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◆黄昏の赤◆
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1:
緋恋◆lZf.ArgVp2
この街の月は赤く濁っていて気味が悪い。
赤い光が街を益々汚れたように見せる。
あたし達みたいな人間には美しい檸檬のような月明かりを望む事すら贅沢な事なのかもしれない。2007-05-28 23:54:00 -
434:
◆lZf.ArgVp2
「思いは残る」
ステファンはゆっくり目を開けた。
「死に意味を求める意味がどこに?ならなぜお前の母親は死んだ?お前の母親の死になんの意味が?あいつが一体何を残した?お前が殺したくせに」
2008-07-13 22:19:00 -
435:
◆lZf.ArgVp2
「なんで知ってるの?」
ステファンはこっちにゆっくり近付いてきて床に散らばるガラスの破片が彼の靴の下で小さくパキンと音をたてた。耳元でステファンが囁く。
「アンジュ、昔話でもしてやろうか」2008-07-13 22:25:00 -
436:
◆lZf.ArgVp2
にっこりと笑うステファンの笑顔は文字通り笑った顔。この状況で向けられる笑顔はあたしに選択肢なんてないことを予告する。
「退屈な…話かもしれないが」
ソファに戻りまた寝そべったステファンは語りだした。姿勢を正すのにソファに座り直すとあたしの靴の下でもパキンと音がして薄い物が砕ける感触がした。2008-07-13 22:32:00 -
437:
◆lZf.ArgVp2
「俺らがこの街にきたのは九年前。仕事できたんだ。医者だった。オーランドと俺とあと一人。この街の救急に派遣されたチームだったんだ。
雨ばっかの来たねー街で職場は怪我人は毎日運ばれて来るわ ベッドは足りねーわ、人手不足だわ、身寄りも金もない奴が運ばれて来るわで。
くっそ忙しい毎日だったよ。オーランドはすごい仕事や街の改善みたいなんにも熱心だったな。俺はやるべき事しかやらなかったけど。」
2008-07-13 22:42:00 -
438:
◆lZf.ArgVp2
「っていうか何にも興味がなかった。この街も九年前まではこんなじゃなかった。まあ柄は良くなかったな。覚えてるか?」
「……まあ、少しは」
「チームの中に一人、むちゃくちゃうっとしい奴がいて。なんか身寄りのない子供を救うとか売春を無くそうだとかいってるような奴で。やたらと燃えてたんだけどこっち来た途端、現状の酷さに面食らって折れちゃってさ。なんか鬱みたいになってだんだんおかしくなっていった。まあどうでもよかったけど。」2008-07-13 22:50:00 -
439:
◆lZf.ArgVp2
「なんか引きこもって研究とかやりだして。もともと新薬かなんかの研究がしてたみたいだし。て、変な思想とかにもかぶれだして、俺はほっといてたけどオーランドは心配してよく様子とかみてたな。
そうして、そいつがすごいもん作っちゃった。これだけどね。」
透明な小さなカケラがビニールのケースにいれられていた。
「……麻薬?」
「そ。」2008-07-13 22:57:00 -
441:
◆lZf.ArgVp2
>>456
「まあ偶然できたケミカルの一種なんだけど、原料は従来の二分の一以下。依存性は…2倍、3倍……もっとかな。すごいのはその効果。むちゃくちゃに幸せな夢が見れる。心の中の願望が現実のように現われる。むしろ現実の方が悪い夢なんじゃないかと思う位に。感触や嗅覚も伴う一瞬の夢の前には抗える人間なんていない。試しに少し流してみたら、すごい勢いで広まったよ。俺はさ、コイツを手土産に今いる組織に入った。大量生産が始まって………儲ったねー。街は人の出入りが急に増えて一気に今の状況まで堕ちた。
面白かったよ、色んなものが、金や欲や情で崩れ堕ちて行く様子がそこここで見られて。」2008-07-14 14:09:00 -
442:
◆lZf.ArgVp2
「そんな感じだったんだけど作った奴が自殺して。あいつ、俺や周りを警戒して誰にも製造法を教えなかった。
奴の頭の中にある製造法は闇の中。在庫はあったけど、それを元に試行錯誤しても同じものにはならなかった。
ムカついたねー元々とち狂って“子供達にせめて幸福な死を”とか言って作り始めて、そのうち正気に戻って死んじまったんだから。
糞みたいな奴だったけど頭はよかったからね、使いようはいくらでもあったのに。」2008-07-14 14:17:00 -
443:
◆lZf.ArgVp2
小さな透明の粒をビニール越しに触りながら、ステファンは愛しそうに目を細めてそれを見つめる。
「……こんな物の為に大勢死んだ。あっけなかったな、みんなコイツの前には。どんなに純粋そうに見えた奴だってこれを手に入れる為ならなんだってやるようになったり。なんせ脆いよ、人間は。
笑えるだろ?これは通称“happiness(幸福)”ていうんだ。作った奴がつけたんだけどね。」
2008-07-14 14:26:00