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◆黄昏の赤◆
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1:
緋恋◆lZf.ArgVp2
この街の月は赤く濁っていて気味が悪い。
赤い光が街を益々汚れたように見せる。
あたし達みたいな人間には美しい檸檬のような月明かりを望む事すら贅沢な事なのかもしれない。2007-05-28 23:54:00 -
354:
主◆lZf.ArgVp2
渋々納得して、やる事もないので余りそうな分を容器に詰める。唐揚げだけだった予定のおすそわけがディナーパックのようなちょっとしたものになった。
アメは浪費家でとにかくやりたいと思った事にはお金を使う。日常品なんかは一円でも安い店を探したりする一面もあるけれど、それは探すのが楽しいようで。
「食っていうのは人間の根本。余る程食い物があるっていうのは心の贅沢だよ。そして精神の奢り。食い物大事にしない奴はろくな奴はいないね、間違いなくない」
そういって揚げたての唐揚げをつまみ食いする。2008-06-17 02:46:00 -
355:
主◆lZf.ArgVp2
「お前の事だよ」
アメは少し悲しそうに笑って、また一つ唐揚げをつまむ。
「うん、ウマイ。アンジュはいい奥さんになるよ」
2008-06-17 02:49:00 -
357:
主◆lZf.ArgVp2
>>370続き
さっきまで穏やかにしとしと降っていた雨がふいに強くなった。それと同時に下の階が騒がしくなる。何事かとらせん階段まで出てみると、ドクターの仕事場に緊迫して出入る男達が数人。3台程車も止まっていた。
「……急患みたい」
こんな日だと言うのに車のライトに照らされる地面に雨で流れて広がる黒いシミ。
血だ。2008-06-20 06:09:00 -
358:
主◆lZf.ArgVp2
部屋から出て来ようとするアメと入れ違いに部屋に戻った。
……気持ちが悪い。
「ありゃひどいね〜」
呑気な声でアメがそういう。
「ドクター遅いかもね、コーヒーでもいれよ」2008-06-20 06:14:00 -
359:
主◆lZf.ArgVp2
平静を取り繕ってポットのスイッチをいれた。アメが買ってきたポットは電源をいれると僅か数分でシュンシュン口から湯気をだす。
その音に負けないくらい部屋に響いてくる粗い靴音。
聞き覚えのある靴音は階段を一気にかけ上がって来る。あっという間にドアの前まで近付いて来て勢いよくドアが開く。
「……ノックくらいできないのかよ」
あたしの悪態に返事はない。その代りに激しく肩を上下させるレイチェルがずぶ濡れで立っていた。2008-06-20 06:23:00 -
360:
主◆lZf.ArgVp2
服から水滴が滴るほどに濡れていて髪が顔や首に張り付いている。随分と走ったらしく呼吸は中々整わない。
「はい。これで拭いて、アンジュなんか適当に服だしてあげて」
一瞬あっけにとられていたものの、アメはすぐにタオルを持って来て今はレイチェルの頭を拭いている。レイチェルはされるがままで一言もしゃべらない。
アメの寝室の服の山から適当にシャツを選ぶとレイチェルを呼んで着替えさせた。
サイズが大きくてワンピースみたいになったけど下がないから丁度よかった。2008-06-20 06:32:00 -
361:
主◆lZf.ArgVp2
「冷えただろうに、寒くない?」
アメはホットミルクをレイチェルに手渡しながらあたしにもコーヒーを渡す。
落ち着いたのかレイチェルはアメとあたしに軽く目線を合わした。「……スミトモがね、帰ってこないの。…色々いそうな所はちょっと見て来たんだけど…………いないの」
握り潰せそうな華奢な肩は震えている。2008-06-20 06:38:00 -
362:
主◆lZf.ArgVp2
「…心配しすぎじゃないの?」
レイチェルは虚ろにどこかを見ていた。
「スミトモは絶対に約束破んないの。来るって言ったら来るし、来ないって言えば来ない」
「女の子んとこじゃないの?なかなか帰してもらえないとか。あいつ女に弱いから」
アメが冗談ぽく言う。レイチェルには悪いけど確かにクリスマスだしそんな気もする。2008-06-20 06:44:00 -
363:
主◆lZf.ArgVp2
「そんな事ないっ」といつもの怒声がするかと思ったがレイチェルは唇をぎゅっと結んだ後、カップの中のミルクの波紋を見つめた。
「………そんな事なら…別にいいの」
何も言えなくなった。黙ってしまったレイチェルから恐怖が痛いくらい伝わってきたから。漠然とした不安。レイチェルは今までこんな不安な夜を一人でいくつ耐えたのだろう。
「怖いの……いつも。帰るって言ってもいつか帰って来ないんじゃないかって」
2008-06-20 06:52:00