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〜INORI〜
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1:
叶子
なぁ祈…
あんたに出会えてほんまによかったよ。口は悪いし性格も変わりもんやし女ったらしやし…
いいとこなんて絶対ないって思ってた。
でもあんたに教えられた。本気で人を好きになった時、人は変わるんやってこと。祈…?私は世界で一番幸せな女になる。あんたに幸せにしてもらうから…2006-04-12 03:16:00 -
2:
叶子
どんな家具を買おう?カーテンは何色にしよう?私の頭の中は新居のことでいっぱい。
カギももらえたことだし引越しは一週間後だけど、嬉しくて不動産屋の帰りにそのまま新居に向かった。2006-04-12 03:26:00 -
3:
叶子
マンションに着いてエレベーターに乗り、七階のボタンをおした時、閉まりかけたドアに走りながら手を突っ込んできた男がいた。
「あ!すんません!」
そう言って乗り込んで来た男。これが祈(いのり)との初めての出会いだった。2006-04-12 03:30:00 -
4:
叶子
「あ…いえ」
私はびっくりしながらとりあえず奥のほうに寄った。男は階数のボタンを見て押す気配がない。
あ…この人も七階の人なんや?
なんとなく微妙な気分だった。私の新居のマンションは、フロアーに二世帯しかない。つまりお隣さんとゆうこと。2006-04-12 03:34:00 -
5:
叶子
「引越してくんの?」
ビクッとした。普通いきなり話し掛けてくる?
「あ…はい…」2006-04-12 03:37:00 -
6:
叶子
「ふーん。名前は?」
はぁ?とは思いつつも私は答えるしかない。感じ悪いと思われたら困るし…
「永井…です。引越しの日に挨拶行こうと思ってるんで」2006-04-12 03:40:00 -
7:
叶子
ドアが開いた。七階に着いたのだ。男は先におり、私もゆっくりエレベーターをおりた。
「俺は麻生祈(アソウイノリ)。あ!挨拶ん時の手土産みたいなやつは食いもんにしてな!じゃ!よろしく!」
男はそう言うと鍵をあけて自宅へと入って行った。2006-04-12 03:43:00 -
8:
叶子
はぁぁぁ?手土産?食いもん?なんなんよあの男…
祈との出会いは最悪だったように思う。失礼で偉そうな嫌な奴…そう思った。
隣人があんな男なんて絶対嫌や…でも時すでに遅し。契約しちゃってるもん…2006-04-12 04:07:00 -
10:
叶子
「はーぁ…」
ため息をつきながらもらったばかりの鍵を差し込み、私は新居へ入った。
まだ何もない殺風景な部屋はとても広く感じた。便利な場所な上、1LDKで家賃71000円。それも築二年なら新築と変わらないし安いもんだ。2006-04-12 23:49:00 -
11:
叶子
それよりなにより実家を出れることが私にとって一番大きかった。
三人姉妹の末っ子である私は、姉たちに比べて劣る部分がたくさんあり、デキル姉たちといつも比較されるのがたまらなく苦痛だった。2006-04-12 23:54:00 -
12:
叶子
私の父は弁護士で、母は根っからのお嬢さんだった。両親ともに家柄がよく、父方の祖父も弁護士で、母の方は両親や親戚一同が総合病院を経営したり開業医だったり…とにかく血筋が医療関係の者ばかり。
そんな両親の元に生まれた私たち三姉妹。2006-04-13 00:01:00 -
13:
叶子
長女の愛子ねぇは私の6歳年上で、小さい頃から優しいお姉ちゃんだった。
勉強もスポーツも何でもデキル秀才で、愛子ねぇは私の自慢の姉…なはずだった。
2歳年上の優子ねぇも頭がよく、私たち姉妹の中でも容姿が一番綺麗で、母は優子ねぇをすごく可愛がっていた。2006-04-13 00:11:00 -
14:
叶子
私は愛子ねぇや優子ねぇのことが小さい頃はすごく好きで、「お姉ちゃんたちみたいになりたい」と強い憧れもあった。
でもそれも大きくなるにつれて少しずつなくなっていった…。
一言でゆうならばコンプレックスだった。私には姉たちのような頭脳や才能がなかったから。2006-04-13 00:16:00 -
15:
