008-03-26 02:16:00
  • 276:

    名無しさん

    更新ありがとう?
    待ってました?

    2008-03-26 10:32:00
  • 277:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>284さん
    コメントありがとうございます?
    また今日深夜に更新しようと思います。

    2008-03-26 21:03:00
  • 278:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>282                  
    “優しすぎだね、君たちは”                      
    アメの言葉があたしの体に何度となく巡る。血液に運ばれる酸素のように。
    手を繋いだ、皮膚の触れ合う所から何度も何度も反芻された。
    そんな言葉をあたしにかけるアメの優しさ。あたしを許したレイチェルの優しさ。あたしを当然のように受け入れるスミトモの優しさ。あたしを許すドクターの優しさ。

    2008-03-27 01:11:00
  • 279:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    みんな当たり前のようにひとを愛する。側にいる人を当然のように認めている。
    どうしてその優しさは全てに還元されないのか。
    愛するという事を知った時、世界は美しい。
    時に何倍も悲しい。

    2008-03-27 01:16:00
  • 280:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「どうして泣くの?」                  
    「…………さあ?」                       
    あたしはアメの手の温もりしか頼るものがないような気持ちで、アメの手を握り返す。
    強く握って強く握り返してもらえれば大丈夫だという気がした。
    アメ、貴方が何者でも。あたしが何者でも。

    2008-03-27 01:21:00
  • 281:

    緋恋◆lZf.ArgVp2



    そんなふうな頼りない感情の中に答えがあるような気がして

    2008-03-27 01:22:00
  • 282:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「もういいよ、普段着で」
    久しぶりに穿くスカートも綺麗なカッティングのドレスも、足がすうすうと心ともなく、場違いな気がしてはやくここから退散したい。                
    「だめ。そりゃ正装してバッチリしないとだめでしょ。ご招待頂いてるんだから」                
    アメはあたしの意見なんかお構いなしに何枚ももってこられた服の中から更に厳選を重ね、次はこっちと動作だけで促してくる。
    そんなアメはとても楽しそうで、そんな姿をみると咽まででてきかけた言葉はひっこんでしまって、あたしは大人しく何枚目かもうわからなくなっているドレスに袖を通した。

    2008-03-27 01:52:00
  • 283:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    部屋に大量の服を散らかして、なんでも着こなしてしまうアメのセンスはなかなかのもので。
    鏡に写るあたしの姿は一人前とはいかなくても八割がたは立派な女に見えた。
    艶々と光沢のある肌触りのいい生地はシンプルなデザインを見事に素敵に飾っている。何枚も鏡に写した中では地味といえば地味だけど一番しっくりくるような気がした。                     
    「…………かぶりつきたい」
    「……馬鹿?」

    2008-03-27 02:00:00
  • 284:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    アメの馬鹿げた発言で選ばれるドレスが決定した。                           
    「黒の似合う女はいいよね。無難な色と見せかけて着こなせる奴はそうそういない色だしね。」                  
    髪のほつれ一つない店員の女がんかアメの横でドレスとあたしを褒めちぎっていたけど、アメは全く耳を傾けずあたしを目を細めて見つめた。
    それは恋人を見る男というより、親バカとかそういう路線に近い気がして笑ってしまう。
    「これ頂戴。」

    2008-03-27 02:08:00
  • 285:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    店員はしてやったりという顔をして満面の笑顔を見せた。
    とりあえず、やっとこの着せ替えショーは閉幕を迎える。ほっとしてドレスを脱ごうと試着室のカーテンに手をかけた。                                   
    「まだ靴とバックがあるから!!」                              
    意識が遠のく気がした………………。

    2008-03-27 02:13:00
  • 286:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    結局、ドレスと靴と鞄をお買い上げして更にアクセサリーも……と言い出すアメを必死で制した。
    満面の笑顔の店員に見送られながら店を後にした。                         
    「なんか……いっぱい買って貰っちゃって…………いいの?ごめん」                        
    嬉しくないわけではなかった。あたしもやっぱり女だなと実感してしまう節もあった。けれど喜びより分布不相応に思える買い物は申し訳ないような気持ちの方が大きい。                             
    「アンジュ、可愛かったなあ」

    2008-03-27 02:20:00
  • 287:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「初めてアンジュにプレゼントらしいプレゼントできたから嬉しいけど俺。」            
    「別にプレゼントとか……………」       

    2008-03-27 02:24:00
  • 288:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    アメは唇を片方あげるあの笑い方……をするかと思った瞬間、泣きそうな目をして笑った。                       
    「アンジュに何かあげたいからいいの!…………………………………………………………………………受け取ってもらえる?」                         
    「本当はそんなふうに笑うんだね」                       
    「??いるの?いらないの?」            
    少し怒ったようにぶっきらぼうに言い放つアメがなんだかおかしくて可愛かった。

    2008-03-27 02:30:00
  • 289:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「……もらえるものはもらっとく。………………ありがとう。嬉しい。」          
    どんな素敵なものよりアメの本当の笑顔が貰えた事が嬉しかった。
    こうもり傘から雨粒がポタポタ落ちる。あたしが濡れないように端によるアメの肩が少し濡れている。
    その事が嬉しかった。
    もがいて消えたがったあたし達が笑ってたいられる事がなによりも嬉しい。

    2008-03-27 02:36:00
  • 290:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    雨でかすんで見えるアパートの前でもかすまない赤い雨傘。
    一人の少女が立っているのが見える。                                   
    「クリスマスのドレス一緒に選んで!!!!!!!!!!!!!」                                
    軽くめまいがした。

    2008-03-27 02:40:00
  • 291:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    更新分>>286-300

    2008-03-27 02:41:00
  • 292:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    >>300
    「コレとコレどっちが可愛いと思う?」                           
    天秤にかけられた二枚のドレスはレースやフリフリがどちらもふんだんについていて、どう違うのかイマイチわからない。                 
    「どっちも似合うと思うよ」                  
    そう思ったのは本当。年齢の割にはずいぶん大人びてはいるものの、その体は少女らしい硬さを残している。白いふんわりとしたオーガンジーのドレスを胸に当てるレイチェルはチロリと横目でこっちを見た後、また視線を鏡に戻した。

    2008-04-02 00:55:00
  • 293:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「どっちが似合うか聞いてるのにぃ。アンはアメにドレス選んでもらったんでしょ。…いいなあ」                      
    レイチェルは自分でドレスを一枚選ぶと試着室のカーテンを引く。カーテンの向こう側から「スミトモは白が好きだからね」と、相変わらずスミトモの話が途切れることはない。                
    「どうかな?」                
    ベアトップの白いドレスは胸の下からフリフリとドレープのついたスカートが広がっていて、レイチェルの白い肌によくはえた。                
    「お嫁さんみたいだね」

    2008-04-02 01:08:00
  • 294:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    レイチェルは白い肌を胸のあたりまで真っ赤にする。                     
    「これでスミトモがカッコ良くスーツ着て来てくれたら……結婚式みたいにみえるかな?」                   
    「若い夫婦みたいに見えるよ、きっと」                 
    レイチェルはカーテンを勢いよく閉めてしまった。小さな声でありがとうと聞こえた。パサリとドレスが床に落ちる衣擦れの音と同じくらい小さな声で。

    2008-04-02 01:16:00
  • 295:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「いつかスミトモと本当に結婚できたらいいな……もっと大人っぽいドレス着て。……今はまだセクシー系は着こなせないからさ。空が真っ青になるくらい晴れるところで…雨の式なんて嫌だし。」                      
    着替えを済ませたレイチェルが再びカーテンを勢いよく開けた。                         
    「……………。本当はスミトモがそばにいてくれたら…それだけでいいんだ。」                        
    そう呟くレイチェルの横顔は年に見合わない程大人びている。              
    孤独を知っている者の表情だった。

    2008-04-02 01:28:00
  • 296:

    名無しさん

    登場人物全員だいすき??特にレイチェルかわいい(><)本間すきー??待ってます??読んでたら私も幸せになります(´∀`)ありがとう

    2008-04-13 22:05:00
  • 297:

    名無しさん

    今はじめて全部読ませてもらいました。
    主さんの言葉一つ一つに心を動かされました。
    読んでいるうちに、勝手に物語の中に吸い込まれてしまう様な感覚になって鳥肌がたって、涙が出ました。
    こんなにも入り込んで読めたの、主さんの小説ガはじめてです。ありがとう。
    応援していますので、主さんのペースで頑張ってください。

    2008-04-14 19:53:00
  • 298:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>306さん
    レイチェルを気に入ってもらえて嬉しいです?あたしもレイチェル好きです笑
    >>307さん
    ありがとうございます。そんなに言ってもらえるなんて感激?です。今研修中でかけてないんですが話はできているんで暇見つけつつ書いていきます('◇')ゞ

    2008-04-15 17:10:00
  • 299:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>305      
    「そばにいてくれたらそれだけでいい」
    望むのはそれだけの些細な願い。だけどそれは簡単な事ではなくて。
    レイチェルもあたしもそんな事はわかっている。
    難しいことだと知っているからこその願い。

    2008-04-23 21:08:00
  • 300:

    主◆lZf.ArgVp2

    一度手を取ってしまえば、その手を離すことが恐ろしくて仕方がない。ほんの少し前まで何も持っていなかった筈なのにね。           
    レイチェルと別れた後、珍しく雨は止んでいて血塗られた様な月があたしを見つけた。
    飲み込んでくちゃくちゃにしようとしているかのようなそれを睨みかえす。              
    レイチェル、あたしも一緒に思うよ。あなたの願いが叶いますように。
    アメが、レイチェルが、スミトモが、ドクターが、幸せでありますように。

    2008-04-23 21:21:00
  • 301:

    主◆lZf.ArgVp2

    アメは慣れた手つきであたしの髪を触る。元スタイリストとでも言い出しそうなくらいに器用に櫛をつかってタイトに髪型を整えてくれた。最後にプシュッと吹き掛けられたスプレーは自然素材のような花のいい香りがする。
    「こんなかんじでどうですか?」とアメの美容師ごっこは鏡を会わせ鏡にして、あたしからも後ろが見えるようにした動作で締めくくりとなった。             
    アメが古道具屋で散々値切って買ってきたという古びた金色のゴテゴテとした飾りフレームの姿見にうつるあたしは、知らない女のように見えた。
    アメがした薄化粧と初めて塗った口紅のせいかもしれない。
    大人びたような逆に幼く見えるような、よくわからない不思議な感覚。

    2008-04-23 22:00:00
  • 302:

    主◆lZf.ArgVp2

    「嘘、嘘。ちょっと化粧したくらいでここまで綺麗になるとは思いませんでしたよ。」        
    予想外のアメのフェイントにむくれたあたしにそう言って耳元で囁く。      
    「俺の天使だもんね。」            
    「ちょっ………痛い!」      
    あんまりきつく抱き締められたので、座った椅子ごとよろけそうになった。

    2008-04-23 22:18:00
  • 303:

    主◆lZf.ArgVp2

    それでもアメは力は緩めたものの腕を離そうとはせず、仕方なく無駄な抵抗はやめた。
    こういう時、アメが泣いているんじゃないかと思ったりする。もちろんアメは泣いたりしていないけど、なんとなく。
    何かを思い出したりしているのかもしれない。       
    「………ドクターにも見せて来たら?喜ぶと思うよ。」         
    ゆっくり腕をほどくと「俺も用意しちゃうし」と服を脱ぎだす。

    2008-04-23 22:28:00
  • 304:

    主◆lZf.ArgVp2

    「ほんとは誰にも見せたくないんだけど」      
    あたしが鏡からアメに視線を向けた時、そう呟いた。後ろをむいているアメの背中の刺青からその声が聞こえた気がしてまじまじとそれを見た。       
    「ほら、いっといで」     
    振り向いたアメはいつもの笑顔で、あたしはゆっくり頷いた。

    2008-04-23 22:36:00
  • 305:

    主◆lZf.ArgVp2

    ドクターはあたしを見ると押し黙ってしまった。しばらくの沈黙の後、「綺麗にしてきたな」と笑った。     
    「ごめんね、あたし達だけご馳走食べてくるけど………」        
    あたしは照れてしまってバツが悪い子どものように目をそらして早口で話す。まさかドクターが「綺麗」なんて嬉しそうな顔して言うと思わなかったから。
    「ちょっと待っとけ」と部屋に引っ込んでしまったドクターをそわそわしながら待つ。
    アメが来てからというものあたしの生活はすっかり変わってしまった。アメはいつの間にかドクターとも打ち解け、ドクターとアメと三人で夕ご飯を食べたりすることも今では普通。晴れ姿と言えば大袈裟かもしれないけどこうやって着飾った姿を見せにきたり………

    2008-04-23 22:49:00
  • 306:

    主◆lZf.ArgVp2

    ………なんだか親子のようじゃないか。耳が熱くなるのを感じた。      
    今日はイブだからクリスマスはドクターとアメと三人で過ごそう。明日くらいは丸一日かけてそんなに好きでもない料理をしてもいい。

    そんな事を考えているまにドクターが戻ってきた。

    2008-04-23 22:55:00
  • 307:

    主◆lZf.ArgVp2

    「メリークリスマス、アン。」      
    手渡された小さな箱にはネックレスが二つ。見覚えのあるそれは少しもくすむことなくキラキラ光っていた。      
    「………ベスの形見だ。もう一つは俺がベスにプレゼントしたものだ…………」        
    一つはおかあさんがずっとつけていたもの。もう一つも二つあわせてつけていたのを覚えている。

    2008-04-23 23:02:00
  • 308:

    主◆lZf.ArgVp2

    七年前と同じ輝きを放つネックレスはいかに丁寧に手入れされていたかを物語っていた。          
    「あたしが貰ってもいいの………?」       
    ドクターは黙って頷いた。
    ありがとうはただ涙になってポツンと箱の中に落ちる。

