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満月は見ている
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1:
さかえ◆hq8SNwlLmg
月は見ている。
あたしは台所の窓から見える紺色の空にぽっかり浮かぶ三日月を眺めながら、ひたすら冷蔵庫にあるだけの食べ物を口に運んだ。
冷蔵庫の前にしゃがみ込んで、ロールケーキ、チーズ、生ハム、惣菜、食べられる物なら何でも口に入れる。
だけど満たされない。2007-09-07 04:57:00 -
30:
さかえ◆9.LmROEOuM
どうして、そんな目で見るのか分からなかったけれど、
子供の頃から、あたしは、お母さんに嫌われていると言う事だけは理解出来た。
今では、あたしを軽蔑せずに平等の目で見てくれるのは、窓から見える月とクリニックの担当医だけだ。2007-09-07 06:29:00 -
31:
さかえ◆9.LmROEOuM
いつものように胃袋一杯に食べ物を詰め込み終えると、
あたしは冷蔵庫から1.5リットルの清涼飲料水が入ったペットボトルを取り出し、
ボトルごと口にくわえ胃袋に液体を流し込んだ。
限界まで詰め込んだ食べ物が液体によって胃袋の中で膨張するのを感じると、スプーンを手に持ちトイレに駆け込んだ。2007-09-07 06:32:00 -
32:
さかえ◆9.LmROEOuM
喉の奥までスプーンの柄を突っ込むと吐き気が込み上げてくるのだけれど、
今日は、なかなか肝心の胃袋の中にある食べた物が出て来ない。
トイレの便器に吐き出すのは、さっき流し込んだ清涼飲料水の液体だけ。
たまに上手く吐き出せない時がある。
けれど、こう言う事には慣れているから焦りはしない。2007-09-07 06:35:00 -
33:
さかえ◆9.LmROEOuM
口で吐く事が無理なら下剤で強制的に排泄してしまえばいいだけなのだから。
あたしは重たい胃袋を抱えたまま、のそりと歩き出し、ベッドの脇に置いてある棚の引き出しから下剤の箱を取り出した。
ピンクの箱から銀色のシートを取り出し、シートに収まっている錠剤をプチプチ指で押しテーブルの上に落とした。2007-09-07 06:38:00 -
34:
さかえ◆9.LmROEOuM
ピンクの芽吹いたばかりの蕾のような錠剤が白いテーブルに彩を添える。
下剤も習慣になると効き目が落ちて行き、一錠、二錠では、お腹が張り腹痛を伴うだけになっていた。
徐々に飲用する個数も増えて行き、十錠から二十錠へ、二十錠からから三十錠へ。
そして今では、五十錠も飲まなくては効果がない体になっていた。2007-09-07 06:41:00 -
35:
さかえ◆9.LmROEOuM
テーブルの上の端に手を沿え錠剤を手の平にじゃらじゃらと落とし、
沢山の錠剤が乗った手の平を口に持って行き一気に流し込んだ。
休む間もなく、睡眠導入剤を飲み込んで冷蔵庫の前に歩き出し、ペットボトルを取り出した。
大量の錠剤が喉に引っかかった感じがし、異物感が喉元に残る。2007-09-07 20:26:00 -
36:
さかえ◆9.LmROEOuM
引っかかった錠剤を押し流すように、ペットボトルに口を付け、こぼれるくらい口に清涼飲料水を含み飲み込んだ。
色々な物が胃袋の中で混ざり、さっき食べた物の味や、
胃液の酸っぱさ、睡眠導入剤の苦味が胃袋から口まで押し上げられ不快な味が広がった。
こうなって来ると体が錠剤に拒絶反応を示し、吐き出してしまう時がある。2007-09-07 20:29:00 -
37:
さかえ◆9.LmROEOuM
だから吐き出してしまわないように眠りに就くしかない。
吐き気を我慢しているせいで込み上げて来る涙と鼻水をすすりながら、あたしはベッドに寝転んだ。
眠気が来るまで何度か吐き気から来る嗚咽に襲われたけれど、眠気が来てしまえば吐き気に関係なく深い眠りに就けた。2007-09-07 20:32:00 -
38:
さかえ◆9.LmROEOuM
朝目覚めると、予想していた通り激しい腹痛に見舞われた。
けれど、あたしにとっては太る恐怖に比べれば一時の激痛は我慢出来る物なのだ。
ぽっこり膨らんでいた下腹部が、トイレに行く度に空気が漏れている風船のようにしぼんで行き、
体中の液体や物体を可能な限り排泄し終えると、あたしのお腹は真っ平らになっていた。2007-09-07 20:35:00 -
39:
さかえ◆9.LmROEOuM
服の裾を捲り、そのシルエットを確認すると満足し、
洗面所の隅に置いてある体重計に足を乗せ、表示するデジタル数字を見た。
四十二・二キロ。
昨日より少ない数字は、あたしを喜ばせるのに充分な物で自然と顔も緩んで来る。
あたしの一日に体重計は欠かせない物だ。朝一番に体重計に乗り、体重の増減に一喜一憂する。2007-09-07 20:38:00