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満月は見ている
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1:
さかえ◆hq8SNwlLmg
月は見ている。
あたしは台所の窓から見える紺色の空にぽっかり浮かぶ三日月を眺めながら、ひたすら冷蔵庫にあるだけの食べ物を口に運んだ。
冷蔵庫の前にしゃがみ込んで、ロールケーキ、チーズ、生ハム、惣菜、食べられる物なら何でも口に入れる。
だけど満たされない。2007-09-07 04:57:00 -
10:
さかえ◆9.LmROEOuM
だから外に出る時は、せめて視線が合わないようにと薄い色の付いたサングラスをかけ帽子を目深に被り、
俯いて歩いている。端から見たら、そっちの姿の方がよっぽど目に付くかもしれない。
「最近、調子はどうですか?」
もう何度目だろう。2007-09-07 05:26:00 -
11:
さかえ◆9.LmROEOuM
あたしの向かいに座る背広を着た初老の男性は、あたしに安心感を持たせる為なのか笑顔を浮かべ、
毎回、毎回、同じ文句で診察を始める。
この精神科のクリニックに通い出して既に半年が過ぎていた。
簡単なカウンセリングと薬の処方だけの診察が続き、精神的な治療や科学的な治療に何の効果も得られなかった。2007-09-07 05:30:00 -
12:
さかえ◆9.LmROEOuM
あたしは、いつも担当医の質問に、はい、いいえしか答えず、
自分の悩みや苦しみを吐露しようとはしなかったから治らないのも当然だ。
それでも、一つだけ、その症状だけはここに通い出してからピタリと治まった。
自傷行為だ。
自分の腕に薄い傷を、数本剃刀でつけた後は、いつも罪悪感で一杯だった。2007-09-07 05:33:00 -
13:
さかえ◆9.LmROEOuM
してはいけない事をしてしまったと思い、明日はしないでおこうと決めても、やらずにはいられなかった。
眠る事が出来ずに瞼を閉じていると闇の中で母親の顔が浮ぶから、そこから逃げ出してしまいたくて、
剃刀を毎晩握って、自分の腕に傷を付け痛みの感覚で気を紛らわせようとした。
腕の痛みに意識が集中している間は、瞼を閉じていても母親の顔が闇に浮かぶ事はなかった。2007-09-07 05:37:00 -
14:
さかえ◆9.LmROEOuM
痛みの感覚が麻痺しだす頃には、痛みを感じたいが為に、今度は剃刀じゃなくカッターナイフを持ち、
腕をえぐるように切っていた。
痛みがある間だけは安らげたけれど、あの時ほど自分を嫌いになった事はない。
朝目覚めて自分の血で汚れた腕を見たら、自分の心まで汚れているように思えた。2007-09-07 05:40:00 -
15:
さかえ◆9.LmROEOuM
そして不眠に悩まされ何日も寝られなく、
眠れたと思っても二、三時間で目覚めてしまい自傷行為が日に日に酷くなるばかりで、
どうにか解消したくてクリニックに足を運んだ。
クリニックに通い出してからは睡眠導入剤によって強制的に睡魔を呼んでいる状態だけれども、
自分を傷付ける事なく安らかな眠りに就けるようになった。2007-09-07 05:43:00 -
16:
さかえ◆9.LmROEOuM
それだけで、自分の中ではクリニックに通い出して良かったと満足していた。
だけども根本的な事を解決しなければ、あたしは完治したと胸を張って言えないのだろう。
「寝られますか?」
担当医が「寝られますか?」と言い出した時は、診察の終わりが近付いている合図だ。2007-09-07 05:47:00 -
17:
さかえ◆9.LmROEOuM
診察を受けに行くまでの時間は、ひどく憂鬱で面倒臭く感じるのに、
いざ診察を受けて終わる時間が近付くと、どうして寂しく感じるのだろう。
あたしは、もしかしたら誰かと話したいから、その理由の為だけにクリニックに通い続けているのかもしれない。
同じ年代、同じ趣味じゃなくてもいい、少しでも話せる相手が欲しい。2007-09-07 05:50:00 -
18:
さかえ◆9.LmROEOuM
無条件に、あたしの話を聞き続けてくれる担当医は、答えはくれないけれど、
最低限の外出しかせず、人との接触を避けているあたしにとっては絶好の話相手なのだ。
「寝られています」
そう答えると、担当医は前回と同じ薬を処方する旨をあたしに伝えて、カルテに、
あたしには読めない流れるような文体のドイツ語を記入した。2007-09-07 05:53:00 -
19:
さかえ◆9.LmROEOuM
担当医は分かっているのかもしれない。
医者に頼っているだけじゃ治らないと言う事を。あたし自身もそれは、とっくに気付いている。
けれど、何がいけないのか、どうしたらいいのか、知りたいのはそれなのに、誰もあたしに教えてくれない。
「また来週来て下さいね」
あたしは首を頷かせてから小さな丸椅子から腰を上げ、診察室を出た。2007-09-07 05:56:00