    2008-04-23 23:09:00
  • 309:

    主◆lZf.ArgVp2

    「お前を残してもらってよかった」         
    何も言えなくて。泣きたくないのに涙はでた。泣きながら笑ったら変な顔になって、ドクターは「化粧が落ちるぞ」と笑った。

    2008-04-23 23:16:00
  • 310:

    主◆lZf.ArgVp2

    更新分>>309-320

    2008-04-23 23:19:00
  • 311:

    名無しさん

    >>321
    一つは古びた銀のネックレスで中に写真が入る。母に父がプレゼントしたものらしく物心ついた時から母の胸に柔らかく光っていた。
    おかあさんは中に父の写真を入れていて見せられた気もするが、とりわけ特別な記憶もない。
    今中身が空なのは、母が捨てたのか、ドクターの小さな抵抗か。

    2008-04-25 01:29:00
  • 312:

    主◆lZf.ArgVp2

    ドクターがおかあさんにプレゼントしたという青い宝石がついたネックレスだけを首にかける。
    あたしにとっては待ち続ける母に一度も会いにこなかった父のプレゼントより大切に思えたし、そうしてあげたかった。      
    「ドクターが選んだにしてはセンスがいい」と崩れた化粧を直してくれながらアメが笑った。     
    確かに熊みたいなドクターが真剣な顔をしてアクセサリーを選んでいる姿を想像するとニヤリとなる。
    そして少し悲しくなった。

    2008-04-25 01:40:00
  • 313:

    主◆lZf.ArgVp2

    「いこうか」          
    アメに手を引かれて部屋をでる。今日のアメは完璧なまでに紳士だった。手を取る時の美しい身体の動作。自分が映画の中に入ってしまったかのような錯覚。ドアをさっと開けてくれる。いつもの部屋のドアは知らない世界に続くドアのように感じた。

    「………買ったの?」
    「まさか。チャーター」

    2008-04-25 10:36:00
  • 314:

    主◆lZf.ArgVp2

    「ようこそ!メリークリスマース!!」       
    それはちょっとないんじゃないかというむちゃくちゃな挨拶をしたスミトモはひと目見てわかる程はしゃいでいる。
    そんな彼は初めて見るスーツ姿で。はだけた胸元と派手なシャツはいかにもチンピラだったがレイチェルは嬉しそうだ。
    荘厳なゴシックの長くて狭い廊下は二人しか横に並べない。
    前を歩くスミトモとレイチェルはとにかく楽しそうだ。ぴったりスミトモに腕を組んで寄り添うレイチェルは頭に白い薔薇を飾っているせいか花嫁のようだ。

    2008-04-25 11:06:00
  • 315:

    主◆lZf.ArgVp2

    「……結婚式みたいに見えるかな?」         
    この間のレイチェルの声が頭をよぎる。
    もう一度スミトモとレイチェルを見つめた。        

    …うん、レイチェル…見えなくもないよ。

    2008-04-25 11:14:00
  • 316:

    主◆lZf.ArgVp2

    いつか本当のヴァージンロードを通って、スミトモも隣りでいきいきと笑うレイチェルの姿が見えた気がして。
    レイチェルが憎まれ口を言いながらあたしにブーケを渡す。

    そんな白昼夢。

    2008-04-25 11:20:00
  • 317:

    主◆lZf.ArgVp2

    「何笑ってるの?」
    「……秘密」             
    誰かに話したりしたら口からでた瞬間に幼い夢は消えてしまいそうな気がした。
    シャボン玉のようにパチンと跡形もなく。

    2008-04-25 14:10:00
  • 318:

    主◆lZf.ArgVp2

    レイチェルがうるさくする前から見られてはいるんだけど。
    アメは白っぽいグレーの細身のカジュアルなスーツをドレッシーに着こなしていたし、スミトモはスミトモでチンピラセンスが漂っているものの野良猫のようなしなやかな身体を包む黒いスーツはスミトモを色っぽく見せていた。
    丁度黒い格好のあたしとスミトモと白い格好のアメとレイチェルは四人掛けのテーブルにオセロの始めのように並んで打ち合わせでもしてきたようで。

    2008-04-27 11:42:00
  • 319:

    主◆lZf.ArgVp2

    「……なんかすっごく見られてない?!も〜お前がうるさいから!!!!それともなんか俺へん??」
    豪華なレストランに自分が誘った癖にソワソワしだすスミトモ。あたしも人のことはいえず、さっきからお尻のあたりがムズムズするような気がして仕方がない。
    「なんで?気分いいじゃん。アンジュとレイチェルが可愛いからだよね。誰もお前の事とかみてないし」
    「そっか」とスミトモは照れたように笑い、「そうそう」とアメは続けた。そのやり取りにレイチェルが笑い、テーブルにはシャンパンが運ばれてきた。

    2008-04-27 11:52:00
  • 320:

    主◆lZf.ArgVp2

    「…とりあえず」       
    メリークリスマス!!誰からともなくグラスを合わす。

    2008-04-27 12:05:00
  • 321:

    主◆lZf.ArgVp2

    「…今日は俺の昇進祝いに来て貰ってありがとうな」
    わざとらしい咳払いを一つして、スミトモは急にあらたまった挨拶をした。
    「あっそうなんだ」

    運ばれてきたオードブルに夢中になるあたしと「へー」と気のない素振りを隠すことさえしないアメはレイチェルに「その髪型可愛いね」などと話し掛ける。

    2008-04-27 17:48:00
  • 322:

    主◆lZf.ArgVp2

    「………お前らなあ」

    スミトモは正式に今いる組織のファミリーに迎え入れられる事になったらしい。なんでもスミトモの年齢では異例の事なんだとか。
    「じゃあこれから毎回ここはスミトモの奢りということで」
    「いやいや無理だから!」

    2008-04-27 17:51:00
  • 323:

    主◆lZf.ArgVp2

    レイチェルだけは正面のスミトモを見つめながらうんうんと頷いて真剣に話を聞いている。
    その笑顔はなんだか寂しそうで、無理してはしゃいでいるようにも見えた。
    今日だけはクリスマスだからと酒を飲む事を許されたはずなのに、彼女のグラスのシャンパンはなかなか減らない。
    ホワイトの地にパールとクリアのストーンがあしらわれたロマンチックなデザインのレイチェルのネイル。ネイルの上できらめくストーンは人知れず流した涙のようにみえた。

    2008-04-27 18:01:00
  • 324:

    主◆lZf.ArgVp2

    次々と運ばれてくる料理はクリスマスを意識したいちいち綺麗な盛り付けで、崩すのがいちいちもったいない。
    どれも食べことがない洒落た味がして、とにかく夢のように美味しかった。
    シャンパンをあけた後開けられた赤ワインもすごく美味しくて、相乗効果で常になにかを頬張っている。
    「アンって意外と食いしん坊なんだなあ」
    目を丸くするスミトモは嬉しそうに歯を見せた。

    2008-04-27 18:08:00
  • 325:

    名無しさん


    初めてかきこします?
    この小説大好き??
    がんばッてくださいね?

    2008-05-11 11:55:00
  • 326:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>339さん
    ありがとうございます(〃_ _)
    最近小説版エラーになってしまう事が多くて?今日の夜更新できたらしようと思います?

    2008-05-13 13:27:00
  • 327:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>338
    レイチェルはお客によく食事に連れて行って貰うせいか綺麗にフォークとナイフを使う。アメなんてお前は貴族かと思うくらい美しく食事をしていた。
    そんななか、スミトモとあたしは並べられた銀製のナイフやフォークやスプーンをどれから使っていいのかすらわからない有様。
    スミトモは聞けばいいのに適当なものを使ってぎこちなくなく食事をしていたので、ばくばく食べ物を頬張るあたしに勝手に好印象を抱いたようだった。

    2008-05-14 00:30:00
  • 328:

    主◆lZf.ArgVp2

    「アメさんとアンって親子みたい。」        
    料理が出て来る度に「これは鳩」とか「それはトリュフ」とか見た事のない食材を探るようにフォークでつっつくあたしにいちいち説明してくれるアメの姿にレイチェルが笑う。        
    「親子って………。せめて兄妹にしてくれない。」      
    ばつの悪い笑顔をしたアメは随分と人間くさい表情をみせるようになったものだと思う。……そしてあたしも。
    格好つけるのを諦めたらしいスミトモはレイチェルに「お前これ、これでいいんだよな」と聞いている。レイチェルが笑いを堪えているのがたまらなくおかしかったけど、笑っちゃだめだと我慢した。

    2008-05-14 00:54:00
  • 329:

    主◆lZf.ArgVp2

    薄暗い空間にふいに響き出すピアノの音。
    思わず口に含んでいたワインを味わいもせずごくりと飲み込む。       
    鼓膜を震わせて、胸をも震わす。    
    生演奏なんて初めて聞いた。
    さっきまで賑わっていた空気がひんやりと静まる。それはとても清くて、酔っているせいか頬にぶつかる音が気持ちいい。身体に染み込んでいくように感じた。

    2008-05-14 01:33:00
  • 330:

    主◆lZf.ArgVp2

    「今日は…ありがとう、スミトモ。」   
    「酔ってるなあ、アン」     
    目を潤ませてスミトモは目だけで笑う。
    色んな事に気付いていく。アメの癖だけじゃなく、スミトモやレイチェル、ドクターにも色んな癖がある。スミトモは感動したり興奮したりするとすぐに子犬のように目が潤む。レイチェルは本当に嬉しい時、少し困ったような顔をする。これは少しアメに似ているかもしれない。ドクターは笑うとすごく優しそうな笑い皺が出来る。笑わないと怖い顔なんだけど。
    聖歌が流れる間、みんなうっとりとだけど神妙な顔で聞き入っている。みんな何を想うのだろうか。

    2008-05-14 01:46:00
  • 331:

    主◆lZf.ArgVp2

    あたしは、来年も再来年もずっと、どうか皆で過ごせますように。


    そう祈った。

    2008-05-14 01:49:00
  • 332:

    主◆lZf.ArgVp2

    デザートは2種類どちらかをえらべるようになっていて、夢の国のようなその容貌は甘い物が苦手なあたしすらため息がでる。
    一つは小さなチョコレートケーキで温めてからだされるケーキは熱々でナイフをいれると中からこれまた熱々のショコラが流れ出て来るらしい。ヴァニラアイスクリームと彩りに飾り切りされたフルーツがてんこ盛りに乗っている。
    もう一つは真っ白のブラマンジェで中にはブランデーに漬けたフルーツがはいっているらしい。ポテリとした固さの生クリームがフンワリと横に飾られ皿中をキャンバスのようにカスタードソースと色とりどりのフルーツソースが抽象画の線のように走る。

    2008-05-14 02:10:00
  • 333:

    主◆lZf.ArgVp2

    「まーーよーーうー」
    ウェイターが持つプレートの上の見本を見てレイチェルは頭を抱えてしまった。
    確かに芸術品のようなデザート達は綺麗なのにきっちりと美味しそうで、漂う甘い香りはどちらも甲乙つけがたい。
    「みんなでバラバラの頼めばいいよ」とアメの言葉でしぶしぶ納得したらしく、レイチェルはブラマンジェ、あたしはチョコレートケーキを選んだ。
    アメはあたしの逆を選び、スミトモはレイチェルの逆。

    2008-05-14 02:20:00
  • 334:

    主◆lZf.ArgVp2

    デザートが目の前に運ばれてくるとレイチェルは本日一番の歓声をあげる。
    「おいしーい!!!」
    思わずレイチェルと一緒にのたうった。
    芸術品は味のほうも芸術品で、甘さ控え目のチョコレートケーキは心地よいほろ苦さと深みのあるとてもいい甘い香りがした。ウェイターの説明通り、ナイフを入れると熱々のショコラがとろけだして冷たいヴァニラアイスをケーキにつけてたべると、熱さと冷たさの対比か声がでないくらいに美味しい。
    レイチェルも同じらしくなにやら口をモゴモゴさせながら何かを訴えていた。

    2008-05-14 02:29:00
  • 335:

    主◆lZf.ArgVp2

    「料理番組か!」とスミトモが突っ込み「女の子っていいね」とアメが微笑む。
    結局、ジェントルマン二人はそれぞれにデザートを譲ってくれ、2種類両方手に入れたレディ達はにんまりとした。

    そろそろ12時になるという頃、周りは席を立つ人が目立ち始め、あたし達四人の夢のようなパーティーもお開きとなった。

    2008-05-14 02:36:00
  • 336:

    主◆lZf.ArgVp2

    それぞれ傘をさしながら「よいクリスマスを!」と挨拶した。時計を見るアメが唇の端をあげる。
    「12時まわったよ?」

    「メリークリスマース!!!」
    多少酔っ払いの四人は抱き合ってクリスマスの当日を祝うと、それぞれの車に乗り込んだ。もっと遊びたいような、なんだかうずうずする楽しかった余韻と心地よい疲れの中、アメの肩を枕にしてあたしは眠ってしまった。

    2008-05-14 02:48:00
  • 337:

    主◆lZf.ArgVp2

    夢をみました。
    独りぼっちで花畑を、海を、どこかの神殿をあてもなく歩いて行く。
    それはどこも美しい場所で、あたしは苦しくも寂しくもなく満ち足りた気持ちでいるのです。
    それでもあたしの頭の中に浮かぶのは、
    汚くて醜いあの街のことばかりでした。

    2008-05-16 00:10:00
  • 338:

    主◆lZf.ArgVp2

    「………ん。」

    見慣れた天井。固いベッド。目を覚ますと自分の部屋に寝かされていた。ドレスは残念な事に皺だらけになってしまっていたし、初めて化粧をしたまま眠って迎えた朝は、肌がゴワゴワして気持ち悪い。
    ドレスだけハンガーにかけて下着のままで一服。細く煙を吐きながら、やっぱり良い酒は悪酔いしないな、と思った。

