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◆黄昏の赤◆

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  • 1:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    この街の月は赤く濁っていて気味が悪い。
    赤い光が街を益々汚れたように見せる。
    あたし達みたいな人間には美しい檸檬のような月明かりを望む事すら贅沢な事なのかもしれない。

    2007-05-28 23:54:00
  • 51:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「……………」
    その笑顔はあたしを悲しくさせた。

    そういう類の笑顔だった。

    2007-06-01 02:53:00
  • 52:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「ありがとう」
    あたしは首を横にふる。お礼を言われる筋合いは無い。ただの興味本位とお節介な感傷だ。
    シトシトと雨の音が言葉が途切れて静かになる部屋に侵入してくる。
    「…行くところがあるなら早く出ていきな。見たでしょ?酷い街だから」
    「俺にはピッタリだ」

    2007-06-01 03:04:00
  • 53:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    暗い目をしたかと思うと、今度は笑って言う
    「名前を聞いてもいい?」
    「アンジュ…みんなアンて呼ぶ」

    「天使って意味だね」

    2007-06-01 03:15:00
  • 54:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「似ても似つかないけどね、そんないいもんじゃないし恥ずかしいだけだよ。」
    天使なんて。そんな名前をもらっている事自体が既に罪深い。どんなにもがいても、あたしは天国に行く事はできない。
    あの人もきっと地獄で待っている。
    この街の住人の内何割が天国にいけるというのだろう。                      
    地獄に落ちた時出会うのは、きっと顔見知りばかりだ。

    2007-06-01 03:24:00
  • 55:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「いい名前だよ、似合ってる」
    「お世辞ならいいよ。あなたの方がよっぽど天使みたいだし。」                
    「俺が綺麗なのは見た目だけだよ」

    これだけの美貌があれば自覚もあるだろう。男は苦々しげに口を歪めて悪そうな顔をして見せる。そんな風におどけてもやっぱり綺麗なままだった。

    2007-06-01 03:35:00
  • 56:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「神様はあんまり俺が出来損ないだから、見た目ぐらいはって丁寧にしてくれたんだ。」                  
    「ここには見た目も中身も適当にされたのが山ほどいるよ。」                     
    くくくっと男が笑う。あんまり楽しそうに笑うので少しつられた。                 
    「じゃあ俺って運良かったんだな。」

    2007-06-01 03:45:00
  • 57:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    そう言ったわりに嬉しくもなんともない、というような感じで吐き捨てるように笑顔を床に落とす。               
    「あなたの名前は?」

    男はじっとあたしを見つめた。不安がる子供のような顔をして。                
    「…色々好きなように呼ばれてたからな……。」

    2007-06-03 16:02:00
  • 58:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    男は少しの間、下を向いて黙り込んで何か考えているみたいだった。「…そうだ」と独り言を言って、またあたしの目をじっと見つめる。               
    「…アメって呼んでくれたら 嬉しい。」
    「アメ…………」                  
    アメは誰に話すわけでもないふうに、雨が好きなんだ…と笑った。なら雨ばかりのこけはコイツには居心地がいいのかもしれない。

    2007-06-05 00:17:00
  • 59:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    「…ところで、このアパートには今空きはあるの?」              
    「ある…けど。当たり前だけど金 いるよ。」               
    アメはこの街に居着くつもりらしい。              
    「当たり前だけど、金はあるよ。」                    
    「金ある奴は普通行き倒れないよ。」

    2007-06-05 00:25:00
  • 60:

    緋恋◆lZf.ArgVp2

    そらそうだ とアメは表情で答えた。
    「何か少し食べた方がいいよ。」             
    キッチンで病み上がりが食べれるような物を探す。ここ数日買い出しに行っていないから食材がない。ドクターが帰って来るまでに調達しておかないと叱られるだろう。保存食を入れている棚を漁った結果、缶詰のポタージュ・スープを発見した。
    鍋に入れ替えて温めている途中、アメの事を考える。何故こんな街に来て行き倒れていたのだろう、とか“アメ”は本名ではないだろうけど妙にシックリくるな、とかそんな事だ。                  
    疑問に思った事も別に訪ねる気はない。ただなんとなく気になっただけだ。他人に興味を持つなんて珍しいなと自分で思った。

    2007-06-05 00:36:00
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