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彼女までの距離
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1:
主◆LakuAXwmbU
芽衣と出会ったのは、残暑でまだ暑い九月の第一日曜日だった。
出会いの感想を聞かれたなら、最悪だったとしか言いようがない。
ホストを始めて八ヶ月が経ち、売り上げが安定して来た俺は寮生活から独り暮らしに変えたばかりだった。
そ2007-09-22 01:39:00 -
21:
主◆LakuAXwmbU
(略)
空白2007-09-22 06:19:00 -
22:
主◆LakuAXwmbU
泥酔した日は、真っ先にベッドの中に潜り込んでいたから、彼女と会えなかったけれど、それ以外の日は毎日のように彼女に話しかけた。
彼女はいつも反応がないか、嫌味を言うくらいだった。
それでも良くなって来た。
接客じゃない会話、愚痴やくだらない話をしている一時が俺の息抜きになっていたから。2007-09-22 06:37:00 -
23:
主◆LakuAXwmbU
店では女の仕草や表情、そして言葉の裏を読んで、女が何を求めているのか考えながら会話をしている。
張りつめた緊張の糸はすぐに切れてしまいそうで、いつも体中の神経を使っていた。
だから駆け引きのない会話をしているだけで削れていった、神経が戻るような感じがした。2007-09-22 06:46:00 -
24:
主◆LakuAXwmbU
「台風が近いねんて。傘を持って出勤した方がいいで」
風が強く、彼女のんびり髪がばさばさ揺れていた。
「一号くんは頭を押さえて出勤した方がいいよ」
いつものニヤリとした笑みを浮かべ彼女は俺の頭の方を見た。2007-09-22 07:00:00 -
25:
主◆LakuAXwmbU
「何で?いやいや、その前に一号ってなんやねん」
「901号室の人だから一号くん」
そう言えば、俺と彼女はまだ名前を教え合っていない。
「圭太」
「え?」2007-09-22 07:08:00 -
26:
主◆LakuAXwmbU
名前を口にした時のしばらくの間の理由が分からなかった。
彼女は自分の名を名乗りたくないのだろうか、単純にそう思った。
「圭太、俺の本名やで」
「芽衣、あたしは芽衣」
そう言って彼女はうつむいた。2007-09-22 07:14:00 -
27:
主◆LakuAXwmbU
名前を教え合うのはいけなかったか?
唇を固く結んだ芽衣を見たら、ふりだしに戻ったような気がした。
「ね、何で頭を押さえて出勤せなあかんの?」
構わず話しかける事に賭けてみた。
「だって……」2007-09-22 07:28:00 -
28:
主◆LakuAXwmbU
うつむいたまま芽衣はぼそぼそと話しだした。
「いつも髪を立てているから、禿やすいんじゃないかなって」
俺はまだ二十三歳、禿とは無縁のはず。
「風に髪の毛を持っていかれるんじゃないかなって心配して言ったの」2007-09-22 07:33:00 -
29:
主◆LakuAXwmbU
いつになく芽衣は饒舌になり、どんどん喋りだした。
「ホストって神経をつかいそうだよね、十円禿が出来てそうだよね。あ、それでみんな髪を立てているの?」
「いえいえ、十円どころじゃないですよ。既に五百円禿が……」
芽衣のノリに合わせて、俺は会話に乗った。2007-09-22 07:41:00 -
30:
主◆LakuAXwmbU
「そっか、気の毒に。ハゲしく同情するけれどハゲましの言葉が浮かばない。でも禿の圭太くんも格好いいと思うよ」
「禿、禿、禿って、そんなに連呼されたら本当に禿げてきそうな気がするやんか!禿たら、そのこけしのような髪の毛をもらうからな」
芽衣はまだうつむいたまま、肩を震わせていた。2007-09-22 07:54:00