    2008-05-16 00:18:00
  • 339:

    主◆lZf.ArgVp2

    昨夜の事を思い出す。みんなで抱き合った時、人の事を抱きしめるのも抱しめられるのも、アメとお母さん以外には初めてでドキドキした。
    アメに抱かれた時だって緊張なんてしなかったのに。変なの。
    戸惑いがちに触れたレイチェルは思い切りあたしを抱きしめた。次俺ね、と調子に乗ったスミトモの抱擁は痛いくらいだった。
    あたしには、その時伝わってきた体温がすごく不思議な気がした。
    嬉しかった。

    2008-05-16 00:29:00
  • 340:

    主◆lZf.ArgVp2

    ドクターはもうでかけてしまったようで、あたし以外の人の気配はない。
    服を着替えて顔を洗って髪を適当にひっつめる。
    ネックレスがシンプルなデザインでよかった。女らしい格好でなくても合わないという程じゃない。

    窓の外を見る。雨は小雨。勢いよく部屋を飛び出した。

    2008-05-16 00:45:00
  • 341:

    主◆lZf.ArgVp2


    「アメ、七面鳥買って来たの!?鶏肉ならあたしも買ってきたのに!!!」
    買い出しを終えてアメの部屋に行くと、既に料理の中盤にさしかかっている様子。コンロは全てフル稼動。一体何時から用意をしていたのだろうか。
    「クリスマスっちゃ〜コレでしょ。それは唐揚げにすればいいよ」
    七面鳥の丸焼きは絵本なんかでもクリスマスを祝うシーンでは必ず描かれていて、確かに“これ”ではあるけど、まるのままの七面鳥なんて初めて見る。

    2008-05-16 00:53:00
  • 342:

    主◆lZf.ArgVp2

    「よく売ってたね、そんなの。このへんの近所じゃ焼いてあるのくらいしか見た事ない。」
    「遠出したからねぇ」
    七面鳥一匹買うのに一体どこまでいったのか。アメの金銭感覚は理解しがたい。
    聞こえるようについたため息そっちのけに、昨夜の聖歌を口ずさみながら七面鳥に詰め物をしている。

    2008-05-16 01:00:00
  • 343:

    主◆lZf.ArgVp2

    「そんないっぱいつくったら、余るよ。」
    「レイチェルんとこ持っててやればいいよ。どうせスミトモも一緒だろうし。あいつら唐揚げ好きそうな顔してるし、喜ぶよ。」
    「……どんな顔だよ」
    「俺の統計的には絶対そうだね〜あれは。」
    「……何の統計だよ」

    2008-05-16 01:07:00
  • 344:

    主◆lZf.ArgVp2

    レイチェルとスミトモの顔を交互に思い浮かべる。
    「………なんかわかるかも。」
    「でしょー」とアメは上機嫌に七面鳥の表面に塩とハーブを塗りたくる。
    「………ここオーブンついてないよ!」
    アメが目線であっちと部屋の隅をさす。段ボールがひとつ。丁度オーブンくらいの。

    2008-05-16 01:12:00
  • 345:

    名無しさん

    これほんまに書いて欲しい
    めちゃ大好きやねん
    映画なって欲しいって思う
    読んでて映像が浮かんでくる

    2008-06-12 05:16:00
  • 346:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>360 すごく嬉しいです。携帯をかえたら薄型にしたのでボタンが異様に打ちにくく、予測変換も馬鹿なので、めげていたのと、話も佳境なので考えていて遅くなってしまいましたがこれからも読んでくだされば嬉しいです

    2008-06-17 01:35:00
  • 347:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>359
    クリスマス。キリストの誕生した日。
    馬小屋でうまれた神の申し子。

    2008-06-17 01:39:00
  • 348:

    主◆lZf.ArgVp2

    無神論者の癖に神話なんかは結構好きで、ドクターの部屋にあった古ぼけた聖書を読んだ事がある。
    『ノアの箱船』
    神様は愚かな人間を一掃する為に大洪水を起こした。たった一人の人間のノアとあらゆる動物達をのせた箱船を除いて、世界は水浸しになる。
    長い長い時が流れたある日、鳩が木の枝をくわえてくる。
    ノアをそれを見て世界の再生を知った。

    2008-06-17 01:56:00
  • 349:

    主◆lZf.ArgVp2


    世界は甦った。
    でも、ねえ

    一人残されるのって、世界に一人ぼっちってどんな気持ち

    2008-06-17 02:01:00
  • 350:

    主◆lZf.ArgVp2

    「……焦げてますよ」
    パチパチと音をたてる油の中にさっきまで鶏の胸肉だったものが浮いている。黒ずんだそれからでる泡はピスピスと限界を知らせる音をたてた。
    「揚げ物してる時にぼーっとしないの」
    アメはコンロの火を消して上りすぎた油の温度を下げる。

    2008-06-17 02:13:00
  • 351:

    主◆lZf.ArgVp2

    ある程度温度が下がった頃を見計らってまた肉の塊を落とす。正常な勢いの泡がわきでた。
    あたしは一人じゃないし、
    もう一人になることはない。

    2008-06-17 02:21:00
  • 352:

    主◆lZf.ArgVp2

    料理の支度がすっかりととのってしまってもドクターはまだやってこない。
    テーブルの上にはアメ渾身の七面鳥の丸焼きとコンソメスープ、スティックサラダやパンにつける色とりどりのディップが並ぶ。
    あたしが作った唐揚げも形見が狭そうに並ぶ。
    テーブルがでかいからアメの部屋にしたのに、乗り切らない料理達がまだスタンバイしている状態だ。

    2008-06-17 02:30:00
  • 353:

    主◆lZf.ArgVp2

    「作り過ぎだよ」
    「お祝いごとの時は余る位がいいんだよ」
    「カトリックでもない癖に」
    「余ったのはスミトモに食わしときゃいいよ」

    2008-06-17 02:34:00
  • 354:

    主◆lZf.ArgVp2

    渋々納得して、やる事もないので余りそうな分を容器に詰める。唐揚げだけだった予定のおすそわけがディナーパックのようなちょっとしたものになった。
    アメは浪費家でとにかくやりたいと思った事にはお金を使う。日常品なんかは一円でも安い店を探したりする一面もあるけれど、それは探すのが楽しいようで。
    「食っていうのは人間の根本。余る程食い物があるっていうのは心の贅沢だよ。そして精神の奢り。食い物大事にしない奴はろくな奴はいないね、間違いなくない」
    そういって揚げたての唐揚げをつまみ食いする。

    2008-06-17 02:46:00
  • 355:

    主◆lZf.ArgVp2

    「お前の事だよ」
    アメは少し悲しそうに笑って、また一つ唐揚げをつまむ。
    「うん、ウマイ。アンジュはいい奥さんになるよ」

    2008-06-17 02:49:00
  • 356:

    主◆lZf.ArgVp2

    更新分>>362 から
    少しですが更新しました。次からパソコンで書くかもしれないですがトリップは変えません。

    2008-06-17 02:52:00
  • 357:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>370続き
    さっきまで穏やかにしとしと降っていた雨がふいに強くなった。それと同時に下の階が騒がしくなる。何事かとらせん階段まで出てみると、ドクターの仕事場に緊迫して出入る男達が数人。3台程車も止まっていた。
    「……急患みたい」
    こんな日だと言うのに車のライトに照らされる地面に雨で流れて広がる黒いシミ。
    血だ。

    2008-06-20 06:09:00
  • 358:

    主◆lZf.ArgVp2

    部屋から出て来ようとするアメと入れ違いに部屋に戻った。
    ……気持ちが悪い。
    「ありゃひどいね〜」
    呑気な声でアメがそういう。
    「ドクター遅いかもね、コーヒーでもいれよ」

    2008-06-20 06:14:00
  • 359:

    主◆lZf.ArgVp2

    平静を取り繕ってポットのスイッチをいれた。アメが買ってきたポットは電源をいれると僅か数分でシュンシュン口から湯気をだす。
    その音に負けないくらい部屋に響いてくる粗い靴音。
    聞き覚えのある靴音は階段を一気にかけ上がって来る。あっという間にドアの前まで近付いて来て勢いよくドアが開く。
    「……ノックくらいできないのかよ」
    あたしの悪態に返事はない。その代りに激しく肩を上下させるレイチェルがずぶ濡れで立っていた。

    2008-06-20 06:23:00
  • 360:

    主◆lZf.ArgVp2

    服から水滴が滴るほどに濡れていて髪が顔や首に張り付いている。随分と走ったらしく呼吸は中々整わない。
    「はい。これで拭いて、アンジュなんか適当に服だしてあげて」
    一瞬あっけにとられていたものの、アメはすぐにタオルを持って来て今はレイチェルの頭を拭いている。レイチェルはされるがままで一言もしゃべらない。
    アメの寝室の服の山から適当にシャツを選ぶとレイチェルを呼んで着替えさせた。
    サイズが大きくてワンピースみたいになったけど下がないから丁度よかった。

    2008-06-20 06:32:00
  • 361:

    主◆lZf.ArgVp2

    「冷えただろうに、寒くない?」
    アメはホットミルクをレイチェルに手渡しながらあたしにもコーヒーを渡す。
    落ち着いたのかレイチェルはアメとあたしに軽く目線を合わした。「……スミトモがね、帰ってこないの。…色々いそうな所はちょっと見て来たんだけど…………いないの」
    握り潰せそうな華奢な肩は震えている。

    2008-06-20 06:38:00
  • 362:

    主◆lZf.ArgVp2

    「…心配しすぎじゃないの?」
    レイチェルは虚ろにどこかを見ていた。
    「スミトモは絶対に約束破んないの。来るって言ったら来るし、来ないって言えば来ない」
    「女の子んとこじゃないの?なかなか帰してもらえないとか。あいつ女に弱いから」
    アメが冗談ぽく言う。レイチェルには悪いけど確かにクリスマスだしそんな気もする。

    2008-06-20 06:44:00
  • 363:

    主◆lZf.ArgVp2

    「そんな事ないっ」といつもの怒声がするかと思ったがレイチェルは唇をぎゅっと結んだ後、カップの中のミルクの波紋を見つめた。
    「………そんな事なら…別にいいの」
    何も言えなくなった。黙ってしまったレイチェルから恐怖が痛いくらい伝わってきたから。漠然とした不安。レイチェルは今までこんな不安な夜を一人でいくつ耐えたのだろう。
    「怖いの……いつも。帰るって言ってもいつか帰って来ないんじゃないかって」

    2008-06-20 06:52:00
  • 364:

    主◆lZf.ArgVp2

    「………………………………怖いのよ」

    レイチェルは声一つ立てず嗚咽一つ洩らさず泣いた。すぐに左手を瞼にあてて涙を隠した。
    その姿は少女ではなく耐え続ける人間の姿で、背中を撫でてやるくらいしかできない。
    スンと鼻をひとすすりしてレイチェルは涙を拭った。

    2008-06-20 07:05:00
  • 365:

    主◆lZf.ArgVp2

    「…ごめんね。アメさんのシャツ マスカラがついちゃった。ごめん、お祝いするとこだったよね?」
    「いいよ、そんなの」
    「洗って返すよ。アン、悪いけど何かはくもの貸してくれる?帰るよ」
    レイチェルの化粧がボロボロになっているところなんて初めてで。そんな顔で明るく笑うのが苦しくて。

    2008-06-20 07:12:00
  • 366:

    主◆lZf.ArgVp2

    「帰らなくていいよ、一人になんてできないよ。」
    すごく困ったような顔をしてその後レイチェルは笑った。
    「大丈夫、スミトモが帰って来るかもしれないから、ありがとう」
    レイチェルが帰り支度をする間、そわそわと部屋の中をウロウロ歩き回った。何もできない。今すぐどこぞにいるであろうスミトモを引っ張って連れて来てやりたかった。

    2008-06-20 07:21:00
  • 367:

    主◆lZf.ArgVp2

    アメに送っていってもらう事にして、さっきの料理を包んだ。
    「美味しそう、スミトモ喜ぶわ。唐揚げ大好きなの」

    「…やっぱり」
    さっきその話をしていたと話したら「唐揚げ好きそうな顔って何!?」とやっとレイチェルらしく笑ってくれた。

    2008-06-20 07:25:00
  • 368:

    主◆lZf.ArgVp2

    二人がいなくなった後も以前階下は騒がしく、たまに怒鳴り声が聞こえたりした。
    いつのまにかクリスマスは終わってしまい料理も冷めてしまった。手の付けられていない料理が目一杯並ぶテーブルは一人でみても物悲しい。
    この分だとドクターは朝まで帰らないかもしれない。
    料理に埃が入らないよう布をかけたり戻せる分は鍋に戻した。冷蔵庫はパンパンに満員御礼となる。

    2008-06-20 07:32:00
  • 369:

    主◆lZf.ArgVp2

    レイチェルはもう家に帰ったろうか。
    強く降っていた雨はまた穏やかにシトシトと降る。それが逆に苛立ってため息をひとつ。
    アメを待つ時間が途方もなく長く感じる。
    時計の針は止まっているんじゃないかと思う程動かない。
    怖くなった。

    2008-06-20 07:36:00
  • 370:

    主◆lZf.ArgVp2

    「たーだいまー、もうビショビショー。もうちょっとでつくってとこで急に雨弱くなるし………アンジュ?」
    言葉をなくしてアメを見つめるあたしを不思議そうに見た後、意地悪な顔をして笑う。
    「はやくタオルとって。寂しかったでしょ、泣き虫」
    「泣いてない!」

    2008-06-20 07:46:00
  • 371:

    主◆lZf.ArgVp2

    タオルは美しく放物線を描き、アメの顔面に着陸した。

    アメの腕を枕にして不安な夜は過ぎていく。こんな時に限ってアメはさっさと眠ってしまった。はやくから奮闘したから当たり前か。
    レイチェルは今頃、どんな思いでいるだろう。
    次にスミトモと会ったらしばらく口は聞かなくていいな。

    2008-06-20 07:52:00
  • 372:

    主◆lZf.ArgVp2

    はやく眠ってしまいたくて無理矢理に目を閉じる。瞼の裏の暗闇は不安よりかは安心だった。
    ようやくうつらうつら仕掛けた時。
    「起きろ!!!アンジュ!!」
    目を開けるとドクターも部屋にいて霞みがかる頭は夢と現実をごちゃまぜにする。

    2008-06-20 07:56:00
  • 373:

    主◆lZf.ArgVp2



    ………えっ?