叶子
私は小さい頃から姉たちも通っていた同じ私立の幼稚園に入れられ、小学校からは大学まで一貫性のエスカレーター式の私立に入れられた。
ようするにお金さえ払えば進級可能な裏金まみれの私立学校だ。
幼稚園から英会話を教えられ、小学生から意味の分からないパソコンを使い、中学からは専門選択科目を決めさせられた。2006-04-13 00:26:00 -
16:
叶子
私はそんな環境がとても息苦しくて苦痛だった。
小学生から家庭教師をつけられ、やりたくもないピアノやバレエをさせられてた。
それでも私は愛子ねぇや優子ねぇみたいになりたい一心で、我慢しながら頑張った。でも父も母も何をさせてもずば抜けた才能のない私に、優しい言葉をかけてくれたことは一度もなかった…2006-04-13 00:31:00 -
17:
叶子
「ほんまに何をやらせても中途半端やな」
「何で愛子や優子は何でもよくできるのに叶子だけこんなんなんやろうね」
「誰に似たんや?」
オネガイヤメテ…私の心はいつも悲鳴をあげていた。2006-04-13 00:34:00 -
18:
叶子
くだらないプレッシャーをかけられ、いつも両親にダメな娘扱いされる。
そんな私を見て愛子ねぇや優子ねぇはかばってくれることもなかった。
「叶子が頑張らんからやで。やれば誰でもできるよ」「パパとママのゆうとおりやで。もっと頑張り」2006-04-13 00:39:00 -
19:
叶子
そんな言葉をかけてくる。ふざけんな…あんたたちがデキル奴やから私にまでこんな負担かかるねん…
好きだった憧れの姉たちをいつしか私は嫌いになっていた。2006-04-13 00:42:00 -
20:
叶子
そんな私をまた比べる奴らがたくさんいた。先生や先輩や同級生たち…。
「お前ほんまに永井優子の妹か?信じられへんな」
「永井さんのお姉ちゃんって凄いねんなぁ。めっちゃ羨ましい」
「一番上のお姉ちゃんも学年トップで東京の大学行ったんやろ?」2006-04-13 00:52:00 -
21:
叶子
みんな私のことなんて見ていない。私のことなんてどうでもいいんだ。私なんか…。自暴自棄になってしまった。
愛子ねぇはその頃、東京六大学の某大学に行きながら、アナウンサーを目指していた。
その某大学に入れただけで充分なのに…2006-04-13 00:57:00 -
22:
叶子
だいたいアナウンサーなんてなれるわけない。そんな甘いもんじゃないんだから。夢は所詮、夢。
でも《デキル姉》は違った。大学在学中に某テレビ局に内定が決まり、また私の予想をはるかに超えてしまった。2006-04-13 01:00:00 -
24:
叶子
その頃、優子ねぇも進路を変えた。進学する大学を変更したのだ。
優子ねぇは医大に行くと言い出した。理由は「おじいちゃんの病院優子が継いでもいいかなぁと思って」って。
突然の院長後継者宣言。優子ねぇの狙いは何なのか分からなかった。2006-04-13 01:08:00 -
25:
叶子
それでも母は手を叩いて喜んでいた。父も賛成していた。祖父も喜んでた。
父は子供には医者か弁護士になってほしいとずっと言い続けてきてたから優子ねぇが医者を目指すと聞いて嬉しかったはずだけど、愛子ねぇがアナウンサーになることは少し残念だとも言っていた。2006-04-13 01:13:00 -
26:
叶子
理由はすぐに分かった。父の弁護士事務所を継ぐ人間がいなくなってしまったからだ。
父は私には期待すらかけていなかったし私も弁護士なんてなる気もなかった。
でも…そんな私に母は言った。2006-04-13 01:16:00 -
27:
叶子
「叶子、弁護士は無理でも司法書士の資格を取りなさい。できれば弁護士がいいけど…叶子じゃ何年かかるか分からないし…」
「え…」
びっくりした。私が…弁護士?司法書士?ありえないやろ…2006-04-13 01:20:00 -
28:
叶子
そう思いながらも初めてかけてくれた期待が私にはすごく嬉しかった。
頑張って…みようかな…無理かもしれないけどとりあえず頑張ってみよ。
それからは六法全書を片手に毎日勉強の嵐だった。半分やけくそみたいなもんだったけど。2006-04-13 01:23:00 -
30:
名無しさん
2006-04-13 02:25:00