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◆黄昏の赤◆
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1:
緋恋◆lZf.ArgVp2
この街の月は赤く濁っていて気味が悪い。
赤い光が街を益々汚れたように見せる。
あたし達みたいな人間には美しい檸檬のような月明かりを望む事すら贅沢な事なのかもしれない。2007-05-28 23:54:00 -
554:
◆lZf.ArgVp2
「ネックレス!……ネックレスは?ポケットに入ってなかった?」
言う事を聞かないあたしにもう諦めたのか何も言わずに荷物の中から持ってきてくれた。
「……つけて。」
自分で首を浮せる事もできないから、アメは苦労しながらも器用につけてくれた。
お母さんと……そしてドクターの形見になってしまった。2008-08-04 01:09:00 -
555:
◆lZf.ArgVp2
「どれくらい寝てた?」
「一週間くらい…………年明けたよ」
今年からはニューイヤーパーティーもする予定だった。なんだかそんなガキみたいな事ばかりが頭をかすめた。こんな事もあんな事も色んな未来をみんなで過ごしたかった。
「……いつ退院できるの?」
「もう寝てな。本当に。ろくに体も動かないのに気にする事じゃないからね」2008-08-04 01:18:00 -
556:
◆lZf.ArgVp2
「………はやく出たい。やだ」
涙が溢れる。もどかしい。いますぐドクターの家に帰りたい。こんな所で寝てるだけなんて冗談じゃない。
「……今は寝てて…………………お願いだから」
心配をかけたのだと思う。アメの顔は生気がなくてあたしなんかよりずっとどこか悪いみたい。2008-08-04 01:30:00 -
557:
◆lZf.ArgVp2
「……うん」
眠るのは意外と簡単だった。気をゆるめると同時に意識は滑り落ちていった。
二週間後、無理を通してほとんど自主的に退院した。2008-08-04 01:43:00 -
558:
◆lZf.ArgVp2
松葉杖は慣れると普通に歩くより楽なんじゃないかと思ったりする。調子に乗ると脇腹の傷が痛んだ。
ドクターの家はもう入る事ができない。元々ステファンの組織絡みの建物で早々に引き渡したらしい。
「………………同じだね。建物は。住んでた人がいなくなっても。でもこれから変わってくんだろうね」
7年間過ごした場所。
「…………少しくらい入れてくれたっていいのに」2008-08-04 01:51:00 -
559:
◆lZf.ArgVp2
少し遠くから眺める。何も変わっていないのに、もうあの生活は帰ってこない。
「七面鳥……食べれなかったね。アメ頑張ったのに。ごめんね」
「いつでも食えるよ。あんなもん。今日食ったっていいし…………………………………………………………………ごめん」
軽く首を震る。
「さようなら、ドクター」2008-08-04 01:56:00 -
560:
◆lZf.ArgVp2
あたし達は今日この街をでる。
自分がここをでていくなんて不思議な感じ。この雨とも赤い月とも今日で最後だ。
逃げるとも出発ともいえないような旅立ち。
はやく着過ぎて列車がくるまでにまだけっこう時間がある。2008-08-04 02:02:00 -
561:
◆lZf.ArgVp2
「アンジュ、最後にどっか行きたいとことかないのー?」
「ない!」
お母さんとドクターとステファン。この街で暮らして死んでいった。絡まった運命の糸はもつれてもつれてほどけることなく、ただ切れた。
2008-08-04 02:09:00 -
562:
◆lZf.ArgVp2
「あれ………雨あがったね…………アンジュっ あれ見て!!」
赤い月とは比べ物にならない位、真っ赤な太陽。赤い月のように欺くように狂わすようには光らない。もっと赤くて暖かくて心の芯まで違う意味で狂いそう。そんな赤が街を染め上げる。水溜まりや濡れて光る地面すべて一面の美しい赤。
「………ずっとこの街にいるけど………こんなの初めてみる……」2008-08-04 02:17:00 -
563:
◆lZf.ArgVp2
「………綺麗」
何もかもが赤の中。赤ってこんなに美しい色だったんだ。
血の色だ…………命の色だ。2008-08-04 02:21:00