    2008-06-20 07:57:00
  • 374:

    主◆lZf.ArgVp2



    死んだって 誰が?

    2008-06-20 08:06:00
  • 375:

    更新>>372 から

    2008-06-20 08:08:00
  • 376:

    名無しさん


    気ーにーなーるー?

    2008-06-21 04:56:00
  • 377:

    名無しさん

    ほんまや??
    メッチャいいところで終わってる?

    2008-06-22 09:36:00
  • 378:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>391さん392さん

    エラーになってきれちゃいました(´A`)
    読んで頂いて嬉しいです

    2008-06-26 03:33:00
  • 379:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>389
    意味が理解できない言葉だけが頭の中を通過する。寒気がして汗が流れた背中の皮膚の感覚が異様にくっきり後を残した。
    アメに手を引っ張られ引きずられるように外へでた。
    足がもつれる。
    生温い水の中を走っているように耳はザーザーした雑音に支配される。

    2008-06-26 03:40:00
  • 380:

    主◆lZf.ArgVp2

    心臓の音が体中に反響して気持ちが悪い。
    実感なんてまるでなくて、あたしはまだ目覚めていないんだ、などと思う。霧のような雨がもやのように白い。夜が明けかけている。

    町外れの一角にまばらな人だかりが見える。その中に見慣れた姿を見つける。
    頭が急に弾かれたように覚める。その顔は夢なんかじゃ有り得ないほど、悪夢なんかよりずっと、悲痛。

    2008-06-26 03:50:00
  • 381:

    主◆lZf.ArgVp2

    「…来てくれたんだ」

    レイチェルの目線の先には、雨に打たれるただの“もの”になってしまったスミトモが無残に転がっていた。

    2008-06-26 03:53:00
  • 382:

    主◆lZf.ArgVp2

    血の気のない真っ白な顔に打ちまくられた銃の跡。

    「…………………アメ、ドクターを…ドクターのとこに」
    「………アンジュ」
    「ねえ…はやく…はやくしないと」

    2008-06-26 03:58:00
  • 383:

    主◆lZf.ArgVp2

    「…アンジュ、もう死んでる」

    ついこないだ会ったばかり。まだ二日も経ってない。
    涙もでない。突然過ぎて。ただびっくりしてるだけ。
    あれは本当にスミトモ?どこかのよく似た人なんじゃないの?

    2008-06-26 04:03:00
  • 384:

    主◆lZf.ArgVp2



    ねえ ねえ ねえ ねえ
    死んでない 死んでない 死んでない しんで………………

    2008-06-26 04:05:00
  • 385:

    主◆lZf.ArgVp2

    数人の仕事関係であろう男数人がスミトモを囲んでいる。その中の一人が開いたままのスミトモの目を閉じようとしたけれど、死後硬直が始まっているのかその目は閉じなかった。
    泣き叫んでいるだろうと思ったレイチェルはその姿をじっと見つめている。
    少し離れた所に大声で泣き叫ぶ女が男に支えられて立っていた。今にも泣き崩れそうだ。
    「ああ、あれ?スミトモの女よ」

    2008-06-26 04:13:00
  • 386:

    主◆lZf.ArgVp2

    そんな事にはまるで興味が無いというふうにレイチェルは言ってのけ、レイチェルはあたしとアメに抱擁すると「スミトモを見てきてやって」と耳元で囁いた。

    スミトモの頬に触れる。冷たい。
    痛々しいスミトモの最期より、今までのスミトモの憎らしい笑顔のほうが頭に浮かぶ。
    耳に声が聞こえる。

    2008-06-26 04:24:00
  • 387:

    主◆lZf.ArgVp2

    今だってそこの路地からふいに出てきそうなのに。

    『よぅ〜アンじゃん』

    2008-06-26 04:26:00
  • 388:

    主◆lZf.ArgVp2

    「……スミトモっ」


    大きすぎる悲しみは言葉を伴うことすらできない。重い痛みとして心を、体を、押し潰す。
    痛かったろうに。死にたくなかったろうに。生きたかったろうに。

    2008-06-26 04:32:00
  • 389:

    主◆lZf.ArgVp2

    「…ずっと怖かった、いつかこんな日が来るんじゃないかって。…ずっと…ずっと。ずっと怖かったのに」
    レイチェルはぼんやりと呟く。少し離れたスミトモを見つめたまま。レイチェルにもきっとあの憎らしい笑顔が駆け巡っているのだろう。

    スミトモの遺体は運ばれて行き、レイチェルは店の人間に付き添われて帰って行った。

    2008-06-26 04:41:00
  • 390:

    主◆lZf.ArgVp2

    アメに引きずられるようにしてあたしも家へ向かう。
    お互い発する言葉なんてない。
    日が上り明るくなった街。なんて無情なんだろう。

    2008-06-26 04:45:00
  • 391:

    主◆lZf.ArgVp2

    気付いた事があった。
    スミトモの頬に触れた時、スミトモが手に何か握っているのを見つけた。
    青い布の切れっ端。多分シャツか何かだと思う。
    あたしはそれにはっきりと見覚えがあった。

    2008-06-26 04:49:00
  • 392:

    主◆lZf.ArgVp2

    更新分>>394

    2008-06-26 04:51:00
  • 393:

    名無しさん

    お疲れ様?

    2008-06-26 06:50:00
  • 394:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>408さん
    ありがとうございます?

    2008-07-02 01:51:00
  • 395:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>407

    珍しくその日は晴れた。

    2008-07-02 01:53:00
  • 396:

    主◆lZf.ArgVp2

    街外れの火葬場はなんの色気もない灰色の建物。ただ焼いて灰にする。それがこの街の葬儀。
    黒は似合わないから着ない、と言っていたアメも黒のスーツに黒のネクタイをしていた。
    どうみても堅気でない人間がまばらに集まる中、あたし達は浮いている。

    今日はスミトモの葬儀だ。

    2008-07-02 02:00:00
  • 397:

    主◆lZf.ArgVp2

    柩の中に横たわるスミトモは黒のスーツを今までに見た事もないくらいきちんと着せられている。綺麗に死化粧されていて無残だった死の面影はない。
    「こうやってみると男前だったんだね、コイツ」
    寂しそうにアメが笑う。レイチェルは見当たらない。来れる状態じゃないのかもしれない。あたしはというとまだ半分夢の中のような気分、花に囲まれるスミトモはただ眠っているようにも見えるのだから。

    2008-07-02 02:10:00
  • 398:

    主◆lZf.ArgVp2

    いよいよスミトモと最期の別れだという時、走りよってきたレイチェルの姿に周りは唖然とする。
    彼女はクリスマスに着ていた真っ白のドレスを着ていた。
    「買い物してたら遅くなっちゃった。こんな時なのに列ができてんだもん」
    屈託なく笑いかけてくるレイチェルに気でも狂ったのかと思った。茶色い紙袋の中から取り出されたのはサンデイピクニックのサンドイッチ。

    2008-07-02 02:17:00
  • 399:

    主◆lZf.ArgVp2

    「スミトモの好きなもの色々買ってきたの」
    柩の隙間にサンドイッチを入れるのを手伝う。
    「わあー綺麗にしてもらったね……眠ってるみたい。おきなさーい!!!!!……………………なんてね」
    レイチェルの少しおかしな行動に周りは静まり返っていた。でも誰もいさめたりしない。いや、できないのだろう。

    2008-07-02 02:23:00
  • 400:

    主◆lZf.ArgVp2

    レイチェルの手がスミトモの頬にそっと触れる。

    「愛してるわ………スミトモ」

    2008-07-02 02:25:00
  • 401:

    主◆lZf.ArgVp2

    どんなにレイチェルがスミトモを愛してるか、その声でその場にいた人間全てが理解したと思う。そういう声だった。
    気丈なレイチェルの態度は周りの涙を誘った。
    「ふふふ、お別れだって言うのにスミトモのほんとの名前も知らないや」
    レイチェルがあたしの手を強く握る。痛い程。
    柩の蓋が閉められる。スミトモの姿が見えなくなった。

    2008-07-02 02:33:00
  • 402:

    主◆lZf.ArgVp2

    さようなら、スミトモ。多分あたしの初めての友達。
    レイチェルとアメと三人で白い煙と姿をかえて空に消えて行くスミトモを見守る。レイチェルは初めてすすり泣いた。
    「晴れてよかった。きっとスミトモは天国にいけるって事だよね?優しいひとだから」
    返事のかわりにレイチェルの頭を撫でる。あたしもそう思った、そう思いたかった。

    2008-07-02 02:41:00
  • 403:

    主◆lZf.ArgVp2

    「あたし、ここを出ようと思う。前からモデルのプロダクションを持ってる客に誘われてたの。スミトモには黙ってたけど」
    レイチェルの目に涙が盛り上がって大粒の涙が顎へと伝う。
    「スミトモは……行けっていうだろうし……………スミトモのそばにいたかったから……………でも…もういないから………スミトモがいないなら……セレブになって…映画にでるとか位しなきゃ、人生の帳尻あわないでしょ?」
    レイチェルを力いっぱい抱き締めた。レイチェル、あたしの二人目の友達。

    2008-07-02 02:53:00
  • 404:

    主◆lZf.ArgVp2

    「スミトモがアンの事クールでかっこいいってずっと言ってるからあたし最初妬いちゃって。ちっともクールじゃないのにね。」

    レイチェルはその日のうちに街をでた。
    「アンジュ、寂しくない?」
    「レイチェルとはまた会えるから。……生きてるんだから」

    2008-07-02 03:00:00
  • 405:

    主◆lZf.ArgVp2

    レイチェルの門出を祝うように、白い月が輝く。赤い月からスミトモがレイチェルを守ってやっているんだ、きっと。
    生きている間にもっと優しくしてやればよかったのに。
    「スミトモはレイチェルの事目茶苦茶すきだったよ?」
    ぎょっとしてアメを見る。お前が何を考えているのかなんてお見通しと言うようにアメが笑う。
    「あーいう組織の人間って特定の女作ると危ない目見せたりするからね。レイチェルもわかってるよ、愛されてたって。」

    2008-07-02 03:10:00
  • 406:

    主◆lZf.ArgVp2

    「……わかってるよ!そんくらい!!」

    レイチェルにも誰にも言わなかった事がある。スミトモを殺したであろう人物について。
    レイチェルはスミトモに愛された記憶がある、恨みなんかを支えにして欲しくなかったから心当たりについて聞かれた時、知らないと答えた。

    2008-07-02 03:24:00
  • 407:

    主◆lZf.ArgVp2

    更新分>>310から

    2008-07-02 03:26:00
  • 408:

    主◆lZf.ArgVp2

    間違い>>410

    2008-07-02 03:30:00
  • 409:

    名無しさん

    ヤバイ泣いた

    2008-07-03 05:48:00
  • 410:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>424 さん
    感想ありがとうございます!嬉しいです!!

    2008-07-10 01:11:00
  • 411:

    主◆lZf.ArgVp2

    >>421
    アメの部屋に行く気にはなれず自分の部屋に戻る。窓を開けて月の光で部屋を満たす。雨の香りのしない空気は新鮮な味がした。
    「わりぃな」そう呟くスミトモの声が聞こえた気がして。慌てて振り返ってもその姿はあるはずがないのに。
    スミトモの死はマフィア同士の喧嘩という事であっけなく片付いた。この街では人間が一人いなくなるのに十分な理由。

    2008-07-10 01:20:00
  • 412:

    主◆lZf.ArgVp2

    煙草に火をつける。吸い込むと湿気がないせいかいつもより旨く感じる。白い光に向って昇り掻き消えていく煙はスミトモを連想させた 。
    簡単な挑発なんかに乗るような奴ではなかった。喧嘩なんてしてるところ一度も見た事なかった。
    頭を抱える体が酷く重い。二口だけすった煙草を乱暴に消した。
    「………嫌だ」

    2008-07-10 01:26:00
  • 413:

    主◆lZf.ArgVp2

    もう二度と会えないなんて嘘だ。胸に込み上げるなにかが痛い。
    苦しい 苦しい 苦しい

    レイチェルは強い。
    スミトモの死を受け入れられないのはむしろあたしの方だ。冷たく横たわるスミトモを前にして何もできなかった。涙を流す事すら。ただ呆然と眺めていただけだ。

    2008-07-10 03:20:00
  • 414:

    主◆lZf.ArgVp2

    理由が欲しいと思った。スミトモが死ななければならなかった理由。一人のマフィアの人間が死んだ理由はあたしが友をうしなった理由にはならない。

    アメに自らが言った言葉を、誓いを思い出す。“全てに目を背けない”
    知らなければ。友として友が何を考え、思い、死に至ったか。

    2008-07-10 03:27:00
  • 415:

    主◆lZf.ArgVp2

    スミトモはあたしに友情をくれた。貰ったものからあたしは得がたい物を得た。それはあたしが人でいる為に必要なもの。とても大切なこと。

    あたしは昔のあたしじゃない。だから今までみたいに仕方ないとか関係ないとかそんなふうに目を逸らす事なんてもうできない。

    2008-07-10 03:31:00
  • 416:

    主◆lZf.ArgVp2

    何ができるかなんてわからない。なんになるのかなんてしらない。
    「でも…行かなきゃ」

    このまま何もしないなら死んだ方がましだ。大丈夫行く道はスミトモが照らしてくれる。

    2008-07-10 03:35:00
  • 417:

    主◆lZf.ArgVp2

    ドクターに気付かれないように部屋をでる。足音を鳴らさないように階段をおりて、そのまま走った。以前スミトモと歩いた道。丁度アメと出会った日だった。夜中なのにも関わらず月明りで街は明るい。

    スミトモがあの日、鞄をもってくれるって言った時「ありがとう」と言えば良かった。

    2008-07-11 04:08:00
  • 418:

    主◆lZf.ArgVp2

    スミトモが握っていた布キレ。あの日あたしは確かに見た。

    『相変わらず服の趣味が最低。どこで買ったかわからないような柄シャツ着てた』

    ドクターとかわした会話。

    2008-07-11 04:16:00
  • 419:

    主◆lZf.ArgVp2



    あれは、ステファンが着ていたものに違いなかった。

    2008-07-11 04:18:00
  • 420:

    主◆lZf.ArgVp2

    走ってきて乱れた息の音が響く。軽く深呼吸をして沸き立つ血潮の感覚を沈める。

    「ステファン、いるんでしょ?入るよ」

    少し間を置いてから「どうぞ?」と小馬鹿にしたような調子の声が聞こえて、あたしは扉をあけた。

    2008-07-11 04:39:00
  • 421:

    主◆lZf.ArgVp2

    無言で座る。体が沈み込んでしまいそうな位軟らかい素材だった。
    「それ、お前用に買ったんだ。全然来ないけどね、アンは」

    なんの間柄でもないのに笑いながらそんな事を言うステファンに困惑していると男がぎこちない手つきで紅茶を持って来た。
    「せっかくいい葉なのに淹れ方がわりいなあ」

    2008-07-11 04:55:00
  • 422:

    主◆lZf.ArgVp2

    ステファンに熱い紅茶をかけられたチンピラ男はすいませんを連発しながら床を片付け出し、それをステファンは蹴りつけ、あたしにむかって八重歯を見せて笑った。

    2008-07-11 05:04:00
  • 423:

    ◆lZf.ArgVp2

    「…お茶とかいいから」
    「チョコレートの美味しいのがあるから食べない?」
    「……聞きたい事があるだけだから。」
    「せっかく来てくれたと思ったら……何?そんな怖い顔して。まあだいたいわかるけど」
    ちゃんとステファンの目を見たのは初めてかもしれない。真正面から向き合うとステファンの視線はもう恐ろしくはなかった。

    2008-07-11 05:10:00
  • 424:

    ◆lZf.ArgVp2

    先に目を逸らしたのはステファンの方で悲しそうに笑った。

    「スミトモを殺した?」
    「ああ、うん」
    「………………………………どうして?」

    2008-07-11 05:15:00
  • 425:

    ◆lZf.ArgVp2

    「さあ?」
    「…ちゃんと答えて!!!」

    「んームカついたし?」

    2008-07-11 05:18:00
  • 426:

    ◆lZf.ArgVp2

    殴りかかったものの、あっけなく胸元を掴まれる。
    「………あー懐かしいなコレ。胸糞わるい。………はずせ!」
    ステファンはゆっくり手を放し再びソファに腰を下ろした。足は今度は硝子テーブルに上に組まれ、一口も飲んでいないあたしの紅茶がカップもろとも落下した。薄いガラスのカップが砕ける音がした。

    2008-07-11 05:26:00
  • 427:

    ◆lZf.ArgVp2

    「はやく、はずせ」

    何を言いたいのか意味が分からなかったけどネックレスの事だとようやく気付いた。
    何が気に食わないかは知らないが、それ位の事はどうでもいい。ネックレスを外すとデニムのポケットにしまっておいた。

    2008-07-11 05:32:00
  • 428:

    ◆lZf.ArgVp2

    更新分>>432

    2008-07-11 05:35:00
  • 429:

    名無しさん

    気になる〜?
    メッチャおもしろい?

    2008-07-11 07:04:00
  • 430:

    名無しさん

    おもろい?一番好き?毎日みてます?

    2008-07-12 04:50:00
  • 431:

    ◆lZf.ArgVp2

    >>446さん

    ありがとうございます 最近話がごちゃごちゃしてきてますがちゃんと読んで頂いて嬉しいっす(>_>447 毎日とか嬉しいです。趣味ですが励みになります

    2008-07-13 21:55:00
  • 432:

    ◆lZf.ArgVp2

    >>445 沈黙。ステファンはこっちをみようともせず目をつむり歌を口ずさみ始めた。いつものラフな格好ではなく黒いスーツを着ている彼はとてもマフィア関係の人間には見えない。昔からどんなにだらしなく着崩していてもどこか品がある男だった。
    ドクターと年が近いはずだから40近いか過ぎ位のはずなのに妙に若々しいのは若者特有の飢えたような感じがするからかもしれない。
    それは刹那的で暗く、悲しく寂しい。
    「…どうしてなんてなぜ聞く?」

    2008-07-13 22:07:00
  • 433:

    ◆lZf.ArgVp2

    目をつむったままステファンはそう言った。それはあたしにではなく違う人に言っているようにも聞こえた。
    「知りたいから。」
    「知ってどうする?…死ねば ただの無だ。理由なんて意味はない。もういない それだけだろう。」
    「無じゃない。」

    2008-07-13 22:15:00
  • 434:

    ◆lZf.ArgVp2

    「思いは残る」

    ステファンはゆっくり目を開けた。
    「死に意味を求める意味がどこに?ならなぜお前の母親は死んだ?お前の母親の死になんの意味が?あいつが一体何を残した?お前が殺したくせに」

    2008-07-13 22:19:00
  • 435:

    ◆lZf.ArgVp2

    「なんで知ってるの?」
    ステファンはこっちにゆっくり近付いてきて床に散らばるガラスの破片が彼の靴の下で小さくパキンと音をたてた。耳元でステファンが囁く。

    「アンジュ、昔話でもしてやろうか」

    2008-07-13 22:25:00
  • 436:

    ◆lZf.ArgVp2

    にっこりと笑うステファンの笑顔は文字通り笑った顔。この状況で向けられる笑顔はあたしに選択肢なんてないことを予告する。
    「退屈な…話かもしれないが」

    ソファに戻りまた寝そべったステファンは語りだした。姿勢を正すのにソファに座り直すとあたしの靴の下でもパキンと音がして薄い物が砕ける感触がした。

    2008-07-13 22:32:00
  • 437:

    ◆lZf.ArgVp2

    「俺らがこの街にきたのは九年前。仕事できたんだ。医者だった。オーランドと俺とあと一人。この街の救急に派遣されたチームだったんだ。
    雨ばっかの来たねー街で職場は怪我人は毎日運ばれて来るわ ベッドは足りねーわ、人手不足だわ、身寄りも金もない奴が運ばれて来るわで。
    くっそ忙しい毎日だったよ。オーランドはすごい仕事や街の改善みたいなんにも熱心だったな。俺はやるべき事しかやらなかったけど。」

    2008-07-13 22:42:00
  • 438:

    ◆lZf.ArgVp2

    「っていうか何にも興味がなかった。この街も九年前まではこんなじゃなかった。まあ柄は良くなかったな。覚えてるか?」
    「……まあ、少しは」
    「チームの中に一人、むちゃくちゃうっとしい奴がいて。なんか身寄りのない子供を救うとか売春を無くそうだとかいってるような奴で。やたらと燃えてたんだけどこっち来た途端、現状の酷さに面食らって折れちゃってさ。なんか鬱みたいになってだんだんおかしくなっていった。まあどうでもよかったけど。」

    2008-07-13 22:50:00
  • 439:

    ◆lZf.ArgVp2

    「なんか引きこもって研究とかやりだして。もともと新薬かなんかの研究がしてたみたいだし。て、変な思想とかにもかぶれだして、俺はほっといてたけどオーランドは心配してよく様子とかみてたな。
    そうして、そいつがすごいもん作っちゃった。これだけどね。」
    透明な小さなカケラがビニールのケースにいれられていた。
    「……麻薬?」
    「そ。」

    2008-07-13 22:57:00
  • 440:

    ◆lZf.ArgVp2

    更新分>>449

    2008-07-13 22:58:00
  • 441:

    ◆lZf.ArgVp2

    >>456
    「まあ偶然できたケミカルの一種なんだけど、原料は従来の二分の一以下。依存性は…2倍、3倍……もっとかな。すごいのはその効果。むちゃくちゃに幸せな夢が見れる。心の中の願望が現実のように現われる。むしろ現実の方が悪い夢なんじゃないかと思う位に。感触や嗅覚も伴う一瞬の夢の前には抗える人間なんていない。試しに少し流してみたら、すごい勢いで広まったよ。俺はさ、コイツを手土産に今いる組織に入った。大量生産が始まって………儲ったねー。街は人の出入りが急に増えて一気に今の状況まで堕ちた。
    面白かったよ、色んなものが、金や欲や情で崩れ堕ちて行く様子がそこここで見られて。」

    2008-07-14 14:09:00
  • 442:

    ◆lZf.ArgVp2

    「そんな感じだったんだけど作った奴が自殺して。あいつ、俺や周りを警戒して誰にも製造法を教えなかった。
    奴の頭の中にある製造法は闇の中。在庫はあったけど、それを元に試行錯誤しても同じものにはならなかった。
    ムカついたねー元々とち狂って“子供達にせめて幸福な死を”とか言って作り始めて、そのうち正気に戻って死んじまったんだから。
    糞みたいな奴だったけど頭はよかったからね、使いようはいくらでもあったのに。」

    2008-07-14 14:17:00
  • 443:

    ◆lZf.ArgVp2

    小さな透明の粒をビニール越しに触りながら、ステファンは愛しそうに目を細めてそれを見つめる。
    「……こんな物の為に大勢死んだ。あっけなかったな、みんなコイツの前には。どんなに純粋そうに見えた奴だってこれを手に入れる為ならなんだってやるようになったり。なんせ脆いよ、人間は。
    笑えるだろ?これは通称“happiness(幸福)”ていうんだ。作った奴がつけたんだけどね。」

    2008-07-14 14:26:00
  • 444:

    ◆lZf.ArgVp2

    ステファンの言う通り人間は脆い。そこに異存はない。
    …幸福。甘い甘い幸せな都合のいい夢を誰だって夢見る。それを差し出されたら、その中で遊べたら誰が依存しないでいられるだろう。

    例え、ニセモノの“Happiness”でも。

    2008-07-14 14:32:00
  • 445:

    ◆lZf.ArgVp2

    人間は強くない。だけど弱いんじゃない、強くないだけ。それは悪い事でもなければ滑稽でも愚かでもない。
    「………笑えないよ、ステファン。」

    「そうだな。……どうでもいいな。そんな事は」
    ステファンはあたしを見つめる。懐かしむような、憎んでいるようなそんな底の知れない感情が渦巻く眼差しで。あたしは奇妙な感覚に囚われる。ステファンの感情に引き込まれるような感覚。それは深い深い、右も左も上も下もわからないような暗い暗いブルー。そして心がどうしようもない位痛くなった。ステファンの目を見ていると。

    2008-07-14 14:45:00
  • 446:

    ◆lZf.ArgVp2


    「………どうしてそんなに苦しそうなの?」

    「………俺が? まさか」

    2008-07-15 02:18:00
  • 447:

    ◆lZf.ArgVp2

    ステファンは人を貶めてまでお金を欲しているようには見えなかった。この部屋や身に着けている物なんかはさりげなくお金がかかっていそうだけど、物欲が強いようにも見えない。堕ちて行く人間を滑稽だと笑うけど、本当はそんな事に何の興味もなさそうで。
    「同じ事を聞くんだな…アハッ…アハハハ」
    けたたましい笑い声が部屋に響く。クラシックな雰囲気のおしゃれな部屋で、中年の痩せすぎた男が身悶えしながら笑い転げる様子は奇妙としか表現できない。
    「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ………」

    2008-07-15 02:29:00
  • 448:

    ◆lZf.ArgVp2

    涙を流しながらひとしきり笑った後、馬鹿みたいにむせて咳き込んで「おい!!!水ぅ!!」と怒鳴り出した。
    すぐにさっきの男が水を持ってくる。ステファンは男の髪を掴むと壁にむかって顔面から叩き付けた。
    「アギャ!」という悲鳴となんともいえない音がして、咄嗟に目を閉じる。おそるおそる目をあけると白い壁には血の跡がついている。なんとなく人の顔の形だとわかる。下には顔を押さえる男がうずくまっていて、声にならない音を発していた。
    「大事な話なんだから、席外せよ。ちょっとは空気読めって。」

    2008-07-15 02:40:00
  • 449:

    ◆lZf.ArgVp2

    「ステファン!!!やめて!!!!」

    なおかつ蹴りをいれようとしているステファンを後ろから押さえた。その隙に男は転げるように走って行った。
    「どうして、こんな事ばっかりするの!!」
    ステファンはまるで今まで眠っていた様なぼんやりした目をしていてさっきまでの凶暴さが嘘のようで。

    2008-07-15 02:46:00
  • 450:

    ◆lZf.ArgVp2

    煙草に火をつけてゆっくり一口吐き出す。煙はもろにあたしの顔にむかって吐かれて咳き込んだ。
    「あいつがさっきから奥でガチャガチャしてんのが気になってさ。ちょっとイライラしてきてたんだ」
    「…言えば済む事じゃないか」
    「そう言われるとそうなんだけどねえ。だんだんガタがきてるな。………ちっ、壁が…汚れた。あ〜あ。」
    一人ごとのような返答を返してきて「壁……塗り治さないとなあ」と続けた。

    2008-07-15 02:53:00
  • 451:

    ◆lZf.ArgVp2

    「………アンジュ、お前は似ているな。姿形じゃなくてもっと深い所が。深い悲しみを抱いている目が。
    お前の目は黒いけど、内在する哀れみは同じ色だ。
    悲しみをそのまま具現化させた青い瞳。その目を人生で唯一、美しいと思った。」
    「…………ステファン?」

    2008-07-16 03:14:00
  • 452:

    ◆lZf.ArgVp2

    動けなかった。瞬きすらできないでいる間にステファンの腕に囚われる。抵抗すらできないでいるのに、その力は強い。それでもどこか震える指は恐れている様にあたしの肩を抱く。

    「……ベス。お前の母親だ。」

    2008-07-16 03:20:00
  • 453:

    ◆lZf.ArgVp2

    「産まれてから今まで彼女だけを尊いと思った。美しかった。
    ぐちゃぐちゃにしてやりたいと思う程に。だけど彼女は汚れなかった。汚す事ができなかった。
    だから憎かった。
    だから壊した。」

    2008-07-16 03:24:00
  • 454:

    ◆lZf.ArgVp2

    「お前も汚してやりたかった。母親の血に塗れてもお前もやはり汚れなかった。」

    腕を振りほどいて、後ろに飛び退いた。本能的恐怖。

    狂っている、そう思った。

    2008-07-16 03:30:00
  • 455:

    ◆lZf.ArgVp2

    さっきの男に向られていた凶暴性とは違う。もっと甘くて濁っている。震える足で出口へと向かう。
    「まだ話の途中だ」

    大きく体が崩れる。不思議な事に床に叩き付けられた上体の方が痛みを感じた。
    足を打たれた。

    2008-07-16 03:35:00
  • 456:

    ◆lZf.ArgVp2

    「アンジュ、お前だけが俺の夢を叶えられる。偽りの夢を終わらせてくれる。」
    太股から血が溢れる。痛い、熱い。それでも逃れようとしてもがくと血で手が滑った。

    「アンジュってのはよくつけたなあ……この世界を捨てた時、案内するのは確かに天使だ」

    2008-07-16 03:40:00
  • 457:

    ◆lZf.ArgVp2

    「………どこまで話したかな?えーと……あ、痛いか?ごめんな」
    あたしを抱き抱え、ソファに運ぶと優しく座らせる。動く度に激痛が走った。白いソファに血が染み込んでいく。
    「……あ、そのソファいいだろ?なんかの映画で神様が座る椅子があって、それに似てたんだ。アンジュが座れば丁度いいと思って。」
    そんなことを言いながらステファンは微笑む。あたしも逃げられない事を悟ったからか、恐怖が痛みに気を取られたのか、幾分落ち着きを取り戻し、笑って見せた。
    ただその笑顔は痛みで歪んでいるだろう。

    2008-07-16 03:48:00
  • 458:

    ◆lZf.ArgVp2

    16日更新分>>468

    2008-07-16 03:49:00
  • 459:

    名無しさん

    アンジュ?どうなんの?メッチャ気になるやん〜?

    2008-07-16 21:38:00
  • 460:

    ◆lZf.ArgVp2

    >>776さん
    寝ようと思ったんですがコメント見つけて嬉しかったので少しですが更新します☆

    2008-07-17 04:38:00
  • 461:

    ◆lZf.ArgVp2

    間違いました
    ごめんなさい?>>476さんでした

    2008-07-17 04:40:00
  • 462:

    ◆lZf.ArgVp2

    >>474「これが最後の残りなんだ。おれは体質的に合うのか依存症はでない。けど、これがなかったら生きている意味がない。」
    量にしてほんの数グラムだと思う。ただの透明の小さいカケラ。

    「これがないと…………………ベスに会えない。」

    2008-07-17 04:45:00
  • 463:

    ◆lZf.ArgVp2

    「……お母さんは死んだんだよ。どこにもいないんだ。もう二度と会えないんだよ。」

    「………会えるんだ。コレがあれば。」

    2008-07-17 04:49:00
  • 464:

    ◆lZf.ArgVp2

    「ほんとはさ、最近かなり近いものができたんだよ。昔と同じ、ほぼ偶然みたいなもんで。
    スミトモとかいうガキ何しやがったと思う?研究者を殺しやがった。昔コレ作り始めた時、製造法押さえたら邪魔だし作った奴を殺そうとしてて、その頃の事知ってる奴だったからそいつもだんまり決め込んでたんだよね。だから、またふりだし。残りはこれだけ。
    俺、もうめちゃくちゃ悔しくてさー気付いたら滅多打ち。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。
    まあ俺がやらなくても時間差で上の奴にやられたと思うけど。」

    2008-07-17 05:06:00
  • 465:

    ◆lZf.ArgVp2

    スミトモは汚い事はしていないと言えば嘘になるけど、麻薬は大嫌いだった。
    マフィアに入る前のただのごろつきの頃から、下の子には絶対に薬物なんかさせなかったし、薬物関係の仕事はどんなにお金が良くても、どんなに自分の立場が悪くなろうともやらない、とレイチェルがよく話していた。
    『スミトモの弟もおじいちゃんも薬で亡くなってるの。だからスミトモは絶対、下の子にさせないし関わらせない。
    スミトモね、ほんと馬鹿みたいなんだけど、いつか力を持って……そりゃ今は悪い事してるよ?
    で、この街の子が子供らしく暮らせるようにしたいんだって。麻薬絶対ダメ!!ってポスターみたいな事いつも言ってるし…………壮大な…夢よね』

    2008-07-17 05:18:00
  • 466:

    ◆lZf.ArgVp2

    スミトモが死んだ理由。大きな儲けの可能性を潰せば死の報復があることなど承知のうえだっただろう。

    自分の命を懸けて

    悲劇が再び起こるのをくいとめようとしたんだ。

    2008-07-17 05:24:00
  • 467:

    ◆lZf.ArgVp2

    それしか方法がなかったかは、あたしにはわからない。
    スミトモらしい死に様だ。彼の守りたかったものはきっと未来。
    人殺しかも知れない。でもスミトモは、殺したくなかったから殺したんだ。
    涙が流れた。あたしの中でスミトモは完全に死んだ。スミトモの死を受け止めた途端、涙はとめどなく溢れる。

    2008-07-17 05:39:00
  • 468:

    ◆lZf.ArgVp2

    17日更新分>>479

    2008-07-17 05:41:00
  • 469:

    名無しさん

    毎日更新楽しみにしてます?

    2008-07-17 18:54:00
  • 470:

    ◆lZf.ArgVp2

    >>486さん
    ありがとうございます。感想とても嬉しいです。落ち込んだりしても元気でます!

    2008-07-18 00:16:00
  • 471:

    ◆lZf.ArgVp2

    >>484
    「………何を泣く?」
    不思議そうにあたしを見つめるステファンは何本目かの煙草に火をつける。少し甘い匂いのする煙がこちらに漂ってきた。その紫煙を払う。それは意思表示の現れでもあった。
    「…死っていうものは本来こういうものだよ、ステファン。こうして泣いて苦しんで忘れはしないけど越えていくんだよ。
    いつまでもすがりついちゃいけない。自分の都合いい幻覚なんかで引っ張り出してあげたりしたらいけない………………そんなの………………」

    2008-07-18 02:21:00
  • 472:

    ◆lZf.ArgVp2



    「可哀相だよ!!!!お母さんが!!!」

    2008-07-18 02:22:00
  • 473:

    ◆lZf.ArgVp2

    ステファンとお母さんがどんな関係だったかなんて知らない。2人の間に何があったかなんて知るよしもない。
    お母さんは優しい人だった。今のステファンを見たらきっと泣くだろう。
    「……静かに眠らせてあげようよ!」

    2008-07-18 02:26:00
  • 474:

    ◆lZf.ArgVp2

    「…………………………嫌だね。とっとと死にやがってアイツ。苦しみつづければよかったのに。もっともっと苦しんでもっともっと汚くなればよかったんだ。
    ベスに打ったのと同じ薬だよ。これは。
    俺がベスをあんな風にしたんだ。
    お前が刺さなきゃもっと生きてるはずだったのに」

    2008-07-18 02:34:00
  • 475:

    ◆lZf.ArgVp2

    空気が細く震えたと思った瞬間、今度は腕を打たれた。
    幸い、少しかすった程度。それでも衝撃で体はかたむき、床に倒れこんだ。さっき打たれた左太股の傷周辺に割れたガラスの破片が刺さる
    。呻き声をだしながら転げ回って痛みに耐える。他の場所にも破片は軽く刺さったようだが尋常じゃない痛みのせいでもはや何がなんなのか。

    「…………ど…ぅ…して……………ぇ?」

    2008-07-18 02:46:00
  • 476:

    ◆lZf.ArgVp2

    「…………さあな、わからないんだよ。ほんのたまに全てが七年前…………いや…もっと前に戻ればいいと思う時がある。
    …………………………………………………………ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ戻ったところで同じ道を辿るだけなのにな。
    俺の悪い夢はじき終わる。happinessの為に散々金を使った挙げ句、これだ。もうすぐ上も気付くだろう。始末………いや……廃棄されるまでもう時間も余りない。
    お前がここに来なきゃ、一人で死ぬつもりだった。だけど気が変わったんだ。」

    2008-07-18 02:54:00
  • 477:

    ◆lZf.ArgVp2

    「ま……お前とつるんでるガキを殺ったら、必ず来るとおもってたけど。
    お前がアレに気付くかは賭けだった。わざと証拠を残しといたんだよ。
    ……………話がずれたな。
    どこまで話したっけかな……………」

    2008-07-18 02:57:00
  • 478:

    ◆lZf.ArgVp2

    「まあ 聞いてくれや。これは俺の懺悔…………………いや、違うな。

    遺書だ。

    残す必要もないから、ただ話してるだけだけどな!アハハハ!」

    2008-07-18 03:00:00
  • 479:

    ◆lZf.ArgVp2

    「あゎ…れ……」
    「……なんか言ったか?って痛くて話せないよな」

    哀れな人。悲しい人。ステファンに対する怒りはもう既になくなっていた。怒りなんか及ばない。ただ哀れだと、そう思った。

    2008-07-18 03:06:00
  • 480:

    ◆lZf.ArgVp2

    18日更新分>>488

    2008-07-18 03:08:00
  • 481:

    ◆lZf.ArgVp2

    >>496 一歩一歩近付いてくるステファンの足が見える。膝をついた彼はあたしの髪を引っ張って頭を持ち上げさせると顔を近付けてまじまじと見る。
    「そっくりだよ。目が。だからお前だけが俺を罰せる。」
    「…ちが…う。あたしは…かあさ…じゃな…ぃ」
    「………わかってるよ。そんな事は」

    2008-07-19 04:04:00
  • 482:

    ◆lZf.ArgVp2

    「許され…たい…ん………だね?」
    母さんを薬漬けにした男。こいつはあたし達の当時は普通と思っていた、今では夢の様な幸せな時間を壊した。憎しみはない。
    どこで歯車が狂ったのか。ステファンは母さんを愛していたんだろう。確かに。
    でも何かがぐちゃぐちゃになってしまってステファン自身どうしようもなかったのだろう。
    許されたいがばかりに自ら破滅したがっている。自分を傷付ける事でしか、この人は生きてこれなかったんだ。

    2008-07-19 04:16:00
  • 483:

    ◆lZf.ArgVp2

    ごめんなさいと言っても苦しんでも、泣き叫んでも、どんな答えでもいいのに返ってくる声を聞く事はできないのだから。
    あたしがお母さんに許しを乞うたところで返事がないように。

    ごめんなさい、スミトモ。あなたを殺した人なのに憎いと思えない。
    あまりにも哀れで。

    2008-07-19 04:22:00
  • 484:

    ◆lZf.ArgVp2

    「い…よ。許…してあ……げる。だか…ら、もう…誰も……殺さな……ぃで」
    あたしにはできない。罰する事なんて。
    気持ちがわかるから。いっそ誰かに罰せられて消えてしまいたい、そんな思い。
    自分が少しも大切に思えない程、むしろ不幸になるのを望む程、罪の意識は重たい。
    一人の夜、美しい朝、この世の全てに踏みにじられ押し潰され、えぐられる。毎日毎日それは続く。

    2008-07-19 04:30:00
  • 485:

    ◆lZf.ArgVp2

    死に急ぐ事で、破滅に身を投じる事でそんな思いから逃げようとしている。むしろその方が罪悪感は薄らぎ楽なのかもしれない。

    でも本当は、幸せに生きようとする毎日の中で、苦しみを背負い続ける。

    それが罰。

    2008-07-19 04:36:00
  • 486:

    ◆lZf.ArgVp2

    あたしはそう教えられました。アメに。ドクターに。レイチェルに。
    もういないスミトモに。
    そして母に。
    罪には罰がある。ステファンがあたしに罰をと望むなら、そういうふうにこの人を裁く。
    「……許…すよ」

    2008-07-19 04:43:00
  • 487:

    ◆lZf.ArgVp2

    髪を掴んでいた指が離れ、あたしの頬は再び冷たい床の感触を感じる。
    目と鼻先すぐの床にぽつんぽつんと滴が落ちる。
    ステファンの涙だ。
    頭上から震える声が降って来る。つぶやく様に。
    「許されたいわけじゃない………」と。

    2008-07-19 04:48:00
  • 488:

    ◆lZf.ArgVp2

    長いことそのまま静止したように時間は流れた。燃える様な痛みだった太股もズキンズキンと痛みが強まったり弱まったりの周期がくるようにまでなっていた。
    痛みが弱い時にそっと動かすと痛みは走るもののちゃんと動く。神経なんかにはなんら問題はなさそうだ。出血も治まってきている。
    ゆっくり体を起こすと、あたしの隣りで膝をついたまま放心したようにうなだれていた。

    2008-07-19 04:54:00
  • 489:

    ◆lZf.ArgVp2



    「だめだよ………アンジュ。お前が俺を殺さないなら…………………………俺がお前を殺さないといけない」

    2008-07-19 04:56:00
  • 490:

    ◆lZf.ArgVp2

    更新分>>498

    2008-07-19 04:58:00
  • 491:

    名無しさん

    たぶんみんなちゃんと見てて邪魔になるだろうとコメントがないんだと思います?
    毎日見てるので頑張って下さい

    2008-07-19 06:43:00
  • 492:

    ◆lZf.ArgVp2

    >>508さん

    ありがとうございます☆少し開きましたが更新します!必ず完結するのでしばしお付き合い下さい☆

    2008-07-24 01:02:00
  • 493:

    ◆lZf.ArgVp2

    >>507
    ゆっくりと首に手が回された。冷たい手。その感触は七年前のあの日へとあたしを突き落とした。

    「やだあああああ!!!!!!!!!」

    2008-07-24 01:07:00
  • 494:

    ◆lZf.ArgVp2

    渾身の力を振り絞ってその手を降り払う。イモムシのように床を這いつくばりながら逃れようした。
    それはステファンからなのか、あの日の記憶からなのか。手にガラスが刺さろうが、止まりかけた血がまた吹き出そうがどうだっていい。
    「やだやだや…だ……ゃ…だ………やだやだやだやだ」

    こ な い で

    2008-07-24 01:14:00
  • 495:

    ◆lZf.ArgVp2


    「アンジュ お前の苦しみももう終わる…………俺がお前を殺せばお前は天使になれる。すぐ会えるよ、べスにも」
    実際には数メートル進んだだけで、あたしの前に立つステファンに見下ろされていた。
    「もう泣かなくていい。」
    少しの間その場を離れたステファンはハンカチを濡らして持ってくるとあたしを優しく起こして壁にもたれさせかける。涙と血でぐちゃぐちゃであろう顔を拭ってくれた。

    2008-07-24 01:22:00
  • 496:

    ◆lZf.ArgVp2

    まるで我が子にするように優しく………

    「………あたし……死ぬの?」

    「大丈夫。………一人じゃないから」

    2008-07-24 01:27:00
  • 497:

    ◆lZf.ArgVp2

    あたしをそのままにしてステファンはソファの所まで戻った。ぼんやりとその動作を見ていた。
    アメ……ドクター…スミトモ……レイチェル…………………愛してる。
    みんながあたしを救ってくれたんだ。ステファンをあんなふうにした闇はあたしの心にも確かにいるのだから。
    「生きよ…………生……きて 償おう」
    「…聞いて……生きよう……ステファン」

    2008-07-24 01:41:00
  • 498:

    ◆lZf.ArgVp2

    ステファンの心は取り返しのつかないところまで堕ちてしまったんだろうか

    ちがう

    だって貴方だって泣いたじゃないか

    2008-07-24 01:46:00
  • 499:

    ◆lZf.ArgVp2

    「こんなこ…と、誰も望まない……お母さんだっ……て」

    陳腐な事を言っているのはわかっている。お母さんがどう思うかなんてあたしにはわからない。それでも
    「あた…しは ステファンに………生きて…ほし……」
    ステファンはこっちを見ようともせず、彼の手元はカチャカチャ音を立てている。例え、ステファンに届かなくても。それでもあたしは言わなくちゃいけない。

    2008-07-24 01:54:00
  • 500:

    ◆lZf.ArgVp2

    悲しみはここで終わり。母の死から始まった悲しみはもう繋げてはいけない。
    あたしが運良く生き残り、幸福にも愛された意味はそこにあるんだと、今はそう思うから。
    届かなくても届けなくちゃ。
    「これ以上……殺さ…ないで………あた…しを殺さないで」
    そして、なにより

    2008-07-24 02:01:00
  • 501:

    ◆lZf.ArgVp2



    「ステファ……貴方を殺さない………で」

    2008-07-24 02:03:00
  • 502:

    ◆lZf.ArgVp2

    「…アンジュ、ほら」
    黙々と何かをしていたステファンが向こうからあたしの視界に入る様に下げた手には小さな金属の容器。中にはあの薬。容器の底からライターの火に炙られると液体になった。
    慣れた手つきで注射器へとそれを移す。
    捲られた袖の下から露になった白い腕。
    すぐに視界は涙でぼやけた。

    2008-07-24 02:10:00
  • 503:

    ◆lZf.ArgVp2

    「もう………やめて!!……………………………お願い………」
    無残なほどの注射針の跡。赤や紫でうめ尽くされるステファンの腕。
    直視できる様なものではなかった。その異様な細さの腕も。
    死に際の母と同じ姿、それ以上だった。

    2008-07-24 02:17:00
  • 504:

    ◆lZf.ArgVp2

    更新分>>510

    2008-07-24 02:21:00
  • 505:

    名無しさん

    しおり

    2008-07-26 12:15:00
  • 506:

    名無しさん

    早く見たい

    2008-07-26 22:28:00
  • 507:

    名無しさん

    あげ

    2008-07-27 13:34:00
  • 508:

    ◆lZf.ArgVp2

    >>522さん>>523さん>>524さん
    少しずつの更新なのに読んでくれて嬉しいです。今から更新します。

    2008-07-28 00:55:00
  • 509:

    ◆lZf.ArgVp2

    >>521
    骨に皮がへばりついたような腕に注射針が近付く。針を刺しすぎて硬くなった皮膚に舌打ちしながら、何度も刺したり抜いたりを繰り返す。

    あたしは泣きながら叫んでいた。

    2008-07-28 01:05:00
  • 510:

    ◆lZf.ArgVp2

    「こっちのベスともこれでお別れだ」
    ゆっくりと注射器の中の薬はステファンの体内に注入されてゆく。空になった注射器を床に投げ捨てるとソファに倒れ込み動かなくなった。
    さっきまでの緊迫は解け、急に疲れが襲ってくる。
    眠ってしまったように見えるステファンを眺める。
    …………可哀相に。

    2008-07-28 01:17:00
  • 511:

    ◆lZf.ArgVp2

    ステファンはわかっている。さっき「こっちのベス」と言った。自分の見ているものが幻覚でしかないことをステファンは自覚している。
    それでも離れられなかったんだ。

    あんな姿になるまで

    2008-07-28 01:22:00
  • 512:

    ◆lZf.ArgVp2

    ステファンが急に起き上がる。誰もいないドアの前まで走って行くと空中を抱き締めた。
    「……ああ、久し振りだな………本当に………………ベス!!」
    ステファンは本当に嬉しそうだった。まるで誰かがいるように語りかけ、誰かの髪をかき上げ、笑いかける。
    その笑顔の先には誰もいない。

    2008-07-28 01:28:00
  • 513:

    ◆lZf.ArgVp2

    奇妙な一人芝居のよう。パントマイムに興じるピエロの様に滑稽。
    こんなふうなステファンを初めて見た。そんなに目が溶けてしまいそうなくらいに優しく目を細めて笑うんだね。
    歪んで醜くていびつになってしまった愛。

    愛してたんだね、本当に母さんを。

    2008-07-28 01:37:00
  • 514:

    ◆lZf.ArgVp2

    「………可哀相なひと。」

    ステファンが嬉しそうに笑えば笑う程に現実との落差は残酷でしかない。細めてなくなりそうな目には何も映らない。
    指の先まで優しく動く抱き締めようとする腕は空しく空中をかいただけ。

    2008-07-28 01:44:00
  • 515:

    ◆lZf.ArgVp2

    心も身体も疲れ切っていた。痛みで肩だけが上下している。もう涙もでない。
    その光景を見ているだけで心が千切れてすり潰される様な思いがした。
    もう開き切らない目を閉じた。
    これ以上はもう見たくない。
    見れたものじゃない。

    2008-07-28 01:54:00
  • 516:

    ◆lZf.ArgVp2

    「ベス、久し振りだろ?アンジュだよ。大きくなっただろう?一緒に会いにいくよ。俺が死んでもお前に会えないから、しょうがないよな?お前がアンジュを迎えにきたらその時お前を捕まえる。そしたら…………もう二度と離さない。」
    まるで睦言のように優しく囁く声が聞こえる。そしてカチャリと冷たい金属音も。
    銃口がこちらに向られていることなんて目を開くまでもなくわかった。
    アメの泣きそうな顔をして笑う顔が浮かんだ。その顔が泣き顔になっていく。
    ………………泣かないで、アメ。

    2008-07-28 02:04:00
  • 517:

    ◆lZf.ArgVp2

    自分が死ぬ事より、アメが泣く事の方が悲しいと思った。
    アメは泣けないから泣かないかもしれない。
    アメを一人になんかできない。寂しい目をした子供のようなひとなの。
    死にたくない。死にたくない。
    あたしは生きる。

    2008-07-28 02:09:00
  • 518:

    ◆lZf.ArgVp2


    また、空気が大きく振動した。

    ステファンが何か言ったような気がしたけど聞こえなかった。

    2008-07-28 02:12:00
  • 519:

    ◆lZf.ArgVp2

    「だめじゃないか、よけちゃ」

    渾身の力で横に飛び退いた。脇腹に当たった。最初の時とは比べ物にならない位に血がでている。
    銃口がこめかみに当てられる。
    今頃になってきて恐怖を感じた。死ぬ事がこんなに怖いなんて、アメを置いていく事がこんなにつらいなんて。

    2008-07-28 02:19:00
  • 520:

    ◆lZf.ArgVp2

    「暴れるなっ…………」

    ステファンが倒れる。
    「………アンジュ!!!大丈夫か……!?」

    2008-07-28 02:22:00
  • 521:

    ◆lZf.ArgVp2

    少し離れていただけなのにこんなにも懐かしい。都合良過ぎてあたしは死んだんじゃないかと思った。
    「……メ、ァメ……」
    アメに抱き抱えられている。いつもなら当然みたいに思うのに、夢みたい、あったかい。
    「ラブコメは後にしろ」
    ドクターがステファンに銃を突き付けていた。

    2008-07-28 02:32:00
  • 522:

    ◆lZf.ArgVp2

    更新分>>526

    2008-07-28 02:34:00
  • 523:

    名無しさん

    次の更新楽しみにしてます?

    2008-07-28 02:37:00
  • 524:

    名無しさん

    アメ来てくれると思ってた?ヨカッタ?続き待ってます?

    2008-07-28 18:30:00
  • 525:

    名無しさん

    気になる

    2008-07-31 06:11:00
  • 526:

    ◆lZf.ArgVp2

    >>540さん>>541さん>>542さん
    ありがとうございます。今から更新します?夏なので夏らしい話もかいてみたくなって「じゆうがちょう」っていうのも書いてるのでよかったらそっちも読んでみてください?

    2008-07-31 07:41:00
  • 527:

    ◆lZf.ArgVp2

    >>538
    ステファンは腕を撃たれたようだった。床に転がったステファンの銃をドクターが遠くに蹴り跳ばす。
    こんなに怖い顔をしているドクターを初めてみた。
    アメがドクターの指示であたしに止血をしてくれた。じっとしているように言われても怖くてすがりつこうとするあたしの手をアメは強く握ってくれた。

    2008-07-31 07:49:00
  • 528:

    ◆lZf.ArgVp2

    「……ステファン、どうしてこんな事を……」
    ステファンの額により一層強く押し付けられる銃口。ドクターの手は震えている。ステファンは撃たれて倒れた時からずっと笑っていた。おかしくて堪らないというように。

    「……ああ、大丈夫だ。ベス。痛くないよ。ほらオーランドだ!!!懐かしいだろ?!アハハハ!」
    ドクターは目を伏せて、銃を離した。

    2008-07-31 07:56:00
  • 529:

    ◆lZf.ArgVp2

    「……ドク…タ 薬………く……すりの……せい……なの」
    「アン……喋らなくていい。」
    何もないところに手を伸ばし甘える様に話しかけ続けるステファンをつらそうにドクターは見つめた。
    「……なぜお前がhappinessを………?」

    2008-07-31 08:02:00
  • 530:

    ◆lZf.ArgVp2

    「………さあ?ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ……やべーよ…ククク…撃たれったていうのに……もう痛みもねーよアハハハ!」
    「ステファン、答えてくれ………なぜだ?」
    「………ついこないだまでは痛覚まだあったのになあ………」
    「……ステファン!!!!!!」

    2008-07-31 08:13:00
  • 531:

    ◆lZf.ArgVp2

    「………頼むよ…ステファン……」

    ぼんやりとした目でステファンがドクターを見つめ返す。ヨロヨロと起き上がるとソファまで歩いて行きドサリと腰を下ろす。

    「………なぜだって?」

    2008-07-31 08:17:00
  • 532:

    ◆lZf.ArgVp2

    「……それがわかればこんな事にはならなかっただろーよ」

    テーブルにあるチョコレートの銀紙をはがそうとしたステファンは右手が動かない事に舌打ちしながら、随分と時間をかけて一つ口にいれた。
    「……やっぱ旨いわここの。わざわざ買いにいかせてよかった。アンジュも食べればよかったのに。……ああベスお前も食うか?」
    小さな子供の口にでもいれてやるような仕草をしたものの、ステファンの指から離れたチョコレートはただ下に落下しただけだった。

    2008-07-31 08:24:00
  • 533:

    ◆lZf.ArgVp2

    ドクターは静かに涙を流していた。
    「可哀相に。可哀相な女だよ、本当にお前は。
    三人の人間に殺されるっていうのはどんな気持ちだ?
    俺に薬漬けにされて、娘に刺され、男に見殺しにされる。
    悲しい人生だったな」

    2008-07-31 08:29:00
  • 534:

    ◆lZf.ArgVp2

    「………お前とベスの事は薄々知っていた。…………なぜだ?なぜベスに薬を……なぜ…」

    答えはなかった。
    ステファンは歌を口ずさみだした。それはクリスマスの時聞いた讃美歌の一説。
    「………………………………なぜ?」

    2008-07-31 08:33:00
  • 535:

    ◆lZf.ArgVp2

    ドクターの問いはただ無意味に空気を震わせるだけだった。

    ステファンはただ歌い続けた。調子のたまにずれる讃美歌は途切れ途切れになりながら同じところをいったりきたりする。
    その頃にはあたしの意識も朦朧としていた。
    アメの体温と握力の強さがあたしの意識をつなぎとめていた。

    2008-07-31 08:40:00
  • 536:

    ◆lZf.ArgVp2



    「…………俺はお前が好きだったよ」

    2008-07-31 08:41:00
  • 537:

    ◆lZf.ArgVp2

    その瞬間はやけにゆっくりと見えた。
    ドクターの腕がステファンの方に向けられる。引き金を引く音すらゆっくりと耳に響いた。そして鮮血。

    「…………ぃや゛あああああ!!!!!」

    2008-07-31 08:46:00
  • 538:

    ◆lZf.ArgVp2



    叫んだ時には既に終わっていた。

    2008-07-31 08:47:00
  • 539:

    ◆lZf.ArgVp2

    「友達だと………そう思っていたんだ」

    数発の弾丸を打ち込んだ後、ドクターは腕を下ろした。ゴトリと重い音がして銃が床に転がる。
    あたしの耳にはステファンの口ずさんでいた歌詞がまだ残っていて、まだステファンが歌い続けているかのように錯覚したが当のステファンは口を閉ざしている。
    永遠に。

    2008-07-31 20:21:00
  • 540:

    ◆lZf.ArgVp2

    「アメ、アンジュを連れて行け。血が出過ぎている。」

    だめ、ドクターと一緒じゃないと……だめ。アメに伝えようと手を握った…筈だった。
    もう指は少しも動かない。声をだそうとしても微かに唇が開いて息がもれるだけだった。
    「はやくしろ!……手遅れになる」
    足が床から離れる。動かないあたしの腕を首に回させた。

    2008-07-31 20:28:00
  • 541:

    ◆lZf.ArgVp2

    酷く目が乾いてよく見えない。ドクターはあたしを見て笑った。
    アメはあたしを背負ううとドアに向って歩きだす。体温と振動で眠たくなっていく。まるで赤ん坊になったようにうつらうつらと意識は遠のいていった。

    だめ………アメだめだ。待って 。 ドクターを連れて来て。
    ドクター……………………………………………………………………………

    2008-07-31 20:34:00
  • 542:

    ◆lZf.ArgVp2

    意識が落ちるそのほんの少し前、あたしは聞いた。
    一発の銃声。


    命が消える音がした。

    2008-07-31 20:37:00
  • 543:

    ◆lZf.ArgVp2

    31日更新>>544から

    2008-07-31 20:40:00
  • 544:

    みゆ

    君と毎日キスしたかったからずっと見てます!
    応援してます!更新待ってます

    2008-08-03 18:22:00
  • 545:

    ◆lZf.ArgVp2

    >>561 みゆさん
    前のやつも読んでくれたはったんですか!嬉しいです。なんか前のは体験談ベースなんで今みるとなんか照れてしまいますけど?笑

    2008-08-04 00:08:00
  • 546:

    ◆lZf.ArgVp2

    >>559

    どれだけ眠っていたのだろう。綺麗でもなく汚いわけでもない白い天井。
    「………あ……ぁ」
    情けないながらにも声はでる。首が思うように動かない。狭い視界には吊り下げられた左足と点滴がぶっ刺さった腕が見える。

    2008-08-04 00:25:00
  • 547:

    ◆lZf.ArgVp2

    体が重いような逆にすごく軽いものになってしまった感じ。指を動かそうとしたら握力が弱っていて、軽く握ったままになった。握った手を開く事すらダルい。
    やっと首を横に向ける事に成功する。
    壁にパイプ椅子を押し付けて眠っているアメがいた。少し痩せたかもしれない。随分疲れているようにも見える。
    「…………アンジュ?」

    2008-08-04 00:34:00
  • 548:

    ◆lZf.ArgVp2

    「………生きてるよ」

    すぐに医師や看護士がやってきて何やら聞かれたり答えたり色々あった。
    いつのまにか眠ってしまった。
    次に目を覚ますとあたしの手を握りながら枕の横に突っ伏していりアメの顔が横にあった。

    2008-08-04 00:40:00
  • 549:

    ◆lZf.ArgVp2



    アメ………あたし達二人きりになってしまったね。

    2008-08-04 00:44:00
  • 550:

    ◆lZf.ArgVp2

    「………ごめんっ寝てたっ…………………………。なんか欲しいものある?見たいものある?痛くない?苦しくない?」
    焦って急に動こうとするから、椅子からずり落ちかかっている。
    「………………………………ドクターは?」
    「…今は寝てろ」
    「そっか………………………………………………死んだんだね。」

    2008-08-04 00:49:00
  • 551:

    ◆lZf.ArgVp2

    「………………寝てろって」

    「………………………………勝手だよ。…みんな……」

    ドクターは愛する人と友を殺した罪にもう耐える事ができなかった。

    2008-08-04 00:52:00
  • 552:

    ◆lZf.ArgVp2

    「…いいからっ寝とけって」
    アメの手があたしの目を覆って隠す。暖かい手。

    罪とかそんなんじゃなくて単純に、愛する人と友のいない世界で生きて行く事ができなかったのかもしれない。

    2008-08-04 00:59:00
  • 553:

    ◆lZf.ArgVp2

    「……本当に……勝手。」

    あたしはドクターに生きていて欲しかった。例えドクターが生きるのがつらくとも側にいて欲しかった。
    やっと家族に……血は繋がってないけれど家族みたいになれると………そう思ったのに。

    2008-08-04 01:03:00
  • 554:

    ◆lZf.ArgVp2

    「ネックレス!……ネックレスは?ポケットに入ってなかった?」
    言う事を聞かないあたしにもう諦めたのか何も言わずに荷物の中から持ってきてくれた。
    「……つけて。」
    自分で首を浮せる事もできないから、アメは苦労しながらも器用につけてくれた。
    お母さんと……そしてドクターの形見になってしまった。

    2008-08-04 01:09:00
  • 555:

    ◆lZf.ArgVp2

    「どれくらい寝てた?」
    「一週間くらい…………年明けたよ」
    今年からはニューイヤーパーティーもする予定だった。なんだかそんなガキみたいな事ばかりが頭をかすめた。こんな事もあんな事も色んな未来をみんなで過ごしたかった。
    「……いつ退院できるの?」
    「もう寝てな。本当に。ろくに体も動かないのに気にする事じゃないからね」

    2008-08-04 01:18:00
  • 556:

    ◆lZf.ArgVp2

    「………はやく出たい。やだ」
    涙が溢れる。もどかしい。いますぐドクターの家に帰りたい。こんな所で寝てるだけなんて冗談じゃない。

    「……今は寝てて…………………お願いだから」
    心配をかけたのだと思う。アメの顔は生気がなくてあたしなんかよりずっとどこか悪いみたい。

    2008-08-04 01:30:00
  • 557:

    ◆lZf.ArgVp2

    「……うん」
    眠るのは意外と簡単だった。気をゆるめると同時に意識は滑り落ちていった。


    二週間後、無理を通してほとんど自主的に退院した。

    2008-08-04 01:43:00
  • 558:

    ◆lZf.ArgVp2

    松葉杖は慣れると普通に歩くより楽なんじゃないかと思ったりする。調子に乗ると脇腹の傷が痛んだ。
    ドクターの家はもう入る事ができない。元々ステファンの組織絡みの建物で早々に引き渡したらしい。
    「………………同じだね。建物は。住んでた人がいなくなっても。でもこれから変わってくんだろうね」
    7年間過ごした場所。
    「…………少しくらい入れてくれたっていいのに」

    2008-08-04 01:51:00
  • 559:

    ◆lZf.ArgVp2

    少し遠くから眺める。何も変わっていないのに、もうあの生活は帰ってこない。
    「七面鳥……食べれなかったね。アメ頑張ったのに。ごめんね」
    「いつでも食えるよ。あんなもん。今日食ったっていいし…………………………………………………………………ごめん」
    軽く首を震る。
    「さようなら、ドクター」

    2008-08-04 01:56:00
  • 560:

    ◆lZf.ArgVp2

    あたし達は今日この街をでる。
    自分がここをでていくなんて不思議な感じ。この雨とも赤い月とも今日で最後だ。

    逃げるとも出発ともいえないような旅立ち。
    はやく着過ぎて列車がくるまでにまだけっこう時間がある。

    2008-08-04 02:02:00
  • 561:

    ◆lZf.ArgVp2

    「アンジュ、最後にどっか行きたいとことかないのー?」
    「ない!」

    お母さんとドクターとステファン。この街で暮らして死んでいった。絡まった運命の糸はもつれてもつれてほどけることなく、ただ切れた。

    2008-08-04 02:09:00
  • 562:

    ◆lZf.ArgVp2

    「あれ………雨あがったね…………アンジュっ あれ見て!!」

    赤い月とは比べ物にならない位、真っ赤な太陽。赤い月のように欺くように狂わすようには光らない。もっと赤くて暖かくて心の芯まで違う意味で狂いそう。そんな赤が街を染め上げる。水溜まりや濡れて光る地面すべて一面の美しい赤。

    「………ずっとこの街にいるけど………こんなの初めてみる……」

    2008-08-04 02:17:00
  • 563:

    ◆lZf.ArgVp2


    「………綺麗」

    何もかもが赤の中。赤ってこんなに美しい色だったんだ。
    血の色だ…………命の色だ。

    2008-08-04 02:21:00
  • 564:

    ◆lZf.ArgVp2

    「アンジュも赤いよ」
    こんなふうに命を燃やして生きたの?お母さんもドクターもステファンも。そしてスミトモも。
    「アメも!!!赤い!!」
    そうだね。みんな暖かかった。体温に色があったとすればそれはこの色に違いない。
    美しくて美しくて儚い。だってほら……もう沈んでいく。

    2008-08-04 02:27:00
  • 565:

    ◆lZf.ArgVp2



    だってほら……………………もう消えて行く。

    2008-08-04 02:30:00
  • 566:

    ◆lZf.ArgVp2

    美しい赤は夕闇に変わり、明るかった分だけ慣れない目は暗闇にぼけた。
    列車が轟音と共にホームに入って来る。落書きだらけのボロボロの列車。
    「………大丈夫かよ……この列車」
    あたし達がどこにゆくのかどこに行けばいいのか自分でもおかしいけど一切なんの検討もつかない。
    どこに行ったって同じ。

    2008-08-04 02:36:00
  • 567:

    ◆lZf.ArgVp2

    どこに行ったってこの街の雨はあたしの心に降り続ける。
    列車に乗り込もうとするアメの裾を引っ張る。

    「………アメ教えて。あなたの本当の名前は?」

    2008-08-04 02:38:00
  • 568:

    ◆lZf.ArgVp2



    「俺の名前は…………………」

    2008-08-04 02:39:00
  • 569:

    ◆lZf.ArgVp2

    愛情ほど綺麗なものってないよ。けど愛情ほど脆くて危ういものもない。
    あなたを思う気持ちが病まないように、止まないように。

    その願いの先は暗闇に思える。赤い月が光り雨が降る暗闇。

    2008-08-04 02:43:00
  • 570:

    ◆lZf.ArgVp2



    その中をあたしは
    、今日の赤を頼りに、歩こう。

    2008-08-04 02:45:00
  • 571:

    ◆lZf.ArgVp2

    __________
    完結

    2008-08-04 02:46:00
  • 572:

    ◆lZf.ArgVp2

    完結しました。途中、話が詰まってしまい間があいたりしましたがコメント下さった方々の励ましがあり書く事ができました!本当に嬉しかったです。
    今書きかけの話があるので、それを書いたら黄昏の赤の対の話を書こうと思っています。元々一つの話だったんですがあたしの文章力では構成できなくて二つにわけました。またそちらも書き始めたら読んで下されば嬉しいです。
    「消えたがる青」です。

    2008-08-04 03:38:00
  • 573:

    みゆ

    お疲れ様です
    余韻残すかんじで素敵でしたあ☆次のお話に繋がるんかなあ
    次も読みます

    2008-08-05 00:07:00
  • 574:

    ◆lZf.ArgVp2

    >>590 みゆさん
    繋がるというかステファン目線の話ですね。完結までお付き合いどうもです!

    2008-08-05 02:09:00
  • 575:

    名無しさん

    お疲れさま???主さん天才!!!!!

    2008-08-24 23:07:00
  • 576:

    名無しさん

    まるで映画見てるみたいやった!文才あるなあ

    2008-09-27 16:28:00
  • 577:

    名無しさん

    あげ?

    2009-03-11 23:47:00
  • 578:

    名無しさん

    あげ ほんまに好きこれ

    2009-04-25 16:14:00
  • 580:

    名無しさん

    つづきないん(・・?)

    2009-04-30 21:57:00
  • 581:

    名無しさん

    あげー

    2010-02-26 00:04:00
  • 582:

    名無しさん

    2011-02-20 00:48:00
  • 583:

    名無しさん

    上げ

    2012-09-03 07:31:00
新規レスの投稿
名前 (8文字まで)
E-mail
必須本文 (750文字まで)
◆黄昏の赤◆を見ている人におすすめの掲示板

スレッドタイトルを対象とした検索ができます。
※スペースのあり、なしで検索結果は異なります。